デート・ア・ライブIF 【エラー】   作:セルヴェイエ

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迫られる立場 【二十六】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「修学旅行? ああ、聞いてるわ。沖縄でしょう?」

 

 

 

 

五河琴里は空中艦〈フラクシナス〉の艦橋で、口にくわえたチュッパチャプスの棒をピコピコ動かしながら部下の報告に応じた。

 

 

長い髪を黒いリボンで二つに括り、深紅のジャケットを肩がけにした少女である。

 

どんぐりのように丸い目。未まだ幼さの残る貌。どう見ても艦橋などという場所には似つかわしくない小さな女の子だ。

 

 

「……いや、急に目的地が変更になった。行き先は或美島だ」

 

 

目元に分厚い隈を蓄えた軍服姿の女──村雨令音が、酩酊しているかのように頭頂部をゆらゆらと揺ゆらしながらそう言葉を続けてくる。

 

 

「変更? こんな時期に? なんでまた」

 

 

「……ああ。ひと月ほど前、クロストラベルという旅行会社が学校側に接触してきた。なんでも観光PRのため、ランダムに学校を選び、島に招致しているらしい。パンフレット用の写真を撮ることが条件となるが、修学旅行の費用は全て会社持ちという話だ」

 

 

「はー、随分太っ腹ね。……でも、いくら好条件とはいえ、そんな土壇場で行き先変えちゃうものかしらね。宿泊先とか決まってたんでしょ?」

 

「……なんでも、予定していた宿が突然崩落し、利用できなくなっているらしい。そこにそんな申し出があったものだから、学校側としても飛びついたというわけだ」

 

「崩落?」

穏やかでない話だ。琴里は訝しげに眉をひそめた。

 

「……ああ。まだ詳しくはわかっていないが、恐らく老朽化が原因だろうということだ」

 

「ふうん……。ま、タイミングが良すぎる気がしないでもないけど……先方がそれでいいって言ってるんならいいんじゃないの? 令音も羽を伸ばしてきなさいよ」

 

 

琴里は小さく肩をすくめながら言った。

 

 

村雨令音は〈ラタトスク機関〉の解析官であると同時に、来禅高校二年四組の副担任でもある。

 

 

今回の修学旅行にも教師として随伴する予定だった。

 

だが、令音はふっと顔をうつむかせると、難しげにうなった。

 

「どうしたのよ」

 

「……いや、思い過ごしであればいいんだが。どうやらこのクロストラベルという旅行会社──もとを辿ると、DEMインダストリーの系列会社のようでね」

 

「なんですって?」

その名を聞いて、琴里は不審そうに顔を歪めた。

 

デウス・エクス・マキナ・インダストリー。

 

英国に本社を構える世界有数の巨大企業であり、〈ラタトスク〉の母体の一つであるアスガルド・エレクトロニクス社を除けば世界で唯一、顕現装置を製造することのできる会社である。

 

そして、精霊を平和的に封印しようとする琴里たち〈ラタトスク〉とは、正反対の理念を持つ組織でもあった。

 

つまりは、精霊の積極的な殲滅である。

 

 

「……きな臭いわね、どうも」

琴里はチュッパチャプスの棒をピンと立て、眉の間に深いしわを刻んだ。

 

修学旅行に行く来禅高校の面々の中には、士道と十香…それと佐藤が含まれているのである。

 

万一のことを考えて準備をしておくに越したことはないだろう。

 

「多分偶然でしょうけど、念のため旅行の日程に合わせて〈フラクシナス〉を随行させましょう。ま、とはいえ万が一問題があったときにすぐ動けるようにしておけば問題ないし、実質休暇みたいなものかもしれないけれど」

 

「……ん、そうだね。それがいいだろう。何か問題が起こったら、現地から連絡を入れる。それまでは待機していてくれればいいさ」

 

 

「旅行は何日からだっけ?」

 

「……七月一七日から二泊三日だね」

 

「げ。そうなの? その日、私本部に出向なのよね。まずったな」

 

と、琴里が困ったようにあごに手を当ててうなっていると、背後にザッ、という足音を立てて長身の男が現れた。〈フラクシナス〉副司令・神無月恭平が、ビッと親指を立てて爽やかな笑顔を浮かべてくる。

 

嫌味なほど白い歯がキラリと光る。

 

「参ったわね。どうしようかしら」

 

しかし琴里は、そちらに視線を向けることもなく言葉を続けた。

 

「……ふむ、日程をずらすわけにはいかないのかい?」

 

「多分無理ね。円卓会議(ラウンズ)が直接集まれる日なんて、一年に一日あるかどうかだもの」

 

琴里がそう言うと、背後に立っていた神無月が一歩前に踏み出してきて、身を反らしながら妙にアクロバティックな姿勢で静止した。

 

なぜだろうか、

背後に『ドギャァァァァァァン』とか『ドドドドドドドドドド』なんて擬音が見えた気がした。

 

 

「……そうか。そうなると」

 

 

「ええ、誰かに艦を任せないといけないわね。できれば令音にお願いしたいけど……」

 

 

「……私は直接随伴してしまうしね。現地との連絡要員がいなくなるのもまずいだろう」

 

「そうなのよねえ。誰かいないかしら」

 

ため息混じりに呟くと、神無月がくるくると二人の前に躍り出てきた。

 

 

そして白鳥のごとく優雅な所作で両手を広げ──

 

 

「うっとい」

 

 

「目が粒子砲ッ!?」

 

琴里のチョキに眼球を凹まされ、その場にもんどり打って倒れ込んだ。

 

 

「何なのよさっきからうろちょろと。創作ダンスの練習なら他所でやってくれない?」

 

 

「いやいやいや、何を仰るのですか。話を聞くに司令は士道くんの修学旅行中、〈フラクシナス〉を預かる代役を探しておられるご様子」

 

神無月がバッと両手を広げる。

 

 

 

「その大任、私以外にこなせる人間がおりましょうか! いやいない! 反語!」

 

「で、そうなるとやっぱり幹本か川越になるのかしらね」

 

「……どうだろうね。彼らはクルーとしては優秀だが、果たして指揮が取れるかどうか」

 

「放置プレイ! そういうのもあるのか」

無視して話を進めると、神無月がやたらとハァハァいい始める。

 

さすがに鬱陶しかったので、琴里は舌打ちとともにそちらに視線を向け直した。

 

「……この前私がいなかったとき、随分と滅茶苦茶したって聞いてるけど?」

 

「大丈夫です! あのときは司令への愛がピッグバンしただけですから! ブヒィ! 今度は問題ありません! しっかと士道くんの青春の一ページを見届けてみせますっ!」

 

「……令音」

 

「……まあ、現場には私もいるし、多分大丈夫だろう」

 

琴里は胸に渦巻く不安感を払うように、はあと深いため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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七月一七日、月曜日。飛行機に揺られることおよそ三時間。士道たち来禅高校二年生一行は、太平洋に浮かぶ島に到着していた。

 

「お、おお……!」

空港から外に出た十香が、目をまん丸に見開いて両手をプルプルと震わせる。

 

だがそれも仕方のないことなのかもしれなかった。何しろ今、彼女の視界には、首を動かさねば把握く仕切れないほどの絶景が広がっていたのだから。

 

道路と砂浜の向こうに大海が広がり、天と地を分かつように水平線が伸びている。

 

空は快晴。太陽が燦々と降り注ぎ、海を美しいグラデーションに彩っていた。

 

「こ、これが……海か!」

叫び、その大きさを測るかのように、両手をバッと広げてみせる。

 

だが無論、彼女の小さな両腕に収まりきるほど、大洋は狭くはなかった。

 

 

さらに興奮した調子で、小さく肩を震わせながら身体を反らす。

 

 

「はは……元気だな」

そういえば、十香は直接海を見たことがなかったかもしれない。

 

士道はややオーバーな十香の所作に苦く笑しようしながら肩をすくめた。

 

或美島。

 

伊豆諸島と小笠原諸島の中間あたりに位置する、総面積七〇平方キロメートルほどの島である。

 

 

三〇年前の連続空間震の際に島の北部が削り取られ、近年新たな観光地として再開発が成された、ある意味では士道たちの暮らす天宮市と似たような来歴を持つ場所でもあった。

 

 

完璧に区画整理の成された北街区は、他の再開発地域の例に漏れず、完璧な災害対策が施こされている。

 

また、空間震によって綺麗に削り取られた海岸は、その珍らしさと美しさから、日本はもとより、外国からも多数の観光客を呼んでいるのだった。

 

 

無論、空間震によって命を落とした被害者のことを思えば不謹慎ということになるのだろうが……過疎化が進んでいたこの島は、空間震によって一大観光地として復興を遂げたといっても過言ではないのである。

 

 

「んー……」

十香ほどではないにしろ、士道とてこんな絶景を前にして何も感じないほど感受性が乏しくはない。

 

 

景色を見回し、深呼吸しながら身体を伸ばす。

 

 

だがそこで不意に、あくびが一つこぼれた。

 

 

「ふぁ……ぁ、っと」

集合時間が朝早かったからだろうか、妙に瞼が重い。飛行機の中でも、危うく眠ってしまうところだった。

 

 

まあ、とはいえ……

 

士道は未だ興奮気味に手をブンブン振る十香と、空港の出入り口から出てきた折紙を一瞥しながら息を吐いた。

 

 

飛行機の席は、幸か不幸か三列になっていたため、当初は十香が自分が真ん中に座って士道と佐藤で挟む形にしたいと言い出していたのだが、佐藤が折紙に席を譲り…結局は士道を真ん中において左右にそれぞれ十香、折紙が座ることで合意になったのだが…

 

 

 

 

 

(士道、見て。景色が綺麗)

 

 

(シドー! こっちだって綺麗──あっ! 窓が遠い!? 鳶一折紙、貴様、謀ったな!)

