デート・ア・ライブIF 【エラー】   作:セルヴェイエ

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はい、こんにちは。

今日は日常回のつもりです。
そのせいか少し短いです(今までが長すぎだ、なんだ三万文字って)。

察しの良い人、……いや、殆どの人が気づいていると思いますが佐藤に付いている少女たちは"あの世界の二人"です。

なんで、この組み合わせなの?と、思う人も居るかもしれんが、それはあのチキンが居るからですね。いや、チキンは言い過ぎか。


あの小説を読んだことある人ならわかると思いますが。時間なんて曖昧なものなのなので、例え…現実世界の2020年にあの世界に入ったとしても、実際にその世界に姿を現すのは2050年だった。ということも、あるんですよ…まぁ、例えですけど。だから、彼女がチキンというより、終わるはずの過程が終わらないと現実世界に出てきちゃ駄目なんですよね。


っと…説明が長ったらしくて分かりにくいですね。理解出来ないと思いますのであまり深く考えなくて大丈夫です。


とにかく物語スタートです。










第二章 四糸乃 ナイト
新しい日常【八】


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜❖〜〜〜(三日前)

 

 

 

 

 

 

「──以上です」

 司令たる琴里しか立ち入ることの許されない〈フラクシナス〉特別通信室。

 

 その薄暗い部屋の中心に設えられた円卓につきながら、琴里はそう言って報告を締めくくった。 精霊の攻略・回収に関連する報告を。

 

 円卓には、琴里を含めて五人分の息づかいが感じられた。

 

 だが──実際に〈フラクシナス〉にいるのは琴里のみである。あとのメンバーは、円卓の上に設えられたスピーカーを通してこの会議に参加していた。

 

『……彼の力は本物だったというわけか』

 少しくぐもった声を発したのは、琴里の右手に座ったブサイクな猫のぬいぐるみだった。 まあ、正しくはぬいぐるみのすぐ前にあるスピーカーから声が発せられているのだが、琴里から見ればブサ猫が喋っているようにしか見えない。

 

 先方にはこちらの映像が見えていないはずなので、琴里が勝手に置いたものである。 おかげで〈フラクシナス〉の最奥に位置するこの部屋は、妙にファンシーな空間になっていた。まるで不思議の国のアリスのマッド・ティーパーティーである。

 

「だから言ったじゃないですか。士道ならやれるって」 まぁ、流石に今回はイレギュラーが一つ起こったが、心のなかで呟く。

 

すると…今度は左手に座った泣き顔のネズミが静かに声を発する。『──君の説明だけでは、信憑性が足りなかったのだよ。何しろ"自己蘇生能力"に……精霊の力を吸収する能力というんだ。にわかには信じられん』

 

 琴里は肩をすくめた。 まあ、仕方のないことなのだろう。 様々な観測装置を使って、士道の特異性を確かめるために要した時間は──およそ五年。 とはいえ、その間に〈フラクシナス〉が建造され、クルーが集められたのである。タイミングとしてはちょうどよかったのだろう。

 

『精霊の状態は?』 次いで声を発したのは、ブサ猫の隣に座った、涎をだらっだらに垂らした間抜け極まるデザインのブルドッグだった。

 

「三日前に〈フラクシナス〉に収容後、経過を見ていますが──非常に安定しています。空間震や軋みも観測されません。どの程度力が残っているかは調べてみないとわかりませんが、少なくとも、『いるだけで世界を殺す』とは言い難いレベルかと」

 

 琴里が言うと、円卓についた四匹のぬいぐるみのうち、三匹が一斉に息を詰まらせた。

 

『では、少なくとも現段階では、精霊がこの世界に存在していても問題ないと?』

 

 明らかに色めき立った様子で、ブサ猫が声を上げてくる。琴里は視線に嫌悪感を滲ませながらも口調は穏やかに「ええ」と答えた。

 

「それどころか、自力では隣界に消失(ロスト)することすら困難でしょう」

 

『──では、彼の様態はどうなんだね。それほどまでに精霊の力を吸収したのだ。何か異常は起こっていないのかな?』

 

