デート・ア・ライブIF 【エラー】   作:セルヴェイエ

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昔々の物語【 】

 

 

 

 

 

 

私は───殺された。

 

 

親友に、最も仲の良かった友人に殺された。

 

 

 

 

助けを叫んでも、喉から出るのは汚い獣のような咆哮だけ。でも…最後はちゃんと言えたよ?

 

 

 

「助けて」

 

───って、でも…その人は私に気が付きもしなかった。

 

 

 

 

 

 

あぁ、憎い…でも。死んだ私には何も出来ない。 

 

 

ただあの世から怨嗟を向けることしか出来ないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ぇ」

絶望すら飽きた感情の中、目の前にも一人の少女が居ることに気がついた。

 

 

 

私が間違えるはずがない、確かに服は違えど…ほんの少しだけ容姿が違えど、その人は〝時崎狂三〟だった。

 

 

 

その少女は魂を望み、私は肉体と力を望んだ。

 

 

 

そして…───私は交わした。

 

 

 

 

 

あの者への復讐を、あの世界への帰還を。

 

 

 

 

 

 

 

 

さぁ始めよう私の復讐(デート)を────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『よう……。山打紗和(やまうちさわ)。』

 

 

 

 

「……は?」

突如、背後から響いたその言葉に私は狼狽を越えた驚きの声を上げる。

 

 

 

 〝山打紗和〟 その単語を知っている人物……しかし、私は聞き覚えのない声だし…そもそもとしてこんな世界に知り合いなど居るはずがない。

 

 

 

 

 

 

つまり────敵。

 

 

そう決断すると、先ほど得たばかりの魔王を顕現させる

 

 

 

「〈狂々帝(ルキフグス)〉───」

 

 

 

そう唱えると同刻に、私の手には……短銃、そして…機械仕掛けの剣のようなものが握られる。

 

 

 

 

「貴方が何者かは知りませんけど……私の道を阻む敵ならば、殺しますよ?」

 

そうして、対峙するものに持ちうる限りの殺意を放つ。

 

 

 

しかし……

 

 

『別に戦う気なんてないんだけど…』

その者は飄々と肩をすくめながらこちらに言ってくる。

 

 

 

何者……。しかし、今の私ならこんな敵。

 

 

 

 

 

「……【巨蟹の剣(サルタン)】!」

その言葉と同時に剣を振るうと、左右──二方向からの斬撃、剣閃をその者の首に向かって放つ。

 

 

防ごうとしても、それは…防御を透過し、必ず首を切りつけられる。

 

 

 

 

その…筈だった。

 

 

 

「ぇ…?」

首を完璧に切りつけた……二つの斬撃は絶対にその者の首に当たっていた。なのに……血が出ない…傷が生まれていない。

 

 

 

 

『悪いね、その程度じゃ傷つきもしないよ』

 

 

呆気にとられる私にそう言い放つと、思い切り蹴り飛ばしてきた。

 

 

 

 

 

「ぐぅっ……」

痛い───

 

 

地面を転がり、どこかの壁にぶつかってやっと…動きが止まる。

 

 

「はぁ……はぁ……」

たった…一度蹴られただけでここまで痛いだなんて。

 

 

 

『……で?お次は何するんだ?』

 

 

 

「チィッ……」

にやりと余裕の笑みを作り上げるソイツの態度に私は思わず下唇を噛んだ。

 

 

 

 

 

 

何故だが、知らないがアイツには斬撃が効かなかった。だったら……

 

 

 

 

「【獅子の弾(アリエ)】…!」

 

 

その者に銃口を向け、その弾丸を放つ。

 

空間を削り、空間ごと対象を消し去る弾。

 

 

 

 

『あはっ……。【爻盡六王(サマエル)】…』

 

 

 

 

 

その瞬間──目の前の男が笑いながら何かを唱えた。それと同時に簡単に、【獅子の弾(アリエ)】は消えた。…

 

 

 

 

 

『空間の操作がお前の専売特許だと思うなよ?』

 

 

 

 

 

「………」

何故だ……勝てるビジョンが沸かない。まるで、出す手全てを予測され、後出しで負けているかのような気分。

 

 

 

『…で?次は?』

心底楽しそうにソイツは次の手を催促してくる。

 

