デート・ア・ライブIF 【エラー】   作:セルヴェイエ

7 / 38
はい。第四話です

皆さんご察知の通り原作要素はまだ強めです
というか佐藤が動かない限りそれ以外の場所は多少変わっても原作通りに進みます。

狂三とか美九ぐらいの時には結構動かす予定です。

さて、前話で佐藤とともに居た人物は誰なのでしょうか

多分誰も見ないと思うから一人語りになるとは思いますが今回もやって行こう


邂逅する双方【四】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──久しぶり。 

 

頭の中に、どこかで聞いたことのある声が響く。

 

 ──やっと、やっと会えたね、×××。

 

 懐かしむように、慈しむように。

 

 ──嬉しいよ。でも、もう少し、もう少し待って。

 

 だれだ、と問いかけるも、答えはない。

 

 ──もう、絶対離さない。もう、絶対間違わない。だから、

 

 

 

 

 

 

 不思議な声はそこで、途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜◆〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 「…………はっ!」 と士道は目を覚まし、「うわッ!」 とすぐさま叫びを上げた。

 

 それはそうだ。何しろ見知らぬ女性が指で士道の瞼を開き、小さなペンライトのようなもので光を当てていたのである。

 

「……ん? 目覚めたかね」 妙に眠たげな顔をした女は、その顔に違わぬぼうっとした声でそう言った。 気絶した士道の眼球運動を見ていたらしく、妙に顔が近い。シャンプーの匂いだろうか、微かにいい香りがした 「だ、だだだだダレデスカ」思わずカタコトになる。

 

 

「……ん、ああ」

 

 女はぼうっとした様子のまま体を起こすと、垂れていた前髪を鬱陶しげにかき上げた。 一定の距離が空いたことで、女の全貌が見取れるようになる。

 

 軍服らしき服をまとった、二〇歳くらいの女である。無造作に纏められた髪に、分厚い隈に飾られた目、あとはなぜか軍服のポケットから顔を覗かせている傷だらけのクマのぬいぐるみが特徴的だった。

 

「……ここで解剖官をやっている、村雨令音だ。あいにく医務官が席を外していてね。……まあ安心してくれ。免許こそ持っていないが、簡単な看護くらいならできる」

 

「…………」

 まるで安心できない。 だって明らかに、士道よりもこの令音という女性の方が不健康そうに見えるのである。

 

 実際先ほどから、体をふらふらさせている。 と、上体を起こした士道は、今の令音の言葉に引っかかりを覚えた。

 

「──ここ?」 言って、周囲を見回す。 士道は簡素なパイプベッドの上に寝かされていた。そしてその周りを取り囲むように、白いカーテンが仕切りを作っている。まるで学校の保健室のような空間だった。

 

 ただ少し異なるのは天井だった。何やら武骨な配管や配線が剥き出しになっている。

 

「ど、どこですか、ここ……」

 

「……ああ、〈フラクシナス〉の医務室だ。気絶していたので勝手に運ばせてもらったよ」

 

「〈フラクシナス〉……? ていうか気絶って……、あ──」 そうだ、士道は謎の少女と折紙の戦闘に巻き込まれ、気を失っていたのだった。

 

「……え、ええと、質問いいですか。ちょっとよくわからないことが多すぎて──」 頭をくしゃくしゃとやりながら声を発する。

 

 しかし令音は応じず、無言で士道に背を向けた。

 

「あ──ちょっと……」

 

令音:「……ついてきたまえ。君に紹介したい人がいる。……気になることはいろいろあるだろうが、どうも私は説明が下手でね。詳しい話はその人から聞くといい」

 

 言って、カーテンを開ける。カーテンの外は少し広い空間になっていた。ベッドが六つほど並び、部屋の奥には見慣れない医療器具のようなものが置かれている。

 

 令音は部屋の出入り口と思しき方向に向かって、ふらふらと歩みを進めていった。 が、すぐに足をもつれさせると、「……むう」 一応、倒れはしなかったらしい。

 

令音が壁にもたれかかるようにしながらうめく。「……ああ、すまんね。最近少し寝不足なんだ」「ど、どれくらい寝てないんですか」

 

 士道が問うと、令音は考えを巡らせるしぐさを見せてから、指を三本立ててきた。

 

「三日。そりゃ眠いですよ」

 

「……三〇年、かな?」

 

「ケタが違う!」

 三週間くらいまでだったら覚悟していた士道だったが、さすがに予想外の答えだった。 というか明らかに、彼女の外見年齢を超えている。

 

「……まあ、最後に睡眠をとった日が思い出せないのは本当だ。どうも不眠症気味でね」

 

「そ、そうですか……」が、すぐに足をもつれさせると、ガン! と音を立てて頭を壁に打ちつけた。「だ、大丈夫ですか!」

 

「……と。ああ、失礼、薬の時間だ」と、令音は突然懐を探ると、錠剤の入ったピルケースを取り出した。 そしてピルケースを開けると、錠剤をラッパ飲みの要領で一気に口の中に放り込んだ。

 

 

「っておいッ!」何の躊躇いもなく、夥しい量の錠剤をバリバリグシャグシャバキバキゴクンする令音に、思わずツッコミを入れる。

 

「……なんだね、騒々しい」

 

「いや、なんて量飲んでるんですか! ていうか何の薬ですか!?」

 

「……全部睡眠導入剤だが」

 

「それ死ぬッ!さすがにしゃれにならねぇ!」

 

「……でも今ひとつ効きが悪くてね」

 

「どんな体してるんですか!」

 

「……まあでも甘くて美味しいからいいんだがね」

 

「それラムネじゃねえの!?」

ひとしきり叫んでから、士道ははあとため息を吐いた。

 

 

「……とにかく、こっちだ。ついてきたまえ」令音がまたも危なっかしい足取りで歩みを進め、医務室の扉を開ける。

 

 

「──っとと」士道は慌てて靴を履くと、その後を追って部屋の外に出た。

 

「なんだ、こりゃあ……」部屋の外は、狭い廊下のような作りになっていた。淡色で構成された機械的な壁に床。士道はなんとなく、アニメとかに出てくる宇宙戦艦の内部や、映画で見た潜水艦の通路を思い出した。

 

士道はもう何が何だかわからないまま、ゆっくりと足を動かし始めた。

 

ふらふらと足元のおぼつかない令音の背だけを頼りに、映画のセットのような通路に、足音を響かせていく。

 

そして、どれくらい歩いた頃だろうか。「……ここだ」通路の突き当たり、横に小さな電子パネルが付いた扉の前で足を止め、令音が言った。次の瞬間、電子パネルが軽快な音を鳴らし、滑らかに扉がスライドする。

 

「……さ、入りたまえ」令音が中に入っていく。士道もその後に続いた。

 

