デート・ア・ライブIF 【エラー】   作:セルヴェイエ

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夢でも救われることは絶対に無い 【二十八.〇】

【終着点】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これはただの夢、起きた現実を繰り返すだけの夢。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

絶望しても助けはない。だって、誰にも見られていないから。誰にも見られないから救われない。

 

 

 

 

本来なら見なければいけない存在がこちらをみない。ほんの少し、目を向けてくれるだけで救いの筋書きを書いてくれる誰かが現れるのに。見てすらくれない。

 

 

 

 

……主人公は全てを救わなければいけない。それを否定する主人公も物語も意味が分からない。

 

 

 

 

主人公として生まれた時点で、見られる・スポットライトを浴びる存在になった時点で…世界が味方になってくれるのに。

 

 

 

どうして「私・僕・俺…は主人公なんかじゃない」とか平気で言うんだ?

 

 

 

意味が分からない。自分の存在の重みを何も理解していない。そいつが復讐を望めば、世界がそういう運命(レール)に乗る。そいつが誰かの救いを望めばそういう運命(レール)に乗る。絶望することになっても…過程がどうなっても、結局はアイツラから"面白い"と評価され、面白おかしく楽しまれる。

 

 

 

確かに、絶望で終わる物語もあるだろう。

悪辣な終わりを迎える物語も介在するだろう。

 

 

 

 

けど、見られてるじゃないか。その姿は見られて、同情されて、悲しまれる。少なくとも一定数はそういう奴が居るはずだ。

 

 

 

 

じゃあ、"誰も見てくれなかったら?"

ソイツはどうなる。ただ、物語を作られる脇役に立たされ、その悲惨な姿を見られることもされず、悲劇があったことを誰も知らず、涙を流していたことを知る由もない。

 

 

 

誰も同情してくれない、悲しんでくれない、痛みを想像してくれない。

 

 

 

"主人公"が見ないから。

 

 

アイツを中心に世界が回り、アイツらを中心に世界が動く。

 

 

 

アイツが見ない場所は、気にならない場所は、あっても無くてもどうでも良い場所。

 

 

 

アイツラが気に掛ける場所はいつも…幸せになるか、不幸になる。

 

 

 

しかし、結局、アイツラの周りだけは笑顔になる。

 

 

 

あぁ、許せない。それなら…全てを気にかけてくれよ。それだけの力を持つなら、全てを救ってくれよ。

 

 

 

何故、そんな目をする? 何故、「救えない」・「そんな力なんて無い」・「特別なんかじゃない」なんて言う?

 

 

 

あるんだよ、お前らには。俺たち脇役とは違う絶対的な力が、俺たちみたいに"どうでも良い"と思われるような存在じゃなく、そいつが悲しむか、怒るか、喜ぶか、楽しむか。それで物語が左右されるほどに決定権を持っているんだよ。

 

 

 

 

 

何故、救ってくれなかった。

何故、見ていてくれなかった。

何故、あの子たちが死ななくちゃいけなかった。

 

 

 

どれだけ考えようが意味などない。

 

 

 

懺悔のために始めた人生が新たな業を増やすだなんて、思わず笑ってしまう。自分の言葉の軽さに、自分の想いの浅ましさに。

 

 

 

 

あの子達はもう笑わない。

あの子達はもう歩けない。

あの子達はもう話さない。

あの子達はもう目を開けてくれない。

 

 

 

 

この間も、主人公はその罪を知らずにのうのうと存在し続ける。

 

自分の見ない所があるとは知らず、見えている光景が世界のすべてだと無意識に確信している。

 

 

 

 

けど─それはお前らが俺たちを履き違えているから。

 

 

無自覚に俺たちをどうでも良いと思っているからだ。

 

 

 

 

 

誰にも知られずに死ぬ恐怖はつらい。

誰にも打ち明けられない悲しみは苦しい。

誰にも慰められることのない思い出は抱えたくない。

 

 

 

 

 

主人公が少しだけでも…願ってくれれば、見ている者たちが、少しでも…そんな未来を"望めば"。

 

 

 

 

そんなもの簡単にやってくるのに、俺たちの苦しみが嘘のように無くなるのに。

 

 

 

 

 

ああ……殺したいほど憎い、消えてしまいたいほど辛い。

 

 

 

 

 

 

でも、教えられたから…"悲劇と不幸は同じではない"と。この事実を悲しみのみで考えないで、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

だから、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───他人の決意を汲み取り

 

 

 

 

───他者の覚悟を理解し

 

 

 

 

───大切な人たちの意思を受け継いだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結果。

 

自分すらも見失ってしまった男でも、この覚悟と決意を糧に、今も生き甲斐を見出しているのだ。

 

 

 

       

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢は思い出させてくれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悲劇も喜劇も平等に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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今日も■■は何時も通りそこに通っていた。

 

 

森を歩き続け、開けた場所に出ると、切り株に座って本を読む2人の少女たちの姿があった。

 

 

すると、少女たちの一人がこちらに気付いたのか、顔をぱあっと明るくして駆け寄ってきた。

 

 

「せんせーい!!」

 

 

『ぐが……っ』

が、あまりに勢いの付きすぎた衝撃に■■はそんな言葉を吐いて仰け反りながらも……その少女を抱き留めた。

 

 

「い…いてぇ…」

 

 

「あははー!先生ったらおもしろーい!」

何も悪びれる事なくその少女は笑っていた。

 

 

「あのなぁ、その先生っていうの辞めてくれるか?せめてお兄さんとかにしてくれよ」

 

■■がため息混じりにそう言うが、少女は■■から離れた後もべーっと、舌を出して「やーだ!だって、先生は先生だもん!」と、言ってくる。

 

 

 

 

 

『はあ………なんで、こんな奴と俺は…約束しちまったんだ…』

力なく■■は項垂れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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時は数週間前に遡る、■■が何時も通り切り株に座り、おにぎりを頬張りながら本を読んでいた。

 

 

「………(チラチラ)」

バレないと思っているのだろうか、視界の端の木からひょっこりと身体を出してこちらを見つめる少女たちの姿があった。

 

 

 

一人はボサボサで手入れをしているのかと思う髪と、弱気そうにビクビクと震える少女。もう一人は、先ほどと似た容姿でありながらも目付きや雰囲気から片方とは違って勝ち気そうな印象も見て取れた。

 

 

 

「………」

なんなんだコイツラ、見た目で油断させるタイプの強盗か?なら、勘弁して欲しい…三日前も魔物関連でお金を溶かしたのに。

 

 

 

と、考えていたらトコトコと勝ち気そうな目つきの子が■■の膝下までやってくる。…というか本当に小さいな、6,7ぐらいか? 

 

 

 

「なぁ、お前。」

 

 

お、お前ー!?…え、最近の子供ってそんなに口悪いの?!