 

「っ……。【射手の剣(ケシェット)】!!!」

 

 

 

 

『ふっ…!』

 

 

歯をぎりぎりと噛み締めながらその言葉を吐き出し、それを射出する。

 

 

きっと、こんな所で使わない…奥義とも言える最強の一手。

 

 

 

 

『……【無盧無奥(■■■■)】』

 

 

 

 

静寂───ソイツが何かをした刹那。その場所には静けさしか存在しなかった。

 

 

 

 

『いやー…強かったよ。紗和さん…、やはり…君は……精霊の中でも上位とも言えるね。』

 

本当に私を労う気があるかのようにパチパチと拍手を送ってくる。

 

 

 

分からない──コイツは今、何をした。

 

 

 

余裕。絶対に自分が負けるとは最初から思ってなど居ない、私を敵としてみていない。…暇を潰す一つの玩具のようにしか、コイツの目は見ていないのだ。

 

 

 

 

 

『相手が悪かっただけだよ。大丈夫、君は……かなーり強いんだから。』そんな気休めにもならない言葉をかけてくる。

 

 

 

 

『じゃ、こっちからも…攻撃するね』

 

 

 

 

 

「…もっ…、【天秤の弾(モズニーム)】!」

それを聞いた瞬間、私は条件反射のようにその技を叫んでいた。

 

 

 

きっと、見てから避けることは不可能…私の中の何かがそう囁いてきた。

 

 

 

 

『あぁ、ごめん。因果逆転をしても…』

 

 

 

「が…、は……」

 

 

その男は本当に申し訳なさそうに続ける。

 

 

『私の攻撃に因果なんて存在しないんだよ。』

 

 

そうして……もう一度吹き飛ばされた私は、今度こそ…意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……──、…ん。」

 

そのベッドの、上で私は目を覚ました。

 

 

静かに目を開け、周りを見渡す。そして、何度か瞬きした瞬間、思い切り飛び起きた。

 

 

「そっ…そうだ…。私は…、あの人に…負けて…」

過去の記憶を思い起こす。

 

 

私の最強の防御札、【天秤の弾(モズニーム)】すらも通じずに完敗をしたのだ。

 

 

 

『お、起きたか。』

間が抜けそうなほど軽い言葉を吐かれる。

 

 

 

「……へ?」

 

その声に目を見開く…なぜ、この男が……というかだったら、コイツが私を寝かせて───。

 

 

 

「……こっ、殺さ…ないんですか…?」

自分でも…哀れと思ってしまうほどに弱々しい声で尋ねてしまう。

 

 

 

その男はその質問にクスリと微笑みながらも、

『んなことしねぇよ、というか、俺はお前に挨拶しただけだぞ?勝手に攻撃してきやがって。』

 

呆れたようにため息を吐いていた。

 

 

『どうせ、来たばかりで訳わかんないだろ?俺がこの世界を教えてやるよ。』

 

男は踵を返すと、ついて来いと言わんばかりに手招きをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………隣界───ですか…?」

 

 

 

『あぁ、そうだ。』

長々と説明を受けた後に私が呟くと……男は頷いてきた。

 

 

 

 

 

「……あの、貴方は…なんで私にこんな事を話してくれたんですか?…」

 

 

 

『はぁ………貴方、なんて呼び方辞めてくれ。佐藤で良い…』

 

 

 

「じゃあ、佐藤さん。…なんで、私を助けてくれるんですか?」

 

 

 

 

 

 

『んまぁ、可哀想だと思ったからだよ。』

私が問うと、佐藤は長い間のあとに…一言だけそういった。

 

 

 

 

 

「……それなら、良いです。…でも…この世界から出る方法はありませんか?私…あの世界に行って───」

 

 

 

 

『行って何するんだ?』

私が少しまくし立てながら尋ねていくと、佐藤は質問をしてきた。

 

 

 

 

 

 

「それは───言えません。」

私は…、顔を俯かせながら言い切った。

 

 

 

なんと…都合の良い人間なのだろう。ここまで助けてもらって、知らなかった事を教えてもらって、攻撃しておいて命乞いのようなことをして、自分は何も言わないなんて。……、事情も言わないだなんて。

 

 

 

 

 

 