「……っ、こりゃあ……」そして、扉の向こうに広がっていた光景に、目を見開く。一言で言うと、船の艦橋のような場所だった。士道がくぐった扉から、半楕円の形に床が広がり、その中心に艦長席と思しき椅子が設えられている。さらに左右両側になだらかな階段が延びており、そこから下りた下段には、複雑そうなコンソールを操作するクルーたちが見受けられた。

 

全体的に薄暗く、あちこちに設えられたモニターの光が、いやに存在感を主張している。

 

「……連れてきたよ」

 令音が、ふらふらと頭を揺らしながら言う。「ご苦労さまです」 艦長席の横に立った長身の男が、執事のような調子で軽く礼をする。ウェーブのかかった髪に、日本人離れした鼻梁。耽美小説にでも出てきそうな風貌のイケメン青年だった。

 

「初めまして。私はここの副司令、神無月恭平と申します。以後お見知りおきください」

 

「は、はあ……」 頬をかきながら、小さく頭を下げる。士道は一瞬、令音がこの男に話しかけたのだと思った。

 

だが──違う。「司令、村雨解析官が戻りました」 神無月が声をかけると、こちらに背を向けていた艦長席が、低いうなりを上げながらゆっくりと回転した。そして。

 

 

「──歓迎するわ。ようこそ、〈ラタトスク〉へ」

 

『司令』なんて呼ばれるには少々可愛らしすぎる声を響かせながら、深紅の軍服を肩掛けにした少女の姿が明らかになった。大きな黒いリボンで二つに括られた髪。小柄な体躯。丸っこい目。そして口にくわえたチュッパチャプス。士道は眉をひそめた。

 

だって、それはどう見ても

 

──「…………琴里?」 そう、格好、口調、それに全身から発する雰囲気など、違いは数あれど、その少女は間違いなく士道のかわいい妹・五河琴里だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜◆〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──五河、士道」 小さな、誰にも聞こえないくらいの声を発し、折紙は頭の中に彼の顔を思い浮うかべた。

 

 間違いなく、あのときの少年だった。折紙の記憶が、間違えるはずはない。

 

 少し残念ではあったけれど──会ったのはあれ一回きりだったし、向こうが折紙のことを覚えていないのは仕方がない。

 

高校に入学したときからあれこれと接触を試みていたが、全て失敗に終わっていたし。

 

 今はそれ以上に、気になることがあった。「なぜ、あんなところに」 空間震警報の鳴り響く街に、彼が出ていたのかがわからなかった。

 

 

 それに──彼は、間違いなく目にしていた。 特殊兵装を纏った折紙の姿と──精霊を。

 

ん? と、折紙小首を傾げた。あの時、もう一人 士道を守ってくれている人がいなかったか。

 

確か……「──佐藤」折紙は思い出したその人の名前を呟いた。

 

恐らくだが、彼も士道と同じく彼も秘匿情報を観測してしまっている……。

 

まぁ、あんなものを見ても佐藤とやらは兎も角、士道は下手に口外をする人間ではないだろう、明日…二人を口止めしないとな。と、彼女は嘆息した。

 

 

「鳶一一曹、準備整いました!」

 

と、「────」 突然響いた整備士の声に、折紙はうつむかせていた顔を上げた。 そしてすぐさま、頭の中に浮遊の指令を発現させる。

 

 するとその指令は折紙が身に纏った着用型接続装置(ワイヤリングスーツ)を通して、背に装着されたスラスターパーツに伝わり、内蔵された顕現装置(リアライザ)を発動させた。

 およそ飛行には向きそうもないフォルムの装備を纏った折紙の身体からだが、鈍重そうな武器ごと軽やかに宙に浮く。

 陸上自衛隊・天宮駐屯地。 その一角に位置する格納庫で、折紙は整備士の誘導に従いながら、自分の専用ドックに腰掛けるように着地し、武器を定位置に収めると、ようやく息を吐いて全ての顕現装置(リアライザ)を解除した。

 

 それと同時に、今まで欠片も感じていなかった装備の重量や身体に蓄積した疲労が、一気に折紙の身体を押さえつけた。 後方から機械音がして、背に装備していたスラスターの接続が解除される。 だがその後三分ほど、折紙はその場から立ち上がることができなかった。

 

 CR–ユニットを使用したあとは毎回こうである。超人から一般人に戻ると、それだけで身体が異様に重く感じてしまう。 戦術顕現装置搭載(コンバット・リアライザユニット)

 

通称CR–ユニット。 三〇年前の大空災の折、人類が手にした奇跡の技術・顕現装置(リアライザ)を、戦術的に運用するための装備の総称である。 コンピュータ上の演算結果を、物理法則を歪めて現実世界に再現する。 要は、制限付きではあるものの、想像を現実にする技術である。科学的な手段を以て、いわゆる『魔法』を再現するシステムと言うこともできた。 そして同時に──人間が精霊に、唯一対抗できる手段でもある。

 

「ちょっと退いて! 担架通るよ!」 と、右方から怒鳴るような声が響いてくる。

 

 ちらと視線だけを動かして見やると、折紙と同じくワイヤリングスーツに身を包んだ隊員が、担架に乗せられていることがわかった。

 

「……くそッ、くそッ、あの女……ッ! 絶対、絶対ぶっ殺してやる……ッ!」 担架に乗せられた隊員が、血の滲む額の包帯を押さえて、忌々しげにうめきながら運ばれていく。

 

「…………」 毒づく元気があるのなら大丈夫だろう。折紙は興味なさげに視線を戻した。 実際、医療用の顕現装置を用いて治療を行えば、よほど深刻な怪我でない限りはすぐに完治する。前に折紙が足を骨折したときも、翌日には歩けるようになっていた。

 

「────」 折紙は、細く息を吐くと同時、視線を少し上にやった。 今日の戦闘を思い起こす。

 

 ──世界を殺す災厄・精霊。 超人たる折紙たちが人束になろうとも、傷一つつけることが叶わない異常。

 

 どこからともなく現れ、気まぐれに破壊を撒いていく、天災的怪物。「…………」 結局今日の戦闘も、精霊の消失(ロスト)により幕引きとなった。

 

 消失(ロスト)、といっても、精霊は死んだわけではない。 要は、空間を越えて逃げられただけだ。 書類上はASTの働きによって精霊を撃退した、ということになるのだろうが──折紙を含め現場で直接戦っている隊員たちは皆、理解していた。 精霊がこちらのことを何の脅威とも思っておらず、消失(ロスト)するのも、精霊の気まぐれに過ぎないのだということを。

 

「…………っ」 表情はぴくりとも動かさず。 けれど、折紙は奥歯を強く噛み締めた。

 

「折紙」 と、そこで格納庫の奥から響いてきた声に、折紙は思考を中断させられた。

 

「…………」 無言で、そちらを向く。まだ身体が慣れていないのか、首がずっしりと重かった。 ワイヤリングスーツに搭載されている基礎顕現装置(ベーシック・リアライザは)、発動すると同時に自分の周囲数メートルに随意領域(テリトリー)を展開する。

