ようやく物語を動かせます。マジでホントに。
思わず倒置法になっちゃうぐらい。
彼、矛盾点は記憶を順序よく、あらかたの記憶を見終え。
ため息を吐きながら真っ黒な天を仰いでいた。
基準点や霊夢の異形郷での事情をはっきりさせることができた。
それに、間接的ではあるが、異形側の話も理解することができたし、………基準点のわからない点をリストアップできた。
『っ…たく、エラーにするならお前が説明しとけよ…始祖…』
【デート・ア・ライブ】の世界で楽しくやっているであろう(多分)始祖に呪詛のように言葉を吐く。
まあ、これからの用も出来たし、偽装がバレる前に動くか…。
立ち上がり、軽く伸びをすると…ため息を再度吐き、寝ている霊夢と基準点に視線を向ける。
『おい。おーい、起きろ起きろー』
頬をペチペチと叩きながら言葉をかける。
「ん…ぅ…?」
『あ……?』
すると、二人はむくりと同時に起き上がり、霊夢は片手で頭を押さえ、基準点は首に手を当てていた。
『あ……。真実点は!?ていうか、お前さっき俺のこと、むぐっ─────』
慌てたように言う基準点に矛盾点は『はい、シャラップ。口チャック』と言って、口を閉ざさせていた。
『心配しなくても説明してやっから』
ホントにコイツラの相手するの脳みそ使わなくて楽だな。
『真実点は普通に帰って、お前らの記憶は見れた。一応な。そんで………』
言葉を切ると矛盾点はくるりと、踵を返し、片手を振り上げる。
ブゥゥン──
機械の駆動音じみた音を立て、空間が裂け割れる。
『早速だがマヨヒガに戻るぞ。お前らもついてこい』
ニコリとしながら基準点たちに向き直り、返答も聞かずに……───東方異形郷を親指でさすのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その後、異形郷に戻ってきた三人。
しかし、そこは……
『……。』
『…なんだ、この匂い…』
「…ぉえ…っ」
それぞれは三者三様に顔をしかめながら、歩き出す。
矛盾点は腕で口を覆い、基準点は口を押さえ、霊夢は既に限界寸前になっていた。
そして、三人は理解する……この匂いの元凶〝たち〟を。
八雲紫が居住中央にそびえ立つ、内部が螺旋状になった巨大な塔は内部から爆発でも起きたように中が折られ、大破していた。
中央から出てきた三人が端から見た景色は───
妖怪、妖精、幽霊…そして、神。
マヨヒガの周辺に聳り立っている針山一面に、その異形たちが〝串刺し〟にされ惨殺されていた。
いや、どちらかと言うと…〝殺された後に〟まるで見せしめように串刺しにされているのだ。
『……吐くなよ?』
「わ…かっ…てる…」
苦々しく、口元を押さえながら返す霊夢。
どうやら会話の続行は可能らしい。
『…なんで、妖精たちも……』
『さてね。大方、不死も殺せる奴が居たんだろ。ま、このままなら…蘇生はしなくてもいいな』
顔を歪めた基準点の発言に、事もなげに返す矛盾点。
『だが妙だな。奴らを殺すにしろ、部下にするにしろ。なんで世界は保存したまんまなんだ?ていうか、わざわざキャラを根絶するってんなら最初から世界ごと壊せば良いのに。なんで、こんなことしてんだ?』
『……お前も大概だぞ』
『あ?何がだよ』
『なんでもねぇ』
先ほど、霊夢に死への反応の軽さを説いた男とは思えない程冷静に思想するのと、その事に全くの無自覚であるという事実に基準点はため息を吐いた。
『おい。霊夢、大丈夫か?』
「あ、ああ…。問題、ない……。少し…頭の整理が…」
背中をさすってやると、深々とため息を吐く霊夢。
『ほら、さっさと行くぞ。空飛んでこい』
『あっ、おい!』
