デート・ア・ライブIF 【エラー】   作:セルヴェイエ

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聴いて慄け観て喚け 【二十八】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……………』

 

 

 

 

 

 

様々な創作世界に連なる終わりの無い世界───そうだな、ここでは〝狭間〟とでも仮名しておこうか。

 

 

ともかく、そんな狭間にて…ピエロのような格好をした少女は過日の一件で受けた損壊を修復するために深い眠りに堕ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

が、

 

 

 

 

 

「クラウン様。──」

 

 

 

 

 

パチリと、その一言でクラウンは瞼を再び開けた。

 

 

 

 

 

そして、首を振り…そのものたちを認識する前にクラウンは『…帰ってきたんだね。まずは…おかえり』と…台詞を紡いだ後に…言葉を告げる。

 

 

 

 

 

 

『僕は今、とても時間のかかる作業をしていた。1秒を【1京7142兆8571億4285万7143倍】していてね。…まぁ、こんな会話にも時間を無駄にしてるから…端的に言わせてもらうと………献身的な君たちでも…話の内容によっては片目はそれぞれ抉らせてもらうよ?』

 

 

 

淡々と言いながら、クラウンはむくりと…ゆっくり起き上がる。

 

 

 

 

そして、首をようやく振ると…彼女たちを認識する。

 

 

 

 

 

 

 

 

手甲鉤を付けた少女、ヨシノ。

 

 

戦鎌をもつ少女、コトリ。

 

 

錆びた釘を使う少女、ムクロ。

 

 

汚れた魔女服を着た少女、ナツミ。

 

 

鎖鎌と薙刀をもつ少女、ヤマイ。

 

 

最強の兦化精霊、ミク。

 

 

 

 

 

 

 

それぞれが…強張った顔でこちらを見つめ……数巡後、ヨシノが口を開いた。

 

 

 

「申し訳ございません。…先ほど、贋作の【異形の廃園】を破壊して参りました。」

 

 

 

 

 

 

 

『あ…っ、そう?』

クラウンは目を丸くした後に、そのプレッシャーを消した。

 

 

 

 

 

 

『なんだ。そういうことだったんだ?なーんだ、じゃあ…全然大丈夫さ。それを聞くためなら多少のロスにも目をつむるさ。』

 

いつも通り、饒舌に言うと…次いでクラウンはとある事を尋ねる。

 

 

 

 

『で、それだけじゃないでしょ…?本題は?』

 

 

 

 

「そちらについては…私から説明をしてもよろしいでしょうか。」

 

すると、ムクロが小さな口を開き…言葉をかけてきた。

 

 

 

 

『ん?珍しいね。──まあ、言ってみなよ』

 

 

 

 

「はい。───先ほど破壊してきた【異形の廃園】にて、クラウン様が【エラー】と呼称する者たちと交戦しました」

 

 

 

その言葉を聞くと、へえ?…と、クラウンは興味深そうに身を乗り出した。

 

 

 

『なるほどね…。確かにそれなら…ミクか君が言ったほうが良いね。でも、勝てたんだね…弱かった?』

 

 

 

聞くと、ムクロはふるふると首をふった。

 

 

「凄まじい強さでした。………恐らく、全員の内、誰か一人でも欠けていれば敗北を喫していたかと。」

 

 

 

 

『…まあ、良かったよ。君たちの誰かが死ななくて。──せっかく育ってきたところなんだから。』

 

 

 

そして、話も終わり、クラウンが再び眠りにつこうとしたとき。

 

 

 

 

「……クラウン様。重ね重ね申し訳ありませんが。お渡ししたいものが……」

 

再びムクロが口を開いてきた。

 

 

 

 

『……?』

クラウンは面倒くさそうに手を出すと、それを受け取った。

 

 

 

 

 

 

『これは───日記か。』

 

 

黒色の分厚い冊子、古くから使い込んでいるのか…かなりボロボロだ。

 

しかし、わかりやすく…表紙には【日記】と白塗りで書かれていた。

 

 

 

「はい。──私の【絶枷隷(ドゥレイエル)】にて聞き出した所、そちらの物品を発見した次第です」

 

 

 

 

 

『ふ〜ん?』

適当に相槌を打ちながら、クラウンはそれを、ペラペラとめくった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『────チッ。』

それを一瞬で見終えると、クラウンは日記の端をつかみ、破り……燃やした。

 

 

 

 

「あー…やっぱり苛つくね。ボク的には【異形郷】って結構好きな作品なのに。こうやって侮辱紛いなことをされると……苛ついて苛ついて……どうにかなっちゃいそうだよ」

 

 

 

 

 

クラウンは苛立ちが抑えられないのか、ガリガリと頭を爪で掻きむしっていた〟。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………いやね?【東方異形郷】だと異形魔理沙って、その見た目とか特徴的すぎる口調とかフランクな態度なのに残虐なところとかが良かったりするんだけどさ。───その上で【異形の廃園】を見ると、異形たちにも異形なりの想いがあるんだと深々と分かるんだ。その上でストーリーの構成も上手いから引き込まれやすいし、キャラに没頭できるんだよ。でもさ、────」

 

 

 

 

言いながら、紙くずの日記を握り潰していく。

 

 

 

 

「…アイツの負の肩代わりはそれらの深みを全てを壊す。一度発動すれば、現在・未来 ・平行世界…それら全てからありとあらゆる不条理を消し去る。…つまりは、〝全ての深い物語を根幹から全てぶち壊す悪辣極まりない最低最悪の能力なんだよ〟…だから、僕はそれを思い出すだけで虫酸が走るんだ。───本当に、本当に、思い出したくもないよ。…物語を面白くする必要な悲劇をわざわざ消し去り、ただただキャラたちが幸せな物語なんて…ウケるはずないだろ。……そういう平行世界がウケるのは…〝元々〇〇のキャラはこんな悲劇的な生涯だからこうなって欲しいな〟…となって、ウケるんだよ。──でも、それを全て運命の負を消され、肩代わりされたら?最初っから物語に悲劇なんていなくて、主人公がハッピーハッピーに暮らすという物語だったら?───まず、そんな物語生まれない。─…まぁ、例えるモノを間違えたかもしれないけれど、僕はそれに苛立ちしか感じてないんだよ。物語は悲劇があるから…そしてその中にも…深々しいストーリーがあるから…面白いのに………〝上っ面だけの感情だけで全てを軽々しい薄っぺらい日常に変えるアイツが………許せない…〟……それを…今一度理解できたよ────────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、…あの、……。クラウン…、さま…?」

 

 

 

すると…、ヨシノが怯えた表情で…言葉を恐れ多そうにかけてきた。

 

 

 

『? ああ、ごめんね。君たちを放って独り言を言っちゃってたよ。』

 

 

手を頭部から離すと…クラウンは…、笑った。

 

 

 

 

 

頭からは夥しい量の血が溢れ出すが…クラウンは意に介さずに…日記の紙切れに触れると、そのまま言葉を紡いだ。

 

 

 

 

『なんだっけ。えーっと……【斉木楠雄のΨ難】──【斉木楠雄(さいきくすお)】──【サイコメトリー】』

 

 

 

そして、紡がれた言葉はクラウンの意思に従い…物体の記憶を際限なく全て読み取った。

 

 

 

 

 

 

その紙切れには…新種のエラーである、【矛盾点】とやらと…他の数匹のキャラの記憶が構成されていた。……なぜか知らないが博麗霊夢が二人ほどいたが…、特段気に留めなくてもよいだろう。

 

 

 

 

そのものたちと彼女たちの戦い、エラーたちの死、世界の崩壊…それら全てを見届けると…クラウンは安心したように息を吐く。

 

 

 

 

理由は単純。エラーたちにはそれぞれ特異な力があり、もしかしたら…今目の前にいる彼女たちが洗脳されていたり…懐柔されたりしていると読んでいたからだ。まぁ、結果は違っていたけらど…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────が、

 

 

 

 

 

 

 

 

『……』

〝それ〟をクラウンは一瞬…見逃しそうになった。

 

 

 

 

 

それほどまでに…そいつは記憶の中に溶け込んでいたからだ。

 

 

 

 

 

『【上条当麻(かみじょうとうま)】……だと…?』

 

 

矛盾点と呼ばれるエラーから、【基準点】と呼称される青年。

 

 

確かに姿は多少大人びているが…明らかに…【とある魔術の禁書目録】の主人公…【上条当麻】であった。

 

 

 

 

 

『…なぜここに…?右腕もない、【幻想殺し(イマジンブレイカー)】はどこに…?…そもそも何故…エラーになっている…。いやしかし…彼には主人公の香りが殆ど無い?…エラーとなったから?…だか…それでは…辻褄が…。…だったら…あの上条当麻は…まさか……───…あー…?なるほど?そういうことか…』

 

 

顎に手をあてがいながらぶつぶつと独り言をするクラウン。

 

 

 

 

しかし、結論もでたのか…最後には、はあとため息を吐くだけだった。

 

 

 

 

どうせ、奴らは死んだ。エラーたちの巡りが再び来るまでにも数億年はかかる。ならば、その期間を無量大数にでもしてやれば…ある意味封印できるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして……最後にクラウンは彼女たちに向かって口を開く。

 

 

 

『……少し、こっちに来てくれないか?』

 

 

 

「「「「「「 ??? 」」」」」」

少女たちは不思議そうにしながらも、トコトコとクラウンの元に近づいた。

 

 

 

 

 

『うんうん、良い子だね。』

クラウンは笑顔で頷くと、……そのまま一番近くにいたコトリの左目を─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

抉り取った────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ぁ ゙……っ!??!、な ゙…に、を…グラウン…ざ、さま…?」

 

 

グシュリと、気持ちの悪い音が響き…コトリの左目がクラウンの手によって潰される。

 

 

 

 

コトリは左目を痛みを耐えるように手で押さえているが、指の隙間からは…ポタポタと血が垂れ流れていた。

 

 

コトリ以外の少女たちも……驚きと恐怖で顔を歪めるが…全員、逆らうことは絶対になかった。

 

 

 

 

 

『だぁかぁらぁ、片目えぐるって言ったじゃん。忘れちゃった?認知症かぁ~?』

 

 

わざとらしくケラケラと嗤うクラウンはそれぞれの左目を同時に今度は触れることすらなく刳り抜いた。

 

 

 

 

「……っ…」

少女たちは…痛みに顔を歪めながらも、反抗はしない。何故なら…それは罰であり、当たり前の罪なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『冗談冗談♪ 安心しなよ、ちゃんと治すからさ。』

 

けれど、クラウンは…痛みに震える少女たちに優しく語りかけると、今度は丁寧な所作で…目を癒した。

 

 

 

 

 

 

 

「も…、申し訳…ありません…でした…」

それが終わると疲れ切ったようにヨシノが肩で息をしながら言ってくる。

 

 

 

 

 

しかし、クラウンは…ヨシノの言葉に何か返答をするわけでもなく…ただ…彼女の〝左目を見つめ笑った〟

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、と…。と、クラウンはくるりと回ると…。彼女らに背中を向けながら口を開く。

 

 

 

 

『君たちはボクが再び目覚めるまで待機をしておいてくれ。………けれど、そうだね。緊急事態な出来事でもあったら僕を起こしても構わないよ。……』

 

 

 

 

 

ああ、それと…。と、クラウンは思い出したかのように指でナニかを弾き、ムクロに渡した。

 

 

 

 

「……? こ、れは…?」

 

 

 

 

 

『【山打紗和】の魂の欠片と霊力を凝縮したカプセルだよ。それを、使って山打紗和のクローンでも作ってくれ。君たちの力なら霊力での物質創造なんて簡単でしょ?』

 

 

 

 

「それを……新たな配下に加えるのですか……?」肩を荒くしながらも、言葉を必死に丁寧に吐くムクロ。

 

 

クラウンはその回答にツボったかのように笑い始めた。

 

『そんなわけないだろう?────それのクローンが出来たら…〝絶望させるんだよ〟。…反転体が絶望した姿。見てみたいだろう?…頼んだよ?ムクロ』

 

 

 

 

 

 

「は、はい…。承知しました…」

 

 

 

 

 

 

『では、諸君。…また、会おうね?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───……観測者の皆様とも再び会える時を〝私は〟待っていますよ?私の奴隷たちがこの世界を壊す未来を、彼の心が砕かれるその瞬間を、過去の全てが意味を成さない現実を………。

 

 

 

 

 

では、また、いつか、会いましょう?それまで……この【ハーメルン小説】をせめて、少しでも楽しんでいただければ私としては…〝幸いです〟

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーあ、クラウン様ねちゃったー」

 

クラウンが眠りに就いてから数分後、先ほどの空気も忘れたのか…頭の後ろで手を組みながらそんな事を呟くコトリ。

 

 

 

 