 

 この領域がCR–ユニットの要だ。随意領域(テリトリー)。文字通り、使用者の思い通りになる空間のことである。 どんな外部衝撃をも緩和し、また、内部の重力さえも自在に設定することができる。この領域を展開している限り、折紙たちAST要員は超人となり得るのだ。

 

 だから逆に、CR–ユニット使用後は少しの間、身体が思うように動かせなくなるのである。「ご苦労さん」 そこには、折紙と同じくワイヤリングスーツを着込んだ、二〇代半ばくらいの女が、腰に手を当てて立っていた。

 

 日下部燎子一尉。折紙の所属するASTの隊長だ。「よく一人で精霊を撃退してくれたわね。……友原と加賀谷にはきつく言っとくわ。折紙一人に精霊任せて離脱するなんて」

 

「撃退なんて、していない」 折紙が言うと、燎子は肩をすくめた。

 

「上への報告はそうしとかなきゃなんないのよ。ちゃんと成果出てますってことにしとかなきゃ予算が下りないの」

 

「…………」

 

 「そう怖い顔すんじゃないの。褒めてんだから。エースが席を空けてる状況で、よく頑張ってくれてるわ。あんたがいなきゃ死んでた人間も、もう一人や二人じゃ済まないでしょうよ」 言って、ふうと息を吐く。

 

「ただねえ」 燎子は視線を尖らせると、折紙の頭を掴んで自分に向けさせた。

 

「あんたは少し無茶しすぎ。──そんなに死にたいの?」

「…………」 燎子は折紙に鋭するどい視線を向けたまま言葉を続けた。

 

「あんた、自分がどんな怪物相手にしてるか本当にわかって戦ってるの? あれは化物よ。知能を持ったハリケーンよ。──いい? できるだけ被害を最小限に抑えて、できるだけ早く消失(ロスト)させる。それが私たちの仕事よ。無駄な危険は冒さないようにしなさい」

 

「──違う」 折紙は燎子の目をまっすぐ見つめ返すと、小さく唇を開いた。

 

「精霊を倒すのが、ASTの役目」

 

「…………」 燎子が、眉根を寄せる。

 それはそうだろう。彼女はAST隊長。対精霊部隊の名の意味を、折紙よりずっと深く、重く理解しているはずだった。

 

 理解した上で、彼女は言っているのだ。 ──自分たちには、被害を抑えることしかできないと。 けれどそれを承知した上で、折紙はもう一度言った。

 

「──私は、精霊を、倒す」

 

「…………」 燎子は息を吐くと、折紙の頭から手を離した。

 

「……別に、個人の考えに口出すつもりはないわ。好きに思ってなさい。──でも、戦場で命令に背くようなら、部隊から外すわよ」

 

「了解」 折紙は短く答えると、ようやく馴染んだ身体を起こし、歩いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えぇ!?ちょっ……佐藤さん?!それ、本気で言ってます!?」

白く長い髪と薄い水色の瞳をした少女は佐藤に思わず食いつくように聞き入った

 

「はぁ……。なんでそんな計画に……、そもそも君が五河士道と接触するのも《ディーヴァ》が暴走し、貴方が助けて恩を売るという計画だったじゃないか!なんで君が来禅高校に転校しているんだ。彼女が聞いたら計画が早まりすぎて泡吹いて倒れるぞ…・・・元々あの男の子に3ヶ月間にも会うのを渋っていたチキンなのだから。」

 

オッドアイの少女は腕を組みながら苛立ち気に指をトントンと肘に打ち付けていた

 

 

『まぁ、そこは上手くやるさ』

佐藤は二人の反応にふっと微笑みながら軽く言った

 

 

「佐藤さん!そんな簡単に言っちゃダメですよ!なんですか、『《プリンセス》と五河士道のデートに乱入する』って!!」

白髪の少女はもう泣きそうな顔で言った

 

 

『何でも何も……、その通りの意味だよ。計画を変える。《ラタトスク》もとい《フラクシナス》と協力して精霊を救う』

 

 

「はぁ!?何言ってるんですか!そんな事したら私達もDEMとかASTに見つかる可能性が増えるんですよ!?」

 

 

『あぁ、大丈夫。動くのは私だけ、君たちは動かなくて良い。あっちで僕からの要請があるまで待機しておいてくれ』

 

 

その言葉に二人は頬をピクつかせ呆れてため息を吐いた。

 

 

「あー。はいはい、貴方が気分屋なの今に始まったことじゃありませんしぃ。別にー?いいですけどねー」と、明らかに怒りを抑えてため息を吐いた。

 

 

「で?気分屋の君に問いたいんだが、今現在だといつ頃に私達は出たらいいんだ?」

オッドアイの少女も首を傾げながら訪ねた。

 

 

『《ナイトメア》とアイツラが最初に戦うときだ』

 

 

佐藤の言葉に二人は体を強張らせた。

 

 

「《ナイトメア》……つまり、彼女…か。」

「やっぱり…。戦わないといけないんですね」

二人はどこか遠い目で答えた。

 

 

『まぁ、そうだな。流石に《ナイトメア》とお前らはともかくアイツを戦わせる──というか遭わせるのはお互いに気まずいと思うからな』と、佐藤も同調した。

 

 

「まぁ、どうせ大丈夫だろう。あの時も摩訶不思議に私達を救ったんだ。手立てはあるんだろう?」オッドアイの少女は意味ありげに微笑んだ。

 

 

佐藤は心底嫌そうに言った

『あるにはある……が、少々面倒くさいな。もう一週回って《フラクシナス》にカチコミに行ってこようかな………』

 

 

 

「絶対やめろ」

「絶対やめて下さい!」

同時に二人の少女からそう言われ、渋々佐藤は諦めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──で、これが精霊って呼ばれてる怪物で、こっちがAST。陸自の対精霊部隊よ。厄介なものに巻き込まれてくれたわね。私たちが回収してなかったら、今頃二、三回くらい死んでたかもしれないわよ? で、次に行くけど──」

 

 

「ちょ、ちょっと待った!」

 

 

 ペラペラと説明を始めた琴里を制するように、士道は声を上げた。

 

「何、どうしたのよ。せっかく司令官直々に説明してあげているっていうのに。もっと光栄に咽び泣いてみせなさいよ。今なら特別に、足の裏くらい舐めさせてあげるわよ?」

 

 軽くあごを上に向け、士道を見下すような視線を作りながら、琴里が琴里らしからぬ暴言を吐いてくる。

 

「ほ……ッ、本当ですか!?」 喜び勇んで声を上げたのは、琴里の横に立った神無月だった。琴里が即座に、「あんたじゃない」と鳩尾に肘鉄を放つ。

 

「ぎゃぉふッ……!」 そんなやりとりを眺めてから、士道は呆然と口を開いた。

 

「……こ、琴里……だよな? 無事だったのか?」

 