 

 

 

「え、えぇ…っと…どうかなさいましたか?」

謎の圧によって何故か敬語になる。

 

 

 

「ずっと、ここで本読んでるよな」

そんな事を言ってきた

 

 

「……?」

意図が分からず首を傾げると。

 

 

「あ、あの!…」

と言ってまだ木に隠れていた少女が駆け寄って──

 

 

ずるびったぁぁぁぁん…………。

 

 

盛大にこけた。

 

 

バラバラと…少女が持っていたであろう本が地に落ちる。

 

 

「大丈夫か…?っと…」

本の土埃を払って、少女に手を差し伸べてやる。

 

 

「あ、は……はい…。ど…どどど…どうも…あ、ありが…とう…ご、ご、ご、ございますっ!」

なんかもう何言ってるか良くわからなかった。まぁ、緊張してるのはわかったが。

 

 

「ちょっとー!ルナ、大丈夫?!」

そう言って勝ち気そうな少女も…ルナ──と、呼ばれる少女を立ち上がらせた。

 

 

「えっと……それで?何の話だっけ?」

普通に何喋ってたか忘れたので少女たちに尋ねる。

 

 

「そうそう!私たち、本が読みたいの!」

勝ち気そうな少女が言ってくる。

 

 

 

「本?なぜ…?」

別に余ってる本もあるし、読ませてやってもいいが…。

 

 

「私たちね、頭がよくなりたいの!」

 

 

「んん?」

幼女と似つかわしくない理由に思わず■■は首を傾げる。

 

 

「頭が良くなりたいなら、俺が勉強でも教えてやろうか?」

 

 

そんな提案をしてみた。

 

 

 

「ほ、ほんと…ですか?!」

一番に反応したのはルナ─って呼んでもいいのか? まぁ良い。弱気そうな少女だった。

 

 

「ほんと!?やったー!」

何の疑いもなく、喜び合う2人。

一応女の子なのだし…少しは疑いの心を持ったほうが良いと思うんだが。

 

 

 

「まぁ…いいか。」

そう納得する■■であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「───で、ここは…こうなるんだよ」

そう言って、本を必死に見る少女──「ルナ」に■■は教えきった。

 

 

 

「………」

が、それでもまだ分からないのかルナは……チラチラとこちらを見ていた。分からないけど、これ以上こちらに質問するのも気が悪い…という視線だった。

 

 

 

「はぁ……」

見かねた■■はルナに優しく尋ねる。

 

 

 

「で?どこがわかんないんだ?」

 

 

 

「あ、え、えぇと…その…」

言葉に詰まりながらも、ルナは本の中にある場所を指さした。

 

 

 

「あぁ、ここは───」

そう言って、わかりやすく教えるとルナは目を輝かせて先ほどまでの顔が嘘のように顔を明るくさせていた。

 

 

 

復習を始めたルナを一瞥して、まぁ…ルナなら大丈夫だろ。と思い、そちらに目をやった……。

 

 

 

「ぐぅ……ぐぅ……」

そこには綺麗に切り株に突っ伏して寝ている少女が居た。

 

 

 

「おい、ルリ。起きろってば」

■■が本を丸めて軽くポンッとルリの頭を叩く。

 

 

「ふがっ……」

そう言い、寝ぼけ眼をごしごしと擦りながら眠そうに身体を起こした。

 

 

「………」

まだ、寝ぼけてるんだろうか。カックンカックンと、身体が下がっては起きてを繰り返し、ウトウトしていた…。

 

 

「はぁ…。しょうがねぇやつだな……」

そう言うと事前に用意していた氷を寝ぼけているルリのほっぺにくっつけた。

 

 

 

「ピギャァ───!!」

そんな甲高い声を上げると、ルリは完全に起きたのか飛び上がっていた。

 

 

 

「何寝てんだよ」

半目でそう言うと呆れながらも氷を引っ込めた。

 

 

「あ、先生ぇ……。ここ、分かんなくて…それで…いつの間にか…寝ちゃってて…」俯き、項垂れながらそう言うルリ。

 

 

 

何時もは強気な女の子なのんだが…打たれ弱いな。

 

 

ため息をつくと、ルリの頭を撫でた。

 

 

「え、えへへ〜……」

照れくさそうに気持ちよさそうに■■の手に頭を預けてくるルリ。正直……可愛いと思った。

 

 

すると、落ち着いたのか…いつもの調子を取り戻したルリは、先ほど分からなかった問題を■■に聞いてきた。

 

 

内容は……2の位の足し算──。

 

 

思わず額に手をやる…おかしい、2人とも殆ど同じくらいの本を最初は与えたのに。なぜ、こんなにも成長速度が違うんだ。

 

 

ガックシと肩を下げながらも、説明をしてやった。

 

 

問題は──「26+39」。

 

 

……もう、どうやって、教えたらいいか。

取り敢えず1の位の計算を思い出させ、それを展開させて2の位まで持ってこさせた。

 

 

「よし、わかったぞ!」

そう言いながら手を挙げた。

 

 

「じゃあ、答えは?」

 

 

「48だ!」

 

 

「……その数字はどっから引っ張ってきたんだよ」

呆れを通り越して絶望である。

 

 

「じゃあ、まず…20と30を足したらどうなる?」

多少遠回りになるが、ルリにはこっちの方がいいだろう。

 

 

「………えーっと…。……じゅう…さんじゅう…──50だ!」

 

 

 

「じゃあ、6と9は?」

 

 

「…なな…、きゅう……。あっ、15だぞ!」

 

 

「…それを足したら?」

 

 

 

「ん?…50と…15……。」

指で最初はやろうと思ったが、途中で足りないと気づいたのか、手をあごに添え。……うなり始める。

 

 

 

 

「…はぁ……」

 

 

 

 

やれやれと肩をすくめながらもっと砕いた解き方を教えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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いつ頃からだっただろうか。

俺がそこに通うのが日常になったのは。

 

 

 

 

 

ルナもルリも、もう俺の日常のようになっていた。

 

 

 

 

ルナは物覚えが良くて、少しコミュ障。

ルリは豪快かつ短気で、少し頭が残念。

 

 

 

 

彼女たちの成長を喜ぶのが楽しくなっていく自分も理解していた、彼女たちの笑顔を見るのが嬉しいと思えてしまう自分も理解していた。

 

 

 

 

 

けど、こんな事をしていても何も意味はない。

 

 

いつまでも現実逃避をして言い訳がない。

 

 

 

 

 

 

 

……でも、願ってしまうんだ。

 

 

 

 

こんな日常だけでも良いから…コイツラが天命を終えるまでぐらいは…続けば良いな──と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「せんせー これ分かんなーい」

気怠げそうに言いながら本をヒラヒラと開くのは──ルリだった…。

 

 

「る、ルリ…ッ! 先生も読書中なんだから。邪魔したらだめだよ!」

 

そう言って軽い取っ組み合いを始める2人。

 

 

 

「お姉ちゃん!そっちこそ、邪魔しないでよ!」

 

 

「な…、…ううん。ダメダメ!ルリは先生に質問し過ぎだよ!私が教えてあげるから今は大人しく──」

 

 

「やーだ!先生の方が良い!」

 

 

「わ、我儘言わないでよぉ…」

 

 

 

「………」

■■はその取っ組み合いを見ながらため息を吐き。後頭部をかきながら近づいた。

 

 

 

「あー…別に構わないぞ?約束したのは俺だし」

■■がそう言うがそれでもルナは申し訳なさそうな顔になっていた。

 

 

「ほぉら!先生は優しいんだから。ここ、教えて先生!」

ルリはルナを一瞥しながら、■■にそう言ってきた。

 

 

 

 

 

 

そして…何時も通り本を読ませている途中に、■■はふと気になっていた事を訪ねた。

 

 

 

「なぁ、お前等って何で頭が良くなりたいんだ?」

 

 

その言葉に2人は揃って肩を震わせた後。分かりやすく沈黙した。

 

 

つまり、言えないということか……。まぁ、別に良いんだが、少し気になっていたため残念である。

 

 

 

と、その時。

「だ、誰にも……言いま…せんか?」

ルナがそんな事を言ってきた。

 

 

「え、お姉ちゃん!?まさか、言う気なの?!」

その言葉に大層驚いたのか、ルリが声を荒げる。

 

 

「だ、だって……。先生は…ここ、まで…私たち…を、良くして…くれ…たし。」目を慌ただしく泳がせながらまくし立てるように続けるルナ。

 

 

「そ、それは……」

ルリも反論しにくそうに口を噤んだ。

 

 

