デート・ア・ライブIF 【エラー】   作:セルヴェイエ

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こんにちは、第四話?です。 

最近はストーリーは出てくるのにキャラの会話の細かい所が出てこない沼にハマっております。










えーっと、意味が分かんなかった人もいると思いますし、簡単に前回の紗和の事を解説しておきますねー。






紗和は、前までは自分は副人格に変わりながら仕事をしていると思い込んでいたんです。



佐藤から蠍の弾の使い方を教えもらった時に、「自分はもう〝それ〟を使っている」と、勘違いしたんです。

戦闘などは全くしてこなかったせいで、実感を得ることもできず使ったと思い込んだ。


その結果、副人格でも無いのにそれに合った口調と所作になっていった。



ですが、前回の嫌な気持ちを分析する過程で分かった〝それ〟に向き直ることにした紗和は自分は最初から変わってなど居なかった事に気が付き、自分を見失ったあとに…〝悪い感情も良い感情も全て掛け合わせて私〟と、反転体としての自分を再定義してこんな風になったんですよ。



しかも、その気持ちにぶっ飛んだせいで性格もなんか壊れてます(良い意味)



はい、解説終わり。






















と言うわけで?四糸乃編第四話です。


今回で四糸乃と士道とのデートまでいけるかな。


士道と佐藤を会話させる事が不器用すぎて出来ない。やろうとしたら滅茶苦茶駄文が生まれてしまう。



そんなこんなで第四話、お楽しみください。


惨劇は生まれない【十一】

 

 

 

 

「えっと……貴方誰ですか?」

私こと──緋衣響はあまりにも変わり果てた姿になってしまった人にそんなことを言っていた。

 

 

 

「え?普通に山打紗和なんですが、どうしたんですか響さん。」きょとんと首を傾げて不思議そうに返してくる。

 

 

 

「いやいや!白の女王(クイーン)さんは私のことは絶対にさん付けで呼びませんし、その声なんですか!」堪らず叫ぶと、紗和?さんは、何かに納得したようにうんうんと、頷いた。

 

 

 

「そうですね、山打じゃありませんね……「佐藤」でした。」

 

 

 

 

 

「は?」

 

 

 

 

 

「……響さんのご指摘通り、これからは佐藤紗和って名乗りますね!」何を勘違いしたのか満面の笑みでそんなやばいことぬかしてくる。

 

 

 

「全く持って違うわぁぁ!どういうことですか!ついさっきまで普通だったじゃないですかぁ!」

 

 

 

 

白の女王さんにここまで疲れさせられたの初めてかもしれない。

 

 

 

「ついさっき……そうですね。私もついさっきまでは勘違いをしていたんです。」

 

 

 

「か、勘違い?」

長くなりそうな話に眉をひそめながらも聞き返す。

 

 

 

 

 

 

「私───佐藤さんの事が好きなんです。」

 

 

 

 

 

 

「………は?」

頬に手を当て「言っちゃった…」と、照れている白の女王さんを置いておいて、私は又も似たような声を出して思考が止まった。

 

 

 

 

 

「………?どうかしたんですか?響さ──」

 

 

 

「どうかしたじゃないわー!!どういう事ですか!何の説明にもなってないし、キャラが変わり過ぎなんですよ!」白の女王さんの言葉を遮って問い詰めていく。

 

 

 

 

 

「まぁまぁ、全て話しますよ。……そもそも私の恋心を呼び起こしてくれたのは……あの時の響さんとの会話なんですから。」うっとりと遠い目をしながら白の女王さんは感謝を述べてくる。…

 

 

 

怖い、何だろう。

 

何時も一応常識人で威厳もあった人がここまで柔らかくなると、怖いのか。

 

 

身を以て体験した響であった。

 

 

 

 

 

「って、違ぁーう!たしかに、唐突にキャラが変わった事もそうですけど、その"声"ですよ!本来の紗和さんの声とも違うじゃありませんか!」一番ツッコミたかったことを……ようやく言えて、私は息を荒くする。

 

 

──そう、変わっているのだ。

 

例えるなら、〝紗和さんと白の女王状態の声を足して二で割った〟みたいな。

 

 

 

「声帯も改造したんですか!?何で変わってるんですか!」

 

 

「合わせたんです」

響から放たれた質問に紗和は一言そう言った。

 

まるで、それ以上の言葉など要らないかのように。

 

 

「合わせ、た?」

 

 

「……開き直ったんですよ。反転体としての使命、生命としての夢、過去の絶望、未来への希望。自己を形成できなくなった私は、開き直って全部を掛け合わせたんです」

 

とまぁ、それでどうやって声を変えたのかは説明されていないのだけれど。

 

 

「………んん?」

思わず唸りながら続ける。

 

 

「貴方は……誰なんですか?」

 

 

「山打紗和ですよ。……それ以上でも、それ以下でもない。言葉づかいは……まぁ、佐藤さんの好みに合わせていけたら良いですけど。」

 

 

 

またしてもその話題が出てきて、ため息を吐いてしまう。

 

 

「……まぁ、一応理解はしました。意味分かんないことで一杯ですけど……。」頭を掻きながらも言葉をこぼす。

 

 

 

 

 

「それはそれとして、一つ…言いたいことあるんですけど。良いですか?」

 

 

 

「はい?別に良いですけど…」

 

 

 

 

 

 

今は……一番重要なことがある。

 

 

私のアイデンティティが奪われかけてる……そう、それは────

 

 

「口調ですよ!その口調!私と殆ど一緒じゃないですか!」今までの会話とは比にならないほど叫び声を上げる。

 

 

「……そんなこと言われても…。」

 

 

 

「嫌だー!私のアイデンティティが奪われるー!その結果出番が減って楽しみが無くなっちゃうー!」駄々をこねる子供みたいに叫び続けると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何ですの…騒々しい、私の部屋にまで聞こえていますわよ…。」不機嫌そうに寝間着姿のまま、その人が現れる。

 

 

「あっ!くーるーみーさーん!!」その姿を確認した後、助け舟が来たと理解し、思い切り絡みに行く。

 

 

「……なんですの?…正直うるさいからやめてほしいので───す、が……。」そこで狂三は言葉を切った──いや、切れてしまった。

 

 

「……何してらっしゃるんですか?紗和さん…」

そう、恐らくここまで響を絶叫させた張本人がそこに居たからである。

 

 

 

「あ、狂三さん。居たんですか…?」

そこでやっと狂三に気付いたのか…妄想を辞めてハッとしている。

 

 

 

「───狂三〝さん〟?」小首を傾げる……この状態の紗和とは会話はしたことあるが、少し声も特殊だったのだ。

 

 

 

 

「……まぁ、良いですわ。私は寝たいんですの……お願いですからもう少し声のボリュームを下げてくださいまし…」鬱々としながらため息を吐いた。

 

 

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいよぉ!助けてくだい狂三さーん!」そんな狂三に構わず腕にしがみついてくる響……うざい。

 

 

 

「何なんですの…?正直今の貴方を撃ってでも私は眠りたいんですが…」

 

 

 

「あ、あれ!あれですよ!私の手に負えないので早くどうにかしてください!私のアイデンティティのためにも……ってことで、私は仕事があるのでもう行きますねー!」

 

 

 

 

「は?」

狂三が何かを言う前にそう言い残して響は去っていった。本当に逃げ足だけは早い少女である…。

 

 

 

 

「………」狂三は苛立ちながらも、紗和の異常は気になるのでそちらを見やった。

 

 

 

「うへへ〜……」

また妄想に浸っているのか、女王としての威厳はどこかへ消えていた。

 

 

 

「確かに……異常事態ですわね。」

そう言葉を零すと、取り敢えず紗和の頭を叩いた。

 

 

 

「あいたっ……」

 

 

 

「何がありましたの?声は紗和さんのものではない、なのに性格は紗和さんのまま……。何をしたんですの?」

 

 

「……えーっと…【十の弾(ユッド)】で見てください。そのほうがわかり易いはずです。」

 