基準点が何か言う前にふわりと浮かび上がって、飛び去っていく。
『……ったく。少しは時間を置いてやれよ…』
常識があるのか、ないのか。どこまでも曖昧な男だ。
まあ、〝矛盾〟してる。と、言えば…そうなのかもしれないが。
『はぁ…行くか…』
どうでもいい思考を振り払うと、基準点は霊夢の手を取って背中に抱え、浮遊すると…そのまま矛盾点を追いかけて空を泳ぎ始めた
地獄絵図と化した地表からは目を逸らして。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『やり口が一々キモいんだよ……』
呪詛をぼやきながら
(……………気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い)
『きもちわりぃ…』
思わず矛盾点は抑えていた感情の発露に伴い、八つ当たりのように腕を振り上げて森の木々を吹き飛ばしてしまう。
『あー…。くそ………、もっと荒らして何やってんだ俺は……』
ため息を吐きながらかがみ込むと、未だに自分が始祖の思考力には程遠い事を実感する。
(こんな事で盗聴防止も取れちまうし…)
心の中でぼやきながらも、気を取り直すようにこめかみを指で押すと深呼吸して腰を上げた。
『………さて、と。ここが魔理沙の家。ってことか?』
言いながら矛盾点は目的物を見やる。
どこにでもありそうな木製のただの一軒家。
妙に荒れていないのは………まぁ、偶々…か?
見向きもされてないならまだしも、余波も受けてねぇのは良く分からん。
魔理沙の魔法で保存してた…とか。
後は……。ああ、輝夜の能力───つっても、ここの輝夜って永遠と須臾操れんのか?
だとしてもやる意味分からんし。
と、立ち尽くしてどうでも良い考え事をしていると。
『──よっしょっと…』
『あー。お疲れ~』
『ノリが軽いんだよお前』
ようやく、やってきた基準点に視線を向けながら軽く言葉を返す。
『んで。背中にお抱えのお嬢さんは?』
『勘弁してやれよ。コイツ死体に慣れてねぇんだろ』
ひょっこりと、後ろを除きながら言う矛盾点に対し、霊夢を背に抱えたまま呆れたようにため息を吐いている。
『いや。そういう意味で言ったわけじゃねぇし…、っていうか一応博麗の巫女なら死体ぐらい滅茶苦茶見てるだろ』
『俺に言われても』
『それもそうか』
肝心のからかう対象の霊夢が寝ているのならこんな無意味に時間を浪費する意味はないと判断した矛盾点は…踵を返すとそのまま家を指し示す。
『お前の目的が…コレか?』
質問に矛盾点はこくりと頷く。
『ああ。正直ココが残ってて良かったと思ってる』
『何かあるのか?』
『あるかもしれねぇのを確認しに来たんだ』
ニヤニヤとしながらドアを開けて入る矛盾点。基準点もそれに続きながら、小首を傾げる。
『確認?』
手近な戸棚を調べながら矛盾点は『そ』と、軽く返答をしてくる。
『まあ、確認の確認?的なもんだな。……とあるものがあるとしたら、ココにしかないってことだ』
しかし、問答で更に疑問が深まる基準点は倣うように部屋を見渡す。
『何か探し物ってことだろ?何かあるのか?』
『ここは【霧雨魔理沙】の家だ。なら、アイツの私物もあるだろ…………〝日記〟とかな』
その返答に基準点は『はあ?』と、眉をしかめる。
『魔理沙さんって人の日記なら見たろ。紫さんから渡されたものが………』
と、言いかけた所で矛盾点は『チッチッチ』と、舌を打ってくる。ウザい。
『知ってるのか知らんが、魔理沙と言えば言葉が下手くそなんだぞ?それにしてはあの日記は小綺麗だった。おかしくないか?』