「あら、妹の顔を忘れたの、"士道"? 物覚えが悪いとは思っていたけど、さすがにそこまでとは予想外だったわね。今から老人ホームを予約しておいた方がいいかしら」 士道は頬に汗をひとすじ垂らした。 ついでにほっぺをつねってみる。痛かった。

 

 士道の可愛い妹は、お兄ちゃんのことを呼び捨てになんかしないはずなのだが。 士道は頭をかくと、困ったように声を発した。

 

「……なんかもう、意味がわからなすぎて頭の中がワニワニパニックだ。おまえ、何してんだ? ていうかここ、ドコだ? この人たち、何だ? それに──」

 

 

 琴里が、はいはい、と言いたげに手を広げて士道の言葉を止めさせる。

 

 

「落ち着きなさい。まずはこっちから理解してもらわないと、説明のしようがないのよ」 言って琴里が、艦橋のスクリーンを指す。 そこには、先刻士道と佐藤が遭遇した黒髪の少女と、機械の鎧を纏った人間たちが映し出されていた。

 

「ええと……精霊……って言ったっけ?」 士道は頬をかきながらそう言った。確か、先ほど琴里がそう説明していた気がする。 不定期に世界に出現する、正体不明の怪物。

 

「そ。彼女は本来この世界には存在しないモノであり──この世界に出現するだけで、己の意思とは関係なく、あたり一帯を吹き飛ばしちゃうの」

 

 琴里が両手をドーン! と広げ、爆発を表現する。 士道は、額に手をあてて渋面を作った。「……悪い、ちょっと壮大すぎてよくわかんねぇ」

 

 すると、琴里が「ここまで言ってわからない?」と肩をすくめながらため息を吐いた。

 

「空間震、って呼ばれてる現象は、彼女みたいな精霊が、この世界に現れるときの余波だって言ってるのよ」

 

「な──」 士道は思わず眉根を寄せた。 空間の地震。空間震。

 

 人類を、世界を蝕む理不尽極まる現象。 その原因が、あの少女だというのか──?「ま……規模はまちまちだけどね。小さければ数メートル程度、大きければ──それこそ、大陸に大穴が開くくらい」 琴里が、両手で大きな輪を作る。

 

 三〇年前確認された最初の空間震──ユーラシア大空災のことを言っているのだろう。「運がいいわよ士道。もし今回の爆発規模がもっと大きかったら、あなた一緒に吹っ飛ばされてたかもしれないんだから」「……っ」 確かに、その通りである。

 

士道は今さらながら身を竦ませた。 琴里が、そんな士道の様子に半眼を作る。

 

その時、士道はその事を思い出した。

「あっ……。そうだ! 琴里、俺の近くにもう一人居なかったか!?」

士道は大慌てで聞いた。

 

「は?もう一人……って──」

琴里は「そうなの?」と、神無月に確認を取るように目を向けた。が、「いえ、少なくとも私が確認した際にはそんな人物は居ませんでしたが……。そこの少年の勘違いでは?」

 

「ふむ、私も確認してみたが彼のように伸びている人物は……見受けられないね」

令音はモニターも見ながら答えた。

 

 

 

「……え、だって。さっきまで」

士道は混乱しながら言葉を詰まらせていた。

 

琴里は士道の様子を見て

「神無月、士道を拾った周囲一kmにカメラを飛ばして行方不明者を捜索しなさい!」

と、命令した。

 

「了解!」

神無月含むクルーたちが頷いた。

 

 

「で、これで良いかしら?」

琴里は士道の方を見つめ言った。

 

「あ、あぁ…ありがとう」

士道はなんと言ったら良いか分からずとりあえず頷いた。

 

そして、話を戻すように琴里は半目を作った。

「だいたい、なんで警報発令中に外に出てたの? 馬鹿なの? 死ぬの?」

 

「いや……だっておまえ、これ」

 士道はポケットから携帯電話を取り出すと、琴里の位置情報を表示させた。

 

やっぱり、琴里の位置表示アイコンはファミレスの前で停止している。

「ん? ああ、それ」 しかし琴里は、懐から携帯電話を取り出して見せた。

 

「あ……? なんでおまえ、それ」

 士道は自分の携帯画面と、目の前に掲かかげられた琴里の携帯電話を交互に見つめた。

 

こんなところに琴里がいるものだから、てっきりファミレス前に携帯を落としてきたのかと思っていたのだ。 琴里は肩をすくめると、ふぅと嘆息した。

 

「なんで警報発令中に外にいたのかと思ったら、それが原因だったのね。私をどれだけ馬鹿だと思ってるのかしらこの阿呆兄は」

 

「いや、だって……え、ていうか、なんで──」

 

「簡単よ。ここがファミレスの前だから」

 

「は……?」

琴里の言葉に士道は変な声をあげた。

 

「ちょうどいいわ。見せた方が早いでしょ。──一回フィルター切って」

 琴里が言うと、薄暗かった艦橋が一気に明るくなった。 とはいえ、照明が点けられたわけではない。どちらかというと、天井にかけられていた暗幕を一気に取り払ったような感じだ。

 

 事実──あたりには、青空が広がっていた。「な、なんだこりゃ……ッ」

 

「騒がないでちょうだい。外の景色がそのまま見えてるだけよ」

 

「外の景色って……これ」「ええ。ここは天宮市上空一万五〇〇〇メートル。──位置的にはちょうど、待ち合わせしてたファミレスのあたりになるかしらね」

 

 

「ここ、って……」

 

「そう。この〈フラクシナス〉は、空中艦よ」

 腕組みし、琴里がふふんと鼻を鳴らす。まるでお気に入りの玩具を自慢する子供のように。否──どちらかというと、手塩にかけて育てた我が子を紹介する教育ママといった方が近いかもしれなかった。

 

「く、空中艦ん……っ? なんだよそりゃ。なんでおまえがそんなのに──」

 

「だから順を追って説明するって言ってるでしょう? 鶏だって三歩歩くまでは覚えてるでしょうに」

 

「む……」

 

「……でも、ケータイの位置確認で調べられちゃうなんて盲点だったわね。顕現装置(リアライザ)不可視迷彩(インビジブル)自動回避(アヴォイド)かけてたから油断してたわ。あとで対策打っておかないと」

 琴里が、よくわからない単語を呟きながらあごに手を置く。

 

「な、何言ってるんだ?」

 

「ああ、気にしないで。そこまで士道に期待していないから。グラム当たりの値段でいったら毛蟹に負けるくらいの脳だものね」

 

「…………」

 

「司令。蟹味噌は脳ではなく中腸線です」

 士道が頬に汗を垂らしていると、神無月が穏やかな声でそう言った。

 

「…………」 琴里はちょいちょい、と手招きをすると、神無月に腰を折らせた。

 

 そしてその目に向けて、プッ、と舐め終わったキャンディの棒を吹き出す。

 

「ぬぁォうッ!」 目元を押さえ、神無月が後方へ転がった。

 