「まーマー、良いじゃナいの。クラウン様がまたオきるまでに強くなっテるっていうのも。」

 

 

 

 

「もぉ…そういうことじゃないの!もっと壊したい世界あったのに〜…これじゃあ退屈だよー!」

 

ヤマイが肩をすくめながら言うも、コトリは腕をパタパタと振りながら唸り出す。

 

 

 

 

 

 

 

「茫然自失…。はぁ………貴様はたちは相当に呑気なようだな」

 

 

すると、ヨシノの呆れたようなため息と言葉が木霊した。

 

 

「他の者たちは既にやるべきことをしているぞ?全く、いつまで無駄な時間を過ごしているんだ?」

 

 

 

「………ンー? そうイうヨシノちゃんコそ結構呑気じゃナーい?」

 

 

 

「………」

その言葉にヨシノの目つきが変わる。が、ヤマイは挑発するように言葉を続ける。

 

 

 

 

「だっテさ、ヨシノちゃんって…クラウン様にけっコー許されてルよねぇ。なんダっけ、エラーくんだっケ?そいツの時間稼ぎヲ失敗したアげく、裏切ったナツミちゃんに苦戦シて、クラウン様ノ救助に行けなかったみたいじゃん?それなノになにモしてないッて……ねェ?」

 

 

 

 

 

 

「………貴様、何が言いたい?」

 

 

 

ヨシノの眼光に怯むことなく、それどころか更ににやにやとしながらヤマイはその結論を告げる。

 

 

「いヤぁ?私は思ってないんだケどさぁ、そういうのって〝役立たず〟とか〝無能〟ッていうんジゃないの?」

 

 

 

 

 

ヨシノは「そうか」…と、端的に言い、…ふぅ〜…とため息を吐いてから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「死にたいのか?」

 

 

 

 

今度こそ、明確な殺意を持ってヤマイを睨みつけた。

 

 

 

 

 

「ンー?仮にヨシノちゃんガ私を殺したくテも私を殺せるわケないじゃん」

 

ヨシノの殺意を嘲笑うかのようにヤマイはつんつんとヨシノの頬を指で突っつきながら答えた。

 

 

 

「ヨシノチゃんは多人数むキの力なんだカら、私みたいニタイマン向けの力と張り合っちゃだめだゾ♡」

 

 

 

 

 

 

「……チッ」

 

 

 

 

「まァ、そんな怒んナいでよ。私は責めたいトか、貶したいとかジゃなくて、最終的に言いたいのはもっと私たちは強くならなイとダメじゃない?って言っテるんだよ」

 

 

 

「一理はある、か」

 

 

その結論にヨシノは落ち着いたように息を吐くと、肩をすくめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

が、

 

 

 

 

「だとしても、だ。一度の無礼は無礼だ。──身に覚えろ」

 

 

 

「へ?」

 

 

ヤマイのポカンとした表情を無視し、ヨシノはヤマイに対して掌を向けると一言呟く───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それと同時にヤマイの身体は弾けるように数少ない家具を巻き込みながら吹き飛ばされていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「イったたぁ…。もうクラウン様かラ貰った能力使いこナしてるのは違ウくない…?」

 

 

 

ひょっこりと…ヤマイは頭をかきながら立ち上がると、「ま、私ホどじャないけど」……と言いながら吹き飛ばされる前の場所に転移した。

 

 

 

 

「よいしョっと…。やっぱリヨシノちゃんはスごいね~ 今さっキ渡された力をぱパっと使えルなんて」

 

 

 

 

「嫌味か?貴様」

 

 

 

 

「モぉ~そんなワけないじゃンー そんなニ睨むと折角の可愛イお顔が台無しだゾ」

 

 

またも気持ちの悪いトーンで言いながら頬を指で突っ突いてくるヤマイ。

 

 

 

 

 

「………」ビキリとヨシノが頬をピクつかせ、先ほどの能力を使おうとした時──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、いつまで戯れているつもりだ?ヤマイ、ヨシノ」

 

 

 

 

「「っ……!!」」

 

 

そんな荘厳な声に互いに動きを止める。

 

 

 

 

 

 

そして、ヨシノがその声の主と目を合わせて言葉を紡ぐ。

 

 

「──は、反躬自問。すまない……ミク」

 

 

 

「あ、あハは〜…。流石にヤりすぎだっタ…。ごメんね?ミクちゃん」

 

 

 

 

「………。理解できたのならば良い」

二人の謝罪に鼻を鳴らすと、コホンと咳払いしてから……ふと、口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「して、……ヨシノ。〝それ〟は何だ?」

 

 

 

 

 

「……はい?」

 

 

ヨシノは目を丸くすると、ミクの目線につられて足元に目線を下げた。

 

 

 

「これは──」

屈んでからそれをよく観察する……そう、それはただの〝長方形のメタル缶〟だった。

 

 

強いて言うなら裏葉色と浅葱色で彩られていたが…。

 

 

「なんでしょうか…」

 

 

 

勿論、これはヨシノのものではないし。そもそもこれが誰のものでどこから出てきたのかもヨシノにはよくわかっていなかった。

 

 

 

 

その戸惑いの声を聞くと、ミクは額に手を当てて頭を振った。明らかに何かに対して呆れている反応だ。

 

 

 

「はぁ……。霊装からでてきたのだろう?忘れたか、ムクロ以外にも我らの霊装には物品を収納する能力があるのだぞ?」

 

 

 

 

「へぇ、ヨシノちゃんハこれ、どこから拾ってキたの?」

 

 

 

 

「知らん。というよりも、本当に私の霊装から出てきたのか?……こんなものが?」

 

 

 

 

言いながら、メタル缶を開けてみる。……中には特段何もなかった。……強いて言うなら黄土色の小さな屑がポロポロと入っているのみだ。

 

 

 

「……全く。しっかりしろ?ここからが正念場なのだぞ?」

 

 

 

「肝に銘じておきます…」

ミクの言葉にそう返事をすると、……少し悩んだ後…メタル缶は霊装の中に入れた。

 

 

 

 

 

 

 

なぜか知らないが……あれを捨てるのを壊すのも……出来なかったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んんんー!」

 

ヨシノとヤマイの会話がヒートアップした時には既にムクロの元に逃げていたコトリは…クラウンに与えられた能力を使おうと気を集中させていた。

 

 

 

 

 

が、

 

 

 

「……っはぁ!やっぱり、ダメだー…私…才能ない…」

次第に集中も途切れ、息を切らしながら床にゴロンと寝転がるコトリ。

 

 

 

 

 

「そんなことはない。コトリは我々の中ではとても才能過多な存在だと思うぞ?」

 

ムクロが言った言葉にコトリはムスッとした表情を作る。

 

 

「だったら、ヨシノちゃんとか、ヤマイさんはなんなの!いっぱい能力つかえてるじゃん!特にヤマイさんは沢山能力もってるし!」

 

 

 

 

「……。ヨシノやヤマイは、身体が特別なだけだ。才能云々というよりも、彼女たちは…【上限値】が多い。だからこそ、他の世界の異能などを使用できるし、身体への負荷も少ない。……」

 

 

 

 

「結局才能ってことじゃん」

 

 

 

「だから、それは───」

 

 

 

「もういいっ!ムクロお姉ちゃんじゃわかんないもん!」

 

 

プイッと顔を背けると、コトリはそのままどこかへ走り去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

はあとため息を吐いたあと。ムクロは視線を後方に向け、何もない空間に向かって口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……いつまでそこに居るつもりだ?〝ナツミ〟」

 

 

 

 

『…………──────

 

 

 

 

──隗」髯、」

 

 

 

 

静寂と虚無の中。彼女は現れた。

 

 

 

 

「…おまえ、聞き耳紛いの行為は辞めろ。また裏切るつもりなのか?」

 

 

 

 

「陬鞘?ヲ蛻?j?」

 

 

 

 

「まぁ、頭の回るお前のことだ。どうせ、保険は用意してあるんだろ?───例えば、〝死して尚操られることを加味して霊力の殆どを何者かに譲渡する〟……とか、な」

 

 

 

 

「諢丞袖縺悟?縺九i縺ェ縺」

 

 

 

 

 

「先の異形郷襲撃の時も動きが訛っていただろう?そこで感が働いただけだ。」

 

 

 

「險?闡峨?騾壹§縺ヲ縺?k?」

 

 

 

「………信用できるか。なら───これでも、身体に埋め込んでおけ」

 

すると、ムクロは指で何かの破片をナツミの手元に弾き飛ばした。

 

 

 

「縺薙l縺ッ?」

 

 

 

 

「私の【絶枷隷(ドゥレイエル)】の一部だ。それがあれが四六時中私の能力が効果可能になる。例え、クラウン様が許したと言ってもそれがなければ団体の結束に欠けが出る。付けておけ」

 

 

 

ナツミは少し首を傾げた後、胸元にその欠片を埋め込んだ。

 

 

 

まるで、「これで良いか?」と言わんばかりに見せつけてから、トコトコと去っていった。

 

 

 

 

「チッ…。気に食わん…」

過ぎ去る彼女を一瞥しながらムクロは舌打ちをした。

 

 

 

 

 

「そんなにもあの童女の思惑が気がかりか?」

 

 

 

すると、どこからともなく背後から一人の少女が現れた。

 

 

 

骨のような白い物体を螺旋状の形状にした服のようなもの……を、付けた少女───ミク、は去っていったナツミの方向を見ながら口を開いてくる。

 

 

 

「例え何か策があるのだとしても…クラウン様──もしくは、我を超えることなどできぬ。そうだろう?ムクロ」

 

 

 

 

「…………そう…だな。」

 

未だに顔を歪めるムクロに……ミクは呆れ顔になって言った。

 

 

「それと…。ヨシノにも言ったが〝ソレ〟は何だ?汝は私物の管理もできない人間だったか?」

 

 

 

「………?」

 

 

 

 

「今、足元に落ちているソレのことだ。…全く、クラウン様が今は休んでいるのだ。それに"──"いや、何でも無い。とにかく気を張れ、ムクロ。」

 

 

ミクは、はあとため息をついてからムクロの背をポンと叩き、去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何だ…これは?」

 

まるでミクが当たり前のように私のものだと確信していたが、私はこんなもの知らない。

 

 

 

 

 

 

山吹色と石竹色で彩られたメタル缶。

 

 

 

 

 

手にとってよく見ても…見覚えがなかった。

 

 

 

 

「……気色悪い……。」

 

ムクロは更に顔を歪めると、それを握る手に力を入れて────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………っ」

 

 

 

 

 

 

しかし、手に籠もる力はだんだんと緩くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

────結局、舌打ちをしながらムクロはそれを霊装の中に入れ、クラウンの命令を始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜◆〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日が明けて、修学旅行二日目。 士道は、或美島北端に位置する赤流海岸にやってきていた。

 

 

 

三〇年前の空間震で島が削り取られてできたこの海岸は、上から見るとなだらかな弧を描いているらしく、観光ガイドなどでは格好良く三日月海岸とも呼ばれているらしい。

 

 

 

「…………」

が、そこに観光客らしき人影は一人も見当たらなかった。

 

 

だがそれも当然だろう。士道は皆と一緒に更衣室に向かうところで令音に呼び止められ、用意してあったレンタカーで、赤流海岸の端に位置するプライベートビーチに連れてこられていたのである。

 

なんでも士道の攻略を行う上でクラスメートが邪魔になる可能性が高いとかで、わざわざ昨日のうちに手配していたらしい。

 

「はあ……すごいなこりゃ」

空は快晴。強烈な太陽の光が透明度の高い水に反射して、士道の目を細めさせてくる。

 

 

 

だが士道は、恐らく一般の海水浴場で遊んでいるであろう精気溢れる若人たちとは対照的に、老人のような口調でそう呟くと、頬と胸元にできた引っ掻き傷をそっと撫でた。

 

瞬間、微かな痛みが肌に走り、思わず顔をしかめる。

 

「いっててて……」 昨晩、耶倶矢と夕弦から逃げようと扉を開けた瞬間、タマちゃんのスラッシュファングが襲いかかってきたのである。

 

琴里の霊力によって、どんな大怪我を負おうと再生する身体を有している士道であるが、どうやら自身の治癒力でなんとかなってしまいそうな怪我は対象外らしい。

 

この状態で海に入ったなら、苛烈なる海水の洗礼に涙を流すことになるだろう。

 

 

まあ、とはいえ──「どっちにしろ、気楽に遊べるってわけじゃないしな……」

 

 

士道はふうと息を吐いた。それに合わせるようにして、右耳に装着したインカムから、眠たげな声が響いてくる。

 

『……シン、耶倶矢と夕弦が着替えを終えたようだ。準備はいいかい?』

 

令音の言葉に、士道は大きく深呼吸をしてから「はい」と答えた。

 

 