『それは……。お前も分かるだろ、あの人って確か……男の子──ていうか、始祖に勉強教えるために自分も勉強したんだろ?』
すると、突然【ビッ】と、矛盾点は基準点の眼前に指を突きつけてくる。
『そう…!そこが味噌なんだよ基準点。アイツは日本語がヘタクソ。そんでもって、どうせ字も汚い……だが、俺の知りうる限り負けず嫌いで最強を語る女が〝ただの小綺麗〟で止まると思うか?』
『………それって…』
矛盾点はニヤリと笑うと、今度は2階に登っていく。
『そー。恐らくあれは紫が模写……ってより、何か知られて欲しくない情報のみを抜き取って霧雨魔理沙が書いたものっぽくした物だ。おそらくな』
『じゃあ、お前の予測通りならどこかに原本があるってことか?』
2階に上がりながら基準点も問い質す。
『まあ、そうだな。……予測が外れてるかもしれねぇし、家じゃなくて別の場所とか、実は紫が持ってたりとか……そういうのもあるから期待度は1割以下ほどだが』
聞いてから基準点は納得し……かけ、『いや』と言うと…
『ならお前の能力で探せよ』
『身も蓋もねぇなお前』
ジト目になられ、告げられる言葉に矛盾点は肩をすくめる。
『ご質問に答えてやると……普通に無理』
『……?お前の能力でも無理なのか?』
『………てゆーか、俺は分身体つったろ。そこまでの能力ねーんだよ』
二度の質問には何故か僅かに苛立ちながら矛盾点は言葉を返してくる。
そうして、矛盾点は数十分の間部屋中を捜索し続けていた。
ある程度やっても見つからないと理解し、ため息を吐くと……
『それならお前の能力で探してくれよ。使えるんだろ?「覚悟」。……【フェルミナス】…つったか?』
今度は矛盾点が基準点にそんな質問を投げかけてきた。
『……は…?ああ、記憶で読んだのか…。いや、……うーん…?できることはねぇと思うが…』
『じゃあやれよ。何お前今までサボってんだよ』
『唐突に言葉が鋭いな』
ツッコミを飛ばしながらも、思考する。
(俺の能力って……そもそも何だよ…)
『俺の能力って……そもそも何だよ───的な顔してるなお前』
『ナチュラルに思考読んでくんの辞めてもらえる?』
『おいおい誰が無惨様やねーん』
『…………。誰も言ってませんが』
『そうですか』
少しローテンションになる矛盾点。コイツの扱い方が難しいと感じる今日のころ頃であった。
『……えっ、ていうかホントに能力わからねぇの?』
『さっき言ったろ。回線遅くないか…?』
『誰が──』
『もうそれ良いから』
『あっ、はい。……でも俺は多分お前の能力分かるぞ?』
唐突に真面目に戻る矛盾点に思わず内心にて苦笑するが、表には出さない。
『……例えば?』
『例えばって言うか…。お前の「覚悟」は十中八九【基準を操作する能力】だろ』
『基準…?』
『ああ。「当たり前」とか、「常識」とか……ニュアンス的にはそういうのじゃねぇの?』
オウム返しになる質問にも矛盾点はつらつらと推測を並べていく。
しかし、少し首を傾げると『あ』と、言ってから恐る恐るのように基準点に向かって口を開く。
『お前って……【
『?…………。』
問われた言葉の意味が分からずキョトンと目を丸くする。
その基準点の様子を見て全てを察した矛盾点は思わず項垂れて諦観の息を吐いていた。
『お前……【
『あー…?えーっと、〝あっち側〟を知ったらなれるんだろ?』
『ちげぇよ…』
即座に否定し、更に床にへたり込む矛盾点。
そして、ブツブツと何かを呟くと……『よし』と、立ち上がると、矛盾点は椅子と机を部屋の中央に移動させ、座るように促してくる。
『は…はぁ?』
基準点は困惑しつつも、霊夢を隣の椅子に座らせてから自分も腰を下ろす。