 

『復讐か?…』

 

 

 

「な……ッ!」

 

 

佐藤が表情を変えずに告げてきた言葉に瞠目する。

 

 

 

 

「なんで…っ…、知って…」

 

 

 

『……そんなに、時崎狂三が憎いか?』

その言葉で確信する…、目の前の男は何故かは知らないが私の事情をある程度知っている。……でも、そんな事実に…少し…肩の荷が下りたような気がした。

 

 

 

「……憎いですよ。あの人は……私を…っ。」

感情が昂ってくる……許せない。殺してしまいたいほど憎い。

 

 

 

『………』

その言葉に、佐藤は何も言わない。

 

 

 

「復讐が悪だとか……、そんな…話を要りませんよ?」

思わずその人を睨みつけてしまう。

 

 

 

 

 

 

『ま、良いんじゃねえの?』

 

 

 

「えっ…?」

意外にも…軽い言葉が返されて…素っ頓狂な声を出してしまう。

 

 

 

 

 

『……復讐をしても、何も変わらないというやつも居るが。復讐をしないと変わらないという奴も居るしな。』

 

そう言いながら微笑を浮かべ始める。

 

 

 

『別に俺は…、お前の事情は知ってても、心情は知らない。復讐が道だと思うなら突き進んだほうが良い』

 

 

 

 

 

「…………」

なんで…だろう。

ただ、人に話した。それだけで───また少し、肩が軽くなったような気がした。

 

 

 

 

 

 

『……でも、一つだけはお前の望み叶えてやるよ。』

 

 

 

 

「……?」

 

 

 

 

『現実世界への…帰還。それなら、叶えてやれるぞ?』

 

 

 

 

「……ほんとに…?」

 

 

 

 

『ほんと、ほんとー…。俺嘘ついた事ないから~』そうして、ヘラヘラと軽口で返してくる。

 

 

 

 

 

「………。」

本当に…おかしな人だ。デタラメなぐらい強くて、こっちの事情なんて筒抜けで、それなのにこんなにも…………こんな…にも…。。

 

 

 

 

 

 

「……──…、……。……──…」

もう……誰も信じずに生きていこうと決意していた。

 

 

 

 

 

 

───誰にも真意を語らず

 

───誰にも気持ちを吐露することも無く、

 

───ただ一人、孤独に復讐に生き続ける。

 

 

 

 

 

それが、私の残りの人生。あの人への復讐が全てだ……。でも…この人には…全てが筒抜けだ。

 

 

 

 

私がどんな状況だったかも、全部、全部……悟られてる。

 

 

 

 

だったら……それなら……良いじゃないか。この人にぐらいは、ほんの少しだけ…自分を語っても。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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それから、沢山の事を教えてもらった。

 

自分では出来なかったかも知れない力の使い方も。

 

 

狂三さんは…騙されて私を殺してしまったことも、そして狂三さんはその事に絶望したも、

 

 

最後に……佐藤は全ての元凶でもある始原の精霊すらも救うと決めていることを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

復讐───でも、私は生きてる。

 

憎悪───でも、狂三さんも辛いんだ。

 

厭い───でも、狂三さんは絶望している。

 

 

 

 

 

 

奇跡か偶然か、私は後少しで隣界から出ることができる。

 

 

狂三さんは彼方の世界では始まりの精霊に復讐を誓っているらしい。

 

 

救わないといけない。私は生きていると教えないといけない。今、私があちらの世界に行きたいのは……業を背負い続ける少女を抱き締めたいからだ。

 

 

顔は違う、人間でもない、凶悪と言われる反転体。でも、私が帰還する理由はあの人を滅茶苦茶怒って、それで───またもう一度笑い合いたいから。

 

 

本当なら、私はこの隣界でとんでもない悪行を働くらしい。人をたくさん殺してしまうらしい。

 

 

この隣界は、私という存在のせいで悲劇が涙が、血が、いくつも流れ…増えたと聞いた。

 

 

 

もちろん、今の私にはそれをする気なんて起きていない。仮に起こそうとしても……あの人が止めに来るだろうし、真っ向でやりあえるほど…私は強くはないから。

 

 

 

でも───最近は心がモヤモヤすることがある。

 

 