『……昨日説明したとおり、二人にはインカムを渡してある。海水浴をしたことがないそうなのでね、こちらから色々と指示をしようと思う。できるだけそれに合わせてくれ』

 

「りょ、了解です」

 

 

『……彼女らへのアドバイスと君との会話が混線してしまうのを防ぐため、一度回線を閉じることになる。……大丈夫だね?』

 

 

「はい、なんとかやってみます。……正直、ちょっと不安ですけど」

昨日の出来事を思い起こし、力無く苦笑する。

 

 

『……まあ、昨日はいろいろ大変だったようだが、今日はこちらからある程度セーブするよ。では、作戦開始だ。彼女らの水着姿を褒めるのを忘れずにね』

その言葉を最後に、通信が途絶える。 と、それと同時に、背後から二人分の声が聞こえてきた。

 

 

「くく……こんなところに隠れていたか」

 

「発見。見つけました、士道」

 

特徴的な語調。確認するまでもない。士道はゆっくりと振り向いた。

 

そこには予想通り耶倶矢と夕弦が立っていた。

 

耶倶矢は白のレースに飾られた黒のビキニを、夕弦は逆に白地に黒いレースのついたビキニを身に纏っている。

 

双方、嫌味なほどに似合っていた。

 

こんな少女たちが二人浜辺を歩いていたなら、思わず声をかけてしまう男も一人や二人では済まないだろう。

 

「お、おう、二人とも。似合ってるじゃないか。すげえ綺麗だよ」

令音の言いつけ通り士道が水着姿を褒めると、耶倶矢が驚いたように顔を赤くして目を見開き、夕弦がキョトンとして自分の装いを見下ろした。

 

だがすぐにハッとした様子で、耶倶矢が腕組みしてくる。

 

「く、くくく……そ、そうであろうそうであろう。だが勘違いするなよ。この程度の衣服では、我の魅力の前に霞んでしまうわ」

 

「謝辞。ありがとうございます。とても嬉しいです」

 

次いで、夕弦が素直に首肯してくる。

 

と、そこで。

 

「……ん?」

 

「確認。はい」

 

不意に耶倶矢と夕弦が眉を動かしたかと思うと、二人がそれぞれ耳に手を当てる。よく見ると、彼女らの耳には士道が使っているのと同じ機種のインカムが見受けられた。

 

 

「くく……なるほど、承知した」

 

「了承。理解しました」

 

士道は思わず苦笑してしまった。慣れない動作だろうから仕方ないのだが……二人してインカムに気を取られているのが、なんともおかしな光景だったのである。

 

ほどなくして、耶倶矢と夕弦がインカムから手を離し、士道に向き直ってくる。

 

「士道よ。常闇に身を置く我には、この天よりの光は少々堪える。我が身に、聖光を阻む瘴気の加護を施す事を許すぞ」

 

「へ……?」

 

「請願。日焼け止めというのを塗ってください」

 

 

 

「ああ……なるほど」

夕弦の言葉でようやく理解する。

 

が、大変なのは理解したあとだった。だって、日焼け止めを塗るということは──

 

 

「ふ……では頼んだぞ。我の背中は貴様に任せる」

耶倶矢が、なんか明らかに使う場の間違っている言葉を吐きながら、日焼け止めローションを手渡してくる。

 

 

次いで、夕弦も同じように言ってきた。

「依頼。お願いします」

 

一体どこからこんなものを取ってきたのかと思ったが、すぐに知れた。士道たちのすぐ近くに、パラソルとレジャーシートで休憩スペースのようなものが設営されていたのである。

 

恐らく、令音が事前に用意していたのだろう。 二人はキッと視線を交じらせると、パラソルの陰にうつ伏せに寝そべった。

 

そしてトップスのホックを外し、その白い背中を士道に晒す。

 

「え、ええと……」

隣合わせで寝ころんだ二人の背中を見ながら、士道は顔中にびっしりと汗を滲ませた。

 

これを塗る……ということは、つまり直接少女の柔やわ肌はだに手を這はわせねばならないということである。

 

すると、さすがに焦れたのか、耶倶矢と夕弦がインカムに触れて小さな声を発し始めた。

 

「おい、士道が乗って来ぬぞ。話が違うのではないか?」

 

「質問。何がいけないのでしょうか」

 

 

 

「……っ、やべっ」

士道は眉をひそめた。今日の狙いは、令音のアドバイスに信憑性を持たせることにあるのだ。ここで士道が二の足を踏んでいては、作戦が台無しになってしまう。

 

 

「よ、よし、じゃあ塗るぞ!」

言うと、耶倶矢と夕弦は一瞬士道の方を向いてから、小さくうなずいた。

 

「ふう……」

どうにか令音のアドバイスを無為にせずに済んだようである。

 

士道は放念の息を吐いた。

 

 

だが──「くく……それで士道、訊くまでもないことかもしれぬが、無論我から塗るのだろう?」

 

「質問。士道はどちらから日焼け止めを施すのですか?」

 

 

「え……? いや、それは」

と、二人が寝そべったまま視線を交じらせたかと思うと、不意に耶倶矢が夕弦に組み付き、身体をゴロンとひっくり返す要領で夕弦の上に乗った。

 

 

そして両手足で夕弦の身体が動かぬよう押さえ込みながら、声を上げてくる。

 

「士道、今だ。我に瘴気の加護を!」

 

「油断。く……」

耶倶矢が勝ち誇ったように唇の端を上げ、夕弦が苦悶の声を漏らす。 何というか、水着のトップス部分を外した状態でそんな体勢になっているものだから、耶倶矢と夕弦の乳房が互いの身体にぎゅうと押しつぶされ、何だか妙にエロかった。

 

 

 

「早くせんか!」

 

 

「お、おう!」

気圧されるような形で、士道はその場に膝を突くと、手にローションを適量取ってから、耶倶矢の背中に触れた。

 

瞬間──「っ、ふぁ……っ」

 

なんて今までにない甘い声を出しながら、耶倶矢が全身をビクッと震わせた。

 

 

「! わ、悪い、冷たかったか?」

 

 

「だ、大丈夫だ。早く……しろ……」

 

「あ、ああ……」

だが士道が手を動かすたび、耶倶矢がくすぐったそうに身を捩りながら、「あ……っ」だの「んん……っ」だのと、やたら官能的な声を響かせてくる。

 

 

耶倶矢に抑えつけられた夕弦もまた、耶倶矢のそんな反応を見て「おお……」と感嘆のようなものを発していた。

 

 

 

だが、夕弦はすぐにハッとした様子で眉を動かすと、耶倶矢の一瞬の隙を突き、ぐるりと身体を回転させる。

 

「反撃。隙ありです」

 

「ぐ……っ」

そして今度は夕弦が仰向けの耶倶矢を押さえつけるような格好になって、士道に目を向けてくる。

 

マウントポジションを取られてしまった耶倶矢は、しかし夕弦に抵抗する余裕もないような様子で、はぁはぁと息を荒くしていた。

 

「請願。士道、早く、夕弦にも……ください」

 

「う……っ!? お、おう」

日焼け止めのこととはわかっているのだが、その妙に扇情的なポーズと台詞に、不覚にもドキッとしてしまう。

 

 

士道はどうにか心を落ち着けると、夕弦の背にローションを塗り始めた。

 

「痙、攣。う……ぁ、っ」

すると夕弦が、小刻みに鼻から息を吐きながら、押し殺したような声を発してくる。 そして士道がおっかなびっくりといった手つきで、背筋に沿うように手を動かすと、遂に耐えきれなくなったように身体をビクンと跳ねさせた。

 

 

「え、ええと……」

 

 

「驚……嘆、とても、上手です……士道」

 

 

「ず、ずるい! 次は私!」

ようやく呼吸を整えたらしい耶倶矢が身体を起こし、位置を逆転させる。

 

 

だが士道が再びローションを塗り始めると、またも嬌声を上げて身を震わせ始めた。

 

「反、撃……そうはさせません」

今度は夕弦が身体を捻ねじり、耶倶矢の背中をレジャーシートにつける。過剰に塗りたくられたローションがシートに流れていった。

 

 

「このっ、何をする……!」

だが耶倶矢も今度はやられっぱなしでは済まさなかった。すぐさま夕弦の手を取り、マウントポジションを取り返す。

 

幾度かそんなことを続けたのち、ローションで滑ったのだろうか、二人はそれぞれがシートに腹這いになって睨み合うような格好になった。

 

 

「えっと、この場合は……」

士道は両手を合わせてローションをもう片方の手にもつけると、並んでうつぶせになった二人の背に同時に指を這わせていった。

 

すると──『──ぅ、あ、あぁぁぁっ!』

 

 

 

二人は同時に大声を上げると、ぐったりとその場に手足を投げ出し、全力疾走をしたあとのように肩で息をし始めた。

 

「だ、大丈夫か、二人とも……!」

士道が戸惑いながら言うと、二人は虚な目を合わせた。

 

 

「……無自覚で、これとか……」

 

「戦慄……神の指です……とんだ狼です」

 

 

 

「は、はぁ……っ?」

だが、そこでまた何やら令音から通信が入ったらしい。

 

二人同時にインカムを押さえると、呼吸を整えてから小さくうなずき始めた。

 

 

「ふ、ふむ、次は……スイカ割り……? 士道に目隠しをさせて……?」

 

「確……認。ぐるぐる回してふらふらにしたのち、進行方向上に待機して……?」

 

「ちょっ、ちょっと待った! 何しようとしてんだ!?」

 

 

たまらず叫びを上げ──士道はぴくりと眉を動かした。

 

耶倶矢と夕弦のそれとは別に、どこからか声が聞こえた気がしたのである。

 

 

一瞬インカムから令音の声が聞こえてきたのかと思ったが、違う。そう、これは──「──シドー!」

 

「っ、十香……!?」

 

聞き覚えのある声に名を呼ばれ、士道は弾かれるように振り返った。

 

 

後方には海が広がっているだけなのだが、確かにそちらから声がした気がしたのである。

 

見ると、凄まじい波しぶきを立てながら、十香が沖おきから泳いできているのがわかった。

 

 

フォームは滅茶苦茶だが、恐ろしく速い。ついでにその後方には、美しいクロールで泳いでくる折紙の姿も見受けられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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海岸で、ターゲットである夜刀神十香を監視していたエレンは、小さく息を吐きながら左手で肩を揉みほぐした。

 

 

随意領域(テリトリー)なしで激しい運動をしたのは久しぶりだったため、軽い筋肉痛になってしまっていたのだった。

 

 

 

……結局、昨日は夜遅くまで枕投げに巻き込まれてしまい、いつの間にか疲れてターゲットと一緒に寝てしまっていたのである。

 

 

今日こそはと気を取り直してターゲットを監視しているのだが、やはり日中は人の目も多く、一人にはなりそうにない。

 

 

 

やはり今日も夜になるのを待った方がよいだろうか──そんな考えが頭を過ぎる。

 

 

 

と、「──ん?」

 

エレンは訝かしげに眉をひそめた。先ほどから落ち着かない様子で辺りをキョロキョロ見回していたターゲットが、不意に海の方を向いたかと思うと、「おおシドー、あんなところに!」と叫び、海に入っていったのである。

 

 

 

いや、それだけならばまだいいのだが──問題は、ターゲット(と、なぜか鳶一折紙までも)がそのまま一直線に泳いでいってしまったことだった。

 

 

 

 

「──〈アルバテル〉。ターゲットがどこかへ向かいました。そちらで追えますか?」

 

 

エレンがインカムに向かって声を上げると、すぐにオペレーターの声が返ってきた。

 

 

『確認しました。どうやら、向かいの海岸に向かっている模様です』

 

 

 

「向かいの海岸、ですか」

言いながら、エレンは今いる赤流海岸の地図を思い浮うかべた。

 

 

確か今エレンたちは、三日月のように弧こを描えがいた海岸の端あたりにいるはずである。

 

 

ここからでは小さくしか見えないが、十香たちの泳いでいったラインは、ちょうど海岸の端と端を繋つなぐコースだった。

 

 

「その向かいの海岸には何があるのですか?」

 

 

『どうやら、プライベートビーチのようです。現在三名の男女が確認できます』

 

 

その単語を聞いて、エレンはぺろりと唇を舐めた。

 

なぜ急に十香と折紙がそんなところに向かい始めたのかはわからないが、これは好機である。

 

 

 

一般開放されているこの海水浴場とは異なり人の目も少ないし、ターゲットが沖へと泳いでいってしまったというクラスメートの証言も期待できる。

 

 

行方不明扱いにしてしまうには絶好のチャンスだろう。

 

 

 

「すぐに私もそちらに向かいます。〈バンダースナッチ〉を随行させてください」

 

 

 

『了解』

応答を聞くと、エレンは構えていたカメラを肩に提げ、その場にすっくと立ち上がった。

 

 

 

