デート・ア・ライブIF 【エラー】   作:セルヴェイエ

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傾く天秤【七】

 

 

 

 

 

「ってぇ……‥」

士道はその場所で呻くような声を上げていた。

 

「ん……?」

士道は体を起こし現状を整理しようとした。

のだが、「は?」

 

 

 

思わず士道は素っ頓狂な声を上げる、だってこの場所は

 

見覚えのあるキッチン、見覚えのある家具、見覚えのある家……

「って、ここ俺の家じゃねぇか!!!」

頭を抱えながら叫んだ。

 

 

 

その時。

「おい、シドー。ここはどこだ?」

と、キョロキョロと警戒するように周りを見渡す少女がいた。

 

 

「え、あ…十香!?なんでここに!」

 

「うむ、私も変にふわふわした後に急にここに飛ばされたのだ」

腕を組み、うなるように十香は言った。

 

 

「と、飛ばされた……」

 

「……シドー、それよりも…あの男は何者だ?」

士道に向き直り真剣な目で尋ねる。

 

 

「あの男?」

 

 

「サトーのことだ」

 

「佐藤は…って、……あ」

端的に説明しようとして…今しがた理解する……士道は佐藤の"名字しか知らない"。

 

名前とか、兄弟がいるかとか、どこに住んでるのか、前はどこの学校にいたかとか。

 

今思えば佐藤は何も言っていなかったな、とそう思った。

 

 

 

「いや、説明し難いなら構わぬ。それにしても…サトーは何故こんな事を…」

そんな士道を見兼ねてか話を少し変えた。

 

 

「まぁ、あのメカメカ団のいない場所に来たのは嬉しい誤算だったが……」

 

 

「………!」

少し嬉しそうな十香の台詞に士道はハッとして琴里たちに連絡しようとしたのだが…

 

 

『ザザザ────ザザ───ザザザザザ───』

インカムからは変なノイズしか響いておらず指で小突いても応答などはなかった。

思わず顔をしかめる…

 

 

 

そんな士道を見て十香は「シドー、一ついいか?」と呼び、とある発言をする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜◆〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なにがどうなってんのよ……」

その場所校舎の前で一人のAST隊員の声が響き渡る。

第一陣のメンバーは私以外やられた、生きているかもわからない。

額からは汗がとめどなく溢れてくる。緊張からか、視界がぼやけてしまう。

 

 

その時、

コツン───コツン───

 

その音が聞こえた瞬間…背筋が凍った。

瓦礫の山となったその地にこちらにゆっくりとした足取りで向かってくる者がいた。

 

「観測されたのは〈プリンセス〉のはずでしょう!?なんでここに新種の精霊がいるのよ!」

 

その隊員はやけくそ気味にその"不気味な仮面と外套を羽織った"精霊に刺突したが、

 

 

 

ガギンッ───!

 

また、これだ……

他の隊員たちもそうだった、随意領域(テリトリー)を使っても、どんなに不意打ちをしても、どんなに強力な一撃をもってしても精霊の霊装に届くどころか空中にて静止してしまう。

 

 

「く、そ……」

隙だらけの身体に精霊の手から放たれた衝撃波で隊員は、苦悶の声をあげながら意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■■■■■■■■■■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『はぁ………』

佐藤は目の前の最後のAST隊員が倒れるのを見届けてからそんなため息をついた。

 

 

 

もうすぐ他のAST隊員が来るだろう。その前に佐藤はしなければならないことがあった。

 

 

 

『…ぼやかせろ、【無盧無奥(■■■■)】』

 

 

 

 

 

そうして、佐藤はその場所まで歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「え……」

士道は十香から発せられた言葉の意味が一瞬理解できなかった。

 

 

「額面通りの意味だ。恐らくサトーは人間ではない」

淡々と非情に十香は言い切った。

 

 

「は、…ほ、ほんとうに…言ってるのか?」

 

 

「おそらく…だがな、だが…あれは、いや…そんな筈は………」

ぶつぶつと十香が何か言っていたが士道には聞こえなかった。

 

 

兎に角、まずは琴里たちと連絡を取らないといけない。

そう思い来禅高校に戻ろうかと考えていたら。

 

 

 

 

 

 

『まずは、説明を…かな?』

 

「……な…ッ!」

「…なんだと……!?」

 

 

いつの間にか一脚の椅子に座るものが居た。

そいつは……仮面も外套も着ていない佐藤だった。

 

 

『ふむ、登場の仕方を間違えたかな、気軽に呼び鈴でも鳴らせば良かったか?』

何時もの佐藤のようで少し違う、戯けたように飄々としていた。

 

 

「サトー 一応貴様も私の恩人だ。だから、剣は向けたくはない。質問に答えて欲しい、貴様は何者だ?」十香は目を細めながら尋ねた。

 

 

「………」

思わず唾液を飲み込む、一触即発とはこの事だろうか。

嫌な汗をびっしりとかいてしまう、それほどまでにこの緊張感は凄まじい。

 

 

『ん?あぁ。説明ならするさ、そのために来たんだから。』

と、微笑みながら佐藤はあっさりと許可した。

 

「では、貴様は何者だ……少なくとも、人間ではないだろう?」

 

『うーん…表現が難しいな。僕自身も俺をなんと表現したらいいか分からないよ』

佐藤はあっけらかんとしていた。

 

 

 

「最後の質問だ、貴様は………"敵"か?」

言葉を強調しながら十香はその質問をした。

 

 

『んなわけねぇーだろ…』

 

 

「本当か?」

 

 

『当たり前だろうが。じゃあなんで、わざわざお前らを避難させたんだよ』

その質問に呆れるように半目で頬杖をつきながら言った。

 

その言葉が真実だと思ったのか十香は不満気ながらも警戒を解いた。

 

それを見ていた士道はやっと安心したように息を吐いた。

 

 

『まぁ、もっと詳しい説明は後でしてやる。その前に十香、おまえは一旦隣界に帰れ』

 

 

「………」

 

 

『気になることはあるだろうが、今は帰ってくれ』

 

 

「分かった。今日は本当に充実した一日だった、感謝するぞシドー サトー。」

そう言って十香は消えた。

 

 

「な、なぁ……佐藤───」

 

 

『後で話してやる。お前も〈フラクシナス〉に帰れ。そんで、少し忘れろ』

そう言って士道の言葉を遮った後に士道の額に指を当て

 

 

          『無盧無奥(■■■■)

 

 

 

そう唱えた直後、士道にまたも浮遊感が現れ、そこで意識は闇に沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜◆〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ん」

 

士道はそこで目が覚めた。

 

「って……わっ!?」

すぐさま跳ね起きた、だってここは…

 

「〈フラクシナス〉…?」

思わず呟いてしまう、そして……ここに来るまでの記憶を遡って考える。

 

「目覚めたのね、士道…………」

そこに少し窶れたような琴里がドアを開けて入ってきた。

 

「琴里…!?え、えっと…何かあったのか?」

取り敢えず状況を知りたい士道はそんなことを言った。

 

「何か…それが多すぎて困っているのよ。新種の精霊、〈フラクシナス〉の機材の謎の故障、あとは…佐藤が行方不明。」

琴里は珍しく弱気そうにぼやいていた。

 

 

「それにしても、士道はどうやって〈フラクシナス〉に入ってきたのよ」

顔をしかめながらも琴里は尋ねてきた。

 

 

 

「お、れは……」

士道はこめかみを指で叩いて思い出そうとする。が、どんなに思い出そうとしても思い出せなかった。

 

 

 

「そ…」

琴里は士道のことも後回しになるほど体いっぱいなのかそう言うと去っていった。

 

 

 

 

「何なんだ一体……」

というか、佐藤が行方不明?…なぜ、

 

 

 

ズキッ──────

 

 

 

「……っ」

思い出せない。あの時、十香と何者かに飛ばされたことは覚えているのだが、何を話したのか…どんな風に別れたのかが思い出せない。

 

「何なんだ…こりゃぁ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜◆〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そりゃそうだよな、普通に考えりゃ休校だよな……」

 士道は後頭部をかきながら、高校前から延びる坂道を下っていた。

 

 士道が……いや、一応佐藤もか? 精霊に十香という名をつけた次の日。 普通に登校した士道は、ぴたりと閉じられた校門と、瓦礫の山と化した校舎を見て、自分の阿呆さに息を吐いた。

 

 

 

 まさに校舎が破壊される現場にいたわけだし、普通に考えれば休校になることくらい推測できたのだろうが……そのあまりの非現実的な光景に、無意識下で自分の日常と切り離して認識していたのかもしれなかった。

 

 

 

 それに、昨日の夜は考え事をして寝るのが遅くなったから寝不足で思考力が落ちていたというのもあるかもしれない。

 

 

 

「はあ……ちょっと買い物でもしていくか」

 ため息をひとつこぼし、家への帰路とは違う道に足を向ける。 確か卵と牛乳が切れていたはずだったし、このまま帰ってしまうというのも何だった。

 

 

 

 だが──数分と待たず、士道は再び足を止めることになった。

道に、立ち入り禁止を示す看板が立っていたのである。

 

 

 

「っと、通行止めか……」 だがそんなものがなくとも、その道を通行できないことは容易に知れた。 何しろアスファルトの地面はめちゃくちゃに掘り返され、ブロック塀は崩れ、雑居ビルまで崩落している。まるで戦争でもあったかのようなありさまだったのだから。

 

 

 

「──ああ、ここは」 この場所には覚えがあった。初めて十香に会った空間震現場の一角である。 まだ復興部隊が処理をしていないのだろう。一〇日前の惨状をそのままに残していた。

 

 

『よう、五河士道。』

 

 

「あぁ、おはよう………って、は?」

思わず流れで挨拶してしまった。その場で固まり、震える指でそいつを指す。

 

 

「佐藤!?」

 

 

『ん、ひさしぶりー』

軽く言う佐藤に士道は軽く引いてしまう。

 

 

「『久しぶり』、じゃねぇよ!」

 

 

『おー 朝から元気いっぱいだな』

 

 

「ていうか佐藤はいままで何処に居たんだよ!」

佐藤の襟を掴み揺さぶりながら訊き続ける。

 

 

 

『わーった、わーった。話すから落ち着け』

その言葉でやっと士道はその手を離したのだが……。

 

 

 

『取り敢えず…どこから説明したらい、い…か───』

 

 

 

と、佐藤は言葉を切った…というより、あり得ないものを見て固まったに近かった。

 

 

 

「……?」

佐藤が口を呆然と開けながら指を指した方向─士道の背後を、振り返って見てみた。

 

 

 

「……ぇ?」

間の抜けた声を発す、だってそこには……

 

 

 

「十香!?」

 

 

そう、昨日士道たちが名を付けた精霊───「十香」がそこに居た。

 

 

 

「ふん、やっと気付いたか、ばーかばーか」

顔を不満げに染めた少女は、トン、と瓦礫の山を蹴ると、かろうじて原形を残しているアスファルトの上を辿って士道の方へと進んできた。

 

 

 

「とう」 と、通行の邪魔だったのだろう、十香が立ち入り禁止の看板を蹴り倒し、士道達の元に到着する。

 

 

 

「な、何してんだ、十香……」

 

 

 

「……ぬ? 何とはなんだ?」

 

 

 

「なんで、こんなところにいるんだよ……っ!」

 

 士道は叫びながら後方に視線を放った。立ち話をする奥様方や、犬の散歩をする近所の住人などが見受けられる。 誰もシェルターに避難していない。つまり、空間震警報が鳴っていない。 要するに、精霊現界の際の前震を、〈ラタトスク〉もASTも感知できていないということである。

 

 

 

 

「なんでと言われてもな」

 しかし当の本人はその異常事態をまるで気にしていない様子だった。なぜ士道が叫んでいるのかが本当にわからないといった様子で腕を組んでいる。

 

 

 

 

『丁度いいじゃないか』

佐藤はこの状況も愉しんでいるいるのか『デートでも行ったらどうだ?』なんて言ってきた。

 

 

 

「はぁッ!?」

思わず否定しようとする。明らかにそれどころじゃないし、琴里たちに連絡する必要はあるのに…それを理解しながら佐藤は言っているのだろか?いやいや、早く否定しないと……。

 

 

 

「ぬ?デェトとは何だ?」

と、十香が話を進めてしまった。

 

 

 

『あぁ、まずはそこからか。デートっていうのはな、男女で遊ぶー…みたいなもんだ。せっかくだ、十香もこの世界を見てみないか?』

 

 

 

士道抜きで勝手に話を進める佐藤に思わず手刀を食らわせる。

 

 

 

『…って、なにすんだよ』

後頭部を抑えながら士道を睨む。

 

 

 

「なにすんだよ。じゃねぇぇ!お前は何勝手に話進めちゃってんの!??」

 

 

 

『良いことだろ。なぜかは知らんが、"静粛"で現界しただけだと思うしな』

 

 

 

「いや、重要だろ!そもそもお前が見つかったことを琴里たちに話さないと───」

と、言っていて気付いた。どんどん、十香の顔が不満から苛立ちに移り変わっていることに。

 

 

 

 

どうやら、自分だけ蚊帳の外にされたから拗ねているらしい。

 

 

 

「え、えっと……」

 

「シドーは嫌なのか?」

 

「え?」

 

「私のような奴と遊ぶのは嫌なのか?」

 

「そ、そんなことは……」

 

 

 

 

言い渋る士道の肩に手をおいて

「えー 士道くんたら女の子にここまで言わせておいて拒否ったらさいてーい。」

そんな風にやじを飛ばしてくる。

 

 

 

こいつ、なんか殿町みたいになってないか?と思いながら。

これ以上否定したらなんか人間としてダメだと思い…

 

 

