デート・ア・ライブIF 【エラー】   作:セルヴェイエ

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悲劇のない物語に喜劇なんて生まれない。悲しみがあるからこそ、それによって生まれる喜びは強くなる。



『だから、……まずは……〝一人殺そう〟』




































 


心無き者(ハートレス) 【二十四】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

心無き者(ハートレス)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

隣界。第三領域─────緋衣響、時崎狂三、シスタス、白の女王、恵琉芭カリンの五人は…明らかに様子が変わって帰ってきた佐藤の背を見て…コソコソと話し合っていた。

 

 

 

 

 

「……何か…あったんですかね…」

響がチラリと佐藤を視界に捉えながらぼやいた。

 

 

 

 

 

「さとう、…明らかに変…。…でも…嬉しそう」

カリンの呟きにシスタスが口を開く。

 

 

 

「それはわたくしも…思いましたわ。妙に…微笑んでおりましたし…」

 

うんうんと、シスタスは頷きで首肯する。

 

 

 

『………………』

 

 

「……? そうですの? わたくしには何もわかりませんのですけど……」

 

 

「明らかに嬉しいことがあった反応でしたよ。…でも、あそこに行って嬉しいことって……なんなんでしょう…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……………あのなぁ、聞こえてんだけどお前ら。』

 

もう別部屋で話せよ。と思えるほどに呆れながら…佐藤はゆっくりと首を後方に向けて口を開いた。

 

 

 

 

 

「それよりも、佐藤さん……それ何してるんですか?」佐藤が何をしてきたかの話し合いには飽きたのか、響は指を指して…佐藤の行為に興味を示してきた。

 

 

 

『これか?あー…何ていうんだろうな。……工作…かな?』

 

 

 

「こうさく?」

カリンも興味があるのか、首を傾げて尋ねてくる。

 

 

 

 

『…まぁ、見せたほうが早いか。』

 

そう言いながらくるりと…佐藤は振り返るの…〝それ〟を五人に見せつけた。

 

 

 

手の平サイズで…八角形の…物体(?)…をまじまじと響などは見つめる。

 

 

 

「何ですか…これ。」

 

 

 

『八卦炉、っていう……アイテムだ。───本物なら…火を吹いたり風を起こしたりする機能があるだが……如何せんこれは…贋作でしかないからなぁ。…制御も効かないし、燃費も悪いんだよ…だから、それを直せるように工作してる。』

 

 

 

「それで、…その…八卦炉?を、作れたとして…何がしたいんだ?」

 

 

紗和の問い掛けに佐藤は間延びした声で返答する。

『んー?…だから…。例えば…準精霊たちも…これを持ててたら…仮に敵とか現れても自衛できるだろ?』

 

 

 

 

 

 

「……ふっ…。口では面倒くさいだの言いながら…ちゃんと気にしているんだね……彼女らの事を」

 

 

 

「流石…佐藤様ですわ…。そんなにも…私たちのことを慮って下さるなんて……」

 

 

「さとう…優しい」

 

 

「いやー……ツンデレって奴ですか? やっぱり佐藤さんって私たちのこと好きなんですねー」

 

 

「まぁ、わたくしは…何も言わないで起きますわ。」

 

 

 

 

佐藤がほぼ無意識で言ってしまった返答を、からかうように四人の少女は口をそろえて言ってきた。

 

 

 

 

『……チッ…』

佐藤は本当に苛立たしげに、立ち上がると。…そのまま…バンッと八卦炉を机の上に叩き付けて…荒々しく扉を開閉し、出ていった。

 

 

 

 

 

「……それにしても…。本当に何があったんでしょう…」

ふと、先ほどまでの疑問を思い出し、響はう〜んと、うなりながら声を上げた。

 

 

「それは、わかんない。でも、響のぎもんは正しい。…少し…さとうの雰囲気が変わった気がするから…」

 

 

 

「まぁ、良いではありませんの。…次に佐藤様が来てから聞いてみるのも。」

 

響とカリンが言い合う中で…悠々と紅茶を飲みながら、シスタスは口を挟んだ。

 

 

「でも、…さっきの妖精さん?たちも、そうですけど…。佐藤さんって……頭の中どうなってるんですかね〜…」

 

紗和が普通の口調に戻り、シスタスに向かって口を開いた。

 

 

 

シスタスは少し…不愉快そうに目を細める。

「残念ですけれど……わたくしが【十の弾(ユッド)】で知った情報を教えるつもりは一切ありませんわ」

 

 

 

紗和は残念そうに吐息しながら、肩をすくめた。

「分かってますよ。…その答えは私が直接佐藤さんから聞くって決めてますから」

 

 

 

 

「………っ」

 

すると、シスタスは…ズキズキとした頭痛に頭を手で押さえた。

 

 

 

「どうかしたの? また、ずつう?」

 

 

シスタスは苦々しい顔でええと、頭を縦に振った。

 

 

 

「寝ておいた方が絶対良いですよ……前から体調悪かったんですし…あんなモノ見たら体調も悪化しますし…」

 

 

 

「……そうして…おきますわ…」

響の提言を呑み、…シスタスは未だ弱まることのない…頭痛に顔を歪めながらも…部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫ですかね……シスタスさん…」

 

シスタスが出ていってから…数秒後。不安そうな顔で響が唇を開いた。

 

 

 

「あの人も…一応狂三さんなんですよ。大丈夫に決まってるじゃないですか」

 

 

 

「ど・う・い・う…意味ですの?」

意味ありげに、紗和の言った言葉に…狂三はギロリと睨みを利かせた。

 

 

 

「あはは〜…冗談だよー…」

目を逸らしながら、紗和は…後退していった…。

 

 

 

 

 

 

と、そこで……響は思っていたことがあり…紗和に尋ねる。

 

「紗和さんって…佐藤さんの前以外だと…素に戻ってますけど…アレなんなんですか?」

 

 

紗和はまず、質問の意図が分からず…目を丸くしていたが…ああと、頷いて口を開いてくる。

 

 

「………アレは…別人格ですよ。……名付けるなら…そうですね…無性愛者(アロマンティック)…とか、どうですかね?」

 

カリンも響も首を傾げたが、…狂三は…呆れながら…嗚呼なるほど…と、理解していた。

 

 

 

「私、…素の状態で佐藤さんと会話したら…何しでかすか自分でも分からないんですよね。だから、…私の愛情に…ある程度は無感動になれる副人格を作って…その時はソイツに会話させてるんです。」

 

 

 

恋愛感情を抱かない────だからこそ、アロマンティック。

 

 

 

「じゃあ、もし…。紗和が…その状態でさとうと会話しようとしたら……どうなるの?」

 

 

 

紗和は…ほぇ?と、首を傾げてから…さも当たり前のようにつらつらと言葉を並べていく。

 

 

「えーっと、まず…佐藤さんに抱きついて、■■■(ピー)してから、■■(ピー)した後に、■■(ピー)をします…。それで、■■■(ピー)もして、…あ!■■(ピー)もさせますね、…それから───────」

 

 

 

「ちょいちょいちょいちょい!!アンタ何いってんすか!」

 

 

「え…?だから、■■(ピー)を────」

 

 

「そこじゃないわ!なに放送禁止用語ベラベラ言ってるんですか!ていうか、そんな事したら…佐藤さんからドン引きどころ絶交されますよ!」

 

 

 

カリンと狂三が…絶句している中。響が息を荒くしながら言うと、…紗和はやれやれと肩すくめてきた。

 

 

 

「多分自我もなくなりますから、これ以上ヤバいこともやりますよ…。と、まぁ…だから私は無性愛者(アロマンティック)を使ってるんですよ」

 

紗和はそう言うと、…外の空気を吸ってくる…と言って部屋から出ていった。

 

 

 

……響は改めて…あの人ヤベー人だ…。と、思い知るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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『………ドラマもなければ…特段の説明描写もない…。呆れた…物語だな。』

 

 

世界の狭間で、ボロボロのスーツを着た少女は…その世界を観測しながらため息を吐いた。

 

 

 

『貴方がたもそう思うだろう?───こんなの、正史を愚弄しているよなぁ、…それに、面白くないだろう?…でも、大丈夫。今から一人ぐらいは殺してくるから……』

 

 

 

 

 

ふふっと…嗤う少女の背後で…何かが蠢いた。

 

 

 

虚往実帰(きょおうじっき)…。〝クラウン様〟……ご命令通り─────【ありふれた職業で世界最強】、【ウマ娘プリティーダービー】、【HUNTERXHUNTER】の贋造物語を破壊して参りました。」

 

 

 

 

左手に手甲鉤を付け、白と黒だけで彩られた外套を羽織り、兎の耳が付いたフードを目元が潜れるまで被った少女は【クラウン】と呼ばれた少女の前で片膝を立て頭を下げた。

 

 

 

クラウンは…ふむ…と、思案する。

 

 

そして、手甲鉤を手に付ける少女の…死人と思えるほどの生気の無い真っ黒い目・青白い肌を…チラリと見ながら…口を開いた。

 

 

 

 

『……ああ、…〝■■■〟…他の彼女たちは?』

 

 

 

「……」

そして、その名を告げた直後。

 

 

〝■■■〟と呼ばれた少女の背後から……五人の少女たちが現れる。

 

 

 

それをみて、クラウンは嬉しそうにはにかみながら言う…。

 

『ああ、…よく帰ってきてくれたね。ボクの愛しき奴隷たち。』

 

 

 

一人は凍った戦鎌を持ち、虫食いに遭ったかのようにボロボロとなっている和装を着た少女。

 

 

一人は女仙人のような格好に錆びた釘を持っている少女。

 

 

一人は黄金の大剣を携え、穢れた翠色の魔女服を着た少女。

 

 

一人は首や手首に枷を付けて…鎖鎌と薙刀を持った少女

 

 

最後は…禍々しいほどに無骨でうねった骨を首から腰にかけて着ているかのような少女。

 

 

 

 

 

