「へ?」
士道はその言葉を告げられた瞬間。そんなことを言った。
間の抜けた声を出してしまうのも無理はない、それほどまでに彼の放った言葉は唐突で突飛だったのだから。
「何だよ、〝お前の妹は大丈夫か〟って、」
『いやなに、ふと気になってな、聞いてみただけだ』
「何で急に…」
思わず顔を訝しげに変えるが、佐藤は続ける。
『良いから、確認してみろよ。もしかしたら外に出てるかもよー?』あっけらかんとした様子で、手をぷらぷらとさせる佐藤。
士道は不審そうにしながらもポケットを探って携帯電話を取り出した。
着信履歴から『五河琴里』の名を選んで電話をかける。 が──繋がらない。何度か試すが、結果は一緒だった。
『ほらほら、言った通りだろ?』
その後、士道は何の気なしにとあるアプリを開く……
「────ッ」 それを見て、士道は息を詰まらせた。 琴里の位置を示すアイコンは、シェルターなどではなく何時ぞやのファミレスの真ん前で停止していたのだ。
『…ま、言い訳は俺から先生にしておいてやるよ』
それを見た佐藤は何か顔色を変えるわけでもなく飄々と口を開く。
「わるい…」 小さくつぶやくと、画面を消さないまま携帯を閉じて、士道は生徒の列から抜け出した。
───列を逆走していく士道の姿を見届け、佐藤はため息を吐いた。
『さて、と…俺も動くとするか』
一言呟くと列を抜け佐藤は歩き出した。
誰もそれに気付く者も居なかった。
〜〜〜◆〜〜〜
「何で外に出てるんだよ…っ!」
琴里を示すアイコンは、やはりファミレスの前から動いていなかった。
士道は琴里を1週間チュッパチャプス抜きの刑に処すことを決意しながら、ファミレスを目指して足を高速で動かし続けた。
ペース配分も何もない。ただひたすらに、全速力でアスファルトの道を駆ける。
足が痛み、手の指先が痺れる。 のどが張りつき目眩がして、口の中がカラカラになる。
だが士道は止まらなかった。危険だとか疲労だとかは思考の外に放って、琴里のもとへ、ただひたすらに走る──!
と──「……っ、──?」 士道は走りながら、顔を上方に向けた。視界の端に、何か動くものが見えた気がする。
「なんだ……っ、あれ……」 士道は眉をひそめた。 数は三つか……四つか。空に、何やら人影のようなものが浮いている。
だが、すぐにそんなものを気にしてはいられなくなった。 なぜなら──「うわ……ッ!?」 士道は、思わず目を覆った。
突然進行方向の街並みが、まばゆい光に包まれたのだ。 次いで、耳をつんざく爆音と、凄まじい衝撃波が士道を襲う。
「んな……っ」 士道は反射的に腕で顔を覆い、足に力を入れたが──無駄だった。 大型台風もかくやというほどの風圧に煽られ、バランスを崩して後方に転げてしまう。
「ってえ……一体なんだってんだ……ッ」 まだ少しチカチカする目をこすりながら、身を起こす。
「──は──?」 と、士道は、自分の視界に広がる光景を見て、間の抜けた声を発した。
だって、今の今まで目の前にあった街並みが、士道が目を瞑った一瞬のうちに── 跡形もなく、無くなっていたのだから。
「な、なんだよ、なんだってんだよ、これは……ッ」 呆然と、呟く。
何の比喩でも冗談でもない。 まるで隕石でも落ちたかのように。 否、どちらかといえば、地面が丸ごと消し去られたかのように、だ。
そして、クレーターのようになった街の一角の、中心。 そこに、何やら金属の塊のようなものが聳そびえていた。
「なんだ……?」 遠目のため細かい形状までは見取れないが──ロールプレイングゲームなんかで王様が座っている、玉座のようなフォルムをしているように見える。
だが、重要なのはそこではない。 その玉座の肘掛けに足をかけるようにして、奇妙なドレスを纏まとった少女が一人、立っていたのである。
「あの子──なんであんなところに」 朧気にしか見えないが、長い黒髪と、不思議な輝きを放つスカートだけは見て取ることができた。女の子であることは恐らく間違いないだろう。
と、少女が気怠そうに首を回し、ふと士道の方に顔を向けた。「ん……?」 士道に気づいた……のだろうか。遠すぎてよくわからない。
