デート・ア・ライブIF 【エラー】   作:セルヴェイエ

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はい、四糸乃編の二話です。

DEMの新キャラ考えてたらいつの間にか休みで笑った。
ここであの二人の名前が出ますよ〜
気がついてる人が多いと思うけど。



何か佐藤の発言が何処ぞの女の子みたいになってきましたよね。何でかなー


では、第二話。お楽しみください


優しい精霊【九】

 

 

 

 

『……おい、五河士道。あいつが来たら即刻土下座をして許しを請えよ』

そんな物騒なことを朝っぱらから言うのは左後ろの席に座る生徒。

佐藤だった……。

 

 

「おいおい……流石に冗談だ、ろ?」

言いながら佐藤の方を見ると、目がマジだった…。

 

 え?俺朝から教室で土下座するの?

なんかもう人間として大切なものがなくなってしまう気がしてならなかった。

 

 

と、そんなことを考えていると教室のドアがガラガラと開いた。

彼女の姿を認識した瞬間、クラスの男子たちの視線がその者に集中する。

 

入ってきたのは─転校初日で「恋人にしたい女の子ランキング」で三位にまで駆け上がった(と、殿町に聞いた)美少女、夜刀神十香だった……。

 

十香はキョロキョロと教室に視線を飛ばし、士道が居ることに気がつくと、トコトコと士道の席にまで歩いてくる。

 

そして………。

 

「シドー すまなかった」

そう言ってなんか見たことある光景のように十香が士道に謝って、頭を下げてきた。

 

 

「な──ッ」

『はぁ……』

 

「「「「…………」」」」

 

隣から佐藤のため息が聞こえてくる…それとついでに周囲のクラスメイトからも殺気が込められた目を向けられる。

 

おかしいな、昨日は仲良く話せてたのに………。

 

って、やばいやばい。

そんな事を考えている暇じゃない。

 

「とっ、十香!俺もごめん!」

 

「なっ……、大丈夫だぞ、シドー。悪いのは私だったのだ! 勘違いをしてすまなかった!」

そう言って更に頭を下げてくる

 

「いやいや、悪いのは無視しちゃった俺だし……」

 

「いやいや、私が悪いんだ。…まさか、士道があんなことを考えてるなんて…」

そう言って何故か頬を赤く染める十香、なぜだろう…すごい勘違いをされてる気がする。

 

 

「え、何の話……」

そして……聞き返す前に十香は佐藤に話し掛けた。

 

 

 

「おー サトー。おはようだ!」

 

 

 

『ん? あぁ、おはよう。』

眠たそうに挨拶しを返す佐藤。こいつ、…絶対俺がやったらキレてくるくせに、自分はやりやがって。

 

 

「なぁなぁ、サトー!」

佐藤の机に手を当ててぴょんぴょん飛び跳ねる十香。

 

 

『あぁ?だから何だよ…』

佐藤はうざったそうに頬杖をつきながらため息を吐く。

 

 

「今週の土曜は暇か?!」

 

『…別に用事はないが…』

その言葉に「おおー!」と、テンションを上げる十香。

 

 

そして……士道方に振り返ると

「じゃあ、士道も一緒にデェトに行かないか!?」

なんかもうテンションマックスだった。良いことでもあったのだろうか。

 

その言葉に顔をしかめたりする男子達もいるのだが、それよりも気になることがあった。そう、この会話に一番敏感な方がいるのだ。

 

だがしかし、まだその御方は居なかった。

 

はぁ……と、士道が心の中で安堵していると。

 

 

 

「ぴゃうッ───!?」

 

何か……途轍もない殺気が感じられた。

例えるなら、アイスピックで背中を刺された感じだろうか。 刺された経験はないけど。

 

 

その殺気の元凶は今しがた開いた教室のドアからこちらに歩いてきた。

 

 

「夜刀神十香」

そう冷淡に言い放ち、十香の元に来たのは─鳶一折紙だった。 先週までは命を取り合う関係だった2人。

 

あまり……というか、絶対に喧嘩させたくないんだが。

 

 

「ぬ?なんだ、貴様か…」

 

「なぜ、士道もデートに誘うの?」

いつも通り無表情のまま話を始める。

 

「何故とは何だ。 別に誘うのは私の勝手だろう」

 

「勝手等ではない、貴方は佐藤とでも行ってきたら良い」

 

 

『それは、俺が断固拒否なんだが?』

そうして…佐藤も呆れながら言うのだが、反応されることはなかった。

 

 

十香と折紙の口論は目に見えてヒートアップしていた。

状況が特殊過ぎて、クラスメイトも見入っていた。

 

いや、見入るなよ。

 

 

 

「とにかく、…士道は諦めて。貴方のような女とデートには士道は行かない。」

 

「……ぐぬぬ…。シドー…!そうなのか!?」

 

 

 

「え?」

完全に蚊帳の外だったのに突然話を振られたせいで間の抜けた声を出してしまう。

 

 

「シドー…私とデェト、行ってくれるか?」

 

「士道、きっぱりと言って。」

 

2人がズイッと顔を近づけて言ってくる。

どうしよう…どちらを取っても殺される未来しか見えない。

 

 

か細い糸のような助け舟の佐藤を見ると、「十香とデート行くって言わなきゃ殺す」 みたいな目で見てきていた。

 

 

「お、俺…は…」

どうする。この選択はどちらも取るなんて出来ない。

 

 

 

「すいません、どっちも無理ですッ──!!!」

生存本能のままに士道は立ち上がり、途轍もない速度で教室を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜◆〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『なーにやってんだお前。』

