デート・ア・ライブIF 【エラー】   作:セルヴェイエ

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2週間と何日かぶりです。


今回で狂三編第三話ですね、面白くなりそうでこちらとしても嬉しいです。


佐藤と鷹禾の絡みもいつか出すことが出来たら最高なんですけどね。


今回では隣界組の出番はないと思います…、というか前回があり過ぎた。


一応、真那と鷹禾は結構仲の良い二人という設定です。真那の過去を鷹禾が既知なのかは…不明ですけどね。




ではでは、長くなりましたが…第三話をお楽しみください。














王冠【十六】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『へぇ〜!真那さんって、お兄さんがいたんですね!』

 

 

「まぁ、思い出したのはつい最近でいやがりますけどね…」

 

 

 

 

 

 

 現在……五河士道はものすごーく不思議な状況に巻き込まれている。

 

 

突如として士道を兄と言う少女が現れた……胡散臭いことこの上ないが、路上で突然士道に抱きついたあと、その場にへたり込み、目に涙を浮かべながら、自分がどれだけ士道に会いたかったかを切々と語りだしたため、仕方なく家に連れて行こうとしていたのだ。

 

というか、まぁ……この少女を家に連れてこいと提言してきたのは士道の妹様であるのだが。

 

 

そして…もう一人…その少女が「兄様にも紹介したい」と、言うもんだから男の子も連れて行っていた。

 

 

 

 

 

「えっと、それで君たちの名前は?」

 

 

 

「崇宮真那でいやがりますよっ!」

 

『佐藤鷹禾です!鷹禾で大丈夫ですよ!』

 

士道が試しに問うてみると二人の男女が元気よく答えてきた。

 

 

「むっ…、…サトーだと?」

予めあまり喋らないように頼んでいたが、その名字を聞いた瞬間。十香がピクリと眉を動かした。

 

 

「あー……」

佐藤なんて珍しい名字じゃないため、驚くような事でもないのだが…そもそも名を知っている母数の少ない十香には怪訝なことであったのだろう。

 

 

『それにしても、真那さんのお兄さん……カッコいいですね!学校だとモテモテですか?!』世辞なのか本気なのか、士道には分からないがとにかく目をキラキラさせて問うてきた。

 

 

「え、いや……そんなことないけど…」

 

 

『それもそうですよね!なんて言ったって、もう彼女さんがいるんだし!』何かに納得するように腕組みしながらうんうんと鷹禾は頷いた。

 

 

「あ、あのだな…鷹禾?、俺と十香はそんな関係じゃ───」

 

 

「そうです兄様。あまり真那は感心しねーですよ」

士道の否定を真那が掻き消してくる。

 

 

「は? 何がだ……?」

 

 

「決まっていやがります! 鳶一──じゃなくて、ええと、ね、義姉様というものがありながら、他の女性とも関係を持つなどと……」

 

 真那がこほんと咳払いをしてから、頬を染めて言ってくる。

 

 

「は──はぁっ!?」

 士道は目を剥いて叫びを上げた。

 

「? どうかしやがりましたか」

 

「つっこみどころ多すぎるわ! まず何だって? おまえ、折紙と知り合いなのか?」

 

「ええ、まあ。ひょんなことから」 誤魔化すように目を泳がせながら、真那が言ってくる。まあどこで接点を持ったのかは非常に気になったが、今はもっと気に留めねばならないことがあった。

 

「それで……その義姉様ってのは一体なんだ……?」

 

「いや、私もその呼び方に抵抗がなくはねーのですが、将来的にそうなるからと……」

 

「そんな予定はないからな!?」

 

「そ、そうなのですか……?」 真那は困惑気味に眉をひそめた。

 

「しかし、そうだとしても兄様の二股疑惑は……」

 

 

「ふたまた。なんだそれは?」

『何ですかね…?』

 

 十香と鷹禾が首を傾げる。

 

鷹禾に関してはまだ良いが、十香はまた不穏な言葉に食いついてくれたものだった。 しかし士道が弁明……というか誤魔化しに入る前に、真那が十香に向かって声を発した。

 

 

「単刀直入に訊きます。十香さんでしたね。あなたは兄様とお付き合いしていやがられるのですか?」

 

「な……っ!」 士道は顔を赤くしてその質問の間に入った。

 

「な、何言ってやがんだ、違うってさっきも言おうとしただろッ!」 真那が、十香に訝かしげな目を向ける。

 

「……十香さん? 兄様とデートなどしやがったことは?」 と、真那が士道の脇から顔を出し、十香に質問を投げた。

 

 

「おお、あるぞ!」

 

 

「…………」

 真那が、じとーっとした目で士道を睨んでくる。

 

 

「い、いや、そのだな……」 嘘でない分否定がしづらい。士道は顔中に汗を浮かべる。と、真那が頬を染めながら、恐る恐るといった調子で、十香に再度質問をする。

 

 

「十香さん。もしかして、ちゅーも既に……?」

 

 

「ちゅー?」

 

 

「き、キスのことです」

 

 

「ん、したぞ?」

 

 

「……っ!!」

 十香があっけらかんと答えると、真那が目をくわっと見開いた。

 

 

「ふ、不潔ですっ!」

 

「お、落ち着けって……」

 

「まさか兄様がこんなジゴロになっていようとは……! 真那は悲しいです! 矯正です! 矯正が必要です!」

 

 

「ジゴロとはなんだ?」 十香がまたも、興味津々といった様子で問いかけてくる。

 

しかし、運が良かった。士道が会話に夢中になっている途中で、居宅たどり着いたのだ。

 

 

士道は頭を掻きむしると、十香の背を押して隣のマンションの前に移動させた。

 

 

「ぬ? シドー、なぜ押すのだ?」

 

 

「話がややこしくなるから、とりあえず自分の部屋に戻っててくれ! な!?」

 

 

「むう、だがしかし」

 

 

「今日の夕飯ハンバーグにしてやっから!」

 

 

「おお、本当か!?」 士道が言うと、十香は目を輝やかせて、手を振りながらマンションに駆けていった。

 

 

「シドー! 上に目玉焼きもだぞ!」

 士道ははいはい、と手を振り、その背を見送った。

 

 

「……随分と女性のあしらい方に慣れていやがるようですね」 真那が半眼を作りながらそう言ってくる。

 

 

 

ピピピピピピ────

 

そして…士道が真那の言葉をスルーして門をくぐろうとしたとき、軽い電子音が近くから聞こえた。

 

 

『あ、……すいません。用事ができちゃいました。わざわざここまでしてもらって申し訳ないんですけど家に帰りますね』

鷹禾は申し訳なさそうに言うと、真那に何かを耳打ちした。耳打ちされた真那は釈然としないように顔を歪めながらも首を縦に振った。

 

 

 

「え…、鷹禾…?もう遅いんだし、流石に一人で帰るなんて駄目だろ…」

 今は六時三十分、こんな時間に子どもを一人で帰らせるのもなにかバツが悪い……しかも、真那の事を知る第三者なのなら、質問をしてみたい。

 

 

『いえいえ、せっかくご兄妹が再会できたんですし、水を差したくありませんから』

士道が言うも、鷹禾は年齢に見合わない言葉を並べ立ててペコリとお辞儀をしてから去っていった。

 

 

止めようとしたのだが、真那が「大丈夫ですよ」…と言いたげな視線を向けてくるもんだから鷹禾の後ろ姿を見届けて止めるのをやめた。

 