──だが。「おっ、カメラさーん! ほらほらこっち、撮って撮ってー!」

 

 

 

不意に背後から声をかけられ、エレンはちらとそちらを一瞥した。

 

そこには浜はま辺べで砂遊びに興じる数名の男女が見受けられた。髪をワックスで固めた少年が首だけ出して砂に埋められており、少年の首から下に、砂で変なポーズを取った身体が形作られている。

 

 

ついでに何とも最悪なことに、その周囲には、昨日エレンを枕投げに巻き込んだあの三人の女子生徒も見受けられた。

 

 

 

「申し訳ありませんが、私は──」

 

 

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

 

 

「いーじゃん撮ってよエレンさーん」

 

 

「熱い夜を共にした仲じゃなーい」

 

 

 

「…………はぁ」

エレンは面倒そうに息を吐くと、カメラを構えてぞんざいにシャッターを切った。

 

 

「これでいいですか。では、急ぎますので」

 

 

「えー、もっと撮ってよー」

 

 

「今目つぶっちゃったー」

 

 

「ていうかどこ行くのー? 遊ぼうよー」

 

 

「…………」

エレンが無視して歩いていこうとすると、背後から亜衣麻衣美衣がカサカサカサカサッ、と近づいてきて、エレンが肩掛がけにしていたカメラをひょいと奪い去った。

 

 

 

「! 何をするんですか。返してください」

 

 

「いやー、撮ってもらってばっかも悪いからさ、エレンさんも撮ってあげるよ」

 

 

「ひ、必要ありません。返してください」

 

 

 

「いーからいーから、遠慮しないで」

 

 

「遠慮などしていません。用事があるので──」

 

 

「はいっ、一名様ごあんなーい!」

美衣が言うと同時、どこからともなく生徒たちがわらわらと集まってきて、エレンの身体を軽々と持ち上げた。

 

 

そしてそのまま浜辺に連れていかれる。

 

 

するとそれと同時に亜衣麻衣美衣がスコップを手にし、ザッザッザッと瞬く間に人間大の穴を砂浜に掘ったかと思うと、エレンをその中にひょい、と放り込んだ。

 

 

「くっ、一体何を……! というか掘るのが早すぎませんか!?」

 

「ふ! 昨日旅館裏の森で、地面ボコボコになるまで高速穴掘り術を練習したかんね!」

 

 

「砂浜なんぞ、今の私たちにかかれば豆腐を掘るようなもの!」

 

 

「さ、野郎ども、やっちまえーい!」

 

 

『おー!』

亜衣の音頭とともに、エレンの身体に一斉に砂がかけられる。

 

 

「うわぷっ……、な、や、やめてください」

抵抗むなしく、エレンの身体は完全に砂に埋められてしまった。

 

 

ついでにそこに砂が盛り上げられ、彫刻のように身体が形作られる。

 

 

「く……困ります。離してください」

 

 

「まーまー、そう焦りなさんなって」

 

 

「とりあえず一枚、ね?」

 

 

「おっぱい増量しといたからさー」

 

 

身体の方に視線を落とすと、美衣の言うとおり妙に胸元に砂が盛り上げられていた。……果てしなく余計なお世話だった。

 

 

ついでによく見ると、右下の方に、先ほど砂に埋められていた少年の顔が確認できることがわかる。というか──エレンの顔の下に作られた身体は鞭を振り上げた女王様で、少年の方の身体は、四つん這いになって尻を向ける裸の男だった。

 

 

そして恐くその両方を収めるように、少し離れた位置で亜衣がシャッターを切る。

 

 

「…………」

エレンが頬をぴくつかせていると、埋められている少年──確か、殿町宏人とかいったか──が顔をこちらに向けてきた。

 

 

「ははっ、エレンさん……でしたっけ。困っちゃいますよね」

 

 

「はあ」

エレンが気のない返事をすると、殿町は軽く頬を染めながら続けてきた。

 

 

「なんていうか──いや、ははっ、こういうのも、運命……って言うんですかね」

 

 

「…………」

こんなにも他人に唾を吐きたくなったのは、生まれて初めてだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「…………」

 

 

 

隣界。第三領域……。とある仏壇の前で一礼をしてから……。目を閉じ、何かを心の中で呟く少女、緋衣響。

 

 

 

 

 

 

そして、目をゆっくりと開けると…「今日も良い天気ですよ。狂三さん」と、仏壇に飾られた写真に向けて一言呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「んん〜〜……。やっぱり、ポカポカしてる日は机にへばりつくのが一番いいですねぇ〜…」

 

 

と、スライムみたいに蕩けながら響の対面の席でそんな事を言っていたのは、山打紗和だった。

 

 

 

 

 

 

「あー…わかります〜…その気持ち。日向ぼっことか気持ちいいですよね」

 

 

うんうんと、その考えにだけは頷きで返す。

 

 

 

 

 

〝あの惨劇〟から隣界単位で三週間後。佐藤さんが主導になって、外敵への対策をねり。決意を固めたことで。隣界にざわめいていた混乱はある程度は消えていた。

 

 

 

 

 

 

カリンさんも狂三さんとのの記憶を一部は保持できているらしく、かなり自責の念に苛まれていた。

 

 

 

 

 

こういうのは他者からの過度な干渉でなにかできるものでもないし。…放置という形になってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

と、このように色々あったが。現在ではこのように日向ぼっこできるぐらいには元通りになれていた…。

 

 

 

 

 

 

「そうだ、響さん。」

 

 

 

 

「はい?何ですか?」

 

 

 

ふと、スライム形態から戻った紗和が響に語り掛けてきた。

 

 

 

 

 

「今って、佐藤さんたちは修学旅行に行ってるんですよね?しかも、海」

 

 

 

 

「え?はい…。佐藤さんからはそう聞いてますけど」

 

 

響が戸惑いながらもそう言うと、突然紗和は肩を落とした。

 

 

 

 

「いいなぁ……。海…。私も行ってみたかった……」

 

 

 

 

「えぇ…。じゃあ…第八領域でも行きますか?あそこなら─────」

 

 

 

 

「響さん。勘違いしてるかもしれないですけど……、私は別に海が良いんじゃなくて、水着姿の佐藤さんが見たいだけです!」

 

 

 

 

 

 

「うわぁ……欲望にとことん忠実……。」

 

 

 

軽く引く響に構わず紗和は言葉を続ける。

 

 

 

 

 

 

「……それに、あの領域に行っても【華羽】さんと【烈美】さんのイチャイチャを見せられるだけだし…。ストレス発散に行っても逆にストレス溜まりますよ』

 

 

紗和が鬱々としながら言ったセリフに響も内心では「……まあ、確かに」と納得してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、海のお話ですの?」

 

 

 

───と、その時。そんな声が扉からして、響は振り返った。

 

 

 

「あっ…、シスタスさん!大丈夫なんですか!?病み上がりなのに…」

 

 

 

「ふふっ。大袈裟ですわね。──もう、大丈夫ですわ。心配をお掛けして申し訳ありません」

 

 

 

 

 

 

「い、いえいえ!良かったですよ!ねっ、紗和さん!」

 

 

 

「…………ええ、治ってよかったです。安心しましたよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………さ、紗和…さん…?」

 

 

思わず響は小さな声で呟いた。

 

 

 

 

 

 

そう、シスタスがこの部屋にやってきた途端に、紗和の顔色が明らかに変わった。

 

 

 

 

 

 

 

「私に何か話でもあるんですか?そんな顔をして」

 

カップに入った紅茶を一口、飲みながら紗和はシスタスを一瞥した。

 

 

 

 

「流石紗和さん。話が早くて助かりますわ。──でも、そこまで内容があるということでもないですわよ。ただの雑談程度の軽さですわ」

 

 

 

 

思わず響は冷や汗を垂らす…。

 

 

(……雑談程度のプレッシャーじゃないんですけど……。)

 

と、内心響は思った。

 

 

 

 

 

 

「さて、と。悪いのですが…響さんは一旦席を外して下さい。少しだけ二人きりで紗和さんとお話をしたいんですの」

 

 

 

シスタスはこちらを一瞥もせずに、響の真隣にたつと、席を退くように促してきた。

 

 

「え、 あ、 はい。─じ、じゃあ………お二人は…ご、ごゆっくり…?」

 

 

 

 

響は席を退くと、そのままゆっくりと部屋を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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そして、響が出ていった後。

 

 

紗和は響の気配が消えたのを理解してから、シスタスに向かって口を開く。

 

 

「……で、何の話ですか?」

 

 

 

 

「だから、言ってますでしょう?特段面白みもないただの、雑談ですわよ。」

 

 

 

 

「……………」

 

紗和はシスタスからの話を待つように無言になった。

 

 

 

「では、わたくしから一言言わせてもらいますわ。…貴方…『わたくし』の事を覚えているでしよう?」

 

 

 

 

「……っ…。何の…話です?」

 

 

 

 

 

「──別に、嘘を付く必要なんてないですわよ?その為に響さんに退いてもらったんですから。」

 

 

 

 

 

「………わかるん…ですね…」

 

 

 

紗和が視線を下げながら顔を歪める。

 

 

 

 

 

「佐藤様が心配ならさないように。…まるで、【隣界での時崎狂三の記憶だけ抜け落ちている】ということを演じていたのでしょう?」

 

 

 

 

「あたりです…。覚えてますよ、狂三さんのことは……全部ってわけじゃないですけど…。少なくとも…理解し合えたあの日は覚えてます。」

 

 

紗和は顔を微笑みに変えると、続けて口を開く。

 

 

「それで、話は終わりですか?……」

 

 

が、シスタスは首を横に振った。

 

 

 

 

「いいえ。もう一つだけお話がありますわ」

 

 

 

「また、何か質問ですか?もう嘘は言ってませんよ?」

 

 

 

すると、シスタスは…違う違うと、クスリと笑った。

 

 

「貴方にはお話しないとフェアじゃありませんもの。」

 

 

「……?」

 

 

 

 

「わたくしが…あの戦場に行けなかった。〝本当の理由〟ですわ──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「はあ……。最近疲れるなぁ…」

 

あの二人の会話を邪魔しないように、部屋から出た後。やることもないので現実世界にやってきていた響。

 

 

 

「(外に出たら危ないって佐藤さんは言ってたけど、霊力を隠してたら大丈夫……だよね…?)」

 

 

 

 

しかし、今日は現実世界が平日の巳の刻という事もあって、そこら辺の道では人通りが少なかった。

 

 

 

 

 

 

 

「………喉渇いた…」

 

 

 

 

朝起きてから何も飲んでいないせいで喉がカラカラだ。…でも、お店に入るのは……。あ、──確か現実世界には【自販機】という飲料水が買えるものがあった筈だ。幸いお金自体は佐藤さんから貰ってるものがあったし……

 

 

 

 

 

「よし、行ってみますか…っ!」

 

 

 

 

そうして、鼻を鳴らしたのだが…。──そもそも、自販機どこ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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どこに行ったらいいかも分からないので、真っ直ぐ歩き続けていたら……。

 

 

 

 

「お、あれかな…」

 

 

 

色の付いた金属製の長方形型機械。───確かに、これは自販機だ。何故か妙に納得できる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……んん?」

 

自販機ばかりに注目していたのだが…自販機の下部に…人がいた。

 

 

 

しかも、女の子だ。

 

 

何故か、しゃがみ込んで…この距離でもわかるぐらい慌てていた。

 

 

 

「??? ──ああ」

 

もう少し近づいてからようやく理解できた。……なんと、自販機の前に〝グレーチング〟があったのである。

 

 

 

小銭を扱うような自販機じゃあ、地面に落とす人もいるだろうし、その上でグレーチングがあったら最悪、中に小銭を落としてしまうだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

───はあ。

 

 

 

 

「あの、大丈夫ですか?」

 

見ていられなくなった響が声を掛けると、少女が顔を上げてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

──長い水色の髪。 …サファイアのような青い瞳。

 

 

ピンク色のフリルにあしらわれた白いワンピースと白い大きな麦わら帽子が抜群的に似合いすぎて響の思考を一瞬止めてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「あ、…りが…とう…ございま、す…。」

 

『いやぁ、喉がカラカラでさー。ほんとうにたーすかったよー!』

 

 

 

 

 

「あ、あはは…。それなら…良かったです…」

 

 

 

 

その後、予想通りというか…この少女はグレーチングに小銭を落としたらしく、それをどうにか取ろうとして難航していたらしい。

 

 

 

 

 

結果、それは諦めてもらって響が飲み物を奢る形で終わり、今はすぐ向かいの公園にあったベンチで一緒に座っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

が、この少女。──なんとも奇妙なことに左手に付けているウサギの人形と会話をしているではないか。

 

 