だが士道が首をひねっていると、少女はさらに動きを続けた。 ゆらりとした動作で、玉座の背もたれから生えた柄のようなものを握ったかと思うと、それをゆっくりと引き抜く。
それは──幅広の刃を持った、巨大な剣だった。 虹のような、星のような幻想的な輝きを放つ、不思議な刃。
少女が剣を振りかぶると、その軌跡をぼんやりとした輝きが描いていった。
そして──『バカが、頭を下げろ』
「…ほぶっ…」 少女が、士道の方に向かって、剣を横薙にブン、と振り抜いてきた。と、同時に何者かが士道の頭部を掴んで下げてきた。
「────ぎ、」
その、今まで士道の頭があった位置を、刃の軌跡が通り抜けていった。 もちろん、剣が直接届くような距離ではない。
だが実際──「……は──」 士道は目を見開いて首を後ろへ振った。
士道の後方にあった家屋や店てん舗ぽ、街路樹や道路標識などが、一瞬のうちにみんな同じ高さに切り揃えられていた。 一拍遅れて、遠雷らいのような崩落の音が響いてくる。
「ひ……ッ!?」 士道は理解の範囲を超えた戦慄に心臓を縮ませた。 ──意味が、わからない。 ただ理解できたのは、さっき頭を下げていなければ、今いま頃ごろ自分も後方の景色と同じように、ほどよい大きさにカッティングされていた。
士道は壊れたロボットみたいな首の動きで今しがた自分の命を助けてくれた人物を視覚にいれる。その人物を認識した瞬間、士道は又も目を見開いた。
「佐藤!?」
『へいへい、佐藤ですよー』
士道に反応に言葉を返すのが面倒くさいそうに適当な言葉を気怠げに放ってくる。
「何でここに…・・・・っていうか避難は!?」
『お前が危なっかしそうだったからな。ま、付いてきておいて正解ではあったが…』チラリと、背後で崩れる建物を視認しそしてため息を吐いた。
『どういう状況だ。正直言ってお前を見捨てればよかったと心の底から後悔しているんだが』表情も感情も変化を感じさせない声音で言ってくる。
「えっと、なんかすまん。」
取り敢えず謝ることしかできなかった。
『まぁ、早く逃げたほうが良さそうだよな』
その言葉に士道はハッとした。
佐藤のお陰で怪我はない、しかし…明らかに眼の前の事象は未知のナニカだ。少しでも早く、少しでも遠く、この場から逃れなければ──!
だが。「──おまえたちも……か」
「……っ!?」 ひどく疲れたような声が、頭の上から響いてきた。 視覚が、一拍遅れて思考に追いつく。
目の前に、一瞬前まで存在しなかった少女が、立っていたのである。 そう、それは──今の今まで、クレーターの中心にいた少女だった。
「あ──」 意図せず、声が漏れる。 歳は士道と同じか、少し下くらいだろうか。 膝まであろうかという黒髪に、愛らしさと凜々しさを兼ね備えた貌。
その中心には、まるで水晶に様々な色の光を多方向から当てているかのような、不思議な輝きを放つ双眸が鎮座している。 装いは、これまた奇妙なものだった。
布なのか金属なのかよくわからない素材が、お姫様のドレスのようなフォルムを形作っている。さらにその継ぎ目めやインナー部分、スカートなどにいたっては、物質ですらない不思議な光の膜で構成されていた。
そしてその手には、身みの丈たけほどあろうかという巨大な剣が握られている。
────状況の異常さ。
────風貌の奇異さ。
────存在の特異さ。
どれも、士道の目を引くには十分に過ぎた。
士道が目を奪われた理由に、そんな不純物は含まれていなかった。
「──、──」 一瞬の間。 死の恐怖も、呼吸をすることすらも忘れ、少女に目を釘づけられる。 それくらい。 少女は、それこそ暴力的なまでに──美しかったのである。
「──君、は……」 呆然と。 士道は、声を発していた。 涜神としてのどと目を潰されることすら、思考のうちに入れて。
少女が、ゆっくりと視線を下ろしてくる。「……名、か」 心ここ地ちのいい調べの如き声音が、空気を震わせた。
しかし。「──そんなものは、ない」 どこか悲しげに、少女は言った。
「────っ」 そのとき。少女の目がこちらと交差した。