 

複雑な心境になったが、今はふうと息を吐いて思考を変えた。

 

 

…士道は五河家の門をくぐり。 …そして、ノブに手を掛かけ、玄関を開ける。

 

 

 すると──

 

 

「──おかえり、おにーちゃん」

 玄関で待ちかまえていた私服の琴里(無論、リボンは黒のままである)が、妙に『おにーちゃん』の部分に力を込めて言ってきた。 客人をもてなすために、〈フラクシナス〉で先回りして待機していたのである。

 

「お、おう……ただいま」 士道は言い知れぬプレッシャーに汗を滲ませながらも、小さく手を上げて返した。

 

 琴里はわざとらしく、士道の左隣の真那に視線やってから声を上げる。「あら、そちらの方はだれ?」

 

 定形通りの質問。まあ仕方あるまい。ずっと家にいた(ということになっている)琴里が、先ほどの路上の出来事を知っているのはおかしい。

 

「あ、ああ……ちょっとそこで会ってな。なんでも──」 と、士道の言葉の途中で、真那が先に進み出た。

 

「お家の方でいらっしゃいやがりますか!? うちの兄様がお世話になっていやがります!」

 満面の笑みでそう言い、半ば無理矢理琴里の手を取ってわっしわっしと握手を交わす。珍しく琴里が、辟易気味に汗を垂らした。

 

「兄様? 士道が?」

 

「はい! 私、崇宮真那と申します! 兄様の妹です!」

 

 琴里は鼻から息を吐き出すと、真那の手を払って家の奥を示した。

 

 

「まあ、とりあえず入って。詳しい話を聞かせてちょうだい」

 

「はい!」 真那が元気よく返事をして、琴里のあとについていった。

 

 

「……はあ」 なんだか厄介なことになりそうな気しかしない。

 

 小さく息を吐くと、二人のあとを追って靴を脱ぎ、リビングに入っていく。 すると既にテーブルにはお茶とお菓子が用意され、向かい合ったソファにそれぞれ琴里と真那が腰掛けていた。

 

 琴里にあごで示され、真那の隣に腰掛ける。なんだか三者面談のような格好になった。

 

「──さて、と。じゃあ話を聞きたいんだけど」

 

「はい!」 琴里の言葉に、真那が快活に返事をする。

 

「真那、っていったかしら。あなたは……自分が士道の妹だっていうのよね?」

 

「その通りです」

 真那が深々とうなずく。

 

琴里はくわえていたチュッパチャプスの棒をピンと立てながら、真那の反応を窺うように言葉を続けた。

 

「私は五河琴里。──私も、士道の妹なのだけれど」

 

「……?」

 琴里の言葉に真那は一瞬首を傾げ──「はっ……! ということはまさか、姉様……!?」

 

「違うわっ!」

 

「あ、これは失礼。──ごめんね琴里。お姉ちゃんてっきり」

 

「妹でもないわよ!?」

 琴里が、司令官モードには珍しく大声を発する。士道が驚ろいて目をやると、琴里はこほんと咳払いをした。

 

「いやはは、てっきり私の記憶にねー姉妹がいやがるのかと思いました」

 

「まったく……」 琴里がため息混じりに頭をかく。随分とまあ、ペースを乱されているようだった。

 

「しかし……妹、ね」

 琴里が、半眼を作って真那を睨め付ける。 普通に考えれば、突然「私はあなたの妹だ」なんて言われても信じられるはずがない。

 

 だが士道に関しては、そんなことあり得ないとは言い切れない事情があったのである。

 

 少なくとも、士道には琴里以外の妹がいたという記憶はない。

 

 だが──実は士道は、この五河家の本当の息子ではないのだ。 幼少の頃に、実の母親に捨てられて以来、この家の子供として育てられた。

 

 だから真那の言葉を、完全に嘘や妄言と断ずることができなかったのである。士道が覚えていないだけで、真那が本当に血の繋がった妹という可能性だってなくはないのだから。

 

 ……まあ、それにしたって、士道でさえ記憶が曖昧な幼少期に離ればなれになったことを、より年下の真那が覚えているというのも信じがたい話だが。

 

「ええと……真那。ちょっと質問いいか?」

 

「はい! 何でしょう、兄様!」

 士道が声をかけると、真那は心底嬉うれしそうに、跳とび上がらんばかりの勢いで答えた。

 

琴里がなぜか不機嫌そうに、フンと鼻を鳴らす。

 

 

「その……すまん、俺は君のことを覚えてないんだが……」

 

「無理もねーです」 真那が腕組みし、うんうんとうなずく。

 

 士道はごくりと唾液を飲み下すと、もっとも気になっていることを口に出した。

 

 

「一つ訊きたいんだが──君のお母さんって……今は」 そう。 もし真那が士道の実の妹だというのなら──それを知っているはずなのである。

 

 

 士道を捨てた、実の母。 だが──「さあ」 真那は首を傾げると、あっけらかんとした調子でそう言った。

 

「え……?」 士道は眉根を寄せた。──まさか、真那も士道のあと、捨てられたということだろうか?

 

 と、士道の表情から思考を推し量ったのか、真那が首を横に振ふってくる。

 

「あ、ちげーますちげーます。そういうことじゃなく──」 真那は恥ずかしそうに苦笑すると、手元に置かれた紅茶を一口飲んでから言葉を続けた。

 

「私──実は昔の記憶がすぱっとねーんです」

 

「……なんですって?」 その言葉に、不審そうな色を濃くしたのは琴里である。軽く姿勢を直して真那に向かい、再び唇を開く。

 

 

「昔のって、一体どれくらい?」

 

「そうですね、ここ二、三年のことは覚えてやがるんですが、それ以前はちょっと」

 

「二、三年って……じゃあなんで士道が自分の兄だなんてわかるのよ」

 

 琴里が問うと、真那が胸元から銀色のロケットを取り出し、中に収められている、やたらと色あせた写真を見せてくる。そこには、幼い士道と真那の姿があった。

 

「これ……俺か」 士道は驚きの声を上げた。しかし──琴里は怪訝そうな顔を作る。

 

「ちょっと待ってよ。これ、士道一〇歳くらいじゃない? その頃にはもう、うちに来てたはずでしょ?」

 

「あ……そういえば」 言われて頬をかく。だがこの写真の男の子が士道にしか見えないのもまた、事実だった。

 

「そうなのですか? 不思議なこともあるものですねえ」

 

「不思議って……他人の空似なんじゃないの? 確かに……かなり似てはいるけども」

 

「いえ、間違いねーです。兄様は兄様です」

 

「……なんでそう言い切れるのよ」 琴里が問うと、真那は自信満々に胸をドンと叩いた。

 

「そこはそれ、兄妹の絆で!」

 

「…………」 琴里は話にならないといった調子で肩をすくめ、はふぅと吐息した。……なぜだろうか、少しだけ安堵しているようにも見える。

 

 しかし真那は、感慨深げに目を伏せて言葉を続けた。「いや、自分でも驚いてやがるのです。本当にびっくりしました。兄様を見たとき、こう、ビビッときたのです」

 

「何それ。安い一目惚れじゃあるまいし」

 

「はっ、これは一目惚れでしたか。──琴里さん、お兄さんを私にください」

 

「やるかッ!」 琴里は反射的に叫んだあと、ハッとした様子でわざとらしく咳払いをした。

 

 