というか、これはもう腹話術と言うよりも〝そういう機械〟と捉えて良いのだろうか。──佐藤さんには現代の科学がどれほど進んでいるかなんて聞いていなかったが…まさかこんなにも自然に会話のできる人形が出来ているとは……、科学はすごいなぁ…。

 

 

 

 

 

「あ、あの……」

 

 

 

「…? ああっ!えっと、どうかしましたか!?」

 

 

 

響が考え事をしていると、不安げな表情を作りながら少女が言葉をかけてきた。

 

 

 

 

『もうっ!聞いてなかったの? 名前だよ、ナ・マ・エ。ここで会えたのも何かの縁だからさ!』

 

 

 

「あ、ええっと…。【緋衣響】です、気軽に【響】で、良いですよ。」

 

 

「響さん…。です、か…?──私の名前…は【四糸乃】です…」

 

 

『ほほ〜!響ちゃんかぁ〜よしのんには勝てないけどいい名前じゃないの。じゃあ、自己紹介させてもらうけどぉ、よしのんの名前は【よしのん】だよ!可愛いっしょ?可愛いっしょ?』

 

 

 

 

「そ、そう…っすねぇ………」

もうこの温度差に慣れることができず、響は苦笑いを浮かべてしまっていた。

 

 

しかし、こんなにもタイプの違う美少女に会えるなんてそうそうない。そのため、何か会話の糸口を探そうと…思考を巡らせ……。口を開いた。

 

 

 

 

「……私が言うのもなんですけど、朝から何してたんですか?」

 

 

 

 

「え、えと…。ずっと部屋の中に居ても…退屈だった……から…。外に出たんです……。そし、…たら──」

 

 

言いながら泣きそうな顔になっていく四糸乃。

 

 

『もうっ、あんまり四糸乃泣かせちゃダメよん、響ちゃん』

 

すかさず、よしのんが四糸乃の頭をよしよしと撫で始めていく。

 

 

 

 

 

「いや、いやいや!言いたくないなら無理して言わなくて大丈夫ですよ!すみません、無理強いしちゃって!」

 

 

隣界のあの人たち以外にマトモに会話したことがないからか、最初のコミュニュケーションのとり方がわからなくなってしまっている。と、反省する響だった。

 

 

 

 

 

 

『逆に聞いちゃうけど、そういう響ちゃんはここでなーにをしてたの?』

 

 

 

 

「へ? 私ですか?」

 

 

 

 

『そーそー!よしのんと四糸乃も言えたことじゃないけどぉ。響ちゃんも結構若いでしょ?こんな時間に何してるのかなーって』

 

 

 

「……私は…。────暇潰しですよ。…やることもないので、ぶらぶら歩いてて…そこで四糸乃さんと会っただけです。」

 

 

 

 

 

 

「そう、…です…か」

 

 

それを聞くと、…四糸乃が何故か妙に嬉しそうな顔になった。

 

 

 

 

『ふ〜ん?…じゃあ、響ちゃんって今お暇さんなの?』

 

 

 

 

 

「…? まあ、そうですけど…」

確認をしてくるよしのんの言葉に疑問気味に返すと、………だっ…と、四糸乃が立ち上がって来た。

 

 

 

 

「あ、あの…っ!…そ、それなら───!」

 

 

 

 

 

「………?」

 

 

 

 

暫しの間、頬を赤く染めて口をモゴモゴと…していたが、意を決したように言葉を紡いでくる。

 

 

「私と…、ど、どこか……あ、遊びに行きませんかっ!?」

 

 

 

 

……話の急展開に付いていかない響だったが、それはそれとして───。

 

 

 

 

「も、勿論!私からもお願いしたいくらいですよ!」

 

 

こんな美少女とお近づきになりたかったし、現実世界の知り合いが欲しかったのも事実だった。

 

 

 

 

 

 

 

「ほ、ほんとう…ですかっ!?──ありが、とう…ござい…ますっ!」

 

 

それを言うと、四糸乃はパァァっと顔を明るくしてから感謝を述べてきた。

 

 

 

 

 

──……なんだこの可愛い生物、…結婚してぇ…。

 

 

 

 

 

 

すると、横から『よしのん』が割り込んできて、四糸乃に耳打ちするように近づき、何かを言うと、四糸乃は…納得したようにうんうんと頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

「そ…、それと…。わた、…わたしと…友達になって…くれません、か?」

 

 

 

 

「………あっ!も、もちろんそれもオッケーですよ!私も友達全然居なくて困ってたんですよ!」

 

 

 

 

「……!」

響が返すと、四糸乃はまたも嬉しそうに微笑んだ。

 

 

 

 

 

「(……え、なにこれ…。私のこと堕としにでも来てます?)」

 

 

 

 

明らかに順序が逆なことを忘れている響であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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十香と折紙は海岸に到着すると、小走りになって士道たちの方へとやってきた。

 

 

ちなみに二人の装いは、先月士道が買ってあげた水着である。

 

 

十香がダークカラー、折紙が白のビキニだ。どちらも吟味を重ねただけあって、よく似合っていた。

 

 

「シドー、こんなところにいたか! 探したぞ!」

 

 

「士道。なぜあなたと八舞姉妹が一緒にいるの?」

 

 

と、十香が元気良く、折紙が訝しげに言ってくる。士道は曖昧に誤魔化すように苦笑いを浮かべながら一歩後ずさった。

 

 

 

「いや、まあ……その、あはは、実は道に迷っちまって……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

するとそこで、どうにか呼吸を整え、水着のトップスを着け直した耶倶矢と夕弦が声を発してくる。

 

 

「ほう?十香ではないか。くく……主の元に参じるとは愛い奴よ。褒めて遣わす」

 

 

「驚嘆。マスター折紙、なぜこんなところに」

 

そういえば、耶倶矢と夕弦はそれぞれ十香と折紙の部屋に厄介になっているという話だった。お互い顔を覚えていても不思議ではない。

 

 

……まあ、主だとかマスターだとか、あまりお友達関係では使いそうにない呼称が使われているのが気になりはしたけれど。

 

 

「おお、耶倶矢もいたのか。何をしていたのだ?」

 

 

「くく……今から、闇と深緑に染まりし外殻を打ち砕き、紅き血と臓物を吐き出させる悪魔の遊戯を執り行おうとしていたところよ」

 

 

「な、なんだそれは。恐ろしそうだぞ」

 

 

「解説。耶倶矢はスイカ割りをしようと──」

 

 

「……ちょっと、待ってくれるかな」

と。夕弦の言葉の途中で、背後から眠たげな声が聞こえてくる。

 

 

見やるとそこには、水着の上にパーカーを羽織った令音の姿があった。

 

 

直射日光が眩しいのだろうか、目を細めながら手で陰を作り、頭をフラフラ揺らしている。

 

 

まるで今にも倒れそうな貧血患者の様相だが……まあ、士道はそれが令音の平常状態と知っていた。

 

「! 令音さん……?」

士道は訝しげに眉をひそめた。確か令音は今、インカムを通して耶倶矢と夕弦にアドバイスを出していたはずだ。

 

 

耶倶矢と夕弦も同じ疑問を抱いだいたのだろう、不思議そうに令音を見つめ、耳につけたインカムに手を触れている。

 

「……悪いが、スイカを用意するのを忘れてしまってね。──その代わり、せっかく人数が増えたんだ。あちらにコートを設営してある。ビーチバレーでもどうかな?」

 

言って、浜辺の奥の方を指してくる。

 

 

耶倶矢と夕弦は最初怪訝そうにしていたものの、すぐに方針変更を読みとったらしい。

 

 

「ふん、まあ良かろう。何をしようと我が頂点に立つことは決まっているからな」

 

 

「承諾。構いません。どうせ勝つのは夕弦です」

 

二人はそう言って目を見合わせると、別に競走でもないのに、同時に走っていった。

 

 

「おお!」

と、十香もそれに触発されたように駆け出していく。

 

折紙は未まだ納得のいっていないような視線を士道と令音に向けてきていたが、これ以上の説明は得られないと察したのか、浜辺を歩いていった。

 

それを追うように、令音と士道も歩き出す。

 

 

「……で、令音さん。なんでいきなり出てきたんですか?」

 

「……ああ。十香と折紙が現れるというイレギュラーが起こってしまったからね。プランをBに移行させてもらったよ。〈ラタトスク〉の機関員を使えるなら何とかなったかもしれないが……私一人ではさすがに限界がある」

 

 

「プランB、ですか」

 

 

「……ああ、一緒のチームでともに戦うことによって、彼女らと君との結束、仲間意識を高めようという作戦だ」

 

 

「一緒のチームって……あの二人が大人しく組みますかね……」

 

 

「……まあ、そこは考えてある。見ていたまえ」

そうこう話をしていると、士道たちは浜辺に設営された見事なビーチバレーコートにたどり着いた。

 

 

すると令音が身をかがめ、ポールに立て掛かけられていた筒つつのようなものを手に取る。

 

 

「……さ、ではチーム分けをしよう。三人一組だ。くじを引いてくれたまえ」

 

 

「む?」

十香から順に筒の口が向けられ、中に入っていた棒を引かされていく。

 

 

士道はなるほど、と手を打った。恐らくあのくじに、耶倶矢と夕弦、そして士道を同じチームにできるような仕掛けが施ほどこしてあるに違いない。

 

 

 

「……さ、シンもだ」

 

「あ、はい」

言われて、残っていた二本のうち一本を引く。

 

 

そして、くじの先端部分に目をやり──士道は「へ?」と間抜け面づらを作った。

 

 

何しろそこには、数字や記号ではなく、やたら劇画調に男性の顔が描えがかれていたからだ。

 

「……では、グレゴォル、ジャクソン、スペンサーを引いた人はこちら、アレクサンドル、エイブラハム、アンソニーを引いた人は向こうのコートに行ってくれたまえ」

 

 

「令音、これはどちらなのだ?」

 

「これは?」

 

十香と折紙が困ったように令音にくじを見せる。

 

 

「……ああ、これはグレゴォルだね。こちらはスペンサーだ」

 

次いで耶倶矢と夕弦が、同じように令音にくじを見せた。

 

 

「……君たちはアレクサンドルとエイブラハムだね。向こうへ回ってくれ」

 

 

「…………」

半眼でもう一度劇画調の男(たぶんアンソニー)を眺める。……十香たちのそれと、どこが違うのかよくわからなかった。

 

 

 

Aチーム……耶倶矢、夕弦、士道。

 

 

Bチーム……十香、折紙、令音。

 

 

耶倶矢に夕弦に十香に折紙。実に六人中四人が不満というチーム編成ではあったが、令音の

 

「勝ったチームにはシンの誰にも知られたくない秘密を教えよう」

 

という一言のもとに、試合は開始された。士道は泣きそうな顔で抗議したが受け入れられなかった。

 

 

「よし! ではいくぞっ!」

 

十香が元気良く声を上げ、向こうのコートの端からサーブを放ってくる。

 

 

が──「なッ!?」

 

ボヒュッ!

 

 

という音とともにボールがネットを易々と突き破り、そのまま弾丸のように伸びてくる。

 

士道は咄嗟に身体を横に移動させた。

 

ボールは今まで士道がいた場所を刺し貫くと、

 

 

 

ギャギャギャギャギャッ!