そして、〝■■■〟の名を持った少女が淡々と告げる。

 

 

「……■ト■

 

 ……ム■■

 

 ……■■ミ

 

 ……ヤ■■

 

 ……■■

 

───全員。傷、損傷、一つなく帰還しました。」

 

 

 

 

 

クラウンは……軽く微笑む。そして、その考えを悟ったのか…〝■ト■〟が軽々と口を開いた。

 

 

「もしかしてー、クラウン様。記憶が戻ったの?」

 

真っ黒で何も写していない目とは対照的に…〝■ト■〟はフランクにクラウンに尋ねた。

 

 

 

『いや、そういうわけでもないさ。ただ…少し…本当に少しだけ…違和感に気付ける程度には戻った…とも言えるのかもね。』

 

 

 

すると、…錆びた釘を持っている少女が今度は抑揚のない声で言葉を紡いだ。

 

「では、次は……この世界の破壊が指示でしょうか。」

 

 

 

クラウンはその言葉を首を振って否定する。

 

『今回は……そうだね、【■■■】だけで良いかな。それ以外は使わない。それよりも、…他の者たちは命令した通りの世界を偵察してきてくれ。特に正史に礼儀を欠いた物語は…惨殺に…ね。』

 

 

 

今度は…足首や首、手首に枷の付いた少女が声を上げる。

「…命令ならば、全てを壊し、貴方様に捧げましょう。」

 

 

 

その言葉と共に、……クラウンに向かって…〝一人の少女を除いて〟全ての少女たちが片膝を立て、頭を深々と下げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『言わなくてもわかると思うが、君は留守番だよ?絶対にこの世界から出るなよ?』

 

 

 

「………」

聞いているのか…それとも、まったく意に介していないのかは不明瞭なほどに小さく…穢れた魔女服を着た少女は頷いた。

 

 

 

 

 

すると、…他の少女たちの声が木霊する。

 

 

「……何でいつも【■■ミ】って留守番なの?弱っちいから?」

 

■ト■が■■■に対してゆるく質問をする。

 

 

■■■は呆れも苛立ちも覚えることなく端的に答える。

 

 

「分からない」

 

 

「……?」

 

 

「彼女はクラウン様の奴隷の中で最古の奴隷。…しかし、強さは折り紙付きだ…そこだけは勘違いするな。」

 

 

「へー…」と、■ト■は舌舐めずりをした。

 

 

「戦ってみたい──という魂胆が見えきっている。戦うのは後五百年経った時だ。それまではクラウン様の仰せの通り、世界を壊して回れ」

 

 

つまんなさそうにため息を吐く少女に続けて■■■は言葉を紡ぐ。

 

 

「……さ。早く行って来い。でないと…私が貴様を殺すぞ」

 

 

わー怖い怖い…と、演技がわかりきっている声音で■ト■はそう言いながら…真っ黒な渦の中に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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そうして、少女たちが出ていった頃。

クラウンは〝こちら〟を見つめ、笑った。

 

 

 

「さてさて、……観測者の方々。どうか、このドラマが貴方たちの娯楽に少しでもなれますよう…努力しましょう。……そして、その為に……まずは……一人ほど…殺してみましょう…」

 

 

ニタリ…と、クラウンは笑う。……そして、その言葉に返答するものはいないが…。

 

 

 

クラウンは一人でに頷くと、…口を開く。

 

『まぁ、そういう方々もいるでしょう。…何故、…すぐ壊さないのか…。───しかし、私にもやりたいことがあるのです。この世界に私は何かを感じ、そしてそれは…私の記憶の回帰にも繋がる。だから、破壊は暫しお待ちを…』

 

 

─…─、─…─……。──…──……。

 

 

 

『ええ、分かっていますとも…。殺ると宣言したならば絶対に成功させますよ。────私の前で……ご都合主義は聞きませんから』

 

 

 

 

 

 

そうして、その方たちの、答えを聞くと。クラウンは一礼をして世界を閉ざした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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隣界。第三領域───佐藤が作ってくれた頂上の露台で…第三領域(セカイ)を見下しながら紗和はため息を吐いた。

 

 

 

 

「………」

外の空気を吸いたかったのは…本当だ。でも…、それ以外にも目的があった……それは───────

 

 

 

 

 

 

と、その時。

 

 

 

 

 

『〝やぁやぁ、こんにちは…盤上の駒どもよ〟』

背後から……聞いたこともない…声が聞こえた。

 

 

妙にハツラツとしながらも、その声音は明らかに悪意と敵意に満ちている…悪者の声。

 

 

 

「…………」

面倒くさそうに、紗和は目を細め。背後を振り返った。

 

 

 

 

そこに居たのは……ボロボロのスーツを纏い、黒いシルクハットを被った少女だった。

 

 

 

 

 

『……ふふっ、そう邪険に…しなくてもいいじゃないか。』

 

 

紗和が顕現させた〈狂々帝〉──機械仕掛けの剣の先端を向けると、その少女はカラカラと笑った。

 

 

 

 

『今日は…別に戦いに来たわけじゃないんだよね。』

 

 

 

 

「……」

紗和は少し押し黙ると、剣閃をクラウンに向けて放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「……」

現在。狂三は机の上に置かれた佐藤が言うには【八卦炉】というモノを興味深そうに見つめていた。

 

 

 

「火を吐く………」

佐藤の言葉を思い返しながら呟いた。

 

 

 

「どうしたんですか狂三さん」

すると、狂三の呟きに気付いたのか、お茶の準備をしていた響きが振り返ってくる。

 

 

「い、いいえ?なんでもございませんわ」

妙に声が上擦ったことに不審がられながらも、どうにか誤魔化せたのか…響は不思議そうに向き直った。

 

 

「くるみ、…それは触っちゃだめ。」

 

 

「わ…わかっておりますわよ……」

感の鋭いカリンを鬱陶しく思いながらも…狂三は、まるで遠足前の子供のようにウズウズとしながら八卦炉を見つめていた。

 

 

 

 

そんな時。

 

 

 

バタンッ───!! と…部屋の扉が仰々しく開けられた。

 

 

「「「………?」」」

三人は全く同時に首を捻ると、視線は扉へと向かう。

 

 

 

そこに居たのは───「狂三…さん…っ。…この隣界に…何か…居ます…!」

 

と、身体中傷だらけで…出血もしている紗和がそこに居た。

 

 

「さ、紗和さん?!」

狂三は思わず駆け寄ると、…〈刻々帝(ザフキエル)〉───【四の弾(ダレット)】を使って紗和の傷を治した。

 

 

「だ、だいじょうぶ…? 敵が居るって…本当…?」カリンも少し狼狽しながら紗和に尋ねた。

 

 

尚、響は…というと………紗和の状態を見た瞬間から慌ただしく手振りが始まり、煩くなりそうなのでカリンの人形が口を覆っているため喋れない。

 

 

 

少し、呼吸を落ち着けてから紗和は唇を開いた。

 

「…それは本当です…。もしかしたら、もう城内に潜伏されてるかもしれません…」

 

 

 

カリンは続けて質問をする。

「……どうにか…にげてこれた…って、感じだね。ということは…結構強かったの?」

 

 

「…………………はい、…それはもう…とんでもなく強かったです…。」

 

 

「………?」

何故だろうか。…その説明の仕方に何となく、不審に感じたが……そんなのいつもこの女どもには感じてるし関係ないか。

 

取り敢えず状況を理解すると……人形たちを放ち、敵の捜索をさせた。

 

 

「ぷは…っ…!死ぬかと思いましたよ!何するんですかー!」

 

 

「あんしんして、隣界ではさとうのお陰で霊力がある限り絶対死なないから。」

 

ぽかぽかと弱々しく叩いてくる響に嘲笑のような言葉を送る。

 

 

「………へぇ…」

 

 

「紗和さん…?どうかしまして…?」

 

 

「いえいえ!何でもないですよ」

 

 

すると、少し落ち着いた響が紗和に向かって口を開いた。

 

「えっと、本当に大丈夫なんですか?」

 

 

「大丈夫ですって、…傷は狂三さんに治してもらいましたし…」

 

 

響は心の底から安心したように…安堵の息を吐いた。

 

 

それを見届けると、狂三は…取り敢えず…廊下に出た。

 

 

───そして、左右を確認し、…気配を探る。

 

「…敵は…ここらには居なさそうで───」

 

 

振り返ろうと…した…時。

 

 

「〝駄目じゃないですか……私に背中なんか見せちゃ…。ねぇ…狂三さん〟」

 

 

そんな声が認識できたと、同時に…ゴボッと、喉から…奇妙な音が生まれ、血が口から溢れた。

 

 

「さ…、わ…っ…さ…ん…?」

そうして…───狂三の背に刺された剣は引き抜かれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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『あー、クソ。変な事言うんじゃなかった…』

 

 

現実世界の天宮病院の屋上にて……佐藤は柵に保たれかかりながら…ため息を吐いた。

 

 

 

 

───今頃、士道と琴里たちはオーシャンパークでデートをしているのだろうか。

 

 

俺は……未来を知っていると言っても…その光景を口頭でしか知らない為、手出しをできない。

 

 

でも…。こればっかりは俺が手を貸さなくても解決できたはずだ。

 

 

 

 

問題と言う問題は…………何故、あの世界と繋がっているという問題だろうか。

 

 

 

しかも、俺がリンクさせているわけでもないから…直接飛ぶことも出来ない。

 

 

 

『……はぁ。』

思わずもう一度ため息を吐いてしまうが。悪いことばかりでもない…。

 

 

 

琴里が終われば次は………八舞姉妹。その次は美九。───

 

 

 

そう考えながら、佐藤はボロボロになったメモ帳を取り出した。

 

 

 

 

そうして…その中にはびっしりと、文章がとにかく書き綴られていたが……。

 

 

佐藤はただ一文を見つめていた。

 

 

 

【ー…──、と─ー…。角…、…─勝─…をする】

 

 

それを見て、……佐藤は……少しだけ微笑む。

 