「とにかく、よ。そんな薄弱な理由で妹だなんて言われても困るわ。第一、士道はもううちの家族なの。それを今さら連れていこうだなんて──」

 

「そんなつもりはねーですよ?」

 

「え?」 あっけらかんと答えた真那に、琴里が目を丸くする。

 

 

「兄様を家族として受け入れてくれやがったこの家の方々には、感謝の言葉もねーです。兄様が幸せに暮らしているのなら、それだけで真那は満足です」

 

 言って、真那がテーブルを越えて、再び琴里の手を取る。「む……」 琴里が、ばつが悪そうに口をへの字に結ぶ。

 

 

「ふん……何よ、一応わかってはいるみたいじゃない」

 

「ええ。──ぼんやりとした記憶ではありますが、兄様がどこかへ行ってしまったことだけは覚えています。確かに寂しかったですが、それ以上に、兄様がちゃんと元気でいるかどうかが不安でした。──だから、今兄様がきちんと生活できていることがわかってとても嬉しいです。こんなに可愛らしい義妹さんもいやがるようですし」

 

 言って、真那がにっと笑う。琴里は頬を染め、居心地悪そうに目を逸そらした。

 

「な、何よ、そんなこと言ったって──」

 

「まあ、もちろん」 と、真那が琴里の言葉の途中で口を開く。

 

 

 

 

 

「実の妹には敵かなわねーですけども」

 

 

 

「…………」

 

 瞬間。ぴきッ、と、空気にヒビが入るような音が聞こえた気がした。

 

 

「お、おい、琴里……?」 士道が言うも、琴里には聞こえていないようだった。ピクピクと頬の筋肉を収縮させながら、やたら引きつった笑みを浮うかべている。

 

 

「へえ……そうかしら?」

 

「いや、そりゃそーでしょう。血に勝る縁はねーですから」

 

「でも、遠い親戚より近くの他人とも言うわよね」

 

 琴里が言った瞬間、今度は終始にこやかだった真那のこめかみがぴくりと動いた。

 

 

 そして一拍おいたあと、真那が琴里の手を放し、テーブルに手を突く。

 

「いやっはっは……でもまあほら? やっぱり最後の最後は、血を分けた妹に落ち着きやがるというか。三つ子の魂百までって言いやがりますし」

 

「……ぐ。ふ、ふん。でもあれよね、義理であろうと、なんだかんだで一緒の時間を長く過ごしてるのって大きいわよね」

 

「いやいや、でも結局他人は他人ですし。その点実妹は血縁ですからね。血を分けてますからね! まず妹指数の基準値が段違いですからね!」 真那が高らかに叫ぶ。妹指数。あまり聞いたことのない単語だった。

 

 

 しかし、琴里は疑問を差し挟むふうもなく言葉を返す。

 

「血縁血縁って、他に言うことないの? 義理だろうが何だろうが、こっちは一〇年以上妹やってんのよ! どっちが妹指数高いかだなんて明白でしょうが!」

 

「笑止! 幼い頃に引き裂さかれた兄妹が、時を超えて再会する! 感動的じゃねーですか! 真の絆の前には、時間など関係ねーのですよ!」

 

「うっさい! 血縁がナンボのもんよ! 実妹じゃ結婚だってできないじゃない!」

 

 

「「え……?」」 士道と真那の声がハモる。なんだか、おかしなことを聞いた気がする。

 

 琴里はハッと目を見開くと、頬を真っ赤に染め、誤魔化すようにテーブルを叩いた。

 

「と、とにかくよ! 今の妹は私なの!」

 

「何を! 実の妹の方がつえーに決まっていやがります!」

 

「強いって何よ、妹関係ないじゃない!」

 

「ま、まあ落ち着けって、二人とも」 士道が頬に汗を滲ませながら二人をなだめようとすると、琴里と真那は同時にバッ! と士道に顔を向けてきた。

 

「士道、あなたは!」

 

「実妹、義妹、どっち派でいやがるのですか!?」

 

「え、ええッ!?」 突然予想外の問いを振られ、情けない声を発する。

 

「い、いや……どっち派って……」

 

「「…………」」 琴里と真那が、じーっと見つめてくる。どちらを選んでもろくなことになりそうにないのは容易く知れた。どうにか話題を逸らすべく、思考を巡らせる。

 

「! そ、そうだ、真那」

 

「はい?」 ポンと手を打って声をかけると、真那がキョトンとした様子で首を傾かげた。

 

「おまえ、昔の記憶がないって言ってたよな」

 

「ええ、そうですが」

 

「じゃあ、今はどこに住んでるんだ? 家族と暮らしてるってわけでもないんだろ?」

 

「あー……っと」 と、そこで初めて、ハキハキとした受け答えをしていた真那が口を濁した。

 

「ま、まあ、ちょっと、いろいろありやがるんです」

 

「いろいろって……」

 

「えーと……ですね。こう特殊な全寮制の職場で働いてるというか……」

 

「職場……? 真那、今歳いくつだ? 琴里と同じくらいじゃないのか? 学校は? さっき連れてた鷹禾もかなり年端いってなかったよな?」

 

 まあ琴里は琴里で秘匿組織の司令官なんぞをやっているわけだが……ちゃんと学校にも行っている。

 

 真那は気まずそうに目を泳がせた。

 

「そ、その……えーと……ま、またお邪魔しますっ!」

 

「へ……? ちょ、待っ──」 真那はそう言うと、士道の制止も聞かず、脱兎の如く去っていった。

 

「な……なんだったんだ、一体……」 頬をかき、真那が消えた扉を呆然と眺める。

 

 

 

 

コンコン─────

 

 

と、次に扉からノックのような音が聞こえた。

 

 

『あー……、俺だ。佐藤だ…、話があるんだが良いか?』

すると扉の奥から久しぶりに聞く声が鼓膜を震わせた。

 

 

 

 

 

 

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー

 

 

 

その後、取り敢えずソファに座らせられた士道は唇を開く。

 

「それで、どうしたんだよ急に。というか何で今日休んでたんだ?」

 

まくし立てるように尋ねる士道に佐藤はまぁと手をやって抑えてくる。

 

 

『情報だよ、そう……情報だ。』

 

 

「情報?」

士道の隣に腰掛ける琴里が足を組みながら訝しげに眉をひそめた。

 

 

『ああ、今日の転校生……時崎って言ったか?───アイツの事についてだ』

 

 

「……!」

ポツリと出てきた事実に士道は驚きを隠せずに目を開いてしまった。

 

 

「何で、佐藤はそんな事────」

当たり前の疑問は佐藤の咳払いによって遮られた。

 

 

「それでぇー?何話すのよ」

本題が逸れていくことに飽き飽きした琴里が話を催促してくる。

 

 

『五河士道、ここから先の情報はお前の決意を壊してしまうかもしれない。一応五河琴里には話すつもりだが、聞きたくなければ外に出てていいぞ。』

 

 

「……」

神妙な面持ちで話を進める佐藤に思わず士道は固唾を飲んでしまった。

 

 

だが───決意なんて固まっている。四糸乃を助けると思ったときから、十香から「助けてやってくれ」と言われた時から……。

 

 

 下げていた顔を上げて佐藤と目を合わせ口を開く。

 

「ああ、大丈夫だ。続けてくれ…佐藤」

 

 

士道をそう言ったのだが…妙に琴里だけは懸念点があるように思考を巡らせていた。

 

 

 

 

そうしてその言葉を…佐藤は紡いだ。

 

 

 

 