 

「そんな事に時間を使いたくないんですが……」

が、紗和の真剣な目をみてため息を吐きながらも〝それ〟を顕現させる

 

 

 

 

「【刻々帝(ザフキエル)】………」

そう呟くと、その手には古式の短銃が握られていた。

 

 

「……【十の弾(ユッド)】」

その言霊とともに短銃に〝弾〟が装填される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁぁ!!??」

その記憶をみて、紗和に何個か質問をした後。狂三は叫んでしまっていた。

 

 

「…!びっくりしちゃいますから……あんまり叫ばないでくださいよ」紗和は胸を押さえながら非難の声を上げてくる。

 

 

「誰のせいでこうなってると思ってるんですの!?」

堪らず叫ぶが紗和には全く届かない…。

 

 

 

 

心拍を落ち着けるように深呼吸をして、続ける。

 

「……反転体としての力が弱くなるとわかっていながら〝そう〟なりましたの?」

 

 

「いいえ?その時になったら、新しく将軍(ジェネラル)なり、令嬢(レディ)蠍の弾(アクラヴ)で構築しますよ。」

 

 

「それなら…いいですけど。」

 

 

 

と、その話が終わったことを理解したため、ため息を吐きながらも自室に帰ろうとした……が。

 

 

 

 

「あの、狂三さん。一つ聞きたいことがあるんですけどいいですか?」微笑んでいるのに目が笑ってない…そのことがより悍ましさを引き立たせた。

 

 

 

「……どうか、なさいまして?」

 

 

 

「狂三さんが好きなのは、あの五河士道くん…ですよね?」

 

 

 

「………。そんなことでしたか……。えぇ、そうですわよ?」いざ言ってみると無性に恥ずかしい…が、目の前の親友も一応同じなのだ、照れる必要はないだろう。

 

 

 

 

「そうですよね!よかったぁ〜………じゃあ、確定でアイツだ」

ボソリとなにか聞こえたが聞こえないフリをした。

 

 

 

 

「それで!狂三さんに相談があるんですよ!」

 

 

 

「……なんですの?」

 

 

 

 

「子どもの名前って……どんなのが良いですかね。あ、もちろん案はあるんですよ!?」狂三の手をガシッと掴みながら言葉をまくし立ててくる。

 

 

 

 

「えっと……」

 

 

 

 

「いやー…夫の帰りを待つのも妻みたいですよね!」ニコニコしながら言ってくる。

 

 

 

 

まずい、非常にまずい…このままこの場所にいたら、何故か深夜まで寝られないような…そんな予感がする。

 

 

 

 

「では……私はこれで───」

 

 

 

 

「……うふふ」

掴まれた手によって私は逃げられなかった。

 

 

 

 

 

「………」

とんでもない怪物を生み出したな。と、ここには居ない者に向かって呪詛を吐きながらも、紗和によって強制的に話題を振られ続ける狂三であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜◆〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さ……散々な目に……遭った……」

 

 

とある一件のせいで意識を失っていた士道はどうにか意識を取り戻し、流し台に溜まった皿を洗おうと…していたのだが。

 

 

疲れてそれどころではない…。しかし、これも仕事だ、早く終わらせなければ…。

 

 

と、そんなふうに士道が気合を入れていると…

 

 

コンコン───

 

 

そんなノックが玄関から聞こえた。

 

 

 

「あぁ、そうか…あいつもいるのか」

ため息を吐きながらも玄関のロックを外し、開けてやった

 

 

 

 

『悪い。遅くなった…』

やはり、というか…そこにいたのは佐藤だった。

 

 

 

「いや、琴里が無理言ったんだし…」

取り敢えず上げてやって、先程までの話をすると佐藤は苦笑いしていた。

 

 

 

 

『お前の妹さんもエグいことすんなぁ…』感嘆にも似た響きをもつ言葉をあげる。

 

 

 

「………あ、そうだ。皿洗わらねぇと…」

そうだ…忘れてたけどまだ仕事が残っているのだった。

 

 

 

『皿洗い?そのぐらいならやっておくぞ?』

 

 

 

「えっ…マジ?」

正直ありがたい……これで仕事は明日のご飯の準備だけになる。

 

 

「じゃあ、頼んで良いか?」

 

 

 

『……あぁ、任せとけ』

そう言うと…佐藤はキッチンに向かうと、そのまま…皿を洗い始めた。

 

 

 

「あっ…洗剤はそ───」

士道がおしえようとしたのだが。佐藤は何も迷うこと無くスポンジと洗剤を使っていった。

 

 

 

「……凄え」

──と、感心している場合じゃない。

 

そう思うと士道も自分の作業に取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜◆〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ようやくフラフラと自分の部屋に戻っていった時には、時計の針は、もう一一時を回っていた。

 

 

 よい子な十香と琴里は、既に各々の部屋で眠りについていた。佐藤は雑談した後ソファで横になっていたからもう寝ているだろうか。

 

 

 

健全な高校生男子としてはまだまだ宵の口なのだが、今日は疲れ方が尋常ではない。

 

 

 ──さすがに、今日はもう琴里もネタ切れだろう。 士道は部屋に入るなりベッドにダイブし、すぐに眠りに落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……里。琴里、起きてくれ。時間だ』 皆が寝静まった深夜。

 

 

右耳の鼓膜が震わされる感覚に、琴里は眉をぴくりと動かした。

 

「ぅ……んー……」 だが、それで起きるほど、五河琴里一三歳の眠りは浅くはない。 ベッドの上で身をよじると、タオルケットを身体に巻き付けるように寝返りを打ち、再びすやすやと穏やかな寝息を立て始める。

 

 

「……琴里。琴里。寝直さないでくれ」

 

 

「ん~……」 琴里は手の甲でショボショボの目を擦こすり、のろのろと身を起こした。

 

 

 

「なぁーにぃ……おにーちゃぁん……」

 

 

 

 

「……悪いがシンではない。私だ、令音だ」

小さく首をひねり、ふぁぁぁぁぁああ……と大きなあくびを一つ。

 

 

 

 

 

「令音ぇ……? どぉしたの、こんな時間に……」

 琴里は片手で目を擦りながら、枕元をぺしぺしと叩たたき、手探で携帯電話を発見すると、画面を点灯させて表示された時刻に目を這わせた。 

 

 

 午前三時二〇分。よい子も悪い子も皆みな、夢の中にいる時間だ。

 

 

 

「……準備ができた。指示を頼たのむ」

 

 言われて、琴里は、「あ」と小さく口を開いた。

 

 

 

「ん……そっか……起こしてって頼んでたっけ……」

 

 

 琴里は令音のように頭をぐらぐらと揺らしながら、再び枕元をぺしぺしと叩いていった。 そしてそこに置かれていた一口サイズの棒付きキャンディを手に取ると、雑に包装を破りとって口に放り込んだ。

 

 

 

 

「────っ!」 瞬間、舌の上で爆発が起こるかのような感覚が脳に伝わり、琴里は全身をブルブルと震わせた。

 

 

同時に、スーッとした刺激的な香りが鼻腔を通り抜ける。

 

 そう、これはいつものチュッパチャプスではない。琴里が眠気を抑えたいときにだけ舐める秘密兵器・超爽快スーパーメントールキャンディである。

 

 

 琴里は黒のリボンを手に取ると、髪をいつものツインテールに括くくった。

 

 

「あー……目が覚めたわ。悪いわね、令音」

 

 

「……構わないさ。──早速だが、報告だ。シンが熟睡状態に入ったよ」

 

 

「そう。それで、佐藤の方は?」

 

「……私が来た時点で起きていた。話は既に通してある。」

 

「はは……。あわよくば佐藤にもなにかしたかったのにねぇ」

 

「じゃあ、機関員は?」

 

「その準備なら終わっている。待機しているよ」

 

 

「けっこう」

 琴里はそう言うと、足音を殺して部屋を出、階段を降りてリビングに行くと。

 

 