そうして、先ほどの話が有耶無耶になった昼休み。

士道は、屋上前で佐藤から説教をされていた。

 

 

「何だよ、逆にあの状況であの答え以外の選択が…」

 

『違ぁう。なんで、十香より早く謝罪をしなかった?』士道の予想とは違う事を腕組みしながら問うてくる。

 

 

『……はぁ……。まぁ良い。』

士道に心底呆れたように息を吐いた佐藤は続けて言ってくる、

『お前、十香が誘ったデート。行くよな?』

半目で、背筋が凍るぐらいの気迫を見せながら。

 

 

 

「え、えと…それ、は…」

言葉を詰まらせながら目を逸らすと、その様子を見た佐藤は肩を落として更にため息を吐いた。

 

 

「な、何だよ……。仕方ないだろ……」

 

『いーや、仕方なくないな。精霊に好意を向けられてるんだ。お前がちゃんと応えてやらないと街がどうなるか分からんぞ?いくら、封印状態とはいえ精霊であることには変わらないんだから。』

 

 

「いや、お前も結構好かれてはいるだろ」

脅すかのように淡々と告げる佐藤に思わず士道はそんな言葉をぼやいてしまう。

 

 

 

『あのなぁ…俺はお前の秘密を知る者として学校の時にサポートする役割だと思っているし、それだけだ。あの時お前についていったのは、お前から頼まれたからと、俺も精霊を知りたかったからだ。わざわざ俺が精霊に過剰に干渉する意味が無い』

 

長々と説明してくる佐藤に…士道は顔をしかめた。

 

 

 

 

『あ? 何だよ…』

 

 

 

「いや、…好意を待たれてる事にはツッコまないんだなって…」

 

 

「先に役割を述べただけだ。別に俺は、アイツに好かれてる自覚はないし、好かれているわけもない。」何故かほんの少しだけまくし立てるように言ってくる……

 

 

「そ、そうかぁ?」

 

 

『当たり前だ。精霊から好かれるのは………お前ぐらいで十分だよ』そして……佐藤は士道を通り過ぎると、そのまま階段を降りていった。

 

 

が、動きを止め

『あ…それと、今日は話したい事があるから一緒に帰るぞ』階段を降りきる前にそう言い残すと完全に去っていった。

 

 

 

 

 

「何なんだよ…まったく。」

というか、話し合いにこの場所多用しすぎじゃないか? この場所以外の適所をアイツは知らないのだろうか。

 

 

 

それにしても、話すことがある…か。

また説教なら嫌だなー。

 

 

そんな事を考えながら士道は何時も通り教室に向かって歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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『……クソが』

佐藤はその場所で誰かに向かって毒づいていた。

 

 

「……おっと、どうかしたのかい」

そうして…マカロンを頬張りながら言ってくるのは、現在進行系で、ため息の元凶である。

 

 

『お前だよ、お前のせいだよ』

 

 

「え、私のせいなのかい?」

それが意外だったのか、ぎょっとしてマカロンを頬張る手を止めるオッドアイの少女。

 

 

『当たり前だろうが、何お前あの時でてきちゃってんの? ちゃっかり折紙達の前にも現れてるし。後処理面倒くさかったんだぞ!?』本当に面倒くさかった、こいつを観測した人間を全員漏れなく処理するのは。

 

 

「別に良いじゃないか、しかも前にその話は終わった筈だろう?君の言う"正史"から大きく外れたわけじゃないだし」

マカロンを掴む手を再開しながら呑気にそんな事を言ってくる。

 

 

『だーかーらー! 聞けって言ってんだろ!』

少女からマカロンを取り上げ、睨みつける。

 

何故か、あちらの方がキレてきそうな形相だったが、無視をした。

 

 

 

 

『多分、〈フラクシナス〉の一部の人間にはバレてる。お前が反転体という事と、その元が〈ナイトメア〉という事も』

 

 

その言葉に「え?」と言って新しく取り出したマカロンを机にポロッと落とす少女。

 

 

「……ほんとうか?」

 

 

『大マジだよ、本当に……面倒臭い爪痕を遺しやがって。お前なぁ、…行動するなら行動するで…通信係ぐらいには話しかけろよ!』

 

 

「……つまり?私は叱られていると言うことか?」

やっと、現実を理解出来たのか目をパチパチとさせながら言葉を零す。

 

 

 

『そうだよ、説教をしてるんだよ。』

そう言って…指をピンと、少女に突き立てる。

 

 

 

『………俺がなんで、また…この話をしてるのか理解しろよ。確かに、お前が前言った言葉も一理ある。けど、その面倒くささの方が大きいんだよ。』

 

ため息を吐く…コイツもコイツで、自分にできる事をしたに過ぎないのだ。あまり責め過ぎるのも…違うし。 

 

 

「………私は…失敗したのか…?」

まるで、人を殺めてしまったかの衝撃のように…自分の手のひらを見つめる少女。

 

 

『あ〜…まぁ、失敗っていうには───』

 

 

「うぅ……うぅ……ぐすっ…」

佐藤がお気楽そうに言おうとしたが、その前に泣き出しそうな顔と声になる少女。

 

 

『ちょ、おま……それは卑怯だろ!』

 

 

 

「……う、うぇ……ん……」

 

 

コイツ、俺の弱点を知った上でわざとやってきてやがる。正直……俺もウソ泣きなのか分からん。

 

 

 

『チッ………、あぁ、もう分かったよ。はいはい…良い子ですよ〜』

 