 

 

(佐藤が私に譲ったのは窓際の席。恨むなら佐藤を恨んで)

 

 

(ぐっぬぬぬぬ……)

 

 

(士道。見て、水平線が見える)

 

 

(く……っ、し、シドー! こっちだって、その、あれだ! 凄いぞ! 飛行機の通路は格好いいな! すいへーなど相手にならん美しさだな!)

 

 

 

(見て。遠くに山が見える。もっと寄って)

 

 

(うぬっ……、こ、こっちだって……! シドー、見ろ! 令音の胸元に巨大な山が!)

 

 

(雲を抜けた。見て。雲海。雲が絨毯のよう)

 

 

(こ、こっちはその……う、うぅぅ! さ、サトーっ!)

 

 

 

……などとステレオ音声で騒がれまくったため、寝るに寝られなかったのではあるが。

 

 

「ぬ……?」

ふと、はしゃいでいた十香が、妙な声を出して辺りをキョロキョロと見回しだした。

 

 

「? どうした、十香」

 

 

「……いや、何か誰かに見られている気がしてな」

 

 

「え?」

と、士道が首を傾げた瞬間、カシャリという音がして、二人をフラッシュの光が包んだ。

 

 

「わっ!」

突然のことに思わず手で顔を覆ってしまう。

 

 

チカチカする目を細めながら光の方向を見やると、そこに、大きなカメラを構えた女性が立っていることが知れた。

 

 

ノルディックブロンドというのだろうか、淡い色の金髪を風になびかせた少女である。明らかに東洋人とは違うはっきりとした目鼻立ちと、白い肌が特徴的だった。

 

 

「えっと……なんですか?」

士道が困惑しながら訊ねると、少女がカメラを下ろして視線を向けてきた。

 

 

「失敬。クロストラベルから派遣されて参りました随行カメラマンのエレン・メイザースと申します。今日より三日間、皆さんの旅行記録を付けさせていただきます。──無遠慮な撮影、申し訳ありません。気分を害されたようでしたら謝罪させていただきます」

 

 

「ああ、いや、別にそんな」

 

そういえば、旅行写真を撮とるためにカメラマンが随行するといわれていた気がする。

 

まさか外国人──しかも、士道たちとそう歳の変わらない少女とは思いもしなかったが。

 

「お邪魔をしました。では」

と、士道と十香が物もの珍らしそうにその容貌を見ていると、エレンがもう一度ぺこりとお辞儀をして、皆の方に歩いていった。

 

 

「なんだったのだ、あやつは」

腕組みしながら、十香が不思議そうに首を傾げる。

 

 

「さてな……でも、誰かに見られてる気がするってのは正解だったわけだ」

 

 

「む、うむ」

言って左右に視線をやり、終いには顔を上に向ける。

 

 

「……まだ、視線が残っている気がするのだが」

 

 

「え?」

その言葉に眉をひそめ、十香の見ている方向に目をやったが──そこには、士道たちの来訪を祝福するかのように晴れ渡った青空しかありはしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「アデプタス1より入電。目標、島に入りました」

 

 

「六番カメラ、北街区、赤流空港。目標を確認」

 

 

「こちらからも確認。〈プリンセス〉です」

 

艦橋下段から響く声に合わせ、モニタに少女の姿が映し出される。

 

AAAランク精霊。識別名・〈プリンセス〉と、寸分変わらぬ容姿を持った少女の姿が。

 

「ふむ……」

DEM社製五〇〇メートル級空中艦〈アルバテル〉。

 

その艦長席に腰掛けた初老の男は、小さくうなりながら髭の生えたあごをさすった。

 

ジェームス・A・パディントン。DEMインダストリー第二執行部の大佐相当官であり、ウェストコットにこの〈アルバテル〉を任された艦長である。

 

 

「存外拍子抜けだな。本当にこれが精霊なのか?」

 

 

『──くれぐれも油断はしないでください』

と、それに返すように、艦橋のスピーカーから若い女の声が響いてくる。

 

識別信号コールサインアデプタス1、直接現場に出向いているDEM第二執行部部長、エレンの声である。

 

『精霊かもしれない。それだけで、第一級の警戒をするには十分な理由です』

 

右画面に映し出されたエレンが言ってくるのに、肩をすくめながら返す。

 

「肝に銘じさせていただきますよ」

そんなパディントンの反応が不服だったのか、エレンは微かに眉を歪めた。

 

「……ち」

エレンに聞こえないくらいの大きさで、舌打ちを漏らす。

 

最強の魔術師だか何だか知らないが、親子ほども歳の離れた娘の命令に従わねばならないのは、やはり面白いものではなかった。

 

 

しかもそれがウェストコットの情婦であると噂の立つ女だというのだからなおさらに。

 

 

だが、パディントンは与あたえられた立場と役職を理解できないほどの無能ではなかったし、意味もなく悪感情を言葉にしてしまうほど幼稚でもないつもりだった。

 

 

咳払いをしてから、画面上の少女に返す。

 

「それで、どうします? いくら精霊とはいえ、〈バンダースナッチ〉の部隊にかかれば、小娘一人を捕獲するくらい容易いものでしょう」

 

『そう甘くはありません。慎重にいきましょう。まずは、電波通信を遮断してください』

 

 

「了解。〈アシュクロフト‐βベータ〉二五号機から四〇号機まで並列起動、恒性随意領域(パーマネント・テリトリー)を展開。目標は──或美島全域」

 

パディントンの声に応え、クルーがコンソールを手早く操作する。

 

すると、画面に映し出されていた或美島の画像に、CGパターンで薄いドームが描かれるのが見えた。

 

目視では確認できない、触れることさえ叶わない、不可視の壁。随意領域。

 

今〈アルバテル〉は、或美島の上空二万メートルに浮遊している。

 

そこから、艦に搭載されている顕現装置〈アシュクロフト‐β〉を用いて、AST要員のそれとは比べものにならない規模の随意領域を、島全体に展開したのである。

 

これで、島内と島外の通信は、エレンたちの用いる特殊な通信機器でしか行えなくなったはずだ。

 

 

これで──島の中で何があろうと、ASTが手出しをしてくることはない。

 

 

「──と、そういえば、件の魔術師はどうですかな?」

 

パディントンはあごを撫でながら問うた。確か、ターゲットと同じクラスに、ASTの魔術師がいるという話だった。

 

まあ、今は謹慎中ということで顕現装置の使用を禁じられているらしいし、さして弊害になるとは思えなかったが……問題は、その魔術師がエレンと会ったことがあるということだった。

 

『問題ないでしょう。顔を合わせたのは数分程度ですし、あのときはサングラスをしていました。気付かれた様子は──』

 

と、通信の途中でエレンの言葉が途切れる。モニタを見ると、何やら突然の風に顔を覆っているようだった。

 

 

「大丈夫ですかな、執行部長殿」

 

 

『はい。ですが……妙ですね』

言って、エレンが空を眺める。

 

 

それと同時に、艦橋の大モニタに映し出された映像にも変化が現れ始めた。

 

 

パディントンは思わず眉をひそめた。

 

 

理由は単純。通常であれば考えられないような速度で。

 

 

空が、雲が、見えない腕に攪拌されたかのように、渦を巻いていったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ああもう、置いていかれちまったじゃねえか。ほら、急ぐぞ十香」

 

士道は早足になりながら後方を振り返り、未だ首を傾げている十香に声を投げた。

 

そう、あのあと十香がどうしても気になると言って辺りの様子を探さっていたところ、いつの間にか学校の皆が移動を始めてしまっていたのである。佐藤も『はやく来ないと置いてかれるぞ』とか言ってくれていたのに…このザマだ。

 

 

 

「む……すまん。だが本当に見られていた気がしたのだ」

 

 

十香が小走りしながら、すまなそうに言ってくる。士道はやれやれと息を吐いた。

 

 

「そりゃ、あんだけ騒いでりゃ見られるっての」

 

 

「むう、そういうものか……」

十香がうなるように言って、押し黙る。

 

 

「ええと……確かこっちだったよな?」

頭の中で出立前に見た地図を思い起こし、分かれ道を左へ。

 

確か最初に向かう資料館はこちらの方向だったはずだ。

 

ついでにその際右耳に触れて、そこに小型のインカムが装着されていることを確認する。

 

旅行中十香の機嫌が崩れたときのために装着しておくよう言われていたのだ。

 

琴里は本部に出向とかで今日本にいないらしいが、〈フラクシナス〉は今この島の上に浮遊しているという話だ。最悪、これで連絡を取れば道に迷うことはないだろう。

 

「ぬ……?」

と、後方から十香の怪訝そうな声が聞こえてきて、士道は足を止めた。

 

振り返ると、また十香が空を見上げているのがわかる。

 

「おい、いい加減にしろよ……。いくら見たって──」

 

 

「いや、違う。何かおかしくはないか?」

 

 

「は……?」

言われて上空に目をやり──士道は言葉を失った。

 

 

「な、なんだ……こりゃあ」

つい先ほどまで綺麗に晴れ渡っていた空に、灰色の雲が渦を巻き始めていたのである。

 

 