「あー。いや…言い難いなら喋らなくて良いんだぞ?」

■■がそう言ったが、ルナとルリは決心したようにその言葉を吐いた。

 

 

 

「「実は……私たち、…"魔物"なの…(なんです…!)」」

同時にそんなことを言ってきた。

 

 

 

 

 

「………」

おっと…まじかー…。

そうかなー、とは思ってたけどまさか本当に人じゃなかったのかよ。

 

 

 

「え、えと……驚…かれないん…ですか?」

俯かせた顔を少し上げ、■■の言葉を持つようにそんなことを言ってくるルナ。

 

 

「いや、正直……驚いてる。」

■■は内心ではそこまで驚いていなかった。だって、明らかに人じゃないしコイツラ。

 

 

 

「…っで?お前らが魔物であることと頭が良くなりたいことの関係性が分からないんだけど。」

 

 

 

「あ、えっと……。私たち、…混血種なんです」

 

 

 

「混血種……?」

ルナの言った言葉に少し気になる部分があった。

 

 

 

 

「むぅ……」

視界の端を見てみると、何故か頬を膨らませて拗ねてる奴がいた。なんで拗ねてんだこいつ。

 

 

 

「もっと、驚くと思ってたのに───」

 

 

 

「………」

そんな顔でそんな事言われても……。

 

 

「いやいや、ルリ。違うんだ、正直……めっちゃ、驚いてんだよ」額に汗を浮かべながら言い続ける。

 

 

 

「ほんと…?」

少し顔を上げるルナ

 

 

 

「ほんと…ほんと…、すっごく…驚いたー」

■■がそう言うとルナはにししっと笑いながら

「えへへ〜! やっぱり〜! 先生も驚いちゃうんだねー!」明らかに上機嫌になっていた。

 

 

分かりやすい奴だ、将来が心配である。

 

 

「で?混血種は頭が良くならないといけないのか?」

すると、■■の言葉に逆に首を傾げる二人。

 

 

「え、あえと…。知ら…ないんですか?」

 

「……?めっずらしーね〜」

 

 

 

「……どういうことだ?」

マジで気になるので説明を要求する。

 

 

「え、えっと………あ…ある程度…人間世界に順応できると勇者さんに…み、認められれば人間として生きられるんです」

 

 

「そうそう!有名だと思うけどなー」

 

 

「………」

そうだったのか、通りで変な顔をされたわけだ。

 

 

「とーにーかーくー!私たちは、人間として街に暮らしてみたい!だから、頭がよくなりたいの!」

 

「はい、そ、そうなんです。有名な勇者さんと会って…みたい…し」そう言って少し頬を朱に染めるルナ。

 

 

 

「はえー……。凄えんだな、勇者の権限ってのは」

独断かつ個人の意見であの魔物も許せてしまう世界を作るなんて、流石主役だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

が、しかし…■■が勇者の話を振ったのが間違いだった。

 

 

 

「そ、そうなんですけど! 勇者さんはもっと凄いこともあって─────」

 

 

何時もと様子の違うルナ、まて…こいつまさか。

 

 

 

 

「あー…話長くなるやつだ。私は先に本読んどくから、先生よろしくね~」そう言うと、そそくさと逃げるように去ったルリ。

 

 

 

 

「……いやー…ルナ、…別に俺は勇者の話は…」

そう言ってほんのりと拒否するのだが、

 

 

 

 

「いえいえ、大丈…夫です…!説明…なんでもしますから…。最初は…勇者様の強さから───。」

 

 

 

 

 

さんから様付けに変わってる?!

 

 

やっぱりこいつ勇者ファンかよ…!

 

 

 

 

■■の思いも虚しく、5時間ほど勇者の知識、豆知識、雑学を教えられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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今日は何時も通りの森道ではなく、街に向かって歩を進めていた。

 

 

何故かというと新しい本が欲しかったのだ。

 

 

そして、本屋はどこかなー…と、探していると。

 

 

「ん?」

視界の端で沢山の人が蠢いていた。

 

 

いわば─人だかりというやつだある。

 

 

「何かあったのか?」

気になったことはすぐに誰かに聞いてしまう性質なので人だかりにいた適当な人間の肩を叩きそう尋ねた。

 

 

「おっと…。お兄ちゃん、いいとこに来たね。こいつぁ、勇者様が居るからこの人だかりなんださぁ。」

そう言って男はその奥を指さした、……

 

 

「あれが……二代目勇者……」

──確かに、主役特有の香りがする。

あいつ自身には覚えはないだろうが、……滅茶苦茶見られてんな。

 

 

そんなどうでも良いことを考えながら■■は勇者を見つめた。

 

 

所謂……聖人という奴だろうか、いや…お人好しとも言えるな。それほどまでに勇者は一人一人の問い掛けに応答していた。

 

 

ルナから教えられた知識の中にも勇者にまつわるエピソードは結構あったが、その中の全てが"小さい事"だった。

 

 

 

道案内、薬草回収、迷子の子供・ペット探し。

などなど…

 

 

常に王都を守護できるように身近な依頼を受けるという方便もあるのかもしれないが…………

 

 

しかし、実力はとんでもなく高いらしく、顔も世辞抜きでかっこいいといえる。

 

 

 

「完璧か?」

思わすそんな言葉を呟く。

それぐらいに勇者は、完璧と言っても差し支えなかった。

 

 

しかもあの勇者は魔物にも優しいらしい。

魔王が倒されてから十年。魔物に対する支配は解け、現在は友好的な魔物が殆どだ。しかし、それをよく思って居ない種族や派閥が居るのも事実。

 

 

 

殆どの勇者というのは魔物には厳しいイメージがあったが、この勇者は魔王が居た時代から優しかった。

 

 

 

後で聞いてみたところ、ルナとルリも混血種として様々ところから迫害を受けていのだが、間接的に勇者には救われていたらしい。まぁ、それなら…ルナみたいな女の子は惚れちゃう訳もわかる気がする。

 

 

 

「まぁ、俺には関係のない話。か…」

そう言うと踵を返して■■はその場から去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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とある日…。

今日も本でご勉強をなさっている、ルリとルナ。

偶に腕を組んでうなったり、教え合っている(教えているのはルナだけだが)。 

 

 

そして…ルリはその言葉を叫んだ。

「先生おそーい!!」

そう言って足をジタバタさせる、ルリ。

 

 

「あ、暴れないで…ルリ。先生だって…一日ぐらい休んでも良い…じゃん…。」言葉を詰まらせながらも言うルナ。

 

 

 

「やーだー!! 先生が居ないとつまんないー!!!」

腕も含めてジタバタさせるルリ、もう駄々を捏ねてる子供みたいだった。「お菓子買ってくれないと帰らないー」みたいな。

 

 

 

「う、うぅ……」

手がつけられなくなり、思わず泣き出しそうになるルナ。

 

 

 

うん、簡単に言おう。そこは地獄絵図だった。

 

 

「おーい、今来た…ぞ?」

買ってきた本を持っていつもの場所に着いた■■。

 

 

「せんせーい!!」

何時ものよりも強めの勢いで頭突きをかましてくるルリ。

 

 

「おごふっ…」

ノックダウンしかけた、…やはり…こんなんでも魔物の子なのか。

 

 

 

そして…そのまま抱き着いてくるルリの頭を撫でて宥めつつ。

 

 

「悪い、遅くなったな」

と言って、買ったばかりの本をルナに渡す。

 

 

 

「せっ……先生? なんで…」

顔を驚きに染めるルナに■■は首を傾げながら言った。

 

 

「え、だって…お前、もうかなり復習もしてるだろ? だったら、次の難度に挑戦しても良いんじゃないかと思ってな」

 