『……あの女───いや、精霊は────

 

 

 

 

         人を故意的に殺害している』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜◆〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。キーンコーンカーンコーン、と、聞き慣れたチャイムが鼓膜を震わせる。

 

 時計の針は八時三〇分を示していた。朝のホームルームの開始時刻である。辺りで談笑していたクラスメートたちがわらわらと席に着き始めていく。

 

 

「………」 そんな中。早めに席に着いていた士道は顔を蒼白させ、昨日の佐藤の言葉を思い出していた。

 

 

あの衝撃的な告発のあと、端的に佐藤から説明を受けた。あまりにも淡々としていて士道は質問もできずにただ聞くことしかできなかった。

 

 

その後は…よく覚えていない。佐藤はいつの間にか帰っていて、琴里からも気を遣われすぐに自室のベットに倒れるようにうつぶせになった。

 

 

「シドー…?具合でも悪いのか…?」

後ろに座る十香が心配そうに声をかけてきた。

 

 

「ああ、いや……大丈夫だよ…」

面を上げると苦笑いを浮かべて言葉を返した。 流石に十香にもこの話をするわけにはいかないし、心配もかけたくない士道は否定をした。

 

 

 

 十香が怪訝そうながらも質問を辞めたところで、ガラッと教室の扉が開き、出席簿を両手で抱えるように持ったタマちゃん教諭が入ってきた。すぐさま学級委員が、起立と礼の号令をかける。

 

 

複雑な心境だが号令を無視するわけにもいかない。士道は皆と一緒に礼をしてから着席した。

 

 

「はい、皆さんおはよぉございます。じゃあ出席取りますね」 言ってタマちゃんが出席簿を開き、生徒の名前を順に読み上げていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして、昼休みにも…ご飯を食う気が起きずに。とある人物に呼ばれた場所へと向かっていた。

 

 

 

 

士道の顔つきなどから、何かを察してくれているのか…殿町はあまりうざ絡みしてこなく、十香もしょんぼりとしながらも強引に飯を食べさせようとなどはして来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー

 

 

 

 

 

 

『憂鬱そうな顔してるな、士道。』

 

昼休み……人けのないその場所に辿り着いた士道の元には軽く笑いながら手を振ってくる佐藤が居た。

 

 

「あんな話された次の日なんだぞ…。まともに狂三の顔も見れなかったし……」嘆息しながら言うとさらに佐藤はカラカラと笑ってきた。

 

 

『ま、……そうなるだろうな。』

 

 

「………」

 

 

『でも、まさかお前があの〝クソガキ〟と会っていたなんてな』しれっとあの鷹禾に酷いことを言う佐藤を半目で見つつ、ため息を吐いた。

 

 

「昨日から思ってたけどさ…、何で鷹禾の事そんなに邪見に扱うんだよ。」

 

───そう、昨日。ふとした問答の中で琴里が士道に質問した少年。その名を上げると、途端に佐藤の機嫌が悪くなったような気がした。

 

 

佐藤曰く…『あのガキは嫌い』──らしい。ここまで佐藤が他者を邪見にするのも初めてで、というか人殺しの狂三すら嫌わないのにただの子供の鷹禾を嫌うこと自体がちょっとよく分からないのだが…。

 

 

と、士道が考えていると。

 

 

『……あのガキは俺の大嫌いな奴に似てるんだよ。本当に……憎たらしい』

 

憎悪の籠もった目で佐藤は拳を見つめながら握りしめた。

 

 

次いでまぁと目つきを変えて話を戻してくる。『ともかく、俺が聞きたいのは一つだ。お前は〝その気が失せたか?〟』

 

確認するように昨日も問われた質問を繰り出してきた。

 

 

 

 

「………」

士道はその質問にしばし黙った。

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、佐藤」

一つの事柄が考えがよぎり、唇を開く。

 

 

 

『ん?何だ』

 

 

「お前の言うことが正しいなら……真那はずっと狂三を…、その……殺してるって事…だよな…?」

 

 

『あぁ、そうだ』

言い渋った士道とは裏腹になんの逡巡もなく佐藤は答えた。

 

 

「……俺は…。」

 

 

『さぁ、どうする…?』

 

 

 

 

 

 

 次に狂三が殺される前に。 次に真那が殺す前に。

 

「──狂三を、デレさせる」 それは重い決意のはずだったのだけれど、言葉にするとやはり少し間抜けなのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜◆〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……むぅ」

 

 十香は椅子に座ったまま顔を上げ、黒板の上にある時計を見やった。そろそろ昼休みが終わってしまう時間である。

 

 

 お腹がコロコロと鳴る。朝ご飯以来食べ物を口にしていないものだから、健啖家の十香はもう目眩がするくらいお腹がペコペコだった。

 

 

士道は食欲はないという事で今は教室には居ない。佐藤も今日は昼休みが始まった瞬間に何処かへ行ってしまった。

 

 

 でも、弁当はまだ開けていない。……士道や佐藤と一緒に食べるご飯のおいしさを知ってしまった十香は、どうもそういう気になれなかったのである。

 

「シドー…、サトー……」 もう教室には、外に遊びに行っていた生徒がちらほらと戻り始めていた。気の早い者などは、もう次の授業の準備を始めている。 だが、まだあの二人の姿は見えなかった。

 

「う……う……」 なぜだろうか、目がじんわりと熱くなって、鼻で呼吸をするのが苦しくなってくる。 ずずっと洟をすすって、目元を拭う。服の袖が少し濡れていた。──と、そこに。

 

「──あれ? どしたの十香ちゃん」

 

「何、まだご飯食べてないの?」

 

「もう授業始まっちゃうよー」 外で昼食を摂っていたらしい女子三人組が、教室に入るなり、十香に声をかけてきた。

 

 よく十香を構ってくれる女子たちである。確か名前は、右から亜衣、麻衣、美衣。似たような名前が縁で仲良くなったのだという。「ってうわ! どーしたのよ十香ちゃん! 泣いてんじゃん!」

 

「なになに、誰かに何かされたの!?」

 

「おいコラ誰だよ出てこいやぁッ!!」 見事なコンビネーションで十香を囲い込み、三人が口々に言う。教室の男子たちがビクッと肩を震わせた。

 

「ち、違うぞ! 別に何もされていないぞ!」 十香は慌てて手を振ると、三人に訴たえかけた。

 

「ええ? そうなの?」

 

「じゃあ何、どうしたの?」

 

「花粉症? 花粉症なんだ?」 十香はブンブンと首を振ると、手元の弁当箱に視線を落とした。

 

「シドーとサトーがな、まだ戻ってこないのだ。……それで、今日は、あまり二人と話せていないなあと思ってしまって、そうしたら、なぜか、こう……」

 

 それを口に出すと、目からぽろぽろと大粒の涙がこぼれた。

 

「あぁっ! 十香ちゃん! いいのよ辛いならそれ以上言わなくて!」

 

「ていうかあのバカ二人あり得ないんですけど! こんな可愛い子泣かせるとか!」

 

「首を落として豚の餌にしてくれるッ!」

 

 三人がやたらテンション高く叫ぶ。十香は再びあわあわと制止した。「ふ、二人は悪くないのだ! ただ、私が……」

 

 十香は乏しい語彙の中から言葉を拾い集め、士道や佐藤に非がないこと、十香がちょっとあの二人がいることに慣れてしまっていたことが原因なのだと説明をした。

 