 今度は、泣きネズミが問うてくる。

「現段階では異常は見られません。士道にも、世界にも」

 

『なんと。世界を殺す災厄だぞ? その力を人間の身に封じて、何も異常が起こらないというのか』バカ犬が言ってくる。

 

「問題が起こらないと踏んだから、彼の使用を承認したのでしょう?」

 

『……彼は一体、何者なのかね。そんな能力……まるで精霊ではないか』

 

 ぬいぐるみの顔だけでなく、本当に、馬鹿だ。琴里は内心で嘆息しながらも律儀に口を開いた。「──蘇生能力については、以前説明したとおりです。吸収能力の方は、現在調査中としか」

 

 琴里が言うと、しばしぬいぐるみたちは黙った。 そして数秒のあと、今まで一言も喋っていなかった、クルミを抱えたリスのぬいぐるみが、静かに声を発した。

 

『──とにかく、ご苦労だったね、五河司令。素晴らしい成果だ。これからも期待しているよ』

 

「はっ」 琴里は初めて姿勢を正し、手を胸元に置いた。

 

 

 

 

シュッ──と、音を立て先ほどまで流れていた四人の息づかいが消失する。

 

 

 

 

琴里はその席から立ち上がり、ドアを開けて出ていく。

 

 

 

「琴里、頼まれていた反転体の件だが……」

琴里を出迎えたのは〈フラクシナス〉の解析官──村雨令音だった。

 

 

そう、反転体。この存在はあまりにも危険極まりないものだった。しかし、あの存在はASTたちも報告をしていないのか、先ほどの会議にてその質問がされることはなかった。

 

 

「終わったよ」

モニターを操作しながら令音はそう言ってきた。

 

 

「あら、もう終わったの?」

正直意外だった。

出自不明の反転体、そんな解析がこんな短期間で終わるとは思わなかったからだ。

 

 

そんな琴里の意図を理解してか、令音は簡素に理由を述べた。「この霊力の波長は、ある精霊が反転したものだとすぐに分かったからね」。

 

 

「え……」

その言葉に琴里は目を見開く、既存の精霊の反転体だと?…確かに、それならばこの短期間で解析できた理由もわかるが。

 

 

と、そこで令音はため息を吐いた。

まるで…そこが問題ではないかのように

 

 

「じゃあ、現界した精霊が何らかの理由で反転化したわけね。」思わず舌打ちする、確かにそれは面倒臭いことこの上なかった。が、しかし……そこで琴里は思い出す。

 

 

もし、精霊が反転化したとしたら。間違いなくASTもとい、私たちが察知は出来るはず、それなのに…私たちが知り得なかった。それはつまり……

 

 

令音は少し唇を噛みながらもそのモニターを見せてきた。

「これが、あの反転体が反転する前に再現してみた霊力値だ」

 

 

モニターを受け取り視界に入れる。

 

 

「は…?」

琴里は目を丸くしてそのディスプレイに映る霊力の波長を見つめる。それは、悪い意味で精霊の中でも有名で、最悪の精霊とも呼ばれる精霊の波長だった。

 

 

十香なんて可愛く思えちゃうぐらいの災厄。

本当に悪意を持って人間を殺害もする、それほどまでに危険な精霊。

 

 

「あり…えない」

心の声が出てしまう。

それぐらいに今は動揺していた……。

 

 

「な、〈ナイトメア〉……?」

そして…、反転体の元の精霊と想定された精霊の識別名を琴里はぼやいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜◆〜〜〜(現在:来禅高校)

 

 

 

 

 

 

 

 

『だりぃ……』

屋上を隔てる施錠された扉に佐藤は寄りかかりながらそう呻いていた。

 

「やー…、その……お疲れ…さま?」 

傍観者に回るのは久しぶりだった、士道は佐藤にそんな言葉をかけた。

 

『……』

 

 

現在は昼休み、ホームルームが始まってから佐藤はクラスの人間に質問倒しにされていた。因みに士道の方には折紙関係の質問しか来なかった。

 

 

