デート・ア・ライブIF 【エラー】   作:セルヴェイエ

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というわけで第五話です。
UAが300だ、やったねパチパチ。

はい、ということで今回から佐藤も本格的に巻き込まれるようになっていきます。

佐藤と士道の絡み…とくとご覧あれ(そんなに自信ないけど)。


訓練開始【五】

 

 

 

 

東校舎四階、物理準備室。

 

 

「さ。入って、入ってー♪」 琴里に促され、士道はスライド式のドアを滑らせた。 そしてすぐに後ろから佐藤も入ってくる。

 

 

「ん…?」

『…なんだこれ』

 

 

「……何かね?」 士道と佐藤の言葉に、令音が小首をかしげた。

 

 

『「何かね?」じゃねぇよ、明らかにこの部屋おかしいだろうが』

士道も同意する。確かに物理準備室なんて入ったことなんてないが…。

 

 

 それでも、はっきりと認識できてしまった。 ──ここは、物理準備室ではない、と。 何しろ今士道の視界は、いくつものコンピューターにディスプレイ、その他見たこともないさまざまな機械で埋め尽くされていたのだから。

 

「……部屋の備品さ?」

 

「いやなんで疑問形なんですか! ていうかそれ以前に、ここ物理準備室でしょう? もともといた先生はどうしたんですか!」 そう。ここはもともと、善良で目立たない初老の物理教諭・長曽我部正市(通称・ナチュラルボーン石ころぼうし)がトイレ以外で唯々安らげる空間だったはずなのだ。 その長曽我部教諭の姿は今、どこにも見えない。

 

「……ああ、彼か。うむ」 令音があごに手をやり、小さくうなずく。

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 

 

 そのまま、数秒が過ぎた。「……まあそこで立っていても仕方ない。入りたまえ」

 

「うむ、の次は!?」 パリイ! そんな単語が令音の頭上に見えた気がした。何というスルー力。昨今の日本人はぜひ身につけるべきスキルだ。

 

『これはなんの茶番だ。話すことがあるならさっさと話してほしいんだが』

佐藤は手近のイスを引き寄せるとそのまま座った。その顔には呆れと苛立ちが混じっていた。

 

「うん、わかってるよ。今から話すから」

そして、慣れた様子で白いリボンで括られていた髪をほどくと、ポケットから取り出した黒いリボンで髪を結び直す。

 

「──ふぅ」 するといきなり、琴里の雰囲気が変わった気がした。 どこか気怠げに制服の首元を緩め、令音の近くの椅子にどっかと座り込む。

 

 そして琴里は、持っていたかばんから小さなバインダーのようなものを取り出した。

 

中には奇麗に、さまざまな種類のチュッパチャプスが並べてセットしてある。まさかの飴玉専用ホルダーである。琴里はその中から一つを選び、口に入れると、未だ部屋の入り口に立ち尽くしていた士道に、見下すような視線を向けてきた。

 

「いつまで突っ立ってるのよ、士道。もしかしてカカシ志望? やめときなさい。あなたの間抜け面じゃあ、カラスも追い払えないと思うわよ。ああ、でもあまりの気持ち悪さに人間は寄ってこないかもしれないわね。その逆に佐藤は話を催促してきちゃって、レディを待つこともできないのかしら?」

 

 

『………?』

「…………」 一瞬のうちに女王様に変貌した妹を見て、士道は額に手を置いた。

リボンを替えるのがマインドセットのスイッチにでもなっているのだろうか。まるでオセロの駒がひっくり返ったかのような、見事なジキルとハイドぶりだった。

 

「……琴里、おまえどっちが本性なんだ……?」

 

「嫌な言い方をするわね。そんなんじゃ女の子にもてないわよ。──ああ、だからまだ童貞だったんだっけ。ごめんなさいね初歩的なことを指摘して」

 

「……おい」

 

「統計だと、二二歳までに女性と交際できなかった男の半数以上は、一生童貞らしいわ」

 

「まだ五年以上猶予があるわ! 未来の俺を舐めるなよ!」

 