ため息を吐きながら少女の頭を撫でる。

 

 

「ふふっ……やはり悪くない」

満足そうに微笑む少女。

 

 

なんかもう再放送みたいだった。

 

 

『──っで、そんな茶番は置いておいて。だ、』

そうして、本題に入る佐藤。少女の方はと言うと「む、もう入るのか?」と、少し不服そうに唇を尖らせた。

 

 

 

『………』

 

 

「………」

 

 

 

『……お前なぁ、そのままで移行するの辞めてもらえるか?』了承した雰囲気なのに少女は佐藤の手首を掴み、強引になでなでを続行させていた。

 

 

「名前」

 

『…は?』

 

「さっきから…というか、最近名前で呼んでない。だから、辞めない」頬を膨らませてそんな事を言ってくる。

 

 

駄々っ子かよ……。

 

額に手を当てながら盛大に呆れる、ある程度副人格のせいだとは言え…元のコイツと変わりすぎだろ。というかコイツ本当に将軍(ジェネラル)か? 色んな意味で心配だし、分かんなくなって来たんだけど。

 

 

 

 

『はいはい…白の女王(クイーン)。そこどいて座れ』

 

そうして、本題を入れると思ったのだが。

 

 

「駄目ですよ、それ名前じゃありませんし」

そうして…声が変わった。

 

 

『何で、出て来てんだよ』

 

「別に良いじゃありませんか。ほら、早く呼んでください」

そうして、名前を呼べと軽い脅迫をしてくる。

 

 

『はぁ……、"紗和"。そこどいてくれ』

ようやく名前を呼んだら、……

 

 

「う〜ん……フルネームでお願いします!」

屈託の無い笑みを浮かべて言ってくる。

 

 

その顔でやられると怒る奴いるから辞めて欲しい。

もう良いや、この時点ではっきりしたし。開き直っても大丈夫だろ。

 

 

『……山打紗和さーん。そこで居てくださいね…』

やっと、手を離した紗和はその感触を楽しむみたいに自分の頭にポンポンと手を乗っけていた。

 

 

「ふふっ…一歩前進…」

何か呟いた後。

 

 

「では、本題に入ってもらおうか」

何食わぬ顔で足を組み直す紗和。お前のせいで大渋滞してんだけどな?

 

怒りたい気持ちを抑えて話を始める。

 

 

 

 

 

『……未来をそのままで過去を変える方法はあると思うか?』その話題を佐藤は紗和にぶつけた。

 

 

「…………」

その言葉の意味が分からなかったが、今は質問の前に考え始めた。

 

 

 

「う〜ん……。かなり難しいと思うぞ?」

悩んだ末、そんな言葉を言ってくる。

 

 

『わかってる。だから方法が無いかと聞いてるんだ、お前でもわからないか?』佐藤がそう言うと、何故か紗和は机に手を当てて立ち上がり、「頼られてる?…私今」…何かブツブツと呟いた後に佐藤と目を合わせてくる。

 

 

 

「佐藤、少し待ってくれ。すぐに答えを出そう」

顎に手を当て構い、ブツブツと呟き続ける紗和。

 

 

なぜだろう、こんなにも真剣な顔を見たのは久しぶりなので正直……頼りがいがある。

 

 

 

 

 

「よし、佐藤……答えが出たぞ」

数分後。顔を上げて紗和がこちらを向いた

 

『おぉ、もうか? 早いな』

さて、と…どんな答えを出して──

 

 

 

 

 

 

「分からない!」

そう言って…ハハハッと笑い始める紗和。そうだろうな、なんとなくそんなオチになるだろうと思ってたよ。

 

 

 

「クイーンさーん。佐藤さーん、お茶持ってきましたよ…って。何してるんですか?」

 

そこで"緋衣響"がカップを持って、ドアを開けたまま質問してくる。

 

 

「あぁ、響か。少し難航していてな」

そうして、響を見ないまま、横向きに短銃を向け、弾を放った。

 

 

 

銃声が木霊した瞬間。

 

 

「…ぃ──?!」

そうして、……響はそんな声を上げながら尻餅をつき、床にへたりこんでしまう。

 

 

 

 

と、そこで気付いたのか

「あ、か…カップ!」

と言ってすぐに立ち上がる。

 

 

 

 

「…って…あれ?」

自分の手元にカップが無いと理解したのだろう。

素っ頓狂な声を上げる。

 

 

 

 

「響、紅茶感謝するよ」

紅茶を啜りながらそんな事を言う紗和。全く……ややこしい事をする奴である。

 

 

『紗和……蒼みたいや奴ならまだしも。響みたいな奴に銃口向けたらそうなるだろ。脅かすのも辞めてやれよ』

 

 

「なんか、しれっとディスられました私!?」

 

 

「すまないね。天秤の弾(モズニーム)の試運転だ。何分……最近は戦闘などしていないし、新しい使い方もやっておきたかったんだ。」

 

 

微笑を浮かべながら、反省の色など欠片もなくそんな事を言う…。

 

 

 

『本音は?』

 

 

 

「いやー…こうやって取ったらカッコいいかな…って」

 

 

 

『馬鹿かよ』

うっとりと自分の銃を見る紗和に思わず佐藤はツッコんだ。

 

 

 

「えぇ、私…そんな理由でやられたんですか? 正直寿命縮んだんですけど」

 

 

 

うん、お前に関しては何時も通り可哀想だ。

 

 

 

「何か失礼なこと考えませんでした?」

 

 

 