『お前でも分かるように、噛み砕いて……〝最初から全部〟エラーについて教えてやる。聞いたことも分からかったら質問したけりゃいい機会だからしろよ?』
『は?どういうことだよ急に』
『いいから聞いとけ。知らねぇと不味い。特にお前は』
意味深に言葉を濁ししながら、対面に座った矛盾点は胸ポケットから黒い手帳を取り出し、机のうえに乗せていた。
『まずは。【
手帳を開きながら矛盾点は指を指しながら説明を開始する。
開かれた手帳にはボールペンで描かれた几帳面な文字と、分かりやすい図解と絵であった。
【まず、第四の壁を認知した【
『最初はここだな。この「二次元世界」において、三次元という概念を理解したキャラたちは「バグキャラ」と俗称する。……まあ、俺の造語だが』
最後に不穏なことを言いつつ矛盾点は咳払いして続ける。
【その中でも「自分たちが二次元作品の登場人物であり、世界の文字・描写・思考・発言・運命が三次元の製作者によって作られている」と完全に理解したモブキャラが【
『ここは書いてある通りだな。見られてることだけじゃなくて、〝全て〟を知った結果……モブキャラはこうなる』
『何でモブキャラ限定なんだ…?』
基準点の問いに矛盾点は『良い質問だ』と、くすくすと微笑みながら次のページを開く。
【本来なら、その事実を知ったキャラクターは信じられないか、理解した気になるか、精神が耐えられず壊れる。しかし、エラー候補は本来の因果律に全く関わらないモブキャラであり、『製作者』や『神理』からの干渉が存在しない。そのため、世界の真実を理解したまま、自我を保って行動できる】
『コレがお前の質問のアンサーだ。簡単に言えば【スポットライトが無い】からこそ、「どうなってもあっち側も気付かない」ってとこだな。……例えば、太陽と太陽によって引き起こされる現象を誰も観測してない時は…太陽は存在しないみたいなものだろ?俺たちがエラーになれる理由もそういうこと。例え【主人公】の立ち位置を与えられても、興味をなくされて見られなくなればモブキャラと同じってわけだ』
『………お前の付け足しのせいで良くわかんねぇよ』
『え?おかしいな。よく例えれたつもりなのに』
目を丸くしながら頬を掻く矛盾点。天然なのか、何も考えていないのか、……よく分からない。
そして、ページは更に進み。
【二次元世界には作品本編だけでなく、その作品から生まれた【二次創作】【並行世界】【異なる解釈の世界】もすべて存在する。同じ作品でも世界ごとに設定や人物像が異なる場合があり、エラーはそれらを含む膨大な世界群をランダムに転生し続ける】
『……まあ、コレはそのままだな。ホントに』
本当にコメントが無いかのように発言に気まずくなっている。
【作品世界の間には【狭間】が存在する。狭間は無数の二次元世界の文字通りの隙間にある闇の空間で、生活も可能だが、基本的には物体が何も存在しない。ただし狭間の内部で特定の座標まで移動し、そこから外へ出ることで、目的の二次元作品へ移動できる。】
『前に説明した【狭間】だな。前に試してみたら、空気は別にないのに呼吸は行えるんだよな。他にも花壇作ってみたら育ってたし。訳わかんねーよ』
「お前はホントに何やってんの???」
脳内にて、この闇空間の中で土を弄って球根や種を埋める矛盾点の想像ができてしまい、思わず素でツッコんでいた。
【エラーは一つの世界へ長く留まり、未来を改変しすぎると、その世界の整合性を大きく破壊してしまう。その結果、世界は自壊し、『神理』によって消去される。そのため、どれほど気に入った世界でも、純粋なエラーである限り基本的には永住できない。ただし、基準点のように純粋なエラーではない存在なら、力や異常性を抑えることで比較的普通に暮らせる】