そして段々と、驚くべき速さで、辺りの様子が様変わりしていく。

 

 

快晴は暗雲に。凪は烈風に。穏やかな水面は荒れ狂う大波に。

 

 

時間にして、おそらく一分と経つまい。

 

そんな僅かな間に、士道たちのいる世界の景色は、一変してしまった。

 

地鳴りのような風音が周囲から鳴り響き、辺りに生えた木々をばさばさと揺らす。

 

 

大型台風もかくやというほどの暴風である。

 

 

近くのゴミ箱が転げでもしたのだろう、空き缶や新聞紙が視界の中を横切っていった。

 

士道は咄嗟に十香の肩を掴つかむと、姿勢を低くさせた。

 

 

そうでもしなければ、風に煽られて転倒してしまいかねなかったのだ。

 

「これは──一体……!」

顔を腕で覆いながら、眉をひそめる。

 

 

天気予報では、修学旅行中の三日間は全て快晴であったはずである。

 

無論それが一〇〇パーセント的中するだなんて士道も思っていないが、いくらなんでもこれは異常過ぎた。

 

 

「十香、大丈夫か!? 急いで資料館に──」

 

「シドー! 危ない!」

と、言葉の途中で十香が士道の身体を突き飛ばしてくる。

 

「な……」

次の瞬間、金属製のゴミ箱が飛んできて、十香の頭にクリティカルヒットした。

 

「ぎゃぷッ!?」

なんてコミカルな声を発して、十香がその場に倒れ伏してしまう。

 

 

「お、おい、十香! 十香!」

慌てて叫び、肩を揺するも、十香は完全に目を回してしまっていた。

 

 

「く……仕方ない」

士道はぐったりした十香をどうにか背負うと、資料館の方に向かって歩いていった。

 

 

ゆっくりと、しかし確実に、一歩一歩足を進める。

 

 

 

「もうすぐだからな、十香……っ!」

 

 

──そして、どれくらい歩いた頃だろうか。

 

 

「あ……?」

士道は、不意に眉をひそめた。

 

 

荒れ狂う空の中心。 ──そこに、二つの人影らしきものが見えたからだ。

 

 

「あれは……」

士道はハッと息を詰まらせた。

 

 

空を飛ぶ人影だなんて、士道には二通りしか心当たりがなかったのである。

 

 

つまりは──精霊と、ASTの魔術師。

 

「まさか……」 嫌な予感が頭をかすめる。

 

 

通常では考えられない突発性の大嵐。

 

もしそれが、精霊の力によるものだとしたら──「いや、でも……空間震警報なんて鳴ってないよな。一体これは……」

 

 

士道は数瞬の間考えを巡らせてから、予定通りの順路に足を進めた。

 

確かにもしあの人影が本当に精霊ならば、放ってはおけない。

 

だがその確証があるわけでもないし、何よりまずは十香を安全な場所に移すのが先決だった。

 

ぐったりとした十香を背負い直し、資料館に向かっていく。

 

 

だが。「──!」 士道は息を詰まらせた。上空で幾度となく激突を繰り返していた二つの影が、一際大きな衝撃波を伴なってぶつかり合った瞬間、今までとは比較にならぬほど凄まじい風が吹き荒れたのである。

 

 

「う、うわ……ッ!」

吹き飛ばされぬよう足を踏ん張り、身体を丸めるような姿勢を取る。

 

と、上空で激突した二つの影は、互いに弾き飛ばされるように地面へと落下した。

 

 

──ちょうど、士道を挟んで右と左に。

 

 

「な……」

士道は額に汗を滲ませた。緊張感が心臓を引き絞しぼり、喉を急速に渇かしていく。

 

 

するとその瞬間、辺りに吹き荒れていた大嵐がふっと弱まった。

 

 

「え……?」

思わず眉をひそめ、周囲を見やる。

 

嵐が止やんだ……というのは語弊のある表現だった。未だ或美島には、凄まじい風が吹き荒れている。

 

士道と十香の周囲だけが。否──もっと正確に言うのなら、地上に落ちてきた二つの人影の回りだけが、台風の目のように穏やかな無風状態だったのである。

 

「く、くくくくく……」

と、右手から、長い髪を結い上げた少女が、不敵に笑いながら歩み出てくる。

 

年の頃は士道たちとそう変わるまい。橙色の髪に、水銀色の瞳。整った造作の面は、しかし今嘲笑めいた笑みの形に歪められていた。

 

そして何よりも特徴的なのはその装いだった。暗色の外套を纏まとい、身体の各所を、ベルトのようなもので締め付けている。

 

おまけに右手右足と首に錠が施され、そこから先の引きちぎられた鎖が伸びているときたものだ。

 

 

まるで途方もない大罪を犯した咎人か──さもなくば、猟奇的な被虐快楽者のような出で立ちである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──やるではないか、夕弦。さすがは我が半身と言っておこう。この我と二五勝二五敗四九分けで戦績を分けているだけのことはある。だが──それも今日で終いだ」

 

大仰というか、芝居がかっているというか、妙な言葉遣いをする女の子である。

 

 

と、今度はそれに応ずるように、左側から人影が進み出てきた。

 

 

「反論。この一〇〇戦目を制するのは、耶倶矢ではなく夕弦です」

 

こちらは、長い髪を三つ編みに括った少女である。耶倶矢と呼ばれた少女と瓜二つの顔をしているのだが、その表情は、どこか気怠そうな半眼に彩どられていた。

 

 

こちらの夕弦と呼ばれた少女もまた、少々デザインは異なるものの、耶倶矢と似たような拘束服を身につけていた。

 

ただ、錠の位置は首に左手、左足と、反対側になっている。

 

 

「ふ、ほざきおるわ。いい加減、真なる八舞に相応しき精霊は我と認めたらどうだ?」

 

 

「否定。生き残るのは夕弦です。耶倶矢に八舞の名は相応しくありません」

 

 

「ふ……無駄なあがきよ。我が未来視魔眼(さきよみのまがん)にはとうに見えておるのだ。次の一撃で、我が颶風を司りし・漆黒の魔槍(シュトゥルム・ランツェ)に刺さし貫ぬかれし貴様の姿がな!」

 

 

「指摘。耶倶矢の魔眼は当たった例しがありません」

 

 

夕弦が言うと、耶倶矢は口ごもり、先ほどまでの大仰な調子を忘れたように叫んだ。

 

 

「う、うるさいっ! 当たったことあるし! 馬鹿にすんなし!」

 

 

「要求。夕弦は耶倶矢に具体的な事例の呈示を求めます」

 

 

「くく……それは、あれだ。ほら……次の日の天気とか当てたことあるし」

 

「嘲笑。下駄の裏表と変わらない魔眼(笑)(かっこわらい)の効果に失笑を禁じ得ません」

 

 

夕弦が口元に手を当て、フスー、と息を漏らす。どうやら笑っているらしい。

 

 

「だ、黙らんか! 我が魔性の瞳術を愚弄するとは、万死に値するぞ! 我を怒らせた代償、その身を以て思いすりぇッ!」

 

だが耶倶矢からしてみればそれはよほど屈辱だったらしい。構えを取りながら叫ぶ。

 

ただ、語尾を噛んでいたためあまり格好がついていなかった。

 

しかし夕弦は意に介さず、問いを続ける。

 

 

「要求。次いで夕弦は耶倶矢に、シュトゥルム・ランツェについて説明を求めます」

 

 

「ふ……我が颶風を司りし・漆黒の魔槍(シュトゥルム・ランツェ)の魔槍に、理に縛られた器など存在しない。有形にして無形。可視にして不可視。ただ刺し貫くことにのみ特化した概念の力よ」

 

 

「要約。つまり特に意味はないということですか」

 

 

「ちッ、違うし! 意味あるし! 理解できない夕弦が馬鹿なんだし!」

 

「請願。では夕弦にも理解できるような説明を。頭のいい耶倶矢にならできるはずです」

 

 

「それは……と、当然だ。だが悲しいかな、我が漆黒の脳細胞は、貴様の理解すら及ばぬ高次へと昇ってしまったのだ。そう、蟻に意志を伝えられる獅子がおらぬように──」

 

 

「理解。つまりできないということですね」

 

 

「くく、貴様……あまり我を怒らせぬ方が」

 

 

「嘲笑。シュトゥルム・ランツェ(笑)」

 

 

「わ、笑うなぁぁぁぁぁぁっ!」

耶倶矢が顔を真っ赤にして叫び、両手をバッと広げる。右手首から伸びた鎖がじゃらりと鳴り、周囲に荒れ狂う嵐が一層強くなった。

 

 

今度は夕弦も、それに応ずるように構えを取る。

 

 

そして、二人は油断なく視線を交じらせたのち、

 

 

「漆黒に沈め! はぁぁッ!」

 

 

「突進。えいやー」

 

 

裂帛の気合いと、気の抜けた声とともに、まったく同時に地を蹴った。

 

「く……」

息を詰まらせる。精霊二人の激突に、こんな至近距離で巻き込まれたならひとたまりもないだろう。

 

 

士道は琴里の霊力によって傷を回復することができるかもしれないが、意識を失っている十香がどうなってしまうかは想像に難くない。

 

 

そうこうしている間にも、二人は凄まじいスピードで士道の眼前まで迫っていた。

 

 

もう考えている暇はない。士道は大きく息を吸い込んだ。

 

 

 

そして──「待、てぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!」

 

 

 

 

『……!?』

士道の叫びによって、二人がその場に停止する。

 