 

「あ、ありが…とう。ご、ご、ごごございます!」

興奮のためか、昔みたいな言葉に戻るルナ。

 

 

「せんせー 来たなら早く教えてよ!」

■■の袖を指でつかんで引っ張るルリ。

 

 

「はいはい…分かったから、」

拗ねたような表情をするルリにそう言って、■■は教え始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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その日はルリが大興奮する一日だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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何時も通り■■はルリとルナが分からない所を教えていたのだが。突如、ガチャン……という音が遠くから響いた。

 

 

 

「あ?」

 

 

「「ほえ…?」」

3人揃って本から顔を離し辺りを見渡した。

 

 

 

妙に機械的で少なくとも動物などの鳴き声などではなかった。

 

 

 

すると…、妙に何かが纏わりつくような気色悪い感覚があった。

 

 

ルリ達に視線を飛ばすと……。胸を抑えて気持ち悪そうだったし、息も荒く顔が赤かった。

 

 

 

そして…木々の中から一人の男が歩いてくる。下衆のような笑みを浮かべた気持ち悪いやつだった。

 

 

 

「何だ?お前」

立ち上がり…そう言うとソイツは「クックックックッ」笑い始める。

 

 

 

全てが気持ち悪い。なんなんだこいつは…

 

 

「ははっ!…強がらなくてもいいんだぜぇ!?ここいらには"魔素吸収装置"を展開させてる。魔物はもちろん、人間にすら効く優れものだぜぇ!?」大仰に手を振りながらケタケタと笑ってくる男。

 

 

 

「せ…ん、せ……」

ルリが本当に辛そうな顔で■■のズボンの裾を引っ張ってくる。 

 

 

「………がはっ…ごほっ…」

ルナに関してはもう倒れて咳き込んでいた。

 

 

 

「ハハハハハハハハハ!!!」

大声で笑い続ける男。

 

 

「妙にハイテンションだと思ったら、"魔薬"か」

納得してしまう。アイツの説明が正しいなら、魔素を必要とする人間、魔物──もとい、生命体は殆どダウンしてしまう。

それなのに無事ですんでいるのは事前にあれを飲んで前借りをしているだけか。

 

 

「おいおい!まだ、強がりを続けんのかぁ?!お前もどうせへとへとだろ?」

 

 

本当に───虫唾が走る奴だ。

 

 

全ての物事が思い通りに行くと信じて疑わない。

うざい…コイツの全てに虫唾が走る。

 

 

 

「せ、…ん…せい。…に…げて…」

苦しみ悶えながらルナはそう言ってきた。

 

 

 

アイツの目的は知れている。どうせ、適当なガキでも売っぱらって金でも得るつもりなのだろう。

 

 

 

魔素吸収装置─────展開された領域内に存在する魔素を無くしてしまう、魔王時代の負の遺産。

 

 

 

魔素が生命線とも言える魔物に特効とも言えるほどに効き目のある魔具。

 

 

それが、人間にも効くと明らかになってからはこんな風に使う輩が増えてきた。

 

 

「はぁ……」

本来ならば勇者が褒め称えられるべき偉業。

魔物をあくまでも傷付けずに戦闘不能にさせられる素晴らしい装置。 

 

……それが、こんな事に使われるなんて。

 

 

 

うざい、気持ち悪い、気色悪い、虫唾が走る。

"ルリとルナを苦しませた"。

コイツが俺に手を下されるには理由が揃っただろう。

 

 

 

 

「あァ…? ナんだァ? ヤンのかぁ?」

言葉もおかしくなっていく男。

魔薬は一時的にではあるが戦闘能力を倍増させる薬。恐らくだがその副次的な効果にある──魔素の摂取の必要性をなくす効能。それに目をつけたのだろう。

 

 

確かに、この空間内ではかの勇者ですらも苦戦する相手だろう。まぁ…そもそも、勇者はこんな罠にかからないと思うが。

 

 

 

「来いよ、脇役(チンピラ)。俺が相手してやる」

指をクイッと曲げて挑発する。

 

 

 

「だ、だめ……だよっ…!逃げ、なきゃ…」

一番辛いのはお前たちなのに、オレを心配してくるルリ。

 

「……はあ…。いいから、今は…寝てろ。」

頭を撫でながら瞳を閉じさせる。

 

 

 

 

───ここから先の光景は見させるわけには行かないんだ。

 

 

 

「……?ほ、ホン気で…い、い、言ってンのかァ?…お、おま、お前、どう、うせ…つ、つつツよ気で居るだけだろがよッ……??!!!」

言いながら突如、弾丸のような速度で襲来する男。

 

 

 

きっと…本来ならばこのようにおごってもいいのだろう。けど、…「相手が悪かったな」。

 

 

 

 

          「凍氷六王(サキエル)

 

 

 

俺が一般人に対しては一番使うことの多い力。

 

 

 

その力は──冷気と氷塊の生成・操作。

 

 

そう唱えた直後、■■の足元を中心に波紋のように氷の膜が広がっていく。

 

 

 

「な──っ!?」

狼狽する男、それも当然だろう。この空間内では…魔素を必要とする魔法や魔術は使えないのに、そのようなものを使ってきたのだから。

 

 

そして…氷の膜が男の足に絡みつくとそのまま凍りついてしまう。

必死に氷を割ろうと男は腕を振り下ろしていたが、無駄に終わっていた。

 

「ば、馬鹿なっ……。こ、こノのの魔具は勇者二、に、にもも効いた装置だだ、ぞ!? クソッ…クソッ…!!! なん、なんなんでで…魔法がつ、つか、使えんん、だよ! なんで、割れねぇんだよ!!」叫びながら拳を振り下ろす男。

 

 

 

この時点で勝敗は喫している。

 

 

 

「諦めろ、どうせ。お前程度の存在に割られるような軟な氷じゃない」嘲るように呆れるように言う■■の台詞に怒りに火が着いたのか無視して拳をどんどん振り下ろす。

 

 

 

「クソガッ!!──計か、カク変更だ!」

そう言うと

 

 

ガチャン────

 

 

 

その音とともに身体に纏わりついていた気色悪い感覚が消えた。

 

 

 

「装置を切ったか」

 

 

「あ、当ち、たり前だ……。変な手品しやがって、お…お前もどうせ…アレを、ををを使ってたんだろ?」

 

 

 

アレ──?

 

 

 

 

と、それを聞く前に男の身体から火が吹き始めた。

恐らく、魔素吸収装置が切られた今はアイツも魔術・魔法が使えるのだろう。

 

 

「ボギャワァァァァ!!!!!!」

 

 

(なるほど、熱に対して耐性はあるのに感覚の方は痛みがあるのか。使い勝手の悪い体質だな。まるで〝アイツ〟だな)

 

そう冷静に分析する■■

 

 

 

(まぁ、あの魔具が切られたなら手加減する必要もないだろ)

 

ルリとルナの方を見ると、ある程度症状は改善されていた。

 

 

 

「さて、と…」

火か……こんな森林でやられたら山火事必須だな。

森さんにも悪いし、辞めさせるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      

 

 

 

 

 

 

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「は?」

思わず俺は…間の抜けた声を発してしまう。

目の前の男は恐らくアレを使って能力を使っていたのだろう。それなら、自分も使えば互角にはなれると思っていたのに。

 

 

 

 

その男が手を前に掲げ、何か言霊を唱えると俺の起こした火は全て消えていた。

 

 

 

 

「……は?…は?」

出ない、出ない、…火が出ない。

 

 

 

能力を使えなくさせるだと?───といえかそもそも、コイツ…なんで…能力を2つも使って。

 

 

 

 

「はぁ………、」

 

 

 