『………やるなら静かにやれよ。』

 

「それはこっちのセリフよ」

 

 

小声で佐藤とそんな言葉を掛け合いながら玄関まで辿り着いた。

 

 

 

 そして、カチャリと音をさせて、錠を開ける。

 

 玄関の前には、黒い戦闘服に目出し帽バラクラバという、アメリカの特殊部隊みたいな格好をした男たちが数名、待機していた。

 

 

「ターゲットは二階よ。頼むわ」

 

「了解」 男たちは琴里の指示に従い、足音もなく五河家に侵入していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜◆〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……うぅん……」 士道は小さなうめき声を発しながら、ベッドの上で軽く背筋を伸のばした。 目には窓から差し込む朝日が、耳には小鳥のさえずりが入り込んでくる。

 

 

「ん……もう朝か」 あくびを一つこぼし、目をしばたたかせながら寝返りを打つ。 

 

 

──と。「あ……? なんだ……?」 頬に何やら柔らかいものが触れた気がして、士道は小さく眉をひそめた。

 

 それの正体を探るため、のそのそと顔の辺りに手をやり、触れてみる。

 

 すると、頭の上の方から、「ん……っ」 なんて、可愛らしい声が聞こえてきた。

 

 

「…………」 士道は一瞬息を止め、思考を巡らせた。 ちらと視界を巡らせる。目の前には薄手のフリース生地。

 

 

そして天井には、士道の部屋のものとはタイプの違う電灯が見て取れた。

 

 ここは──士道の部屋では、ない。 部屋の内装からいって……普段あまり入ることのない二階奥の客間であるようだった。

 

 

「て、こ、と、は……」 ゆっくり、ゆっくりと顔を上に向けていく。

 

 

 

「……む?」

 

そこには予想通り、十香の、美しい貌かあった。

 

 

 先方も今目覚めたのだろう。士道が視線を上にやった瞬間──目が、あった。

 

 

 

「…………」

 

 

「…………」

 

 

 数秒の間のあと。

 

 

「ひ──っ……」

 

「な……」 士道と十香はほぼ同時に息を詰まらせると、ガバッとその場に起きあがり、まるで試合開始のゴングが鳴ったかのように、ベッドの枕元と足元に分かれて距離を取った。

 

 

「な、何をしているのだ、シドー! なぜ私の寝床に……!?」

 

 

「し……っ、知らん! な、ななななんで俺はここにいるんだ……!?」

 

 

「訊いているのは私だ!」

 

「ですよねぇぇぇぇッ!」 士道は、もうわけのわからないテンションになりながら叫んだ。

 

 

 と、そこでタイミングよく部屋の扉が開き、琴里が現れる。

 

 

「はい、アウトー。もう少し落ち着きなさいよ、士道」

 

 

「……っ、琴里……!? ま、まさかこれ、おまえの仕業か!」

 

 

「はて、何のことやら。士道が溢れ出る思春期の青い性衝動(リビドー)を抑えきれずに、十香の布団に潜り込んだだけでしょ。変な言いがかりはやめてちょうだい」

 

 琴里は白々しく肩をすくめると、小さな笑みを浮かべながらそんなことを言った。

 

 

「な……っ」 その言葉に、十香が顔を紅潮させ、毛布を手繰って胸元を覆い隠す。

 

 

 

「おッ、俺は潔白だ!」 叫ぶが、琴里は構わず、何やらポケットから取り出した携帯電話をいじくり始めた。

 

 

 

 しかもそれは、なぜか士道のものだった。

「おまえ……っ、そのケータイ俺のじゃねえか。何してんだ?」

 

 

 

「え? ああ」 琴里は小さく唇の端を上げると、携帯の画面を士道に向けてきた。 メールの編集画面だ。

 

 

送信先に、士道の友人である殿町宏人の名前が表示されている。

 

 

「……っ!?」 士道は息を詰まらせた。なぜならそのメールの本文が──「すげえラジオあった。聴いてみてくれ。マジで心が打ち震える。人生観変わるぜこれ」 なんて書かれたあとに、ホームページのURLが記されていたのである。

 

 

 

「は……? な、なんだそのURL……」

 

「ああ、昨日の番組、インターネットラジオでも配信を開始したのよ。これでネット環境さえあれば、誰でも好きなときに士道の力作を聴けるわ」

 

 

「な……っ!?」 士道は、戦慄に目を見開いて手を伸ばした。

 

 

 

「やッ、やめ──」

 

「てい」

 士道が言い終わる前に、琴里が送信ボタンをプッシュする。

 

 

 

「ぎゃああああああああああッ!?」 叫びながら携帯電話を奪取、必死でキャンセルボタンを押すも──遅い。

 

 

 

 現代文明の利器は可及的速やかに、破滅的な情報を友人のもとに送り届けてしまった。

 

 

 

「な、何しやがんだこの……っ!」

 

 

「ペナルティよ。十香の胸に頬ずりしたくらいで慌てふためいちゃうようじゃ困るの」

 

 

「ん、んなこと言ったって……って……?」

 

 

 琴里の言葉に違和感を覚え、首をひねる。 ……そういえば、意識が覚醒する直前、非常にやーらかいものに触れた気がする。

 

 恐る恐る十香の方を見ると、彼女も目を丸くしていた。

 

 そして、何やら感触を思い出すようにペタペタと身体を触っていき──胸の辺りに触れたところで、全身を硬直させた。

 

 

 

「……っ」 ボンっ! と、煙でも立ち上るのではないかと思えるほどに、十香の顔が真っ赤になる。

 

 

 

「う……うわあああああああああああっ!」 そして十香は凄まじい絶叫を上げると、手当たり次第に周囲のものを投擲してきた。

 

 

 

「うわ……っ、お、落ち着け、十香!」 士道はどうにかそれらを避よけつつ、部屋を出ようとしたが、扉のノブを握ったところで後頭部に赤べこの置物をぶつけられ、昏倒した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜◆〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……今度の今度こそは馬鹿だな。』

 

 

「──って、痛ぇよ」

士道の身体に貼り付けられる湿布の冷やかさを感じながらも、苦痛の声を漏らした。

 

 

 

『知るか。テメェが訓練に成功しないからこうなるんだよ』

 

あの一件の後、士道の体を手当てしてくれていたのは佐藤だった。しかもかなり丁寧───正直、学校にいる養護教諭と同レベルの手当だった。

 

 

 

『まぁ…同情できないといえば嘘になるが…。』苦笑いを浮かべながら手当てを続けていく佐藤。

 

 

「……ほんとだよ…、まぁ…朝飯は佐藤が並べてくれてたお陰で体を労らなくて良かったよ。」

 

 

 

『命令にせよ頼み事にせよ、居候には変わりないからな、家事くらいなら手伝うさ。』

 

 

 

と、そこんなこんなで雑談していると。

 

『よしっ、貼り終わったぞ。歩けるか?』

 

 

「あー…まぁ、ギリギリ……」よろめきながらもなんとか立ち上がる。

 

 

『んじゃ、さっさと学校行くぞ。鞄なら持ってやるから』

 

 

「……あぁ、分かった……。」頷き返し、玄関へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜◆〜〜〜

 

 

 

 

 

 

「おーう五河。……て、どうしたんだ、おまえ」

 朝、重たい足を引きずって教室に入るなりかけられたのは、殿町の怪訝そうな声だった。

 

 

 まあ彼でなくとも、今の士道の有様を見れば、似たような感想を持っただろう。 何しろ顔や手など、身体のあちこちに湿布を貼り付けているうえ、足取りは今にも倒れてしまいそうなほどフラフラなのである。

 

 

「……ああ、ちょっとな」 士道は曖昧に乾いた笑みを浮かべて返すと、小さく息を吐いた。

 

 

 と、そこで、殿町が何かを思いだしたように含み笑いを浮かべてくる。「そうそう。聴いたぜあのネットラジオ、なんだあれ。めっちゃ面白えじゃねえか」

 

 