何故だろう、その理由は…あの日まで…知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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『………ふぅ、やーっと、終わったか。』

 

 

 

「………」

 

 

現在──第三領域で、佐藤は隣界全土に対する〝時間〟の流れ方を少し弄っていたらしい。

 

 

 

 

〝とある人物たち〟がこの隣界に顕現する時を少し弄ったとか。正直私にはどれだけの霊力が必要なのか、訳もわからないので考えないことにした。

 

 

 

 

「それで、次はどこへ行くんだ?」

私が問うと…、佐藤はニヤリと笑みを浮かべて…

 

 

 

『やっと、第十領域に行けるぞ。』

そんな言葉を告げた。

 

 

 

 

「………やっとか、君の言う準備とやらがやっと終わったのかい?」

 

 

 

 

『そんなとこだ。というよりも、誰かさんが暴れないおかげで隣界の問題は特に何もなかったから準備に時間が割けたわけだ』からかうように私を見つめてケラケラと笑ってくる。

 

 

 

 

 

「…う…っ…。そ、れは…。姑息だぞ!」

 

 

 

『知らなーい』

 

 

 

そんな言葉を叩き合いながら、そこへ向かっていく。

 

 

 

 

と、その時。

 

 

「はぁ……。まーた、喧嘩しとるんですか?」

その場所に居たのは──着物姿をした長い黒髪を持つ少女だった。

 

 

 

 

 

『あぁ、華羽(かれは)か。門は開けておいてくれたか?』

 

 

 

「えぇ、もう準備できとりますよ。というか、あんさん方が遅かったんですよ?」

 

佐藤が問うと、呆れながら返してくる。

 

 

妙な関西弁を使っている少女、いつも思うのだが…あんな格好で熱くはないのだろうか。 

 

 

 

『そうか、じゃあ。行くぞ…紗和』

 

 

「分かっている。…絆王院(ばんおういん)も、感謝するよ」

 

 

 

 

そして──入門する。第十領域(マルクト)、争いの間へと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは……酷いな。」

その光景を見て、一番最初にでた感想はそれだけだった。

 

 

準精霊たちが、争った後だろうか。

 

 

 

『お前はこれの十倍ぐらいエグい事やってるけどな?』

 

 

 

「…っ、だから…その話はやめてくれ…。」

本当にこればっかりは弱点だ。それを言われるたびに胸が痛くなってくる。

 

 

 

 

『よし、まずは、二手に分かれる。お前は右方を、俺は左方を担当する。…絶対に準精霊を傷付けずに気絶だけさせろ。 良いな?』

 

 

 

そう言い残すと、佐藤は飛んでいった。

 

 

 

「もう…、言いたいことだけ言ってくれるな……」

思わず呻いたが、この現状は看過できない。私も動くとしようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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『……ここら辺…か。』

そこで、一軒の家に目を付ける。

 

 

 

その過程でも準精霊たちが、向かってくるが。

歯牙にかける必要も無い…反撃の意味もないだろう。

 

 

 

そうして、そのドアに手をかけ…開けてみる。

 

 

 

すると……一体の準精霊が室内から向かってきた。

 

 

『コイツは……』

 

いや、準精霊でもない…ただの〝人形〟か。壊すと可哀想だ……動きを止めてやるだけでいいか。

 

 

 

 

 

そうして、それから十体ほど向かってきたが。丁寧に地に伏させた。

 

 

 

歩いていくと…寝室ともいえる部屋に辿り着いた。

 

 

ベッドの上には一人の少女が居た。…俺を…大層恐怖をしているらしい。身体を揺らしながら、必死に毛布で身体を隠している。

 

 

 

毛布を引っ剥がすと、やはりというか、少女が現れる。

 

 

「………あっ……。」

 

 

『………人形なら。あそこで寝てるよ。壊してはない…』

 

 

「……私を…どう…するの?」

ビクビクと震えながら顔を俯かせる…ぎゅっと目を瞑って、これからの痛みに耐えるかのように見えた。

 

 

 

 

はぁ……そんなに怖がるか…。

 

少しだけ呆れながらも同情心でソイツの頭に手を当てて…撫でてやった。

 

 

 

「…?、?…?…」

すると───わけがわからないのか…身をこじらせ…ただ疑問符を浮かばせている。

 