 

「わ、分かったよ……」

力なく項垂れながらも了承した。

 

 

『おー 良かったな〜十香。』

 

「うむ!」

佐藤の言葉に笑顔で返す十香、なんか俺より仲良くないか?そういう疑問が流れたがいまは無視した。

 

 

 

『じゃあ、ほら行く前に服変えないとな』

 

 

 

「む?なぜだ、私の霊装は完璧だぞ。まさか、我の霊装を愚弄するのか?それは、いかにサトーでも許せんぞ」

 

 

『違うわー。それだと目立ちすぎるんだよ。お前の事追ってる奴らがすぐ来るぞ?』

 

 

「……あいつらか」

おそらくASTの事だろう。流石に嫌だったのかわかりやすく嫌そうな顔をした。

 

 

「ふむ。じゃあ、どんな服ならばよいのだ?」

 

 

『だそうだ……、五河士道。なんかあるか?』

小声で士道に語りかけてきた。

 

 

「今俺に振るのかよ!」

 

 

『当たり前だろ、別にどんな格好でも俺はどうだって良いし』

 

 

『だから、お前が決めろ……どんな格好にしたいんだ?』

 

 

どんな、と言われてもすぐには出てこない。 と、そんなとき、視界の端を見慣れた制服姿が過ぎて行った。

 

 

「あ……」 眠そうな顔をした、見知らぬ女子生徒が道を歩いている。恐く何らかの理由で、士道と同じように休校情報を聞き逃してしまった生徒だろう。

 

 

「十香、あれ。あんな服だったら多分大丈夫だ」

 

 

「ぬ?」

 十香が士道の示した方向に目をやり、あごに手を当てる。

 

 

「ふむ、なるほど。あれならばいいんだな」

 言うと十香は、右手の人差し指と中指をピンと立てた。

 

 

 そして指先に黒い光球を出現させ、女子生徒の方に向ける。

 

 

「って、何するつもりだっ!」 士道は泡を食って、十香の手をはたき落とした。

 

 

 瞬間、十香の指から光球が放たれ、女子生徒の髪を掠めて後方のブロック塀に当たった。

ゴッ、という鈍い音が響き、あたりに細かな破片が飛び散る。

 

 

「ひ……っ!?」 突然の出来事に女子生徒が肩を震せて、キョロキョロとあたりを見回した。 だが自分が寝惚けていたと判断したのか、不思議そうに首をひねって去っていった。

 

 

『惜っしい』

 

 

「何をする。外してしまったぞ」

 

 

「何をするじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇッ!こっちの台詞だそれはッ!」

 

 

「気絶させて服を剥ぎ取ろうとしただけだが……」

 それが何か? というように、十香が首を傾げる。士道は腹の底から大きなため息を吐き出すと、額に手を置いた。

 

 

「いいか、十香。人を攻撃するのは駄目だ。いけないことだ」

 

 

「なぜだ?」

 

 

「……おまえだって、ASTに攻撃されたら嫌な気分になるだろ? いいか、人にされて嫌なことはしちゃいけないんだ」

 

 

「……むう」 士道がそう言うと、十香は不服そうに唇を尖らせた。

 

 

 士道の言うことが了承できないというより、子供に言い聞かせるような士道の話し方に不満を持っているような調子だった。

 

 

「…………わかった。覚えておく」 そんな表情のまま、十香が首肯する。

 

 

『じゃあ、自前で用意してみたらどうだー?』

 

 

 その言葉に次いで、十香は何かを思い起こすように顔を軽く上げると、「──たしかに。では服は自前で何とかするか」 そう言って、指をパチンと鳴らした。

 

 

すると途端に十香が身に纏っていたドレスが、端から空気に溶け消えていく。 かと思うと、それと入れ替わるようにして周囲から光の粒子のようなものが十香の身体にまとわりつき、別のシルエットを形作っていった。

 

 

 数秒のあと、そこには、先ほど道を歩いていた女子生徒と同じ、来禅高校の制服を着た十香が立っていた。

 

 

「は……な、なんだこりゃ」

「霊装を解除して、新しく服を拵えた。視認情報だけだから細部は異なっているかもしれないが、まあ問題ないだろう」 ふふんと腕組みし、十香が言ってくる。

 

 

「いや、そんなことできるなら最初からそっちにしろよ!」

士道が叫ぶと、十香はわかったわかったと言うようにひらひらと手を振った。

 

 

「そんなことより、どこへ行くのだ?」

 

 

「そ、それは──」 士道は助けを求めるように佐藤に小声で話しかける。

 

 

『しるかよ。さっさと行ってこい』

そう言って佐藤は士道の背中をドンッ──と押し出した。

 

 

 

士道はえぇ……という顔をしながらも言葉を押し殺して納得した。

 

 

 

「む?サトーも来るんだろう」

が、十香はキョトンと小首を傾げてそう言った。

 

 

 

『は?』

珍しく佐藤は間の抜けた声を発していた。

 

 

 

「……?なんだ、まさか…シドーは私と行くことに了承したのに貴様は行かないと言うのか?」

 

 

 

『うぐっ………、いやいや、違うんだよ、デートっていうのは普通は二人きりで行くものなんだ。だから、士道と行ってこいっ───て』

佐藤が言い終わる前に佐藤と士道の腕を掴み、大通りに向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜◆〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一応腕を開放された士道と佐藤は大通りに向かって(途中から十香が道を知らないことを思い出し士道たちを先導させているから)歩いていた。

 

 

『………』

路地を歩いている途中も佐藤は心底嫌そうに歩いていた。

 

 

「なんだ、サトー。やはり私と歩くのは嫌だったか?」

少し不機嫌そうに十香は言った。

 

 

『違うわ、というかさっき散々説明しただろ』

呆れるように面倒くさがるように佐藤は息を吐いた。

 

 

「それが理解できんのだ。なぜ、私とシドーのみでデェトをさせようとする?」

そう言って少し歩幅を早める。

 

 

『それが、"普通"だからだ』

 

 

「…………?」

その言葉から謎めいたモヤのような深さを感じたのか十香はそれ以上の質問をしなかった。

 

 

『五河士道。さっさと十香に話しかけるなりなにかしてやれ』

隣でぎこちなく歩く士道に呆れながらそう言った。

 

 

「おい、まじでふざけんなよ。お前が十香に話し吹っ掛けておいて俺任せかよ……」

ジト目で恨めしそうに佐藤を睨む。

 

 

 

 

と、路地を抜け、様々な店が軒を連ねる大通りに出たところで、十香が眉をひそめてキョロキョロとあたりの様子を窺い始めた。

 

「……っ、な、なんだこの人間の数は。総力戦か!?」

 先ほどまでとは桁違いの人と車の量に驚いたらしい。十香が全方位に注意を払いながら忌々しげな声を発した。

 

 ついでに両手の指先合計一〇本に、それぞれ小さな光球を出現させる。士道は慌てて止めにかかった。

 

「いや、違うって! 誰もおまえの命なんか狙ってねえから!」

 

「……本当か?」

 

「本当だ」

 

『まぁ、そうだな』

 

士道たちがそう言うと、十香は油断なくあたりを見回しながらも、とりあえず光球を消した。

 

 

『……?』

佐藤が後ろを意味深に見つめた。

 

 

「佐藤?どうかしたのか」

 

『いや、なんでもない。今は…な、』

 

「……?」

尋ねようとしたのだが、

 

 

──不意に、警戒に染まっていた十香の顔から力が抜けた。

 

 

「ん……? おいシドー、サトー。この香りはなんだ」

 

 

「……香り?」

『…………?』

 

 

 目を閉じてあたりの匂いを嗅いでみると、確かに十香の言うとおり、香ばしい香りが漂よっていることがわかった。

 

 

「ああ、多分あれだ」 言って、右手にあったパン屋を指す。

 

 

「ほほう」 十香は短く言うと、その方向をジッと見つめた。

 

 

「……十香?」

「ぬ、なんだ?」

 

 

「入るか?」

 

 

「…………」 士道が問うと、十香はうずうずと指先を動かしながら、口をへの字に曲げた。ついでに絶妙なタイミングで、ぐーきゅるるる、と十香のお腹が鳴る。

 

 

どうやら精霊も腹は空くらしい。

 

 

「シドーとサトーが入りたいのなら入ってやらんこともない」

 

 

「……入りたい。ちょー入りたい」

『俺も無性に入りたーい』

 

「そうか、なら仕方ないな!」 十香はやたら元気よくそう言うと、大手を振ってパン屋の扉を開けて入店した。

 

 

 

 

 

 

 

「…………」 塀の陰に隠れながら、パン屋の前で会話する男女たちをジッと見つめていた折紙は、一ミリも表情を変えないまま細く息を吐いた。

 

 

 登校するも休校だったため、仕方なく帰路についた折紙だったのだが、その途中、五河士道が、女子生徒と歩いているのを発見したのである。

 

 

もう一人男子生徒が居たため少しは気を抜いたのだが、彼らの口から「デート」という単語が聞こえたため、由々しき事態と判断し。"恋人らしく"、しっとりと尾行を開始した。

 

 

 

 だが──問題があった。 その中の少女の貌を、折紙は見たことがあったのである。

 

 

 

「──精霊」 小さく、呟く。 そう。怪物。異常。世界を殺す災厄。

 

 

 

 折紙たちが討滅すべき人ならざる者が、制服を着て街なかを歩いていたのである。

 

「…………」 だが、冷静に考えればありえないことでもあった。

 

 精霊が出現するときには、予兆として平時では考えられないレベルの前震が観測される。

 

それをASTの観測班が見逃すはずはない。 だが、それならば昨日のように空間震警報が鳴っているはずであるし、折紙にも伝令が走っているはずなのだ。 折紙は鞄から携帯電話を取り出し、開いてみた。

 

何の連絡も入っていない。 だとしたら、やはりあの少女は精霊などではなく、他人の空似だというのだろうか。

 

「……そんなはずはない」 静かに唇を動かす。折紙が、精霊の顔を見間違えるはずがなかった。「…………」 折紙は開いたままにしていた携帯電話のボタンをプッシュし、アドレス帳から番号を選択して電話をかけた。 そして。

 

「──AST、鳶一折紙一曹。A–0613」

 自分の所属と識別コードを簡潔に述べ、本題に入る。

 

「観測機を一つ、回して」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜◆〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、令音ー。それいらないならちょーだい」

 

「……ん、構わんよ。持っていきたまえ」

 

 琴里がフォークを伸ばして、令音の前に置いてあった皿のラズベリーを突き刺した。そのままそろそろと口に運び、甘酸っぱい味を堪能する。

 

「んー、おーいし。なんで令音これ駄目なんだろねー」

 

「……すっぱいじゃないか」

 言って、令音は砂糖をたっぷり入れたアップルティーを一口すすった。

 

 今二人がいるのは、天宮大通りのカフェだった。 琴里は白いリボンに中学校の制服、令音は淡色のカットソーにデニム地のボトムスという格好をしている。

 

 昨夜、〈フラクシナス〉の謎のエラーが士道を回収したあとすぐさま復旧し、先程までの事が嘘の様に元通りになっていた。拍子抜けした琴里はクルーと共に原因を探ったが、結局は出てこなかった。

 

その後。

いつも通り中学校に登校した琴里だったのだが、昨日の空間震の余波で琴里の通う学校も多少の被害を受けたらしく、休校になっていたのだ。

 

 なんかそのまま帰るのも癪だったので、電話で令音を呼び出し、昨日の疲れを癒やすようにおやつタイムを楽しんでいたのである。

 

が、まだ現在感化できない問題もあった。

佐藤が行方不明なのだ……正直、生きているとは確信している。

 

士道が言うにはあの時は原因不明に飛ばされたらしい、そして気がついたら〈フラクシナス〉に居て、気を失っていたと。ならば佐藤も大丈夫だろう、仮に変な場所に行っていたとしても、頭もかなり回るようだし…。それに今は〈フラクシナス〉のクルーたちが広域捜索をしているし。

 

 

 

「……そうだ、ちょうどいい機会だから聞いておこう」 と、令音が思い出したように口を開いた。

 

「なーに?」

 

「……初歩的なことで悪いのだがね、琴里、なぜシンが精霊との交渉役に選ばれたんだい?」

 

「んー」 令音の問いに、琴里は眉根を寄せた。

 

「誰にも言わない?」

 

「……約束しよう」

 低い声音のまま、令音がうなずく。

 

琴里はそれを確認してから首肯し返した。

 

村雨令音は、口にしたことは守る女である。「実は私とおにーちゃんって、血が繋ってないっていう超ギャルゲ設定なの」

 

「……ほう?」

 面白がるでも驚くでもなく、令音が小さく首を傾げる。

 

ただ速やかに琴里の言葉を理解して「それと今の話に何の関連が?」と訊ねてくるかのような調子だった。

 

「だから私は令音のこと好きなんだよねー」

 

「……?」 令音が、不思議そうな顔を作る。

 

「気にしなーい。……で、続きだけど。何歳の頃って言ったかな、それこそ私がよく覚えてないくらいのときに、おにーちゃん、本当のおかーさんに捨てられてうちに引き取られたらしいんだ。私は物心つく前だったからあまり覚えてないんだけどさ、引き取られた当初は相当参ってたみたい。それこそ、自殺でもするんじゃないかってくらいに」

 

 

「…………」

 なぜだろうか、令音がぴくりと眉を動かした。

 

「どしたの?」

 

「……いや、続けてくれ」

 

「ん。ま、仕方ないといえば仕方ないのかもしれないけどねー。年齢一桁の子供からしてみれば、母親っていうのは絶対的な存在だし、おにーちゃんにとっては自分の存在全てが否定されるような一大事だったと思う。──まあ、一年くらいでその状態は治まったらしいんだけどねー」