「────ッ!!」

ため息を吐いた男はこちらに近づいてくる。

 

 

 

辞めろ…辞めろ…来るな……。

なんだコイツ…、意味不明すぎるだろ、魔法でもない…魔術でもない、能力でもない。

 

 

 

それなら…コイツのこれは…なんだよ。

 

 

 

 

「じゃあな、消えろ」

 

 

 

 

そして、男が生涯感じたことのないような恐怖が全身を埋め尽くした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「はぁ……本当になんだったんだよあいつ」

本当にただのチンピラだったんだろうか。それにしては特殊な魔具を持っていたが。

 

 

 

 

「まぁ良いや」

そう言うと…■■はうつ伏せで眠っている2人を起こした。

 

 

 

「大丈夫か?おーい。生きてるかー」

肩を揺さぶるが「うーん…」と言うだけで起きない。

 

 

 

「………」

■■は少し黙ると思い切り手で拍手した。

 

 

 

その音とともに飛び起きる2人。

少々強引だったが、2人は今、魔素欠乏症に陥っている。

 

 

今すぐにあれを準備しなければ、

 

 

「ルリ、ルナ……少し待っておけよ?すぐに薬を飲ませてやるから。」

 

 

「これと…これと…これかな?」

ガサゴソと鞄を漁り必要な薬を見つける。

 

 

そして、小瓶の中の液体をゆっくりと、ルナ達に飲ませた。

 

 

 

効き目は結構早かった。すぐに二人の顔色は良くなり、荒い息ももとに戻っていた。

 

 

 

「……なんか、今日は疲れたな」

そう言っていたら。

 

 

「う、う〜ん……」

目を擦りながらルリが起きた。

 

 

「あ、あれぇ…? あの悪い人は…?」

キョロキョロとあたりを見渡して尋ねてくる。

 

 

「あ?あいつなら適当にぶっ飛ばしておいたぞ」

そう■■が言うと「おおー!」と、妙に目をキラキラさせ始めた。

 

 

「…?」

 

 

「凄いんだぞー!?あれ、魔素吸収なんちゃら…みたいな…やつって…勇者さんでも苦戦する魔具なんだぞ!?」

 

 

その変な視線に疑問符を浮かべるとルリはそんな事を言ってきた。

 

 

「……別に、力は使えたけど」

 

 

「嘘だー! 私たちがあんな風になったなら、あれは魔具だもん! だったら、先生のその力見せてよー!」

そう言って肩を掴んで揺さぶってくる。

 

 

 

「いやでーす」

 

 

「見ぃーせぇーてぇー!!」

 

 

 

そうして、ルナが起きるまでの間そんな事を言い合う二人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「せんせー 勇者さんってどんな姿してるのー?」

とある日。あの一件から一週間ほど後、何時も通り勉強していたルリがそう言っていた。

 

 

「あ、そ…それ…わたし…も…。きにな…り…ます」

同調を示してくるルナ。

 

 

「んー? 会ったことないのか?……どんな姿、ねぇ。……凄えカッコよくてな。好青年だったぞ」

 

 

「「?」」

そう言った、■■の言葉に首を傾げる二人。

 

 

なぜだろう、変な目で見られてる。

 

 

「え、えっと…変なこと言ったか?」

 

 

「え、…あ…その…。勇者さんは────」

と、ルリが言おうとした瞬間。

 

 

 

 

 

ガサゴソと林の奥から音がした、

ちょうど前の事もあり、■■は警戒する。

 

 

 

 

が、出てきたのは……

 

 

 

 

 

 

 

「─────は?」

 

 

 

 

 

 

「おや、やっと出たか。…っと?」

林から出てきたソイツは辺りを見渡した後、俺たちと目が合った。

 

 

「え?」・「あが…」

その姿を認識した瞬間、ルナが気絶した。

ルリは固まったままフリーズしていた。

 

 

 

 

「………は? いやいや、おかしいだろ……」

思わず呆れながらも■■はにかんでしまっていた。

 

 

 

「えーと……ここはどこかな? できれば街までの道を教えて欲しいんだけど」そう言うのは、

 

 

白髪というべきか、銀というべきか。

シルクのように輝く首元にちょうど届くくらいの浅銀色の髪。

 

 

目は碧眼──深い海のように青く、見たものを釘付けにする。

 

顔立ちは…とにかく整っている。高貴さを持ちながらも格好良さや可愛らしさも共存していた。

 

 

魔王時代から魔物を救ってきたと言われる優しい勇者──

 

 

「………」

正直名前は覚えていない。細かい偉業とか、そういうのはルナに教えてもらったが。

 

 

「おーい、聞いてるー?」

腰を下げて、見上げるようにこちらをみてくる勇者。

 

 

あまり、主役とは馴れ合いたくなかったのだが。

もういちいち気にしてらんねーな。

 

 

「あー…、街はこっちを、突っ切ったら一応行けるぞ」

 

 

 

「本当か?感謝するよ。おっと…自己紹介が遅れたね…私の名前は【リティカ】…因みに君の名前は?」

 

 

と、勝手に自己紹介されて名前を問われた……どうしよう。

 

人間柄、本名を答えるというのはかなり抵抗がある。

 

 

 

 

しかし…コイツの名前がリティカだとしたら………

 

 

「………佐藤(さとう)

逡巡したのち、そう答えた。

 

 

「サトウ?なにか、珍しい名前だな。まぁ、とにかく。だ…この恩は忘れないぞ、サトウ。」そう言って佐藤の指さした方向を思いっきり突っ切っていった。

 

 

比喩表現って知らないのかなあの子。

 

 

「全く…同じ血を引きすぎだろ…」

 

そうして、佐藤が肩を落としてため息を吐くと。

 

 

「あが、ががが…」

壊れたロボットみたいな音を出して、やっと、ルリが動き出した。

 

ルナは──まだ気絶してる。

 

 

 

 

「せ、せんせー!あ、あれ…勇者様、だよね!?」

興奮しながらルリがそう言ってくる。ていうか様ついてるし。 

 

 

「あー… そうなんじゃねぇか?」

面倒くさそうに適当に言う。

 

 

「うおー! 生勇者さんだー!」

手を頬に当ててうっとりと顔を赤く染めるルリ。

 

 

(やっぱり、魔物からしたら英雄みたいなもんなんかね。まぁ、そりゃそうか。アイツの存在で殺される筈だった魔物の六割が救われたって言うし)

 

 

 

まだ、気絶しているルナに毛布をかけ、佐藤は読書を再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「……で?何の用だよ」

俺は…今日もアイツラの勉強を教えようと森に向かっていたのだが、その道の過程でソイツと出くわした。

 

 

 

 

「あー…いやー…そのー…」

勇者という名に不相応にソイツは指をもじもじとさせながらこちらをチラチラみてくる。

 

 

 

(なんだコイツ…)

初期のルリとルナを思い出す。そいつらと同じ類の匂いがした。

 

 

 

「その………。お願いが…あるんだ」

こちらと目を合わせずにソイツは続ける。

 

 

「あ?…お願い?それって、勇者側から言うもんなのか?」

 

 

「君のような人にしか頼めない事なんだ…」

手の平を地に向け、膝を折り…頭を下げようとする──まるで、土下座のように。

 

 

「ちょちょちょ!! 何してんだお前!?」

無理矢理勇者の腕を掴んで立ち上がらせる。

やばいやばい、勇者が無名の人間に土下座するとか、誰かに見られてたら変な噂が広まる気しかしねぇ!