それと同時に、名無しの少女が、ひどく憂鬱そうな──まるで、今にも泣き出してしまいそうな表情を作りながら、カチャリという音を鳴らして剣を握り直す。
その小さな音に、戦慄が蘇ってくる。思わず士道はへたり込んでしまう。
『……おいおい、流石に勘弁してほしいんだが。』
佐藤のほうを見上げると冷や汗を流していた。
佐藤が言うと少女は不思議そうな目を向ける。
「……なぜだ?」
『何故…ねぇ。因みに聞くが今から何をするつもりで?』
「それはもちろん──おまえたちを殺す」
さも当然のごとく言った少女に、士道は顔を青くして口を開く。
「な、なんでだよ……っ!」
「なんで……? 当然ではないか」
少女は物憂げな顔を作りながら、続けた。
「──だっておまえたちも、私を殺しに来たんだろう?」
『…………』
「は────?」
予想外の答えに、士道はポカンと口を開けた。
「……っ、そんなわけ、ないだろ」
「────何?」 そう言った士道に、少女は驚きと猜疑と困惑の入り交じったような目を向けてきた。
だが、『士道…マジで逃げないとヤバいぞ』と、佐藤が頭上を見上げながら震える声で言った。
士道も釣られて視線を上げ───「んな……ッ!?」 これ以上ないほど目を見開き、息を詰まらせた。
何しろ空には奇妙な格好をした人間が数名飛んでいて──あまつさえ、手に持っていた武器から、士道と少女目がけてミサイルらしきものをいくつも発射してきたのだから。
「ぅ、わあぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ──!?」 思わず、叫びを上げる。 だが──数秒経たっても、士道の意識ははっきりしたままだった。
「え……?」 呆然と、声を漏らす。 空から放たれたミサイルが、少女の数メートル上空で、見えない手にでも掴まれたかのように静止していた。 少女が、気怠げに息を吐く。
「……こんなものは無駄と、何故学習しない」 言って少女が、剣を握っていない方の手を上にやり、グッと握る。
すると何発ものミサイルが圧縮されるようにメキメキ音を立てへしゃげ、その場で爆発した。 爆発の規模も恐ろしく小さい。
まるで、威力が内側へ引っ張られているかのようだった。 空を舞っている人間たちが狼狽するのが、なんとなくだがわかる。
だが、攻撃をやめようとはしない。次々とミサイルを撃ち込んでくる。「──ふん」 少女は小さく息を吐くと、まるで泣き出してしまいそうな顔を作った。
先ほど士道と佐藤に剣を向けようとしたときと、同じ顔。
「────っ」 その表情に、士道は命の危機に瀕したときよりも大きく心臓が跳ねるのを感じた。 なんとも、奇妙な光景だった。 少女が何者なのかはわからない。上空にいる人間たちが何者なのかもまた、わからない。 だけれどこの少女が、上空を飛ぶ人間たちよりも強大な力を有していることだけは、なんとなく理解できた。
それゆえの、漠然とした疑問。
その、最強者が。 ──なんで、こんな顔を、するのだろう。
「……消えろ、消えろ。一切、合切……消えてしまえ……っ!」 そう、言いながら。 彼女の瞳のごとく不思議な輝きを放つ剣が、空に向けられた。
疲れたように、悲しむように、少女が剣を無造作に一振りする。
瞬間──風が、嘶いた。
『ぐっ…』
「…………っ、うわ……ッ!」 凄まじいまでの衝撃波があたりを襲い、太刀筋の延長線上の空に、斬撃が飛んでいく。
上空を飛行していた人間たちは慌ててそれを回避し、その場を離脱していった。 だが次の瞬間、別の方向から、少女目がけて凄まじい出力の光線が放たれた。
「……っ!」 思わず目を覆う。
その光線はやはり少女の上空で見えない壁にでも当たったかのように掻き消された。あたかも夜空に打ち上げられた花火の如く、四方八方に煌きを散らして美しく弾け飛ぶ。
そしてその光線に続くように、士道の後方に何者かが舞い降りた。
「な、なんなんだよ次から次へと……ッ!」
『士道、とにかく逃げるぞ!考えるのは後だ!』
「逃げる……つったって、」
気になる事があり過ぎて思考が纏まらない…しかし、絶対に逃げなければならないというのも事実。佐藤の背に追いかける形で走り出す。