 その言葉に、士道は頬を引きつらせた。

 

「っ! も、もう聴いたのか、あれ……」

 

「おう。出がけにちょろっとな。しっかし……あれ冗談でやってんのかね。もし本気だったらちょっと引くわー」

 

 

「あ……ははは……そ、そうだな……」

 士道は乾いた笑いを浮かべると、わざとらしく視線を逸そらした。

 

 

「そ、それより殿町、おまえ、何見てたんだ?」 これ以上あのラジオに興味を持たれても困る。士道は話題を変えるように声を上げた。 殿町は、何やら漫画雑誌巻末のグラビアページを深刻そうに眺めていたのである。

 

 

「ああ、これか。──そうだ、五河にも訊いておきたいんだが……」

 

 

 

『何やってんだお前ら』

と、そこで士道より遅れて教室にやってきた佐藤が呆れた表情で問いかけてきた。

 

 

「おぉ、佐藤も来たか!丁度いいし、佐藤にも訊くか!」

 

 

 

「………?」

 

『…何の話だよ。』

 

 士道が眉をひそめ、佐藤が聞き返すと、殿町はいつになく真剣な様子で言葉を続けてきた。

 

 

 

 

「ナースと巫女とメイド……どれがいいと思う?」

 

 

『………』

 

「……は?」 予想外の言葉に、間の抜けた声を発する。どうやら佐藤は呆れ果てたかのようにやれやれとため息を吐いていた。

 

 

 

「読者投票で次号のグラビアのコスチュームが決まるらしいんだが……悩むんだよなあ」

 

 

「……ああ、そう」 

士道がため息交じりに返すも、殿町はまるで気にしない様子で雑誌を突き付けてきた。

 

 

「で、おまえらはどれがいいと思う!?」

 

 

「え、ええと……じゃあ……メイド……?」 異様な気迫に気圧された士道が言った瞬間、殿町がぴくりと眉を動かした。

 

「ど、どうした?」

 

「──まさかおまえがメイド好きだったとはな! 悪いが俺たちの友情はここまでだ!」

 

「…………」 士道は、ぽりぽりと頬をかくと、自分の席に歩いていく。

 

 

「あっ、おい、どこ行くんだ五河!」

 

「……友情はここまでなんだろ?」

 

「なんだよノリ悪すぎだろおーい。メイド好きとナース好きが手を取り合う。そんな世界があってもいいとは思いませんかー」

 

 どうやら殿町はナース派らしかった。

 

 

 

「で?佐藤はどの派閥なんだ?」もう1人、佐藤にも殿町は振り返って尋ねた。

 

 

『派閥ってなんだよ…』

 

 

「良いから!答えてくれよ、マジで気になるからさ!」

 

 

正直──佐藤の好みなど全く知らない士道は佐藤がどれを選んでも驚愕の声を上げそうだった。

 

 

 

『……メイド、には…いい思い出がないし。ナースは……最悪だし。……じゃあ、巫女かな、』

 

 

「…って!何だよ、「じゃあ」って!」

ブツブツと思案した後導き出された答えに殿町は不安の声を上げる。

 

 

『いや…だって、メイドとナースには良い思い出が無いんだもん』鬱々とした表情で言葉を返す佐藤に、殿町はため息を吐いて士道を見た。

 

 

「つまり?俺達は綺麗に3つの派閥に分かれたみたいだな。いやー 世の中って、狭いんだねぇ!」

 

 

『うるせぇ、そもそも俺は消去法で答えてやっただけだ。』

 

 

「おぉい!何だよ佐藤!自己紹介し合ったときはあんなにも礼儀正しかったのに、何でこんなにグレちまったんだよー」そのまま、やんややんやと言い合いを始める。

 

 

 

 

 

 士道は殿町と佐藤の会話に巻き込まれないよう苦笑しながら席に向かい、自分の席に鞄を置いた。 その際、既に隣の席に着き、分厚い技術書を読んでいた少女──鳶一折紙が、ちらと士道に目を向けてくる。

 

「…………」

 

「お、おう……鳶一、おはよう」

 

「おはよう」

 

 

折紙は抑揚のない声でそう返すと、小さく首を傾げてきた。「メイド?」 どうやらさっきのやり取りを聞かれていたらしい。

 

 

慌てて手を横に振る。

「……っ、い、いや、気にしないでくれ」

 

 

「そう」 折紙はそうとだけ言うと、再び書面に視線を戻した。

 

 

 

「おはよー」 と、そこで折紙がいると知った殿町が手を振るが、折紙はぴくりとも顔を動かさなかった。

 

 

 殿町が大仰に肩をすくめ、士道の脇腹をぐりぐりと押してくる。「毎度のことだけど、なーんでおまえだけ挨拶返してもらえんだよー。くぬっ、くぬっ」

 

「し、知るかよ。やめろって」 鬱陶しげに殿町を振り払はらい、席に着く。

 

 

 と、そこで教室の扉がガラッと開かれ、十香が入ってきた。 無論十香は今五河家に住んでいるわけだから、通学路もまったく同じなのだが、一緒に登校するといろいろ勘ぐられそうだったため、家を出る時間をずらしたのだ。

 

 

 

 

「…………」 十香は無言のまま士道の後ろの席に座ると、同じく席に座る佐藤の肩を指で叩き、耳元に何かを囁く。

 

 

『えぇー……自分で言えよ。』うんざりとした顔になりつつも佐藤は仕方ないと、唇を開いてくる。

 

 

 

『……今朝は、すまなかった。身体は大丈夫か?──だとさ』佐藤が親指で十香を示しながら言ってきた。

 

 

 どうやら、朝の一件のことを気にしているらしい。士道は苦笑しながら頬をかいた。それにしても、こんな方法で会話をしてくるとは。

 

 

「お、おう……気にすんな」

 

 

 

『はいはい、良かったな。十香』

 

「む……」 十香が小さくうなずく。

 

 

 

そこでようやく──士道は気がついた。「……あ」 この会話を聞いた数名のクラスメートが、興味深げな視線を送ってきているのに。 しかし、十香はまだそれに気づいていないらしい。今度は佐藤を介さず言葉を紡いでくる。

 

 

 

「だ、だが、おまえだって悪いのだぞ。いきなりあんな……その、びっくりした」 十香の言葉に、周囲の皆みんなが息を呑むのがわかった。

 

 

「と、十香……っ、その話はあとにしないか……?」

 

 

「ぬ? なぜだ?」 十香は首を傾げながら士道の方を向き、ようやく皆の視線に気づいたらしかった。

 

 

「……っ」 昨日のうちに、士道と十香の同居は皆には秘密、と言い含められていたことを思い出したらしい。

 

十香がハッと息を呑み、頬に汗を垂らした。

 

 

「ち、違うぞ皆、私とシドーは────!」

 

と、ボロを吐き出しそうになった瞬間。

 

 

『コイツラ登校中にぶつかったんだよー ほんっと、運命みたいに繋がってるよなー』あくまでも飄々と伸びた声音で十香の焦った台詞を掻き消した。

 

 

「そっ、そうだよな!!いやーまいった! 十香も怪我とかしてなかったか!?」

 

 

「む……? う、うむ、問題ないぞ!」 

 

まさに、助け舟。士道はその勢いに乗じて十香に言い、十香も士道たちの意図を汲み取り首肯した。

 

 

佐藤のお陰か、クラスメイトの視線は殆どが消えた。

 

 

  ……まあ、それでも士道の左側から一名、背が凍傷になってしまいそうな視線を浴びせてくる女子生徒はいたのだけれど。

 

 

「…………」 なんだか、すぐボロが出そうな気がする。

 

 

士道は深くため息を吐いた。 ──そして、その懸念は意外と早く的中してしまうことになるのだった。 四限目の授業の終了のチャイムが校舎中に鳴り響き、昼休みの開始が示される。

 

 

 それと同時に、「シドー! サトー! 昼餉だ!」

 

 

十香のそんな声と共に士道は椅子の向きを変えさせられる。

 