 

 

と浜辺上でコマのように踊ってからようやく停止した。

 

 

「令音! 今のは何点だ!?」

 

 

「……〇点だ」

 

「むう、技術点は追加されないのか……」

 

 

「……恐らくだが、君は何か別の競技と勘違いをしている」

 

 

そんな十香の一撃を見てか、耶倶矢が低い笑い声を上げた。

 

「くく……やるではないか。どうやら我も本気を──」

 

「いや、出さなくていい。出さなくていいから」

 

 

こんな球の応酬をされていては、命が幾あっても足りない。

 

 

士道は首を振った。

 

 

「ふん、つまらん。まあいい、次は我々のサーブだな?」

 

言って、耶倶矢が地面を抉ったボールに手を伸ばす。

 

そして存外綺麗なフォームでもって、相手側のコートにボールを放った。

 

 

「おお、来たぞ!」

 

「邪魔しないで」

十香の動きを声で制し、折紙がボールをレシーブする。

 

 

するとその後方に立っていた令音が、綺麗なトスを上げた。

 

 

その際、凄まじい質量を誇る令音の胸が上下に揺れ、思わず士道は目を釘付けにされる。

 

 

「警告。危険です」

 

 

「は……っ!」

夕弦に言われて、ハッと目を見開く。気付いたときには目の前に、ネットを越える勢いでジャンプした十香の姿があった。

 

 

「はぁッ!」

裂帛の気合とともに、十香がボールに手の平を叩きつける。そこから放たれた弾丸のような一撃は、ぼうっと立っていた士道の頬を掠めていった。

 

 

「うわっ!?」

 

 

「くッ、ボーっとしているな、士道!」

 

 

「同意。邪魔です」

 

 

後方から耶倶矢と夕弦の声が響く。

 

 

どうやらボールを拾うために滑り込んだらしい。

 

だが、二人同時に同じ位置に走り込んだものだから、二人は頭をゴツンとぶつけてその場に倒れ込んでしまった。

 

 

その間に、ボールはコート内でバウンドし、コロコロと砂の上を転がっていった。

 

 

「くあっ! な、何をしているのだ夕弦!」

 

 

「反論。こちらの台詞です。邪魔をしないでください」

 

 

耶倶矢と夕弦が額を押さえながら睨み合う。

 

 

「……よし十香、今のは一点だ」

 

 

「おお! 本当か!」

対して、反対のコートは賑にぎやかだった。十香と令音がパチン、とハイタッチをする。

 

 

折紙は無視していたようだったが、令音に手を取られ、強制的に参加させられていた。

 

 

が、耶倶矢と夕弦はそんなもの気にも留めず、言い合いを続ける。

 

 

「今のはどう考えても我の領分ぞ。出過ぎた真似をするでない!」

 

 

「反論。うすのろな耶倶矢では間に合わないかと思いました」

 

 

「な、なんだと貴様っ!」

 

 

「応戦。なんですか」

 

 

 

「お、おい、落ち着けよ二人とも……」

と、士道が二人の間に割って入るのと同時に、向こうのコートで令音が、十香と折紙に何やら耳打ちをした。

 

 

すると、「──ほう、そういうものなのか」

 

 

「……約束のものはあとで必ずもらう」

なんて言いながら、十香と折紙がふんぞり返るように耶倶矢と夕弦を見下ろしてくる。

 

 

 

「ふっ、なんだ、耶倶矢と夕弦も大したことがないな!」

 

 

「期待はずれ。この程度で私に挑もうだなんて身の程ほど知らず」

 

 

 

 

 

『……!』

見え透いた挑発に、しかし耶倶矢と夕弦はぴくりと反応した。

 

 

 

 

 

 

 

と、令音がまたもひそひそと十香と折紙に耳打ちする。

 

何となくだが……「もっと口汚く。本場ではそうやるんだ」と聞こえた気がした。

 

 

「耶倶矢は弱虫で夕弦はへたっぴなのだ! 二人揃ってへっぽこぴーだな!」

 

 

「この×××。×××を×××していればいい。敗者にはそれがお似合いサノバビッチ」

 

やたら幼稚な悪口と、やたら淡々とした罵りが、向こうのコートから降ってくる。

 

 

『…………』

二人の煽りに、耶倶矢と夕弦は静かに目を細くした。

 

 

 

 

「……ねえ夕弦」

 

「返答。なんでしょう」

 

「……やっちゃう?」

 

「同調。やっちゃいます」

 

 

 

二人が、ちらと視線を交じらせ合う。

 

 

しかし次のサーバーである折紙は至極落ち着いた様子でボールを手に取ると、美しいフォームでコートの隅にボールを放ってきた。

 

 

「夕弦!」

 

「応答。わかっています」

 

だが、夕弦がすんでのところで滑り込み、その完璧に近いサーブをレシーブする。

 

 

そしてそのボールを耶倶矢が打ち上げ、相手コートに戻した。

 

 

先ほどの醜態が信じられないくらいの、綺麗な連係プレーである。

 

 

しかし相手チームも負けてはいない。迫り来たボールを折紙が打ち上げる。

 

 

「村雨教諭」

 

「……ああ、わかっている」

すると次いで、令音がそのボールをトン、と軽やかにトスした。

 

 

先ほどと同様のパターンである。

 

どうにか胸に気を取られないようにしながらコートに気を張っていると、またも十香が高く飛び上がるのが見えた。

 

 

「おおッ!」

叫び、遥か上空から鋭いアタックを放ってくる。

 

 

「士道、止めろ!」

耶倶矢の声が響く。士道は慌てながらも手を組みわせ、十香の一撃に備えた。

 

だが、ボールは士道の手ではなく一直線に顔面に突き刺さると、そのまま激しくバウンドして天高く舞まい上がった。

 

凄まじい衝撃が頭を襲い、視界にチカチカと星が舞う。

 

 

「ぐえッ!?」

 

 

「よしっ! ボールが当たったからシドーはこちらのチームに貰えるのだったな?」

 

 

「……いや、そんなルールは聞いたことがないが」

 

敵コートからそんな声が聞こえてくる。どうやら先ほどから十香のボールが士道を狙ねっていたのにはそういう理由があるらしかった。

 

 

「賞賛。ナイスです」

しかし、朦朧とする意識の中で聞こえてきたのは夕弦のそんな声だった。

 

 

「設営。耶倶矢」

 

 

「おうとも!」

夕弦がその場に片膝を突き、両手を組み合わせて手の平を上に向ける。

 

 

そして走ってきた耶倶矢がそこに片足を乗せると同時、夕弦が耶倶矢の身体を軽々と空に放ほうり上げた。

 

 

 

 

 

「な……!」

 

 

 

「……っ!」

 

 

十香と折紙の声が、敵コートから聞こえてくる。次の瞬間──「──はぁぁぁぁぁッ!」

 

 

 

天高く舞い上がった耶倶矢が上空のボールを叩き落とし──矢のような一撃が敵コートに突き刺さった。あまりに見事な一撃である。

 

 

「よっし! 同点! 見たかこらぁぁッ!」

 

いつもの口調を忘れた調子で、耶倶矢が空中でグッとガッツポーズを取る。

 

 

そして地面に降り立ったのち、至極自然に、夕弦とハイタッチを交かわした。

 

 

「いぃぃやっほぉう!」

 

「歓喜。いやっほー」

 

「やー! 今のは完璧だったね夕弦。びゅーんいったよびゅーん!」

 

「肯定。見事な一撃でした。さすが耶倶矢です」

 

 

「いやいや、あれは夕弦が──」

と、そこで二人はハッと肩かたを揺らし、フンと目を逸らした。

 

 

「ふん……調子に乗るなよ下賤。我が足に踏まれたことを光栄に思え」

 

 

「不快。手に臭いが付きました。くさいです。くさやと納豆とシュールストレミングをミックスしたような臭いがします」

 

 

「そ、そこまでくさくないわー!」

と、思い出したように喧嘩を始める。なんともおかしな様相だった。

 

 

だが、今の士道に、それを事細かに観察するような余よ裕ゆうはない。

 

 

頭の上に響く「シドー! 大丈夫か!?」なんて叫びを聞きながら、僅かに残っていた意識は闇に沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「痛たた……」 士道は頭にできたこぶをさすりながら、海辺に設営されたトイレに向かってのろのろと歩いていた。

 

 

ちなみに、士道がトイレに行ってくると言った際、さっきまで気絶していたのに一人でトイレなんて危ないので私がついていっていろいろ手伝う、と言った者が若干一名いたが、それは丁重に、それこそ頭を砂浜に擦りつける勢いで断った。

 

 

 

『……大丈夫かい、シン』

と、右耳に令音の声が聞こえてくる。士道は疲れたように苦笑しながら口を開いた。

 

 

「まあ……なんとか。そっちはどうですか?」

 

 

『……正直、まだ何とも言えないな。あとは二人の対抗心をどれだけ煽れるかが──』

 

 

と、令音が不意に言葉を切った。

 

 

「令音さん? どうかしたんですか?」

 

 

眉をひそめながら問うが、その理由はすぐに知れた。

 

 

令音が言葉を詰まらせてからすぐに、トイレの脇から耶倶矢が顔を出したからだ。

 

 

「耶倶矢……? なんでこんなところに。みんなのとこで待ってるはずじゃ」

 

 

「くく……颶風の加護を持つ我に、あの程度の隔たりは意味を成さん」

 

 

「……まあそりゃそうだろうけど。どっちかっていうと理由の方を訊いたんだが……」

 

 

そう言ったところで、士道はハッとなった。前屈みになりながら叫びを上げる。

 

「だ、だから手伝いはいらないって言っただろ!?」

 

「は……?」

耶倶矢は一瞬キョトンとしたあと、顔を真っ赤に染めた。

 

 

「な、あんなの場の流れで言っただけに決まってんじゃん! 本気にすんじゃねーし!」

 

「そ、そうなのか……?」

 

「当たり前でしょ!? な、なんで私があんたの……その……」

 

耶倶矢がそこで顔を俯せ、言葉を詰まらせる。

 

 

「とッ! とにかく、用件は別にあるの!」

 

「お、おう……!」

 

 

思わずうなずく。そして士道は声をひそめ、インカムに向かって言葉を発した。

 

 

「令音さん、これもそっちの指示ですか?」

 

 

『……いや、こちらからは何も言っていない』

 

 

と、士道が令音と会話していると、耶倶矢が焦れたように声をかけてきた。

 

 

「ちょっと、無視しないでよ」

 

「ああ、悪い」

 

士道は慌てて姿勢を戻すと、耶倶矢に向き直った。が……そういえば一つ気になることがあった。

 

 

耶倶矢の顔を見据えながらぽりぽりと頬をかく。

 

 

「ところで……その口調のまま続けていいのか?」

 

「あ」

耶倶矢はしまった、という顔を作った。

 

 

そしてすぐに気まずそうにコホンと咳払いをして、格好いいポーズを取ってみせる。

 

 

「くく……我が道化芝居に謀れたな。我が手の上で踊る貴様は大層滑稽であったぞ」

 

 

「…………」

 

 

「……何よその目は」

耶倶矢がぶー、と唇を尖らせてくる。士道は力無く苦笑しながら頬をかいた。

 

 

「いや……なんでわざわざ無理してそんな口調にしてんのかなあと思って……」

 

 

「無理してないし! これが普通だし!」

 

「戻ってる戻ってる」

 

「は……っ!」

耶倶矢は愕然とした顔を作ったかと思うと、はあと息を吐き、小声で呟いてきた。

 

 

「……だって、あれじゃん。私、精霊だし。こう、超凄いじゃん? だったらやっぱそれなりの威厳というかさ、そういうのが必要なわけじゃん?」

 

「……そうなのかなあ」

士道は眉根を寄せてううむとうなった。今まで何人もの精霊に出会ってきたが、別にそういう少女はいなかった気がする。

 

「そりゃそうでしょ。せっかくこんな格好いい出自と、悲劇的な環境が用意されてるのよ? やっぱそれなりの人物像じゃないと」

 

「まあ……耶倶矢がいいならそれでいいけどさ。それで? 用件って何なんだよ」

 

士道が言うと、耶倶矢は「ああ」と首肯してから続けてきた。

 

「なんかめんどくさいからこのまま続けちゃうけどさ、今私と夕弦は、あんたを巡ってバトルしてるわけじゃん? それで、明日にはその決着もつく」

 

 

「ああ……そうだな。て、おまえ、まさか。さすがにそれはずるいんじゃないか?」

 

耶倶矢が自分に根回しをしにきたのかと思い、眉をひそめる。

 

──だが耶倶矢は、まったく予想外の台詞を吐いた。

 

 

「──士道。あんた明日──夕弦を選んでよ」

 

 

「……へ?」

想定していなかった言葉に、ギョッと目を見開く。

 

 

「へ、じゃなくてさ」

耶倶矢が肩をすくめながら続けてくる。

 

 

「悩むポイントなくない? だって夕弦、超可愛いじゃん。ちょっと愛想はないかもしんないけどさ、従順だし、胸大きいし、もう男の妄想が形になったような超絶萌えキャラじゃん? しかも、多分あいつ選べば、いろいろサービスしてくれんじゃないの? 選ばない手はないでしょ。だから──」

 

 

「ちょ、ちょっと待て!」

士道は混乱する頭を整理しながら、耶倶矢の言葉を制した。彼女の言っている意味がわからない。否、言葉の内容は理解できるのだ。だが、明日夕弦を選ぶということは──

 

「耶倶矢、おまえ……この勝負に勝った方が八舞の主人格になるって言ってたよな」

 

 

「うん、言ったわね」

 

 

「……負けた方は、勝った方に取り込まれて、消えてなくなっちまうって言ったよな」

 

 

「うん、そーね」

 

「だったら、なんで──」

士道がのどを絞るようにして言うと、耶倶矢は頭をかきながら困ったように笑った。

 

 

「んー……そりゃ私だって消えたかないけどさ。でも、それ以上に──私は、夕弦に生きて欲しいの。もっともっといろんなものを見て、思いっきりこの世を楽しんで欲しいの」

 

 

「……っ、おまえ」

士道が苦しげにうめくも、耶倶矢は構わずに言葉を続けた。

 

 

「っていうか、あんたさえ乱入してこなきゃあのときに全部済んでたんだからね。あそこで派手に激突して、私が『やーらーれーたー』ってダウンして終わりだったのに」

 

耶倶矢がビッ、と士道に指を突き付けながら言ってくる。

 