だが──そこに降り立った人影を見て、士道は身体を硬直させた。いや、性格には佐藤も動きを止めていた。
機械を着ている、とでも言うのだろうか。 全身を見慣れないボディスーツで覆った少女である。 背には大きなスラスターがついており、手にはゴルフバッグのような形状の武器を携さえていた。 士道が身を凍らせた理由は単純だった。
少女の顔に、見覚えがあったのである。
「鳶一──折紙……?」 今朝、殿町から教えてもらった名を呟く。 そう、そのやたらメカニックな格好をした少女は、クラスメートの鳶一折紙だった。 折紙がちらと士道たちを一瞥する。
「五河士道……、それに…転入生?」 そして、返答する。ぴくりとも表情を変えず。しかしほんの少しだけ、怪訝そうな色を声にのせて。
「……は? な、なんだその格好──」 間抜けな質問と自覚しながらも、そんな声を発する。 一気にいろんなことが起こりすぎていて、何から気にすればいいのかわからなかった。
「……って、佐藤!?」
さっきまで今此処に居た佐藤が姿を消している。折紙を見て身体を止め続けた士道と違い、すぐに佐藤は足を動かしたのだろう。
だが、折紙は構うわけもなくすぐにドレスの少女に向き直った。
それはそうだろう、何しろ、「──ふん」 少女が先ほどと同じように、手にした剣を折紙に向けて振り抜いたのだから。
折紙は即座に地面を蹴ると、剣の太刀筋の延長線上から身をかわし、そのまま素晴らしい速さで少女に肉薄した。
いつの間にやら折紙の手にした武器の先端には、光で構成された刃が出現している。
折紙はそれを、少女目がけて思い切り振り下ろした。「──ぬ」 少女が微かすかに眉根を寄せ、手にしていた剣でその一撃を受け止める。
──瞬間。 少女と折紙の攻撃が交わった一点から、凄まじい衝撃波が発せられた。「ちょ……ッ、う、わぁぁぁぁぁぁッ──!?」 情けない叫びを上げながら、身を丸めてどうにかそれをやり過ごす。
折紙が弾かれる格好で、二人は一旦距離を離すと、油断なく武器を構えて睨み合った。
「…………」
「…………」
士道を挟んで、謎の少女と折紙が、鋭どい視線を混じらせる。
まさに一触即発。何か小さなきっかけの一つでもあれば、すぐに戦闘が再開されてしまいそうな状態だった。
「…………っ」 士道としては気が気でない。 額に汗をびっしり浮かべながら、どうにか佐藤のようにこの場から逃れようと、じりじりと横に身体を擦っていく。
だが、そのとき、急にポケットの中の携帯電話が、軽快な着信音を響かせた。
「────!」
「────!」
それが、合図だった。 少女と折紙がほとんど同時に地を蹴り、士道の真ん前で激突する。「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!」 その圧倒的な風圧に、士道は情けなく転がされ、塀にぶつかって昏倒した。
〜〜〜◆〜〜〜
「今日は一段と早いわね。それで──状況は?」 真紅の軍服をシャツの上から肩掛けにした少女は、艦橋に入るなりそう言った。
「司令」 艦長席の隣に控えていた男が、軍の教本にでも書いてあるかのような綺麗な敬礼をする。 司令と呼ばれた少女はそれを一瞥だけして、男のすねを爪先で蹴った。
「おうっ!」
「挨拶はいいから、状況を説明なさい」
苦悶、というよりは恍惚とした表情を浮かべる男に言いながら、艦長席に腰掛ける。 男は、即座に姿勢を正した。
「はっ。精霊出現と同時に攻撃が開始されました」
「AST?」
「そのようですね」
AST。対精霊部隊アンチ・スピリツト・チーム。 精霊を狩り精霊を捕らえ精霊を殺すために機械の鎧を纏った、人間以上怪物未満の現代の
とはいえ──超人レベルでは、精霊に太刀打ちできないのが実状だった。
それくらい、精霊の力は、桁が違う。
「──確認されているのは一〇名。現在一名が追撃、交戦しています」
「映像出して」 司令が言うと、艦橋の大モニタに、リアルタイム映像が映し出される。 繁華街から通りを二つくらい隔てた広めの道路の上で、二人の少女が巨大な武器を振りながら交戦しているのが確認できた。