 

 ふうと息を吐いてから、続ける。「それからなのかなー。おにーちゃん、人の絶望に対して妙に敏感なんだ」

 

 

「……絶望に?」

 

「んー。みーんなから自分が全否定されてるような──自分はぜーったい誰からも愛されないと思っているような。まあ要は当時の自分みたいなさ。そんな鬱々とした顔をした人がいると、まったく知らない人でも無遠慮に絡んでいくんだよね」

 

 

 だから、と目を伏せる。「もしかしたら、と思ったんだ。──あの精霊に勇んで向かっていくようなの、おにーちゃんくらいしか思いつかなかったからさー」

 

 

 琴里がそう言うと、令音は「……なるほど」と目を伏せた。

 

「……だが、私が聞きたいのはそういう心情的な理由ではないね」

 

「…………」 令音の言葉に、琴里はぴくりと眉を動かした。

 

「っていうと?」

 

「……とぼけてもらっては困る。君が知らないとは思えない。──彼は一体"何者"だね」

 

 令音は〈ラタトスク〉最高の解析官である。特注の顕現装置(リアライザ)を用い、物質の組成は当然として、体温の分布や脳波を計測して、人の感情の機微さえもおおよそ見取ってしまう。

 

 

 ──その人間に隠された能力や特性すら。

 

 

 琴里はふうと息を吐いた。「ま、令音におにーちゃんを預けた時点でこうなるのは大体わかってたけどねー」

 

「……ああ、悪いが、少し解析させてもらったよ。……明確な理由もなく一般人をこの作戦に従事させるなんておかしいと思ったのでね」

 

「ん、別に構わないぞー。どうせそのうち、みんなも知ることになるだろーし」

 カランカラン、という扉の音と、「いらっしゃいませー」という店員の声を聞きながら、琴里は肩をすくめた。 そして手元のコップにささっていたストローをくわえ、残っていたブルーベリージュースを一気に吸い込む。

 

 

 

 と──「ぶふぅぅぅぅぅぅッ!?」 今店に入ってきたと思しき男女たちが令音の後ろの席に腰掛けるのを見て、口の中に収めていたジュースを勢よく吹き出した。

 

「…………」 どうやら彼らには気づかれなかったようだったが、琴里の目の前にいた令音はその被害をモロに被っていた。

 

被って、被っていた。要はびしょ濡れである。

 

 

 

「ごめっ、令音……」

 

 

 

「……ん」 声をひそめて琴里が謝ると、令音は何事もなかったかのように、ポケットから出したハンカチで顔を拭っていった。

 

 

 

「……何かあったのかね、琴里」

 

 

 

「ん……ちょっと非科学的かつ非現実的なものを見た気がして」

 

 

 

「……なんだね?」

 令音の問いに答えるように、琴里は無言で、令音の後ろを指した。

 

 

 

「……?」 令音は首を回し──ぴたりと動きを止めた。

 

 

 

 そして数秒のあと、ゆっくりと首をもとの位置に戻し、アップルティーを口に含んだ。

 

 

 

 それからぶー、と琴里に紅茶を吹き出す。

 

 

「……なまらびっくり」 なぜか北海道方言だった。令音なりに動揺しているのかもしれない。

 

 

 

 それはそうだろう。何しろ令音の後ろには、行方不明の佐藤と琴里の兄、五河士道…そしてあの少女が座っていたのだから。

 

 

 

なぜ、佐藤がここに?というか〈フラクシナス〉で捜索してるはずでしょ。

しかもそれだけではない。もう一人の女の子は──琴里たちが災厄と、精霊と呼ぶ、あの少女であったのだ。

 

 

 

「えええ……なにこれぇ」 琴里は令音から手渡されたハンカチで顔を拭きながら、押し殺した声を発した。

 

 

 

 ポケットを探り携帯電話を見る。〈ラタトスク〉からの連絡は入っていない。

要は、精霊が出現する際の空間の揺らぎは感知されていないということだ。

しかも〈フラクシナス〉からの発見報告も来ていない、どうなってんだこれ。

 

 

 

 ひとまず、先にあの少女のほうが問題だ。

明らかにあの女の子は精霊・十香だった、あんなに美しい少女が何人もいるわけないだろう。

 

「精霊には、私たちに感知されずに現界する方法があるってこと?」

 

「……ただのそっくりさんという可能性は?」

 

 令音の言葉に、琴里はしばし考えを巡らせた。 だがすぐに、首を横に振る。

 

「もしそうだとしたら、おにーちゃんが普通の女の子連れてるってことになるぞー。精霊の静粛現界とどっちが非現実的かっていったら……僅差で前者かなー」

 

「……なるほど」

 

 結構ひどめの台詞に、しかし令音はすんなりと首肯した。

 

「……というより何故佐藤がいるんだろうね、そこも不可思議だが…」

 

「んー……」 と、二人して口元に手をあて、難しげにうなっていると、令音の後方から二人の会話が聞こえてきた。

 

 

 

「ほう、この本の中から食べたいものを選べばいいのだな?」

 

「ああ、そうだよ」

 

「きなこパンは。きなこパンはないのか」

 

「……や、さすがにないだろ。ていうか最初のパン屋で食いまくったじゃねえか」

 

「また食べたくなったのだ。一体なんだあの粉は……あの強烈な習慣性……あれが無闇に世に放たれれば大変なことになるぞ……人々は禁断症状に震え、きなこを求めて戦が起こるに違いない」

 

 

『言いすぎだろ』

 

 

「むう、まあいい。新たな味を開拓するとしよう」

 

「ていうか、佐藤。さっきのパン屋でもそうだったけど、全部お金払ってるけど大丈夫なのか?」

 

 

『あぁ、好きに食え食え。その代わりにお前が十香を楽しませろよ』

 

「わ、分かった…」

 

「ぬ? 何か言ったか?」

 

『何もー。それよりも、決まったのか?』

 

「おうとも!この、チョコケーキというやつと、ふわふわパンケーキと、パフェ全部だ!」

 

「どんだけ食うんだよ!」

 

『それだけで良いのか?もっと頼んでもいいんだぞ?』

 

「おー!なら、あれもこれも──」

 

「お前もおかしいだろッ!?」

 

 

 

 

 そんな会話を聞いて、琴里ははぁと息を吐いた。

 

 ポケットから黒いリボンを取り出し、髪を結い直す。

 

 琴里なりのマインドセットだった。これで琴里は、士道の可愛い妹から、司令官モードへとトランスフォームする。

 

 そして携帯電話を開くと、〈ラタトスク〉の回線に繋いだ。

 

「……ああ、私よ。緊急事態が発生したわ。──作戦コードF–94・オペレーション『天宮の散歩』を発令。至急持ち場につきなさい」

言うと、令音がぴくりと頬を動かした。

 

 琴里が電話を終えるのを待って、声を発してくる。

 

「……やる気かね、琴里」

 

「ええ。指示が出せない状況だもの。丁度佐藤がいるらしいしね」

 

「……そうか。この状況からだと──ルートAというところか。……ふむ、では私も動くとしよう。早めに店に交渉してくるよ」

 

「お願い」 言って琴里はポケットからチュッパチャプスを取り出し、口にくわえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜◆〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

伝票を見て士道は絶句していた。

佐藤はつまらなそうに頬杖をついて外を向いていたし。

士道は流石にお金を払ってもらうのは忍びなかったので食べなかった。

 

 

 

のだが、十香の食べた会計は現在の士道の財布の中に入っているお金の五倍はあった。

冷や汗をかくのだが、伝票を見た佐藤はさして動揺もせずに『腹は一杯になったか?』なんてことを言っていた。

 

 

 

「うむ!たくさん食べれて大満足だぞ!」

 

 

 

『そう…か。それなら良い。じゃあ、士道。代わりにお前が会計って来い。それと、俺はもう行く』

 

 

 

「むぅ…もうどこかへ行くのか?」

 

 

 

『……じゃあ、後で合流するさ』

 

 

 

「ほんとうか?」

 

 

 

『あぁ、約束だ』

そう言って軽やかに、店を出ていった。

 

 

 

「…………」

カッコいいなーと思いつつ、佐藤から渡された紙幣をもってレジに向かった。

そして、少し残念そうな顔をしながら十香も士道に付いてきた。

 

 

 

 

「お会計お願いしま…す」

 言って士道はレジに立っていた店員に声をかけ──「……ッ!?」 盛大に眉をひそめて、一歩後ずさった。

 

 

 

 なぜならそこに立っていた店員が、「……はい、お預かりします」

 

 

 

 見覚えのある、目の下に分厚い隈を拵らえた、やたらと眠そうな女だったのだから。

 

「な、ななななな……」

 

「ん? どうしたシドー。はっ………まさか、敵か!?」

 

 この上なくわかりやすく狼狽えた士道に、十香が表情を変え戦慄した顔を向けてくる。

 

「いや、違う違う……」 力無く十香の言葉に否定を示す。

 

 と、いやに可愛らしい制服を着て、肩にクマさんを乗せた令音が、その眠たげな双眸をギラリと輝かせ、士道を睨みつけてきた。

 

 一瞬、「こんなところでバイトをしてるなんて誰かに言ってみろ、殺すぞ」

 

みたいな視線かと思わなくもなかったが──すぐにそうではないことに気づいた。「……こちら、お釣りとレシートでございます」

 

 士道が驚いている間に手早く会計を済ませた令音が、紙面をトントンと叩きながらレシートを渡してくる。

 

 そのレシートの下の方に、『佐藤くんとは話をつけてある。サポートするから自然にデートを始めたまえ』とあった。

 

 つまり今の視線は、士道が令音と知り合いであることを十香に悟らせることなく、デート開始しろ、ということか。というか佐藤が先に出ていたのってこのためかよ。

 

「い、いや、なんでもない」

士道は十香に言って、レシートをポケットにねじ込んだ。

 

 令音が、研ぎ澄ましていた視線をいつものぼうっとしたものに戻す。

 

 そしてレジ下の引き出しからカラフルな紙を一枚取り出すと、士道に手渡してきた。

 

「……こちら、商店街の福引き券となっております。この店から出て、右手道路沿いに行った場所に福引き所がありますので、"よろしければ"ご利用ください」

 場所を詳しく説明したうえ、後半をやけにはっきり言ってくる。

 

 士道は頬をかいた。よろしければ、ではなく絶対に使えということだろう。

 

 とはいえ、そう念を押されなくともよかったかもしれない。

「シドー、なんだそれは」 なぜなら十香が、福引き券をもの凄く興味深そうに見つめていたのだから。

 

「行ってみるか?」

 

「シドーは行きたいのか?」

 

「……おう、行きたくてたまんねえ」

 

「では行くか」

十香が、大股で元気よく店を出ていく。

 

 士道は令音に軽く頭を下げてからそのあとを追った。

 

「──ご苦労さま、令音」 レジの陰に隠れていた琴里は、二人が店を出るのを確認してから立ち上がった。

 

「……慣れないね、どうも」 令音がやたらとフリルのついた制服の裾を持ち上げ、抑揚のない調子で言う。

 

 これが──作戦コードF–97、通称・オペレーション『天宮の散歩』である。〈ラタトスク〉には、ありとあらゆる可能性を考慮し、細かく分ければ一〇〇〇以上の作戦コードが存在している。これはそのうちの一つだった。

 

 精霊がこちらの観測をすり抜け、士道含む第三者に接触した場合──〈フラクシナス〉クルーが街の住人に溶け込み、陰ながら士道をサポートするのである。このためにクルーは、皆最低一か月、劇団の演技講習を受けている。

 

 

 

「で、聞きたいことは沢山あるけど。まずは無事で良かったわ、佐藤……」

妙にねっとりと言ってくる。

 

『……はぁ。で? この後はどうするんだよ』

 

「説明なら後でするわよ」 琴里は飴を舐めながらそう言ったあと、すぐに携帯電話を開いて電話をかけた。

 

「ああ、私よ。今店を出たわ。……ええ、なるべく自然にね。失敗したら皮を剥ぐわよ」

 簡潔に用件とペナルティを伝え、電話を切る。

 

「第二班のスタンバイは完了してるみたいね。──さて、私たちは〈フラクシナス〉に戻りましょう。佐藤も来てもらうわよ、こちらの声は届かないにしても、映像だけは見ておかないと」

 

「……ああ、そうしよう」

『………チッ』

 

二人がそう言ってくるのを背に聞きながら、琴里は唇の端を上げた。

 

「さあ──私たちの戦争(デート)を始めましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜◆〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーと、福引き所……あれか」 士道と十香が店を出てから道なりに進むと、赤いクロスを敷いた長机の上に、大きな抽選器ガラポンが置かれたスペースが見えてきた。 ハッピを羽織った男が、抽選器のところに一人、商品渡し口に一人おり、その後方に、賞品と思しき自転車やら米やらが並べられていた。既に数名、人が並んでいる。「…………」

 

 

士道は頬をかいた。 うろ覚えではあるが……ハッピを着た男たちはもちろんのこと、並んでいる客の顔もまた、〈フラクシナス〉内部で見たことがある気がしたのだ。

 

「おお!」 しかしそんなもの十香に関係あるはずがない。

 

士道から受け取った(というか、ものすごく物欲しそうに見るものだから持たせてやった)福引き券を握りしめ、目を輝かせる。

 

「ほら、じゃあ並んで」

 

「ん」

 

 と、十香がうなずき、列の最後尾につく。 前に並んだ客が抽選器を回すのを見ながら、首と目をめまぐるしく動かしていた。

 

 すぐに、十香の番がくる。十香は前の客に倣って券を係員に手渡し、抽選器に手を掛かけた。

 