士道は顔を歪めた。心臓を引き絞られるような嫌な痛みが、胸元に渦巻いていく。

 

 

「じ、じゃあ、俺を先に惚れさせた方が勝ちってのは──」

 

「ああ、あれ? そりゃ、夕弦の方が可愛いからに決まってるじゃない。この勝負なら、まず間違いなく夕弦が勝てるでしょ?」

 

 

「でも、それじゃ……」

士道が言葉を継ごうとすると、耶倶矢が一瞬のうちに士道の目の前まで移動し、士道の唇を塞ぐように人差し指を突き立ててきた。

 

 

「別に士道の意見は求めてないし。あんたはただ明日、夕弦の方が可愛いですちゅっちゅっ、ラブリーラブリー夕弦たんハァハァって言えばいいのよ。……でないと、この島ごとあんたの友達全員吹き飛ばしてやるんだから」

 

言葉の途中で耶倶矢が目を細くし、声を低くしてのどを鳴らしてくる。

 

士道はごくりと息を飲んだ。今の今まで忘れかけていた精霊の脅威が、その言葉と視線のみで、一気に蘇えってくる。

 

士道が緊張でその場から動けずにいると、耶倶矢がふっと表情を緩めて足を引いた。

 

 

そしてくるりと身体の向きを変え、やたら格好良いポーズを取る。

 

「くく……ではさらばだ人間よ。此度交わせしは血の盟約ぞ。違えれば其の身の髄まで煉獄の焔(フェーゲフォイア・フランメ)に灼かれると知れ!」

 

 

言って、耶倶矢が去っていく。

 

 

士道は、その場に立ち尽つくすことしかできなかった。

 

 

『……シン』

しばしのあと。右耳に響いてきた令音の声でハッと肩を揺らす。

 

 

「令音さん、今の──」

 

 

『……ああ、聞いていた。これは……なかなか難しいことになってきたな。もし今のが駆け引きでも何でもない耶倶矢の本心なのだとしたら……明日、こちらが煽っても耶倶矢がキスに応じてくれない可能性がある。──夕弦を勝たせるために』

 

 

「……ぐ……」

士道は拳を握りしめた。

 

確かにそれもある。非常に由々しき事態だ。

 

 

だが、今はそれよりも。 夕弦を生かすために己を殺す耶倶矢の決意が──重く、士道の心にのし掛かかっていた。

 

 

しかし、いつまでもここで呆然としているわけにもいかない。

 

 

士道は重い足を引きずるようにして歩き始めた。

 

 

あまり長く姿を消していては十香や折紙、そして何より夕弦に不審がられ──

 

 

「制止。士道、止まってください」

 

 

「……っ!?」

急に背後から声をかけられ、士道はビクッと肩を揺らした。

 

 

それは間違いなく夕弦の声だった。一瞬、幻聴でも聞いたのかと思ったが……違う。いつの間にそこにいたのだろうか、すぐ後方に夕弦が立っていた。

 

 

「ゆ、夕弦……?」

 

「応答。はい、と答えます」

抑揚のない声。落ち着いた所作。至極冷静な調子で、夕弦がうなずいてくる。

 

 

「ど、どうかしたのか?」

額に汗を浮かべながら士道が問うと、夕弦はふっと耶倶矢の消えていった方向に顔を向け、静かに口を開いた。

 

 

「質問。──耶倶矢と、何を話していたのですか?」

 

「……ッ!」

士道は息を詰まらせた。収まりかけていた動悸が、再び激しくなる。

 

 

「何、をって……その」

と、士道が考えを巡らせていると、夕弦が小さく肩をすくめながら息を吐いてきた。

 

 

「撤回。いえ、やはりいいです。大体の予想はついています」

 

 

「っ、そ、そう……なのか?」

 

 

「肯定。大方──明日の選定の際、自分を選ぶよう言ってきたのでしょう?」

 

「や……それは」

士道が言葉を発そうとすると、夕弦が手を広げて制止してきた。

 

 

「質問。それは構わないのですが、その際耶倶矢は何かしましたか?」

 

 

「何か……っていうと」

 

 

「例題。たとえば士道に抱きつき首筋に舌を這わせたり、胸に士道の顔を挟んだり、士道の水着に手を突っ込んで股間をまさぐったりしましたか、と訊きます」

 

 

「し、してねえよそんなこと!」

予想外の言葉に、士道は思わず叫んでしまった。

 

 

夕弦が、やれやれと首を振る。

 

「落胆。耶倶矢はそこが駄目です。詰めが甘いです。耶倶矢がきちんと誘惑すれば、士道なんて発情期の猿くらい簡単に落とせるというのに」

 

 

「…………」

なんだか酷い言われようだったが、それよりも士道は夕弦の口振りに違和感を覚えた。

 

 

 

だって、夕弦の言葉はまるで──

 

「請願。夕弦は士道にお願いがあります」

 

 

と、士道の思考を遮るように、夕弦が声を発してくる。

 

「お願い……?」

その文言を聞いて、士道の背筋にぞくりとしたものが走った。

 

 

思わず唾液を飲み下す。

 

 

のどがジンと痛み、心臓の鼓動が早くなっていく。どく、どく。急に血管が拡張し、全身に勢い良く血液が送り込まれるかのような感覚。

 

だけれど士道の頭は対照的に、まるで酩酊するかのように霞がかかっていった。しかしその中でただ一つだけ──つい数分前に聞いた言葉が、脳裏に鮮明に思い起こされる。

 

 

「肯定。その通りです」

夕弦は深く首肯すると、何ら気負うこともなく言葉を続けてきた。

 

 

「請願。士道、この勝負、是非耶倶矢を選んでください」

 

「────」

声は、出なかった。

 

もしかしたら夕弦が現れた時点で、何となく予想できていたのかもしれない。

 

そんな士道の反応を見てか、夕弦が怪訝そうに首を傾かしげる。

 

 

「質問。士道の反応に違和感を覚えます」

 

 

「っ、や、なんでもない……」

 

「要求。それよりも、お願いします。明日、絶対に耶倶矢を選んでください。約束です」

 

「ななんで……そんなこと」

 

「説明。耶倶矢の方が、夕弦よりも遥かに優れているからです。悩む余地はありません。士道も、耶倶矢の可愛らしさはよく知っているはずです。多少強がりなところはありますが、一途ですし、面倒見はいいですし、触れれば折れそうな華奢な肢体をぎゅっと抱きしめたときの快感はもう天国としか形容できません。きっと耶倶矢を選べば、いろいろやらせてくれるはずです。是非、耶倶矢を」

 

 

「だって、耶倶矢が勝ったら、夕弦は──」

 

士道が言うと、夕弦は目を伏せてうなずいた。士道が考えている程度のことは、もう幾度も熟考したと言わんばかりに。

 

 

「耶倶矢こそ、真の八舞に相応しい精霊です。士道だってこの一日でよくわかったでしょう? 耶倶矢はとても魅力的です。選ばない道理はないはずです」

 

「だ、だって、二人は、あんなに競って……」

 

「解説。耶倶矢はああ見えて恥ずかしがり屋です。焚き付けてあげないと、自分からああいったアピールはできません」

 

「…………」

士道が無言になると、夕弦は士道に歩みを寄せ、耳元に囁くようにして言ってきた。

 

「念押。明日、耶倶矢を選ぶと言ってください。さもなくば、士道の友人たちに不幸が訪れることになります」

 

脅し文句まで耶倶矢とそっくりなものを残して、夕弦は去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜◆〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

集合時間になってようやく砂の中から掘り出してもらえたエレンは、砂まみれのまま、海岸沿いで体育座りをしながら海を眺めていた。

 

 

もう既にターゲットもこちらの海岸に戻ってきてしまい、着替えのため更衣室に向かっていた。先ほど砂に埋められたエレン(砂でできた身体部分はボディビルダー風に改良を加えられていた)の前を通りかかり、腹を抱えて笑っていたので間違いない。

 

 

 

ちなみに一足先に掘り出された殿町少年が恭しく手を差し伸べてきたのがなんだか癪に障ったので、エレンの埋められていた穴に放り込み、再度砂をかけておいた。

 

 

 

『……執行部長殿、その』

インカムに、気まずげなオペレーターの声が響いてくる。

 

 

「……大丈夫です。気にしていません。別にあれです。本命は夜でしたし。何も問題ないですし。ちゃんと旅行中に捕まえますし」

 

 

『そ、そうですね……』

優しいオペレーターの声が、なんだか逆に辛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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────その後、遊びに行くとはいった四糸乃と響だが、何をして良いか分からず、取り敢えずゲームセンターに行ったりした。

 

 

 

 

 

平日だからか、人は少なかったお陰で場に飲まれることも無く、打ち解け合う事が出来たような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────そして、熱中してから時は過ぎ去り…午後四時。

 

 

 

 

 

 

今は再び公園に帰ってきて、二人ともベンチに座っていた。

 

 

 

 

「あ、あの…。今日は…ありがとう、ごさいまし…た…」

 

 

 

『いやー!たーのしかったよぉ。遊んでくれてありがとねー響ちゃん』

 

 

 

 

「全然大丈夫ですよ、私も気分転換ができましたから。逆に感謝したいぐらいです。」

 

 

 

 

 

「で、…でも…。…そ…の…。響さん…が、お金を払って…くれていましたし…」

 

 

 

「……あの時も言ったじゃないですか。──私も使い時が無くて困ってたぐらいなんです。逆に〝友達のため〟に使えて良かったです」

 

 

 

 

そう言うと、四糸乃は少し驚いたがどこか照れくさそうに頬を赤くした。

 

 

 

 

『ほほー!やるねぇ、響ちゃん。意外とプレイガールかなー?……ハッ!まさか、狙いは四糸乃?!』

 

 

 

「ちょ、ちょっと…よしのん…っ!」

 

 

 

そして、『よしのん』の演技めいた軽口に顔を真っ赤にする四糸乃。───…なぜだろうか、今日一日思ったが…【ホストに貢ぐ女の人の気持ち】が少しだけ理解できたような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……狙い…って。これでも私には好きな人はもう居るんですよ?」

 

響は思わず苦笑いを浮かべながら口を開く。

 

 

 

『およよ、少し残念。──でも、響ちゃんみたいなコも好きな人とかいるんだねぇ…。』

 

 

 

「少し…意外、です。」

 

 

 

「そうですか?……私だって、それぐらいは居ますよ」

 

 

 

自覚はないのだが、自分は意中の相手が居ないように見えるのだろうか?よく分からないが。

 

 

 

 

突然。ずいっと『よしのん』が距離を詰めて来て、四糸乃も目をキラキラとさせながら口を開いてくる。

 

 

 

『…ねぇねぇ、響ちゃん。その好きな人ってどんな人なの?どんな人なの?教えてよー』

 

 

 

「わ、私も…気になり…ますっ…」

 

 

 

 

 

 

一瞬目を丸くしたが、それを聞かれると、響はふふんと鼻を鳴らした。

 

 

 

「自分で言うのもなんですが、すっごく格好良い人ですよ!───年上で、頼りがいがあって、…いつもは素直じゃないのにちゃんと私のことも考えてくれていることとか───」

 

 

 

 

 

『響ちゃん。頬が緩みきってるね』

 

 

「……う、うん…。」

 

 

 

 

 

「─いや〜…もうっ、考えるだけでニヤニヤしちゃいますよー!」

 

 

響がグヘヘヘ…と、両頬を抑えながら言うと、『よしのん』はカラカラと笑った。

 

 

 

『響ちゃんはすごいね~。そんなに自分の思いに正直になれるなんてさ。───全く、うちの四糸乃も見習ってほしいよー』

 

 

 

「〜〜〜〜ッッッ!……よ、よしのん…っ!」

 

 

四糸乃は今までの比にならないほど顔を真っ赤に染めると、『よしのん』の口を右手で塞いだ。

 

 

 

 

 

 

 

……その姿があまりにも可愛くて少しだけクスッと笑ってしまった。

 

 

 

「……ひ、響さんまで…」

 

 

 

「いやあ、四糸乃さんがあまりに可愛すぎて。──て、それはいつも通りなので良いんですけど。………四糸乃さんの好きな人はどんな方なんですか?」

 

 

 

 

 

そこで、やっと解放されたよしのんが口を開いてくる。

 

 

 

 

『ほらほら、四糸乃。言っちゃいなよー。好きなんでしょ?─…、…くんのこと。』

 

 

『よしのん』がボソボソと囁くと、四糸乃はボンッと、爆発したかのように顔を赤くさせながら口籠る。

 

 

 

「……──わ、私は…その…。…好きというか…、ただ憧れなだけで…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「────うわあ。純真。」

小さな声のため聞こえてないとは思うが、思わず口に出た。

 

 

 

 

 

しかし、好奇心が煽られ続けて響は口を開いてしまっていた。

 

 

 

 