「猶予と可能性ばかり口に出す人間は、結局『明日から頑張る』しか言わないのよね」

 

「ぐ……」 口喧嘩ではまず敵わないと悟り、ぐっと堪えてドアを閉める。

 

『で、あんた達は誰だ?』

佐藤は椅子に腰掛けながら令音と琴里を指さした。

 

「あらー 怖いこわーい。いたいけな女の子に指を指してそんな事言うなんて…普通は自分から名乗るものでしょう? もしかして士道と同じt──」

 

『御託なんぞどうでもいい。さっさと喋れ……どうせ、お前らみたいな胡散臭そうな組織は前もって俺を調べてるんだろ?』

 

 

「そ、そうだなー。まだお互いに自己紹介してないよな。ほら、さっさとやっちゃおうぜ?」

冷や汗を流しながら士道は懸命にその場を和ませようとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜◆〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、もろもろの情報を言い合った。

 

 

〈ラタトスク〉や〈フラクシナス〉の目的などについて。

もちろん士道がこれから何をするかも含め、昨夜士道に話していたことに、似た話をしていた。

 

琴里からの説明に佐藤はなにか口を挟むことなく目を細めながら聞き入っていた。

 

因みにこの時に令音がこの学校の教員のしかも二年四組の副担任になったことなども話たりした(その過程でなぜか令音から士道への呼び名が「しんたろう」→「シン」となっている)。

 

 

 

「───と、いうわけよ。どっかの誰かさんと違ってかなり静かに聞いててくれたわけだけど、なにか質問はあるかしら?」

 

 

『いや、殆どないな。分かり易い説明感謝する』

 

 

「あら、そうなの?それで、あるにはあるんでしょ?質問」

 

 

その時。なぜか佐藤がちらりとコチラを見たような気がした。

『まぁ、そうだな……単刀直入に言おう。"お前たちの目的はなんだ"』

 

 

その言葉にほんの少しだけ琴里は顔を曇らせた。

「………」

 

 

『答えられないなら良い。もう一つは"それを何故俺に話した"』

 

「そ、れは… 単純に…協力者が欲しかったからよ」

少し詰まりながらも琴里は答えた。

 

『協力者?』

 

「あー もーうー!……。そうよ、そうです! 士道で精霊をデレさせると言っても工作員は必要。その中でも士道と同じ年で私達に協力してくれそうなやつがいなかったのよ!脅して雇ったやつは全員ろくでもないやつだし…」

琴里は頭を掻きむしり白状するかのように続けた。

 

最後になにか言った気がしたが詮索しないことにした。

 

『………』

 

「ほら!士道も突っ立ってないでお願いしなさいよ。実際、佐藤が協力してくれたら学校での行動も楽になるのよ」

 

「えぇ、俺からもか?」

 

「当たり前でしょうが。さっさと頭下げなさいよ、このボンクラ」

段々罵倒が多くなってくる琴里に士道は決心して…

 

「頼む。佐藤……まだ、お前からしたら何が何だか分からないだろうけど俺はあの子を救いたいんだ。だから頼む!俺達に協力してくれないか?!」

士道は椅子に座りながら手を膝に置きながら頭を下げた。

 

それをみた琴里と令音も…

「私からもお願い。あなたが思っている以上に貴方の役職は重要なの」

「無理を承知での頼みだ。ことが終われば〈ラタトスク〉から相応の報酬は払う。うけてくれないか」

 

佐藤はひとしきりため息を吐いた後、

『あー もう良い。別に報酬も要らん、そこまで頼まれて受けないのは人として終わってるからな』渋々という訳でもなく佐藤は了承した。

 

「本当か?!ありがとう佐藤!」

佐藤の手を握って感謝を士道は伝える。

 

琴里も令音もある程度は安心したように息を吐いた。

 

 

 

「じゃあ、佐藤からの協力も仰げたことだし早速士道の調きょ……ゲフンゲフン、強化訓練を始めるわよ」

 

『…で、俺も居続けていいのか?』

 