 それを聞いて、亜衣、麻衣、美衣がふぅむとうなる。

 

「十香ちゃん的には、あのク───二人とお話しできて、ご飯とか食べちゃって、あまつさえ遊んだりできたらスーパーハッピーなわけね?」 亜衣が言ってくる。

 

十香はこくこくとうなずいた。

 

 

「くぅッ、なんて純真なの。もうこれ百叩きじゃ済まないでしょ」 次いで、麻衣が芝居がかった調子で涙を拭く真似をする。十香は目を丸くした。

 

 

「ちょっと家の物置からアイアンメイデンと三角木馬持ってくるわ」 美衣が真顔で言う。十香は首を傾げた。 そんな十香の様子を見ていた三人は「よし!」と膝を叩いた。

 

「十香ちゃんのためなら一肌脱ぐよ私は!」 と、亜衣が言うと、自分の鞄から紙切れを二枚持ってきた。

 

「あ、亜衣、あんたそれは……!」

 

「そう、天宮クインテットの水族館のチケットよ……ッ! 確か明日開校記念日で休みでしょ? 十香ちゃん! これあげるから、明日五河君と佐藤君……好きな方と行ってらっしゃい!」

 

「亜衣! それはあんたが岸和田君と──」 麻衣が言いかけるのを、亜衣が手で制する。

 

「それ以上言うんじゃあねぇ! 十香ちゃんが遠慮しちまうだろぃ……」 亜衣が言うと、麻衣と美衣は涙を堪えるような仕草をして、十香の肩をそれぞれ掴んだ。

 

「十香ちゃん……! 黙って受け取ってちょうだい……!」

 

「亜衣を! 亜衣を女にしてやってくんなせぇ……!」

 

「ぬ、ぬぅ……?」 十香はなんとなくこの場の雰囲気を壊してしまうことが躊躇われて、大人しく亜衣からチケットを受け取った。するとその瞬間、亜衣がその場にくずおれる。

 

「十香ちゃん…幸せに……ね」

 

「あ、亜衣ぃぃぃぃぃぃッ!」

 

「気をしっかり持って! 傷は浅いわ!」

 

「……!? ……!?」 十香は目を白黒させると、チケットを持ったままキョロキョロと左右に首を回した。

 

 

 もしかしたら、何かいけないことをしてしまったのかもしれない。十香は涙目になりながら、亜衣の手にチケットを戻した。

 

 

「ふぉぉぉぉ!」 すると、亜衣が復活した。

 

 

「亜衣!」

 

「奇跡だわ!」

 

「って、いやいや」 急に冷静になった亜衣が、十香にチケットを渡わたし直してくる。

 

 

「返しちゃ駄目でしょ十香ちゃん。これ持って、…お誘いかけてみなさいって」

 

「お、おさそい……?」

 

「そ。明日デートしてらっしゃいって言ってんの」

 

「……!」 言われて、十香は目を見開いた。デート。確か、男女〝達〟が一緒に遊びに行くことだ。

 

 ──嗚呼、それはとてもいい。 思えばここ最近ずっと、士道達とデートに行っていない気がする。久しぶりにデート。それは、とっても素敵なことに思われた。

 

 

 だが──一つ問題があった。「わ、私が誘う……のか」 十香は緊張に汗を垂らしながら言った。

 

 

「ええ。いったんさい、いったんさい。たまには女子から誘うのもいいモンよ」

 

「だ、だが……もし断られたら……」

 

 十香は不安げにそう言うと、三人は肩をすくめ、「はふゥ」と息を吐いた。

 

「おっけおっけ。まず断られはしないと思うけど、ていうか断ったりなんかしたらアイツラは、シチュー引き回しの刑だけど、私たちがとっておきの秘策を授けてあげるわ」

 

「ひ、秘策……?」

 

「そう。結局男なんてエロで動いてるモンなのよ。十香ちゃんがこの誘い方すれば、一国を制圧できるレベルの兵力が集まるわよ」

 

 

「い、いや、そんなにはいらんのだが……」

 

 

「いーからいーから。まずはね……」 十香は、こくこくとうなずきながら亜衣の秘策を聞いた。    

 

 

 

 

 

 

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー

 

 

 

 

「う、うむ…?これで良いのか…?」

その秘策とやらを聞いた十香は不安そうに亜衣に尋ねた。

 

 

「そうそう!これで何なかったら……3番よ?良い?」

ズイッと顔を近づけて亜衣が言ってくる言葉にこくこくと頷いて了解を示す。

 

 

 

 

「あ、そうだ。そう言えば十香ちゃんってさ、」

そこで麻衣が何かを思い出したかのようにポンッと手を叩いて唇を開く。

 

 

「む…?」

 

「佐藤君と五河君……どっちが狙いなの?」

 

 

「…狙い?」

その質問に十香は小首を傾げた。

 

 

「うん、十香ちゃんって五河君とか佐藤君と仲よさげだけど…実際の所どっちが好きなのかなぁって…」

 

 

「どちらか一人を選ばないとダメなのか?」

 

 

「へ?」

十香の純粋なる疑問に麻衣は素っ頓狂な声を上げてしまう。

 

 

「え、ちょいまち。──────十香ちゃんって…その、チケットでどっちを誘う気なの?」

 

 

「…? シドーもサトーも誘うぞ?」

まるでこちらがおかしいと言わんばかりに十香は当たり前のように言ってきた。

 

 

 

「……十香ちゃんって…さ……デートに行きたいんだよね…?」

亜衣が顔を引きつらせながらその質問を投げかける。

 

 

「うむ!やはりデートは皆で行くと楽しいからな!」

 

 

「「「………」」」

 

 

 

「…っ?…まさか、このチケットは三人はダメなのか?」

少女たちの無言の視線を勘違いしたのか、またも泣きそうな顔を作る十香。

 

 

「あー…!だいじょぶだいじょぶ!一応…(料金払えば)入場できるし!」

 

「そうそう!三人でも(料金払えば)行けるよー!」

 

「まぁ、うん……。問題ないよ!」

 

亜衣・麻衣・美衣の三人は慌ててそれを否定しながらも…心の中で思った。

 

 

 

──もしかして、十香ちゃんってデートの意味を勘違いしてる?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜◆〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帰りのホームルームが終わると、士道はすぐさま席を立ち、狂三のもとへと赴むいた。

 

 あの話を聞いてからは無駄な雑念ばかりがついてしまうが、どうにか無視して歩みを進める。

 

「狂三、ちょっといいか」 言ってから、廊下の方を指で示し、歩き出すと、狂三は大人しくあとをついてきた。

 

 

 ひとけのない場所まで歩いてから、狂三に向き直る。「士道さん。いかがいたしましたの?」

 

「あ、ああ。突然で悪いんだが……狂三、明日暇か?」

 

「? ええ、大丈夫ですけれど」

 

「その、もしよかったら、この辺を案内しようか……?」

 

「え? それって……」

 

「ま、まあ……平たく言うと……デート、かな」

 

 瞬間、狂三がパァッと顔を明るくした。

 

「本当ですの!?」

 

「あ、ああ……どうかな?」

 

「もちろん。光栄ですわ」

 

「そっか、じゃあ……明日一〇時半に、天宮駅の改札前で待ち合わせな」

 

「ええ、楽しみにしておりますわ!」

 狂三が満面の笑みで言ってくる。士道は「じゃあ、また明日」と軽く手を上げると、教室に戻っていった。

 

 

 

 