 

もちろん、背後は十香のため…必然的に十香と対面で弁当を食すことになるのだが───。

 

 

 

 

「……ぬ、なんだ、貴様。邪魔だぞ」

 

そう…士道の左の御方、折紙が十香の腕を掴んだ。

 

 

「それはこちらの台詞」 士道を挟んで、前後から鋭い視線が放たれた。

 

 

「士道は私と食べる。貴方は………佐藤とでも食べていて」

 

 

『……大人しく三人で一緒に食べろよ。机の向き変えたらいけるだろ。』

 

佐藤が呆れながら言うと、渋々といった様子で、十香と折紙は大人しく席に着いた。

 

 

そして、士道と折紙は机の向きを変え…十香───佐藤とくっつける形になる。

 

『……?』

 

「む?どうした、サトー。サトーも食べるのだろう?」さも当たり前みたいに言ってくる十香に……佐藤はうんざりとした顔になりながらも観念したように席についた。

 

 

そして……士道・折紙・十香・佐藤のメンバーで弁当を食べることになるのだった。

 

 

 

 

 

 

他のメンバーは自分の鞄から弁当箱を取り出す。 士道もそれに倣うように弁当を机の上に出すと、三人と一緒に蓋を開けた。

 

 

そして──「…………」 折紙が目をほんの少しだけ見開くのを見て、自分の油断を呪った。

 

 

 士道の弁当は、朝自分で作ってきたものである。もちろん、いつも琴里のものも一緒に拵らえている(まあ、ここひと月はそもそも琴里が家に帰っていなかったのだが)。 無論──急遽弁当がもう一人分必要になったとしても、それは士道の仕事だった。

 

作るのは追加で2人なのだが、佐藤に関しては何故か『要らない』と言われたため…作らなかった。いや、それにしても…あの時気付いておくべきだった。

 

 

 

「…………」 折紙が、冷たい視線を、士道と十香の弁当箱の中身に交互に這わせる。

 

 

 ──まったく同じメニューで揃えられた、二人の弁当に。

 

「ぬ、な、なんだ? そんな目で見てもやらんぞ?」

 

 ことの重大さに気づいていないのか、十香が自分の弁当を覗き込んでくる折紙に、怪訝そうな眼差しを向ける。

 

 

先ほどのように助け船がないかと佐藤をちらりと見やるも、『……』何も反応がない。助けは期待しないほうがよさそうだ。

 

 

「どういう、こと?」

 

「こ、これはだな……」 折紙から問われ、士道は顔中に粘っこい汗を噴き出しながら目を泳がせた。

 

 

「じ、実はあれだ。これは朝、弁当屋で買ったんだ。それで、偶然十香もそこに……」

 

「嘘」 折紙は、士道の言葉を途中で遮ぎって、裏返っていた士道の弁当箱の蓋を持ち上げた。

 

 

「これは今から一五四日前、あなたが駅前のディスカウントショップにて一五八〇円で購入したのち、使用し続けているもの。弁当屋のものではない」

 

 

「な……なんでそんなこと知って──」

 

 

「それは今重要ではない」 いや、それはそれでものすごく問題だと思うのだが、折紙の有無を言わさぬ気迫に押され、言葉を差し止められてしまう。

 

 

「なぁ、サトー 二人は何を話しているのだ?」 前に座る十香が呆れ果てている佐藤に尋ねる。

 

『知らないし、知りたくない。』

 

 

 と、そのとき。

 

 ウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ────

 

 

 

 

 街中に、けたたましい警報が鳴り響いた。 瞬間、ざわついていた昼休みの教室が、水を打ったように静まりかえる。

 

 

 ──空間震警報。 およそ三〇年前より人類を脅やかす、最悪の災厄。空間震と称される、災害の予兆である。

 

 

 

「…………」 折紙は一瞬逡巡のようなものを見せながらも、即座に席を立ち、素晴らしい速さで教室を出て行ってしまった。

 

 

「……ッ」 士道は、複雑な心境で、その背を目で追うしかできなかった。……まあ、不謹慎ながら少しだけ、このタイミングで警報が鳴ってくれて助かった、と思わなくもなかったのだが。

 

 

 鳶一折紙は学生ながら、陸上自衛隊ASTに所属する才媛だ。 つまり今彼女は、戦いの場に赴むいたのだ。

 

 

──十香のような、精霊を殺すために。

 

「…………」 士道は、ぎりと奥歯を噛み締めた。 士道に、折紙を止めることはできない。

 

 

だが── と、そこで教室の入り口から、ぼうっとした様子の声が響いてきた。

 

 

「……皆、警報だ。すぐ地下シェルターに避難してくれ」 白衣を纏った眼鏡の物理教師──令音が、廊下の方に指を向ける。

 

 

 生徒たちはごくりと唾液を飲み下したあと、次々と廊下に出ていった。

 

 

「ぬ? シドー サトー、一体皆どこへ行くのだ?」 十香が、そんなクラスメートたちの様子を見て首を傾げてくる。

 

 

 

『そうだったな。十香にはあまり説明をしてないんだっけか?』

 

「あ、ああ…そうか。…シェルターだよ。学校の地下にあるんだ」

 

 

「シェルター?」

 

「ああ。とりあえず説明はあとだ。俺たちも行くぞ、十香」

 

 

「ぬ、ぬう」 十香は手を付けていない弁当に名残惜しそうな視線を残しながらも、士道の指示に従って立ち上がった。

 

 そして、ともにクラスメートたちのあとについて廊下に出ようとしたところで。

 

 

「……シン。君はこっちだ」 士道は、令音に首根っこをひっ掴まれた。

 

「っ、れ、令音さん? こっちって……」

 

「……決まっているだろう、〈フラクシナス〉だ」

 

 士道が問うと、他の生徒に聞こえないよう声をひそめながら、令音が言ってきた。

 

 

「……昨日の今日だ。今後のことについて、まだ結論は出ていないかもしれない。だが……いや、だからこそ、君には見ておいてほしい。精霊と、それを取り巻く現状を」

 

 

 士道は渇いたのどを唾液で湿らせると、小さく拳を握った。

 

 

「……わかりました。行きます」 令音は眠たげな半眼のまま小さく首肯すると、生徒たちが全員列に並ぶのを見てから、昇降口の方に顔を向けた。

 

 

「……さあ、急ごう。空間震まで、もう間もない」

 

「は、はい。と──あ、令音さん。十香と佐藤は……一緒に連れて行かなくていいんですか?」

 ちらと十香たちの方に目をやりながら、言う。

 

 

 

「……ああ、そのことか。──うむ、佐藤はともかく十香は皆と一緒にシェルターに避難させてしまおう」

 

 

「え? それでいいんですか?」

 

「……ああ。力を封印された状態の十香は人間とそう変わらない。それに、精霊とASTの戦いを見て、自分のときのことを思い出されても困ってしまう。言っただろう?〈ラタトスク〉としては、できるだけ十香のストレスを蓄積させたくないんだ」

 

 

「いや、でも……」

 

 と、士道が言いかけたところで、廊下の奥の方から、甲高い声が響いてきた。

 

「ほ、ほらっ、五河くんに夜刀神さん、佐藤くんに…それと村雨先生までっ! そっ、そこで立ち止まらないでくださいっ! 早く避難しないと危険が危ないですよ!」

 

 

 士道の担任─岡峰珠恵教諭・通称タマちゃんが、小さな肩をいからせながら、焦ったような調子で言ってくる。

 

 

ちょっと言葉の意味が支離滅裂だった。

 

「……ん、捕まっても面倒だ。行こうか」

 

 令音がちらと目配せし、昇降口の方に足を向ける。

 

「っ、あ、ちょっと──」 少々気がかりではあるが、仕方ない。士道は小さくうなって頭をくしゃくしゃとかくと、十香の手を取り、その手を珠恵に預けた。

 

「先生、十香をよろしく頼みます!」

 