「別に良いわよ。士道ほどじゃないけど佐藤にもある程度は女心を知っておいて欲しいからね」

チュッパチャプスを抜き出し、新しいものと交換しながら琴里は言った。

 

『んじゃ、俺は遠くで見てるから。士道頑張れよ』

 

「ん、まぁ…頑張るよ」

苦笑しながら自信なさげに答える。

 

「……さ、ともかくシン。訓練を始めよう。ここに座りたまえ」

 言って令音が、二人に挟まれるように設えられている椅子を示した。

 

「……えっと、ここですか」 言われるままに椅子に腰掛けた。

 

「……さて、君が我々の作戦に乗る以上は、最低限クリアしておかねばならないことがある」

 

「何ですか?」

 

「……単純な話さ。佐藤くんにも言ったが女性への対応に慣れておいてもらわねばならないんだ」

 

「女性への対応……ですか」

 

「……ああ」 令音がうなずく。なんだか、そのまま眠ってしまいそうだった。

 

「……対象の警戒を解くため、ひいては好意を持たせるためには、まず会話が不可欠だ。大体の行動や台詞は指示を出せるが……やはり本人が緊張していては話にならない」

 

「女の子と会話って……さすがにそれくらいは」

「本当かしらね」

 と、琴里がいきなり士道の頭を押し、ぎゅっと令音の胸に押しつけた。

 

「…………ッ!?」

「……ん?」

『へぇ……』

 

 

令音が、不思議そうに声を発し、佐藤は感心するような声を上げた。

 

 両頬を温かくて柔かい感触が襲い、ついでに脳がとろけてしまいそうなほどいい匂いが鼻腔を駆け回る。士道はすぐさま琴里の手を退かすと、バッと顔を上げた。

 

「……ッ、な、ななななにしやがる……ッ!」

「はん、ダメダメね」 琴里が嘲けるように肩をすくめた。

 

「わかったでしょ、こういうこと。これくらいで心拍を乱してちゃ話にならないの」

 

「いや、明らかに例がおかしいだろ!?」 しかし琴里は聞く耳持たず、やれやれと首を振ってくる。

 

「ホント、悲しいまでにチェリーボーイね。やだやだ、可愛いとでも思ってるの?」

 

『ふむ。なるほどな、精霊を落とす。確かに今の士道にはかなり荷が重いな』

 

「佐藤まで…」

唯一の同性であり味方だと思っていたのに、普通に裏切られて泣きそうだ。

 

「……まあ、いいじゃないか。だからこそ私たちがここに来たのだから」

 言って、令音が腕組みをする。自然彼女の見事なバストが強調された。 というか、腕に乗っていた。

 

「…………っ」 なんだか直視するのも気恥ずかしくて、思わず目を泳がせる。

 

 ──女性に慣れる、訓練。 士道の頭の中に、令音が発した言葉が過よぎった。 しかも多少エロティックな場面になっても狼狽たえないようにする……だなんて。 琴里と令音は、一体ここで士道にどんなことを──「生唾飲み込んじゃって。いやらしい」

 

 琴里が机に肘ひじをつきながら、半眼でそう言ってきた。

「……! い、いや違うぞ琴里ッ! お、俺は別に……」

 

『……オチが読めたな』

佐藤がなにか言った気がしたが緊張と興奮でよく聞こえなかった。

 

「……まあ、早いところ始めようじゃないか」 琴里と士道の会話を制し、令音が眼鏡をくいと上げる。

 

「は──っ、い、いやまだ心の準備が……っ」

 士道は緊張に声を震わせながらも背筋を伸ばした。

 

 令音は構わず「……ん」と呟き、先ほどと同じように士道に身体を近づけてきた。 何の前触れもなく接触されたさっきのケースよりも、遥かに心臓が高鳴る。

 

 ──ああ、何? 一体何をされちゃうの……ッ!?