 

 

『安心しろよ。別にお前に何か悪い事をする気はない』ソイツの頭を撫でながら、続ける。

 

 

 

「じゃあ…何…しに…来た…の?」

口を噤ませながらも…か細い声で問うてくる。

 

 

 

 

 

誰も居なかった。…可哀想なやつだ、病弱で…エンプティで、誰にも見向きをされなくて。

 

必死で作った友達も…もしかしたら、壊されてしまうのかと…恐ろしくなって…俺を先に攻撃してきたのだろう。

 

 

まるで…〝あの人〟だな。周りは否定してくるやつばかりで、誰も肯定してくれなかった。

 

 

まぁ、流石にあの言葉を借りるのは些か荷が重い。それは辞めておこう。

 

 

 

 

 

『友達になりに来た。』

 

 

 

「……ぇ…?」

本当に思っても見なかった言葉を告げられて…脳が処理に追いついていないのか、フリーズしている少女。

 

 

 

『ふっ……。まぁ、今はそれで良い……ゆっくりなれてけよ。』そう言うと…俺は…ソイツの額に手を当てる。

 

 

 

そして…消す、〝エンプティ化〟…それとついでに病弱な身体を。

 

 

「あ…あれ…?」

それから気付いたのか、少女は自分の手をぐっと握りしめ…困惑していた。

 

 

 

身体が動く…、不自由な身体が、自分の意志で動けるようになっている。

 

 

 

それを認識すると、試しにベットから降りようとしてみたら。

 

「……って、わぁ!?」

綺麗に目の前に崩れ落ちていく。

 

 

 

『バカ!』

 

そりゃあ、今まで足なんて使ってこなかったのに、いきなり降りたらバランス崩すに決まってるだろ。

 

 

 

 

 

───と、ギリギリ抱き抱える形で助ける事には成功した。

 

 

『はぁ……、怪我ないか?』

 

 

「あっ…、え…。なっ…、ない…れす…」

顔を真っ赤にして慌てて言ってくる。

 

呂律もクソも無かったような気がしたが、特段気にもせず、身体を支える。

 

 

『はぁ……、取り敢えず…身体は治してやったけど。動くと危険だし…そのまま寝ておけ…。』

そのまま、少女をベットにそっと、戻してやる。

 

 

 

『んじゃ、後でまた来るから……待っててくれ。』

 

 

 

「あ…、えっと……うん。分かっ…たよ……」

佐藤が言うと、少女はほんの少しだけ残念そうにしながらも…次には満足そうな笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

「ねぇ、あな…たの…お名前…は…?」

緊張しながらも、背を向けるその人に少女は問う。

 

 

 

『佐藤。友達だし、呼び捨てで良いよ。…じゃあな』

 

 

 

ガチャン────

 

そうして、扉は閉められる。

 

けど、少女には不思議と悲しさも虚しさもなかった。

 

 

 

「…さ、と…う。…さ…とう…。さとう……サトウ……」

噛みしめるようにその人の名前を呟き続ける。

 

 

 

「私の……初めての…友達」

 

そうして、彼女はやっと…安心しきったように…眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「やめ…てよ…」

その場所で私は思わずぼやいてしまっていた。

 

 

 

何で……こんな事に。私が…失敗したから、そのせいで夕映(ゆえ)が。

 

 

 

「キャハハッ!なんで、エンプティなんか庇うの?そいつなんてただ使えないゴミ同然の存在じゃん!守るだけ無駄だよ!」

 

ケタケタと気持ち悪いと思えるほどの甲高い声で私たちを嘲ってくる。

 

 

 

今、私は一人の少女を腕に抱えていた。そして…その少女の背中には痛々しく深い刃傷があった。

 

 

 

 

「響は…悪くないよ……。失敗したのは…私…だから…」

明らかに無理をしているとわかる弱々しい声で自分を安堵させようとしてくる。

 

 

 

何で……何で……こんな……。私は夕映が居たら生きられる………でも…どうせ、この後に私も殺されてしまうなら。

 

 

 

それなら───良いかなと思ってしまう自分も居た。

 

 

 

「じゃあ、親友同士、仲良く死んでよッ!」

口を狂気的に歪ませ、綺麗な三日月のような笑みを作り、その鎌を振り下ろして──────

 

 

 

 

ズドンッ───!!