「だ──大丈夫ですかッ!」

 流石に洒落にならないと思い士道は声を上げた。

 

 しかしその場に駆かけ寄よろうとしたところで足を止める。 床に転がった神無月が、恍惚とした表情で懐からハンカチを取り出し、今し方琴里が放ったキャンディの棒を丁寧に包み込んでいた。

 

「おっと、心配させてしまいましたか? 大丈夫、我々の業界ではご褒美です!」

 

 言って、神無月がピョンと立ち上がり、完璧な直立姿勢を作る。 どんな業界だろうか。あまり深くは知りたくなかった。

 

「神無月」

 

「はっ」 琴里が指を二本立てると、神無月が代わりの飴を取り出し、手渡した。

 

「それと、次はこっちね。AST。精霊専門の部隊よ」 言って、琴里がスクリーンに映し出されていた一団を示す。

 

「……精霊専門の部隊って──具体的には何してるんだよ」 士道が問うと、琴里は当然と言うように眉を上げた。

 

「簡単よ。精霊が出現したら、その場に飛んでいって処理するの」

 

「処理……?」

 

 

 

「要は"ぶっ殺すってこと"」

 

「…………ッ!」 琴里の言葉をまったく予想していなかったわけではない。

 

 しかし──士道は心臓が引き絞られるかのような感覚に襲われた。

 

「こ、殺す……?」

 

「ええ」 こともなげに、琴里がうなずく。 士道はごくりと唾液を飲み込んだ。動悸の音が、やけにうるさい。

 

 言っていることは理解できた。精霊。なるほど確かに危険な存在だ。 でも──いくらなんでも、殺す、だなんて。 ふと、士道の脳裏に、あの少女の顔が浮うかんできた。

 

(──だっておまえたちも、私を殺しに来たんだろう?) 少女があんなことを言った意味が、ようやくわかった。 そしてあの、今にも泣き出してしまいそうな顔の意味も。

 

「まあ、普通に考えれば死んでくれるのが一番でしょうね」 特に感慨もなさそうに琴里が言う。

 

「な、なん……っ、でだよ」

 

 

   「なんで、ですって?」

 

 士道が表情を歪ゆがめながらうめくように言うと、琴里が興味深そうにあごに手を当てた。

 

「何もおかしいことはないでしょう。あれは怪物よ? この世界に現れるだけで空間震を起こす最凶最悪の猛毒よ?」

 

「だっておまえ、言ったじゃねえか。空間震は、精霊の意思とは関係なく起こるって」

 

「ええ。少なくとも現界時の爆発は、本人の意思とは関わりないというのが有力な見方よ。

 

──まあ、そのあとASTとドンパチした破壊痕も空災被害に数えられるけどね」

 

「……それは、そのASTって奴やつらが攻撃するからだろ?」

 

「まあ、そうかもしれないわね。──でもそれはあくまで推測。もしかしたら、ASTが何もしなくても、精霊は大喜びで破壊活動を始めるかもしれない」

 

「それは……ねえだろ」 士道が言うと、琴里が不思議そうに首を傾かしげた。

 

「根拠は?」

 

「好きこのんで街を壊すような奴は……あんな顔、しねえんだよ」 それは根拠と呼ぶにはあまりに曖昧で薄弱なものだったが……なぜだろうか、士道はそれを心の底から確信していた。

 

「本人の意思じゃねえんだろ? それなのに──」

 

「随意不随意かなんて、大した問題じゃないのよ。どっちにしろ精霊が空間震を起こすことに変わりはないんだから。士道の言い分もわからなくはないけれど、かわいそうって理由だけで、核弾頭レベルの危険生物を放置しておくことはできないわ。今は小規模な爆発で済んでるけれど、いつユーラシア級の大空災が起こるかわからないのよ?」

 

「だからって……殺すなんて」

 士道がしつこく追いすがると、琴里はやれやれと肩をすくめた。

 

「数分程度しか接点のない、しかも自分が殺されかけた相手だっていうのに、随分精霊の肩を持つじゃない。……もしかして、惚れちゃった?」

 

「っ、違ちげぇよ。ただ、もっと他に方法があるんじゃねえかって思うだけだ」

琴里からのからかいの言葉に士道は目を逸らしながら答えた。

 

 

「方法、ねぇ」 士道の言葉に、琴里はふうと息を吐はいた。

 

「それじゃあ訊くけれど、どんな方法があると思うの?」

 

「それは──」 言われて、言葉が止まる。 頭では、琴里の言うことが理解できてしまっているのだ。 出現するだけで世界に深刻な爪痕を残す異常──精霊。

 

 そんなものは、迅速に殺さねばならないのだろう。 でも。たった一瞬だけれど。 士道は見てしまった。少女の、今にも泣き出してしまいそうな顔を。

 

 士道は聞いてしまった。少女の、悲痛な声を。 ──ああ、これは、なんか違うと、思ってしまった。「……とにかく」 士道の口は、自然と言葉を紡いでいた。

 

「一度……ちゃんと話をしてみないと……わかんねえだろ」 あのとき直面した死の恐怖は、未だ身体からだの奥底に刻まれている。 正直、あの時佐藤が居なかったら本当に死んでしまっていたかもしれない。逃げ出したくなるくらい怖い。 でも士道には、あの少女をこのまま放っておくことができなかった。 だって彼女は──士道と同じだったのだから。

 

 そんな士道の言葉に、琴里はニヤリと唇の端を上げた。 その言葉、待ってました、と言わんばかりに。「そう。──じゃあ、手伝ってあげる」

 

 

「は……?」 士道が口をぽかんと開けると同時、琴里が両手をバッと広げた。

 

 令音を、神無月を、下段に広がるクルーたちを、そしてこの空中艦──〈フラクシナス〉を示すように。「私たちが、それを手伝ってあげるって言ったのよ。〈ラタトスク機関〉の総力を以て、士道をサポートしてあげるって言ってるのよ」 琴里が優雅がな所作で膝の上で指を絡ませる。「な、なんだよそれ。意味が──」

 

「最初の質問に答えてあげるわ。私たちが何なのか、を」

 士道の言葉を遮さえぎるように、琴里が声を上げた。

 

「いい? 精霊の対処方法は、大きく分けて二つあるの」

 

「二つ……?」 士道が問うと、琴里は大おお仰ぎようにうなずき、人差し指を立てた。

 

「一つは、ASTのやり方。戦力をぶつけてこれを殲滅する方法」

 次いで、中指を立てる。

「もう一つは……精霊と、対話する方法。──私たちは〈ラタトスク〉。対話によって、精霊を殺さず空間震を解決するために結成された組織よ」

 

「…………」

 士道は眉をひそめて考えを巡せた。その組織とは何なのかとか、なぜ琴里がそんなところに所属しているのかとか、気になることはたくさんあったのだが──とにかく、今もっとも気にせねばならないことを口に出す。

 