 ドキドキしながらも動くことができない。八〇年代少女漫画の主人公みたいな表情をしながら、士道はキュッと目を閉じた。

 

 しかし、どれだけ待っても何も起こらない。 目を開けて見てみると、令音は机の上のモニタに電源を入れていただけだった。「え……?」 士道がキョトンとしていると、画面に可愛らしくデザインされた〈ラタトスク〉の文字が映った。

 

 次いで、ポップな曲とともに、カラフルな髪の美少女たちが順番に画面に表示され、タイトルと思しき『恋してマイ・リトル・シドー』のロゴが躍る。

 

「こ、これは……」

 

「……うむ。恋愛シミュレーションゲームというやつだ」

 

「ギャルゲーかよッ!」 士道は悲鳴じみた叫を上げた。

 

「やだ、何を想像してたの? さすが妄想力だけは一級品ね気持ち悪い」

『そんなとこだろうと思った。けど、流石に今のお前は養護しかねるな』

味方も消えた。

 

「……っ、やっ、そ、それは……」

言い淀みながらなんとか咳払いをして心拍を治めていった。

 

 

「お、俺はただ、本当にこんなもんで訓練になるのかって……」

 琴里が無言のまま、汚ないものを見る目で見つめてくる。

 

『………』

一方の佐藤は同情するかのような慈しむような目で見てくる。

 

 せめて何か言って欲しかった。無言は、無言はつらい。

 

「……まあ、そう言わないでくれ。これはあくまで訓練の第一段階さ。それに市販品ではなく、〈ラタトスク〉総監修によるものだ。現実に起こりうるシチュエーションをリアルに再現してある。心構えくらいにはなるはずだ。ちなみに15禁」

 

「ああ……18禁(エロゲ)ではないんですね」 何とはなしに士道が言うと、琴里が憐憫にも近い眼差しを作った。

「やだ最低」

 

 ついでに令音が、ぽりぽりと頭をかく。「……シン、君は一六だろう? 18禁のゲームができるはずないじゃないか」

 

「いやおまえらさっきと言ってること微妙に矛盾してね!?」

 

 叫ぶが、琴里と令音に取り合うつもりはないようだった。

 

「……ん、では始めてくれたまえ」

 

「はいはい……っと」 士道は腑に落ちないものを感じつつも、促されるままコントローラーを手に取った。

 

『妹と先生に見られながらギャルゲーとか、どんな罰ばつゲームだろうな』

遠くで傍観する佐藤は呟いた。

 

士道もそれには激しく同意している、

 

 

 

 主人公のモノローグを適当に斜め読みし、ゲームを進めていく。

 

 と、画面が一瞬暗転し、「おはよう、お兄ちゃん! 今日もいい天気だね!」

 そんな台詞と同時に、画面に綺麗なCGが表示された。 主人公の妹キャラなのだろう、小柄な少女がアオリの構図で描えがかれている。

 

 というか寝ねている主人公を踏ふんでいた。 パンツ丸見えだった。

 

「ねぇ───────────よ!!」 士道は、コントローラーを握にぎりしめながら声を上げた。

 

「……どうしたねシン。何か問題でも?」

「いや、これ実際にありそうなシチュエーションを再現とか言ってませんでした!?」

「……そうだが、何かおかしいかね」

「おかしいも何も! こんなふざけた状じよう況きよう現実に起こるわ……け……」 言いかけて、士道は額に汗あせを滲にじませた。 なんか、似たような体験をしたことがあったような気がしたが。無いと確信し抗議しようとしたのだが…。

 

『あー 確かに現実的といえばそうだな。前の学校にいたやつもこんな経験してたし』

 

そんな佐藤の言葉を聞いて何か不条理を感じつつもゲームに戻った。

 と、テキストを進めていくと、画面の真ん中に何やら文字が現れる。

 

「ん……? なんだこれ」

 

「ん、選択肢よ。この中から主人公の行動を一つ選ぶの。それによって好感度が上下するから注意するのよ」 言って、琴里が画面の右下を指さす。そこには、ゼロの位置にカーソルがついたメーターのようなものが表示されていた。

 