『いや特に何も』 

 

 

 

 

隣界──第三領域は何時も通り平和である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほえー…そういう事で悩んでたんですか。」

ちゃっかり話し合いに参加した響が紅茶(俺の)を飲みながら言ってくる。

 

 

『んまぁ、そうだな…どんなに悩んでも出てこないんだ。』方法はあるのだろうか、無いにも等しいかもしれない。

 

 

「でも、あると思いますよ? 実際に私…思いつきましたし。」

 

 

 

 

 

『え……』

「なっ…」

響が告げた言葉に両者揃って驚愕の声を上げる。

 

 

 

 

 

「未来を同じまま、…つまり展開をそのままで実質的に過去を変えるんですよね?」珍しく真面目な顔で確認を取ってくる響に戸惑いながらも頷き返す。

 

 

 

「じゃあ、正史に繫がる行動をその人の代わりに全部やるんですよ!」手を広げ、大仰に言ってくる。…

 

 

「はぁ……? そんな事をしても、意味など無いだろ、ただ実行する人間が変わるだけなのだし。というかそれでも正史には行かないと思うが。」呆れながらボロボロの響の持論を壊す紗和。

 

 

「い、いや…そうですけど、そこは上手く──」

響は苦笑いを浮かべながらなだめていたが、

 

 

 

『それだ……』

 

 

「は?」

「え?」

 

 

 

『それだよ、響。…同じ行動をすれば良いだけだったんだ。良くやった、響!……大手柄だ。』響の両肩に手を置いて珍しく興奮していた。

 

 

「えっとぉ…、協力できたなら…良かったですけど。」

照れくさそうに頬をかきながら…目を逸らす。

 

 

 

そうだ、何故こんな簡単な事にも気付かなかったんだろう。これで、パズルのピースが全て揃った。

 

 

………未来を…変えられる。

 

 

『よし、ありがとな響!じゃあ、もう行くよ!』

そうして…姿を消す佐藤。

 

 

 

 

残った紗和と響。

 

響は佐藤が去った後も…余韻に浸るみたいに言葉を思い出して…頬を緩ませていた。 

 

が、突如、背後から途轍もない寒気が襲った。

 

 

紗和が「………ユルサナイ」と、何処ぞの怨霊のように響を怨嗟と嫉妬の目で見つめていた。

 

 

「すすす、スイマセンしたー!」

響は顔を青ざめ即座にその部屋から飛び出し逃げ出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜◆〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『マジで何やってんの?』

呆れてため息をつきながら士道に向かって佐藤は言葉を吐いていてきていた。

 

 

「いや…仕方ないだろ…」

ここは保健室のベッド、とある二人は立ち入り禁止という事になり何故か佐藤が士道の元に来ていた。

 

 

まぁ、一人侵入を試みる者が居たが……。

 

 

 

『何だよ、…二人のクッキー食べたら気絶させられるって。 どんな略称の仕方したらそんな言葉になるんだよ』

 

 

「俺も…訳わからん」

自分で説明して自分で混乱している。

 

 

『……とにかく、…だ。さっさと帰るぞ、寝てる暇なんてお前には無い』目を細めながら続けて言ってくる。

 

 

「えぇ…、俺今起きたばっかなんだけど」

明らかに無理を言ってくる佐藤に士道はそう言った。

 

 

『鞄なら持って来てるぞ、ほら…さっさとベッドから降りろよ』

 

「……はいはい」

もう何を言っても無駄だと理解した士道は抵抗などせずに佐藤から腕を掴まれ、士道は引き摺られるように下駄箱まで連れて行かれることになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、話って何なんだよ」

そうして、帰路を渡りながら隣にいる佐藤にそんな質問をした。

 

 

『……お前は十香を救えてどう思った?』

 

 

「え?」

唐突にそんな脈略も無い話題を振られて思わず首を傾げて聞き返してしまう。

 

 

『いや、何でも無い。忘れろ』

 

 

「んな無茶な」

どういう意味で言われたんだよ今の言葉。

 

 

「あ、そうだ……佐藤。」

思い出したように士道が語り掛ける。

 

 

 

『……? 何だよ…』

 

 

 

「いや、前々から気になってたんだけどさ。お前って転校してきたよな?」その、一番聞きたいと思っていた事を。皆の前では聞けなかったことを、士道は尋ねた。

 

 

 

『………。なんの事だ?』

数秒後、佐藤は何も表情を変えないままそう言ってきた。

 

 

 

「え?いや…、だって…」

そうして、説明しようとする。

 

説明しようとした…のに、"分からない"。

何故、自分は今…そんな質問をしたのだろう。

 

霞がかったように思い出せない。

 

 

「あ、れ…?」

 

 

 

『……はぁ…。本当に何言ってんだか、』

佐藤は士道の様子を見てため息を吐くと『疲れてんじゃないのか? 最近はあいつらの相手をしてたしな』そんな事を言った。

 

 

 

 

 

「そ、…そう…だな」

朧げに頷く、…そうだ…疲れているんだ。

毎日毎日、折紙や十香に絡まれたりして。

 

今や鏡で見るたびに老けている気がするし。

 

 

 

 

 

ぽつ──

 

 

 

突然、首筋に冷たいものが垂れてきたような気がした。

 

「……うわ」 うめくように言って、顔をしかめる。 いつの間にやら、空がどんよりと 曇っていたのだ。

 

「雨かよ。おいおい、天気予報では晴れって言ってたじゃねぇか」 最近的中率の低い気象予報士に恨み言を呟く。

 