 

 

「もう少しです…〝天香〟さん」

 

 

 

と、佐藤が思いに耽っていると……耳元を甲高い電子音が襲った。

 

 

『……っ…。何だよ…耳…いった……』

 

 

その【爻盡六王(サマエル)】を使った連絡に毒づきながらも…応答をするように口を開く。

 

 

『何だよ…。……まさか、アイツラまたケンカ始めたとかじゃないだろうな────』

 

 

 

紗和からのメーセージだとは分かるが…途切れ途切れに声が聞こえる

『て…。──き、が…─…、…。──ま、し…』

 

 

 

 

「……は?」

 

 

 

 

 

佐藤はその内容を理解すると…歯をギシリと噛み、すぐに門を作り出し、くぐった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ああ、佐藤に連絡されちゃいましたか…。あー…残念だな〜…」

 

 

上を向きながら、紗和はやれやれと肩をすくめた。

 

 

 

「な…っ、何してるんですか!紗和さん!」

 

 

「……何…とは? 〝自分を殺した人間への仇討ち〟を不思議がるんですか?」

 

ニコリと…紗和は微笑みを隠さずに…その上で心底不思議そうに言ってくる。

 

 

 

 

──ゾワリッ

 

響は何とも言えない隔絶感に身の毛が立った。

 

 

 

 

しかし…、

 

 

「〝お前〟誰だ?」

カリンは敵意の籠もった目つきで紗和を睨んだ。

 

 

 

 

「何って…。カリンこそ何言ってるんですか?私は山打紗和ですよ。」

 

 

 

床で苦しそうに這いつくばる狂三を見て、愉しそうに…紗和は笑いながら答えた。

 

 

 

 

「真似をするんだったら…もっと上手くしたほうが良かったね。───…そもそも、紗和は…佐藤を〝絶対に〟さん付けで呼ぶし、……狂三との因縁はかなり前に断ち切っている。」

 

 

それを聞くと、紗和(?)は…「あーあ」と、芝居じみた嘆きのような言葉を発して……ぐるりと不自然なほどに曲げて首をこちらに傾けてくる。

 

 

『よく気付けたね。──ボクのリサーチ不足もあるんだろうけどさ…』

 

 

そう言った直後、……紗和の身体がパキパキと割れていき……ガラスの破片のようなものが落ちきった頃には…別の少女が現れた。

 

 

 

 

『それにしても、…彼は…凄いねぇ。隣界をこんなに変えてしまうだなんて。───』

 

 

普通の社会人が着ているような…ごく一般的のスーツを…わざと破いたかのようにボロボロとなったモノを着用した少女がそこに…立っていた。

 

 

 

『〝くひひ〟…っ…。さぁさぁ…やっと面白くなってきたんだ…。始めよ──────』

 

 

と、少女が言い切る前に…何かが少女の胸を貫いた。

 

 

小さく黒く速い物体───そうそれは…弾丸だった。

 

 

 

『まぁ、…いい判断だ。時崎狂三くん…』

しかし、弾丸を胸に撃たれ…確実に貫通したはずなのに…少女は何事もなかったかのように狂三を讃える賛辞を送っていた。

 

 

 

「貴方、〝何〟ですの?」

いつの間にか【四の弾】で体の傷を治している狂三は少女に問うた。

 

 

 

隣界に住まう準精霊ではない。精霊でもない。人間ですらない。

 

 

生命体とは言える少女に向かって…その問いを放つと…少女は機嫌が悪くなったかのように眉を歪めた。

 

 

『それさぁ、……なんか聞かれると腹立つんだよね。だってぇ…、〝説明しても理解されるはずないのに説明を要求される〟──簡単に言えば…偏差値三十の奴から確率過程論の事教えて──って、聞かれるみたいなもんだよ?分かる?分かんない?…、まぁ…どっちだっていいけどさ。…とにかく答えてあげようか…、ボクの名前は…【クラウン】───世界を正すために世界を壊す…【摂理(システム)】さ。』

 

 

何となく…だが、言葉の意味など理解せずとも…目の前の存在が異質であることは理解できた。

 

 

 

そして、理解できたならば…やることは一つである。

 

「───【七の弾(ザイン)】!」

弾くように手を動かすと、そのまま弾丸を装填し、【クラウン】と名乗った少女に向かって放った。

 

 

 

しかし…

 

 

「ああ、無駄無駄。そういうの〝効かないから〟」クラウンは鬱陶しそうに目を細めながら手を振った。

 

 

 

弾丸が肩に当たったのにもかかわらず…【七の弾(ザイン)】は効力を発揮しなかった。

 

 

それは…まるで……あの…男のように。

 

 

 

 

次いで、今度はクラウンの影の中からカリンの人形が這い出て…脚に攻撃をした。

 

 

しかしそれも…察知されているのか全て身体能力で解決される。

 

 

『うん。良いね。……真正面の攻撃が効かないと理解した瞬間に…ボクに悟られずに影からの攻撃。───いや〜…君たち意外と戦えるんだね。あのクソ男に干渉されすぎてるせいで…戦えないとばかり思ってた。ゴメンね?』

 

 

 

「…っ───【傀儡昵懇(アミカス・エルバ)】!!!」

カリンが叫ぶと同時、クラウンに向かって四方八方から無骨な機械仕掛けの人形が襲う。

 

 

『数の攻めは無駄だよ。』

クラウンが、そう笑いながら……言霊を紡ぐ。

 

 

 

『【虚王無永転(ハシュレフ・リエイン)】───』

 

 

すると、……まるで上からとんでもない重圧にかかったかのように人形たちが叩き潰され……そのまま床にめり込むような形となった。

 

 

それを見ると、クラウンは…楽しげに笑った。

 

 

『……やっぱり…オリジナルの能力って良いよねぇ。僕ね?本来だったら…そこら辺の世界の特質とか能力とか使うんだけど…。それってつまんないじゃん。例えば、【魔王学校の不適合者】の「アノス・ヴォルディゴード」とか、【転生したらスライムだった件】の「リムル=テンペスト」とか【ワンパンマン】の「サイタマ」が〝出来ること〟を能力と定義して…使うっていう…のも出来るんだけどぉ…何か…合わないし、知名度が高い分強いんだけど…弱すぎるからさ。辞めといた。…それに、あの世界だと強い能力でも…描写も説明も理も法則も違う世界で使うと弱体化することがあるんだよね。……だから、どこに行っても安定的な力が欲しかったから…。だから、作ってみた。…分かる?ああ、でも。君たちには言ってないから大丈夫…ワタシが言ってるのはあの方たちへの説明だから。』

 

 

 

「貴方……本当に何者……ですの…?」もはや、生き物であることすら疑いたくなってくる。 

 

 

 

目の前の存在を…生物と断定したくない自分がいる。

 

 

 

『おいおい、〝これでも生物だよ?生物と思いたくないだなんて言わないでくれよ〟……』

 

 

 

狂三は何もそんな事を喋っていない。それどころか、思考した事を…詠まれた。

 

 

ここで、会話を聞いていた響の恐怖が臨界点に達したのか。叫びが入る。

 

 

「────【爻盡六王(サマエル)】!!!」

 

恐らく、転移の権能。しかし……それすらも…。

 

 

 

『ああ、ダメダメ。もう、位置をここで〝固定〟してるから動けないよ。どうせ、転位とかしようとしたんでしょ?駄目だよぉ、逃げないでさぁ…ボクとめいいっぱいたたかおうよぉ…ねぇ?良いでしょ?』

 

チッチッ…と、舌を鳴らしながら…クラウンはそう言うと。凄絶に笑った。

 

『教えてあげようか?ボク一人でも…この隣界(せかい)を壊せる』

 

続けて言葉を紡ぐ─────

 

『さぁさぁ、始めようじゃないか!楽しい楽しい【鏖殺(デート)】をさぁ!』

 

 

まずは、一番弱そうな───もしくは、転位能力を持っていると断定された響に標的が回る。

 

 

 

「ひ……っ!」

完全に畏怖し、響は目を閉じた。

 

 

 

でも、痛みは来ない。もしかしたら…カリンや狂三が守ってくれたのかもしれない…。そう思って…目を開く。

 

 

 

『お前。どういうつもりだ?』

瞬間にクラウンの苛立ちげな声が聞こえ……それを認識した刹那。響は…目を見開く──

 

 

 

 

「……」

〝穢れた魔女服を着、右手に大剣を、左手に鍵のような錫杖を持った少女〟が…響を守るかのように…もしくは、クラウンに仇なすように前に立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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■■■■■■■■【数十分前】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

隣界に入った佐藤は……まず、一つだけ…異変を感じ取っていた。

 

 

 

『……』

 

妙に息が白くなる…と思ったら。

 

 

『なるほどな。氷系統の敵が来てるのか…』

そう言いながら…佐藤は…目の前に歩いてくる。

 

 

 

『いい度胸してるじゃねぇか。お前、死ぬ覚悟は出来……て…──……』

 

その姿を認識した瞬間。佐藤は息をするのを忘れてしまうほどに衝撃を受けていた。

 

見間違えるはずが無い。

 

 

瞳はオニキスのように真っ黒で、髪は色素が消えたかのように真っ白。

 

でも…でも…例え…白黒だとしても…。

 

 

兎の耳が付いたようなぶかぶかのフードと外套は…間違いなく…あの人だった。

 

 

「対象確認。……足止めを開始する」

 

 

 

『…あ…、は…?』

佐藤が思い描いた人物とは全く異なる、声音でそんな言葉を吐いてきた。

 

 

 

そして、少女は紡ぐ──最狂最恐の…悪意(てんし)を。

 

 

 

「凍て付かせろ───【心氷爛漫(ペリエル)】」

 

その言霊が聞こえた瞬間。少女は左手付けた手甲鉤を振るった。

 

 

『……っ!』

思わず佐藤は【爻盡六王(サマエル)】で空に転移する。

 

 

 

 

「……空へ逃げた。────やはり、…クラウン様の言う通りだった」

 