「ふーん……なるほどな。これのどれかを選べばいいんだな?」

 士道は好感度メーターから選択肢の方に視線を移動させた。

 ①「おはよう。愛してるよリリコ」愛を込めて妹を抱きしめる。

 ②「起きたよ。ていうか思わずおっきしちゃったよ」妹をベッドに引きずり込む。

 ③「かかったな、アホが!」踏んでいる妹の足を取り、アキレス腱固めをかける。

 

「……って、なんだこの三択は! どこがリアルだ! 俺こんなんしたことねえぞ!」

 

「何でもいいけど、制限時間つきよ」

「は……ッ!?」

 

 確かに琴里の言うとおり、選択肢の下に表示されていた数字がどんどん減っていた。

 

「……っ、仕方ねえ」 士道はうめくように言うと、一番まともであろう①の選択肢を選んだ。

「おはよう。愛してるよリリコ」 俺は妹のリリコを、愛を込めて抱きしめた。

 

 すると、リリコは途端に顔を侮蔑の色に染め、俺を突き飛ばしてきた。

 

「え……ちょっと、何、やめてくんない? キモいんだけど」 好感度のメーターが、一気にマイナス五〇まで下落する。

 

「リアルだったー!」 士道はコントローラーを膝の上に叩きつけながら叫びを上げた。

 

「あーあ、馬鹿ね。いくら妹でも、突然抱ついたらそうなるに決まってるじゃない。──まったく、ゲームだからいいものの、これが本番だったら、士道のお腹には綺麗な風穴が開いてるわよ。ねぇ、佐藤?」

佐藤に同意を求めるように語りかけた。

 

『まぁ。流石にその選択はな……」』

佐藤もため息を吐きながら

 

「じゃあどうしろってんだよこれッ!」 あまりに理不尽な仕打ちに士道が叫ぶも、佐藤も琴里もまるで取り合わなかった。 やれやれと息を吐はきながら、自分の前に置かれていた液晶ディスプレイを点灯させる。

 

「あ……? 何やってんだ?」

「訓練とはいえ、少しは緊張感を持ってもらわないとね」 画面に、見覚えのある風景が表示される。来禅高校の昇降口だ。 ついでにそこに、高校の制服を着込んだおっさんが一人、カメラ目線で立っていた。「……なんだ、この人」

 

「うちのクルーよ」

 言うと琴里は、どこからともなくマイクのようなものを取り出して喋りかけた。

 

「──私よ。士道が選択に失敗したわ。やってちょうだい」

 

「はっ」

 画面の中の男が敬礼をする。

 

「は……? な、何だってんだよ」 士道が眉をひそめていると、画面の中の男が懐から一枚の紙を取り出した。それをカメラに映して見せる。

 

 それを見ると同時、士道に心臓が止まるかのような衝撃が走った。「こッ、これは──」 その様子に、琴里がものっすごく楽しそうな笑みを浮べる。

 

「そう。若かりし頃、漫画に影響を受けまくった士道がしたためたポエム・『腐食した世界に捧ぐエチュード』よ」

 

「な……ななななななななんであれが……ッ!?」 確かにあれは、士道が中学生のときにノートに書いた詩だった。だがあれは、高校に上がる前に恥はずかしくなって処分したはずである。

 

「ふふ、いつか役に立つと思って拾っておいたのよね」

「ど、どどどうするつもりだ……ッ!」

 

 琴里はにやりと笑いながら、「やりなさい」と言った。

 

「はっ」 男は短く答え、そのポエムを丁寧にたたみ込んで、手近な下駄箱に放り込んだ。

 これでは明日登校してきた生徒が、士道渾身のポエムを読んでしまう!