 と、教室の扉を開けると、そこに佐藤が立っていた。

 

『アイツとの話は終わったか?』

 

「ん、ああ…」

 

『そうか』

佐藤はその答えを聞くと、何故かクスクスと笑った。

 

 

『んじゃあ、手筈通り……。明日のために細かい情報を教えてやるから帰るぞ』

 

 

「分かった。十香、帰るぞ」

佐藤の脇を通り抜け机にある鞄を取ると十香に声を掛けた。

 

 

「ん、うむ……」 十香が、どこか歯切れ悪くうなずく。 不思議に思わなくもなかったが……まあ、別にあえて追及するほどのことでもあるまい。

 

 

 

 そうして三人は廊下を進むと、昇降口で靴に履き替え、学校の敷地を出て行った。

 

 

 と、その道中。

 

「あ、あああああああああのだな…サトー、シドー……!」 珍しく何も喋らずにいた十香が、妙に落ち着かない様子で声をかけてきた。

 

 

「ん? どうしたんだ、十香」

 

『……?』

 

 

「っ、あ、ああ。その……だな」 そこで十香は鞄の中を探る仕草を見せたが──なぜかきょろきょろと辺りの様子を窺うと、顔を赤くしてうつむいてしまった。

 

『十香? どうした、何かあったのか?』

 

「な、なんでもない……! 早く家に戻るぞ!」

 

 十香は目を泳がせまくりながら叫ぶと、士道たちを先導するようにのしのしと歩いていった。

 

 

「なんだ、あいつ……」

 

『さてね、一足早い反抗期かな?』

 

 十香の妙な様子に首をひねりながら言うと、佐藤が冗談めかして返してきた。

 

 

 

士道は深呼吸をすると、とある問答を佐藤と始める。

 

 

 

「なぁ、佐藤」

 

『あ…?』

 

「俺はいいけどさ、お前の家は良いのか? 今日は帰るの遅くなるだろ?」

 

『別に』

 

「別にって……」

 

『前に言った筈だろ。何度も言わせるなよ』

 

「………その、佐藤って兄弟とか…居ないのか?」

 

 

『……俺の家族には母と姉しか居なかった。それも…血すら繋がってない義家族でな、本物の家族なんて最初から居ない』

 

 

「………」

 

 

『それに、母と姉は俺が九歳の時に死んでる』

 

 

「…………」

 

 

『チッ、……俺のどうでもいい話は良いんだよ。…それよりも、狂三の件───分かってるんだろうな?』

 

 

「……わ、分かってる。」

 

 

『サポートだって完璧じゃないんだ。いつお前が狙われるかも分からない。十分に気をつけろ………、まぁ…この続きは家に着いてからだな。』

 

 

 

 

 

 

そして、十香そのあとについて行くような格好で帰路に就く。士道は佐藤の事を知れて少し嬉しいような、それが痛ましい過去で悲しいような…複雑な気持ちとなった。しかし、今からの話し合いに集中を切らすわけには行かない。気持ちを切り替えると歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 ほどなくして、五河家と、その隣に聳えた精霊用特設マンションにたどり着いた。

 

 

「おう、じゃあまたあとでな。今日も夕飯はうちで食うだろ?」 と、士道が十香に向かっていつも通りの挨拶をしながら手を上げかけ──途中で止めた。 理由は単純。

 

 

 十香がマンションではなく、五河家の方に足を向けていたからだ。

 

『十香…?どうした?』

 

 

「! い、いいから、シドーは早く鍵を開けろ!」

思わず佐藤が尋ねた言葉に十香は焦るように言葉を返す。

 

 

「…?……まあ、別にいいけどよ」 どうせ夕食時には五河家にご飯を食べに来る十香である。特に問題はなかった。ポケットから鍵を取り出し、扉を開ける。

 

 

「ただいま」 鍵がかかっているということは、琴里はまだ帰っていないのだが、つい習慣でそう言ってしまう。

 

「ああ、佐藤も上がって良いぞ…っていうか佐藤は少しの間だけだけどこの前に住んでたか。」

 

『邪魔をする……というか、やっぱり懐かしい気分になるなこの家は』

 

「そ、そうか?」

 

 

言い過ぎだと苦笑いをしながらも玄関で靴を脱いで家に上がると、そのままリビングに直行し、ソファに鞄を放って軽く伸びをした。

 

 

『じゃあ、十香が居なくなってから話を───』 と、そこでガチャリと音がする。

 

 

 どうやら士道や佐藤のあとから家に入ってきた十香が、玄関の鍵を閉め直したらしい。そのまま、顔をうつむかせてリビングに入ってくる。

 

「ん? 別に鍵閉めなくてもいいぞ? どうせ琴里も帰ってくるんだし」

 

 

『んー…?』

そこで佐藤は不審そうに目を細める。

 

 

「…………」 しかし十香は士道の言葉に答えず、その場に鞄を落とすと、その中に手を突っ込み、何やらチケットらしきものを取り出した。

 

「し、シドー…サトー、もしよかったら……なのだが」 そしてそこで、何かを思い出したかのようにハッと顔を上げる。

 

 

「そ、そうだ、ちゃんとやらなくては……」

 

 

「ちゃんと……? 何をだ?」

 

『十香…?どうしたんだよ』

 

 

 

 佐藤と士道が首を傾げていると、十香は何やら慌ただしくリビングの窓に走っていくと、厚手のカーテンをピシャッと閉めてしまった。

 

『おい、と、十香…? 』

 

 

「ちょっと待っていろ! じゅ、準備する!」

 

 

「準備……? な、何の……?」

 

 だが、やはり十香は答えない。

 

 

 今度は鞄からルーズリーフを一枚取り出し、テーブルの上に置いた。 そして、それを難しげな顔で見ながら腰元に手をやると、スカートの上部をくるくると巻き込んでいった。女子たちがスカートを一時的に短くする際の小技である。段々と、十香の健康的な太腿が露わになっていく。

 

 

「な、なぁ…佐藤。十香は何をしようと…」 十香の行動の意図が読めず、士道は頬に汗を垂らしながら……佐藤に尋ねた。

 

 

『いや、嫌な予感がするだけで俺もわからん。』

 

 

 

 

 次いで十香は制服のリボンを緩めると、ブラウスのボタンを上から順番に外していった。第二……第三……なんと、第四まで。ブラウスの隙間から十香の白い胸元が覗き、士道は思わず目を逸らしてしまった。

 

『おい…!? おま、何して──!』

 

「さ、サトー…シドー!」 十香は佐藤の言葉を遮ぎると、チケットを唇でくわえ、その場に四つん這いになって、いわゆる雌豹のポーズをとった。ちなみに、顔は熟れたトマトのように真っ赤である。

 

 

「こほ、こほれえを……!」

 

 

『はぁ…?』

 

「な、なななんだ……!? どうしたってんだ一体!?」

 

 

 士道たちが混乱したまま言うと、十香は「だ、駄目か……っ!」と悔しそうにチケットを口から取り落とした。……駄目も何も、意図が読めない。

 

 

 しかし十香はテーブルの上のルーズリーフに再び目をやると、「よ、よし……ッ!」 気合いを入れるように叫んで、チケットを拾い上げた。

 

 そして今度はチケットを、開いた胸元に入れ──「ん?」と首を傾げる。

 

 どうやら上手く挟めなかったらしい。少し前屈みになり、左手で両胸を寄せて谷間を作ってから、そこにチケットを挟み込んで士道と佐藤に視線を向けてきた。

 