『……最近付け足した文章もあるな。おっと、几帳面とかいうなよ?怠惰キャラで通ってるからな』
『何も言ってねえよ』
基準点のツッコミはスルーされた。
ページは進み。
【神理は【意志を持たない二次元世界設定そのもの】であり、クラウンが意志を持ったシステムである【摂理】なら、神理は機械的に世界を管理するコンピューターに近い。エラーは神理から敵対されるが、神理は意思や感情がないため、その合理性を逆手に取って利用することもできる】
『コレは実証済みだ。神理っていうのは始祖が勝手に着けた俗称だが、こっちの方がわかりやすいしな』
補足するように言葉をつけ足していく。
事例1: 【エラーが目的意識を失うまで死なない理由も、「不死」という能力ではなく、エラーが消滅すると神理の内部で整合性が取れなくなるためである。神理は修正するため、目的を果たしていないエラーを別の二次元世界へ自動的に復活・転生させる】
『これが……まあ。お前も知ってのとおり、エラーが不死な理由だ…な』
事例2: 【既存キャラがエラーの覚悟と決意の力を解析・コピー・模倣・奪取・吸収・権能化・再現しようとする行為そのものが、神理から見れば「本来存在してはならない事象」となる。
その場合、神理はエラーではなく、異常を取り込もうとした通常キャラクターの個体を即座に削除する。
これは『ウイルスに感染したパソコンを初心者が不用意に操作し、さらに悪化させる』ことに近い。
神理は感染を拡大させる前に、操作しているプログラム=通常キャラクターを排除する。
例えば、ある世界のキャラクターがエラーの【覚悟】を解析して、世界設定そのものに存在しないデータを、正常な存在へ書き込もうとしている。
これは神理からすれば「強力な能力を得た」ではなく、世界設定そのものに存在しないデータを、正常な存在へ書き込もうとしている事。だから神理はコピーを実行しようとしたキャラクターそのものを削除してしまう。
エラーの力を…解析する。コピーする。奪う。吸収する。模倣する。権能として再現する。自分の能力として使用する。自分の設定に組み込む。「これはこういう力だ」と世界側の法則へ落とし込む。
など、エラーの異常性を正常な存在として成立させようとする行為そのものが危険。
神理からすれば、「エラーが存在している」ことと、
「正常なキャラクターがエラーと同じものになろうとしている」ことは全く違う。
前者は既に発生してしまった異常。
後者は異常の感染・拡大。
だから神理は後者を即座に排除する。
神理は摂理とは違って合理性のみで行動するので結果的に一次的にエラーの助けになる事象も引き起こす】
以下、5ページの大長編である。
『な…、なげぇ…』
読み終わった後、基準点は思わず絶句していた。
『文句言うなよ。頑張って書いた過去の俺に謝れ』
その態度に嘆息する矛盾点は足を組み直すと、基準点に対し指をさす。
『因みに。神理がエラーを殺さない理由も、エラーが死んだことによって引き起こされる整合性の崩壊を気にしてるからだ。そして摂理よりも上の立場にある神理の決めた法則には摂理も逆らえない。つまり、例えクラウンに殺されても俺たちは転生できる。それは覚えとけよ?』
基準点は情報量の多さに頭を眩ませてしまっていた。
何だこれは。エラーという存在や世界は思っていた何倍も複雑怪奇だった。
『お前…ホントに少しか知らねぇのな…』
そんな様子に矛盾点はクツクツと笑いながら頬杖をすると、ページを少し飛ばして見開く。
【進化段階
第一段階
自身に与えられた名前を知ること。