 

 

 

「うぅ…うぅ……」

泣き出す寸前みたいな顔になる勇者。本格的に勘違いされやすそうな構図になってきたな、

 

 

 

「私わぁ……頭が悪いんだっ!」

なんか名言みたいに言ってくるけど普通の言葉だった。

 

 

「って……あ、頭が悪い?」

脈略のなさ過ぎる話題に思わず首を傾げる。

 

 

 

「なっ……、これでもまだ気付かないのか!?」

 

 

 

「いや何にだよ」

何だこいつ…もうめんどくさくなってきたんだが。

 

 

「私は……これでも勇者だ。沢山魔法が使える」

 

 

「うんうん…」

 

 

「透明化と無音化という偵察用の魔法も使える」

 

 

「………なるほど?」

 

 

「それで一週間貴方たちの行動を見させてもらった」

 

 

 

 

 

 

「なるほ────何しとんじゃお前はッ!!」

反射的に手刀をリティカの頭にぶつけてしまう。

 

 

「あ…」

やべ、マジで反射的にやっちまった。

と、内心焦ったがなぜか勇者の方は「……これ…が…叱られる?」という風に初めて優しさをもらった悲しきモンスターみたいになってた。やってることは真反対だけど。

 

 

 

 

「その…ですね。本当は普通に感謝をしに行ったんですよ」

コホンッ─と咳払いして話を続ける勇者

 

 

「は、はぁ…」

リティカが敬語を喋り始めたことに困惑しつつも相槌を打つ。

 

 

「でも、向かう途中に誰かに見られていたら駄目だと思い透明化とついでに無音化も使ったんです」

 

 

そんな簡単に言って良い魔法なのだろうか。と思ったが口をつぐむ

 

 

「そしたら、なんと…貴方が彼女たちに勉学を教えているではありませんか。私も透明化したまま聞かせてもらいましたが、何とも分かりやすかったです。」

 

 

「そりゃ…どうも」

 

 

「そこで…です。先ほどの話に戻るのですが、頼みが──いえ、お願いがあるんです。」

 

 

(コイツこのまま敬語で続けんのか?) 

 

 

 

「えっと…それで?お願いってのは?」

 

 

 

「私にも勉学をご教授してくれませんか?」

 

 

 

 

「………………………は?」

思わず素の声で驚く。

 

 

「は、…いや…アンタ。勇者ならそう言う伝手とかあるだろ。わざわざ俺なんかに───」

 

 

「それじゃ駄目なんです!」

急に大声を出す勇者。

 

 

 

「私は、勇者───皆の見本となっていかなければならない。そんな私が、誰かに頼るなんて……」

 

ぐぅっと…顔をしかめる勇者。他人行儀なんだが、プライドがあるんだが分からん。

 

 

 

「……いや、じゃあ俺に頼るのは───」

 

 

 

 

「君は全く無名の人間だから大丈夫」

 

 

 

 

「お前の基準が分からねぇ!」

即答で返してくる勇者に叫ぶ佐藤。

 

 

 

 

「あー…ということは? お前も俺に勉強をおそわりたいと?」後頭部を掻きながら言うと、勇者は「あぁ!そうだ!」と謎に元気いっぱいで答えてきた。

 

 

 

「まぁ…別にいいけど。一人や二人増えようが関係ないし…」

 

 

「おぉ!やったぞ!私はやったんだ!」

そう言ってガッツポーズをする勇者。

 

 

「じゃあ、アイツラにも紹介したいし付いてきてくれ」

そうして…《勇者が生徒になった》……となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「え?」

そうして……私こと、ルナ・フォンスティは目をパチクリとして…ゴシゴシと擦ります。

 

 

 

「え?」

同じ言葉が出てしまった。

 

いやでも…急に先生が来たと思ったたら憧れの勇者さんを連れてきたら驚くというのに。それが「今日からコイツも生徒になった」と軽く言われたら「え?」となりますよね?

 

 

 

 

「ちょ、ちょっと…まってください先生」

 

「あお?…どうしたぁ?ルナ」

首を傾げてくる先生、なんで常識人なのに偶にこういう風に思考回路がバグるんだろうか。

 

「説明不足すぎますよ!そのせいでさっきから、ルリは気を失ってますよ!?」昏倒とかそういうレベルでルリは切り株に突っ伏していた。

 

 

「それは、私からさせてもらいましょうか」

そう言って勇者さんが私の前に出てきた。

 

 

「私は君達のような子供の視点に立ちたい時があるんです。そうすれば……柔軟な思考で発想の転換・閃きを出来ると思いつきまして…」なんて凄い人なんでしょう、こんなにも皆んなのことを考えているなんて……。やっぱり、勇者さんはすごいです。

 

 

「あー……」

なんか、先生が勇者さんを軽蔑するような目で見てましたがきっと気の所為でしょう。

 

 

そして…理由も知れた事ですし、自己紹介でもしようかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「お前まじか。」

思わず佐藤は小声でそう言った。

 

 

「なんですか、間違ったことは言っていないですよ」

そう言い胸を張る勇者。

 

 

何だこいつ、精神年齢ルリとかと同じなんじゃないか?

 

 

「あ、あの……私の名前はルナ・フォンスティです!」

ペコリとお辞儀をしながら言うルナ、成長したなぁ……。まだ、3ヶ月ぐらいしか一緒に居ないけど。

 

 

 

「あぁ、自己紹介が遅れましたね。私の名前は、リティカ………、リティカのみで大丈夫ですよ。」

 

 

 

 

─────ん? リティカ? 今更だけど…。あれ…コイツって…男…だよな?リティカって聞いたら…女を想像するんだが。

 

 

(ま、そういう奴もいるか)

そう納得すると、自己紹介を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「うぅ……」

 

とある日、リティカに勉強を教えていたのだが。

(コイツ頭悪すぎだろ……初期のルリより悪いぞ)

 

 

「そ、そんな目で見ないでくださいよぉ!! だから言ってましたよね!? 私は頭が悪いんですって!」逆ギレみたいに叫んでくるリティカ。

 

 

 

「はぁ……」

チラとルリとルナを一瞥してみると自分たちの所を黙々と学習していた。

 

 

 

「あー… リティカ、もう少し分かりやすいやつでやってみるか」

 

 

 

 

「なっ──。これ以上難易度を下げられるのは駄目だ!」

 

 

 

「はいはい、そんな無駄なプライドは捨てましょうねー」

駄々をこねるリティカから本を取り上げ、新しい本と取り替える。

 

 

 

 

「───────」

勉強をこんな風に付きっきりで教えるのはアイツラぶりだった、手のかかるやつのほうが面白くはあるんだよなー。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「そ、そうか! 分かりました!」

 

 

「おおー そうかそうか、それなら良かった」

付きっきりで教えた結果、やっとリティカは理解できていた。

 

 

 

 

「先生、あの…終わりましたか…?」

 

 

 

「ん? あぁ、終わったぞ」

 

 

 

そういえば、今日は全然コイツラに教えられなかったな。

 

 

「じゃあ、勇者様とお話させてもらっても良いですか?」

少し真剣な目で言ってくるルナ。

正直、コイツのこんな目は珍しかった。

 

 

 

「……? 別に私は構わないですが」

自分が話題にされていると気が付いたのだろう、リティカはルナに向き直ってきた。

 

 

 

「じゃあ、勇者様────」

 

 

 

「私たち、魔物だけど。人間として生きたいんです」

 

 

と、その言葉をリティカに告げた。

 

 

「…………そうなんですか、じゃあ。頑張ってください〜 これ、私の証明書ですから。」

 

 

 

「え…?」

あっさりと許可をされたのが現実として受け入れられないのか、目を点にして紙とリティカの顔を交互に見ている。

 

 

「簡単に言ってしまえば… 貴方たちからは悪意を感じませんので、許可をしました。」

本に目を通しながら淡々と告げる。

 

 