 

 

「何、今の声……ええと、そう、絶対地獄(コキュースト)の底より響く亡者共の嘆きにも似た……」

 

 

「報告。耶倶矢、あれを見てください」

夕弦が士道を指し、耶倶矢が眉を歪める。

 

 

どうやら本当に今の今まで、士道と十香の存在に気づいていなかったらしい。

 

 

「人間……だと? まさか。我らが戦場に足を踏み入れるとは、何者だ?」

 

 

「驚嘆。驚きを禁じ得ません」

言って、怪訝そうな視線を浴びせかけてくる。

 

 

「あ、いや……」

士道はしどろもどろになって足を一歩引いた。

 

 

どうにか二人の激突を止めることはできたが、代わりに注意を引いてしまったらしい。二対の鋭い双眸に射竦められながら、ごくりと唾液を飲み下す。

 

 

他にどうしようもなかったとはいえ、迂な行動ではあった。何しろ性格や気性すらわからない精霊(しかも、二人である)の注意をわざわざ引き付けてしまったのだ。

 

 

もし彼女らが好戦的な精霊だった場合、非常にまずい事態になるだろう。

 

 

と、そこで右耳の鼓膜をノイズのような音が震わせ、次いで眠たげな声が聞こえてきた。

 

 

 

『……シン、聞こえるかい、シン』

 

 

「! 令音さん!」

 

 

『……ああ、ようやく通じたね。一体今どこにいるんだい』

 

 

「そ、それが──」

士道は声をひそめながら、簡潔に状況を説明した。

 

 

 

──精霊が二人、目の前にいる、と。

 

 

『……なんだって? 風の中に二人の──まさか』

 

 

 

「な、何か心当たりが……?」

と、士道と令音の会話を遮ぎるように、視線を鋭くした耶倶矢が口を開く。

 

 

「──我らの神聖なる決闘に横槍を入れるとは、貴様、一体どういう了見だ? 答えによっては我が……ええと、光を貫きし影の邪槍が貴様を貫くことになるぞ」

 

 

「指摘。先ほどと名前が違います」

 

 

 

「い、いいから! 夕弦は黙っててよ!」

 

 

「疑問。夕弦が黙らねばならない意味がわかりません」

 

 

夕弦が涼しい顔で言うと、耶倶矢が肉食動物のようにぐるるる……とのどを鳴らす。

 

 

いろいろと気になるところはあったが、士道はもっとも不穏な単語を復唱した。

 

 

「け、決闘……?」

問うと、耶倶矢が双眸を鋭く歪めてくる。

 

 

「その通り。よくも我らの命運を定める神聖なる決闘を水入りにしてくれたな。どう責任をとってくれるつもりだ?」

 

 

「制止。耶倶矢、それでは脅迫です」

 

 

「うるさいっ! せっかく上手くいくところだったのに……」

 

 

「確認。何か言いましたか」

 

 

「な、何でもないし!」

耶倶矢はフンと息を吐き、夕弦から顔を背けた。

 

 

「とにかく、このままでは気が収まらんわ。そうさな──」

 

 

 

だが、すぐに何かを思いついたようにカッと目を見開いた。

 

 

 

「! ああそうか、これなら……」

そして再び夕弦に顔を向け、まるでじっくりと品定めでもするように、その頭頂から爪先までくまなく視線を這わせる。

 

 

「質問。何でしょうか、耶倶矢」

 

 

「くく……よい方法を思いついたぞ、夕弦よ。我と貴様は様々な勝負をしてきた。それこそ、もう思い当たる種目がなくなるくらいにな」

 

 

歌劇でも演ずるように大仰な身振りをしながら耶倶矢が続ける。

 

 

「だが……一つ、まだ勝敗を決していないものがあるとは思わぬか?」

 

 

「疑問。勝敗を決していないもの、とは?」

夕弦が首を傾げると、耶倶矢がくくく、と含み笑いを漏らし、士道を一瞥した。

 

 

 

「へ……?」

なぜだろうか──士道は、その表情に、薄ら寒いものを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜◆〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

移動の最中、突然吹き荒れた強風は、瞬く間にその規模を増し、激しい嵐となった。

 

こうなっては悠長に歩いていられない。来禅高校二年生の面々は、教諭たちの指示のもと、空港からほど近い位置にある資料館に避難していた。

 

 

──だが。「士道……」分厚いガラス窓を軋ませる凄まじい風に、折紙は拳を握りしめながら声を発した。

 

 

館内に避難した生徒の中に、士道(とゴミムシ一匹)の姿がなかったのである。

 

 

きっと道中どこかではぐれ、外に取り残されてしまっているに違いない。

 

 

無論士道を捜しに外に飛び出そうとはしたものの、それをわかっていたかのような佐藤に止められてしまった。

 

 

否──もし仮にあそこで外に出られていたとしても、この暴風の中ではまともに進むことすらできなかっただろう。

 

 

「く……」

今の折紙には、士道の無事を祈ることしかできなかった。無力感がやり場のない焦燥となって身体中を巡り回る。

 

 

「……おい、なんだか、空が晴れてきてないか?」

 

 

と、窓際にいた男子生徒が、不意にそんな言葉を発した。わらわらと生徒たちが窓の方に群がり、空を見上げ始める。

 

 

折紙はその声に弾かれるように顔を上げると、生徒たちの間を縫うようにして資料館の出入り口へと走っていった。

 

 

 

「あ……! と、鳶一さん! まだ危険ですよぉ!」

 

 

珠恵の制止を振り切り、扉を開ける。そしてそのまま外へ出──ようとしたところで。

 

 

「……?」 折紙は不意に足を止めた。

 

 

資料館の前に、既に折紙の探し求めていた人物の姿があったのである。

 

 

「お、おう……折紙」

折紙に気付いたらしく、士道が口を開いてくる。風のせいだろう、髪や服は乱れていたが、幸い、どこにも怪我はなさそうだった。

 

 

だが折紙は、安堵するよりも先に眉をひそめ、視線を鋭く研ぎ澄ました。

 

 

士道の様子がおかしい……というか、士道に変なオプションがついていたのである。

 

 

まず、士道の背に負われた十香だ。どうやら気を失っているらしい。

 

 

まあ、これはいい。いや、よくはないのだが、まったく予想できない事態ではなかった。

 

 

問題は──「どうだ士道。夕弦などより我の方が魅力的であろ? 我を選んだならば、我の身体の好きな場所に契約の口づけをさせてやるぞ?」

 

 

「誘惑。夕弦を選んでください。いいことをしてあげます。もうすんごいです。耶倶矢なんて目じゃありません」

 

 

左右にそれぞれ瓜二つの顔をした制服姿の少女が立ち、何やら馴れ馴れしく士道の身体に触れながら、やたらと士道を誘惑していることだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

士道は絶望的な心地で、全身に注がれる生徒達の視線──(一人だけ軽蔑のレベルが違う男の視線もあったが)を浴びながら、一〇分ほど前の出来事を思い起こしていた。

 

 

暴風に包まれた領域の中、不敵に笑みを作った耶倶矢が言い出したのは──こんな内容だったのである。

 

 

「──未だ我らが勝敗を決していないもの。それ即すなわち……『魅力』!」

 

バッと格好いいポーズをキメながら、耶倶矢が高らかに宣言した。

 

 

「真の精霊、颶風の御子・八舞には、力や頭脳だけでなく、森羅万象を嫉妬させるほどの美が、色香が、必要だとは思わぬか?」

 

 

「思案。…………」

数秒間押し黙り、夕弦もまた、耶倶矢に視線を這わせた。

 

 

頭頂から爪先まで、値踏みをするように、じっくりと。

 

そしてそののち、ふむ、とうなずく。

 

 

「回答。なるほど、と答えます。確かに、今までそれを競ったことはありませんでした」

 

 

「くく……そうだろう。しかしそれも当然だ。今まで我らの闘争に割って入れた者などは皆無──第三者に裁定を委ねる争いが出来るはずもなかったのだからな。──だが、今は」

 

 

耶倶矢は低い含み笑いを漏らしながらビッ! と士道に指を向けた。

 

 

「──貴様、名は」

 

 

「え? い、五河……士道だけど」

 

 

「士道。ふむ、贄にえに相応しき脆弱そうな名よ。よろしい。貴様を今、裁定役に任ずる」

 

 

「は……? え、いや……」

言われている意味が今ひとつ掴めず、目を点にする。

 

 

だが耶倶矢には、士道の意志などどうでもいいことらしかった。嘲けるようにあごを上げ、挑発するような調子で続ける。

 

 

「どうだ夕弦。この勝負、応ずる勇気が貴様にあるか? くく、まあ万象一切をひれ伏せさせる我の魅力を以てすれば、勝敗など見えたようなもの。今尻尾しつぽを巻いたとて、卑怯者の謗りを受けることなどあるまいよ」

 

 

「否定。そんなことはあり得ません。耶倶矢が勝つ道理はありません。夕弦の方がずっと魅力的です。男なんてイチコロです」

 

 

「くく、威勢だけは一人前よ」

 

 

「宣言。夕弦の方が可愛いです。耶倶矢はぶっちゃけ下の上くらいです」

 

 

「な、なんじゃとこらぁぁぁぁぁッ!」

耶倶矢が芝居がかった調子を瞬時に忘却の彼方に放り、もの凄い剣幕で叫びを上げる。

 

 

ちなみに士道の主観ではあるが、耶倶矢は相当な美人である。

 