 

 

 

 

 

そんな、音と共に目の前の狂気の少女は吹き飛んでいった。吹き飛んだ延長線を見やると、建物を五・六軒吹き飛ばす程の衝撃で視認も出来ないほどの場所で彼女はやっと衝撃を殺せていた。

 

 

 

 

 

『あー…手ぇ出さないって決めてたのに。つい、脊髄反射で出ちまった。』

 

 

その子が吹き飛んだ逆方向からそんな声が響いた。

 

 

 

「……ぇ…」

歪む視界の中……一人の影が見えた。

 

 

 

『……おっと、コイツは重症患者だ。さっさと治すか』

私の混乱をよそに、その人は夕映の背中に触れ、傷──それどころか霊装まで元通りに復元した。

 

 

 

 

「なん…で………」

震える声でその大恩人に話しかける……

 

 

 

『……? なんで?別に、通り過ぎようともしたけど…アイツの言葉の端々に苛ついてな。思わず蹴り飛ばしただけだ。……………いや、蹴りだから手ではない…?つまり、ギリセーフ?』

何か最後はブツブツと言いながらも大仰に肩をすくめて続ける青年。

 

 

『それと、大丈夫か?アンタにも怪我とかあるなら、治しておくが……』

 

 

 

───と、そこで…気が付いたのか。

 

 

 

「あれー!?私の、怪我治ってる。なんで?!」

先ほどまでとは打って変わって元気に飛び起きるとキョロキョロと当たりを見渡し始める夕映。

 

 

 

『凄えな、傷を治したとはいえ…血は抜けたままだし…それでもう動けんのか。』

 

 

 

 

「君が治してくれたの? というか、あの子の攻撃から私たちを守ってくれたの!?ありがとう!」

 

満面の笑みでその人の手を両手で握ると、ブンブンと上下に振る夕映………本当に元気だ。

 

 

 

「あ…っ、その…っ!…お名前とか…伺っても良いですか?」

私が緊張しながらも、尋ねる。

 

 

『……佐藤。…お前らは?』

 

 

 

「夕映!陽柳夕映(ひりゅうゆえ)だよ!」

「えっと…響、緋衣響(ひごろもひびき)です。」

同時に名前を言う、響と夕映…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、その時。

 

 

 

 

 

殺意が…周りから漂っていた。

 

 

夕映も私も冷や汗をかきながら周りに視線を飛ばす。

 

 

『……いや、大丈夫だ。見とけ……』

 

その人は私を安心させるかのように頭を撫でると、視線を集めるように中心に歩き出す。

 

 

 

『………そろそろ…か。【無盧無奥(■■■■)】。』

言霊を唱える。…明らかに何かに干渉している…疎い響でも分かる…今、異常がこの地に起きた。

 

 

 

 

「……っ…はー……これ…って…エグいなぁ…」夕映は何かを見つめながら乾いた笑みを浮かべる。

 

 

 

 

『さ、始めようか。』

 

 

 

そうして……その者───佐藤さんの圧倒的な力でここいら一帯は争いが止まることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「はぁ……。なんで、普通に君から言ってきた約束を反故にしているんだい?」

 

眉根を下げながら、明らかに不機嫌そうに声を上げる。

 

 

 

『……これは…。ですねぇ…』

 

 

 

 

色々あって……右方、左方の闘いを終わらせられた現在。私は、努力をして最小限に傷付けずに気絶させたのに……

 

なんでこの人は普通に準精霊を蹴り飛ばしてるんだよ。

 

 

佐藤は汗をダラダラと流しながら、意味のない謝罪を繰り返している。

 

 

 

「はぁ……もう、別に良いか…。それよりも、君の探していた三人は見つかったのか?」

 

 

 

 

『ん…?あぁ、三人ともこっちに居たよ。これで一応、エンプティ化を消せれば……争いを完全に止めれる筈だ。』先ほどの話題から逸れて一安心しながら佐藤が返してくる。

 

 

 

 

 

「……」

その言葉に…紗和は満ち足りた感情になってしまう。

やっと…終わったのか。とにかく長かった……というより、佐藤の準備とやらで遣われる事が多すぎて長く感じているだけかも知れないが。

 