名前とは、その者が最も嫌悪する概念そのものを指す】
『コレは、エラーの初期段階だ。……まあ、吹っ飛ばすヤツもいるが……。〝アイツ〟はイレギュラーだから考えなくても良いな』
『アイツって…?』
『真実点の事だ』
短く返してから、ぺらりとページをめくる。
【第二段階 善意・悪意 決意・覚悟
自身の名前の〝意味〟を理解し、それを受け入れること。
その際、自らの存在を宣言する詠唱を行うことで能力が覚醒する。
その者の生き方・意思そのものである。
そのため同じ思想へ至った者同士は、同一の決意・覚悟を得ることが可能だとされる──おそらくきっと】
『……詠唱…?こんなんやってねぇぞ?』
『その場合は、自分の名前の意味を理解してないか、決意と覚悟のどちらかが足りないか、だな。条件が満たされたら勝手に頭ん中に出てくる』
『気持ち悪』
『……………。』
無言で矛盾点はページをめくる。
【決意
精神性を反映した能力。
戦闘力よりも理念や救済、支援などに特化した能力が多い。
所有者の理想を最も色濃く反映する】
『決意は【意を決する力】だからな。決意の内容が強けりゃ、それはソイツのエラーとしての素養が高いことになる』
『……始祖の能力も強かったしな…』
『まあ…。アイツと比べたら、な』
ぼやく基準点に、苦笑する矛盾点。
そう、あんな化け物との元主人公の異常を比べるなんて烏滸がましすぎる。そもそも、純粋エラーである自分ですら一度も勝てなかった男だ。
養殖エラーに勝てる道理もない。
ページは更に捲られる。
【覚悟
決意をさらに押し進めた到達点。
極めて攻撃性・制圧力に優れ、世界そのものへ干渉するほどの異能へと変質する。
エラーにおける
『………覚悟も決意も基本的には一つしか持てないのか?』
少し考えた後に繰り出された質問。
『ああ。始祖みたいな例外も居るが、一つの存在が持てる個数は一つずつだ』
あっさりと肯定し、加えて始祖は例外だと返す矛盾点。
『じゃあ、始祖の……。えーっと…』
『【疑似覚悟】のことか?』
『そうそれ!』
言い淀む基準点の記憶容量に呆れながら補足をすると、スッキリしたように基準点は顔を上げていた。
『アイツのよく分からんあの力は『疑似覚悟』って勝手に呼んでるだけだし……実際に覚悟には遠く及ばないただの異能だ。………確か、他の世界の奴らの能力そのものを受け継いでるって─────』
『………………矛盾点?』
説明の途中で突然言葉を詰まらせる事に眉をしかめると、矛盾点は『ああ、悪い』そう言って咳払いを一つ行う。
『引き継いでるって、一度俺が聞いたときはそう言ってた。アイツの…【
ため息を吐くと、矛盾点はページを少し飛ばし、開く。
【第三段階
自身の冠する悪と冠する善を知ること。
これは人格や思想を象徴する称号であり、能力ではなく、その者が何を背負い何を貫く存在なのかを表している】
『コレが知りうる限りの段階だ。正直ここからは俺も知らんし、この第三階目目の進化条件が合ってるのかは分からん。いやまぁ、始祖がわざわざ嘘をつく意味がないし……アイツは俺のこと強くしたがってたしな…』
一区切りがついたのか、そこまで言うと矛盾点はギシリと音を立てながら背もたれに寄りかかる。
『……そもそも…段階って違うと何か変わるのか?』
問うと、矛盾点は背もたれに寄りかかったままピンと人さし指を立てる。
『かなり違う───って、始祖は言ってた。まぁ、文字通り段階が違うと次元が違うんじゃないか?なら俺の【堕天噩譚】が真実点には効くのにアイツに効かないのも説明がつく』
『なるほど……。じゃあ、お前って今段階どこなんだ?』
『二段階目ー。詠唱もできるよー、かっけぇでしょー』