 

これで下の上だというなら、世の女性たちはさぞ厳しい戦いを強いられることになるだろう。

 

 

「私とあんたじゃ顔同じでしょーがッ! なんでそんなに評価違ちがうのさっ!」

 

 

「憐憫。顔の造作のみで魅力は決まりません。たとえ素材が同じでも、滲み出る雰囲気が違いすぎます。でも安心してください。ブス界の中では相当な上位にいます」

 

 

「ブス界って何よ! そんなこと平然と言えるあんたの方が性格ブスなんじゃないの!?」

 

 

「反省。真実が必ずしも当人のためになるわけではないことを失念していました」

 

 

「真実ちがぁぁぁぁうッ!」

耶倶矢は頭をわしわしとかいたところで、士道の存在を思い出したらしい。ハッと肩を揺らしてコホンと咳払いをする。

 

 

「と、とにかくだ! そこまで言うのなら異存はあるまい!」

 

耶倶矢はビッと夕弦に指を突き付けた。

 

 

「──最後の決闘だ! この勝負の勝者が、相手を取り込み真の八舞となる! 勝負の方法は単純明快! この男──士道を、先に落とした方の勝ちだ!」

 

 

「承諾。──その勝負、受けて立ちます」

 

 

「ちょ、ちょっと待てぇぇぇッ!」

 

 

 

……そして、現在に至る。

 

 

 

あの場で令音と協議し、無下に要求を突っぱねるのも危険ということで二人を連れてきたわけだが……やはり学友の視線が痛いのだった。

 

 

 

「い、五河くん? その左右の女の子たちはどちら様? 見たことないけど……」

 

 

 

「え? 現地の子ナンパしてコスプレイ? 五河くん女子の制服持ち歩いてんの?」

 

 

 

『いいバイトを考えついたぞ五河士道。『一分一〇〇〇円で殴り放題』って看板掲げて学校中を練り歩いてみろ。きっとすぐに家が建てる』

 

 

 

ざわざわざわ。

 

 

生徒たちがどよめきだす。だがそれも当然だろう。何しろ、はぐれたはずの士道が、見知らぬ女の子を二人も侍らせて来たというのだから。

 

 

ちなみに令音の指示で、二人には霊装を解除し、来禅高校の夏服を着用してもらっている。十香のときのように、視認情報で衣服を生成してもらったのだ。

 

 

ただでさえ異常な事態だというのに、二人に先ほどまでの拘束服のような霊装を纏われたままでは、士道が特殊な性癖を持っていると誤解されてしまいかねない。

 

 

と、クラスの面々の先頭に立った折紙が、耶倶矢と夕弦に目を這わせてから、静かに口を開いてくる。

 

 

「士道、その人たちは、だれ?」

 

 

「え、ええとだな……」

士道は目線を逸らしながら辿々しく声を発した。顔にびっしりと脂汗が浮かんでいるのが自覚できる。

 

 

が、そこでそんなざわめきを制するように、後方から眠たげな声が響ひびき渡わたった。

 

 

「……ああ、待っていたよ。転入生の八舞耶倶矢に八舞夕弦……だね」

 

 

そこには二年四組の副担任・村雨令音が、ゆらゆらと頭を揺らしながら立っていた。

 

 

「転入生?」

折紙が問うと、令音が「ああ」と首しゆ肯こうした。

 

 

「……本来なら休み明けに転入してくるはずだったのだが……是非修学旅行に参加したいというものでね、現地で合流する手はずになっていたんだ。先ほど空港に到着したと連絡があったので、彼らに迎えに行ってもらっていたのさ」

 

 

そんな令音の言葉に、その隣に立っていた珠恵がキョトンと目を丸くする。

 

 

「え? て、転入生? 村雨先生、私そんなの聞いてないんですけど……」

 

 

「……急な話でしたから、きっと連絡が間に合わなかったのでしょう」

 

 

「は、はぁ……」

珠恵が困惑した顔を作りながら引き下がる。まあ、担任である自分ではなく、副担任である令音が転入生のことを知らされていたとなれば、そんな顔にもなるだろう。

 

 

折紙は訝しげな目で令音を見てから、士道の方に視線を戻してきた。

 

 

「本当?」

 

 

「ほ、本当……だよ……」

 

上擦った声で答える。と、それに合わせるように、士道の両サイドにぴとっと張り付いた耶倶矢と夕弦が首肯した。

 

 

「くく……その通りだ。颶風の御子たる我を迎えられることを光栄に思えよ、人間」

 

 

「肯定。彼の言っていることに間違いはありません」

 

一応、ここに来るまでの間に、士道が決闘とやらの裁定に協力する条件として、話を合わせるように言ってあったのである。

 

 

「…………」

折紙は未だに腑に落ちない様子だったが、教諭と当人、両方に肯定されては何を言っても仕方ないと判断したのだろう。

 

 

小さく息を吐いて「そう」と言った。

 

 

だが再び、折紙が視線を研ぎ澄ましながら口を開いてくる。

 

 

「……では、なぜあなたたちは士道にくっついているの?」

 

 

「ああ、それはだな」

 

 

「応答。それは」

 

 

「ほ、ほら! 凄い風だったから、飛ばされないようにしてたんだよ!」

 

 

折紙の質問に答えようとした耶倶矢と夕弦の声を掻き消すように、士道は大声を上げた。

 

 

ここで下手なことを言われては、せっかく誤魔化した意味がなくなってしまう。

 

二の句を継がせぬよう、捲し立てるように言葉を続ける。

 

「そ、それより、先生、十香が飛んできたゴミ箱に頭ぶつけて伸びちまったんです。どこか寝かせられるようなところありませんかね?」

 

 

「……おおそうか、それは大変だ。こちらへ来たまえ。転入生の二人も、いろいろと注意事項を説明しておこう。一緒に来てくれ」

 

令音が棒読み調子でそう言い、士道たちを呼ぶように手招きをする。

 

 

士道は周囲からの視線を集めながら、令音について資料館の奥へと歩いていった。

 

 

令音に案内され、資料館奥の事務室に入った士道は、十香をソファに横たえてから令音に頭を下げた。

 

 

「すいません、助かりました」

 

 

「……いや、構わないよ。それより──」

言って、令音は士道──正確には、その両りよう腕うでに絡みついた二人の少女に目を向けてきた。

 

士道が十香を下ろす際に一度離はなれ、再び引っ付いてきたのである。

 

そして自分たちを取り巻く環境の変化など気にもしていないような調子で、士道に言葉を囁ささやき始める。

 

 

「さあ士道。貴様はただ、我を選べばよい。この八舞耶倶矢に忠誠を誓い、その身、心までも捧げると言えばそれでよいのだ」

 

 

「否定。耶倶矢を選んでも何も良いことはありません。是非夕弦に清き一票を」

 

 

令音や十香など眼中にないように、二人して士道の耳元に息を吹きかける。

 

 

そのたび、士道は顔に脂汗を垂らしながら身を捩った。

 

「……厄介なことになったようだね」

 

 

「…………はい」

重苦しい声でそう言って首肯する。令音がぽりぽりと頬をかいた。

 

 

「くく……むしろ役得であろう? 貴様のごとき人間が、僅かな間とはいえこの我の寵愛を受けられるのだ。幸運に噎び泣きこそすれ、嘆く必要などあるまい」

 

 

「懐疑。夕弦ならまだしも、耶倶矢に言い寄られて喜ぶ男性がいるのでしょうか」

 

 

「ふ、ふん……いくら斯様な挑発をしようと無駄だぞ。全ては決闘の決着を見れば明らかになる。さあ士道よ、言うがよい。私と夕弦、どちらが女として魅み力りよく的だ?」

 

「質問。夕弦とへちょ耶倶矢。どちらが可愛いですか」

 

「待て、なんだその微妙に貶した感じは!」

 

 

「無視。べちょ耶倶矢より夕弦の方が」

 

 

「何悪化させてんの!?」

言い合いながら、耶倶矢と夕弦が士道に迫ってくる。士道は二人を宥めるようにまあまあと手を振りながら言った。

 

 

「ちょ、ちょっと待てって。さっきから決闘決闘って……そもそもなんでおまえらは戦ってるんだよ」

 

 

「……ん? ああ──」

士道が問うと、耶倶矢が大仰にあごを上にやった。

 

 

「言っていなかったか。──我らは、もともと八舞という一人の精霊だったのだ」

 

 

「首肯。ですが、幾度目の現界のときか、八舞は二つに分かれてしまったのです」

 

 

「二つに……って、そんなことが……」

眉をひそめながら二人の顔を交互に見る。髪型や表情こそ異なるものの、二人は非常によく似た顔立ちをしていた。それこそ、双子どころかクローンと言われても信じてしまいかねないくらいに。

 

 

 

「な、なんでそんなことになったんだ?」

 

 

「それを知るのは天に座する運命の女神のみよ。ふん、性悪な彼の女神は随分と退屈と倦怠に苛まれているようだ。時折、道理も条理も通らぬ出で鱈目な賽の目を好むことがある」

 

 

「へ……?」

 

 

「要約。よくわからない、と耶倶矢は言っています」

 

 

 

「ああ……なるほど」

 

 

「情緒がないぞ」

 

 

夕弦の説明でようやく理解に至った士道がうなずくと、耶倶矢が不満げに声を上げた。

 

 

調子を戻すようにコホンと咳払いをし、あとを続けてくる。

 

 