 

 

「え、……エンプティ化を……消す?!」

佐藤と紗和の会話に一人、反応を示してくる者が居た。

 

 

 

「佐藤…?なぜ、この子も連れてきているんだ?」

この子は…確か、佐藤が言っていた「緋衣響」というエンプティの少女だったはず。

 

 

『あー…。正直、実際に見てもらいたかったからな。』

そう言うと、佐藤は地に…手を押し込んだ。

 

 

 

 

『……すべてを変える時だ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────(隣界時間にて5年後)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くーるーみーさーん。いい加減にしましょうよー 良いじゃないですか、大好きな人とまた会えるんですからー」

そう言いながら腕に絡みついてくる。

 

 

「いい加減にするのは、あなたの方ですわよ! 良いですの?私は別にチキンなどではございません。ただ…今会うのは早すぎると言って────」

腕にしがみつく響の首根っこを掴んで引き剥がすと、即刻言葉が返ってくる。

 

 

「結果チキンじゃ、ありませんか〜」

 

 

「だから、それは──ッ!」

 

 

 

 

 

 

『またお前らそれ言い合ってんのか?』

呆れながら今帰ってきたと思われる佐藤が私たちを見てくる。 

 

 

 

 

 

 

「……あちらの準備は終わりましたの?」

コホンと、咳をして落ち着くと。恥ずかしそうにしながらも尋ねる。

 

 

『終わった…というか、殆ど時間が流れてなかった。やっぱり、この空間はやり難いな…。いっそ、時間を統合させるのもありか?』ブツブツと何か考え事を始める佐藤───途轍も無い単語が聞こえた気がするが、スルーしておこう。

 

 

 

 

 

と、その時。

 

 

 

 

 

「あ…っ! さとうー!。───ごぼふっ……」

 

一人の少女が佐藤の腰に体当たりの要領でぶつかり…そのまま…少女側が負けて声を上げていた。

 

 

 

『あー…カリンか、第十領域はどうだ?』少女の手を取ってやりながら佐藤が尋ねると…、カリンは笑顔のまま答える。

 

 

 

「うん…!…大丈…夫…だよ…!──みんな…仲良し…」詰まり詰まりではあるが、言葉の端々からは興奮が見て取れる。

 

 

 

「あっ、佐藤さん。帰ってきたんですか。」

 

 

 

『おう、響。説得は終わったか?』

狂三の背からひょっこりと顔を出しながら口を開いてくる響に、いつもの調子で佐藤は尋ねた。

 

 

 

「いや〜…全然ダメですよ!狂三さんったら、ほんっとうにチキンなんですもん」だめだこりゃ、と何故か呆れられる。

 

 

 

『……まぁ、仕方ないよ…。ゆっくり…やれば良い。時間はまだあるしな…』

 

 

 

「……紗和さんは…?」

佐藤の背後を見ても、狂三が探していた人物は居なかった。一緒に行ったから居ると思ったのだが。

 

 

 

 

『アイツは……なんか、猫拾ってきて…触ってる。』

向かってきた反対方向──背に指を指しながら、疑問気味に答えた。

 

 

 

 

「猫ですの!?」

佐藤の言葉に即座に言葉で返し、問い詰める。

 

 

 

『あー…えっと、はい。そう…ですね、猫です。』

 

 

 

「……それを早く言ってくださいまし!…紗和さんにだけ良い思いはさせませんよ!」

 

 

素晴らしい速度で廊下を駆け抜け、次々とドアを開けていく。

 

 

 

 

 

『……早いなぁ』

 

「あの人への行動力もこれぐらいあったら、良かったのに。」

 

「同感……」

 

 

 

三者は遠い目でそれを見つめながら、呆れにも…哀れ目にも似た言葉を言うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『………っと、』

深夜、向かう過程の公園に居た人物に話をした後、佐藤はとある路地を経由して目的地までの歩を考え事をしながら進めていた。

 

 

 

 

 

同魂者───俺が廻る世界に稀に現れる存在達。俺が確認できていないだけかもしれないが、少なくとも俺のこの〝道〟の中では記憶に残っているのはとある2人の少女、そして……一人の男だけ。