『雨か……』

二人とも憂鬱そうな顔になった。

 

 

と、まるでそれを見計らったかのようなタイミングで、ぽつ、ぽつ、と、 大粒の 雫がアスファルトの道に染みを作り始めた。

 

「っとと……」 慌てて、持っていた 鞄を頭の上にやり、小走りで家へと急ぐ。 しかし、雨はそんな士道をあざ笑うかのように、みるみるうちに激しさを増していった。

 

「おいおい、マジかよ……」 制服に染みていく冷たい 感触に、士道はうんざりと 眉をひそめた。

 

まあ、両親が出張中で家事を取り仕切っている士道としては、服が張り付いて気持ち悪いなあとか、 風邪を引いたら 嫌だなあとかいう思考より先に、部屋干しで明日までにブレザーが 乾くかなあという、少々所帯じみた心配が先にきたのだが。

 

できるだけ服が濡れないよう、 無駄な努力をしながら、自宅への道を走る。

 

 

 

と、そこで士道は気が付いた。

「あれ、お前の家って何処なの?」

 

そうだ、学校からは話している間に結構離れた、士道はこっち側なのだが…佐藤も全く同じ帰路を渡っていたのだ。

 

 

『あ? お前こそ何処だよ、全く同じ道じゃねぇか』

佐藤も士道と同じように鞄を頭に当てながら言ってくる。

 

 

「いや、俺はこっち───っ…て、は?」

丁字路を右に曲がった所で士道はそんな、声を出して立ち止まってしまう。

 

 

『……?』

佐藤はそんな士道を怪訝そうな目で見た後、士道の目線の先を見て同じく目を細めた。

 

 

 

 

「女の…子──?」

 

 

そう、それは、少女だった。 可愛らしい意匠の施された外套に身を包んだ、小柄な影。

 

顔は窺い知れない。というのも、ウサギの耳のような飾りの付いた大きなフードが、彼女の頭をすっぽりと覆い隠していたからだった。

 

そしてもっとも特徴的なのは、その左手だ。 いやにコミカルなウサギ形の人形が、そこに装着されていたのである。

 

そんな少女が、ひとけのなくなった道路で、楽しげにぴょんぴょ んと跳ね回っていた。

 

「なんだ……?」 士道は、眉をひそめてその少女を凝視した。 頭の中を、疑問符が通り抜ける。

 

なぜあの女の子が傘も差さず、雨の中飛び跳ねているのか、という疑問ではない。

 

 

── なぜ 。 なぜ、自分はあの女の子に、目を奪われたのだろう。

 

 

 

 

『何だアイツ…こんな所で何やってんだよ』

隣に居る佐藤もそんな事をぼやく。

 

 

しかし、士道は心の中で自問を繰り返していた。

 

確かに目を引く格好ではある。 だが── 違う。そんなことではない。上手く言語化できないのだが……士道の脳内は違和感で溢れていた。

 

不思議な感覚。前にも、しかもつい最近どこかで感じたことがある気がしてならない。

 

「…………」 もう雨の冷たさも、濡れた服の不快感も気にならなくなっていた。 ただ、冷たい雨だれのカーテンの中、軽やかに踊少女に、目を釘付けにされ──

 

 

──ずるべったぁぁぁぁぁぁぁぁぁんッ!

 

 

 

「は……?」 呆然と目を見開く。 ……女の子が、コケた。 顔面と腹を盛大に地面に打ち当て、あたりに水しぶきが散る。ついでに彼女の左手からパペットがすっぽ抜け、前方に飛んでいった。

 

そして、うつぶせになったまま、動かなくなる。

 

「……お、おいッ!」 士道は慌てて駆け寄ると、その小さな身体を 抱きかかえるように 仰向けにしてやった。

 

「だ、大丈夫か、おい」 そこで初めて、少女の 貌を見取ることができた。 年の 頃は士道の妹・ 琴里と同じくらいだろうか。ふわふわの髪は海のような青。 柔かそうな唇は桜色。まるでフランス人形のように綺麗な少女だった。

 

「……!」

 

と、そこで少女が目を開いた。長い睫毛に飾られた、 蒼玉(サファイア)のような 瞳が 露わになる。

 

「ああ……よかった。──怪我はないか?」 士道が言うと、少女は顔を真っ青に染めて目の焦点をぐらぐら揺らし、士道の手から逃れるようにぴょんと跳び上がった。 そして少し距離を取ってから、全身を小刻みにカタカタと震わせ、士道を怖がるような視線を送ってくる。

 

「……ええと」 まあ、助け起こすためとはいえ、急に身体に触れてしまったのは軽率だったかもしれないが……それでも少しショックである。

 

 

「そ、そのだな。俺は──」

 

 

「……! こ、ない、で……ください……っ」

 

「え?」 士道が足を前に踏み出すと、少女が怯えた様子でそう言った。

 

「いたく、しないで……ください……」 続けて、少女はそんな言葉を吐いてくる。

 

士道が自分に危害を加えるように見えるのだろうか、その様は、まるで 震える小動物のようだった。

 

 

『お前何かやったの?』

追いついてきた佐藤も隣で訝しげな目を向けてくる

 

 

 

『……おい、お前。怪我とか───』

 

 

「こな…いで、…ください……っ」

佐藤がそう言いながら近付こうとすると、自分の腕で顔を埋めて、防御体制のようなものを作っていた。

 

 

『………』表情は変わっていなかったのだが、何故だろう。先ほどの士道みたいに、ショックを受けている気がした。

 