佐藤は鬱々とした顔をしてため息を吐いた。

 

本当に士道の巻き添えでこうなっていて、少し可哀想と思えたが、彼の数々の悪行(?)悪戯(?)を考えれば天罰として納得もできた。

 

『──なんで、俺がこんな目に……』

まだ、遠い目をしてそんな事をぼやいていた。

 

 

「別に良いんじゃないか?お前と十香にどんな噂が立つんだよ」軽い気持ちで士道はそんな事を尋ねた。

 

 

 

 

『…─、と』

 

「え?」

よく聞き取れなかった。

 

『恋人だっつってんだろうが!』

 

「えぇ……」

なんで俺キレられたの…。、

 

『なんで最近の学び舎はこんなふうに、色めき立つ奴らが多いんだ? ふざけんなよ』。そう言って次々と士道に愚痴をぶつける。

 

 

「俺にそんな事言われても……」

 

『あぁ!?…お前のせいで、こんな事になってんだぞ!?』

 

「なんで俺のせいなの…」

明らかに士道のせいだけではないはずだ……

約束破ったのは佐藤だし。まぁ、それを言ったらどうなるか分からないので胸の中にしまい込むが。

 

 

『とにかく、だ…。お前は十香のストレス値を下げないようにこれからも気配りしろよ?』

そう言うと、佐藤は扉から身を離し、階段を降りていった。

 

 

取り残された士道は少し間を開けてから佐藤と同じ様に階段を降りていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜◆〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

階段を降りていくと、ちょうどタマちゃん教諭が居た。

あの一件があってからは話しにくい相手だが、聞きたいこともあったので意を決して話しかけた。

 

 

 

「先生!」

そう呼びかけると、廊下の奥に居た珠恵教諭は振り返ってきた。

「あれ〜…五河くんじゃないですか。どうかしたんですかぁ?」

 

 

 

「いや、転校生の事で聞きたいことがあって」

先に用件を言ってあの時の話を掘り返さないようにした。

 

 

「あ〜!十香さんの事ですか、特に私が答えられることは──」

 

 

「いや、そうじゃなくて…」

少し意図が伝わらなかったか、勘違いする珠恵に士道は簡素に聞きたいことを尋ねた。

 

 

「数──ですよ、連続で2回も転校生っておかしくないですか?」

そうだ、佐藤は始業式の時にもう既に転校してきていた。

それなのに十香までこのクラスに転校してくるのは、何か違和感があった。

 

 

 

 

 

「連続ぅ…?五河くん…何言ってるんですかぁ?うちのクラスには──十香ちゃん以外には転校生なんて居ませんよ?」

 

 

 

「ぇ──?」

その意外、というか違和感のありすぎる言葉に、思わずか細い声をあげる。

 

 

「さ、佐藤の事ですよ!始業式の時に転校してきたじゃないですか!」そうだ、あの時は皆転校生だと言って少しは持て囃していた。まぁ、今は別の理由で悪い意味で持て囃されているが。

 

 

 

「佐藤くん…?──別に普通の生徒じゃないですか。」

本当に当たり前かのように、珠恵は逆に士道を不思議な目で見て首を傾げる。

 

 

 

 

「………珠恵先生!こっちです!」

と、奥の一つの部屋の奥から古い機材を持った教師が出てきた。

 

「あ、すいません。先生ってば、用件の途中でした。じゃあ、もう行きますねぇ」そう言うと気まずそうに珠恵はそこに向かって行った。

 

 

 

 

「どう…なんってんだ?」

思わず、誰からも答えの聞けない問いを発する士道であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜◆〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

士道が教室のドアを開け考えながら自分の席へ向かう。

歩いている途中も考えが止まらない。

 

「─……、ドー」

 

──一体、どういう事なのだろう。佐藤は、あの時確かに転校してきた。

それは事実なのだ、事実の…はず、なのに。

これではまるで、士道がおかしな人間のようだ。

頭がぐるぐると思考を巡らせる。

 

けど、いくら考えても士道個人では答えに至らなかった。

 