『チッ……』

 

「な……ッ!?」 なんだかもうもの凄すごくイケナイものを見ている気がして、士道は後ずさった。佐藤は何故か頭を手で抑えて小声で何かを言っていた。

 

 

『(あのバカ女共……十香さんに変な知識入れ込みやがって…)』

 

 

 

「そ、そのだな」

 

 

「お、おう…?」

『何だよ…』

 

 

「あ、明日……皆でデェトに行かない……か?」

 

 

「は……? で、デート……?」

『……デートぉ?』

 

「う、うむ……!」 士道と佐藤が同時に言うと、十香が大仰にうなずいた。

 

 

「……え、えぇと…」

 

どうしようかと後頭部を掻くと、佐藤が耳元に口を近づけてきた。

 

『士道……取り敢えずあのチケットを受け取ってやれ』

 

 

「ぇ…?」

小声で囁かれた佐藤の言葉に眉を顰めた。

 

 

『良いから……まずは取れ』

 

 

軽く呼吸をして雑念を抑えると、チケットを取った。

 

 

 「お、おお!」 すると十香が顔をパァっと明るくし、姿勢を元に戻す。 と、次の瞬間十香は、スカートを元に戻し胸元を隠して鞄を手に取った。

 

「明日! 皆で朝一〇時に駅のパチ公前で待ち合わせだ! で、では着替えてくる!」

 

 

そうとだけ言うと、十香は目にも留まらぬ速さでリビングを出ていこうとした。

 

 

『おい、ちょっと待て』

 

と、そこで…十香の腕を佐藤が掴んだ。

 

 

「ぬ…?」

 

 

『いや、お前気付いてないかも知れないけど…これ。〝ペアチケット〟だぞ』

佐藤が士道のチケットを指し示してそう言った。

 

 

「……ぺ、ぺあちけっと…?」

 

『要するに、二人までって事だ……行きたきゃ士道と行くんだな。それにそもそもデートはふた────」

 

「なっ、そんなことはない…亜衣たちが三人でも行けると言っていたぞ?!」

 

 

『……無理なもんは無理だ。諦めろ』

佐藤がきっぱりと言葉を告げると十香はムスッと頬を膨らませた。

 

 

「むぅ、だが…亜衣たちは一応三人でも行けると言っていた!本当だぞ!」

 

 

『………』

佐藤はしばし考えた後、士道の方に顔を向けてきた。

 

 

『五河士道。その水族館をネットで検索してみてくれないか』

 

 

「え?あ、分かった…」

困惑しつつも、チケットに書かれている水族館の名称を打ち込んでいく。

 

 

『…なるほど、な……』

佐藤も画面をのぞき込み、そんな言葉を呟いた。

 

 

「確かに…、行けなくは…ない…。」

佐藤もそれを見て、同じように呟いた。

 

 

『十香』

 

「む?」

 

 

しばし考えた後、佐藤は一つの提案をする。

 

 

『明日。一〇時半からなら俺は行ける。士道ももちろん行くよなぁ?』

妙に睨めつけるように佐藤が視線を向けてくる。

 

 

「ま、まぁ…それは。良いけど」

 

「おお!」

士道が言うと十香はこんどこそ喜び、鞄を持ってリビングを出ていき玄関のドアを開けて出ていった。

 

 

『……はぁ』

静寂に包まれ、薄暗い部屋を佐藤はカーテンを開けていく。

 

「佐藤、良かったのか?お前も用事とか───」

 

『……お前、…本当に馬鹿だな』

佐藤が士道の言葉を遮って吐息した。

 

『……明日は狂三とのデートもあるだろうが…』

呆れ果てた表情で告げてきた言葉に士道は「あ」と、間の抜けた声を上げた。

 

 

士道の顔を見て佐藤はまたもため息を吐き…やれやれと肩をすくめた。

 

 

『…面倒この上ないが、その件は俺がどうにかしてやる。』

 

 

「どう…って、どうやって?」

 

 

『すごく簡単。………けど、お前には負担だと思うぞ。』

 

 

そして、士道がもう一度尋ねる前に佐藤が告げる。

 

 

 

 

『………お前には、ダブルデートしてもらう』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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現在───夜の八時。士道に詳細な話をして、五河琴里にも話すように言ったあと、やることをなすために佐藤は歩を進めていたのだ。

 

 

歩いている場所が駅前なこともあってか、夜の暗さを感じさせないほどにその場所は明るかった。───佐藤には不釣り合いな程に。

 

 

 

「ねぇ、お母さん!今日ね、ハンバーグが食べたい!」

 

「…まったく、仕方ないわね…。その代わりにちゃんと野菜も食べるって約束する?」

 

「うん!絶対約束する!」

 

 

 

 

 

横切る二人の人間の姿があった、幼い男の子と女性────別に、その姿や容姿に佐藤は特段何かを思ったわけではない、しかし…その人間が楽しそうに手を繋いで笑い合っているのを見ると思わず目で追ってしまっていた。

 

 

 

『母親…か、』

思いに耽る自分自身に呆れながらも佐藤は歩を進め、思考を止めることはなかった。

 

 

 

佐藤にも一応母親は居る。否、正確に言えば〝居た〟という表記のほうが合っているかもしれない。

 

 

何時も自分を「アホガキ」とか「バカガキ」のように呼んで…名前で呼ばれたことなんて殆どない。しかも、まともに温かい言葉をかけられたこともなく何時も冷たい言葉ばかり。

 

 

───でも。あの人は優しかった。

 

 

愚鈍な自分でもわかるほどに大切にしてくれて、言葉は冷たくても声音は温かくて、いつもほころんでしまった。

 

 

今でも…思い出すと笑みを浮かべることが出来る。

 

 

『まぁ、あの人のせいか、おかげか……俺も日本語が多少おかしくなってるけど…』

 

思わず苦笑する。

 

 

嗚呼、やっぱり…お母さんとの思い出は頭に浮かべるだけで頬が緩んでしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい、そこの字ちぎゃうぞ」

 

 

とある洞窟。

 

適当な岩を机代わりのようにして、紙を引き…文字の勉強をしている中。少年の隣で頬杖をついた女性(?)が指をさしてそれを指摘する。

 

 

「あれ、ホントだ!でも、お母さんもやっぱり言葉づかい可笑しいよ?」

 

あっ…と、目を丸くしつつ女性のおかしな言葉にクスクスと笑う少年。

 

 

 

 

「手前みたいなアホガキには言われたきゃねぇよ」

あくまでも冷静にそう言うと、女性は少年の額に軽く指を弾き当てた。

 

 

「いったーい!!お母さんがデコピンしたぁ!!」

涙目になりながら講義をする少年に女性は口の感じさせない顔で微笑む。

 

 

「俺が本気でデコピンしとら、手前の頭が消し飛んだるよ」

そして、故意的に言葉を間違いながら彼女は心中で思う────(ここまで指摘できるなら…もう大丈夫か?わざと変にするのも疲れてきたしな)

 

 

「むぅ…。また、変な言葉になってるし………」

不貞腐れたかのようにほおを膨らませる少年を見て、…彼女は更に微笑んだ。

 

 

「ほら、チョコやるから。な?」

そうして、サイコロ状で包装されたチョコを一つ渡すと少年は目を輝かせうんうんと元気よく頷いた。

 

 

(将来が心配だなコイツ)

心の中で苦笑しながらも彼女は次いで立ち上がった。

 