 

少女は前方に存在する全てを凍てつかせた後。…鬱々とした顔で上空を見てきた。

 

 

『……は、…クラウン…だと…?』

少女が言ったその名を聞くと……佐藤は…呆けた顔を作る。

 

 

しかし、すぐに思考をもできなくなる。

 

 

 

何故なら…固まったからだ。───思考がままならない。

 

 

〝分からない〟という事実が常に頭を巡り、…そこから一歩先に進めない。

 

 

 

「これが…私の【心氷爛漫(ペリエル)】の能力。───私が認識できるものならば、全てを凍結…停止させる。どんな力も、枷も、エネルギーも、〝思考も行動すらも〟」

 

 

まぁ…と言って少女は続ける。

 

 

「私の能力は…クラウン様の下位互換に過ぎないが…それでも、貴様程度の足止めなら可能だ」

 

 

 

『黙れ、…贋造』

 

 

 

「……へぇ」

目の前の存在が言葉を喋ってきたことに…■■■は感嘆の声を漏らした。

 

 

 

「凄まじいね。思考を止められても喋れるんだ」、

 

 

『悪いが…〝そういうの〟とは、腐る程戦ってきた。こちとら、藍染の鏡花水月にも…対応できるように〝人格と思考のスペア〟を頭の中に作ってんだよ。』

 

 

「………? ああ、なるほど。」

思考のスペアという、部分だけ理解するだけで良いと思ったのか…無駄な疑問は殴り払う少女。

 

 

 

『……で、お前らは何をしに此処に来た。』

 

 

 

「…何…か。端的に言えば…〝贋作の削除〟と、私達はクラウン様に言われている。…」

 

 

『よくもまぁ、ベラベラと喋るんだな。敵に情報与えても良いのか?』

 

 

「構わない。……結局──この世界も私たちが壊してきた贋作と同じ未来を辿る」

 

 

この問答で佐藤は理解する。───クラウンは俺を狙っていない。……というよりも…俺の危険性を分かっていない。

 

 

 

何故…と、疑問が新たに生まれるがそれは大して問題ではない。

 

 

 

『お前───こんな問答したり考え事をしてる間になんで攻撃してこない?』

 

 

「私の目的はお前の行動の妨害だけ。ここから動きがないなら…殺す気も戦う気もない」

 

 

 

『お前に俺が殺せるとも?』

 

 

泰山圧卵(たいざんあつらん)。……当たり前」

 

 

『…………』

───よく意味は分からないが、【そんなの簡単】的な意味合いだろう。

 

 

 

そんなどうだって良い会話をしている間にもアイツラは恐らく交戦している。

 

 

だから、こんな所で油売っている場合じゃないのに。

 

『………っ』

 

佐藤が足をピクリと動かすと……コンマも満たない時間に少女は手甲鉤を振るう予備動作を取ってくる。

 

 

 

思わず冷や汗を垂れる。

 

 

さて、どうする。──こんなクソ雑魚は取るに足らない相手ではあるが…後三回だけしか〝アレ〟は出来ないし、その三回を使う場面は既に予約済みだ。

 

 

使うしか…ない…か。

 

と、わだかまりを感じた佐藤が能力を発動させようとしたとき。 

 

 

 

 

少女と佐藤の間の空間に〝孔〟が開き、鍵のような形状の錫杖が現れた。

 

 

 

『─────は?』

その中から錫杖を持った少女を見て、…今度の今度こそ…佐藤は…間抜けな声を発した。

 

 

 

穢れた翠色の魔女服と魔女帽を着て…、髪は色素が抜けた白が殆どだが…〝グラデーションに緑色〟が付いたボロボロの髪で、瞳は今にも消えそうなほど薄い翡翠色だが…微かに…されど、確かに…光のある眼。

 

そんな姿の少女は…手甲鉤を付ける少女に向き直ると…〝口を笑みに変えた〟。

 

 

「……ギリギリ間に合ったみたいね。…ふふっ、何よその顔…あんたらしくないわね」

 

 

「……貴様。何の用だ、……」

目に光の灯らない少女は……苛立ちでも焦りでも何でもなく…ただただ疑問のように問うた。

 

 

「クラウンに〝今度は〟壊させない。この子が築こうとする未来に…あんたたちは不要なの。もちろん私も。───だから、ここで私と一緒に死になさい」

 

 

 

『…………』

佐藤は目の前の人間が、何であるかはわからなかった…でも…〝何者であるかはわかっていた〟。

 

 

 

「な…つみ…さん…」

 

佐藤が言うと、魔女は笑った。

 

 

「……行きなさい。今はもう…時間がないの」

 

魔女は胸を抑えながら、そう言った。───それはそうだろう、佐藤も一度…それを見たことがある。

 

 

悪虐の限りを尽くす…反転体を超えた…〝ナニカ〟。

 

だから、佐藤は…全てを理解したとしても…転移をする前に…一言告げた。

 

 

「───あり…がとう…ございます…っ!」

 

 

彼が消える瞬間。…魔女は一言呟く。

 

「……それを言うのは…コッチだっつーの…。バーカ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■■■■■■■■■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼が消えたのを見て、…〝七罪〟は笑った。

「あれだけ迷惑かけた力を、…助けるために使えたなら……まだ御の字かな…。」

 

 

 

「本当に何の真似だ。何故…私を裏切った」

 

 

「裏切り?いつ私があんた達みたいな奴らの味方になったの?」

 

嘲るようにそう言うと、少女はギシリと歯を噛んだ。

 

 

「…………」

しかし、少女は目の前の魔女に何かをする事が出来ない。

 

 

 

仮に、思考を凍結させようとしても…あの女の【劫掠堕嬢(マモン)】は…それを無力化した上で自身の力のように振るってくる。

 

 

本来ならば一撃で決めるのが定石。だが、少女には瞬間的な火力を出す術がない。

 

 

 

だからこその…停滞。

 

 

 

 

「何もしないならそれでいいわよ?私は…どうせすぐ死ぬからね」

 

 

 

「……?」

 

 

「ほんと…奇跡ってあるのね。」

七罪は感嘆したように呟きつつ、目を細めた。

 

 

 

この世界で私の願いが叶っているだなんて。思いもしなかった。

 

 

目をゆっくりと開いて…言葉を紡ぐ。

 

「だから、もう私に悔いなんてないのよ。ここで…あんたを足止めできれば……ね。」

 

 

少女は意味のわからなさに理解を諦めたのか、…一歩飛び退くと…、そのまま彼を追いかけようと飛び立つ。

 

 

しかし……

 

「やらせるわけないでしょ。【劫掠堕嬢(マモン)】────〈鏖殺公(サンダルフォン)〉!」

 

 

七罪も飛び上がると、大剣を顕現し、少女に斬り掛かった。

 

 

「……っ、本当に…貴様は何なんだ!何故、…クラウン様に気付かれもせず…どうやって!」

 

 

少女の作り出した氷剣と巨剣がぶつかり合い火花が散る。

 

 

「私は…ずっと、待ってたのよ!私たちの死体を弄くり回して…こうなった後も…〝一度この姿に成った事がある私だけは耐えられた〟!だから、再び…あのクソ女が…あの子に悲劇を与えないように…何万年も待ち続けて…アイツの奴隷のように振る舞い続けた。確かに…記憶は……殆どない…!でも、〝あの子を救いたい〟って気持ちだけは…本物で…それだけを頼りに生き続けてきた!だから、だから、だから…っ!絶対にあんたとクラウンを接触させはしない!」

 

 

「…クラウン様に勝てるものなど居ない!なら、お前が死んだ後に…他の者達も連れて必ずこの世界を──────」

 

 

 

「────もう二度と、あの子をあんな思いにはさせない!この世界でだけは……幸せに…絶対に幸せになってもらわなくちゃ…。彼の人生の帳尻が取れないでしょうがぁぁぁ!」

 

 

 

「……っ」

剣で何度か斬り合ったあと、そう叫ばれると同時に、少女は空から地面に打ちつけられた。

 

 

 

「本当に…厄介…」

少女は肋骨のヒビを感じながらも、呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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クラウンは突如として現れ、そして…自身を裏切った少女と闘いを繰り広げていた。

 

 

『あのさぁ…。本当に…嫌なんだけど…そういうの。せめて、裏切るなら裏切るで…〝そういう描写〟があってから裏切れよ…。なんにも面白くないだろうがっ!』

 

 

 

 

「そんなに意外だった?それとも、覚えてないから私の危険性に気付いてなかった?」

 

 

クラウンがどんなに重力を強くしても、大気を重くしても──魔女は。

 

 

「【劫掠堕嬢(マモン)】────〈四の弾(ダレット)〉!!」

そう言って、空間の時を戻し、クラウンの干渉を無に返していた。

 

 

 

 

「無駄な質問はしませんわ。だから、一つだけ、貴方は…味方、ですの?…」

狂三も弾丸で援護をしながら、魔女にチラリと視線を送る。

 

 

「ええ、……味方よ」

小さく言葉を返すと、次いで魔女は…身の丈を超える大剣を顕現し、クラウンに切りかかった。

 

 

「えんご……する…っ!」

恐らく無銘天使を使い過ぎて疲労困憊なのだろう。肩で息をするカリンはそう叫ぶと、人形をクラウンの背中に攻撃させる。

 

 

『ウザったい!!』

クラウンが金切り声のような叫びをした直後。───衝撃が少女たちを襲い、魔女は壁に吹き飛ばされ、人形は粉々に砕け散った。

 

 

 

『本当に…面倒をくさい…。どうせ、君たちは勝てないんだから…諦めなよ…』

 

 

クラウンは…倒れ伏せる狂三に近づくと、髪を掴んで持ち上げた。

 

 

「…ぐ…っ…」

狂三の苦しげな声が響くが、クラウンは笑いながら問いかけた。

 

 

 

『時崎狂三くん。一つ質問しても良い?』

 

 