 

「な……っ、何しやがる!」

「騒さわぐんじゃないわよみっともない。精霊に対して対応を間違ったらこんなもんじゃ済まないのよ。士道自身はもちろん、私たちも被害を被る可能性があるんだから。

──というわけで、緊張感を持ってもらうためにペナルティを設定させてもらったわ」

 

「重すぎるわぁぁぁぁぁッ! ていうか被害被ってるのは俺だけじゃねぇかッ!」

 士道が叫ぶと、令音がふむ、とあごに手を当てた。

 

「……なるほど、確かにシンの言うことにも一理ある」

「! そ、そうでしょう!?」 思わぬ助け船に、士道は顔を明るくする。

だが、「……ならばシンが選択を間違うたびに、こちらもペナルティを負うことにしよう」

 

 言って、おもむろに着ていた白衣を脱ぎ始めた。「ちょッ、何してるんですか!」

「……いや、自分だけが恥ずかしい思いをするのは不公平だと言いたいのだろう? ならシンが選択を誤るたびに私もこう、一枚ずつ脱いでいこう」

 

 言って、別に恥ずかしそうなふうもなく腕うで組ぐみする。

「そういう意味じゃねぇぇぇぇぇッ!」

「なんでもいいから先進めなさいよ、先」 琴里が焦じれたように、椅子を蹴ってくる。

 

佐藤は誰にも聞こえない程度の声で呟く『ふふっ……兄想いの優しい妹だな』

 

「ん?なにか言ったかしら佐藤」

キョトンと琴里が首を傾げてくる。

 

『いんや?罰の与え方がうまいと思ってな』

 

「そう?やっぱり佐藤はわかってるわね」

 

 なんか意気投合する二人をよそに士道は泣きそうな顔になりながらも、観念して画面に向き直った。 だが、今後もこんな選択肢ばかりが出てくるとなると、無事にクリアできる自信がない。

 

「……なあ琴里、今後のために、この選択肢全部試してみていいか?」

 

「うわ、チキンで小市民な発想ねみっともない」

 

「う、うるせっ、こういうのは初めてなんだからこれくらい許せよ!」

 

『まぁ、良いんじゃないか?』

 

「まったく、仕方ないわね。今回だけよ。──じゃあ一回セーブして」

 

「お、おう……」 士道はセーブを終えると、ゲームをリセットして先ほどの選択肢まで戻ってきた。

 

「…………」 険しい顔で選択肢を睨にらむが……やはりどれもまともとは思えない。

 

 だが③で好感度が上がるとは考えられなかった。仕方なく②を選択してみる。「起きたよ。ていうか思わずおっきしちゃったよ」

 

 俺はおもむろに起きあがると、リリコをベッドの中に引きずり込み、覆い被さった。

 

「や……ッ、な、何するのよっ!」

 

「仕方ないじゃないか。リリコのせいでこんなになっちゃったんだから」

 

「!! いやッ、やめて! いやぁぁぁぁぁっ!」

 

「いいじゃないかいいじゃないかいいじゃないか」

 

 画面が暗転する。 その後の展開は一瞬だった。 泣き崩れる妹。父親に殴りつけられる主人公。カチャリという手錠の音。暗い部屋で一人笑う主人公。

 

 そのCGをバックに、悲しげな音楽とスタッフロールが流れ始める。

 

「なんじゃこりゃぁぁぁぁッ!」 たまらず、叫び声を上げる。

 

「いきなりそんなことしたらそうなるに決まってるじゃないこの性犯罪者」

 

「じゃあ③が正解だってのかよッ!」 士道はゲームをリセットすると、再び最初の選択肢に戻り、今度は③を選択した。

 

「かかったな、アホが!」 俺は妹の足をひねり上げ、アキレス腱固めをかけ──ようとした。

 

 が、「甘い」 妹が身体をねじり、こちらの手から逃れると、そのまま俺の背に回り、足を搦め捕って見事なサソリ固めをかけてきた。

 

「ぐふ……ッ!?」 その後、主人公はそのときの怪我が原因で半身不随となり、一生車椅子での生活を余儀なくされた。──そしてそのまま、エンディングへ。

 

「これ、①正解だったんじゃねえの!? ていうか普通妹はこんな技使えねえよ!」

 

「ふうん」 士道が言うと、琴里が士道の胸ぐらを引っ張って床に叩きつけたかと思うと、瞬時に足をとってサソリ固めをかけてきた。

 

「ぎい……ッ!?」

 