「これを回せばいいのだな?」 言って、ぐるぐると抽選器を回す。

 

数秒後、抽選器から赤いハズレ玉が飛び出した。

 

「……っと、残念だったな。赤はポケットティ──」

 

 士道が言いかけたとき、川越が手に持っていた鐘をガランガランと高らかに鳴らした。

 

「大当たり!」

「おお!」

 

「は、はあ……?」 と、士道は眉をひそめたが……受付の係員の後ろで別の係員が、後ろに貼ってあった賞品ボード『1位』のところに書いてある金色の玉を、赤いマジックペンで塗りつぶしているのを目撃し、声を出すのを止めた。

 

「おめでとうございます! 1位はなんと、ドリームランド完全無料ペアチケット!」

 

「おお、なんだこれはシドー!」

 

「……テーマパークか? 聞いたことない名前だけど……」 興奮した様子でチケットを受け取る十香に、士道が訝しげな調子で返す。

 

 すると係員がずずいと顔を寄せ、「裏に地図が書いてありますので、是非! これからすぐにでも!」

 

「……っ、は、はあ……」 気圧されるように一歩下がりながら、チケットの裏を見る。確かに地図が書いてあった。というかもの凄く近かった。

 

「こんなところにテーマパークなんてあったか……?」 士道は首をひねったが、まあ、〈ラタトスク〉の指示である。何かあるのだろう。

 

「……行ってみるか? 十香」

 

「うむ!」 十香も乗り気なようなので、とりあえず足を運んでみることにする。

 

 場所は本当に近かった。この福引き所から路地に入って数百メートル。まだ両側には雑居ビルが並んでおり、とてもではないがテーマパークがあるようには思えない。

 

 だが──「おお! シドー! 城があるぞ! あそこに行くのか!?」

 

 十香が今までになく興奮しながら、前方を指す。 そんな馬鹿なと思いつつチケットの裏面から視線を外して顔を前に向ける。

 

「……ッ」 瞬間、士道はその場に凍りついた。 確かに小さいながらも、西洋風のお城である。看板にドリームランドとも書いてある。

 

 ……ついでにその下に『ご休憩・二時間四〇〇〇円~ ご宿泊・八〇〇〇円~』という文字も書いてあった。

 

 まあつまりは、大人しか入ってはいけない愛のホテルだった。

 

「も、戻るぞ十香……っ! 俺ってばうっかりさんだから道を間違えた!」

「ぬ? あそこではないのか?」

「ああそうだ。ほ、ほら、早く戻るぞ」

「あそこにも寄っていかないか? 入ってみたいぞ」

「……ッ! い、いやいやいや。今日のところはやめとこう! な!?」

 

 

「むう……そうか」 残念そうに言う十香には悪かったが、さすがにあそこは無理である。士道は、道を戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

「まったく、あそこまで行っておいて引き返す? つくづくチキンねえ我が兄ながら」

 

〈フラクシナス〉の艦長席に身を預けた琴里は、ため息混じりに肩をすくめた。

 

「……まあ、仕方ないだろう。いきなりあれは酷だ」 艦橋下段に座った令音が、コンソールを操作しながら言ってくる。 彼女の解析によって画面に表示された数値は、昨日よりもずっと安定値を示していた。恋人とはいかないまでも、十香が士道を信頼のおける友人と思っている数値だ。

 

 まあ、だからこそ少し思い切ったパターンを試してみたのだが。「最後までいかなくても、キスくらいかましてくれれば"詰み"だったんだけどね」 言ってキャンディの棒をピコピコさせ、鼻から息を吐く。

 

『………』

 

「で、アンタからも何かあるー?」

くるりと席を回し後ろの壁に寄りかかって映像をみる佐藤に語りかけた。

 

『なんでそこで俺に話を振るんだ?』

うんざりとした様子で佐藤は質問を返した。

 

「なんでってー アンタが多少は精霊と一緒にいたからよ。貴方から見て、どんな風にしたらキスまで持っていけると思う?」

そうと問うと佐藤は、

 

『じゃあ、──』

そんなことをいった。

 

「あら、私と少し差異はあるけど同意見ね。じゃあ、それでいきましょう」

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ」 走ったわけでもないのに、妙に息が切れていた。様々な店が建ち並ぶ通りに出たところで、歩調を緩める。「気分でも悪いのか、シドー?」

 

「や、そういうわけではないんだが……」

 

「ではどうした?」 十香が首をかしげて問うてくる。

 

「……少し、お空にいる妹に思いをはせていた」

 

「お空にいるのか」 少し驚いたような顔を作る十香。

 

「ああ。かわいい妹だったんだがなあ……」

 まさかあんな二重人格だったとは、と嘆息する。

 

「そうか……」 なぜか十香がしんみりした空気を発するのを見て、士道ははたと気づいた。今の言い方では、まるで琴里が死んでしまっているみたいではないか。

 

「ああいや、違うんだ十香。それは──」 と、士道はそこで言葉を止めた。

 

「お願いしまーす」 急に目の前に、女性がポケットティッシュを差し出してきたからだ。

 

 とっさに手を出してそれを受け取ると、女性は小さく会釈をしてどこかへ去っていった。

 

「シドー? なんだそれは」

 

「ああ、これはポケットティッシュっていって──」

 言いかけて、士道は首をひねった。 街頭で配っているポケットティッシュは普通、企業の広告用だ。

 

なのにこのティッシュのパッケージには、手をつないだ男女のイラストと、『幸せなら手をつなごう』というフレーズしか書かれていなかったのだ。何かの宗教団体だろうか?

 

 と、不思議に思っていると、今度は右手にある電器店から、どこかで聞いたような声が聞こえてくる。

 

 店頭に並べられたいくつものテレビに、奇妙な番組が映し出されていた。「な……ッ!?」 士道は眉根を寄せて声を上げた。

 

 昼間にやっている情報番組のようなセットに、何人かコメンテーターのような人物が確認できるのだが、それらが全て〈フラクシナス〉で見た顔だったのだ。

『やっぱり初デートで手も握ってくれないような人は嫌ですよぉー』

『そうですよねえ。男ならガッといかないとねえ』

 

「…………」 と、士道が黙っていると、不自然なほど周囲にカップルが増え始めた。

 

 しかもみんな仲睦まじく手をつないで、時折「手をつなぐのっていいよね!」やら、「心が通じ合う感じがするね!」やらと、わざとらしく言ってくる。

 

 士道は軽い目眩のようなものを感じて額に手をあてた。

 ──これは、やっぱり、そういうことだろうか。 大きく息を吐いて、しばしのあと。

 

 士道はティッシュをポケットにしまうと、動悸を抑えながら十香に目を向けた。

 

「な、なあ、十香……」

 

「ん、なんだ?」 十香が不思議そうに首をかしげる。士道はごくりと唾液を飲み込んでから手を前に出した。

 

「その、手……つながないか?」

 

「手を? なぜだ?」

 まるで悪気なく、純粋な疑問符を浮かべながら十香が問うてくる。

 

 なんかもう、ただ拒絶されるより恥ずかしかった。

「…………そうだな。なんでだろうな」実際、説明できるようなものでもない。

 

士道は目を泳がせながら手を引っ込め──

 

「ん」 ──ようとしたところで、十香の手が士道の手を取った。

 

「……っ」

 

「ぬ? なんだその顔は。シドーがつなごうと言ったのだろう」

 

「あ、ああ」 軽く頭を振ってから、道を歩き出す。

 

「ん、悪くないな、これも」 と言って十香が笑い、きゅっと手を握る力を少しだけ強くした。

 

「……っ、そ、そうだな」 なんかもう、小さくて柔らかくて少し士道よりも体温の低い、ひんやりとした手を触っていると、自然と顔が赤くなるのが自覚できた。

 

 できるだけ感触に気がいかないよう、別のことを考えながら歩いていく。

 

 と、どれくらい進んだ頃だろうか、進行方向上に、工事中を示す黄色と黒の立て看板が見えた。ヘルメットを被った男たちが、あくせくと働いている。

 

「っと……ここ通れないのか。じゃ仕方ない、こっちに……」

 

 士道が足の向きを変え、右側に向くと、今度はその通路に立ち入り禁止の看板が置かれていた。「あ?」 不審に思いながらも、仕方なくもときた道を戻ろうとする。

 

 だが今度は、今まで士道たちが歩いてきた道が、看板でふさがれてしまった。「…………」 いくらなんでも不自然に過ぎる。士道は目を凝らして作業員の顔を睨みつけてみた。

 

 案の定、その中の数名の顔に見覚えがあった。〈フラクシナス〉クルーだ。 士道は無言のまま、高台の方に向かう左手に延びた通路に目をやった。 通れる道はそこしかなかったのだ。

 

「……こっちに行けってことかね」

 

「ぬ? どうしたシドー」

 

「や、なんでも。……とりあえず、こっち行ってみるか?」

 

「ん、いいぞ」 十香は、もう歩いているだけで楽しいというような顔を作りながら首を肯いてきた。

 

「さて、では行くかシドー」

 

「お、おう……」 士道は、ぎこちない様子で、左手の道を歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜◆〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

時刻は一八時。 天宮駅前のビル群に、オレンジ色の夕日が染み渡る。 そんな最高の絶景を一望できる高台の小さな公園を、少年と少女が二人、歩いていた。

 

 少年の方はさほど問題ない。普通の男子高校生だ。

 

 しかし、少女の方は──「……ふう」 日下部燎子は目を細めながら唇をめた。「存在一致率九八・五パーセント。さすがに偶然とかで説明できるレベルじゃない、か…」

 

 精霊。 世界を殺す災厄。 三〇年前にこの地を焦土とし、五年前には大火を呼んだ最凶最悪の疫病神(カラミテイ)と同種の少女。

 

「…………」 しかし今燎子の網膜に映るその姿は、ただの可愛い女の子だったのである。

 

「狙撃許可は」 と、静かな──逆に言えば、底冷えするような声音が、燎子の背に投げられた。 振り向くまでもない。折紙である。 燎子と同じくワイヤリングスーツにスラスターユニットを装備し、右手に自分の身長よりも長い対精霊ライフル〈C C C(クライ・クライ・クライ)〉を携さえている。

 

「……出てないわ。待機してろってさ。まだお偉方が協議中なんでしょ」

 

「そう」 安堵した様子も、落胆した様子もなく、折紙がうなずく。 今精霊がいる公園の一キロ圏内には、燎子たちAST要員が一〇人、二人一組ツーマンセルの五班に分かれて待機していた。 二人がいるのもそのポイントのうちの一つである。

 

 公園よりもさらに都市部から離れた、宅地開発中の台地だ。昼間はトラックやらクレーンやらの作業車が列を作っているものの、この時間になればもう静かなものだった。

 

 数時間前、折紙が発見した少女に精霊の判定が出てからすぐにCR–ユニットの起動許可が下りた。 だが、まだ防衛大臣やら幕僚長やらは、対応を協議しているらしい。

 

 要は、攻撃を仕掛けるか、否か、である。 空間震を観測できない現界だったため、空間震警報は鳴っていない。

 

 つまり住民は誰一人として避難しておらず、今精霊が暴れ出しでもしたら、深刻な被害が出てしまうのである。

 

 かといって、今警報を鳴らして精霊を刺激してしまうのも上手くない。なんとも嫌な状況だった。

 

 だが──「これは好機」 折紙は、いつものごとく温度のない口調で唱えた。

 

 確かに折紙の言うとおり、これはチャンスでもあった。 なぜなら今、精霊はその身に霊装を顕現させていない。 燎子たちの随意領域テリトリーと同じように、精霊を最強で究極で無敵の生命体たらしめている外殻を、纏っていない。

 

 今ならば、こちらの攻撃が届く可能性は十分あった。 ただしそれもあくまで可能性にすぎないうえ、確実に一撃で致命傷を与えなければならない。折紙が、平常装備に含まれない対精霊ライフルを携えている理由がそれだった。

 

 使用者が悲鳴を上げ、弾道が軋み、目標が断末魔の声を上げる。

 

 ゆえに〈C C C(クライ・クライ・クライ)〉。 随意領域を展開させていなければ、反動で狙撃手の腕の骨が折れてしまう、頭のおかしい銃である。

 

 だが燎子は、その銃を使うような事態になるとはあまり思っていなかった。

 

「……頭ん中日和ってるお偉方が、この状況で攻撃許可出すかしらねえ」

 

「出してもらわなければ困る」 燎子が言うと、ノーウェイトで折紙がそう返してくる。

 

「……ま、現場としちゃそうなんだけどさ。攻撃許可を出したけど一撃で仕留めきれなくて精霊が暴れ出しました、ってのと、精霊が勝手に暴れたけど、現界してたなんて知りませんでしたー、ってのだと、責任問題になったときに随分意味合いが違ってくるのよ」

 

「そんな理由で決められては困る」

 

「そうは言っても、十把一絡げの人命より自分の地位が大事なお方が多いからねえ」

 

 言って、肩をすくめる。 折紙の表情は微動だにしなかったが、何となく憮然としているような気がした。

 

 と──そこで、燎子の耳にノイズ混じりの音声が届いてきた。

 

「はいはい、こちらポイントA。結局どうなっ──え?」

 

 燎子は鼓膜に伝わった情報に、目を丸くした。

 

「──了解」 そうとだけ言って、通信を終了する。

 

「……驚いた。狙撃許可が下りたわ」

 

 正直、少し意外だった。間違いなく待機命令が出ると踏んでいたのだ。

 

 否──そういえば、昨日の校舎への攻撃命令も、今までではあまり考えられない強攻策だった。上層部で人事異動でもあったのだろうか。

 