「な…にを…」

未だ敵意のある目で睨んでくるが、クラウンは続ける。

 

『君は…これが本当に幸せだと思っているのかい?』

 

 

そう言う直後に、クラウンは…狂三の頭の中にとある情報を入れ込んだ。

 

 

それは…本来の歴史、…時崎狂三が七月七日に〝街の案内の艇〟で現れるのではなく、もう一度デートをするために現れた…のが始まりの物語。

 

 

本体に殺され、隣界に落ち、復讐を誓う少女と闘い続ける少女たちと出会い、誰も友達のいない少女の死を見届け、馬鹿らしくもトップアイドルを目指し、反転体と出会い敗北し、何とか撃退に成功して、少女たちの儚き恋を見守り、カジノのイカサマ勝負をして、ダンジョンに潜り、〝友人〟を〝親友〟に襲われ……そして、そして…そして。

 

 

 

親友を殺し、友人と共に最愛の殿方と再び七月七日に出会えた。

 

 

 

 

 

 

「あ……、あぁ…」

とんでもない情報量とその現実性に狂三は目眩と頭痛がした。

 

 

 

『これでやっと分かった?君や…山打紗和は、特異によって運命を捻じ曲げられている。ああ、可哀想に、……本来ならば…君たちはハッピーエンドで主人公と出会えたのに、…なのに…〝こうなってしまう〟…全て、特異のせいなのさ。───その上でもう一回聞くんだけどぉ……君、…今幸せ?』

 

 

 

クラウンの質問───いや、殆ど脅迫に近い言葉に、狂三はさしもの抵抗のように口に笑みを作り上げ答える。

 

「それはもちろん……っ。あの方のお陰で…紗和さんと理解し合うことができましたわ…。良き友人とも出会えて、毎日がとても…とても…悪夢のわたくしが体験するには勿体ないぐらいに…───」

 

 

「〝何故? 何故? 何故? どうして、だろうね。どんな世界に彼女らを向か合わせても、この問いに不幸だと答える人間は居なかった。どうして?分からないなぁ、……意味が、分からない。〟」

 

 

 

と、そうこうしていると…壁奥から這い出てきた、魔女が再びクラウンに剣を振り下ろしてきた。

 

 

「……あんたの相手は……私よ…っ!!」

 

 

『ああ、そうかい!…それならお前から殺してやるよ!』

クラウンもそれに苛立つよう叫び、そして、言い終わると同時に少女を思い切り投げ飛ばし、ガラスを突き破らせ…外に出させた。

 

少女は地に降り立ち、パンパンと土汚れを払うと微笑んだ。

 

「ほんと…煩いわね…。──それに、私をもう殺しても遅いわよ」

 

 

『…?』

 

 

「気付いてなかったの?……私はただの分身体。本体は……別場に行ってる」

 

 

 

『まさか…っ!』

その別場というのが…どこなのか、クラウンにはすぐ分かった。

 

 

少女はニタリと笑い、次いでその言葉を紡ぐ。「交代よ。時間稼ぎはもう要らない…私はもう…終わり」

 

 

そう言い…笑いながら……身体がポロポロと…固まった土塊が崩れるように、剥げていき。

 

 

最後には…炭のような砂のような土のような…モノになり…地面に全て落ちた。

 

 

そして、空間が歪み…其の者が現れる。

 

 

『……はは…っ…。随分……怒ってるね……特異(バグ)くん』

 

全てを察したクラウンが嘲笑しながら言うと、目の前の特異はとんでもない量の殺気を吐き出しながら口を重々しく開いた。

 

 

「……〝五月蝿い〟…お前は…今度こそ…殺してやる」

 

 

『……へぇ、できるの?無理に決まってるじゃん。君は〝法則〟に勝てるの?……無理だよねぇ…。』

 

 

佐藤は周囲に人間の気配がないことを確認し、城の最上階の露台にいる…紗和。いつもの部屋にいる…響、狂三、カリン───紗和は気絶しているだけ、響は特段怪我はしていない、狂三・カリンは疲労困憊だが命には別状ない。

 

 

爻盡六王(サマエル)】でこちらに来るな…という指示を出しておくと、佐藤は目の前の少女を見やった。

 

 

 

気を付けるべきは別世界の能力だが、…こんなにも上限値が低い世界では使ってこないだろう。

 

 

 

 

 

だとすれば……気を付けることは一つもない。

 

 

 

 

 

そう理解すると、佐藤は一歩…歩み出た。

 

 

 

 

 

 

 

『教えてあげようか?ボクの能力わね───』意気揚々と…余裕ぶってクラウンが口を開いた瞬間。

 

 

 

「死ね───」

恐らく【爻盡六王】によって転移してきた佐藤がクラウンの真隣に現れ、首に掴みかかってきた。

 

 

 

『あはは〜…っ。君みたいなキャラは落ち着きを取り戻さないとだめだよぉ?』

 

しかし、不意打ちにも関わらず───クラウンは軽くいなすと、そのままの慣性で佐藤を壁に弾き飛ばした。

 

 

 

『ちゃんと、人が善意で能力の開示してあげるって言ってんだから。聞いときなよ。後悔しちゃうぞっ♪』

 

佐藤は片手で顔を覆いながらも、指のすき間からとんでもない眼光でクラウンを睨んだ。

 

 

オォー…コワイコワイ…と、わかりやすく肩をすくめ。口を開いてくる。

 

 

『私の能力【虚王無永転(ハシュレフ・リエイン)】は…「概念、事象、現象、事実」等を【1】と定義し、それらを【0と0に限りなく近いナニカ】〜【無限に限りなく近いナニカ】に変換できる能力さ。1っていうのは…その事象等のノーマルの状態──何もいじくってない時の強さを表す。んでまぁ、それを固定とかすることもできてぇ…。なんて言ったら良いんだろうな…【ゲームガーディアン】って知ってる?有名なチートツール?…で、ソレみたいなやつだよ。簡単に言えば…私の欄にある…【他者の攻撃に反応できない】を0にして、【俊敏性】、【スピード】、【反射神経】、【動体視力】、【腕力】、【パワー】、【攻撃力】を取り敢えず100にしておけばこういう事も出来るんだよ。理解できた?少なくとも君には負けない理由が…さ。』

 

 

 

「…………」

相変わらずクソみたいにおしゃべりスズメで、クソみたいな事しか言わない奴だな。と、何も理解する気もなく…佐藤は気怠げにため息を吐いた。

 

 

まぁ、今の奴の状態を簡単に言うなら────【絶対に敵の攻撃に反応できて】、スピードとかパワー系統が百倍になってる…みたいなものだろう。

 

 

 

『それにしてもだ。君の思考とかモノローグとして見えないんだけど…何で?』

 

 

 

「知るか」

苛立ちを隠そうともせずにそう吐き捨てると、クラウンはため息を吐いた。

 

 

『そう言わないでおくれよ。ボクは君みたいな特異と話すのは〝初めて〟なんだ。ボクが起きるまではあの娘達が世界を壊してくれたみたいだしね。──そして、久しぶりに起きたら…記憶は無いわ、知らない奴隷たちがいるわで…本当に訳わかんないことだらけだったんだよ?まぁ、それも…記憶を回帰させれば分かることだ。必要のない疑問だね』

 

 

 

────初めて…?

 

 

何を言っているんだ…コイツ…。初めて…?そんなわけがない…。コイツは…会ったこともあるし…それどころか…俺に恨みを持って─────

 

 

 

 

………ああ、そうか。

 

 

 

「はは…っ」

 

まさか…アイツラの話を先延ばしにするために支離滅裂に適当にでっち上げたことが…まさか…本当にあったとは。

 

 

こういうのは…なんというんだろうな…嘘から出た真という奴だろうか…。

 

 

 

『まぁ、良いよ。そんなことよりも……、ボクの今の目的は君なんかじゃないんだよ。あのクソ女が…ボクを裏切ったせいで殺せなかった奴らが居るんだ。君はその後───分かったらどいてくれる?』 

 

 

 

「そう言われて退く奴なんて居ねぇよ」

 

 

 

『あまり時間をかけさせないでよ……ボクも、長々とここに居られるわけじゃないんだから』

 

 

「だったらさっさとお帰り頂けるか?テメェの面は見てるだけでムカつくんだよ」

 

 

『あはは、どうしてこんなにも嫌われてるんだが………。いや、もしかして昔のボクが君に嫌われるようなことをしたのかな?───ああ、なるほどね?だからこんなにもボクは嫌われてるのか。』

 

 

「………」

自分が情報を与えすぎたとはいえ…すぐにその考察に至るとはな。

 

 

と、嘆息するが…今はそれどころでもない。なつ…──あの魔女が時間稼ぎをしてくれている間にクラウン…せめてこの世界から追い出さないといけない。

 

 

 

「……」

出来るか…今の俺に。

 

 

絶望過負荷世界(マイナスリアルディスパイア)】は使えない──そんな綺麗な決意をできるほど…俺の心は清くない。

 

 

でも…やるしかないんだ…。

 

 

 

 

『ほぉらほぉら!どうしたの!?来ないならコッチから行くよ?!』

 

そう、佐藤が思考をしている間に…クラウンは佐藤の眼前まで肉薄していた。

 

 

 

「………っ!」

佐藤は声にならない声を上げると、【暴颱六王(ラファエル)】で大気を操作し、クラウンを吹き飛ばそうとした。

 

 

 

『ムリムリ。ボクは──【他者からの干渉】を0にしてるから、干渉されないよ……ざんね~ん』そんな大気の暴風に…髪の毛一つも煽られずに悠々とクラウンは言いながら佐藤を壁まで蹴り飛ばしてきた。

 

 

 

「……チート野郎が……」

 

 

佐藤が、思わず毒づくと…クラウンは自嘲気味に笑った。

『まぁ、どうせ…外野の方たちからしたらこれはそこそこの能力だよ』

 

 

 

 

 

───毒づいた佐藤だが…心中では…恐らくアレにも弱点はある。と、分かっていた。

 