 

『どーしたの?』

 

 

「ん、いや何。今日の夜飯でも調達してこようと思ってな」

 

そして、彼女は少年の全貌を見やる。

 

 

 

───右目には眼帯。

 

───喉には刃物で横薙ぎに斬られたような跡

 

───左腕は存在しない。

 

 

 

目を輝かせる幸せそうな姿とは対照的なあまりにもむごい状態の子供。彼が今こうして笑顔になっているのは奇跡と言っても差し支えないと思っている。

 

 

しかし、その想いとは裏腹に少年は更に目をキラキラさせ口を開く。

 

『じゃあ、…僕…。キノコを煮込んだアレが食べたい!』

 

元気よくぴょんぴょんと跳ねて母親に提言してくる。

 

 

彼女は呆れながらも軽く頷くと、少年は満面の笑みになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

洞窟の出口に向かって歩き、彼女の全貌が月明かりに照らされる。

 

 

黒いモノトーンが掛かったような容姿、黒い魔女服に白いエプロンを装着した服。

 

そうして、外の木に掛けてあるつばの広く黒い三角帽を被り、…口を拝めない顔でにっと笑う。

 

 

 

「……出て来いよ、まさか俺が気付いてないとでも思ってたか?」彼女が外に出てきた理由……それは晩飯の調達等ではなく。平穏を壊す邪魔者の始末である。

 

 

 

「おいおい、洞窟の中に獲物が居ると思ったら、とんでもねえ地雷を引いたみたいだな」

木々の中からその声が聞こえたと同時、彼女を取り囲むように男たちが姿を現す。

 

 

どうやら洞窟の中での少年との会話を聞かれ、そこら辺の野盗に狙われたらしい。

 

 

しかし、これは野盗たちにとって不運ともいえる…。何故なら…、彼らの目前にいるのはたった一人でこの世界壊せるほどの力を持つ正真正銘の化け物だからである。

 

が、その詳細を知っておらずとも彼女が人の道を外れたものだということは容姿を見れば容易に分かる。

 

 

だからこその不運。化け物でも数が足れば殺せると思った盗賊たちの思考そのものが哀れと言わざると得ないのだ。

 

 

 

 

「アハハ!手前ら、聞いて驚け!俺は…最強の魔法使いだ(・・・・・・・・)!死にたい奴から前に出てくれると助かるなぁ!」

 

 

 

 

煽るようにそう言った直後…盗賊たちが一斉に動いた────────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

野盗たちを全て〝気絶〟させて拘束し、適当な木にぶら下げた後…約束通り息子の好きな茸を取って帰路を渡っていた。

 

 

本来ならば、彼女はこんな事をするような存在じゃない。滅ぼすために来た世界で、…とある出来事で拾った幼子の母親になるなんて。

 

 

しかも、襲ってきた奴らを殺さずに気絶程度で返すのも彼女らしくない……

 

 

「俺が…絆されちまうとはなー……」

自嘲気味にケラケラと笑う。

 

 

昔は下手くそだった言葉も息子に教えるために密かに勉強し、間違えることも無くなっていた。まぁ…息子に指摘されたいためにわざと間違える時があるが。

 

 

────本当にらしくない

 

 

「ま、滅ぼすまでの期限なんてねぇし…あのバカガキが居なくなってからでも良いだろ。」

 

 

確かに、今はこの世界の主要の住民たちとも交流は少なからずあるが……あのガキが居なくなったら────いや、違うな…あの子供が〝死んだら〟すぐに滅ぼすつもりだ。

 

 

彼女にとってはこの世界に何か思い入れがあるわけでもない。

 

 

そして、考え事をしている内に洞窟の出口に辿り着く。

 

 

『あ…、お母さん!』

すると、その付近から一人の少女が駆け寄って抱き着いてきた。

 

 

「んぁ、何だよ」

 

 

少年は軽く首を振ってまずはその単語を言う。

『んーんー、〝おかえり!〟』

 

 

 

 

 

 

一瞬、目を丸くした彼女だったが…すぐに微笑を浮かべて言った。

 

 

 

 

 

 

「………ああ、〝ただいま〟」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後───彼女が■■■と話をしてこの世界の破壊が良いのかと…考えさせられるのはまた別のお話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現刻九時。

 

それまで歩き続けた佐藤は何処かのビルの屋上まで鉄骨でできた階段で登り、そして…屋上の端に立って地上を見下げる先客に話しかける。

 

 

 

『こんにちは、───いや、こんばんは、時崎狂三さん』

 

 

すると、目の前の少女は唐突に名を呼ばれたことにギョッとして、こちらを振り向いた。

 

 

「あらあら、……貴方……確か、佐藤さん…でして?」

にこやかに笑みを作りながらも、その目は敵意に満ちている。それもそのはず、何故なら……

 

 

「一つ聞きたいんですけれど…貴方〝何〟でして?人間──では、…ないですわよねぇ……」

 

〝あの〟時崎狂三に察知もされずに背後を取ったからである。

 

 

『うん、話を短縮するためにも……まずは解除しようか』

 

 

怪訝そうに目を細める狂三。しかし、次の瞬間……その目は丸くなり…敵意が消えた。

 

 

「………"ロキ…さん"…?」

震える声でその名を紡ぐ。

 

 

『うん、久しいね。五年ぶりぐらいかな?……狂三くん』

 

 

「…………」

その声があまりにも懐かしくて、クスリと笑みを浮かべた。

 

 

「……その〝軽い多重人格〟も…懐かしいですわ」

 

 

『何か言い方に他意を感じるけど……まぁ良いや。』

 

 

「それで、用件は何でして?昔話に…花を咲かせたい……訳ではないでしょう?」

 

 

『明日……五河士道とのデートがあるだろ?』

 

佐藤────いや、ロキがそう言うと狂三は又も目を丸くした。

 

 

「何故…ロキさんがその事を…?」

 

 

『今は身分を偽って〈フラクシナス〉に潜り込んでるんだよ』

 

狂三はロキのその言葉にああと納得した。

 

 

 

『で、話を戻すけどさ……。明日の五河士道とのデートで、………一つ提案したいことがあるんだよ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その内容を話し切ると…狂三は興味深さそうに首肯した。

 

 

「もちろん、問題ございませんわ…。その提案……わたくしにとっても楽しそうですから…」

 

 

 

 

『そう……、んじゃ、それだけだから。僕はもう行くよ。』

 

踵を返すロキに狂三は一言声をかけて待ったをかける。

 

 

『んー、何。』

 

 

「いえ、最後に一つだけ…聞きたいことがありまして…」

 

 

『……?』

 

 

「事が終われば……また、ぼやかしをかけるつもりですの……?」

 

 

その質問にロキは端的に答える。

 

 

 

 

『ああ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







ほんっと、面白いですよねー。佐藤にも母親とか姉が居たことにも驚きですけど……それが、あの人なのが一番意味不明で面白いです。


…っと、無駄話は終わりにするとして…。

今回は真那が鷹禾のせいで狂三を殺さなかったせいで、→折紙が狂三を警戒するだけでこれと言って話に行かない→狂三が士道個人を狙っていると気付けない→士道をデートに誘わない。


と……なりました、少し粗い部分があるかも知れませんがそこは御愛嬌ということで。


というか物語の中身を解説するの何気に初めてかもしれません……紗和の件は仕方がなかったし。


てわけで、第三話も終わりです。次回もお楽しみにー

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