「ふん、せいぜいママンママン言ってなさい」 言って士道を解放してから、涼しげに髪をかき上げる。

 

「お、おまえ、どこでこんな技を──」

「淑女の嗜みよ」

 きっぱりと言ってくる。 士道の持つ淑女のイメージが、筋骨隆々のプロレスラーに変換されそうだった。

 

「てて……ッ、じゃあこれ、結局どうやるのが正解だってんだよ」

 

『おいおい……流石にこんなのも出来ないんじゃあ精霊を救うだなんて夢のまた夢だぞ』

横で見ていた佐藤が呆れたようにため息を吐く。

 

「あら、じゃあ佐藤。丁度良いし士道に答えを教えてやって……まさか、それだけ言っておいて、できないわけ無いわよね?」ニヤリと笑みを浮かべながら言ってくる。

 

『んまぁ、そうだな……。おい、五河士道…さっきのところまでリセットしてみろ』

 

「え、あぁ…わかった」

士道は先程のシーンまでリセットした。そして、佐藤が何を選択するのかちょっと気になって見ているのだが、佐藤は何も選択せず、ただ黙って画面を眺め始める。

 

「……? 何してんだ? 早く選ばないと──」 士道が言うと同時に、選択肢の下に表示されていた数字がゼロになる。

 

 

 

「んー……あと一〇分……」

 

「だめー! ちゃんと起きるのー!」 と、至極普通の会話が、画面に表示された。 好感度メーターは上昇も下降もしていない。

 

「な……ッ」

 

『まぁ、だろうな。少し引っ掛けぽかったが①が消えた時点で消去法で分かった』

佐藤は特に得意げになるわけでもなく淡々と解説した。

 

「やるわね。案外、良い人材を見つけたかも」

琴里は頬杖をしながら言った。

 

「いや、でも──」

 

「でもじゃない。あんなおかしな選択肢選ぶなんて、どうかしてるんじゃないの?」 

士道の言葉を遮りながら琴里が鼻で笑ってくる。

 

「特別にこの続きからやることを許してあげるから、早く先進めなさい。次の選択肢からはペナルティありだからね」

 

『んまぁ、頑張れ。今の初見殺しを理解したなら行けると思うぜ?』

そう言って士道の肩に手を置いてくる。

 

「ぐ……ッ、ぬぬ……」 力一杯腑に落ないものを感じながらも、佐藤の言葉も最もであるし、士道はコントローラーを握った。

 

 

 そして、ゲームを進めていくと、一〇〇センチオーバーのバストを誇る女教師が画面に現れる。 なんかもうその時点で非現実的だったのだが、黙って話を進めていった。

 

 すると、

 

「きゃあっ!」 女教師がそんな悲鳴を上げ、何もないところですっ転び、主人公の顔に胸を押し当てながら倒れ込んできた。

 

 さすがに、コントローラーを机に投げる。

 

「ねぇよ! こんな……」 言いかけて。士道は汗を垂らすと、すごすごとコントローラーを拾った。今さっき、状況は違えど似たようなことがあった気がする。

 

「どうしたのよ、士道」「……や、なんでも」 大人しく、プレイを再開する。

 

 すると、また選択肢が現れた。

 ①「こんなことされたら……先生のこと好きになっちゃいます」おもむろに抱きつく。

 ②「ち、乳神様じゃぁー!」胸をわしづかみにする。

 ③「隙ありぃぃッ!」腕ひしぎ十字固めに移行する。

 

 ……また、どれも正気とは思えない。「っ、そうか……!」 しかし士道はぐっと拳を握った。

 

きっと、これも先ほどと同じパターンだろう。 選択肢の下のカウントがなくなるまで待っていると、

 

 

『おい、ちょっと待──』

佐藤が言う前に制限時間は切れた。

 

やはり画面にテキストが表示された。

「……ッ、きゃぁぁぁ! 何をしているの!? 痴漢! 痴漢よぉぉ!」

 

 女教師が悲鳴を上げ、好感度が八〇マイナスされる。

 