 まあ、燎子は自分の仕事をするだけだ。具体的に言えば今は──ここにいる中でもっとも作戦の成功率が高いであろう隊員に、引き金を預けることである。

 

「──折紙、あんたが撃ちなさい。今いる面子の中では、あんたが一番適任よ。失敗は許されないわ。絶対に一撃で仕留めること」

 

 その言葉に。「了解」

 やはり何の感慨も浮かべぬまま折紙は答えた。

 

 

 

 

 夕日に染まった高台の公園には今、士道と十香以外の人影は見受けられなかった。

 

 時折遠くから自動車の音や、カラスの鳴き声が聞こえてくるだけの、静かな空間。

 

「おお、絶景だな!」 十香は先ほどから、落下防止用の柵から身を乗り出しながら、黄昏色の天宮の街並みを眺めている。

 

〈フラクシナス〉クルーたちが巧妙(?)に誘導するルートを辿ってきたところ、ちょうど日が傾きむきかけた頃に、この見晴らしのいい公園に辿り着いたのである。

 

 士道も、ここに来るのは初めてではない。というか、密かなお気に入りの場所でもあった。 終着点にここを選んだのは……まあ、きっと琴里だろう。

 

「シドー! あれはどう変形するのだ!?」 十香が遠くを走る電車を指さし、目を輝やかせながら言ってくる。

 

「残念ながら電車は変形しない」

 

「何、合体タイプか?」

 

「まあ、連結くらいはするな」

 

「おお」 十香は妙に納得した調子でうなずくと、くるりと身体を回転させ、手すりに体重を預けながら士道に向き直った。

 

 夕焼けを背景に佇ずむ十香は、それはそれは美しくて、まるで一枚の絵画のようだった。

 

「──それにしても」 十香が話題を変えるように、んー、と伸びをした。 そして、にぃッ、と屈託のない笑みを浮かべてくる。

 

「いいものだな、デェトというのは。実にその、なんだ、楽しい」

 

「…………っ」 不意を突 かれた。自分からは見えないけれど、きっと頬は真っ赤に染まっている。

 

「どうした、顔が赤いぞシドー」

 

「……夕日だ」

 言って、顔をうつむかせる。「そうか?」 すると十香が士道のもとに寄り、見上げるようにして顔を覗き込んできた。

 

「ぃ──ッ」「やはり赤いではないか。何かの疾患か?」 吐息が触れるくらいの距離で、十香が言う。

 

「や……ち、違う、から……」 視線を逸らしながらも──士道の頭の中には、デェト、という言葉が渦巻いていた。

 

 漫画や映画の知識ではあるけれど。 たぶん、恋人たちがデートの終盤でこんな素敵な場所を訪れたなら、やっぱり── 自然、士道の目は、十香の柔らかそうな唇に向いていた。

 

「ぬ?」

 

「────ッ!」

 

 別に十香は何も言っていないのだが、自分の邪まな思考が見透かされた気がして、再び目を逸らしながら身体を離す。

 

「なんだ、忙がしい奴だな」

 

「う、うるせ……」 士道は額に滲んだ汗を袖で拭いながら、ちらと十香の顔を一瞥した。 一〇日前、そして昨日、十香の顔に浮かんでいた鬱々とした表情は、随分と薄れていた。

 

鼻から細く息を吐き、一歩足を引いて十香に向き直る。

 

「──どうだ? おまえを殺そうとする奴なんていなかっただろ?」

 

「……ん、皆優しかった…シドーやサトーだけじゃない、皆…優しかった。正直に言えば、まだ信じられないくらいに」

 

「あ……?」 士道が首をひねると、十香は自嘲気味に苦笑した。

 

「あんなにも多くの人間が、私を拒絶しないなんて。私を否定しないなんて。──あのメカメカ団……ええと、なんといったか。エイ……?」

 

「ASTのことか?」

 

「そう、それだ。街の人間全てが奴らの手の者で、私を欺こうとしていたと言われた方が真実味がある」

 

「おいおい……」 さすがに発想が飛躍しすぎていたが……士道はそれを笑えなかった。

 

 だって十香にとっては、それが普通だったのだ。 否定されるのが、され続けるのが、普通。 なんて──悲しい。

 

「……それじゃあ、俺とか佐藤もASTの手先ってことになるのか?」

 士道が言うと、十香はぶんぶんと首を振った。

 

「いや、シドーとサトーは、あれだ。きっと親兄弟を人質に取られて脅されているのだ」

 

「な、なんだその役柄……」

 

「……おまえたちが敵とか、そんなのは考えさせるな」

 

「え?」

 

「なんでもない」

問い返すと、今度は十香が顔を背けた。

 

 表情を無理矢理変えるように、手で顔をごしごしとやってから、視線を戻してくる。

 

「──でも本当に、今日はそれくらい、有意義な一日だった。世界がこんなに優しいだなんて、こんなに楽しいだなんて、こんなに綺麗だなんて……思いもしなかった」

 

「そう、か──」 士道は口元を綻ばせて息を吐いた。

 

 だけれど十香は、そんな士道に反するように、眉を八の字に歪めて苦笑を浮かべた。

 

「あいつら──ASTとやらの考えも、少しだけわかったしな」

 

「え……?」

 士道が怪訝そうに眉根を寄せると、十香が少し悲しそうな顔を作った。

 

 士道が嫌いな鬱々とした表情とは少しだけ違う──でも、見ているだけで胸が締め付けられてしまいそうな、悲壮感の漂よう顔だった。

 

「私は……いつも現界するたびに、こんなにも素晴らしいものを壊していたんだな」

 

「────っ」 士道は、息を詰まらせた。

 

「で、でも、それはおまえの意思とは関係ないんだろ……ッ!?」

 

「……ん。現界も、その際の現象も、私にはどうにもならない」

 

「なら──」

 

「だがこの世界の住人たちにしてみれば、破壊という結果は変わらない。ASTが私を殺そうとする道理が、ようやく……知れた」

 

 士道は、すぐには言葉を発せなかった。 十香の悲痛な面持ちに胸が引き絞られ、上手く呼吸ができなくなる。

 

 

「シドー。やはり私は──いない方がいいな」

 言って──十香が笑う。 今日の昼間に覗かせた無邪気な笑みではない。

 

 まるで自分の死期を悟った病人のような──弱々しく、痛々しい笑顔だった。

 

 ごくりと、唾液を飲み込む。 いつの間にかのどはカラカラに渇いていた。

 

張り付いたのどに水分がしみていく軽い痛みを感じながら、どうにか口を開く。

 

「そんなこと……ない……ッ」 士道は声に力を込めるため、ぐっと拳を握った。

 

「だって……今日は空間震が起きてねえじゃねえか! きっといつもと何か違いがあるんだ……ッ! それさえ突き止めれば……!」 しかし十香は、ゆっくりと首を振った。

 

「たとえその方法が確立したとしても、不定期に存在がこちらに固着するのは止められない。現界の数は減らないだろう」

 

「じゃあ……ッ! もう向こうに帰らなければいいだろうが!」 士道が叫ぶと、十香は顔を上げて目を見開いた。 まるで、そんな考えをまったく持っていなかったというように。

 

「そんなことが──可能なはずは……」

 

「試したのか!? 一度でも!」

 

「…………」 十香が、唇を結んで黙り込む。

 

 士道は異様な動悸を抑え込むように胸元を押さえながら、再びのどを唾液で濡らした。

 

 咄嗟に叫んだ言葉だったが──それが可能ならば、空間震は起こらなくなるはずである。

 

 確か琴里の説明では、精霊が異空間からこちらの世界に移動する際の余波が空間震となるという話だった。

 

 そして、十香が自分の意思とは関係なく不定期にこちらの世界に引っ張られてしまうというのなら、最初からずっとこちらにとどまっていればよいのだ。

 

「で、でも、あれだぞ。私は知らないことが多すぎるぞ?」

「そんなもん、俺が全部教えてやる!」 十香が発してきた言葉に、即座に返す。

 

 

 

 

「寝床や、食べるものだって必要になる」

「それも……どうにかするッ!」

 

「予想外の事態が起こるかもしれない」

「んなもん起きたら考えろッ!」

 

 十香は少しの間黙り込んでから、小さく唇を開いてきた。

「……本当に、私は生きていてもいいのか?」

「ああ!」

 

 

 

「この世界にいてもいいのか?」

「そうだ!」

 

 

 

「……そんなことを言ってくれるのは、きっとシドーだけだぞ。ASTはもちろん、他の人間たちだって、こんな危険な存在が、自分たちの生活空間にいたら嫌に決まっている」

 

 

 

「知ったことかそんなもん……ッ!! ASTだぁ!? 他の人間だぁ!? そいつらが十香! おまえを否定するってんなら! それを超えるくらい俺が! おまえを肯定するッ!」

 

 

 叫んで。 士道は、十香に向かってバッと手を伸ばした。 十香の肩が、小く震える。

「握れ! 今は──それだけでいい……ッ!」

 

 

 十香は顔をうつむかせ、数瞬の間思案するように沈黙したあと、ゆっくりと顔を上げ、そろそろと手を伸ばしてきた。

「シドー──」 と。 士道と十香の手と手が触れ合おうとした瞬間。

 

 

 

「────」 士道は、ぴくりと指先を動かした。 なぜかわからないけれど──途方もない寒気がしたのだ。

 

 

 ざらざらの舌で全身を舐められるような、嫌な感触。

 

 

「十香!」 士道ののどは、意識してもいないのにその名を呼んでいた。

 

 

 そして十香が答えるより早く。「……っ」 士道は、両手で思い切り十香を突き飛ばした。 細身の十香は突然の衝撃に耐えられず、漫画みたいにごろんと後ろに転がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グシャリ───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…"やはり、当たっていたか"」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──白

 

──白

 

──白

 

 

 

 

最早白ともいえる肌、白い軍服、白く長い髪を2つに括んでいる少女が立っていた。

 

 

 

少女の手には何かが握りしめられており、それは…一つの白い短銃のようにも見えた。全てが真っ白な存在……

 

「なッ……」

それを、見た十香は士道への非難を忘れてその人物を見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜◆〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈フラクシナス〉艦橋に、けたたましいアラームが鳴り響く。 その音を聞いて、琴里はぴくりと眉を動かした。

 

 それは──通常は使用されない、最厳重レベルの緊急事態通告だったのである。

 

 

「何事!?」 言いながら、モニタ上に目を向ける。 士道と十香の前に謎の精霊が顕現していた。

 

 

それだけではなかった、一人のクルーがごくりと喉を鳴らしながら続ける。

 

 

「か、カテゴリー・E……あの精霊は霊力値がマイナスを示しています……!?」

 

 

「な──」 その言葉に、琴里は目を見開いた。

 

 

 

「冗談…でしょう?」

瞠目しながらモニターを見つめる、士道が十香を庇いASTからの攻撃を受ける…直前だった、その少女はそこに立っていた。

 

 

 

「な………?」

珍しく、初めてかもしれない程に令音も目を見開いてモニターに映る謎の少女の姿を見つめていた。

 

 

 

 

「今すぐに士道を回収しなさい!」

琴里が額に流れた汗を拭き取り、焦りを殺しながら叫ぶとクルーたちは首肯し、コンソールを忙しなく操作し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『………馬鹿野郎が…』

壁に寄りかかりながら誰にも聞こえない音量で佐藤は呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜◆〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁやぁ、ご機嫌よう……五河士道、そして……第十領域(マルクト)の主精霊よ」

その少女は日を背に振り返った、顔は…わからない、モノクロの仮面を付けて、左手には白い短銃を携えていた。

 

「貴様…何者だ、」

警戒心を顕にしてその少女を睨みつける。

 

 

 

「答えるのはすまないが無理だな、"まだ"その時ではないから……」

そう言うと「【魚の弾(ドゥギーム)】」と言い、虚空に銃を放った…

 

 

 

「まだ、出会ったばかりだが…さらばだ。いつか、また会えるさ」直後、その空間が軋み、割れた。そして、奥から光が漏れ出ている。

 

 

 

本能的に理解する。

ここで話せなければ次会うときはもっと酷い時だと。

 

 

「な、待ってくれッ!!」

士道は背に向かって叫んだが、少女は気に留めることなく士道を一瞥するとその中に入った。

 

 

 

そして、その場所は先ほどの静寂を取り戻し、士道と十香二人きりの空間に戻っていた。

 

 

「……はっ…、士道…大丈夫か!? 先ほど何かをされなかったか?」

そう言いながら十香が詰め寄ってきて士道の身体をペタペタと触ってくる。

 

 

「え、えぇと…傷とかは…、無い…から…大丈夫」

目を逸らしながら十香の肩に手を当てて押し出し距離を取った。

 

 

 

「それなら良いが……、それにしてもあの女は誰だ。そもそも、どこを指してっ……て」その時、十香は先ほど少女が立っていた延長線上───宅地の開発中の台地を見て……

 

 

 

「あぁ…そういうことか。あの者には感謝しなければならんな」目の色と声音を酷く冷たいものに変えた十香。まるで、何かに失望し、落胆したかのような目でもあった。

 

 

 

「え、十香?どうしたんだよ…」

士道にも分かるほどに大きな殺意と憎しみをその場所に向ける十香に…士道は後退りしながら尋ねる。

 

 

「なんでもない、士道はジッとしていろ。

 

 

あぁ、良かった…もし…もし…士道に何かあったら…私は絶望していたかもしれない。」淡々とわけのわからないことをつぶやき続ける十香に士道は言葉を吐こうとしたのだが。

 

 

 

「─〈神威霊装・十番〉(アドナイ・メレク)………ツ」

のどの奥から その名を絞り出す。霊装。絶対にして最強の、十香の領地。

 