武器を打ち合うたびに光が走り、地面が割れ、建造物が倒壊する。およそ現実とは思えない光景である。
「やるわね。──でも、ま、精霊相手じゃどうしようもないでしょ」
「確かにそのとおりですが、我々が何もできていないのもまた、事実です」
「…………」 司令は足を上げると、ブーツの踵で男の足を踏みつぶした。
「ぐぎっ!」 男が、この上なく幸せそうな顔を作るのを無視し、司令は小さく嘆息した。
「言われなくてもわかっているわ。──見ているだけというのにも飽きてきたところよ」
「と、いうことは」
「ええ。ようやく
その言葉に、艦橋にいたクルーたちが息を呑むのが聞こえる。
「神無月」 司令は軽く背もたれに身体を預けるようにすると、小さく右手を上げ、人差し指と中指をピンと立てた。まるで、煙草でも要求するように。
「はっ」 男は素早く懐に手をやると、棒付きの小さなキャンディを取り出した。速やかに、しかし丁寧に包装を剥がしていく。
そして司令の隣に跪き「どうぞ」と、司令の指の間にキャンディの棒を挟み込んだ。 司令がそれを口に放り込み、棒をピコピコ動かす。
「……ああ、そういえば肝心の秘密兵器は? さっき電話に出なかったのだけれど。ちゃんと避難しているんでしょうね?」
「調べてみましょう──と、ん?」 男が、怪訝そうに首をひねる。
「どうかしたの?」
「いえ、あれを」 男が画面を指さす。司令はそちらに目をやり──「あ」と短い声を発した。 精霊とAST要員が武器を打ち合っている横で、制服姿の少年が伸びていたのである。
「……ちょうどいいわ。回収しちゃって」
「了解しました」 男は、またも折り目正しく礼をした。
■■■■■■■■■■■■■■■
『……ほんっと、歴史の変わり目っていうのは訳がわからんよ。』
日差しが出ていると実感させないほどに暗い路地裏の中。室外機の一つに腰を下ろす少年に………一人の少女は呆れた目をしていた。
しかし、その双眸はあまりにも奇異であった。
両目ともに左右で色が違う………いや、そこではない。
カチ、…カチ、…カチ、……
時を刻むようにその左目は秒針が動いていた。
コンタクト等とは形容できない程の異質さを持つ眼を佐藤に向ける少女は口を開く。
「聞きたいことは山程あるが…まずは君の話から聞こうか。」
『話すには話すが、アイツラは?来てもらわないと話すに話せないんだが─────』
と、佐藤が言った時。───何の変哲もないただの壁が〝開いた〟。もちろん、それがドアということなどではない……本当にただの壁が両開きのドアのように開けられていったのだ。
「うっ…、やっぱり……こっちの空気には慣れないです…」
大層顔を青くした、一人の少女がそこから出てきた。
長く白い髪…薄い水色の瞳…白いワンピースを着用し、どこか年齢以上に幼さを感じる少女である。
『やっと、来たか……。』
「あ、佐藤すわぁん………。」
『気色悪いから、薬飲めよ』
「普通に酷いッ?!」
─────────────────
『それで、お前らに聞くが…どうだここは。一人は…思い入れもあるんじゃないか?』ちらりとオッドアイの少女を一瞥し言った。
「え、えぇと…。私はやっぱり実感無かったですし、それに…外に出るためだけに〝アレ〟をしたのも地獄だったんですけど…。」
『……そうしないとお前死んだままなんだし、いつかはやる予定だったんだから別にいいだろ。……お前は?』ワンピースの少女に返答しつつ、俯くオッドアイの少女にも佐藤は尋ねた。
「───変わった。それが、第一印象だったね…。」
哀愁を感じさせるような声音でオッドアイの少女は返答する。
それを聞くと、ワンピースの少女はどこか悲しげに目線を下げた。
「そっか……、そうですもんね…。」
『それで?ここに来たらまた、昔の想いでも蘇ったか?』冗談めかすように佐藤が言うと、オッドアイの少女もまた、肩をすくめていった。
「まさか…、私にはあんな事はもう良いよ。それに、やろうとしても君が止めてくるだろう?」
オッドアイの少女が言った言葉にそりゃそうだ、と笑う佐藤。
『じゃあ、…本題に戻ろうか。……今後のことを……話そう。』