「……で、なんでその組織が俺をサポートするって話になるんだよ」

 

「ていうか、前提が逆なのよ。そもそも〈ラタトスク〉っていうのは、士道のために作られた組織だから」

 

「は、はぁ……ッ!?」

 士道は今までで一番盛大に表情を崩すと、素っ頓狂な声を上げた。

 

「ちょっと待て。今まで以上に意味がわからん。俺のため?」

 

「ええ。──まあ、士道を精霊との交渉役に据えて、精霊問題を解決しようって組織って言った方が正しいのかもしれないけれど。どちらにせよ、士道がいなかったら始まらない組織なのよ」

 

「ま、待てって。どういうことだよ。この人たちが、全部そんなことのために集められたってことか? ていうかなんで俺なんだよ!」

 

 士道が問うと、琴里はキャンディを口の中で転がしながらうなった。

「んー、まあ、士道は特別なのよ」

 

「説明になってねぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

 

たまらず、叫ぶ。 しかし琴里は不敵に笑うと、肩をすくめる仕草をして見せてきた。

 

「まあ、理由はそのうちわかるわ。いいじゃない。私たちが、全人員、全技術を以て士道の行動を後押ししてあげるって言ってるのよ? それとも──また一人で何の用意もなく精霊とASTの間に立つつもり? 死ぬわよ、今度こそ」

 琴里が半眼を作り、冷淡な口調で言ってくる。

 

士道は思わず息を呑んだ。 確かに、琴里の言うとおりである。士道は理想と希望を唱えているだけで、それを実現させる手段を持っていない。

 

 言いたいことはのどの奥からあふれ出るほどにあったが、なんとかこらえて、話を進める問いのみを発する。「……その、対話ってのは、具体的に何するんだよ」

 

 言うと、琴里は小さく笑みを浮かべた。「それはね」

 

 そしてあごに手を置き、「精霊に──恋をさせるの」 ふふんと得意げに、そう言った。 ………………。

 

 しばしの間のあと。「…………はい?」 士道は、頬に汗をひとすじ垂らし、眉をひそめた。「……すまん、ちょっと意味がわからん」

 

「だから、精霊と仲良くお話ししてイチャイチャしてデートしてメロメロにさせるの」 さも当然のごとく言う琴里に、士道は頭を抱かかえた。

 

「……ええと、それで何で空間震が解決するんだ?」

 琴里は指を一本あごに当てながら「んー」と考えるような仕草を見せたあと、「武力以外で空間震を解決しようとしたら、要は精霊を説得しなきゃならないわけでしょ?」

 

 

「そうだな」

 

「そのためにはまず、精霊に世界を好きになってもらうのが手っ取り早いじゃない。世界がこんなに素晴らしいモノなんだー、ってわかれば、精霊だってむやみやたらに暴れたりしないでしょうし」

 

「なるほど」

 

「で、ほら、よく言うじゃない。恋をすると世界が美しく見えるって。──というわけで〝デートして、精霊をデレさせなさい!〟」

 

「いや、そのりくつはおかしい」 明らかに論理が飛躍している。

 

士道は頬に汗を垂らしながら言った。「おッ、俺はそういうやり方じゃなくてだな……」

 

「黙りなさいこのフライドチキン」

 士道が反論しかけると、琴里が有無を言わせぬ強い口調で遮ってきた。

 

「ASTが精霊殺すの許せましぇ~ん、もっと他に方法があるはずでちゅ~、でも〈ラタトスク〉のやり方はイヤでちゅ~……って? 甘えるのも大概にしなさいよこのミイデラゴミムシ。士道一人で何ができるっていうの? 身の程を知りなさい」

 

「ぐ、ぬ……」

 

「──腹の底では全部に賛同してなくったっていいわ。でも、あなたがもし精霊を殺したくないっていうのなら……手段は選んでいられないんじゃないの?」

 

 なんともまあ、悪そうな笑みを琴里が浮かべる。 実際、その通りだった。 なんの力も後盾もない士道が、もう一度あの精霊の少女と話がしたいと願っても、まず叶うまい。

 

 ASTのやり方は論外だし──琴里たちだって、要は精霊を籠絡していいように利用しようとしているようにしか思えない。

 

 だけれど──他に方法がないのも事実だった。「……っ、わかったよッ」 士道が苦々しくうなずくと、琴里は満面の笑みを作った。

 

 

「それと、神無月!士道が言った男、見つかったかしら?」

 

 

「いえ、まだ捜索中です」

神無月はモニターとにらめっこしながら答えた

 

「ふむ。見当たらないね」

令音も顎に手を当てながら考えるように返答した。

 

「……?おかしいわね。ていうかそもそも、なんでアンタは私を探しに来るのに一般人を巻き込んでんのよ。」琴里は士道の脛あたりをげしげしと蹴った。

 

 

「っ…、いや確かに学校から抜け出したのは俺だけど。いつの間にか佐藤も居たんだよ」

 

 

「佐藤…って、その人の名前?」

琴里は小首を傾げ尋ね

る。

 

「あぁ、精霊とAST達からの余波から守ってくれたんだよ。多分あいつが居なかった1回くらい死んじゃってたかもな……」

 

 

「へぇ〜、どうせ死ななかったと思うけど。その人は早く見つけてお礼言わないとね」

 

「お礼?」

 

「えぇそうよ。『馬鹿な阿呆兄を助けてくれてありがとうございます』ってね」

皮肉げに琴里は言い放った。

 

「悪かったな……。──っていうか、佐藤は無事なのか?」

 

「えぇ、恐らくね。ASTが居るなら保護されてると思うわ」

 

その時、神無月が報告した。

「先ほど士道くんが言った少年。見つかりました。今は爆心地からも離れ、路地の中に居ます」

 

その言葉に士道は心の底から安堵したように息を吐いた。

 

そして琴里は話を終わらせるように。

「んじゃあ、細かいことは明日話すわ…今までのデータから見て、精霊が現界するのは最短でも一週間後。早速明日から訓練よ。あと、その佐藤って人にも空間震と精霊、ASTのことぐらいは話しておいて」

 

 

 

「は……?」 士道は、呆然と呟いた。

 

 

 

 

 

〜〜〜◆〜〜〜

 

 

 

そして、次の日。

 

 

『災難だったなぁ。五河士道』

ケラケラと士道を笑うのは昨日転校してきた佐藤だった。

 

 

 

 四月一一日、火曜日。

 士道と佐藤がおよそ現実とは思えない不思議体験をした日の翌日である。 結局あのあと士道は別室に移され、知らないオジサンに事態の詳細な説明を深夜まで延々聞かされたあと(正直、最後の方はあまり記憶がない)、何やら様々な書類にサインをさせられてからようやく家に帰された。 風呂にも入らずベッドにダイブして、気づけば朝である。

 

 

気怠い身体を引きずって登校してきた後に話しかけられた。

「………」

恨めしい目で見つめる士道をよそに佐藤は後ろで心底面白そうに笑っていた。

 