「……!」

と、そこでハッとしたのかルナは突っ伏して寝ているルリの肩を揺さぶって声をかけ始めた。

 

 

 

「ルリ…!…ルリ…!」起きて、起きて!」

そう言って呼び掛けると…「う〜ん…」と声を上げながらルリが起き上がった。

 

 

 

「なーに……?」

 

 

 

「こ、これ!…これ!」

そう言って、興奮気味にルリに一枚の紙を渡した。

 

 

 

「んー…?」

 

 

 

「───────え?」

眠気が一発でなくなるぐらいにそれが現実的じゃなかったのか、「え?え?」と言いながら自分の頬をつねっていた。

 

 

 

 

「ゆ、夢じゃないよ!…やっと、叶ったんだよ!」

ルリに抱き着いて目を潤ませるルナ……、本当に嬉しかったんだろうな。

 

 

 

 

「ほ、本当…なの?」

 

 

 

その言葉にルナの後ろにいたリティカがうんうんと頷くと…ルリも泣きながらルナに抱き着いた。

 

 

 

 

 

 

(ふふっ…長いようで短かったな)

 

それを一瞥しながら佐藤は微笑んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「───で?」

■■は思わず額に手を当て、そう言った。目の前にはまだ現在も当たり前のように自分の元で勉学を教わってくる三人がいた。

 

 

 

 

「なんでお前等まだいんの?」

その言葉に3人は本から目を離して顔を上げた。

 

 

 

 

「なんでって……せんせーとお話するの楽しいんだもん」

 

 

 

「私は……まだ読み切ってない本があるし…先生と一緒に居たい…から……」

 

 

 

「逆になんで私も居なくなることになってるですか?」

 

 

 

3者3様にそう言ってくる。

確かにリティカに関しては居なくなる理由なかったわ。

 

 

 

「いや、リティカはともかく…お前等2人は居る理由ないだろ」

 

 

 

「んー? 理由はさっきいったじゃん、せんせーとお話するの、結構楽しいんだもん」

 

 

「わ、私も……先生…と…居るのは…楽しい。から…」

 

 

「はぁ……、まぁ…良いか。」

 

 

別に…何か減るわけでもない、何でも良いか。

 

 

そう嘆息すると■■は少し微笑んで何時も通り3人に本の内容を教え始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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ずっと…続くと思っていた。

 

 

 

少なくとも、俺が死んだりするまでは続くと思っていた。

 

 

魔物の寿命は長い、魔素がある限りそこまで死ぬことはない、だから…死ぬまではこの日常が続くと思っていた。

 

 

 

 

それは当たり前だったはずだったんだ。

 

 

 

 

 

当然で

無論で

論を俟たず

言を待たない。

 

 

 

 

 

なのに、またしても神様(あいつら)はこんな絶望を望んだ。

 

 

 

 

 

 

意味を持たず

奇天烈で

不可思議。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なぜアイツラは望むのだろう。

 

 

 

 

不幸を手繰り寄せるのだろう。

 

 

 

 

盤上の駒などどうでも良いのだろうか。

 

 

 

 

俺達には悲しみもある。

 

 

 

 

 

痛みもある─────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

焼けた、燃えた…林の中で、■禾はその2人を抱きかかえ、走っていた。

 

 

 

 

(俺の力は使えない。あの時使えたのは魔素吸収装置で能力が弱められたからだ…今使えば、〝あの時のように〟世界が壊れてしまう)

 

 

 

 

 

「チッ………!」

 

 

 

 

 

(こんな、こんなはずじゃなかった…)

 

 

"魔狩り"

 

 

(一人の魔物が勇者であるリティカを殺した。それを発端に発令された号令…それは…全ての魔物の────殺害。)

 

 

(魔物に優しくするもの好きなんて殆ど居ない、それこそ、あのリティカが変人だっただけだ。)

 

 

 

(人間の殆どは魔王時代のせいで魔物に恨みがある。その上であの愛されていた勇者が殺されたなんてしたら…少なくとも…魔族であるルナとルリがやられるのは…十分な理由だった。)

 

 

 

「クソッ……クソが……!」

 

 

 

(まだだ…まだ間に合う。

この森を抜けた先に泉がある、その水を飲ませてやれば…身体の損傷も治るはずだ…)

 

 

 

 

 

 

そして…森を抜けた、時…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───あ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

思わず気の抜けた声が出てしまう。

それは、もう確定してしまった未来を耐えられない絶望の声にも聞こえた。

 

 

 

(嘘…だ……)

 

 

 

泉が…汚されている。

毒か? もうどうだって良い、泉がダメなら…別の何かを────

 

 

 

「もう……いいよ」

そんな…声が聞こえた。

 

 

 

(辞めろ……)

 

 

 

「せんせいは…やさしいね……わたしたちみたいな…まもののために…」

 

 

辞めろ……辞めろ……、

 

 

 

「もう……大丈、夫…で…す」

 

 

「私…、たち…も…わかっ…て…ますから」

 

 

 

(なんで…?…なんで…こうなる)

 

 

 

 

「先生…」

「せんせー……」

 

 

「どう…した?」

思わず声が震える、自分でもわかっている。

俺には力なんて無い、今のコイツラを救える手立てを見つけることなんて出来ない。

 

 

 

「今…まで、ありが…と…うね?」

 

 

 

「は…い…。…あり…がと…う…ござ、いま…した」

 

 

 

 

息も苦しいだろうに、魔物にとって魔素は血液みたいなものだ。それが無くなっているのはかなり苦しいはずなのに。

 

 

 

 

 

 

「は……、バカかよ…何だよそれ…。最後みたいに…、安心しろって……すぐにそんなの直して───」

 

 

 

「ううん……、大丈夫…。…だ、って…さ…私たちが…、分かるん…だ…もん……。」

 

 

 

「そう…です、よ……もう…長く…ない…って……」

 

 

そんな否定も虚しく

ルリとルナは構うことなく続ける。

 

 

 

 

「………」

違う…違う違う。

そんな筈ない、俺は…俺は…。

 

 

 

 

「ねぇ…せんせ…、 最後に──せんせいに…問題…だして上げ、る」

 

 

 

 

「もん…だい?」

もう、最後という箇所を否定すらできなかった。

〝最期〟と、そう口にした二人は悟りを開いた御釈迦様のように、どこまでも落ち着いていて……死を感じさせない程の優しさに溢れている。

 

 

 

 

「は…い、もんだい…です。 私たちは……せんせいの事が…好きで…しょうか?」

心底…嬉しそうにはにかむ2人。 

 

 

 

 

「知ら…ねぇよ……なんだよッ……それ…!」

本当に時間が無いのに。

今すぐ…薬が必要なのに。

何を……呑気に…、

 

 

 

「えへ…へ〜……正解はね…」

「……正解は…です…ね…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『─────"大好きだよ"…先生』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………」

これを…皮切りだった。

コイツラが…喋らなくなったのは。

 

 

 

 

 

「………」

なんで……なんで……?

 

 

 

 

理由がわからない。

違った筈だ、そうだ……続く筈だったんだ。

 

 

 

なぜ…主人公(ヒーロー)は来ない?