 

 

「ええと……」 と、対応に困った士道は、そこで地面に落ちていたパペットに気がついた。

 

 

先ほど少女の手から抜けてしまったものだろう。ゆっくりと 腰を折ってそれを拾い上げ、少女に示してやる。

 

 

「これ……君のか?」

 

 

「……!」 すると少女は目を大きく見開き、士道の方に駆け寄ってこよう──としたところで、足を止めた。

 

パペットは取り返したいのだけれど、士道に近づくのは怖い、みたいな顔をしながら、じりじりと間合いを 計っている。

 

士道はそんな少女の様子に苦笑すると、パペットを持った手を少女に突き出す格好で、ゆっくりと距離を詰めていった。

 

 

「……っ!」

 

少女がビクッと 肩を揺らすが──士道の意図に気づいたのだろう、あちらも ゆっくりとすり足で近づいてきた。

 

 

そして、士道の手からパペットを奪い取るなり、それを左手に装着する。

 

すると突然少女が、パペットの口をパクパクと動かし始めた。 『やっはー、悪いねおにーさん。たーすかったよー』

 

 

腹話術だろうか、ウサギが妙に甲高い声を発してくる。 首を 傾 かし げ、訝しげに少女の顔を見やるが……まるで士道と少女の間を遮るように、ウサギのパペットが言葉を続けてきた。

 

 

『──ぅんでさー、起こしたときに、よしのんのいろんなトコ 触ってくれちゃったみたいだけど、どーだったん? 正直、どーだったん?』

 

 

「は、はぁ……っ?」 パペットは笑いを表現するようにカラカラと身体を揺らした。

 

『またまたぁー、とぼけちゃってこのラッキースケベぇ。……まぁ、一応は助け起こしてくれたわけだし、特別にサービスしといてア・ゲ・ルんっ』

 

 

「……あ、ああ、そう」 苦笑しながら、パペットが言ってくるのに返す。

 

 

『ぅんじゃね。ありがとさん』 と、パペットがそう言うと同時、少女が踵を返して走っていってしまった。

 

 

「あ──おいっ」 士道が声をかけるも、少女は反応を示さない。 そのまま曲がり角を曲がり、すぐに姿が見えなくなっ てしまう。 「何だったんだ……ありゃあ」奇妙な少女の後ろ姿を呆然と見送ってから数秒。

 

 

「なぁ、佐藤…どう思っ───」

隣に居る佐藤にそう語り掛けようとしたのだが、

 

 

『………きっつ…』

そう一言つぶやいていた。

何がキツかったのかは聞かないでおいた

 

 

「えぇと…」

その場に立ち 尽くした士道は、頬をかきながらそんな言葉を発した。

 

 

「……あ」 そこで、気づく。気づかなかったが──士道と佐藤はびしょ濡れになっていたのだ。しかも膝を地面に着けたもんだからズボンまでビショビショだった。

 

ため息を吐き、未だ固まる佐藤を見ると、

 

 

 

『……はは……ははは』

 

 

怖い怖い、目が笑ってないよ。

佐藤もこんな状態なのでどうしようかと思っていたのだが。

 

 

 

『……あ、びしょ濡れじゃん』

そこで気が付いたのか佐藤は自分の身体を見ながらそう言葉を零した。

 

 

「あー…佐藤。俺の家すぐ近くなんだが、…服とか拭いていくか?」佐藤の家が何処なのかは知らないが、このままコイツを放っておくと明日風邪で休みそうだと思ったからだ。

 

 

『……別に良いさ……。このまま一人で帰るよ……』

そう言って…何故か今まで来た真反対に歩こうとする。

 

 

「ちょい待てお前」

思わず士道は佐藤の肩を掴んで逃げられないようにする。なんでコイツ真反対歩こうとしてんだ。

 

 

 

『あ? 何だよ、…早く帰りたいんだが』

何故か士道が悪いみたいな顔をしてくる佐藤。

 

 

「………もう良い、早く来い」

 

 

『…………』

 

 

 

コイツ、どんだけショックだったんだよ。

あまりにも力の消えた佐藤の肩を掴むと、そのまま士道は引き摺って家まで連れて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜◆〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして、歩くこと数分。

 

 

「……ん?」 自宅の前まで辿り着き、 玄関に鍵を差し込んだ士道は、小さく眉をひそめた。

 

 

『どうかしたかー?』

渋々付いてきた佐藤がドアノブを見つめてくる。

 

 

「あぁ、いや…」

そのままドアノブを握り、そのまま引いてみる。

 

 

予想通り、出かけに鍵を掛けていたはずの扉が、何の 抵抗もなく開いた。

 

 

 ──琴里のやつ、ようやく帰ってきやがったのか。

 

 

ふうと息を吐いてから、士道は微かに表情を硬くした。

 

 

 

 

『…………』

佐藤が『なんでコイツ開けたのに入らせねぇんだよ』 という目で見ていたが士道は気付かない。

 

 

 

士道の妹── 五河琴里。

 

 

近所の中学校に通う、一三歳の中学二年生。 そしてそれと同時に、 精霊を平和的手段によって無力化しようとする組織・〈ラタトスク機関〉の司令官でもある。

 

 

十香という精霊を保護した事後処理に追われ、先月から一度も家に帰ってきていない妹の顔を思い浮かべて、士道は「ったく」と嘆息した。 十香の件で忙しいのはわかるが、無断外泊は看過できない。

 

 

 

一応学校には行っているようだったが……ここはお兄ちゃんとして一言いわねばならないだろう。

 