「…─い、…─ドー…」

 

士道が夢でも見ていたのだろうか。いやしかし、十香と初めて会う日のこと…殿町は佐藤の事を「転校生」と呼んでいた。

つまり、間違ってはいないはずだ。

しかし…なぜ? 記憶から忘れられるわけないし、そもそも教師ならそういう書類なり、なんなり残っているだろし、見れるだろう。

 

だったら……記憶──書類からも消えているということか? 流石にこれはタマちゃんに聞いても答えてくれないだろう。怪しすぎるし、個人情報もある。

 

だったら……どうやって確認すれば良いか。

 

 

「…おい、シドー!」

 

 

「うおッ!!」

唐突に発せられた言葉に士道は飛び上がって変な声を上げた。

視線を上げると、苛立ち気な顔をした少女──十香が腕を組んで、席に座る士道を睨んできていた。 

 

「え、十香?…どうしたんだ?」

 

「どうしたもこうしたもあるか!さっきからずっと話しかけていただろう、無視か!?」机をバンッと手で叩き士道を更に睨みつけてくる。

 

「あ、えっと……そういう事じゃなくて、考え事をしていたんだ」

 

「……ほんとうかぁ?」

訝しげな目を向けていたがふんっとそっぽを向いて

 

「やはり、シドーはだめだ!私のことを無視するなんてな!」

そう言って拗ねる十香。

 

「いや、本当に考え事してたんだよ……」

 

「じゃあ、何を考えていたのだ?!言ってみろ!」

 

「そ、それ…は」

言えない、これは今現在士道しか認知していないし、こんな事言ったら絶対気持ち悪がられる。主にクラスメイトに。佐藤が身を挺して(?)士道に向けられるはずだった猜疑の目を痛み分けしてくれたのだ、こんな事を言って評判を落とすのは絶対だめだ。

 

が、しかし…そんな事なぞ知らない十香は

 

「やはりだ、言えないんだろう!?私を無視していたんだろう!?」

 

「…………」

何も言えずに士道が気まずそうに目を逸らすと、

 

「……ふんっ! せっかく今日の放課後は時間もあったしサトーとシドーと私の三人で一緒にあのパン屋に行こうと思っていたのに。今日はサトーと二人で行く、シドーは抜きだ!」

そう言うとプンスカと怒りながら教室を出ていった。

 

「えぇ……」

あの時、士道が考え事をしてしまっていた時点でこの状況になることは確定していたのか。

 

 

──と、先程まで気が付かなかったが、クラスメイトたちから……主に男子陣からの視線を集めている事に気がついた。

 

やばい。と悟った士道だが、朝とは目の色が違っていたことに気が付いた。

表現しにくいが、その目はまるで憐れなものを慈しむような同情的な目だった。

 

「五河くぅーん!」

そう言ってその中のひとりの殿町が気色の悪い声音でそんな事を言ってきながら、士道の首に腕を回し、頬を指で突いてくる。

 

「あー お前も結局は十香ちゃんに、振られちゃったかー いや〜良かったよー。お前が十香ちゃんとくっついたら、殿町くんお前殺しちゃうぞっ♪」

明らかにその高い声音と合わない物騒すぎることを言ってきた。

 

 

「近いわ!離れろって、」

そう言って殿町の手を振りほどく。

 

「まぁまぁ。聞けよ、マイベストフレンド。いいこと教えてやるからよ──」

そう言ってさして気にもとめずに話を続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜■〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『は?』

佐藤はその場で固まっていた。

 

現在は放課後、罰と称され、佐藤は校門の前で士道と十香を待っていたのだが、十香はそんな佐藤にとんでもないことを言ってきた。

 

 

「む?なんだ、サトー。そんなに驚くことか?」

 

『いや、冗談……だよな?』

 

 

「冗談なわけあるか、ほら…これは元々お前への罰なのだ、さっさと行くぞ。時間も勿体ない。」

そう言って、佐藤のみを連れて十香は歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜■〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「おー! サトー!これは何なのだ!?」