 

瞬間、世界が、啼いた。

 

 

周囲の景色がぐにゃりと歪み、十香の身体に絡みついて、荘厳なる霊装の形を取る。

 

 

そして光り輝く膜がその内部やスカートを彩り災厄は、降臨した。

 

 

ぎしぎし、ぎしぎしと。

世界が不満をさえずるように空が軋んだ。

 

 

 

「なっ…!?十香…?」

思わずその迫力によって、地面にへたり込んだ士道は十香に語りかける。

 

 

 

「シドー 少し…本当に少し…待っていろ。私は…あいつが許せない」殺意と憎しみで爆発するのを押し殺すように冷静にそう言った。

 

 

 

「な、なにをいって──」

 

ズドンッ──

 

 

その瞬間、十香は士道の背後に回り、首に手刀を打ち付けた。「すまない…シドー これは、私の問題だ」

そう言うと悲しそうな顔で地を踏み抜いた。

 

 

 

次の瞬間

 

 

 

 

十香はそこには居なく…先ほどまで十香の立っていた足元が抉れていた。まるで…地面にかなりの負荷をかけたように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜◆〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な───」

物事が進むのは一瞬だった。

 

士道を撃ってしまったと思った後に、謎の少女が現れたことに日下部遼子が狼狽した。その直後………あの精霊がこちらに気づき、霊装を展開。そして……こちらと一瞬で距離を消してきた。

 

 

 

瞬きすら起きない間に精霊はこちらにやって来ていた。

しかし…天使を顕現させていない、霊装を顕現しているのに……が、今はそんな事を考えている暇は無い。

 

 

すぐさま〈C C C〉(クライ・クライ・クライ)を手放し随意領域を展開させると精霊の近くを漂う光球から放たれ光をギリギリで逸らした。

 

「折紙!今は、生き残りなさい!後で死ぬほど責めるから!」

そう言うと遼子も随意領域を展開し、精霊から放たれる攻撃を避けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前では逃げ回る女二人が居た。

「あぁ、足りない…。大方私を狙っていたんだろう? それなら良かった。しかし、貴様らは殺しかけた。我が友を…親友のシドーを。だ、……」

歯が割れそうなほどぎりぎりと噛み締める。怒りでくるいそうだ、もし…あの時。本当に士道が殺されていたら、気紛れにもあの精霊が来なかったら。胸の奥から冷たい何かがこみ上げてくる。シドーが死にかけた、奴らを殺すに足りた理由だった。

 

 

 

 

「死ね、死に晒せ、塵も残さず、…消えて無くなれッ!!!」

 

 

 

 

そう言うと踵で地を踏み抜いた。すると…地面が隆起し、巨大な玉座が現れた。

 

十香は背もたれから伸びる柄に手を当て…その剣を引き抜いた。

 

 

本来ならやらないと思っていた。

だって…士道は生きているから、奇跡的にも生きていたから…。だから、この剣を使うとは思わなかった。しかし、今この貌を目にすると…我慢しようとしていた冷たい殺意が湧き上がった。

 

 

「一旦。殺そう……【鏖殺公】(サンダルフォン)───

 

 

 

 

 

 

 

         【最後の剣】(ハルヴァンへレヴ)…………………」

 

 

 

 

そう、俯きながらも小さく呟くと玉座がバラバラに砕け散る、散りながらも引き抜いた巨剣に纏わりついていった。そして…二mはあった剣はさらに全長一〇m以上はある巨大過ぎる剣…。

 

 

それを軽々と振り上げると……目の前に向かって振り下ろした。

 

光は更に強く輝き、延長線上に位置する2人の女に向かって伸びていった。

 

次の瞬間──凄まじい爆発が周囲に広がった。

 

 

 

 

 

「く……」

「───ッ!」

受け止めきれないと判断したのか随意領域による受け流しを辞めて…左右に回避し、難を逃れた女たちが戦慄に染まった声を上げる。

 

 

それもそうだろう、十香は今の一撃で……たったの一撃で広大な台地を両断したのだから。

 

 

「…この…ッ、化け物め───!」

長髪の女が十香に無骨な剣を向けてくる、が…霊装を着た十香にそれが効くはずもなく。視線を向けただけで、その攻撃を無意味となった…

 

 

「嘘…」

狼狽の声が漏れるが、そんなものに興味など無い。

 

 

私が殺したいのはこの女だけ、

 

 

「嗚呼、嗚呼、貴様か……シドーを殺しかけたのは貴様か」

小さく唇を動かす。

 

 

「お前だけは…殺してやる。この罪ぐらいは…問わせてやる」

静かに十香がそう言うと、ほんの少しだけその女は顔を歪めたような気がしたが、そんなものどうでも良かった。

 

 

 

「他の奴らなぞ、どうでも良い。───貴様だけは…貴様だけは……殺して壊して、消し尽くしてやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜◆〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どう…なってるのよ」

忌々しげに琴里は舌打ちをする。正直、あの場で士道が発砲され一旦ゲームオーバー、となるのは想定の範囲だった……しかし、

 

 

 

「あの精霊は……何者よ…。」

唇を噛みながら、そう呟く…何もかもが想定内だったのに、あの少女のせいで流れが変わった。

 

 

 

意図も不明、士道を襲うはずだった攻撃を止めた後すぐに消失(ロスト)した。

 

 

 

けど、そんな事を考えている暇もない。

 

 

 

 

「神無月!用意はできたわよね?!」

 

 

「はい!士道くんの回収。すぐにできます!」

琴里が叫ぶと頬に汗を垂らす神無月がコンソールを操作しながらも応えた。

 

 

あの精霊の解析も頼んでいたため重労働だったためだろうか、その場には緊張感が漂っていた。

 

 

ふぅと琴里息を吐くと気分を変えるように新しいチュッパチャプスを口に放り投げた。

 

あの正体不明の精霊も気になるが、今は十香が最優先だ。

ろくに住民の避難も終わっていない段階でここまでの暴れっぷり、今までの十香がかわいく見えるほどだった。

 

誰も居ない開発地──というのが唯一の救いか、しかし…それを楽観的に思えないほど十香の破壊力は高かった。

 

今すぐにでも士道を回収しなければ、そう思いながらモニターを見つめる。

 

「回収を急いで、彼女を止められるのは現状士道だけよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜◆〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん」

士道はそこで目が覚めた、頭がズキズキする…主に首元が痛い。

 

はっとして思い出す。

「そ、そうだっ…!十香は…!」

 

姿の見えない十香を探そうとキョロキョロと辺りを見渡していた、すると…公園よりも更に高い、台地のような場所から黒い光が輝く。次いで、その場所から爆音がとどろき、その余波が撒き散らされた。

 

「うぉ......!」

不意のことに力が入らず、風に煽られる格好で地面に転がされる。

「な、なんだ、一体......!」

叫びながら、そちらに目を向け―――士道は身体を硬直させた。

そこから見える景色が、士道が意識を失う前とは、まったく別物になっていたのである。

その方向には、宅地開発中の現場やら、三〇年前に地形が変わって以来まだほとんど手を入れられていない山などが広がっていたのだが。

それらが、まるで空襲を受けたかのように滅茶苦茶に崩壊していたのである。

 

例えるなら、鋭い刃物で切られたケーキのようにその台地は鋭利な断面をいくつも覗かせていた。

 

 

いや、そもそも…士道を助けてくれた少女の仮面は───と、考えていると。唐突に士道の身体に浮遊感が訪れる、これは…〈フラクシナス〉による転移装置…。

 

そう認識した時には、士道の視界は公園ではなく〈フラクシナス〉の内部に移り変わっていた。

 

『五河士道。こっちだ…』

手をひらひらと振りながら、背を向けて歩き出す佐藤の姿があった。

 

「あ、あぁ…」

混乱しながらも佐藤について行って艦橋まで向かった。

 

 

「……来たわね。士道」

艦橋席上部に腰掛け、チュッパチャプスをピコピコしながら琴里が言ってくる。

 

「…ちょっと、状況がよく分からん。あの女の子は?十香は?台地はなんであんな事に──」

 

「シャラーップ!私たちもあの謎の精霊についてはまだ解析中よ」

 

「精霊なのか?」

琴里の発した単語に不思議そうな顔をしながら首を傾げると。

 

『黙って聞け、あの謎の精霊よりも。まずは十香優先だろ』

そう言って佐藤が士道の頭を叩いてくる。

 

普通に痛かった………。

 

「とにかく! 士道が殺られかけて、それにキレたお姫様がASTにぶち切れてるのよ」

簡素に分かりやすく琴里は説明しながら、艦橋の斜め上にあるモニターをあごで示した。

 

「んな……ッ!?」

 

そこには巨大な剣で山を切り刻む十香とそれに必死に応戦するASTたちの姿があった。

 

いや、──応戦と呼ぶにはその抵抗は弱々しかった。

AST側の攻撃全てを霊装をまとった十香は無力化し、逆にAST側の随意領域などないものかのように十香が振るう剣の余波のみでASTたちは吹き飛ばされていた。

 

「完全にキレてるのよ。良かったじゃない士道、十香にこんなにも慕われてて。」

 

「……ッ。なん…だよ、意味わかんねぇ」

 

『とにかく。だ…十香を止めるためにはお前の力が必要なんだよ、五河士道』先ほどまで言葉を発しなかった佐藤は、琴里の説明が終わった後に、本題に入るようにそう言ってきた。

 

「お、俺の力ぁ?」

 

『あぁ、そうだ…詳しい説明は後だ。ほら、五河琴里、さっさと…コイツを飛ばせ。』

 

「……言われなくてもやるわよ。…っていうか、一応あなたの上司でもあるんだから、命令しないでもらえる?」

 

 

『はいはい、分かったから』

子供をあやすかのような佐藤の言葉に、更に苛立ちながらも琴里は、「座標は一m以内に抑えなさいよ!」とクルーに命令した。

 

 

「え、だから……何がどうなって──」

一切の説明をされずに話を進められる士道は目線を泳がせながら、せめて誰かに説明を乞う。

 

『五河士道。お前は……十香を救いたいか?』

突如、佐藤が背後からそんな質問を飛ばしてきた。

 

「え、だから…説明を──」

 

『「YES」か「はい」で答えろ。どっちだ?』

苛立ちげに腕を組みながら士道を睨んでくる。

 

「そ、れは……。もちろ…ん、だ!俺は十香を…救いたい!」

その言葉に何か考えるように佐藤は瞳を閉じた。

 

 

『そう。か……じゃあ、やることは一つだな』

 

「えぇ、そうね」

琴里もニヤニヤしながら士道を見つめてくる。

 

 

「だから、説明を……!」

 

『方法なんてシンプルで簡単だよ。お姫様の呪いを解くのは何だと思う?』珍しく、悪戯っぽく佐藤はにぃっと微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜◆〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

壊しても、壊しても……足りない。

他の奴らなんてどうでも良い、私は……あの女が許せないんだ。

 

私の全てを否定し、あまつさえ、シドーすらも手に掛けようとした。狙いはただ一人……十香の視界にはその女一人しか映っていない。

 

あたかも──蟻を気にかけて歩く獅子のように。

 

 

「おああああああああああああああああああああああああああああああああ──ッ!!」 殺意に満ちたような咆吼を上げ、精霊が巨大に過ぎる剣を振り下ろす。

 

 

 

「…………っ」 折紙はスラスターを駆動させると、身をひねって空に逃れ、その一撃を避けた。 が──剣圧の巻き起こした衝撃波が随意領域を侵して折紙の身体を打つ。

 

 

 

「く──」 油断は、一瞬だった。

 

 

 

「──ああああああああああああああッ!」 精霊が、吼える。 そして思い切り肩を回し、風を切り空気を割りながら、再度剣を折紙目がけて振るってきた。『──折紙!!』 燎子が声を荒げてくる。

 

 

 

だが──もう遅い。 折紙の随意領域に、精霊の剣が触れる。 ──瞬間。「────」 折紙は、自分の判断が甘かったことを知った。

 

 

 

 剣圧の余波で、おおよその威力を推し量っていたつもりだったが──違う。明らかに、世界が、違う。

 

 

 

 己と比べることすら、攻略法を考えることすら冒涜に思える、暴虐なる王の鉄槌。 時間にすれば、僅か一・五秒。

 

 

 

随意領域が。 絶対の力を誇るはずの折紙の城が。「──────────」 音もなく、声もなく、打ち砕けた。────はず、だった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………君の気持ちも分からんではないが、少しは落ち着いたらどうかな?」

それを妙な剣で防ぐ、白髮の女の姿があった。

 

 

 

「な───」

先ほどまで折紙を攻撃しようとしていた精霊すらも、狼狽の声を上げる。

 

 

 

「なぜ、私の邪魔をする……。貴様には心から感謝をしている。しかし、その女を護るというなら、手加減は出来んぞ。名も知らぬ恩人よ」そう言って、その少女に精霊は剣を向けた。

 

 

 

その光景を見ながら折紙は瞳を揺らしていた。

 

守られた──?私が……というかあの少女は先ほども居た───。

 

 

 

 

考える暇もなく、すぐさま、折紙は他の隊員から、腕を掴まれ、その場から退避させられた。

 

 

が、それを折紙に固執する精霊が逃す訳もなく…

「……逃がすかッ!貴様だけは、貴様だけはぁぁぁ!!!」

そう言いながら精霊は剣を振り上げた、すると…その周囲に漂い始めた黒い光の粒子が剣に纏わりついていった。

 

 

 

「どけ、退かねば…貴様ごとあの女を斬るぞ!」

精霊は少女にもそう言い放った。本気で私を殺すつもりなのだろう。

 

 