 

それに──、 士道は、ごくりと唾液を飲み込んだ。 士道には、琴里に訊かねばならないことが山ほどあったのだ。 ひと月前、士道が体験した、およそ現実とは思えない数々の事象。琴里は、それに深く関わっていた。

 

 

 

「…………」 ただ妹と顔を合わせるだけだというのに、やたら 動悸が激しくなる。

 

 

 

『なぁ、早く入らせろよ』

 

 

 

「あ、悪い──忘れてた」

その言葉でようやく佐藤の存在を思い出した士道はドアを開けて佐藤を迎え入れた。

 

 

 

『お邪魔、します…?』

 

 

「──ただいま」

 

 

雨でぐっしょりと濡れた靴と靴下を脱ぎ、ズボンの裾を 捲り上げてから、フローリングの床にペタペタと足跡を残していく。

 

 

 

「あぁ、佐藤…お風呂場はそこのドア──」

言おうとしたが佐藤は何故か立ち止まり、進まない。

 

 

と、廊下の先から、テレビの音が漏れ聞こえてきた。きっと、琴里がリビングにいるのだろう。

 

 

「あー…大丈夫だぞ? 開けたら琴里が居るなんて無いから」きっとそこが気になって歩を止めたのだろう。結構礼儀の良い佐藤にそんな事を言ったら。

 

 

『じゃあ、お前から先に行け…』士道の方を一切見ないまま、そんな事を言ってきた。

 

 

 

「……?」士道は疑問に思いながらも爪先の向きを 風呂場の方に変えた。

 

 

気にすることなんて無いのに…

そう思いながらも士道は片手に鞄と靴下を持ちながら、 脱衣所の扉を慣れた調子で開けた。

 

 

と。 「────ッ!?」瞬間、士道は身を凍らせた。

 

 

 

──脱衣所に、ここにいるはずのない少女の姿があったのである。 背を覆い隠す長い夜色の髪に、水晶の如き瞳。

 

 

形容の頭に「絶世の」を一〇付けようとも、その美しさの一割も表しきれないほどの、圧倒的な存在感を放つ美少女。

 

 

そんな少女は、士道の記憶の中に一人しかいなかった。世界を殺す災厄・精霊。

 

──そして、都立来禅高校二年四組出席番号三五番。 夜刀神十香が、そこにいた。

 

 

 

──その身に、一糸すら 纏わぬ姿で。

 

 

「と、十香……?」 呆然と、呟く。

 

 芸術的とさえいえる美しい肢体が、一瞬のうちに士道の網膜を、視神経を、脳細胞を、振動、発熱、爆裂させる。

 

 手の平に収まるくらいの乳房に、きゅっと締まったウエスト、柔らかそうな臀部。

 

世にいる少女たちが、嫉妬とか羨望を通り越こして崇敬の念さえ持ってしまいそうな、魅力的神秘的な裸体だった。

 

 

「……ッ!?」 そこでようやく、十香が肩をビクッと震わせ、顔をこちらに向けてくる。「な……ッ、し、シドー!?」

 

 

「! あ、や、ち、違うんだ……! これは──」

 

 何が違うのかわからないが、士道の口は無意識にそんな言葉を発していた。

 

「いッ、いいから出ていけ……っ!」

 

「ぐぇふッ……!?」 士道は、見事過ぎる右ストレートを鳩尾に食らい、そのまま後方によろめいて、壁に背を、床に尻を預けてへたり込んだ。

 

 間髪入れず、びしゃん! と、脱衣所の扉が閉められる。

 

「──けほッ、けほッ……あ、あんにゃろ、本気で殴りやがって……」 咳込みながらそう言ったのち、脳内で少し訂正した。十香が本気で殴っていたら、士道の身体は収納に便利な上下脱着式になっている。

 

 

『な? だから言ったろ?』

この光景を見ないようにか、目を瞑っていた佐藤が微笑を浮かべながら言ってくる。

 

 

「あぁ、確認ぐらいすればよかったよ……」

士道も佐藤の危機察知能力くらいは身につけたいものである。

 

と、そんな話をしていると。段々と鳩尾の痛みと、脳内と網膜を侵食していた肌色の衝撃が薄れていき──どうにか心臓が落ち着きを取り戻す。

 

 

 と、脱衣所の扉が少しだけ開かれ、頬を真っ赤にした十香が顔を覗かせてきた。

 

「……見たのか、シドー」

 

「……!」

 士道は、じとーっとした視線を送ってくる十香に、ブンブンと首を振った。

 

 ……実はちょっとだけ見てしまったのだけれど、馬鹿正直にそんなことを言ったら、今度こそスーツケースに収めやすい身体にされてしまいそうだった。

 

 一応はそれで納得したのか、十香が「むう……」とうなってから、扉を全開にする。 無論、もう十香は服を着ていた。 しかしそれはいつもの制服ではない。琴里が貸し与えたのだろうか、士道が愛用している部屋着だった。

 

 

 一回りサイズが大きいため、襟元からかすかに鎖骨が覗いており、妙にエロい。少し目のやり場に困ってしまう士道だった。

 

「──って、いた…ッ」

そんな邪なことを考えている士道を見透かすように佐藤が頭を叩いてきた。

 

 

 

『ったく……本当に間の悪い男だな』

 

「今の…俺のせいか‥?」

 

『当たり前だ。このバカが…』

 

 

日に日に佐藤からの扱いが酷くなっていると感じる今日この頃である。

 

 

 