「そして二つに分かたれた我らは、互いの顔を見るなり、その身に、血に刻まれた運命と使命に気付いたのだ。そう──真なる精霊・八舞は、この世に一人のみであると!」

 

 

「説明。二つに分かたれた夕弦たちですが、やがて一つに戻ることがわかったのです」

 

 

「わかった、って……」

 

 

「補足。『知っていた』という方が正しいでしょうか。夕弦たちは、存在が分かたれた瞬間から、自分たちの身体がどうなるかを理解していたのです」

 

 

夕弦が頭を指さしてから、続ける。

 

 

「解説。しかしもう、本来の八舞の人格は失われてしまっています。つまりその際、八舞の主人格となれるのはどちらか片方のみなのです」

 

 

「っ、それで……決闘なのか」

二人が同時に首肯する。士道は頬に汗を滲ませながら声を発した。

 

 

「つまり、あの嵐はおまえら二人の喧嘩……?」

 

問うと、耶倶矢が得意げに腕組みしてきた。

 

 

「そうなるな。──我らの闘争は永きに渡る。そう、現段階で九九戦を終えている」

 

 

「九九戦って……そんなに戦ってるのか!?」

 

 

「訂正。戦っているといっても、殴り合いばかりをしているわけではありません。かけっこ、けん玉、大食い等、勝負の方法は多岐にわたります」

 

 

 

「…………」

なんというか、平和な勝負だった。

 

 

いや、この二人がかけっこなどをしたら、周囲に深刻な被ひ害がいが出そうではあるが。

 

 

「ちなみに戦績は二五勝二五敗四九分け。ちょうど一〇〇戦目にあたるこの決闘の勝者が、真の八舞となるはずだったのだ。──それなのに」

 

 

耶倶矢にギロリと睨まれ、士道は言葉を詰まらせた。

 

 

なるほど、士道がその大事な決着とやらを邪魔してしまったらしい。

 

だが、そう言われても仕方がなかった。あのとき二人を止めていなければ、十香がどうなっていたかわからないのである。

 

 

士道が無言でいると、耶倶矢と夕弦は再度士道の腕に絡みついてきた。

 

 

「ふ……別にもう気にしてはおらん。むしろ今は感謝さえしておるわ。貴様のおかげで今までにない戦いをすることができるのだからな」

 

 

 

「肯定。確かに最後の決着が、今まで何度も引き分けてきた殴り合いというのもどうかと思っていました。この勝負であれば異存はありません」

 

 

言って、二人して士道を誘惑するように腕に絡みついてくる。

 

 

「い、いや、そんなこと言われても……」

士道は顔が熱くなるのを感じながら、令音に助け船を求めるように視線を送った。

 

 

だが頼みの令音は椅子に腰掛け小型端末を弄りながら、難しげにふうむとうなっているのみだった。

 

 

「……やはり、駄目か」

 

「な、何が駄目なんですか?」

士道が訊ねると、令音は小さくうなずいてから顔を向けてきた。

 

 

「……ああ、〈フラクシナス〉との通信が途絶えているんだ」

 

 

「え? な、なんでまた……」

 

 

「……現状では不明だ。少し調べてみるよ」

言ってから令音が端末を閉じ、椅子から立ち上がる。

 

そして士道に迫る耶倶矢と夕弦をジッと見つめたのち、静かに唇を動かした。

 

 

「……耶倶矢と夕弦、と言ったね。君たちは、己が真の精霊・八舞となるため、シンを取り合って勝負をしている。……間違いないね?」

 

 

令音がそう言うと、耶倶矢と夕弦が初めて令音に目を向けた。

 

 

「ああ、その通りだ。見物は構わぬが、邪魔立てをしようというのなら容赦はせぬぞ?」

 

 

「質問。あなたは?」

 

 

「……学校の先生さ」

令音は適当に誤魔化すように言ったのち、くるりと踵を返した。

 

 

「……シン、君は十香を。──耶倶矢、夕弦。君たちに少し話がある。ついてきてくれ」

 

 

 

「っ、令音さん」

危険です、という意思を込めて令音に視線を送る。仮にも二人は精霊なのである。 しかし令音は、心配いらない、というように手を上げてきた。

 

 

「くく……何を言うかと思えば。何故この我が、人間風情の言葉に従わねばならぬのだ」

 

 

「拒否。夕弦は士道と一緒にいます」

 

 

だが、二人は頑として動こうとしない。

 

しかし令音はそれも予想の内というように肩をすくめると、思わせぶりに言った。

 

 

「……シンは見かけよりも難物だ。話を聞いておいて損はないと思うけれどね」

 

「何……?」

 

「……彼の反応を見れば一目瞭然だろう? 私の目から見ても、君たちは非常に可愛らしく、魅力的な少女だ。だというのに彼は、未いまだどちらも選ぼうとしない」

 

 

『…………』

耶倶矢と夕弦が、目を丸くして顔を見合わせる。

 

 

「……どうするかね? 私としては、どちらか片方でも構わないのだが」

 

 

言って、事務室の扉を開ける。

 

二人は再び顔を見合わせると、名残り惜しそうに士道から手を離し、令音のあとをついていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………先ほどの暴風が嘘のように明るくなった満天の空を見て、佐藤は息を吐いた。

 

 

 

 

 

 何も…しないほうが良いのだろうか…。

 

 

でも、今更…改竄を辞めたって…それこそ、愚行だ。

 

 

だとしても、クラウンがいつ来るか分からない上で行動をするのは辞めたろうが良い。

 

 

 

アイツは…。俺がいる世界ならば主人公だろうが主役だろうが誰彼構わず殺す。

 

 

そして、唯一アイツに抵抗できる俺は…二回〝アレ〟を使って撃退できる程度だ。

 

 

あまりにも…あまりにも…弱すぎる。

 

 

だから、……今回でほんの少しだけ重りを外す為に………次にクラウンを必ず殺す為に、ぼやかしを一部消そう。

 

 

 

言いながら、佐藤は手に持ったモノクロの仮面を見つめ─────

 

 

 

そんな〝覚悟〟をするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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異形郷。マヨヒガにて、その推測を皆々に話し終わった後、矛盾点はため息を吐いた。

 

 

 

『あー…どうしよ。』

 

 

 

 

『どうしよ、って…お前な。はたから見たらとんでもない戦犯かましてるぞ』

 

すると、矛盾点の毒づきに…呆れたように言葉を告げてくるツンツン頭が特徴の青年──基準点。

 

 

 

 

……その通り過ぎて反論の余地もない。

 

 

 

恐らくだが…多くて二人、少なくとも一人、……死んだな。

 

 

いや、恐らくではない。始祖がここまでするのなら…絶対に死人は出ている。

 

 

 

もし、これで死んだのがシスタスなら本当に俺は戦犯なんだが………………まぁ、誰が亡くなったかは考えないでおこう。

 

 

 

 

 

思わずもう一度ため息を吐くと、博麗霊夢が分かりやすく嫌悪の視線を向けてきた。

 

 

 

「……元々は敵で味方になったと聞いたが、……未だに敵意を持っているのか?」

 

 

 

『違ぇよ!本当にミスっただけだわ!』

クワッと口を開いて反論をする。そんな誤解最悪だ。

 

 

 

───しかし、そんな事態がとっくに終わっている事も分かっている。

 

 

正直、矛盾点にとっては〝誰が死んだかなんてどうだって良かった〟。シスタスが死んでいようが、主人公が死んでいようが………………

 

 

 

 

 

 

「カチカチカチ」

 

 

 

『んぁ?何だよ』

矛盾点が思案していると、不意に霊夢が話しかけて(?)きた。

 

 

 

「■■は強いんじゃないの?って、霊夢は言ってるわよ」

 

 

 

『………』

ああ、そうか。あれだけ始祖の強さを説明していたら負けるなんて考えれねぇのか……ていうか、どう翻訳してんだ?と、思いながらも質問に答えてやる。

 

 

 

『〝今の〟アイツはゴミみたいに弱い』

 

 

 

霊夢が首を傾げるが、核心を矛盾点は答えてやらない。

 

 

そもそもアイツの〝疑似覚悟〟はそこまで強くない、…確かに一般的な異能力と比べたら強い部類に入れるのかもしれないが…それでもエラーとしてはお粗末なほどに脆弱。

 

 

 

………はぁ。

 

 

 

エラーたちは本来ならば…〝覚悟〟と〝決意〟を一つずつしか持つことができない……が、始祖は【異能を持つ者たちから能力を託してもらう】ことで、本来の覚悟である【無盧無奥】の他に各属性の能力を抱えることができている。

 

 

 

それは始祖の強さであるんだろうが、ある意味弱さでもある……。何故なら、エラーたちの戦いになると…どうしょうもなく使い物にならないゴミでしかないからだ。

 

 

 

……と、そこで矛盾点はとある質問を思いつき紫に向かって口を開く。

 

 

『なぁ、紫。───アイツの〝出自能力〟ってなんだ?』

 

 

「…? 出自能力?」

 

 

紫が目を丸くするのを見て…説明が足りなかったと理解し、矛盾点は説明を始める。

 

 

『……なんて言ったらいいんだろうな。例えば…一番最初に生まれた世界で身に付いた能力──かな?』

 

 

すると、基準点が口を開いた。

『じゃあ、お前の出自能力って何なんだよ』

 

 

『……あ?なんで答えねぇといけねぇんだ?』

 

 

『いや、それを教えたほうが紫さんも質問に答えやすいだろ。』

 

 