 

 

まぁ、弱点と言っても……【少し検索に時間のかかる〈神蝕篇帙(ベルゼバブ)〉】程度だが…。

 

 

 

『何を考えているのは…知らないが…何を考えたって無駄…。ふふ…っ…何度だって言ってやろう…『君は勝てない』』

 

 

「決めポーズしてる所悪いが、お前には時間制限があるんだろ?こんなにチンタラしてたらすぐに無くなるぞ?」

 

 

『………ああ、それは大丈夫さ。時間を早くする変わりに、〝能力の制限〟は消したから』

 

 

 

「……? どういう────」

 

 

 

意図を読み取れず佐藤が眉をひそめた瞬間、クラウンが真正面に手を上げた…すると…その手で首を掴める形で…〝時崎狂三〟が現れた。

 

 

「…が…っ…」

 

 

「アイツ…?!」

 

『あは…っ…。やっぱ…便利…。じゃあ、死のうね〜?』

 

そのまま締めるだなんて、力の強さなどではない力で…首を潰そうとするが…、佐藤は叫ぶ。

 

 

 

『狂三!その手に持った【八卦炉】をそいつに向けて、〝マスタースパーク〟と叫べ!』

 

 

 

『……は?何を言って…』

クラウンがその言葉に目を丸くしながらこちらをちらりと一瞥してくる…。それによって、ほんの少しだけれど力が緩んだのか…狂三は左手に持っていた八卦炉をクラウンの顔に向けると、叫んだ。

 

 

 

 

「…ま…っ、…マスタースパークッ!!!」

 

 

 

 

『まず────』

 

 

クラウンが瞠目に顔を染めながら何か言おうとしたが、…八卦炉から放たれた光と音によって全て掻き消された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『大丈夫か?狂三。』

爻盡六王(サマエル)】によって、クラウンの手から自分のもとに転移させ、肩に手を添えながら声をかけた。

 

 

 

「え、えぇ……。感謝しますわ…佐藤さん…」

 

 

感謝に次いで狂三は…未だ煙の立ち込める場所を見つめながら口を開く。

 

 

「あの女には…攻撃が効きませんわ。今の攻撃もきっと……」

 

 

 

『いや、大丈夫だ。』

 

 

「…?」

 

佐藤が確信を持っていった言葉に狂三は首を傾げた。

 

 

『アイツの能力は…恐らくは…全てを無効化はできるだろう。でも、一つずつ設定しないとダメなんだ。例えば、【狂三からの弾丸】…みたいに細かく部分分けされているのを0にしないと効果は出ない。だから、一番不意打ちの【マスタースパークで起きる損傷】とか【火傷】とかを0にしていない───予測をしていないクラウンは…傷ぐらいは負っている。ま、全部考察だったが…すぐに出てこないのと…気配が薄くなっているのを見るに、当たっていたらしいな』

 

 

 

どんな能力にも弱点はある。─────例え、どれだけ小さくても、〝ただ面倒くさい〟というだけでも弱点という弱点は存在する。その上…自身の力と予測が完璧だと確信するバカには…どんな超能力も宝の持ち腐れに過ぎない。

 

 

 

よかったぁ……。もう、俺も既に〝アレ〟一回使ったせいで能力が鈍っていた。早々と終わらせられた。

 

 

 

そう息を吐いて…────安堵した。瞬間だった

 

 

 

 

「………─ぎ──」

 

 

『───え』

 

 

 

狂三が、小さく、奇妙な、声を、漏らした。

 

 

穴が、空いた。

 

 

狂三の胴に…、大きな…空洞が…で…きて……

 

 

 

『【大嘘憑き(オールフィクション)】────ボクの死傷を…無かったことにしろ』

 

 

コツン…と、靴音を響かせ…煙の中から…一人の少女が出てきた。

 

 

でも、佐藤はそんな事に構わない。

 

「くる、み…?」

 

 

「狂三……?」

 

 

 

「狂三っ…!狂三…!」

 

「駄目だ…駄目だ…駄目だ…駄目だ…駄目だ…駄目だ…駄目だ…駄目だ…駄目だ…駄目だ…駄目だ…!!!!!!!!!!」

 

 

本来ならばすぐに治るはずの傷が治らない。死にかけの傷は…俺の霊力を使って治るんだ…なのに…なのに…なのに…なのに…なのに…なのに…なのに…狂三の胴からは未だ夥しい量の血が溢れ、倒れた地面を赤黒く染めていた。

 

 

『無駄だよ。……もう、その時崎狂三は助からない』

 

 

 

 

「黙れ」

 

 

 

『隣界に施されたモノ全てを、無かったことにした。それに、彼女の死の事実を在ることにもしてある。────絶対に助からない』

 

 

 

 

と、その時。

 

 

「狂三さん?!」

片手で傷付いた肩を抑えながら城内から緋衣響が卒倒しそうな目で駆け寄ってきた。

 

 

 

『ああ、そう言えば。【大嘘憑き(オールフィクション)】を使ったから…固定能力も消えたのか』

 

 

思い出したかのようにクラウンが言ってくる。口を開くなよ…と、佐藤は言いそうになったが…それよりも響に向かって口を開いた。…

 

 

「狂三に…っ、【爻盡六王(サマエル)】を使って治してく───!」

 

 

「そんな事言われなくたってやってますよ!!!」

 

 

「……っ」

しかし、それよりも強い想いの叫びで返された。

 

 

 

『だから、無駄だと言ったじゃん。もう、その子は死ぬ───諦めな』

 

 

 

佐藤は…クラウンを…とんでもない眼力で睨むと、響に丁寧に狂三を預け、クラウンの首を切り落とすために…肉薄した。

 

 

 

『…はやぁ』

 

 

 

「─────死ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「……響…さん…」

掠れた喉で…狂三は…苦しげに咳をしながら…口を開いた。

 

 

「な…っ、なんですか…狂三…さん……」

 

 

 

「……あの女と…戦った時…、わたくし…記憶を見せられたんですの…。」

 

 

響は…もう喋らないで下さい!…と、言いたかった…でも、今の狂三を見て…発言を遮るほどの傲慢さなどなかった。

 

 

 

「……その時…。見ましたの…。〝本来なるべきだった歴史〟を…」

 

 

 

 

「れき…し…?」

もう、響は…狂三よりも喉を絞って、目からはボロボロと涙を流していた。

 

 

 

「だから…言っておきますわ────」

 

そう言って…優しく…朗らかに…安心したように…。もしくは…涙を流す響を安心させるように…にこりと…微笑んだ。

 

 

「わたくしは…〝さいっこうに〟…この世界が…幸せでした…。…紗和さんと…こうして歩めて…。響さんのような…〝友人〟と出会えて…。佐藤さんや、他の準精霊の方たちと、笑い合えて…本当に…一時の間…本当の目的を忘れるほどに…楽しかったですわ…」

 

 

 

「…くる…み、さん…」

 

 

 

「託し…ましたよ…?……」

 

 

 

「…ぇ…?」

 

 

 

「響さんの…恋…。いつまでも…いつまでも…応援していますわ…」

 

 

 

そして、そして、そして、そして、そして。

 

 

 

〝時崎狂三はゆっくりと目を閉じた〟

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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『全く……たった一人殺した程度で〝消してくる〟とか、手酷すぎるだろ。……あーあ、これじゃあ、再生に数京年かかるよ……』

 

 

真っ暗闇の空間の中を脚を引きずって…クラウンは灰色のソファにまで歩を進めると、疲れ切ったように腰掛けた。

 

 

 

「お疲れ様でしたクラウン様。この裏切り者は殺しておきました。」

 

先に着いていたのだろう。ソファに腰掛けることもなく立ち続ける少女は…右手に血だらけの少女の緑髪を掴んでいた。

 

 

しかし、佇む少女も苦戦をしたのか、片方の兎の耳は千切れて、更に外套は全体的に傷付いていた。

 

 

『苦戦したんだ?』

 

クラウンにそれを察知されたことを、恥と思うように、…苦しげにしながらも、少女は観念しながら口を開いた。

 

 

「…も、申し訳ございません…。ただの裏切り者相手に…。クラウン様が下さった【堕魔威霊装四番(アシュタロト)】を傷付けられるなんて…」

 

 

 

『別に良いよ。君が勝てたならどうだって良いさ。頑張ったね』

 

 

「め、滅相もございません…」

 

クラウンが手を伸ばして少女の頭をフードの上から撫でてやると、不思議そうに少女は口を開いた。

 

 

「……?何か、良いことでも?」

妙に顔を綻ばせているクラウンに■■■は─────いや、〝ヨシノ〟は尋ねた。

 

 

『んー?なんて?今、モノローグ弄ってたから聞いてなかった』

 

 

「いえ…、ですから…。何か良いことでもありましたか?」

 

クラウンはもう一度笑いながら言った。

 

『良いこと?当たり前じゃん。最高に面白いことで最高に憎たらしいこと。──記憶を思い出したんだよ』

 

その言葉を告げると、ヨシノの顔つきが変わった。

 

 

『まさか、時崎狂三を殺して、その後に…狂三としては存在できても…七日七日に主人公と出会った時崎狂三は二度と帰ってこないって…特異くんに伝えたら。────めちゃくちゃぶち切れてきてさ存在の九割消されちゃった♪』

 

 

「………」

───明らかに爛々声で言うものではないだが…と、思ったが存在の有無に別条はない為ヨシノは口噤む。

 

 

 

『───それにしても…。復讐のつもりなのか知らないけど…、もう一回この世界に来れたんだ、あのクソエラー。』

 

 

「顔見知り…なのですか?」

 

 

『いんや?違うよ?───どちらかというと、ボクを一度殺して世界の改変を成功させたクソ野郎だよ』

 

 

「……クラウン様を…?」

 

ヨシノが絶句するのを見ながらクラウンは…遠い目をしながら憎たらしそうに頷いた。

 