ぐらぐらと椅子を立たせながら指を2本立ててぶらぶらと揺らしてくる。
『詠唱……』
『そ、不思議なもんだよ。ホントに突然頭の中にボーンって出てくんだから。決意とか覚悟初めて得た時を思い出すよな』
思考しながら呟いた言葉に相槌を打ってくる矛盾点。
しかし、突然『あ』と言うと、立ち上がってくる。
『お前って覚悟の名前【フェルミナス】だったよな?それってお前が考えた?考えた???』
『……そりゃそうだろ。何だよいきなり』
質問の意図がわからず眉をひそめる基準点に、一旦椅子に座ると『いやな?』と言って言葉を続ける。
『俺の覚悟の名前って元々クソダサかったんだよ。そりゃあさ?初めて得た時は始祖を傷付けられたのも相まって『かっけぇー!』って、思ったけど……。後々冷静になったらルビも無くてさ。横文字無いんだぞ?漢字だけだぞ?そのまま読んでるんだぞ?ダサすぎるだろ』
饒舌になりながら、段々と愚痴を吐き捨て…口を窄め始める。
『あーあ。最初っからカッコよくていいなぁー。まぁ?俺は後々『堕天噩譚』っていうクソかっくうイぃ名前考えたから良いんだけどさ。漢字も、堕天に噩譚だぜ?堕天は文字通り、天から堕ちた者……いわばエラーになった俺。そんで、噩譚、これは怪談とか奇譚を意味する……いわば、伝説みたいな意味。どう?かっこよくね?』
『直訳したら『矛盾点の伝説』になってクソダサくなるけどな。ゼルダかよ』
『黙れよ。俺の無い脳みそフル稼働したんだよ』
軽口を叩きあうと、矛盾点はすくりと立ち上がる。
『んじゃ、説明終わり。ほら、お前も立て───、っていうかコイツ寝すぎだろ。一応記憶読み取る時も寝てたぞ?なに、ジラーチ?』
基準点の隣の椅子に座り、会話中もスヤスヤと寝続けている霊夢。
『ま、まぁ……。疲れてるんだろ……』
近すぎず、遠すぎない弁明を言いながら基準点は霊夢を肩に抱える。
『で?日記の所在って結局どうするんだ?まだ探すか?』
抱えながら矛盾点を一瞥して、二階のリビングを見渡す。
『いや、今は良いや。面倒な奴らに見つかる前に早く帰りてぇ………って、あ?』
『んぐ…っ……。なんだよ、とまんなよ』
歩き、階段を降りながら発言していた矛盾点は…眉をひそめて言葉と動きを止める。
背中にぶつかった基準点は不審がりつつ、半目になる。
しかし、そんな事にも構わず……
『アイツ……何だ?』
『あ?何がだよ』
背中から顔を出し、矛盾点が指した指先の方向を見つめる。
すると、開いたドアの奥の奥……。森の中からこちらにたどたどしく歩いてくる……小さな何かの影…。
『……っ。行くぞ…、矛盾点!』
それは明らかに、妖精の生き残りに違いなかった。
顔をバッと、上げると…基準点は声がけをしながら駆け出していた。
『………まずは疑えよ…』
呆れて肩をすくめながら矛盾点も駆け出していた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『おい…!大丈夫か…?って、お前…っ!』
妖精らしき影に近づき、声をかけると…基準点は顔をしかめた。
理由は単純、彼女───デンカは首元から降りた身体を覆う羽毛のような物は焦げ落ち、半分近くがなくなっており……それになぞられるように顔半分も焼け爛れていた。
「……信号を来て、見れば……。あなた、たち…でし…たか」
息も絶え絶えで、矛盾点を認識すると…諦観の息を吐いていた。
『待ってろ!すぐに治してやる!』
「もう無駄ですよ」
『な、なんでだよ!』
きっぱりとすべてを諦めたように告げてくるデンカに基準点は歯噛みをしていた。