案外、…本当に案外理に適っている言葉に…矛盾点はため息を吐く。──別に嘘を言ってもいいが、…意味もないし……。

 

 

鬱々となりながらも、矛盾点はそれを言った。

 

 

『俺の出自能力は…「在るモノ」を「無いモノ」に変える能力だ』

 

途端に一行が静かになるが、矛盾点はやれやれと肩をすくめた。

 

 

『そんなに良いもんじゃねぇんだよ。【うえきの法則】って知ってるか?』

 

 

『確か……、神候補を決めるー…的な物語だったか?』

 

 

そんな基準点の漠然とした解釈に…矛盾点はああと頷いた。

 

 

『表面上だけは少し強いかもしれんが……限定条件とかいうものがあってな。【生物に使えない】、【掌に包み込めるサイズ】、【物体のみに作用】、【三十秒間触れ続ける】───はい。ゴミですね。ほんとに』

 

もはや自嘲すら通過して笑い始める矛盾点。

 

 

 

そうして、…出力能力についてある程度理解ができたのか…うーん、と紫は唸ってから……ピーンと何かを思いつくと、ゴソゴソとスキマの中に手を突っ込んで……何かを探し、〝ソレ〟を取り出すと、矛盾点に手渡してきた。

 

 

 

 

『…………?なんだこれ』

 

 

 

「日記よ」

 

 

『日記ぃ………? 誰のだよ』

 

 

 

「マリちゃんの」

 

 

 

『─────…なんでそれを今?』

 

 

 

「あの子…確か言ってたのよ。──『あのガキには意味分からん能力がある』って……まぁ、それが、何なのかは教えてくれなかったんだけど…。魔理沙が死んじゃった後に遺品探ししていたら出てきてね、中身──結構面白かったわよ?」

 

 

 

そう言ってクスリと笑う紫。

 

 

 

 

前々から思っていたが、妙に先延ばし癖のある紫に少しだけ苛立ちながらも日記を開く。

 

 

そうして、見ようとしたのだが…博麗霊夢がずいずいと顔寄せて来て、横から日記を覗き込んできた。

 

 

『……』

鬱陶しいと思いつつもある程度は文字を訳して矛盾点は日記をよみすすめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■■■■■■■■■■■■■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

異常探し三日目。

 

 

 

 

どうやら俺がこの平和ボケ世界に入ったことは誰にも悟られていないらしい。

 

 

 

適当な竜に姿を変えて近辺の村を襲ったとき、なんか牢屋に入れられていたクソガキを拾った。

 

 

 

一緒に殺してやっても良かったんだが、村人(モブ)どもがおもしろそうな事をしていた。

 

 

なんでもそのガキは【イミゴ】とか言われて、とんでもなくボロボロにされていた。

 

 

どんなに身体を壊されていても…うめき声をあげないと思ったら、どうやら喉を裂かれていたらしく、俺をみても恐怖のきょの字も上げない。

 

 

 

だったら殺そうと思ったが、母上がスキマから拾ってくるのにも時がかかる。

 

 

適当な暇潰し相手に使えるし、何よりあの村から金が手に入って俺は気分が良かった。

 

 

だから、あのガキのつまんねぇ感性でも理解できるようなチョーカッコイイ名前をつけてやった。

 

 

 

〝鷹のように強く自由に空を飛び〟

 

 

〝禾のようにすくす育つ〟

 

 

……【鷹禾(おうか)】という名前を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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異常探し七日目。

 

 

 

 

 

あのクソガキ、名前をつけてやったらやったで変に俺に懐きやがって。

 

 

 

終いには俺を母親として見てくる始末。

 

 

最近では少し喋れるようになったから、めっちゃくそ俺に話しかけてくるようになった。

 

 

正直言ってもう百回喉ぶち壊してやりたくなったが、言ってくる言葉の大体が俺に親しみを持ってるから地味に気まずいし……。

 

 

異常探しに行こうとすれば、『魔法教えて欲しい』とか、『一緒に遊びたい』だの、『僕もついていきたい』……のオンパレード。

 

 

 

目立たないように異常探しの時は仮面と外套を着てるのに、あのクソガキは……森を歩けば…一々景色にリアクションを取るわ、無駄に動物に接しに行くわで…

 

 

 

あー…なんだろ。俺でもこのタイプの疲労って感じるんだなって思った。

 

 

 

 

 

 

 

だか、アイツの作る飯は妙に美味いし、度が過ぎた善人は嫌いじゃない。

 

 

 

だから、殺すぐらいは許してやろうと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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異常探し一ヶ月。

 

 

 

 

ようやく…と言ったらいいのだろうか、異常が見つかった。

 

 

灯台下暗しってやつなのかもな……それとも運命ってやつなのかもしれない。

 

 

 

異常の正体は───【鷹禾】だった。

 

 

 

……殺さないと…だめ…か。

 

 

でも、それはそうだ。逆に他の奴らに苦しめられて死ぬよりも…俺がせめて楽に殺してやったほうが絶対良い。

 

 

だから、これが書き終わったら…すぐに…すぐに、殺そう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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あーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死んだ。鷹禾が死んだ。

 

 

 

俺が留守の所を、人間どもに殺された。

 

 

 

前にボコボコにした野盗の残党が…洞窟を…火の…海に…変えた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なに…も…おき…ない。

 

 

 

 

なちかをするにかんておになき…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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幻想郷に着て八ヶ月。

 

 

 

最近は鷹禾と遊んでばかりで日記を書くことがめっきり減った。

 

 

 

結局、鷹禾は今では生きている。

 

 

母上にはなんて言おうか。だか、今になっても不思議だ。

 

 

死んだと思ったら妖精みたいに復活しやがった。……クソがよ。心配損だ。

 

 

…まぁ、日記には残しておくが…。

 

 

 

 

 

 

あーあ、本当に心配して損したわ。

 

 

 

ていうか、それなら傷とか治れよ。

 

 

 

 

一々…この世界の永琳に薬もらうのダルいんだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───でも…本当に、…良かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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『ふんふんふん……なるほど?』

 

 

ある程度、ペラペラと日記を訳し、読み進めながら矛盾点は息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

「……う…うぅ……私も…これは…初めてじっだぁぁ……」

 

 

 

 

『うるせぇ』

矛盾点の思案をピンポイントで遮る博麗霊夢の嗚咽に嫌悪の声を漏らす。

 

 

 

ため息を吐きながらも、博麗霊夢は無視して日記を見返す。

 

 

 

 

 

……最初の部分は、殆ど同じ単語が連続して使われてたり、接続語とか消えてたり、……そもそも字がクソ汚かったが…後半になるとかなり字が達筆になっている。

 

 

 

ていうか、最後のページとか俺より上手くね?…まぁ、俺もお世辞にも上手くないけど…、少なくともあの異形霧雨魔理沙に字のうまさで負けるの腹立つんだが。

 

それに…最後のページ…妙に…ボロボロに色褪せていた。…まぁ、別にどうでも良いか。

 

 

と、そんな事を思っていると、紫が日記を取り上げてきた。

 

 

『あ、おい────』

 

 

 

「もう終わりよ。これは〝鷹禾〟に見せるために残しておいたんだんだから。霊夢にも見せたことないのに……ましてや……」

 

そう言葉を止めながら、紫は博麗霊夢を睨んだ。

 

 

「あ…っ、…えー…と…。…すみま…しぇん……」

 

博麗霊夢はしょんぼりと…すぼみながら答えると…そそくさと基準点の背に逃げていった。

 

 

 

 

 

ま、別に良いか。

 

 

 

そう納得すると…矛盾点は日記の内容を思い出しながら思考を始める。

 

 

 

まず、【妖精のような復活能力】…それが始祖の出自能力は復活能力ってことか?

 

 

だが…なんだ?このしっくりこない感じは。

 

 

 

 

『なぁ、紫。』

 

矛盾点が口を開くと、紫は眉を顰めて、なに?と返してくる。

 

 

『アイツに〝姉〟みたな奴とかいたか?』

 

その質問をすると、紫は不思議そうに目を丸くしながらも答えてくる。

「……どう…かしらね。幽香とかレミリアとか早苗とかさとりならありえなくないけど…。少なくとも姉のように扱ってた事はなかったとおもうわよ?」

 

 

『そうか』

数の多さにはもうツッコまない。スルーしておく。

 

 

 

 

 が……やはり、始祖が「殺してしまった」と言っていた者たちはこの世界を去った後に出会った存在。

 

 

そして、始祖は俺の二番目の世界「Fate/stay night」…を破滅させたときには確か、

 

 

【壊されたことで俺を憎むのはお門違いだぞ?俺みたいな脇役にすら勝てない主役どもが悪いんだよ。でも、そうだなぁ。そんなに俺に復讐したいならヒント位は与えてやるよ、世界をやり直せる方法のな】

 

 

 

みたいな事を言っていた。

 

 

あの時の俺は憎しみで壊れそうなくらいアイツを苦しめる方法しか模索してこなかったが、アイツやりすぎだろ。……今ではあの行動も【製作者】から世界を切り離すための行動だとわかってるから良いんだが。

 

 

 

って、今はそんな話良いんだよ。

 

 

だから、話を要約するなら…あの時アイツは異常に成り、途方もない世界の巡りを繰り返せば…かつての世界に辿り着けるかもしれない…と言っていた。

 

 

そこで気になるのが…なぜ奴は…【同じ世界に二度巡りが起きる】という事を知っているのか…だ。

 

 