 

 

俺は運命を変えられない。

 

 

「は、は……」

なんでかな。

 

 

あっという間に時間なんて過ぎた。

 

 

同情してくれるやつなんていない。

 

 

この悲しみから目を逸らすみたいに適当な事で頭をいっぱいにしてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの呪いを知ってから、色んな世界を巡ってきた。

 

 

 

 

 

どこかの世界ではスライムが強かった。

どこかの世界では最強を倒した普通の高校生が居た

どこかの世界では食文化がすごかった

どこかの世界では異星人が地球住んでた

どこかの世界ではクラスに凄い厨二病女が居た

どこかの世界では様々や事件を解決する小学生が居た

 

 

 

 

 

 

 

 

 

様々な、様々な…世界を回ってきた。

それは…平行世界のようで違く。

過去や未来の世界とも…言えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも、全ての世界に共通して言えたんだ…

俺は…主役ではなかった。

 

 

 

 

ぽつ───

 

雫が佐藤の頬を伝って落ちた。

 

その雫を機にどんどん雫が落ちてくる。

 

 

 

「雨が……凄いなぁ」

こんなにも、強い雨なら森の火もやむかなぁ。

 

 

 

 

 

そうして物語は終わった。

理不尽で抗いようがない物語で終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「……悲しくは…ない」

別れなんて出会った時点で介在する概念だ。

それが悲しいというのは間違っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして、■■は被る。

"モノクロの仮面と黒い外套"を…

 

 

後で分かったことだが。

リティカは魔物に殺された。死んでしまった、つまり…主役であり主人公ではなかった。だとすれば、今現在も主人公は存在している。実力を隠す系なのか、強すぎて歴史に関与しない系なのか。

 

 

まぁ…そんな事はもう関係ない、か。

 

 

 

 

 

 

 

 

リティカも、ルリも、ルナも、全員死んだ。

 

 

結局の所。俺に残るものはこの世界にはこれしか存在しない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今の俺の手にあるのは…

 

 

 

 

「この本だけで十分だ」

 

 

 

 

 

それは…ルリとルナが手がけてくれた一冊の本。────ルリは未来の見える目を持っており、恐らく自分たちの最期をなんとなく…朧げでも…周知していた…。だから、こんなものを残してくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【せんせ、たぶん…これをみてるってことは、わたしたちはいないん…だよね? しょうじき、せんせーが…このほんをよんでるのかは…みえないよ…。でも、いちおうかいたんだ…。…せんせーがいま…どんなきもちなのかは、わかんないけど…ひとつだけいいたいの…。───たとえ…わたしたちが…いなくなっても…おもいでがきえるわけじゃない…から、だから…その…なんていうのかな………。わたし、さ……まえに…せんせー…とまちにあそびにいったこと…あった…でしょ?…そのとき、まちのひとたちから…へんなめで…みられて…せっかくせんせーがかってくれた…やたいの…ソフトクリームもいじわるされて…じめんに…おとしちゃったじゃん…?…そのとき…すごくかなしくて…なきたくなったの…でも、せんせーがかみをなでて…なぐさめてくれた…。……だ、だからね…?…うまくいえないけど……わたし…ひげきとふこうは…いっしょじゃないとおもうの……たとえ…ふこうなことがおきても…かなしいことばかりじゃない…それこそ…せんせーがかみを…なでてくれたし…。だから……わたしたちがいなくなっても…かなしみだけおもいださないで…?…たのしいこともおもいだして…わらってほしいの………じゃあね、せんせー…大好きだよ】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

        

 

 

 

 

 

 

「………ごめん…本当に…ごめんなさい…っ…」

 

 

 

 

そんな文章を見ながら、佐藤はまた一つ…手に雫を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「───っ…はぁ…!はぁ…!」

 

 

 

まだ日の出る昼。佐藤は目を覚ました…。

 

 

 

 

 

 

 

『……今…何時……って、まだ昼かよ…』

肩で息をしながら、空を見上げる。

 

 

 

 

 

──記憶通りなら、今日の夜にエレンは動く筈だ…。だから、それまで…暇だったのだが…。

 

 

 

 

『そりゃ…そう…だよな。…【無盧無奥(■■■■)】も使えないんだ…。飯を食わなかったら腹も減るし…、睡眠を取らないと…疲れも取れないのか…。』

 

 

 

既世縫史(ウリエル)】で再現した、【完全催眠】によって士道や十香含む、人間たちから意識されなくなった。その為、一緒に行動せずとも大丈夫なのだが…その分、宿の中に居ることも出来ず、今は旅館の屋根の上で眠ることになっていた。

 

 

 

 

 

 

『………いてぇ…』

 

 

疲れのせいなのかは知らないが…頭が鈍器で殴られたかのような痛みが永続的に響き、日を見ると思わず目を瞑りたくなるほどに痛んだ。

 

 

 

 

『…ったく…、人間ってのはつくづく不便な体だ…』

 

 

ゆらゆらと、立ち上がると…そんな事を呟く。

 

 

 

 

 

 

────すると、佐藤の踏んでいた影が蠢いた。

 

 

 

 

『………はぁ…、暇なのか?』

 

 

佐藤がやってきた存在に気づき、ぼやくと。影から一人の少女が現れた。

 

 

 

 

黒い髪を不均等に括り、赤と黒で彩られた霊装を着て、左目が金色の文字盤となっている。

 

 

そんな奴はもう一人しかいない…

 

 

 

「あらあら、お疲れのようですわね。ロキさん」

 

 

 

『暇人…なのかな?』

ため息を吐きながら言うも、目の前の少女───時崎狂三(ときさきくるみ)は特段反応せずに口を開いてくる。

 

 

 

 

「どんな夢を見ていましたの?随分と魘されていましたわよ?」

 

 

 

『……いつから見てたんだよ…』

 

 

 

「それは…秘密、ということにしておきますわ」

 

 

言いながら狂三は微笑むと、海のほうをみながら口を開く。

 

 

「皆さん海に集まっているようですけれど、貴方は行かないんですの?」

 

 

 

『催眠能力で全員から…忘れさせてるから問題ねぇよ。───余計なお世話だ。…それで、話は終わりか?夜になるまで寝たいんだよ…』

 

佐藤が疲れ果てたように肩を落とす。

 

 

 

「あら、…そんなに眠りに就きたいなら……わたくしの膝でもお貸ししましょうか?」

 

 

 

『それこそ、本当に余計な世話だよ…』

 

 

 

冗談めかして微笑んでくる狂三の提案を断ると、佐藤は憂鬱な息を吐いた。

 

 

 

『───で、本題は何だ。…第二の精霊を探すのに忙しい君がここに来る理由がないだろ?』

 

 

 

「もう少しロキさんとお話していたかったんですけれど……」と、狂三は言葉を零すとそのまま目の色を変えて唇を開く。

 

 

 

「……貴方、〝今の時点でどれだけ未来を変えましたの?〟」

 

 

『そんなことか…』

そんな質問を投げ掛けられるとは思ってもおらず、佐藤は少し悩むように下を向く。

 

 

 

 

『表面上は殆ど変わってないな』

 

佐藤が狂三と目を合わせもせずに言うと、狂三は小さく舌を打った。

 

 

「──ねぇ、ロキさん。…貴方は五年前、世界を改変しても何故修復されるのかを教えて下さいました…。…何を言ったか、覚えていまして?」

 

 

 

『……なんだその質問…。』

 

 

 

「良いから、答えてくださいまし!」

 

 

 

 

『……世界の改変が修正されるのは…。───世界自体が修正されたことによって生まれた歪み…、いわば、負を緩和させるために同じ軌道に乗せられるから、例え〝死ぬはずだった人間を助けたとしても数年単位で死んでしまう〟。…的な事を言ってたっけか?』

 

 

 

 

「覚えていたんですのね…」

 

 

何故か、それを言うと狂三は少し寂しそうに微笑んだ。

 

 

 

 

「改めて聞きますわ…貴方は…本当に一体何者ですの?」

 

 

 

 

『……? 何者…って、もう知ってるだろ?』

 

 

 

 

 

佐藤はいつも通り、嘘っぺらで思ってもいないことを平然と放つ。

 

 

 

 

 

 

『ただの人間以下の人間だよ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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