商店街の大通りはいつもより、いや…少なくとも十香と五河士道が歩いていたときよりは賑わっていた。頭上にはでかでかと垂れ幕があった。

 

 

『何かのイベントじゃねぇの?』

まぁ……佐藤には関係ないことだ。

さっさと来いよぉ…五河士道、と思いながら…十香の隣を同じ歩調で歩いていた。

 

「サトー?どうかしたか?」

少し相手にしなかったからだろうか十香がこちらを向いてくる。

 

『ん?いや、なんで士道を待たなかったのか気になってな……』

 

「あぁ、そんなことか。そうだ、サトー…聞いてくれ!シドーのやつ、今日私を無視したんだぞ?」怒りを思い出したかのようにどんどん十香の顔が歪んでいく。

 

 

「三回だ!三回も隣で話しかけたのに、あいつは……あいつは──ッ!」

なんかもう泣き出してしまいそうな顔を作っていた。

 

 

 

『はぁ………』

ため息を吐きながら、

十香を落ち着かせる為に頭にポンッと手を置いてやった。

 

 

 

「──?」

 

 

 

『少し落ち着け』

諭すように穏やかに佐藤は言いながら、軽く頭を撫でてやった。

 

 

 

『士道は……良いやつだ、それはお前も理解してるだろ?』

 

 

「だ、だが。シドーは!」

 

 

 

『お前のことでも考えてたんだろ』

 

 

「わ、私のこと?」

 

 

『あぁ、そうだ……誰しも大切な人を考える時は他の存在なんて気にしなくなる。お前も士道のことを考えているときにクラスメイトに話しかけられても分からないだろ?』

諭しながらも軽く頭を撫で続けた。その所作は……まるで、子どもをあやす父親のようだった。

 

 

 

「むぅ……。い、一応理解した。だが、ふむ…だから、シドーは……私に言えなかったのか」

そうぶつぶつと呟いたあとに満足そうに微笑んだ、なにかに納得したようだ。

 

 

『悩みは終わったか?』

頭から手を話しながら佐藤が問うと。

 

 

「うむ!バッチリだ! 士道も仕方がない奴だな〜」

と、先程までとは打って変わって言った。

 

 

『………』

佐藤は苦笑しつつ、やっぱりあの二人は相思相愛だな。

そんなことを考えた。

 

 

 

が、十香は次に屈託のない笑みでこうも言ってきた。

「だが……サトーのことも考えていたら同じ様になるぞ!」

 

 

 

 

 

 

『…………───………は』

思わず笑ってしまう、別にはにかんだわけでも。十香に釣られて笑みを浮かべたのでもない。

 

こんな事言われる資格もないのに言われる現状を……自分を自嘲するような笑みが溢れたのだ。

 

 

「ぬ?どうかしたか、サトー」

首を傾げて尋ねてくる。

 

『いや、何でもない。』

佐藤がそう言うと。そうか、と十香は話を区切り

 

「じゃあ、デェトを続けるぞ!」

と言って佐藤の腕を掴んで…子どもみたいに大通りの奥を指さしながらあるき出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜■〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「うむ!やはり、ここのパン屋は最高だなッ!」

そう言ってパン屋のイートインスペースで大量のパンを食していた。

 

『腹壊さねぇのか?』

佐藤が尋ねると不思議そうに十香は首を傾げた。

 

「何故腹を壊すのだ?毒でも入っているわけでもないし、このパンは最高に美味いぞ?」

 

そういう事を言っているわけではないんだが。

 

と、

『おい、十香ちょっとこっち向け』

 

「む?どうかした、…か………むぎゅぅ──」

言葉が終わる前に佐藤は紙ナプキンで十香の口元に付いていた、きな粉を拭った。

 

『はぁ……もっと綺麗に食えよ。』

 

「うむ!感謝するぞ!サトー」

 

『はいはい…どういたしまして』

頬杖を付きながら適当に答えた。

 

 

傍から見たら恋人のように見えるかもしれないが、二人の温度差の違いから兄妹に見えなくもなかった。

 

 

 