間に合わない、

あの少女が何者かは不明だが……あの精霊の全身全霊の一撃をなんのメリットもない少女が受けるはずが無い。

 

           ()

 

そんな単語で脳内が埋め尽くされる。

 

 

 

 

 

 

 

しかし…精霊の前に未だ立つ少女は剣先を頭上に向け、

「少しは冷静になってみたらどうかね?」そう言った。

 

 

 

 

 

その瞬間。

 

「十ぉぉぉぉぉぉぉ香ぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああ─────────ッ!!!」

 

 

 

 

その声が空から轟いた。

 

 

「え…?」

死にかけだと言うのに折紙はそんな声を発してしまっていた。だって…その声は、本来なら空から聞こえる筈もない男の子の声だったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜◆〜〜〜(数分前)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お姫様は滞空中か……なら士道をここから突き落としましょ。パラシュート? そんなのいらないわよ。低空まで下りてるし、精霊に接近したら、こっちから重力中和してあげるから。──ああ、うん、大丈夫大丈夫。〈フラクシナス〉の直下にいる限りはね。……え? もし直下からずれたら? んー……そりゃまあ、地面に綺麗な花が咲くわねえ、真っ赤な」

 

 

 

 

 佐藤に『十香を止める方法』とやらを語られた後、士道に琴里はモニタを眺めながらそう言った。ついでにくすくす笑った。「ちょ、ちょっと待て! ただでさえ難しいってのに、なんでそんな……ッ!」

 

 

 

「やあねえ、成功率が同じくらいなら、楽しい方がいいにきまってるじゃない」

 

 

 

「楽しいのはおまえだけだろうがぁぁぁぁッ!」

 

 

 

『はぁ……。うだうだ言ってないでさっさと行くぞ。救うんだろ?あの娘を、笑顔にするんだろ?』

そう言って、固まった士道をそのまま、佐藤は引きずっていく。

 

 

 

「あっ、ちょ、離せって、ていうか力つえぇッ!!。あー…もう、覚えてやがれ琴里ぃぃッ!」

 

 

 

「はいはい。覚えててあげるからいってらっしゃい」

 

 

 

 そんな声を聞きながら、艦体下部に位置するハッチに連れてこられた士道は、『んじゃ、がんばってなー』 不満をさえずる暇さえ与えられず、空に突き落とされた。

 

 

 

「ぎゃああああああああああああああああああ──ッ!?」 凄まじい風が、身に纏った制服や頬の肉をばさばさぶるぶるとはためかせる。 失禁してしまいそうな浮遊感。

 

もうジェットコースターなんてコワクナイ。 と──意識が飛びそうになる恐怖の中、士道は視界の中に一つの影を見つけた

 

「──ッ!」 手足を突っ張って姿勢を安定させ、ぶれまくる視界の中、その少女の姿を捉える。

 

 

 

 

 

 そして。「十ぉぉぉ香ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ────ッ!!」 力の限り声を張り上げ、その名を呼んだ。 それから一拍もおかず、身体にかかっていたGと浮遊感が和らぐ。

 

 

 

〈ラタトスク〉からのサポートだろう。まだ落下していることに変わりはないのだが、これならば──「────」 十香が、士道の声に気づいてか、長大な剣を振りかぶったまま、顔を上に向ける。 その顔は驚愕と瞠目に染まっていた。

 

 

 十香と、目が合う。「な、なぜ……」 まだ状況を理解できていないような様子で、十香が呟く。

 

 

 だんだんと緩かになっていく落下速度の中、士道はそんな十香の両肩に手をかけた。空に立つ十香の助力を得るような格好で、その場にとどまる。

 

 

「よ、よう……十香」

 

 

「シドー…なんで…ここに、というかなぜ空から?」

 

 

「ああ……えっと、色々あって?」

 士道が言うと、十香は唇をふるふると震わせた。

 

 

 

 

 

「何故……来たのだ」

まるで、見て欲しくなかった現場を見られた子供のように十香はそういった。

 

 

 

「ああ、なぜって──」 と、答えかけたところで、士道の視界の端に凄まじい光が満ちた。

 

 

 

 十香が振りかぶったまま空中に静止させていた剣が、あたりを夜闇に変えんばかりに真っ黒な輝きを放っている。

 

 

「な──なんだこりゃ……」

 

「ッ……! しまった……! 力を──」

 

 十香が眉をひそめると同時、刃から光が雷りのように漏れ出、地面をうがっていった。

 

「と、十香、これは──」

 

「【最後の剣(ハルヴァンへレヴ)】の制御を誤った……! どこかに放出するしかない……!」

 

「どこかって……どこだ───?」

 

「…………」

 

そう言って十香は地面を見る。

釣られて士道も目線を下げたが、そこには誰も居なかった。

 

それを見て十香は忌々しげな顔をしたが、すぐにそれどころではないと血相を変え。

 

 

 

 

「適当に、そこら辺に放てば……」

その言葉に士道は慌てながら止める。

 

 

 

「ぃ!?、駄目だぞ!?これ以上、破壊尽くしたら…それに、ここから先になると住宅街になっちまう!」

 

 

 

「なら、どうしろというのだ!?もう限界だぞ!」

 

 

 

そう言い合っている間も十香の持つ剣はあたりに黒い雷を撒き散らしていた。

 

 

 

と、そこで士道は佐藤からの言葉を思い出していた。

精霊の力を封じる唯一の方法───

 

 

 

 

「十香、あのだな……落ち着いて聞いて欲しい」

 

 

 

「なんだ!今はそれどころでは──」

 

 

 

「それを、どうにか出来るかもしれない、方法が……ある、んだよッ!」

 

 

 

「何だと!?どうするのだ?! 早く教えろ!」

 

 

 

「あ、えっと…それは…」

だが、士道はすぐにはそれを口に出来なかった。

 

 

けど、佐藤の言葉を思い出す……

はぁと息を吐いた後。士道は意を決して言った。

 

 

 

「そ、その…っ、あれだっ……。十香、お、俺と…キッ、キスしよう……ッ!!」

 

 

「何!?」

 

 

十香が眉を寄せてくる。

 

 

それはそうだ、こんな非常事態なのに、これほどまでに意味不明なことを言ったのだ、悪ふざけと思われても仕方がない。

 

 

「す、すまん…忘れてくれ。やっぱり、他に方法を…」

 

「キスとは何だ!?」

 

「は…?」

 

「早く教えろ!!」

 

 

 

「き、キスってのは……、こう…唇と唇を合わせ───」

と、士道が言い終える前に。

十香はなんの躊躇いもなく士道に自らの唇を、士道の唇に押し付けてきた。

 

「────────ッ!!??」

目を見開き、声にならない声を上げる。

 

 

すると、一泊を置いて。

 

──天に聳えていた十香の剣にヒビが入り、バラバラに霧散して空に溶け消える。

 

 次いで、十香がその身に纏っていたドレスのインナーやスカートを構成する光の膜が、弾けるように消失した。

 

「な──」 十香が、狼狽に満ちた声を発する。

 

「…………ッ!?」 だがどちらかというと驚いたのは士道の方だった。

 

 十香の剣や衣服が消失したことに、ではない。それは半信半疑ではあったが佐藤から言われていたこと。

 

 どちらかというと、キスをしたままの状態で十香が喋るものだから、接触していた唇が蠢き、なんかもう士道の語彙では表現しきれないカオスな状態になってしまったのだ。

 

 ──十香の身体から力が抜け、地面に向かって落ちていく。

 

 士道は朦朧とする意識の中、逡巡しながらも、十香を離すまいとその身体を抱いた。かなり弱々しく。おっかなびっくり。

 

 頭を下にしながら、唇を、身体を合わせながら、二人が落下していく。 十香の霊装が光の粒子となり、その軌跡を残していた。

 

 それはあるいは、幻想的な光景だったのかもしれない。

 

 だけれど士道に、それを自覚できるほどのゆとりはなかった。 十香を支えながらゆっくりと落下していき──自分の身体を下にして、地面に着地した。

 

 そのまま少しの間重なり合ったままでいたあと、

 

「ぷは……っ!」 まるで息き継ぎでもするように、十香が唇を離し、身体を起こした。

 

「す……ッ、すすすすすすすまん十香ッ! こうするしかないって言われて……ッ!」

 

 士道は身体の上から十香が退くなり即座に跳ね起き、後方に飛び退くと同時に身体を丸めて、見事なジャンピング土下座を決める。 まあ厳密にはキスをしたのは十香からなのだが、なんというか、そんな問題でもない気がしたのである。

 

 だけれど何秒経っても、士道は頭を踏みつけられもしなければ、罵倒されもしなかった。

 

「……?」 不思議に思って顔を上げる。 十香はその場に座ったまま、不思議そうな顔をして、唇に指を触れさせていた。

 

 というか、それよりも──「ぶは……ッ!?」 士道は鼻血でも噴いてしまいそうなほど顔を真っ赤にして硬直した。 纏っていた霊装がボロボロに崩れた十香は、見るもいやらしい半裸状態だったのである。

 

「──ッ!」 士道の反応で十香もそれに気づいたらしい。慌てて胸元を隠す。「ち、ちちち違ちがうんだ十香、俺は──」

 

 

 

「み、見るな、馬鹿者……ッ!!」

 キスの意味も知らなかったわりには、人並みに羞恥心はあるようだった。

 

十香が頬を染めながら睨んでくる。

 

 

 

「す、すまん……っ!」 泡を食って、目をつむる。

「それでは駄目だ! 薄目で見ているだろう!」

 

「じゃ、じゃあどうしろってんだよ…………」

 

士道が言うと、数瞬の間のあと、身体の全面に再び温かい感触が生まれた。

 

「え──」 思わず、閉じていた目を開く。 目の前には、十香の漆黒の髪と、裸の肩があった。要は──ぴたりと、身体を触れ合わせている。

 

「……これで、見えまい」「っ、あ、ああ……」 本当にこれでいいのだろうか、と思いながらも、身動きを取ることができず、そのまま固まる。 しばしのあと。

 

「……シドー」 十香が、消え入りそうな声を発してきた。

 

「なんだ?」

 

「また……、サトーとやらと一緒にデェトに行ってくれるか……?」

 

「ああ。そんなもん、いつだって行ってやる。佐藤も…まぁ、大丈夫だろ」 士道は、力強く首肯した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■■■■■■■■■■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『チッ……』

廃工場の中で佐藤は壁に寄りかかりながら苛立ちげに舌打ちをしていた。

 

 

「そう、怒らなくても良いじゃないか」

そう言ってくるのは、佐藤が苛立つ原因を作った女だった。

 

白く長い髪をツインテールのように括り、全身は白い軍服。

 

眼は左右で色の違うオッドアイ。しかも、その左眼はⅠからⅫまでの数字が入った時計の文字盤のようだった。更に、その長針と短針は、カチカチ──と、音を立てて動いていた。

 

 

 

『うるせぇな、だれのせいだとおもってんだ?』

忌々しげに、睨みながら佐藤は言う。

 

 

 

が、オッドアイの少女はさして気にしないまま…話を続けた。

 

 

 

「で、勝手に誰かさんが話を進めたせいで私が出てくる羽目になったわけだが……」

 

 

 

『いや、別にお前が出て来なくなって…』

 

 

 

「あのだなあ。」

オッドアイの少女は頬を膨らませ、そっぽを向いた。

まるで、拗ねたハムスターのようだった。

 

 

 

佐藤はふっ…と微笑むと。

『はいはい、ありがとーなー』

渋々少女の頭を撫でてやった。

 

 

 

「ふんふん…、苦しゅうない。」

満足気に少女は目を瞑って佐藤の手に頭を預けてくる。

 

 

 

『はぁ……これで、アイツラにお前が見られちまったのか』

手を離し、佐藤は呟いた。

 

 

 

「まぁ、そうだね……しかも、彼女に関しては時崎狂三と五河士道くんの話が終わるまでもう出てこれない」

その言葉に佐藤は鬱々とため息を吐いた。

 

 

 

『そこだよなぁ……、アイツラを使うか?』

 

 

「それは……、あまりお勧めできないな。彼女たち単体のスペックは精霊より劣る……それこそ、エレンに捕まれば、DEMに利用されてしま───」

 

 

「はいはい!私が居ますよ!」

そう言うと2人の間を割るように薄い青い瞳の白いワンピースを着た小柄な少女が手を挙げて猛アピールしてくる。

 

 

『はぁ……お前を使うぐらいだったら、もっと適任が居るだろ…。そもそも、お前戦闘向きじゃないし』

 

 

「えぇー… 私も、かっこよく登場したいです!"クイーン"さんみたいに!こう、びしっと…」そう言って意味があるのか無いのか分からないポージングをする。

 

 

『はぁ………』

「はぁ………」

 

 

そう言った小柄な少女の言葉に、オッドアイの少女と佐藤は揃ってため息を吐いた。

 

 

「えー!なんで、ため息つくんですか!?誰だって憧れるでしょ!あんなに人から狼狽される状況って、いわば…なろう系みたいな…………『あれ、私何かやっちゃいました?』……的なッ!!」

 

何か熱く語っているような気がしたが佐藤とオッドアイの少女はそれを無視した。

 

 

 

「で、この子は放っておいて、これからはどうするんだ?」

 

『流石に動き過ぎた、少し大人しくする。お前らも狂三が来る時まではあっちで鍛錬でもしておいてくれ。それと…アイツの説得もな』

 

 

「わかった、……話はつけておく。で、話は変わるが…彼らの記憶は戻さなくて良いのか?」

 

 

その言葉に佐藤は眉をピクリと動かした。

『何の話だ?』

 

「流石に分かるよ、君……〝アレ〟を使っただろ。」

 

 

『……まぁ、質問に答えるとしたらNOだな。』

 