 

 

しかも、その中でも同魂者という存在は〝前世の記憶〟を思い出す事がある。

 

 その男は俺との出会いで前世の記憶を取り戻し、一時は昔話に花を咲かせられた。

 

 

しかし、その世界も終わった後。そこからは同魂者は見かけても〝記憶を保持している同魂者〟は見掛けなくなった。

 

 

一応、この物語の中にも俺が過去に出会った同魂者が居た。でもそれはこの世界の住人ではない、魂は残留するもの、例えるなら前の世界の〝あの人達〟と、この世界の〝あの人達〟は存在が同じでも魂は違うということだな。

 

 

俺自身もこの廻りという概念を完璧に把握できているわけではない、俺が繰り返すごとに、それを認識するごとに、一体どれだけの負荷が掛かっているのか……。

 

 

 

 

 

『ルリ…ルナ…。』

思わずその名を呟く

 

 

 

アイツラも…もっと古い世界での同魂者だった。正直──あの子たちともう一度出会えたのは喜び以外の何物でもなかった。

 

 

 

でも、ソイツらと出会えば出逢うほどに…俺の命の価値観は擦り減っていく。死んでも出逢えると、錯覚を起こしてしまう。

 

 

 

過去の世界の記憶を覚醒できるのは、本当に稀有…それこそ、あの男の様な奴は本当に稀少かつ奇跡だ。

 

 

 

だから、出会えたからと言ってもその世界に居る〝ソイツ〟は過去に出会った〝ソイツ〟ではない。

 

 

 

 

それだけは、履き違えないようにしないといけない。

 

 

 

 

 

『ま、それは…もう良いか。』

 

 

 

 

今考えるべきは、これから起こる正史だな。隣界の特性を利用して時間の齟齬は言い訳できるようになっている。

 

 

 

 

しかし……隣界の時の流れを自由に操作できることを隠し続けるのも一苦労だ。アイツラからは確実に怪訝そうに見られているし。

 

 

 

というのも、俺がこの世界に巡ってきたのは四月九日ほど、明らかに紗和たちとは本来ならば出会えない。

 

 

 

 

過去に戻るなり考えたが、隣界という時間の流れが滅茶苦茶な事を理由に邂逅することができた。

 

 

 

その後は時崎狂三の分身体、緋衣響、アイツラが正史と変わらないように一計を案じた。

 

 

 

本当に疲れた。響はエンプティたちが死なないと本来なら生まれないし、時崎狂三も七月七日を迎えないとこちら側には来れない。

 

 

 

それすらも正史に乱れが起こらないよう操作をした。

 

 

 

けど、ここまでの詳細をベラベラとアイツラに話したらどんな感情を抱かれるかたまったものじゃないし、適当に繕うということでよかったのだけど…。

 

 

 

 

 

 

『はぁ……、まだ《プリンセス》も出てきてないのに、なんで一番疲れるんだよ。』

愚痴をこぼしながら歩き続けると、やっとその場所に着いた。

 

 

 

 

なんてことの無い一般住宅の前の道路。

 

しかし、時間帯ということもあって人通りは何も無かった。

 

 

 

はたから見ればそれは他の有象無象の歩道と同じだろう。しかし、佐藤からすると────

 

 

 

 

 

あの人達との、約束の場所。

何よりも、あの人達の亡くなった場所。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……天香さん。七罪さん…。」

 

そうして、過去の故人に語りかける。少ない通行人は怪訝そうに佐藤を見つめてくる。

 

 

 

 

「また、…この世界に来れました。──でも、貴方たちの魂は別、だから…この世界の〝あなた達〟とは違うし、僕を思い出す事は絶対にできないと思います。けど…それでも…僕は、必ず皆さんを幸せにしてみせます。………」

ほんの少しだけ潤った瞳を指でこする。

 

 

 

 

 

 

『よし…っ、じゃあ…行くかな。』

 

■■は終わり、佐藤を再開させる。明日は大事なあの人との出会いだ、より気を引き締めて演技をしないと。

 

 

 

 

でも、あの人の悲しい顔を見たら。士道よりも先に行動してしまいそうで怖いし……あの場所には行かないほうがいいのかな…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局最後まで決断を出来ず、明日を迎えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





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