『でも、アイツ弱くなり過ぎだね。───最後の世界で見た時よりも……うーん、100分の1程度にまで下がってる。特段強い敵でもないよ、…強いて言うなら…一介の精霊レベルまで下がってる。雑魚と言っても過言じゃないかもね』

 

 

 

と、言いながら…クラウンは血だらけのまま髪を無造作に掴まれている少女に話しかけた。

 

 

『記憶が戻った今なら、君の気持ちもわからんでもないさ。期待してしまったんだろ?彼に、あのクソエラーに。あの子なら運命を変えられると思ってしまったんだろう?〝でもねぇ〟…運命はもう決まったんだよ。また、全てを壊してあげるよ、彼がどんなに世界をやり直そうとしても、その度に、目の前で…大切な人たちをぐしゃぐしゃにしてあげる。』

 

 

「死ね…」

魔女は…口を開いたかと思えば…苦しそうに…端的に言い放ってきた。

 

 

 

『……ま、…今の君には〝まだ〟利用価値がある。ボクの奴隷として…異常くんや異常くんの仲間と闘って貰わなくちゃいけないんだ。』

 

 

「だれ…が…やる…か──っ」

またも敵対的に吐き捨てるが、直後にヨシノに髪を掴まれたまま腹を蹴られ、顔を歪めていた。

 

 

 

『…君の意志は要らない。──思考能力も必要ない。ただ、私の奴隷として命令を聞くだけの肉塊として生きるだけで良い。だから、もう死ね』

 

 

 

「───あ、……が…っ………ぎぐ……」

 

 

 

クラウンは魔女の脳を能力で弄ると、そのまま要らないものを排斥していく。

 

 

 

何も考えなくて良い、何も喋らなくて良い、だから…ただ、ボクの命令に背くことだけはするな。

 

 

「………ご…、ば…っ………、…わ、…わた…、わた…。わたし…は…、…〝遘√?窶ヲ〟……」

 

 

『ああ、もう…喋らなくて良い。何言ってるかなんてボクにも分からないし。ヨシノ……その子の髪は離してももう大丈夫だよ』

 

 

ヨシノは少し躊躇しながらも、凍結を解いた。

 

 

『ふふ…っ、あはは…っ!楽しいなぁ、楽しいなぁ…』

 

 

 

そうこうしていると、クラウンの背にある闇の中から数人の少女たちが現れた。

 

 

 

『……』

いつも不思議と思っていた。でも、記憶を回帰させたクラウンの考えは変わっていた。

 

 

 

 

当たり前。

 

 

『記憶を無くす前のボクに感謝しないとなぁ。まさか、彼女たちの死体を弄くるなんてさぁ』

 

笑みを堪えるのが馬鹿らしいと思えるほどに、クラウンは顔を手で覆いながら笑い声を上げる。

 

 

 

─────片耳だけ千切れた兎の耳の付いたフードを被り、左手に獣の爪ような鋭い手甲鉤を付ける少女。

 

 

─────凍った戦鎌を持ち、虫食いに遭ったかのようにボロボロとなっている和装を着た少女。

 

 

─────女仙人のような格好に錆びた釘を持っている少女。

 

 

─────穢れた唯一色の付く翠色の魔女服を着た少女。

 

 

─────首や手首に枷を付け、鎖鎌と薙刀を持った少女

 

 

─────禍々しいほどに無骨でうねった骨を首から腰にかけて着ているかのような少女。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ヨシノ、コトリ、ムクロ、ナツミ、ヤマイ、ミク────。』

 

突如として、名を呼ばれたことに少女たちは顔を見合わせた。

 

 

 

 

 

 

『……もう一度、その時が来るまでに…。まずは、他の正史を愚弄する世界を壊しに行こうか…』

 

 

 

それを聞くと、誰一人の欠損なく、少女たちは片膝を床につき、頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリ

 

 

 

 

 

 

『………………どうすれば【大嘘憑き】と【大現実憑き】の効果を消せる?』

 

 

 

────佐藤は自室の机につき、紙に向かって〝冷静〟に考えをしていた。

 

 

 

 

 

 

『……どうすれば狂三を蘇らせれる?』

 

 

 

 

────ガリガリガリガリガリガリガリガリガリ

 

 

 

──バキッ

 

 

 

爪が割れた

 

 

 

───大丈夫だ

 

 

───すぐに治る

 

 

───大丈夫だ

 

 

───そんな事よりも狂三を復活させないと

 

 

 

ボタボタ…

 

 

 

 

───焦らなくて良い

 

 

 

 

───汗なんか出さなくていい

 

 

 

 

 

ビチャビチャ…

 

 

 

 

───少し

 

 

 

───頭をスッキリさせたいな

 

 

 

 

〝潰すか〟

 

 

 

 

 

グチャリ…と、気持ちの悪い音が部屋に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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第三領域(ビナー)。聳え立つ巨城以外の建築物全てが排斥され、エンプティや許可のされていない準精霊以外は立ち寄らない領域。

 

 

 

そこには…各領域の支配者(ドミニオン)が集結していた。

 

 

 

───しかし、今は定例会議には早すぎる。だからこそ、皆は何かがあったのだと少なからず理解していた。

 

 

 

そして、そこで司会のような役職を取る〈第三領域(ビナー)〉の支配者(ドミニオン)───山打紗和は…寝不足かのように瞼の下が黒くなりながらも、重々しく口を開いた。

 

 

 

 

「みなさん…。まずは、唐突な召集に応じて頂き、感謝します……。」

 

 

 

「……ねぇー、その前に一つ良い?」

すると、金髪の少女……第九領域(イェソド)支配者(ドミニオン)──輝俐(きらり)リムネが手を無造作に上げながら口を開いた。

 

 

 

「何ですか…?」

 

 

「いや、なんですか〜じゃなくて。──私ライブ中だったんですけど!せっかく、盛り上がってきてサビに入る直前だったのに〜!」

 

紗和がゆらりとした動作で視線を送ると、…むぅ〜と、頬を膨らませながらリネムは言ってきた。

 

 

 

「それは──ごめんなさい…。」

 

 

別に言い返されたってよかったのに、言い返すこともなく、頭を下げてくる紗和を見て…もどかさを感じながらもリムネは更に口を開いた。

 

 

「じゃあ何で、時崎狂三とか、佐藤とかカリンも居ないのよ!」

ダンッと机に手を叩きながら立ち上がり、紗和を見ると……。

 

 

 

 

「それも…含めて…話します…」

隈でぼそぼそになった…目を下に向け、小さな声で紗和は返してきた。

 

 

 

「───……。な、…なによ…それっ!全然言い訳に────」

 

 

 

 

「リネム。……少し黙れ」

 

 

 

「……っ…、わか…った…わよ…」

 

 

第五領域(ゲブラー)支配者(ドミニオン)篝卦(かがりけ)ハラカが目を瞑りながら…低い声で言うと、…今一度…今回の会議の重さを理解したのか…リネムは口を噤んだ。

 

 

 

「昨夜。第三領域(ビナー)は何者らに襲撃に遭い──時崎狂三が〝死亡しました〟」

 

 

淡々と…まるで…機械のように感情なく、紗和は言った。

 

 

 

『………』

全員が、それぞれの反応をする。──特段反応を示さぬ者、驚く者、絶句する者、悲しむ者、襲撃に対策を練ろうとしている者。

 

 

 

 

紗和は彼女たちの反応など気にも止めずに続けて口を開く。「私がみなさんを召集したのは……〝コレ〟を渡す為です」

 

 

そう言って、紗和は…中心に太陰太極図がある八角形の物体を机の上に七つ置いた。

 

 

 

 

「それは…?」

髪をボブカットしてメガネをかけている…少女、第二領域(コクマー)──支配者(ドミニオン)──雪代真矢(ゆきしろまや)は訝しげな目で質問をした。

 

 

「…八卦炉。というマジックアイテムです。───主には別の八卦炉への通信をメインに佐藤さんが作りました。もし、…ボロボロのスーツを着た女、もしくは…ピエロのような格好をした女が領域に現れたら…すぐに連絡を。」

 

 

 

「……では、質問をしますが。佐藤さんはこんな時に何を?」次いで髪を一つ結びにしてくノ一のような装いをしている…第七領域(ネツァク)支配者(ドミニオン)代理の少女───

 

 

佐賀繰唯(さがくれゆい)が口を開いてくる。

 

 

 

 

 

それを聞かれると…紗和は…顔を歪めた。

 

 

「……?」

思わず唯が首を傾げると、紗和は…深呼吸した後、涙声で…その言葉を紡ぐ。

 

 

 

「佐藤さんは……〝壊れ…ちゃいました…〟」

 

 

 

 

 

 

『………え』

今度こそ、全員の少女たちのセリフが全く同じに木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリ

 

 

 

 

 

佐藤は一度頭をスッキリさせてから、もう一度思考をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

───大丈夫。すぐに治る。

 

 

 

 

爪で、頭を、掻き毟り、続ける。

 

 

 

 

 

どんなに、血が滲んでも、爪が潰れても、頭皮がぐちゃぐちゃになっても─────ガリガリガリガリガリガリガリ

 

 

 

 

 

 

 

 

カチャリ──と、背後にあるドアが開き、光が入って来た。

 

 

 

 

『ん?ああ、響か。』

佐藤は変わらぬ様子で振り返る。

 

 

 

「佐藤…さん…」

 

 

───何故だろう。響の目は…〝とても悲しい物を観るかのような目をしていた〟

 

 

 

『大丈夫大丈夫。狂三はすぐに蘇らせる。心配することない。』いつもの調子で笑う。

 

 

 

 

でも、それでも、響の歪んだ顔は…もとに戻らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…大丈夫…じゃないですよ…」

響はポツリと…呟く。

 

 

『大丈夫だって。安心しろよ。』

すると、目の前の佐藤は1週間前と何も変わらぬ笑みを作って言葉を返してきた。

 

 

 

 

 

部屋中真っ暗で、床は血だらけ、机の上にある紙はぐしゃぐしゃに潰されて、椅子に座る佐藤の頭部と手にはとんでもない量の血が付着していた。

 