「あれ?おいおい、五河ー?もう転校生くんと仲良くなったのか?」

面倒くさいやつが増えた。過労でぶっ倒れそうなのに、なんでこいつも話しかけてくるんだよ。

 

 

『あぁ、はじめまして。僕は佐藤…あなたのお名前は?』

ペコリと佐藤は殿町にお辞儀をする。礼儀良いやつだな…と士道は思った。

 

 

「これはどうも。私の名前は殿町宏人、佐藤さんよろしくお願いします」

なにか感化されたのか、妙に気色悪い声でわざとらしく丁寧に言った。

 

 

「急に気持ちわりいなお前」

眠たげに面倒くさそうに士道は言った。

 

『ふふっ……。殿町宏人ね、よろしく』

佐藤は微笑みながら殿町と謎に熱い握手をした。

 

そうして、殿町と佐藤は雑談を始めた。

 

 

(佐藤ってコミュ力高いんだなー)

そんな適当なことを考えながら、"あの事"を佐藤にどう話すかを模索していた。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜◆〜〜〜

 

 

 

 

 

その後。

 

 

 

士道が眠い目を擦りながらなんとか授業に耐え、帰りのホームルームが終わり佐藤に話しかけた……その瞬間の出来事だった。

 

「来て」

 

「へ?」

『ん?』

 

突然。 士道と佐藤は折紙に手を掴まれ、素っ頓狂な声を発した。

 

「あ、ちょ、ちょっと……」 

『なんで俺まで……』

佐藤は戸惑い─というより、厄介事に巻き込まれて面倒くさいといった顔をしていた。

 

佐藤も士道も周りから少し変な目で見られながら折紙に引っ張られて教室を出ていく。

 

 

折紙は無言のまま階段を上り、しっかりと施錠された屋上への扉の前までやってきて、ようやくその手離した。 下校する生徒たちの喧噪が、随分遠くに聞こえる。

 

 人がいる場所から一〇メートルも離れていないのに、まるで隔絶されたかのような寂さのある空間だった。

 

「え、ええと……」 なんというか、折紙にその気がないのはわかっているのだが、女の子にこんな場所に連れてこられると、照れる。士道は視線を泳がせた。

 

『で、俺達になんの用だ?鳶一折紙』

 

折紙は何の表情もなく、「昨日、なぜあんなところに貴方達はいたの」

 

 そう、二人の目をじっと見つめながら言った。

 

「や、妹が警報発令中に街にいたみたいで、探しに……」

 

「そう。──見つかったの?」 士道が答えると、折紙はぴくりとも表情を変えないままそう言った。

 

「──ッ、あ、ああ……おかげさまで」「そう。よかった」 折紙はそう言うと、続けて唇を動かした。

 

「──で、あなたは?」

折紙は佐藤の方を向いて又も無表情で尋ねる。

 

『僕は──、まぁコイツが危ないと思ったからついて行っていただけだ。案の定、予想通り危なかったしな』士道のに目を向けながら答える。

 

「そう。士道を助けてくれたの」

 

『んまぁ、そうなるかな?』

 

士道は冷や汗を垂らす。実際に佐藤があの場にいなかったらかなり危なかったと理解していたからだ。琴里は大丈夫だとか言ってたけどなんの確証を持っていってるんだか。

 

『で、要件は何だ?まさか、それで終わりなわけ無いよな?』

佐藤は鋭い目で折紙を見つめた。

 

 

「──昨日、あなた達は私を見た」

 

「あ、ああ……」

『………』

 

「誰にも口外しないで」

 

 士道と佐藤が首肯するのと同時に、折紙が有無を言わせぬ迫力で言ってきた。

 もしここで「バラされたくなかったら俺の言うことを聞くんだなあげっへっへ」とか言ったらどんな反応が返ってくるのだろう、なんて危険な好奇心が顔を出す。

 

 が、さすがに士道にそんな度胸はなかった。そもそも佐藤の前でしない……いやまぁ佐藤が例え居なくてもしないけど──ホントだよ?

 

こくこくと士道は首を前に倒す。

 

が、しかし…

『嫌だ…と言ったら?』

佐藤は相手を値踏みするかのような顔で言った。

 

 

 

「………」

「………」

士道も折紙も無言になる。

 

 

佐藤はやれやれとため息を吐きながら士道に小声で士道に言った。

『昨日意味不明な光景を見たばかりだぞ?せめて説明を要求しないと駄目だろ』

と、至って冷静に答えた。

 

そうか、と士道は納得する。

士道はASTや精霊のことについて説明を受けたが佐藤は何も知らないんだった。

 

……ていうか、なんでコイツこんな冷静なんだ。というか良かった良かった、先ほど士道が考えていた下劣極まる行為を佐藤がするかもしれないという最悪すぎる想像をしたからだ。士道は心の底から安堵する。

 

 

「説明ならきちんとする。それで良い?」

佐藤の小声が聞こえていたのか折紙はそう言った。

 

『それなら良いさ。で、あの騒ぎの中心に居た女はなんだ?明らかに人間じゃないと思うんだが』

 

士道もその答えを聞きたかった。精霊のことは一通り〈ラタトスク〉から聞かされていたが、あくまであれは琴里たちの組織の見解。実際に刃を突き合わせている折紙たちなら、また違った考えを持っているのではないかと思ったからだ。

 

「あれは、精霊」

 折紙は、短く答えた。

 

「私が倒さなければならないもの」

 

『精霊…ね』

佐藤が深く考えるのを見ながら

「……そ、その精霊ってのは、悪い奴なのか……?」

 士道は、そんな質問を投げてみた。 すると微にだが、折紙が唇を噛みしめた気がする。

 

「──私の両親は、五年前、精霊のせいで死んだ」

 

『…………』

「……な──」 予想外の答えに、士道は言葉を詰まらせた。

 

 

「私のような人間は、もう増やしたくない」

 

「……そ、うか──」 士道は、自分の胸に手を置いた。 

 

『もう一つ。お前たちは何者だ?俺みたいな一般人からすればその精霊とやらもお前らもどっちにしろ化け物にしか見えない。』

 

「私達は……AST。精霊を武力にて抹殺するのが目的の組織」

抹殺という単語に士道は顔をうつむかせた。

 

『……なるほどな。抹殺ね…』

 

「それで質問は終わり?」

 

『あぁ、質問は終わりだ。けど、最後に一つ良いか?』

 

「なに?」

 

『その情報。言って良いものなのか?確かに質問したのは俺だが』

 

「…………」 折紙は、一瞬黙った。

 

「問題ない」

 

『なぜ?』

 

「あなた達が口外しなければ」

 

「……もし話したら?」

思わず士道は尋ねる。

 

「…………」 また、一瞬だけ言葉を止める。

 

 

「困る」

 

「そ、そうか……そりゃ大変だな。……約束するよ、誰にも言わない」

 