「もう……すでに、異形郷は滅んだ。この結果も…明白だったんです。あの時、…私たちは…一度死んだ。………ただ、引き伸ばされたんです…。あの子が帰ってくるまで…守ろうと、思って…いたのに……この始末。……笑えもしません…」
言い終えると力を使い果たしたかのように、地面に倒れ込みかけるが、
『……あっぶねぇな』
矛盾点が地面に激突する前に抱えていた。
『矛盾点…!早く、デンカを!』
『わーってるよ。事情はだいたい分かった』
言い終える前に
焦げた肌も、欠損した右腕も、なにもかも。
『よいしょ。治ったぞ…』
矛盾点が立たせてやると、デンカは何が起こったかも分からず、瞠目させていたがやがて自分の身体が治癒された事に気が付いたのか。
「あ、ありがとうご─────ぶ、ご……ぐ、…ごが…っ」
『……デンカ?』
感謝をしようとした、デンカが唐突にむせ始める。
基準点が素っ頓狂な声を上げるが、返答する余裕はないのか、苦悶の表情を作ると、口元を押さえ…地面に這いつくばり始める。
「が……の、…お、おん……がゃ…」
言葉と共に血反吐を吐きながら、けれど、デンカは基準点に視線を向け…必死に口を使って言葉を紡ぐ。
「……ぎ…ぃ…ぐぇ…っ…、…で……!…わ、が…じぃ、……っ!…も、ゔぅ……、だ……だ─────………おやオヤ。仕カけた種が発動シタと思ったら。随分と元気に実がナったね】
突然、苦し悶えるデンカの口から……まるで、スピーカーで響かせたような、高い女性の声が鼓膜を震わせた。
「……が……ず、げ…ぇ…ッ────。
手を伸ばし…血涙を流しながら紡いだ言葉を皮切りに、デンカの身体が……ボコリ、メキリ、とアメーバ状に流動し、内部の〝なにか大事なものたち〟が壊れていく音が響く。
『……ッ…!』
状況を理解した矛盾点は即時に堕天噩譚を展開すると、基準点と共に後方にへと転移していた。
『おい…ッ…!矛盾点…!!!』
基準点の、複雑な感情がいり混ざった怒号が響く。しかし、矛盾点は〝デンカだったもの〟に目を向け…
『………』
冷や汗を一筋垂らし、無言になっていた。
【……サテと。もウ窮屈だし、でヨっかな】
再びスピーカーのように鼓膜を大きく震わせる。
────【
そんな、言霊が一際大きくなって辺りに響いた
ゴッ──パン
瞬間。
そんな、泡の弾けるような軽い音とともに……
文字通り、デンカの身体が弾け、周囲には血と身体の一部が散乱し、顔は血涙を流したまま絶望で彩られていた。
『……ひ…っ、……く』
声にならない声で喉を詰まらせ、思わず口元を覆う。
やはり、目の前で知人が……しかも、〝最後には助けてと言ってきた〟存在が死ぬのは…気分が言葉に表せないほど…最悪になる。
『基準点。下がっとけ』
『……わ、かった…』
端的に言われた言葉に、今は頷くしかなかった。霊夢を抱えたまま…基準点は更に後方にへと飛び去っていた。
『で…?お前は誰だ』
底冷えした声で矛盾点は…その血溜まりの中にいる狂人に話しかけていた。
「ン、私?嫌だなあ、もう会ってルじゃなイか。そレとも…自コ紹介が必要ならもう1回シヨうか?」
じゃらじゃら、がりがりと、手の武具から伸びる鎖と刃を地面に引きずりながら、女は……歩き出す。
そうして、全身を拘束具のような服に纏わせた、白い髪とオニキスのような黒い瞳を持つ〝彼女〟は揚々と名乗る。
「わたシは〝ただの【ヤマイ】〟 呼び捨てで構わないよ?」
ニタリと、笑った顔がピエロに似ていた。
強い者は負けます。
弱い者は勝ちます。
正しい者は迷います。
間違えた者は笑います。
世界は最初から間違っていました。
だから彼は笑いました。
間違った世界で、
間違ったまま生きていくために。
Historio