「ふぇ? え? あ、は、はい、それはもちろん」 急に十香を託されたタマちゃんは、呆気にとられたように目を丸くしながら、「わ、私先生ですもの!」とうなずいた。

 

 

「シドー……?」 十香が、少し不安そうに眉を歪めてくる。

 

「十香。いいか? 先生と一緒にシェルターに避難しててくれ。佐藤も、十香を頼む!」

 

 

『……はいはい。任せとけ、お前は用事に専念しろ』

 

 

 

「シドーは、シドーは…どこへ行くのだ…?」

 

「あー……俺は、ちょっと大事な用があるんだ。先に行っててくれ。な?」

 

「! あ、し、シドー!」

 

「五河くんに、村雨先生まで!? 一体どこへ!?」

 

『あー…二人はなんか用があるらしいんで、さっさと行きましょ。』

 

 

「え、えぇ??」

 

 

 

 心配そうな二人の声を背に聞きながら、士道と令音は、校舎の外へと走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜◆〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──ああ、来たわね二人とも。もうすぐ精霊が出現するわ。令音は用意をお願い」

 

 士道と令音が〈フラクシナス〉艦橋に着くなり、艦長席に座った琴里から、そんな言葉が飛んできた。

 

 

「……ああ」 令音が小さくうなずき、白衣の裾を翻がえして、艦橋下段にあるコンソールの前に座り込む。

 

 

「──さて」 と、士道が無言でいると、琴里が首を傾げるようにしながら問うてきた。

 

 

「あまり時間をあげられなくて悪いのだけれど。腹は決まったのかしら、士道」

 

 

「……っ」 息を詰まらせる。が、そこで突然、艦橋内にけたたましいサイレンの音が鳴り響いた。

 

 

 

「な……なんだ?」

 

 

「非常に強い霊波反応を確認! 来ます!」

 

 

 士道が狼狽に目を丸くすると同時、艦橋下段から、男性クルーの叫び声が発せられる。

 

 

 琴里はそれを聞くと、パチンと指を鳴らした。「オーケイ。メインモニタを、出現予測地点の映像に切り替えてちょうだい」

 

 琴里が指示を発すると、メインモニタに、街の映像が俯瞰で映し出された。

 

 いくつもの店が建ち並ぶ大通りである。しかし当然のごとく人の姿はなく、まるでゴーストタウンのようになっていた。

 

 そんな映像の中心が、ぐわんっ、と撓む。「え……?」 一瞬、映像を映し出している画面の方に問題があるのではないかと思ったが──違う。 空間に。 何もないはずの空間に、水面に石を投じたときのような波紋ができていた。

 

 

「な、なんだこりゃ……」

 

「あら? 士道は見るの初めてだっけ?」 琴里がそう言うのとほぼ同時に、空間の歪みがさらに大きくなり── 画面に小さな光が生まれたかと思った瞬間、爆音とともに、画面が真っ白になった。

 

 

「──っ!」 画面内の出来事であるとわかっているはずなのに、思わず腕で顔を覆ってしまう。

 

 

 そして数秒のあと、妙に激しくなった動悸を抑えながら目を開けると、画面には、今までとはまったく違う風景が映し出されていた。

 

 

 街に、穴があいている。 そうとしか表現のしようがなかった。 今まで幾もの建物が並んでいた通りの一部が、浅いすり鉢状に削り取られている。

 

 

 そこにあったはずの店や街灯や電柱、さらには道路の舗装に至るまで、全てが、無くなってしまっていた。

 

 

 そして爆発の余波のためだろうか、その周囲も、まるで大型ハリケーンにでも襲われたかのような有様になっている。

 

 

 その様は、およそひと月前、十香に初めて会った場所に酷似していた。

 

 

 つまり、今のが──「空間震……っ」 士道が震える声で言うと、琴里が「ええ」と首肯した。

 

 

「──精霊がこちらの世界に現界する際の空間の歪み。それが引き起こす突発性災害よ」

 

 

「…………」 廃墟を見たことは何度もあったが、爆発が起こる瞬間を目撃したのは初めてだった。

 

 

 手のひらが、じっとりと湿る。 頭ではわかっていたつもりだった事象が、ようやく、実感として理解できた気がした。 街が、人々が生活している空間が、一瞬で全て壊れてしまう。

 

 

──その、恐ろしさが。「ま、でも今回の爆発は小規模ね」「そのようですね」 と、琴里と、その後ろに控えていた長身の男──副司令・神無月恭平が声を発する。

 

 

「僥倖──と言いたいところですが、〈ハーミット〉ならばこんなものでしょう」

 

 

「まあ、そうね。精霊の中でも気性の大人しいタイプだし」

 

 士道は、無言のまま自分の額を小突いた。

 

 ──今の爆発が、小規模? 一瞬、琴里たちは何を言っているかわからなかったが、すぐに思い直す。

 

 それはそうだ。今の空間震の規模はせいぜい数十メートル程度である。彼らにしてみれば、比較的軽微なものなのだろう。

 

 

 無論……頭で理解できたからといって、心臓は静まってくれなかったのだけれど。

 

 

「……なあ、琴里」 と、士道は琴里たちの会話に気になる点を見つけて、声を発した。

 

 

「〈ハーミット〉ってのは、一体何のことなんだ?」

 

 

「ああ、今現れた精霊のコードネームよ。ちょっと待ってて。──画面拡大できる?」

 

 

 琴里が、艦橋下段のクルーに指示を出す。 するとすぐに、映像がズームして、街の真ん中にできたクレーターに寄っていった。 と、それに合わせて、画面内に変化が訪ずれる。

 

 

「……雨?」 士道は小さく呟やいた。 そう、ふっと画面が暗くなったかと思うと、ぽつ、ぽつと雨が降り始めたのである。

 

 

 だが──そんな変化は、すぐに気にしてはいられなくなった。 クレーターのように抉り取られた地面の中心に、小さな少女の姿が確認できたからだ。

 

 

「…………っ!?」 心臓を鷲掴みにされるかのような衝撃が、全身を通り抜ける。

 

 拡大された画面の中心に佇ずむ、一人の少女の姿。それに──見覚えがあったのである。

 

 

「あ、れは……」

 

 

士道が見たものとは…ウサギの耳のような飾りのついたフードを被った、青い髪の少女だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「───で、ですよ? その時、私の事庇ってくれて───」

 

 

 

 

 

「その話……四回目ですわ…」

私こと───時崎狂三は弱々しい声で対照的に意気揚々としてる目の前の少女にツッコんだ。

 

 

 

 

今、狂三は昨日からずっと、紗和に惚気話のようなモノをされ続けていた。全てが佐藤関連の話……正直頭がおかしくなりそうだった。

 

 

 

 

「あれ?そうでしたっけ、じゃあ───」

 

 

 

「もう良いです!結構ですので!」

新たに話を始めようとした紗和を大声で辞めさせる。

 

どうしてこうも、恋というものは人を狂わせるのだろう。紗和に関しては狂わせられたというよりもぶっ壊れているという表現のほうが正しそうだが………。

 

 

 

 

 

「続きは…響さんにでも…お願いしますわ…」

 

 

 

「えー!嫌ですよー」

狂三の懇願も虚しく、紗和はきっぱりと断ってくる。

 

 

 

「同じ恋をする者同士!盛り上がりましょうよ!」

ニッコリと笑みを崩さずに言ってくる紗和に……

 

 

 

「私、一昨日から仕事をしておりましたの!貴方と響さんの会話で起こされて、結果…全く寝れていないんですの!お願いですから……寝させてくださいまし…。」

 

 

 

ため息を吐きながらそう告げると、紗和は……残念そうにしながらも「じゃあ、明日でいっか」と、思い直し…狂三を解放してくれた。

 

 

 

 

 

やっと……本当にやっと…解放された狂三は自室のベットに辿り着くと気絶するように眠った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん……名前──、月影…猫音…。色々出てくるなぁ…」

トボトボとその城の廊下を歩きながら呟く。

 

 

 