「サトーは食べないのか?」

ふとした時、十香は佐藤があまり──というか。一口もパンを食していないことに気がついた。

 

『ん、あぁ……気にしなくて良い。好きなだけ食っとけ』

背もたれによりかかりながら腕を組み目を瞑る佐藤は寝ているようにすら思えた。

 

「そ、それでは駄目だ!デェトは、互いに楽しむものなのだ!」

 

『じゃあ、士道と行けば良いだろ。次から俺なんか誘わずにそうしろよ』

淡々と言い放ちながら、目を開けると、気がついた。

 

 

滅茶苦茶泣きそうな顔になる十香の姿に……

 

 

『………』

佐藤は一瞥しながらもまだ渋っていた。

 

「……ん」

泣き出す直前の顔、一個のパンを差し出してきた。

 

『はぁ……分かったよ』

渋々了承するとそのパンにかじりついた。

 

『で、これで良いのか?』

咀嚼して飲み込んだ、後に言う。

 

 

「美味いか!?」

先程の泣き顔が嘘のように──というか本当に嘘じゃないだろうな。

十香は味の感想を尋ねてきた。

 

このパンは……──。

偶然なのか、それとも……何かあるのか、そのパンはカレーパンだった。

 

懐かしい、このパンを……いや、食事を取っただなんていつぶりだろうか。

とにかく感想を言わなければ。

 

『あぁ、美味いよ。心のそこから美味しいと思う』

 

「おー!やはりそうだったか!」

 

『やはり?どういう意味だ……』

 

「ん?いや何、なぜだか知らんがサトーはこれが"合うと思ったのだ"。何故だろうな」

十香が首を傾げながら言うと、

 

 

"「───ッ!」"

佐藤は狼狽するような戦慄するような、そんな顔を十香に向けた。

 

 

「む?そんなにおかしな事を言ったか?」

不思議そうな目で佐藤を見つめる。

 

 

 

『いや、なんでもない。』

そう、佐藤は話を終わらせた。

 

「そうか?なら良いが…」

 

 

 

そして、十香はパン全てを平らげた後。佐藤が会計をしてふたりでまた大通りを歩き始めた。

 

 

 

 

 

因みに、この行為が殆ど「あーん」だったことは二人共理解していなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜■〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なにか違うぞサトー」

ふと、商店街を歩く十香はそんな事を言った。

 

『何か…、ねぇ。具体的になんの話だ』

その問いに十香は腕を組み唸った。

 

「なんと、言ったら良いか。士道と行った時はもっと、ほにゃほにゃした気持ちになったんだ」

これで説明した気になっているのか、うんうんと十香は頷いていた。

 

『じゃあ、士道と行けよ……』

面倒くさそうに佐藤が言うのだが。

 

「いや、違うぞ?!もちろんサトーと、ともに歩くのはとても楽しい。質問にも答えてくれるし、なにか…頼りがいがあるからな。まぁ、シドーは……なんかこう、ぎこちないしな、そこもいいのだが…」そう笑いながら十香が言った。

 

 

と、その時。

──ピーンと閃いたかのように十香が顔を上げた。

「サトー!思いついたぞ!」

 

『嫌な予感しかしないが、一応聞いておく』

 

ふっふっふっ、と意味深に笑った後、満を持して言った。

「手を繋ぐぞサトー!」

 

『はぁ』

そうですかと、冷淡に応える。

 

 

そして、十香の声がバカでかいもんだから自然と佐藤達は周囲からの視線を集めていた、

「ほら、手を握れ…!」

しかし…そんなもの意に介さずに。そう言って十香が手を差し出してくる。

 

 

 

正直、握りたくなかった。

別に、周りの目があるとか、潔癖症だからとか、そういう理由じゃない。

 

本来なら、存在しない自分がここまで十香たちと関係を深めてもいいのかと思ったからだ。信頼されるのは嬉しい、けど……俺は。

 

 

しかし──そんな幻想など壊すように、十香から佐藤の手を握ってきた。

『………!』

 

 

 

「……ふむ。やはり、悪くない」

微笑みながら十香はそんなことを言った。

 