「む? 誰かと思えばサトーではないか。なぜここにいるのだ?」

今気づいたのか十香がきょとんと首を傾げている。

 

 

『少し雨宿りだ。タオルで拭いたらすぐに帰るさ』

 

 

「っと、というかサトーは見ていないだろうな!」

壁に身を預ける佐藤に指を突き立て問い詰める。

どうやら、先程の話をしているらしい。

 

 

『安心しろ、どこかの馬鹿とは違って嫌な予感がしていたからな。目を瞑っていた。』

 

 

「そ、そうか…」

すぐにヒートダウンしていき口を窄めた。

 

 

 

だが、今はそんなことを気にしている場合ではない。十香に指を突きつけ、叫ぶ。

 

 

「な……っ、なんでおまえがうちにいるんだ、十香……ッ!」

 

 しかし十香は、士道が何を言っているのかわからないといった感で首を傾げると、「何? 聞いていないのか? なにやら、ナントカ訓練だとかで、しばらくの間ここに厄介になれと言われたのだ」

 

 

 なんて、事も無げに言い放った。「く、訓練……!?」

 士道は眉根を寄せると、視線を廊下の奥の方にやった。

 

 

『まぁ、十中八九アイツの仕業だろうな』

共に佐藤もその人物を頭に思い浮かべる。

 

 

「だろうなッ!」

 そしてそのまま立ち上がり、つかつかと歩いていくと、乱雑に扉を開け放つ。

 

 

 

「琴里ぃ! どういうことだッ!」

 

 

「おー?」 すると、ソファに座りながらテレビを見ていたツインテールのちびすけが振り向き、そのどんぐりみたいな丸っこい目を士道に向けてきた。

 

 

「おー、おにーちゃん。おかえりー。それと佐藤も久しぶりー」

 

 

『あぁ、邪魔してる』

 

 

「お、おう、ただいま……じゃなくて!佐藤も普通に返事するなよ!」 思わず普通に返事をしてしまってから、首をブンブンと振る。

 

 

 

「おまえが十香を連れてきたのか……? 訓練って、一体何のことだよ……っ!」

 

「まーまー、落ち着いて落ち着いて」

 

「落ち着いていられるかっ! な、なんで十香がうちに……? 今日も、いつもみたいに令音さんと一緒に帰ったじゃねえか」

 

「え? んー、それなら──」

 

 琴里が、指を一本ピンと立て、キッチンの方に向ける。

 

「あ……?」

 士道は、琴里の指が指し示す方向に目をやり──また、固まった。

 

「……ああ、邪魔しているよ」 なんて、言いながら。 やたら眠そうな顔をした女が、リビングとキッチンを隔てるダイニングテーブルに着き、湯気を立てるカップに角砂糖をいくつも放り込んでいたのである。

 

 ──村雨令音。〈ラタトスク〉の解析官兼、士道のクラスの副担任だ。 ちなみに彼女も、いつもの軍服や白衣姿ではなく、士道の母のパジャマを着用し、首にタオルを掛けていた。心なしか、髪も少ししっとりしているように見える。

 

 

「れ、令音さん? 何やってるんですか……?」

 

 

「……ふむ?」 令音は士道の問いにしばし考え込むような仕草を見せたのち、後頭部をかいた。「……ああ、すまない。砂糖を使いすぎたかな」

 

「いや、そうじゃなくて!」 たまらず、叫ぶ。 確かにカップには、令音の血糖値が心配になるくらいの角砂糖が放り込まれていたが、今重要なのはそこではなかった。

 

 

 士道は心拍を落ち着けるように軽く胸を叩いてから言葉を続けた。

 

「どういうことですか? 十香は今、〈フラクシナス〉に住んでるんじゃ?」〈ラタトスク〉に保護された十香は今、組織が所有する空中艦〈フラクシナス〉内部の隔離エリアで生活しながら、学校に通っているという話だった。

 

 

 力を封印されているとはいえ、かつては世界を殺す災厄とさえ言われた精霊である。 万一のことがあっても即座に対応できるように。

 

また、効率的に定期検査を行うために、厳重な封印が施された隔離エリアに部屋が用意されているらしい。

 故に十香はある程度の自由があったと言っても六時前程には〈フラクシナス〉に帰っていたのに。

 

「……ああ、そうだね。まず説明をしなければならないね」

 

 令音が、分厚い隈に彩られた目を擦りながら声を発してくる。

「……しかし、だ。その前に」

 

「その前に……?」

 

「……着替えてきた方がよくはないかね? 床が濡れているよ」

 

 言われて、士道は「あ」と短く声を発した。

 

 

 

 

 

「それと、因みに君はなぜ此処に居るんだ?佐藤…」

カップを口に運びながら士道の背後に居た佐藤に訪ねた。

 

 

『ん、あぁ…俺は──』

 

 

「まぁ、理由はどうあれ君にも関係のある話だ。後で一緒に聞きたまえ。」

佐藤が言葉を言い終わる前に話を遮って言葉を発し、ほぼ強制的に佐藤が残留することに決まった。

 

 

「……まぁ、とにかく拭きに行こうぜ?」

 

『なんでこんな事に…。やっぱりあの提案受けなきゃよかった…』

 

絶望したかのような佐藤に苦笑いしながら脱衣場までの道を先導して行った。

 

 

 

 

 




という訳で二話終わりです。

何故か一週間ほどかかりました。

一応ここで区切りを付ける気はなかったんですけど、流石に時間がかかるので一旦これで二話目として投稿しました。


では、第三話お楽しみに(?)
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