『こんなとんでもない事を口外して消されたりしても面倒だしな。わざわざ言わないよ』

 

 こくり、と折紙が首肯する。

 

 

 

 

 その会話を最後に、折紙は士道と佐藤から視線を外し、階段を下りていった。

 

「……ふぃぃ……」 士道は折紙の背が見えなくなってから、壁かべに背をついて息を吐いた。ただ話をしただけなのに、やたらと緊張した気がする。

 

「両親が、精霊のせいで死んだ──か」 ゴン、と壁に頭をつけ、呟くように言う。

 

 世界を殺す災厄とさえ呼ばれる精霊だ。そういうことも──あるのだろう。……やっぱり、俺が甘いだけなのか……? 折紙も、琴里も、方向は違えど、確固たる信念の下に動いている。

 

 

『どう思う?』

横で同じくため息を吐く佐藤が訪ねてくる。

 

 

「どうって……。もう何がなんだか分かんねぇよ」

吐き捨てるように士道は呟く。

 

 

「お前はどうなんだ?」

 

 

数巡のあと

『………一つ。気になることがある』

顎に手を当てがいながら考え込むように佐藤は呟いた。

 

 

「気になること?」

 

 

あぁ、と佐藤は頷きながら続けて

『種類だ…』

そう呟いた。

 

 

「種類?」

なぜそんな言葉が出たのか疑問に思い尋ねる。

 

 

『あいつは"抹殺"と言った。単数の存在にそんな言葉を使うか?』

 

 

「……確かに」

そうだ、琴里たちからそこは明確に言われていないんだった。もしかしたら精霊にも良いやつと悪いやつがいるのかもしれない、士道はそう思った。もし精霊が複数形で居るなら…あの子は救えるかもしれない。

 

というか佐藤、この会話でそのことにも察せたのか…どんだけ冷静なんだ。なんかカッコいいな…。士道は素直に感心してしまう。

 

 

『んまぁ。今日はもう帰るか…昨日の今日だ、流石に疲れた』

うんざりとしながら佐藤は立ち上がり体を伸ばした。

 

士道も首肯し二人で階段を降りて玄関に向かうと途中……

 

 

「あ?」

と、士道は思わず立ち止まる。

 

『……どうかしたか?』

 

「いや、あれ……」 視線の先を、担任のタマちゃん教諭が歩いていたのだが──その後ろに、どうも見覚えのある、髪を二つ結びにしたちっこい影がついて回っていたのである。

 

「あ!」 士道の視線に気づいたのだろうか、ちっこい影──琴里が表情をパァッと明るくした。

 

「おにーちゃぁぁん!」 瞬間、琴里が、吸い込まれるように士道の腹に突撃してくる。

 

「はがぁ……っ!」

「あははは、はがーだって! あはははは!」

「こ、琴里……っ!? おまえなんだって高校に……」

 

 士道が腹にまとわりつく琴里をどうにか引き剥がしながら言うと、琴里の後ろからタマちゃん教諭がトテトテと歩いてきた。

 

「あ、五河くん。妹さんが来てたから、今校内放送で呼ぼうとしてたんですよぅ」

 

「は、はあ……」 よく見ると、琴里は来賓用のスリッパを履き、中学の制服の胸に入校証をつけていた。きちんとした手続きを踏んで学校に入ってきたらしい。

 

「おー、先生、ありがとー!」

 

「はぁい、どういたしましてぇ」

 元気よく手をブンブンと振る琴里に、先生がにこやかに返す。

 

「やー、もうっ、可愛い妹さんですねぇ」

 

「はあ……まあ」 士道は頬に汗を垂らして苦笑しながら、曖昧な返事をした。

 

 先生は琴里と笑顔で「バイバイ」と手を振り合うと、職員室の方に歩いていった。

 

『仲の良いご兄弟だな』

完全に蚊帳の外だった佐藤が言ってくる。

 

「およ?あなたお兄ちゃんのお友達かー?」

琴里が小首を傾げながら尋ねる。

 

『ただのクラスメイトだよ』

佐藤は呆れながら答える。

 

「私の名前は……」

これ以上うるさくなる前に士道は後ろから軽く琴里の口を手で覆った。

 

「こいつは俺の妹の琴里だ。あー…まぁ見かけ通りの性格だ」

それから士道の手から逃れるように暴れる琴里をよそに代わりに名前を言った。

 

そして、士道の魔の手から逃れた琴里は士道に言った。

「お兄ちゃん…・・・もしかして、この人が佐藤さん?」

妙に期待が込められた声音で言った。

 

『俺の名前は佐藤だが……』

 

「おー!やっぱりー!じゃあ、お兄ちゃん。あのことってもう話したよね?」

そして、ぐるんと向きを変えて士道に尋ねてくる。

 

「話したっていうか……話された?」

 

「……とにかくー この人は知っているってことでいいんだよね?」

強調して聞いてくる。

 

「まあ、知ってはいる……かな」

濁しながら士道は答えた。

 

 

『何の話だ?』

訝しげな目で佐藤は琴里に尋ねるのだが。

 

 

その時…

「その説明は私がしよう」

急に現れたその声の主を見て士道は「あ、あんたは……」と声を出した。

 

それもそのはず、長い前髪に分厚い隈、白衣を着てその胸ポケットにはつぎはぎのクマの人形があった。少しは変装する気があるのか眼鏡なぞかけていたが分かり易すぎて士道は簡単に気付いた。

 

 

『ていうかアンタ誰だよ』

急な登場に思わず鷹禾はツッコんだ。

 

 

「琴里……これ、どういうことだよ」士道は思わず隣にいる琴里に小声で話しかける。が、さして琴里は質問に答えず令音に話しかける。

 

 

「琴里、少し早いね。私のほうが出遅れてしまったよ」

 

 

 

「うん、途中で〈フラクシナス〉に拾ってもらったからね」

当たり前のように秘匿情報を喋る琴里に士道は何か言おうとしたが諦めて額に手をつけた。

 

 

 

『……〈フラクシナス〉?…おいちょっと待て。なんか滅茶苦茶面倒くさそうな事に俺巻き込まれてないか?』

 

 

 

「まぁまぁ、それも込みでするからまずは付いてきてー」

と、先導するかのように琴里は歩き始めて行って、令音も詳しい事は後で話すと言わんばかりに歩き出していった。

 

 

 

 

残された佐藤と士道はお互いに顔を見合わせ…ため息を吐いたあとにトボトボと前を歩く二人組みに付いていった。

 

 

 

 

 

 

 

 




というわけで四話終わりです。

かなり長くなりました、佐藤くんは謎めいた雰囲気を裏では持っているのに表では士道に少し似た主人公気質があるキャラですね。

因みに狂三の時にはかなり変えていこうと思っています。が、十香編や四糸乃編では大部分は変わりません。

ていうか、一番の難題は戦闘描写なんですよねー
誤字などもあると思いますがどうかご了承下さい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。