「あ、白の女───、紗和さーん。」

 

と、そこで、紗和に遠くから話しかけてくるものが居た。

 

 

「……ふふ、丁度いいですね…」

その者の登場に思わず口を緩める。

 

 

 

 

 

 

「──って、ご飯ができたから呼びに来たんですけど。どうかしたんですか?」妙にニコニコしている私の姿に嫌な予感でもしたのだろう、顔を引き攣らせている。

 

 

 

「……ねぇ、響さん。貴方ともお話をつけておかないといけないですよね。」ゆっくりと響の元まで近づいていく。

 

 

 

「……え、えと……」

その言わずもがなな気迫に響はただ混乱していた。

 

 

 

「ねぇ、響さん…。私の質問に嘘偽り無く答えてくれますか?」

 

 

 

「え、ちょっと待ってください?私は何を質問されるんですか?」逆に冷静になれている響は声を上げる。

 

 

 

「貴方も…〝同じ〟ですよね?」

 

 

 

 

その質問に最初は意味がわかっていなかったが。

 

「………あ……えと…。」

理解をすると…次第に響は頬を赤く染めて…視線をあちこちに飛ばし始めていた。

 

 

 

「……人にはその手の事でからかうくせに…、自分は苦手なんですか。」呆れにも似た声音で言うと…、更に響は顔を赤くして俯かせた。

 

 

 

 

「……ま、その反応で分かりましたし……」

 

というか…訊かなくてもわかっていた。親友を救われて…しかも自分の命を救われているのだ。そんな殿方に好意を抱かない理由は無い。

 

 

 

「う…うぅ…。何なんですかぁ!急にキャラが変わったと思ったらそんな風になりだして!」

 

半ば逆ギレみたいに声を張り上げる響…。

 

 

 

「でも…響さんには感謝してるんですよ?私の気持ちに気付かさせてくれたんですから…」

 

 

「………何ですか。別に私は、そこまで佐藤さんの事は────」

 

 

と、その時。

 

 

「ひっびきー!!」

 

 

「ごふぁっ……」

突如、響の背後に体当たりの要領で抱き着いてくる者が居た。

 

 

 

「なッ……普通に痛いんですけど…」

その者の顔を確認しながら非難の声を上げるが、

 

 

 

「やっぱり、響ったらおもしろーい!」

何も悪びれること無くあははっと笑う少女。

 

 

 

「あぁ、今帰ったんですか。〝夕映〟さん」

恐らく仕事から帰ってきたのだろう…そう思いその名前を呼ぶ。

 

 

 

 

「あっ…白の女王さんも、居たんですか…って……〝さん〟?」何か腑に落ちない言葉が聞こえたが放って置く。

 

 

 

 

「えーっと…、今の紗──、白の女王さんはまた変わってるんですよ。」

 

 

 

「あ!あぁぁ…なるほどね?」

響がコソッと耳元で囁くと納得の声を上げる夕映。

 

 

 

 

「それでー?響たちは何話してたの?」

話を戻し、いつも通りの元気な声音で尋ねてくる。

 

 

 

「ぶつかった事には何もなしなんですか…。まぁ良いですけど。……佐藤さんの事で話してたんですよ」

 

 

「佐藤さんのこと!?……また、響ったらその話してたの?!」

 

 

「〝また〟?」

気になる発言があり紗和は、眉をひそめる。

 

 

 

 

「そうなんですよ?!響って、一昨日に私が出かける前もずっと────」

 

 

 

 

「わー!わー!ナンデモナイデスヨー!」

夕映が紗和に何かを喋ろうとしたが、それよりも早く響が夕映の口元を手で覆い言葉を遮るように大声を発してくる。

 

 

 

 

「それは、秘密って言いましたよね…?」

響が夕映にだけ聞こえる声で囁く。

 

 

「えぇーだって〜…」

 

 

「だってもくそもありません!お願いだから、黙っててください!」

響が迫真の表情で言い切ると、不満そうに唇を尖らせながらも…渋々納得した。

 

 

 

 

「あのー…。響さん」

 

 

「ひゃうあっ! どっ、どうしましたか?!」

コソコソ話中にその声が聞こえたもんだから思わず声が上ずってしまう。

 

 

 

「もう、その話はいいですよ。…早く食堂まで行きましょう?夕映さんが帰ってきたなら皆さん揃ってるでしょうし…」ため息を吐きながら言うと、そ…そうですねぇ〜…と、目を泳がせながらもあるき出した。

 

 

 

 

「えっ…、ご飯!?ご飯できてるの!?」

響の腕に絡みつきながら興奮気味に声を上げてくる夕映に

 

 

「夕映は取り敢えずご飯抜きです。」

 

 

「なんでぇ〜!?」

響が真顔でいうと、ショックを受けながら更に絡んでくる。

 

 

 

「あぁ、もうっ…冗談ですから、別に本気で言ってませんよ!」

 

 

 

「ほんと?やったー!」

喜びを表すようにぴょんぴょん跳ねまくる夕映の、腕を引き離そうと奮起する響だったが無駄に終わった。

 

 

 

 

 

 

「それで?第十領域(マルクト)のトーナメントって今回は誰が勝ったんですか?」彼女たちの〝仕事〟の結果について紗和が話を振ると夕映は響の手を離し唇を開いてくる。

 

 

「……今回もシスタスさんだよぉ…。いやー…私は後ちょっとで蒼さんには勝てそうだったんだけどな〜」悔しそうに頭を掻きながらその結果を話してくれた。

 

 

「そりゃあ。シスタスさんなんて、殆ど狂三さんと同じスペックですし、私たちに負けるほうが難しいですよ」響が苦笑いしながら言うと「それでも悔しい〜!!」と、口を窄めていた。

 

 

 

「…佐藤さんのお陰で死にはしないとはいえ痛みはあるんですから、気をつけないとだめですよ?」

 

 

「はっ、はい!肝に銘じておきます!」

紗和が言うと声のトーンを上げて返してきた。

 

 

 

「なんで、夕映って、そんなにかしこまるんですか?」

響が小さな声で囁くと、

 

 

「だって、白の女王さんって…隣界を変えた英雄の一人なんだよ!?敬語使うに決まってるじゃんっ、その上で真性の精霊で強いんだよ!?そんなに軽く接する響のほうがおかしいよ!」

 

真剣そうな表情でそんな言葉を返してくる。小さな声でわざわざ話しかけたのに夕映が大きな声で喋るから紗和にも聞こえてしまっていた。

 

 

 

「まぁ、そうだけど………」

確かに経歴だけなら紗和さんなんてこの世界の英雄みたいなものだし、何でこんなにフレンドリーに接せているかなんて自分でも分からない。

 

 

 

「別に夕映さんも、私にタメ口で大丈夫ですよ?」

 

 

 

「え、えぇ…」

夕映はただただ恐れ多いという風に狼狽していた。

 

 

 

「まぁ、その話は後々でいいですか。…っと、着きましたね」

そこで食堂の扉にたどり着き、響が扉を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、話は終わりですか?」

 

食堂での会議は終わり……紗和が司会を努め、意見をまとめていく。

 

 

 

───本来なら、きっと私はこんな場所にいない。支配者(ドミニオン)たちも、ここまでお互いを信じ合うようになどならなかった。

 

 

 

(本当に……佐藤さんって、凄いなぁ。)

 

 

 

改めてその凄まじさを理解してしまう。

 

力、能力──というより、神憑り的なカリスマ性か……。

 

 

 

 

沢山の準精霊たちを救った、エンプティ化を消し去り、その上できちんと目的を持てるようにその人達に様々な知識を教えた。

 

 

 

確かに、佐藤さんが来るまでは死んでしまったエンプティが居るかも知れない…だとしても、この偉業は本当に凄いことだと思う。

 

 

 

 

一癖も二癖もある支配者(ドミニオン)たちを纏め上げ、一部の支配者(ドミニオン)は佐藤に心の底から忠義を誓っている者も居る。

 

 

 

 