推測か、盲信か、始祖がそんな思考をしていた…というのも考えれなくないが…。始祖は確信のない行為と行動はしない。…ましてや、それを本当に親切心で他者に教えるときに不確定な事は言わない。

 

 

 

 

つまり、俺の世界を壊す時には…【一度巡ったことがある世界に巡った】ということだ。

 

 

だとすれば──────

 

 

 

『基準点。──分かるか?』

 

 

盗聴防止のために、矛盾点は…基準点と情報を共有して話しかけた。

 

 

 

すると、基準点は苦い顔をした。

『あー…いや、すまんが…分かんねぇわ。』

 

 

 

チッ…役に立たねぇなこいつ。

 

 

 

『おぉい!?言いすぎだろお前!──でも、…そうだな。始祖のやつ…軽いノリで会話してるときにポロッと口に出してたけど…【矛盾点とは六番目の世界であったんだよね】的なこと言ってたが……そこまで役に立つ情報は教えられてねぇんだ…。』

 

 

 

 

『───は?』

思わず聞き逃してしまいそうなほどに申し訳なさそうに言ってきた…文列に矛盾点は素っ頓狂な声を上げる。

 

 

 

『ちょ、ちょっと待て…。お前今…始祖と俺が初めて会った世界は始祖にとって六番目の世界って言ったか?』

 

 

 

『? ああ、そうだが。』

 

 

 

『…………』

 

 

………??? まて、まてまて。…だとすれば…すぐに解決できるぞ…。

 

 

 

矛盾点は顎に指をあてがいながら…前の言葉などを思い出して、思考を深くさせる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紫の考察を真に受けるなら、クラウンがこの世界に攻めてきたのは、【始祖に恨みがあるから】

 

 

六番目の俺と初めて会った時には奴は世界が二度巡ることを確信していた。

 

 

 

 

 

 

まず、始祖の一番目の世界が所謂【出自世界】

 

 

そして、二番目が【呪いを完全に理解することになった世界】

 

 

 

この一番目の世界は…予測だがメタキャラがいる世界だ。…端的に言えば…【観測者】の存在を仄めかせるようなキャラがいる世界だ。

 

 

 

二番目は。……本当に憶測に過ぎないが……奴が行ったのは……■■■■。

 

 

 

そこで呪いを完全に理解し、【観測者】に対して途轍もないほどの殺意と憎しみを抱く事になった。

 

 

 

んで…、三・四・五───は。

 

消去法で行くなら…

 

 

 

三番目は【デート・ア・ライブ】

 

 

四番目が【異形の廃園】

 

 

五番目が【始祖の姉が居るという不明な世界】

 

 

 

 

 

三番目の世界で…異常の殺害と改竄された世界を壊しに来たクラウンを始祖は多数の被害を出しながら撃退した。

 

 

が、次の世界ではクラウンが始祖に恨みを持っていたことにより、異形たちを惨殺に殺し回ったが…結局、【負の肩代わり】によって死の事実を消され、撃退された上にクラウンは記憶を失う。

 

 

そして、一番不明瞭な五番目の世界では、始祖が未来を変えすぎてしまった結果…物語が耐えきれず…崩壊を起こしてしまう。

 

 

 

六番目───すべての体験をした始祖は…俺という存在に…少しだけ同情心でも抱いたのか…過去の自分とでも比べたのか…呪いの存在を仄めかし、異常と成れるチャンスを与えた。

 

 

 

 

 

 

ここで気になるのが…。奴が二度巡った世界が一から五の間にあるということ。

 

 

けど…消去法をしてしまうと…すべてあり得ない。

 

 

一は当たり前にありえないし、二は絶対ない、三は今始祖が二周目しているのだし、四もない、んで…五も当たり前にない。

 

 

 

だったら…やはり始祖は盲信して突き進んだ?

 

 

 

 

─────そんなこと…あるわけないだろ。

 

 

 

考えろ…考えろ…。

 

 

 

他に気になることがあるなら…、アイツの能力だ。

 

 

 

獄炎六王(ミカエル)は【僕のヒーローアカデミア】の『轟燈矢』の能力。

 

 

䨓怒六王(ラミエル)暴颱六王(ラファエル)はどっかのゲームの風操作と雷操作を取り込んで大気操作と天雷の形状操作方向操作に作り変えた。

 

 

 

 

凍哀六王(サキエル)爻盡六王(サマエル)…。

 

 

 

 

───氷塊の生成操作。空間転移と物体の時間停止。

 

 

 

 

…? やっぱり、そうだよな。違和感がある。

 

 

奴の爻盡六王(サマエル)は……まるで……瞬間移動の能力と時間停止の能力を無理やりくっつけて時空間操作にしている節がある。

 

 

それに…外付けの覚悟は…必ず〝使いにくさ〟が出るのに…奴はまるで…〝自分の能力〟のように多用している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………ん…?

 

 

 

ふと、頭に浮かんだ仮説に疑問符を浮かべた。

 

 

 

……でも…そう考えれば…辻褄が合う…何故、…アイツが…【どんな悪人よりも観測者を恨んでいるのか】、【どれだけの悪人も善人になれると確信しているのか】───

 

 

 

………は…、はは……。

 

 

 

 

そうだ…一つだけ…あるんだ。消去法に囚われず、そして…奴の出自能力を解明させれた仮説が。

 

 

 

 

 

 

『───■…■、■……?』

長い、長い、考察の末、矛盾点はその答えを弾き出した。

 

 

 

 

その中でも…■■■に■■■■■■…■■■。

 

 

それが、奴の出自世界だ…。

 

 

 

「? カチカチカチ」

不審そうに霊夢が言葉を投げかけてくる。

 

 

 

その霊夢の視線──もとい、霊夢という存在を再認知して更に確信を矛盾点は付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうか…

 

 

 

 

 

『ふふ…っ…ハハハ…ッ……。』

思わず笑みが溢れる。

 

 

 

 

 

なら、始祖の【出自能力】は──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピキッ──────

 

 

 

 

 

 

バギッ────

 

 

 

 

グシャリッ───

 

 

 

 

 

パリバリバリバリバリ───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……?』

 

 

 

 

 

『チッ…』

 

 

 

「ど…どうした?当麻」

 

 

 

 

と、そんな有頂天の気持ちとなっていた矛盾点を正常に戻すほどの…異常が起こった。

 

 

 

まぁ、もちろん。それに気付けるのは基準点と矛盾点だけなので…突如として表情が硬くなったことを博麗霊夢は不安そうにしているし、霊夢と紫はわざとなのか知らないが呑気に矛盾点から話を聞きたがっているしで和やかな雰囲気のままだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

が、直後。

 

 

 

破壊音が轟き、矛盾点たちの居る一室の壁が思い切り破れ、穴が空いた。

 

 

 

 

 

 

そして、全員が(一人であわあわしている奴を除いて)敵意を持って目を細めるのと同時に…ぞろぞろと数人の少女が入ってきた。

 

 

 

 

 

 

「再拝鶴首───という言葉も可笑しいか。───まぁ…良い…結局、結果は同じですし。」

 

 

「ねー!クラウン様が気付く前にちゃちゃっと壊そうよ」

 

 

「五月蝿いぞコトリ。先方の御前だ、少しは緊張を持て」

 

 

「どウやら。前の時とは違うお方もいルみたいだしィ、お敵さんも中々の強豪だよ?大丈夫かなァ。」

 

 

「蜈ィ縺ヲ谿コ縺」

 

 

「我らの前に敵などいない。ナツミの言葉通り、全て殺してくれよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

左手に鉄製の手甲鉤を付け、片方の兎の耳が千切れているボロボロの兎の耳が着いた外套を羽織った少女は唱える。

 

「凍て付かせろ───【心氷爛漫(ペリエル)】」

 

 

 

 

虫食いに遭ったかのように所々に穴が空いている和装のような服を着て、先端に燃えた氷が付いている戦鎌をもった少女は唱える。

 

「壊しちゃえ───【永劫凍焰(リルズ)】」

 

 

 

 

 

仙女のような格好に錆びた釘を持った少女は釘を床にグサリと刺しながら唱える。

 

 

「従え───【絶枷隷(ドゥレイエル)】」

 

 

 

首や足に枷を付け、鎖鎌を右腕に巻きつけて、左手には薙刀を持った少女は唱える。

 

 

「実現せよ───【理槍遂鎖(バシレウス)】」

 

 

 

意味の理解できない言語を話し、穢れた翠色の魔女服を着た少女は唯一聞き取れる言語で唱える。

 

 

「奪え───【劫掠堕嬢(マモン)】」

 

 

 

形容しがたいほどに奇異的にうねった骨を服のように着ている少女は唱える。

 

 

「手管しろ───【廻獄極王(レヴィ)】」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…………はぁ』

 

 

 

ようやく、ようやく…始祖の真実に辿り着けたってのに。

 

 

 

これで〝終いか〟。

 

 

 

基準点と俺も再生に数億年かかりそうだし……本格的に戦犯のまま終わり、かな。

 

 

 

結局──始祖の味方になったらなったでこうなるのかよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あーあ、つまんねぇ小説だな。ホントに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

           グチュッ 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

           グチャッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「……物語は同じ」




「彼は息絶え、彼を救おうと思う者たちはすべて死に消える」




「物語は段々と異常を排斥し、特異の消えた世界では正常通りに時が進む」




「例え彼らがどれだけ異常でも」



「結局」



「物語のコマならば」




「製作者の定めた運命は変えることができない」















































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