「じ、じゃあ…。───四糸乃さんってその人とはどんなふうに出会ったんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

「……え、ええっと…。初めて会ったときは───」

 

 

 

 

 

と、そこから四糸乃の(恐らく)意中の人である人との話を聞くことができた。

 

 

 

 

 

 

 

何故か時々、ぼやかされることもあったが…それは仕方ないと諦めた。プライベートだし。

 

 

 

 

 

 

 

まあ、──『よしのん』を無くして困っていたときに…。四糸乃の警戒心を解くためとはいえ雨が降っていて地面も濡れているのに腹を上に向ける…所謂【ヘソ天】をやってきたという事には流石に苦笑いしか出てこなかった。

 

 

 

 

しかし、四糸乃が……痛くて怖くて泣いている時に駆けつけてくれた際の話は……私も少し羨ましいと思うぐらいには良いお話だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、そんな恋バナ(?)をしていたら既に時刻は六時を回ってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「げっ…。────四糸乃さん。もう時間も遅いですし、帰りませんか?」

 

 

 

 

『わお!もう、そんな時間ー?…もう少し響ちゃんと話していたかったけど。…むう、仕方ないなー…帰ろっか、四糸乃』

 

 

 

 

「うん…。そう、だね…。────あの、響さん。今日は…凄く…楽しかった、です…。」

 

 

 

「いやあ、それはこっちの台詞ですよ!私もめっちゃ楽しかったですし!───て、あっそうだ。」

 

 

 

「……?」

 

 

 

「いや、最後に聞きたいことがあって。」

 

 

 

「なん、ですか…?」

 

 

『なになにー?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「四糸乃さんの事……〝四糸乃〟って…呼んでも良いですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っ!──はいっ!…もちろん、大丈夫…です…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──その日、響は隣界を抜きにして初めて友達を作った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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四糸乃もとい、天使から離れ離れになった後、響は第十領域にやってきていた。

 

 

 

 

「うへぇ……。つっかれたー……」

 

 

 

外聞も知らず、ソファに座り込む。

 

 

あんなにもテンションを上げたのは久しぶりのため、かなり疲労困憊だった。

 

 

 

 

 

 

すると────

 

 

 

 

「そこに…居られてもじゃまなだけ。何もないなら早くかえって」

 

 

 

 

 

そんな冷たいことを言ってくるのは、この第十領域の支配者【恵琉芭カリン】だった。

 

 

 

「今は第三領域に帰れないんですよ。──しかも、八卦炉を失くしたんで帰っていいか分からないですし」

 

 

 

ため息を吐きながら言うも、カリンは辟易したような目でこちらを一瞥してきた。

 

 

 

 

 

「……失くし…たの?さとうからもらった…八卦炉…。」

 

 

 

 

「久しぶりに外に出たら、いつの間にかなくなってたんですよ。────あ、そうだ、…だったら新しい八卦炉とか貰えませんか?」

 

 

 

 

「案外…ず太い…ね。──つうしんのみの…八卦炉ならそこの物置にあまってるから…一つぐらいなら、とってもいい…よ」

 

 

 

「え、良いんですか?」

 

 

 

「佐藤が【しゅうがくりょう】とやらに、行く前に…たくさんもってきてる。──たぶん、響みたいに物の管理が出来ない女のため」

 

 

 

「……一言多いなぁ…」

響は頬を引きつらせながら、物置から八卦炉を一つ取った。

 

 

 

 

 

「それで用は終わり? だったら、早くかえって─────」

 

 

 

 

 

と、カリンが言おうとした時。

 

 

 

 

 

「…っ?」

 

 

 

 

地響きが轟き、ビリビリと部屋を揺らした。

 

 

 

 

 

 

 

「……おさま…った?」

そして、地響きが止むと、カリンは怪訝そうに口を開いた。

 

 

 

 

 

すると、一刻も経たずにカリンの手元にあった〝支配者専用の八卦炉〟が甲高い音を鳴らした。

 

 

 

 

「何があったの?」

カリンが八卦炉に向かって言葉を放つ。

 

 

 

 

【カリン様!第十領域に〝謎の光の柱〟が出現しました!今の地響きはこの柱が原因です!】

 

 

 

「───被害状況は?」

 

 

 

【地面の隆起によって軽症の怪我人はいますが、それ以外には特段被害はありません。】

 

 

 

「そう、今から私が行く。貴方たちは待機しておいて。」

 

 

 

 

カリンがそう言うと、はっ…と、小さく返事が返され通信は切れた。

 

 

 

「そういう、こと…だから。…あなたは、さっさと…帰って」

 

 

「いやいや、怪我してる人も居るなら【爻盡六王】で治しに行きますよ!」

 

 

 

「……はぁ。勝手にして…」

 

 

 

 

 

そして、二人同時に【爻盡六王】で其の場所まで飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、響とカリンはその場所に赴いた。

 

 

 

 

「なに…これ」

 

 

 

「何ですか…このでっかいの…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人が揃って言葉をぼやく…。しかし、それも仕方ない。

 

 

 

数年間…隣界を生きてきたが、こんな現象は初めて見たからだ。

 

 

 

 

 

──その光は地面から溢れるように柱の形で隆起していた。

 

 

 

 

「……これ、結構マズイですよね…。なんか、危ない雰囲気するんですけど…」

 

 

 

「さとうなら…知ってるかもしれない…けど。──今は…しゅういの侵入を禁止するぐらいしかない…か…。」

 

 

 

 

「ですよね…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

響は…その光に触れてみたいという好奇心を必死に抑えながらごくりと…喉を鳴らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして、謎の光の柱に近づけないように。周囲に【爻盡六王】で結界を張り。

 

 

カリンの状態の確認もでき、怪我人の治療も終わったので、響もそろそろ第三領域に帰ってみようと思っていた時────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひっびきーっ!!!」

 

 

 

 

 

 

「おごふ…っ───!」

 

 

 

 

 

 

 

後方からそんな爆音の声と共に凄まじい体当たりをかまされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「響久しぶりー!」

響の背骨に強烈なタックルをした少女、陽柳夕映は悪びれることもなくそう言ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

「……、……はぁ…。…全くもう…」

何か言うと思ったのに、こんな取り繕ったかのような眩しい笑顔で言われたもんだから、叱る気も失せるというものである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで…、何か話でもあるんですか?」

 

 

 

 

 

 

「ううん?別にー?ただ久しぶりに響と歩きたかっただけ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、何故か第三領域に夕映が付いてくると言ってきたので【爻盡六王】で飛ぼうとしたのだが、──歩きながら話したい。と、言われ……現在に至る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「佐藤さんはもう大丈夫なの?」

 

 

 

 

 

「大丈夫ですよ、…佐藤さんは分かってくれましたから。」

 

 

 

 

「そ…っか。」

 

 

 

 

 

 

響がちらりと夕映を一瞥しながら言うと、夕映は悲しそうな顔を作っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──それで、そっちは大丈夫だったんですか?」

 

 

 

 

 

 

「うん、私たちは無事。領域にも誰も来なかったよ」

 

 

 

 

 

 

 

響の質問に、又も少しだけ寂しそうな顔で夕映は言ってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

響もその表情の意味が分かり、困ったように笑ってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………"ごめん"──響」

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、どれぐらい歩いた頃だろうか。沈黙を断ち切るように夕映が立ち止まり、ポツリと呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

「謝ることじゃないですよ──」

 

 

 

 

 

 

 

響は微笑みながら振り返り、夕映の顔を見つめる。

 

 

 

 

 

夕映は、いつもとはかけ離れた弱々しい態度で俯き、響の視点だと口元しか見えていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でも…、でも……。私……響たちが苦しんでいる間も…何も出来てなくて…そんなこと…知らなくて……───狂三さんも…亡くなっちゃって…皆…狂三さんを、忘れ、ちゃって…」

 

 

 

 

 

必死に喉奥から絞られた声が辺りに響く。

 

 

 

 

 

そして、夕映の服裾を摘む手に込められる力は段々と強くなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

「私…今度は…、響を守れるように、佐藤さんに…恩返し、できるように…。強くなってた、のに…。──馬鹿みたい、だよね…。結局…また、私は…誰も───」

 

 

 

 

 

その言葉を言い終える前に、響は一歩踏み出して、夕映を抱きしめた。

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫だよ…───〝アレ〟は誰も悪くなんてない。──それこそ、夕映が気負う必要なんて…ないんだから」

 

 

 

 

 

 

「……──、う、…ぅぅぅ、……ひ…っぐ……─……」

 

 

響が優しい口調で言うと、夕映は響に抱き返しながら、…遂には堪えきれなくなったのか…口をくしゃりと歪め、嗚咽を漏らしながら肩を震わせ、涙を流し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、幾何の時が流れた後。───感情が安定したのか、夕映は泣き止んでいた。

 

 

 

 

 

「…ありがと…、響」

 

夕映はゆっくりと、響への抱擁を辞めると、目を合わせながら笑った。

 

 

 

 

 

 

「いえいえ、私の胸を貸す程度ならいつだって貸しますよ」

 

 

響も胸を叩いて、自信ありげに言いながら微笑む。

 

 

 

そして、ふと思い出したかのように響が口を開く。

 

 

 

「……でも、夕映は覚えてたんですね。狂三さんの事」

 

 

 

それを言われると、夕映は気まずそうに視線をそらしたが…やがて話し始める。

 

 

 

 

「──あー…うん…。一応ね?」

 

 

 

 

 

と、「ていうかさ…、気になったことがあったんだけど──」

 

 

夕映は話題を変えるように口を開くと、そのまま響の耳元にまで口を近づけてくる。

 

 

 

 

 

「響の、〝偶に昔みたいにタメ口になる癖〟。──まだ、治ってないんだね」

 

 

 

そんな事を囁いてきた。

 

 

 

 

 

「……え、私…敬語じゃなくなってました…?」

 

 

 

響の問いかけに、それはもう…と、首肯で返す夕映。

 

 

 

 

そして、話のすり替えに成功したからか、──距離を取ると大きな声で叫んだ。

 

 

 

「その響のギャップでも使ったら佐藤さんも落とせるんじゃないかなー!」

 

 

 

 

 

「な…っ…!……ちょ、夕映?!」

 

 

 

 

響が顔を真っ赤するも、夕映はニヒヒとイタズラっぽく笑ってから走って去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──ああ、もう…。そんな簡単なわけないじゃん…」

 

 

響は熱を持った頭を冷ますために徒歩で帰ることになる響であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「っはぁ…。──もっと疲れたー…」

 

 

 

そんな出来事も終わり、試しに第三領域に帰ってくると、話も終わっていたため、先ほどと同じように響はソファに座っていた。

 

 

 

 

 

「全く、何して来たんですか。──何回も響さんの八卦炉に通信は送ってたんですよ?」

 

 

 

 

 

 

「そ、そうなんですか?──いやあ、すみません…。ちゃんと確認してませんでした」

 

 

 

 

 

 

紗和の呆れた言葉に白々しく答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんせ、──

 

 

 

 

 

「──何か良いことでもあったんですか?」

 

 

 

「……えっ…。顔に出てました?」

 

 

 

「はい。それはもう、気持ち悪いぐらいニヤニヤしてましたよ」

 

 

 

「普通に酷くないですかッ!?」

 

 

 

思わず叫ぶが、華麗にスルーされた。

 

 

 

 

「あれ、ていうかシスタスさん見当たりませんけど。…どこに行ったんですか?」

 

 

 

 

「分かりやすく話変えますね? シスタスさんなら、第五領域に行きましたよ」

 

 

 

「…へ、へぇ〜……そうですか…。」

 

 

当たり前のように言ってくる感の鋭い紗和に、嫌な汗を垂らす。

 

 

 

 

「べ、別に何もありませんからっ!」

 

 

 

響が顔を赤くしながら叫ぶと、

 

 

 

「ま、そういうことにしておきますよ」

 

 

端的にそう返された。

 

 

 

 

 

 

 

 

───ま、まあ。結果的に探りを無くせたのなら結果オーライ…だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

響は…もう一度八卦炉を見て……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何、ですか…?これ」

 

 

 

「【八卦炉】って言うんですけど。離れていても音声でなら会話したりメッセージを送れたりするんです。──もし、私に用があるならいつでも掛けてきていいですから。貰ってくれませんか?」

 

 

 

『ほへぇ〜。響ちゃんって凄いの持ってるんだねぇ、……ねっ四糸乃。ここは貰っておこうよー。せっかく知り合えたんだからさっ』

 

 

 

「そ、それ…なら…。響さんも…私に…用があるときは…連絡くれま…すか?」

 

 

 

「良いん…ですか?」

 

 

 

「もちろん…ですっ…〝友達〟…ですから」

 

 

『もっちろん、四糸乃も、よしのんも大歓迎よん』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな事を思い出し微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

























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