 

 

 

大丈夫だと言う佐藤の台詞を…響は全く信頼できなかった。

 

 

 

何故なら───

 

 

 

瞼は隈で黒く、赤く腫れ上がり、笑みをどんなに作り上げようとしていても…未だに涙を流している佐藤の顔は…明らかに〝大丈夫〟ではなかった。

 

 

 

 

「…良いんですよ…もう…。…明らかに…無理してるじゃないですか…」

 

 

 

 

『………大丈夫だって…言ってるだろ?』

 

 

 

 

「…………。何で…そんなに…思い詰めてるんですか……。アレは…少なくとも佐藤さんのせいじゃありませんよ!」

 

 

 

 

「俺のせいなんだよ!!!!」

 

 

 

「…っ」

今度は…上っ面の笑みではなく、感情を乗せて叫んできた。

 

 

 

「俺の俺の…、せいで……、アイツは…──クラウンは来たんだ…!。それで…みんなを…守れなかった…守ってやれなかった…。だから、だから、だから…狂三が死んだのは…俺の…せい…なんだ…」

 

 

 

 

────守れなければ意味などない。

 

 

────意味などなければ価値がない

 

 

────価値がなければ重荷でしかない

 

 

 

だから、守らないといけなかった。助けないといけなかった。

 

 

でも、狂三は死んで、もう蘇らせれない。

 

 

死は【大現実憑き】で否定できず、蘇生しようにも【大嘘憑き】で七日七日に士道と出会った分身体の時崎狂三は無かったことにされた。

 

 

嗚呼?何言っているんだ俺は───まぁ、良いや。

 

 

 

 

 

 

過去にも未来にも、あの時崎狂三は居ない。

 

 

 

その癖、因果律を操作して。世界が矛盾で壊れぬよう七月七日に出会ったことのみは事実にしてある。

 

 

 

 

「…クラウンは本来だったら、こんな世界に来ない…。だから…、だから…、俺が居たから…来たんだよ…。」

 

 

そう言って唇を噛む…佐藤に…響は…複雑そうな顔をしながら近づいた。

 

 

 

「佐藤さん…。」

 

 

 

『………なん…だよ…』

 

 

 

「少し…本当に…少しだけで良いんです…外に出てみませんか?頭を…冷やしましょう…」

 

 

 

『………ああ、分かった…。』

 

 

佐藤は……笑みの感情など1ミリも含まれていない微笑みを浮かべると、立ち上がり、ゲートを作って外に出た。

 

 

 

 

 

 

響は…顔を抑えて、嗚咽を漏らしながら、膝をカクンと…折り、床に尻を付けた。

 

 

 

分かっている…、もう少し…気の利いた言葉をかけてあげたかった。

 

 

 

でも、今の佐藤には…他人の言葉なんかよりも、心の整理のほうが良いのだ。

 

 

そんな〝言い訳〟をして、胸に燻るナニカを感じながらも膝も立ち上がり部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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佐藤はもう一度、天宮病院に転移すると…周りの医師や看護師などの意識の方向性を変えて、五分足らずで退院していた。

 

 

 

 

 

 

 

『…………』

 

 

 

歩く先だなんて考えずに、佐藤はただ何も頭を使わず、歩いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつも…間違える。

 

 

 

様々な世界を見てきて、色んな人間とも出会ってきて、多種多様な物語の終わりを観測してきた。

 

 

 

 

でも、自分が物語に入って、世界を生きていくと、自分と関わってきた存在全てが死んでいく。

 

 

 

 

だから、諦めた。

 

 

 

上位的な存在として、世界を片っ端から救っていった。

 

 

 

 

 

でも、人の幸せには様々ある。

 

 

 

悪行をすることが幸せな者、人の笑顔を見るのが幸せなもの、人の苦しみを見るのが幸せなもの、人を助けるのが幸せなもの。

 

 

 

だから、悪人の気持ちを知るために悪のような立ち振る舞をした。

 

 

わざと世界の住人を根絶させ、絶望させ、…その後に全てを蘇らせて自分の記憶を消した。

 

 

でも、いつしか、辛くなった。こんな事をいつまで続ければいいのかも分からない。

 

 

あと何極、何恒河沙…続ければわからなくなった。

 

 

でも、そんな時。

 

 

救ってくれた二人の少女が居た。──だから、だから、アイツラの為にも、約束の為に進み続けなければならない。

 

 

 

俺には約束しかないから、それ以外の行動原理を全て排斥して、嘘と出任せで生きていくのが普通。

 

 

 

なのに、……狂三は死んだ。

 

 

 

約束を、守れな…かった。

 

 

 

 

また、悲劇を作り出した。───また、悲しみを作り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな事を考えていると、高台の公園に辿り着いた。

 

 

 

辺りは夕焼け、しかし、綺麗と思える景色も、今の佐藤には色褪せて見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今頃、士道と琴里のデートは終わっただろうか。

 

 

 

 

 

でも───思わず笑みが溢れる。

 

 

『はは…、ハハハ……。』

 

 

しかし、目は何も笑っていない。

 

 

 

 

 

 

 

───大丈夫だ。どうせ、〝俺が死んだあとにすべて蘇る〟──だから、良いんだ。……そう考えると、佐藤は次は笑みを作った。

 

 

 

と、その時。

 

 

 

「あの、佐藤さん…。」

 

 

 

 

『ああ、響か。ありがとうな、お前のおかげで目が覚めたよ』

 

 

 

後方に、その少女の声が聞こえ、今度は本当にいつもの調子で言葉をかけた。

 

 

 

でも、でも、…まだ、彼は…駄目だった。

 

 

 

 

 

一つだけ、決定的な事を間違えていた。

 

 

 

 

『大丈夫、…後で狂三は蘇らせる。──だから、もう隣界に戻ろうぜ』

 

 

 

そうして、響の隣を横切ろうとした時。

 

 

 

「佐藤さん」

今度は凛とした声で、響に呼び止められた。

 

 

 

『…? な─────』

 

 

 

 

パチンッ────

 

 

「……ぇ」

頬を涙を流した響に叩かれた。

 

 

 

 

 

「何で…そうなるんですか…。あんな状態から回復したと思ったら…何で、…そんな思考になるんですか!」

 

 

 

『何を…言って…』

 

 

 

「……佐藤さんは…本当に狂三さんが死んじゃったことを悲しんでるんですか!?」

 

 

 

『…そんなの…あたりま───』

 

 

 

「だったら…何で、…狂三さんが死んでも…蘇らせれるとか…言うんですか!」

 

 

響はボロボロと涙を流しながら、叫び続ける。

 

 

「狂三さんは…、あの最期を…不幸だなんて思ってないです!なのに、なのに…簡単に蘇らせれるとか、復活させられるとか、言わないで下さい!それは…狂三さんの死の…侮辱ですよ!」

 

 

『……何で…だよ…。』

思わず佐藤も口を開いた。

 

 

『狂三の死は……悲しいことじゃないか!なら、なら、…それがなくなったほうが…みんな幸せに──』

 

 

 

しかし、響は今までの一番強い叫びで反論する。

 

「悲劇と不幸はイコールじゃないんです!!!悲しいことがあっても、どれだけ大切な人が亡くなったちゃったとしても、それは…必ずしも不幸ではないです!狂三さんの死を…これ以上……汚さないで…あげて…下さいよ!!」

 

 

 

『………っ…。でも、でも……っ!死者の気持ちは…死者にしか…わからないだろ!』

 

 

 

 

 

すると、響は…まるで、証明をするかのように胸に手を当て、その言葉を紡ぐ。

 

 

 

「〈刻々帝(ザフキエル)〉───」

すると、少女の透き通っていたガラス玉のような目の左側が…金色の文字盤に変化した。

 

 

 

『そ、れは………』

 

 

 

「私の──いいえ、狂三さんの霊結晶(セフィラ)が言ってるんです…。…後悔はあっても…絶対に…不幸ではなかったって…!」

 

 

 

次いで響は佐藤と目を合わせて口を開く。

 

 

「そんなにも、思い詰めなくて良いんです!話したくないなら話さなくても良い事はあります、でも…苦しみぐらいは…正直になってくださいよ!」

 

 

 

『ひ…びき…』

 

 

佐藤は…自分が…今まで勘違いしていた事を理解した。

 

 

死は悲劇、悲劇は不幸。

 

 

全てをイコールで繋げていた。

 

 

 

 

───まさか、昔に…教え子に言われたことと同じ事を言われるなんてな…。

 

 

佐藤は今度こそ、…苦笑した。

 

 

「佐藤さん…、じゃ、じゃあ…で、デートしましょう!」

 

 

『……は?』

 

響は佐藤の苦笑をみて、未だ思い詰めていると勘違いしたのか、そんなバカみたいな提案をしてきた。

 

 

 

「……え…、あ………!いや、その…今のは…っ」

すると、佐藤の目を見てやっと…マトモに戻ったと理解し、先ほどの提案を思い出して顔を真っ赤に染めた。

 

 

 

 

きっと、佐藤を元気づけるために冗句でも言ってくれたのだろう。

 

 

──そうだ、佐藤にはまだ、自分を慮ってくれる人たちがいる。

 

 

それなのに、こんな状態になってどうする?

 

 

 

 

だから、佐藤は…笑いながら夕焼けを背に珍しく満面の笑みで言う。

 

 

 

「ありがとな、響…!」

 

 

 

 

 

「……あ……、は…はい…」

 

 

そんな笑顔を見て、響は…良かった…と、心の底から安堵した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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佐藤は第三領域の城へ響と共に戻ると、そのまま──彼女たちがいるであろう部屋へと歩を進める。

 

 

 

 

扉を開けると、少女たちは一斉にこちらに視線を集めた。

 

 

 

心配する者、呆れる者、納得する者、様々いたが…少女たちは同時に…安堵するような息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 









『本当に下らなくてつまらない物語だ』



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