 

「そう、か。」

唇をかみしめてそのようにその言葉を吐くと。

なら良いと言わんばかりに、次の質問を言った。

 

 

 

「……そろそろ、教えてくれないか?君の事を…」

 

 

 

 

『…………』

その言葉に佐藤は深く…考えるように目を伏せた。 

 

 

 

 

『悪いな。』

言い切った…、そんな佐藤の言葉に…オッドアイの少女は悲しそうな顔をしながらも…明るい顔を取り戻し。

 

 

「じゃあ、話したくなったら何時でも言ってくれ……。では、"響"…行こうか」

 

 

 

 

「え、あ…はい!」

そう言うと彼女たちは空間に開いたゲートに入ってき、ゲートが閉じた時には廃工場の静寂しかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…………信頼。か、』

佐藤はそうぼやくと……あるものを取り出した。

 

 

 

それは約束の本。とある2人の少女と約束した、証。

 

 

 

 

 

 

 

『なぁ、お前たちが居たら…なんて言ってくれる?』

誰かに話しかけるわけでもなく、まるで…仏壇の前で亡くなった人に話しかける人のように…悲しそうな顔で佐藤は語り続ける。

 

 

 

 

 

『俺を怒るかな?……でも、俺は進み続けるんだよ。例え、どれだけの人間を犠牲にしても…絶対にアイツラを笑顔で終わらせるんだ。』

 

 

 

 

 

『感傷に浸ってる…場合じゃないな』

そう言うと…佐藤は歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■■■■■■■■■■■■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふはぁ…」

あの、十香たちとの一件から土日を挟んで月曜日。

復興部隊の手によって完璧に復元された校舎には、もう相当数の生徒が集まっている。

 

 そんな中士道は、気の抜けた息を吐き、ぼうっと教室の天井を眺めていた。

 

 ──あの日。 あれからすぐに気を失ってしまった士道が目を覚ますと、またも〈フラクシナス〉の医務室に寝転がされていた。

 

 そしてその後、施設で入念なメディカルチェックを受けさせられたのだが──気を失って以降、十香の姿を見ていない。

 

十香と話をさせろといっても、検査があるの一点張りで、結局最後まで姿を見ることすら叶かなわなかった。

 

「……あー」 十香に出会ってから、めまぐるしく過ぎていった一〇日間が嘘のように、ひたすらに何もない休日は、正直──空虚さと無力感で、死にたくなるくらいだった。

 

 だが……一つだけ、それ以外に士道の思考に引っかかったものがある。 あの日。士道は確かに十香とキスを交わした。 その瞬間、十香の纏っていた霊装が溶け消え──それと同時に、何か自分の身体の中に、温かいものが流れ込んでくるような感覚を覚えたのである。 ──あれは一体、何だったのだろうか。

 

「…………」 無言で、唇に触れる。 もう三日も経つというのにまだその感触が残っている気がして、士道は軽く赤面した。

 

 

『何やってんだお前。流石に気持ち悪いぞ』

 

「…!っ、佐藤。いるなら気配発してろよ」 急に話しかけられ、首の位置を元に戻す。

 

 

「……普通に話しかけただけなんだが。それにしても……うん、思春期ってかんじだな」 

ニヤニヤと微笑みながら自分の席に座った。

 

 

「うるせぇ…」

 

 

『んまぁ、良いんじゃないか?正直、今の気色悪い行動は置いておいて、あの時の行動は良かったと思うぞ』

 

 

「へいへい、ありがとーな」 

 

と、適当に言葉を放つ士道。

 

 

 すると。教室のドアがガラガラと開き…一人の少女が入ってきた。鳶一折紙、先週…十香に殺されかけていたというのにその身体に目立った傷などはなかった。

 

「…………」 折紙は教室の視線(殆どは男子)を向けられながら、自分の席までやってきて、腰掛けた。

 

 

 

「お、おう、鳶一。おはよ──」 気まずげに言いかけたところで、士道の視界から折紙がふっと消える。 一拍おいて、士道は折紙が深々と頭を下げていることに気づいた。

 

 

「と、鳶一……ッ!?」その瞬間、教室が騒然とし、士道と折紙に視線が集中する。

 

 しかし折紙はまるで意に介してない様子で、言葉を続けた。

 

「──ごめんなさい。謝って済む問題ではないけれど、」

 

 のちに聞いた話によれば──十香を狙っていたあの一撃は、折紙が放ったものだったという。それを詫びているのだろう。いや、別に無事だったのだし…謝らなくてもいいのだが。

 

『………うわー 士道。お前なんかしたのか?』

 

「しとらんわ! ていうか、お前は知ってるだろ!」

 

 事情を知っている筈なのに味方になるわけでもなく、あくまでもクラスメイトに紛れて訝しげな目を向けてくる佐藤。

 

とはいえ、クラスメイトに詳しい事情を説明できるはずもない。士道は折紙に向き直った。

 

「い、いいから、とりあえず頭を上げてくれ……」

 

 士道が言うと、折紙は存外素直に姿勢を戻した。

「でも──」 と、次の瞬間、士道のネクタイが根元から引っ張られる。

 

 

「ぃ──っ!?」 折紙は、そのひんやりとした表情をまったく変えないまま、顔を近づけてきた。

 

 

「浮気は、駄目」

 

 

「………………は?」 士道をはじめ、折紙の挙動に注目していたクラスの面々の目が、点になる。まぁ、一人『……ふぅん』と面白そうに見る者も居たが。

 

 

 と、それに合わせるように、ホームルームの開始を告げるチャイムが鳴った。 クラスの面々は興味深そうに折紙と士道の方を眺めながらも、自分の席に着いていく。

 

 

 だが、折紙だけはそのまま、士道の顔をジッと見つめてきていた。 と、そこに救いの女神が現れる。

 

 

「はーい、みなさーん。ホームルーム始めますよぉー」 扉を開け、タマちゃん教諭が教室に入ってきたのである。

 

 

「……? と、鳶一さん、何してるんですかぁ?」

 

 

「…………」 折紙は無言のまま珠恵を一瞥すると、士道のネクタイを離して自分の席に戻っていった。

 

 

 とはいえ、そこは士道のすぐ隣。安堵の息も吐けない。「は、はい、皆さん席に着きましたね?」

 

 

 教室の不穏な空気を感じ取ってか、珠恵がやたら元気な声を上げる。

 

 

 次いで、思いだしたかのように手を打ち、うんうんとうなずいた。「そうそう、今日は出席を取る前に嬉しいことにサプラーイズがあるの!──入ってきて!」

 言って、今し方自分が入ってきた扉に向かって声をかける。

 

 

 

「ん」 と──それに応えるようにそんな声がして。

 

 

「な……」

 

「────」

 

『………ふふっ…』

 

 

「──今日から厄介になる、夜刀神十香(やとがみ とおか)だ。皆よろしく頼む」 高校の制服を着た十香が、ものっすごくいい笑顔をしながら入ってきた。 見ているだけで目が痛くなるほどの美しさに、クラス中が騒然とする。

 

 

 

 

 十香はそんな視線など意に介さず、チョークを手に取ると、下手くそな字で黒板に『十香』とだけ書いた。

 

 

 

そして満足げに「うむ」とうなずく。

 

 

 

「な、おまえ、なんで……」

 

 

 

「ぬ?」 言うと、十香が視線を向けてきた。不思議な輝きを放つ、幻想的な光彩。

 

 

 

「おお、シドー! 会いたかったぞ!」

 

 そして大声で士道の名を呼び、ぴょんと飛び跳ねて士道の席の真横──ちょうど、ついさっきまで折紙が立っていた位置までやってくる。

 

 

 

 再び、士道はクラス中から注目を浴びた。 ざわざわ、ざわざわ。あたりから、二人の関係を邪推する声や、先ほどの折紙との関連性を勘ぐるような声が聞こえてくる。

 

 

 

 士道は額に汗を浮ばせて、生徒たちに聞こえないよう小さく声を発した。

 

 

 

「と、十香……? どうしてこんなとこにいるんだ?」

 

 

 

「ん、検査とやらが終わってな。──どうやら、私の身体から、力が九割以上消失してしまったらしい」

 

 

 

 十香も士道の真似をしてか、小さな声で言ってくる。

 

 

 

「まあ──とはいえ怪我の功名だ。私が存在しているだけでは、世界は啼かなくなったのだ。それでまあ、おまえの妹がいろいろしてくれた」

 

 

 

「み、苗字は……?」

 

 

 

「何といったかな、あの眠そうな女がつけてくれた」

 

 

 

「あいつら……っ」 士道は頭をくしゃくしゃとやって机に突っ伏した。

 

 

 

 十香を自由にしてくれたのはありがたいが、他にやりようというものがあるだろう。

 

 

 

 

 

 「ぬ?なんだ、サトーも居るではないか!久しいな!いや、それほどではないか?」

折紙の後の席に居た(いち早く机に突っ伏して本で頭を隠している)佐藤にも簡単に気づき、近付いた。

 

 

 

『おい、やめろ!俺にも絡んでくるんじゃねぇ!』

 

 

 

すると、十香が士道だけでなく佐藤にも同じ様に話しかけたことで、士道に向けられていた猜疑の目が薄くなったような気がした。 

 

 

 

クラスのざわめきが、ほんの少しだけ小さくなる。

 

 

 

 士道は佐藤の存在に感謝して心の中でガッツポーズをした。きっと、ここで居たのが士道だけとかだったら…今頃クラスメイトからとんでもない目で見られていただろう。

 

 

「それにしても、だ…サトー。何か言うことがあるんじゃないのか?」

 

 

『あ?何がだよ』

もう会話するのも嫌そうに佐藤は続けた。

 

 

「先週の話だ!後で合流すると言ったのにデェトの途中で消えたっきり、居なくなったじゃないか!」

 

 

"デート"という単語にクラスメイトたちの目が光る。

 

 

『は?おま、…言い方ってもんがあるだろうがぁっ!!!』

珍しく士道のように絶叫する佐藤。そして…理由を話そうとした。

 

 

が、時すでに遅し。クラスメイト達は、次に佐藤の事でヒソヒソと話し合っていた。

 

 

 

『おいっ、…マジでやめろ…。それ以上喋んな…』

ストレスが最高潮になったように…歯を食いしばりながら、佐藤が言う。

 

 

「何を言うか、約束を破ったのはサトーのほうだろう。結局、何時になったら来てくれるのかと待っていたのに…最後まで来なかった。夜遅くまで待ち続けていたんだぞ!」

 

 

 

『おい、辞めろ。お前が喋るほどに誤解が生まれていく、こういう役回りは士道のはずだろ』

もう、叫ぶのを辞めて淡々と震える声に佐藤はなっていた。

 

 

 

「だから、罰として…1ヶ月間、デェトで寄った、パン屋であの時のようにきな粉パンを奢れ、良いな?」

指をビッと、差しながら告げた。

 

 

『あぁ、もう…分かったから、さっさと…席に着けよ!』

 

 

会話は終わったのに、クラスメイトたち佐藤と転校生の夜刀神十香、何か繋がりがあるのではないかと邪推していた。そして…同じ転校生という共通点に辿り着き、ありもしないことを話し合っていた。

 

 

 

ふと、士道が首を回して佐藤の方を見てみると…

『…………士道、絶対殺す』

 

 

 

あ、ヤバいやつだ。今日は、近付かないでおこう。

 

 

 

 

 

 

そして…十香は佐藤の席から踵を返して黒板前に戻ろうとしていたのだが。

 

その人物に気がついた、士道の隣、佐藤の前の席の人物。

鳶一折紙だった。

 

 

「……ぬ?」

 

 

 

「…………」 十香と折紙。二人の視線が混じり合う。

 

 

 

「ぬ、なぜ貴様がこんなところにいる?」

 

 

 

「それは、私の台詞」

 

 

「また、やるのか?」

 

 

「─────っ」

 

十香の言葉にほんの少しだけ折紙は顔をゆがめた、その言葉にお互いに共通認識でもあるのだろうか。

 

しかし、まさに一触即発。だが ──二人とも、ここで戦闘をやらかそうという気はないようだった。

 

 

 

 それはそうだろう。片や力のほとんどを失った状態、片や装備もなく実力を分からせられた直後の状態なのだ。

 

 

 

「は、はい! おしまい! おしまいにしましょう! ねー! 仲良く!」 岡峰教諭が慌てた様子で二人の間に割って入り、どうにかその場は水入りとなった。

 

 

 

 だが。「じゃあ、夜刀神さんの席は──」 先生が十香の席を探し始めると、「無用だ。──退け」 十香は、士道の背後、佐藤の隣に座っていた生徒に、鋭い眼光を放った。

 

「ひ、ひぃぃぃっ!」 そのプレッシャーに圧され、座っていた女子生徒が椅子から転げ落ちる。

 

 

 

「ん、すまんな」 言うと十香は悠然とそこに腰し掛け、自然と前を見た。

 

 だがそうなると、横からは折紙、背後からは十香(もう一人怨霊みたいやつも居たが、)から視線を向けられることとなり。

 

士道としては居心地悪くて仕方がなかった。

いや、この中で一番居心地が悪いのは…佐藤か?

 

 

 

とまぁ、いろいろと手を回してくれた琴里たちにも感謝して、士道は今日から始まる日常を想像し、ため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ということで十香編終了です。

いやー、長かった。
正直二個に分けようとは思ったんですけど、ノリと勢いで走りきっちゃいました。

今回は佐藤くんの珍しい表情などを見れたのではないででしょうか、
というより今回で情報多くし過ぎた、以後気をつけます。

次回から四糸乃編です。
貯めとかないので今から取り掛かるぞー、
エイエイオー。
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