と、そんな考えに耽る時間は無いんだった。

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、この方針で大丈夫ってことで、良いですか?」

紗和が問うと、全員コクリと頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……つっかれたー」椅子の背もたれに盛大に寄りかかり息を漏らすのは先程から隣にいた響だった。

 

 

「そんなに疲れたなら、自室に戻っても───」

 

 

 

 

と、喋ろうとした瞬間。何者かに裾を引っ張られる感覚がして動きを止める。

 

 

 

 

 

「誰かと思ったら、〝カリン〟さんでしたか。」

 

恵琉芭カリン──人見知りで滅多に…というか佐藤以外には殆ど喋りかけない〝第十領域の支配者(ドミニオン)〟…。まぁ、そうは言っても彼女自身が争いを好まないし、支配者(ドミニオン)自体も佐藤の推薦なので仮初みたいなものだが。

 

 

 

「佐藤……帰ってこないの…?」

本当にか細い声で言いながら、持っている子犬の人形をぎゅっと抱きしめる。

 

 

あぁ、なぜ話しかけてきたと思ったらそういうことか。定例会議には必ず佐藤は居たし、それが居なかったから不安になったのだろう。

 

 

「佐藤さんなら、あっちの世界で一悶着あるまで帰ってこられないと言っていましたよ。」

 

 

 

「ぇ……」

 

 

紗和の告げた言葉に言葉を失うカリン──

 

 

 

 

「……」

 

まぁ、無理もないだろう。この子が唯一心を開けるなんて佐藤しか───

 

 

 

 

「佐藤のお人形作ったから…見てほしかったのになぁ」

そう言うとどこからか、二〇cmほどの人形を取り出す。

 

 

 

 

「………」

カリン───佐藤に救われた影響でとんでもないほど彼に愛情を向ける少女。

 

 

 

まぁ、佐藤は第三領域から、二、四、五、六、七……という風に行ったから第十領域なんて一番遅れた場所。だから救える精霊もギリギリになってしまったのだが。

 

 

 

その中でもカリンは、エンプティだった。しかも、寝たきり生活で誰も見向きもしない。そんな所に自分の病弱さを消してくれて、気遣ってくれる人が来たら……まぁ、こんな事になってしまうのも頷ける。

 

 

 

 

だが、佐藤が言うにはカリンはかなり危険な存在らしい。あの時誰も声をかけなかった場合、かなりの準精霊が亡くなっていたとか。

 

 

 

 

 

「あの、カリンさん。貴方の無銘天使は何でしたっけ?」

 

 

 

「えっと……【傀儡昵懇(アミカス・エルバ)】って言う、お人形さんを…作れる…無銘…天使」またも聞こえるギリギリのか細い声で答えてくる。

 

 

 

 

 

「人形……。」

あの人が重視していたのは…その力だったのだろうか。今となっては聞いてみないと分からないが。

 

 

 

 

「でも…ね。佐藤は…友達じゃないの。」

 

 

 

 

 

 

「……?」

友達じゃない?じゃあ、なんなのだろう。親友…?

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の…未来の旦那様…」

 

 

 

 

 

 

 

「………」

顔をぽっと赤くしながらカリンが小さな声で言ってくる。

 

 

 

思わず額に手を当て、俯いてしまう。どうして、こうも…ライバルが多いのだろうか……、

 

 

 

 

 

「………」

心なしか、響もこの会話に聞き耳を立てているような気がする。

 

 

 

「だからね、白の女王。佐藤は…私の旦那様…誰にも…渡さないよ」

 

小さいながらも…はっきりと、意見を述べてくる。

 

 

 

 

「あれ?私なんの事を言われてるのか分かりませんよ?」

 

 

 

「すっとぼけ…ないで。私の…目は誤魔化…せない」

白々しい紗和に睨みをきかせながらカリンが申し立ててくる。

 

 

 

「いくら隣界を救った英雄…でも…。佐藤は渡さ…ない。」持っていた子犬のぬいぐるみの綿が仕切られるぐらいに締め付ける腕の力が強くなる。

 

 

 

「へぇ〜……。佐藤さんを…渡さない。ですか…それはこっちの台詞ですよ?」挑発するように飄々と言うと、カリンの目はどんどん鋭くなっていった。

 

 

 

 

 

 

と、そこで…カリンは響の方も一瞥し、指をさしながら言う。

 

 

「貴方にも…、佐藤は。渡さない…から…」

 

 

 

「え、えぇ!私ですか!? 私、今布告されたんですか?!」妙なオーバーリアクションで驚く響。

 

 

 

「貴方の…ことも、…わかってる。この女みたいに…ごまかしなんて要らない…。」

 

 

 

「いっ、いやー…。私はそんなに───」

目を逸らしながら声を上擦らせ言うと。

 

 

 

 

「そう…なの?」

 

 

「そうだったんですか。」

響の台詞に合わせて紗和とカリンは声を上げる。

 

 

 

 

「じゃあ、貴方は佐藤の事が〝好きじゃない〟…それで良いんだね…」

 

 

「あー、そうだったんですかー。じゃあ、響さんは候補から除外しますかー…」

 

 

 

 

「あ…、えっとぉ……そのぉ……」

その言葉に後悔したかのように言葉を濁し始める響。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、その時。

 

 

 

 

「響、もうちょっと、素直になろうよー…私に話す時には…。"佐藤さんって滅茶苦茶カッコいいですよね!"って、まくし立てるぐらい好きなの─────」

 

 

不意を突かれたように乱入してきた夕映の手──もとい口によって、爆弾を落とされる。

 

 

響が夕映への脇腹攻撃が少し遅れたのも理由としてはあるだろう。

 

 

 

 

 

「…ほらー…行ってきなよ。言っちゃえば楽だよー」

 

ほんの少しだけ脇腹を押さえ、苦しそうにしながらも。

 

お気楽に言い放つと同時に響を立ち上がらせ、背中をドンッと押した。

 

 

 

 

 

 

 

結果……

「……で?何か…言いたいことでもあるんですか?"佐藤さんが別に好きではない人"。」

 

 

「何か、話…でもある…んです─か?……"佐藤が好きじゃない人"」

 

 

 

 

「そっ、その呼び方辞めてくださいよー!」

同時に紗和とカリンが同じようなことを言うと、響が顔を真っ赤にする。

 

 

 

 

 

「……それで…その…。」

最初は言い渋っていたが……。

 

 

 

 

 

 

 

「わっ…わたし…は…!。さと…う…さん…が…。…すっ…好き…でしゅ…!!」顔を真っ赤にして、最早呂律も何も無い舌すら回っていない口で…白状する。

 

 

 

 

 

 

 

「……ま、別に最初から気付いてますけど」

 

「うん……特に…何も…ない」

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、なんで言わせたんですかぁ!?」

響とは対照的に冷めた態度で言うと堪らず響が叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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『未来が……正史が捻れている?』

その場所でボクは呟いた。

 

 

『……小さな歪、だが……明らかに"何か”が故意的にずらしている。』

 

なんだこれは、あり得ない。このボクにまで干渉できる筈がない。だとしたら……これは何だ。妙な既視感、ボクは一度このような歪み方を見たことがある。

 

 

 

まるで、特異(バグ)。生まれた時点で世界にノイズを与える不純物。

 

 

 

だが、まだ決まったわけではない。それに、この程度の歪ならすぐにでも消せる。

 

 

 

『今は…放置という奴かな』

そう考えを決めると別の世界にも特異(バク)がないを探し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神を騙すには、自分すら騙さなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






はい、これで四話は終わりっす。

今回は独自解釈のフルコースでした。というかやっと、佐藤の本名が決まりました。もとから候補はありましたがダチに名前使っていいかを聞いたらOKをもらえたのでね。


まぁ、公開するのかなり未来だろうな。






というわけで、なぜか隣界の話のほうが進んでいる今日此の頃でした。



そうだ、因みに何も関係の無いこと言って終わるんですが。佐藤の一番得意な技能は演技です。
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