 

『………』

ただ、少し懐かしかった。

似ている、その単語で脳内が埋まる。

 

 

「よし!じゃあ、つぎはあそこだ!」

そう言うと駆け出した。

 

『なっ…ちょ、待てよ!』

佐藤もそれに合わせて駆け出す。

 

 

 

二人共、手は繋いだままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜■〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして……その場所についていた。

 

丁度、夕焼けの入る…高台に位置する公園だった。

柵にまで進み、下を覗くと……天宮市の街並みが絶景として観れた。

 

ここは。モニターで見ていた、確か士道と来ていた場所か。

遠くを見ると宅地開発中の台地も見えた。

 

 

「ここは、私の好きな場の一つだ!」

そう言うと、佐藤にも感想を尋ねた。

 

『あぁ、きれいだな……』

佐藤は珍しく、本当に珍しく、目を細めながら感嘆の声を漏らした。

 

「そうか、それなら良かった……」

 

 

『………』

「………」

そして、十香の返答を皮切りにお互いに無言でその景色を眺めた。

 

 

 

 

「なぁ。サトー」

先に静寂を破ったのは佐藤の声だった。

 

『どうした』

お互いにお互いを見ず、景色を見たまま問答する。

 

 

「私と一番最初にあったときのこと、覚えてるか?」

 

『あぁ。士道をお前らの戦いの余波から守ってたときだな』

佐藤が苦笑しながらそう答えると、一拍を置いてから十香は

 

 

「もっと、もっと、昔に。あったことがないか?」

 

 

そんな…事を告げた。

 

 

 

『………』

 

 

 

「勘違いだと思う。実際に私はお前とあった記憶はあの時が初めてだと語っている。」

 

 

 

 

けど──、と言って続ける。

「私はあったことがないのに、"わたし"はあった事がある。と、思っているのだ……」

 

 

 

『………』

佐藤の無言を察してか、十香は「す、すまん…妙なことを言った」と気まずげに謝罪した。

 

 

 

 

『なぁ、十香』

今度は佐藤が十香を呼んだ。

 

 

 

「……?」

 

 

 

『もし、会っていたら。もしかしたら、それは……前世とかかもな』

少し笑いながら、しかし…寂しさが混じったような笑みだった。

 

 

 

 

 

「サ、トー…?」

言葉を詰まらせながら十香は佐藤を見つめた。

 

 

 

 

『変なことを言ったな』

そう言うと、柵に預けていた体を起こし、

『帰るよ…。お前もさっさと〈フラクシナス〉に帰れ』

 

 

「な、…もうか?」

 

 

『気分が悪い、すまんな。それと……士道に教室で怒鳴ったこと、一応謝っておけよ。』

そう言い残し、十香を置いて佐藤はその公園を去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■■■■■■■■■■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢を見た。夢の内容はとても思えないほどにそれは現実味があった。

 

大切な人が死んだ。

 

助けてくれるべき存在は助けてくれなかった。

 

特別な存在なのに、スポットライトを浴びる人間なのに。

 

自分は特別じゃないとか、そんな事を言った。

 

 

 

 

 

 

君が特別じゃないなら、僕は何だ?

貴方が特別ではないなら、私は何だ?

あいつが特別じゃないなら、俺は何だ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

           何だ?

 

 

 

 

 

               脇役(モブ)か?

 

 

         (あく) か?     

 

                  

 

     味方(みかた)か?

 

                  (てき)か?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あぁ、考えても考えてもわからない。

 

けど、これだけは言える。

 

 

 

 

      僕 私 俺(ぼく わたし おれ)は、主人公(しゅじんこう)にはなれない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜◆〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 









今回は日常回といいつつ士道くんの出番が少なかったですね。
そしてまぁ、みんなが何らかの違和感に気づき始めました。

佐藤くんは主人公にはなれません、どれだけ強くても。
スポットライトを浴びる資格なんてないんですよ。




はい、ということで四糸乃編日常回おしまいです。
佐藤と十香の関係は兄妹に近いですよね、それでは

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