「なんでだよッ!」 たまらず叫ぶが、琴里はやれやれと首を振るだけだった。

 

「そんな長時間、避けることもしないで胸の感触を楽しんでたら、当然そうなるわよ」

 

「じゃあどうしろってんだ!」

 

「選択肢前のテキスト読んでなかったの? 彼女は女子柔道部顧こ問・五所川原チマツリ。寝技に持ち込むことによって、意識を胸から勝負に持っていかないといけなかったのよ」

 

『まぁ、二回連続で来るわけないよな……』

佐藤は気まずそうに頬を掻いていた。

 

「わかるかそんなもぉぉぉぉん!」

 

「──ま、失敗は失敗よ。やりなさい」

 

「はっ」

 

 画面の男が、またも懐から紙を取り出し、カメラに映して見せる。 そこには拙いキャラクターのイラストと、細かな設定がしたためられていた。

 

「こ……ッ、これは!」

「そう。士道が昔作ったオリジナルキャラの設定資料よ」

 

「っぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」 士道の叫びをよそに、男がまたも適当な下駄箱に紙を放る。

 

「やめてやめてやめてぇぇぇぇぇぇぇっ!」 

 

『お前の黒歴史ありすぎだろ』

 

「やめてやめてお願いだから佐藤は見ないでぇぇぇぇ!!!というか早く出ていってくれぇぇぇぇっ!!」

 

『あー うん。わかったよ、……五河琴里……あんまり、やりすぎてやんなよ?』

 

「ご忠告どーもー」

 

佐藤はそう言い残しドアを開けて出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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ガタン─

 

屋上の扉を開け、そこに佐藤は居た。

 

「……はぁぁぁ。やっと来た…」

 

『悪い。遅くなった』

扉を閉めて佐藤はその人物に向き直った。

 

 

「で、どういういことですか?珍しいじゃありませんか、私だけを呼ぶなんて」

小首を傾げながらその少女は問うてくる。

 

『……いや、作戦を思い切り変える事にした』

 

「またですかッ!?また、私達の三日間の会議が無駄n──」

 

『あぁ、大丈夫だ。別に計画そのものを変える気はない』

 

「? どういうことです?」

 

佐藤は人差し指をピンと立て、続ける。

『俺は一般人として五河士道と共に精霊を救うことになった』

 

 

 

 

 

数秒間…眼の前の少女は、意味を理解するかのように固まっていたが

「はぁぁぁぁぁ!???」

と、大声を上げた。

 

 

『……』

 

 

「え、いや……は?何言ってるんですか?!─…佐藤さん!!」

 

 

『ん、何かおかしいことでも言ったか?』

あっけらかんと佐藤は言い放つ。

 

 

「……ちょ、ちょっと冷静になって考えましょうよ! 佐藤さんは無闇矢鱈に彼に干渉しないって話でしたよねッ!?」

 

 

『……だから、お前らの行動は変えないけど俺の行動は変えるってさっき言っただろ』

 

 

「………」

少女は何とも言えない顔で佐藤を見る

 

 

 

『なんだよ。その顔』

 

 

 

「一般人として守るとか言ってますけど。もし、〝エレン・ミラ・メイザース〟とかの巻き添えを食らいかけたらどうするんですか」

 

 

 

『もちろん、やり返す』

即答した。

 

 

 

「………あの…佐藤さんの実力を知ってるから何も言いませんけど…。その、貴方の力について教えてもらえたりとかは……」

 

 

『無理に決まってんだろ』

 

 

「デスヨネー」

 

 

『あぁ、それと……。仮にアルテミシアとエレンが二人で来たとしても私は圧勝できる』

自信満々に佐藤は付け足した。

 

 

 

「そこまで言って能力とか隠されると、プライドにしか聞こえないんですけど……」

 

 

 

「って! そうだった、危うく話をすり替えられるところでした!」

 

『勝手に変えたのお前だけどな』

 

 

「とーにーかーくー 精霊さんを守るのはわかりますよ?だからって、アイツラを相手取る必要なんて───」

 

 

『んじゃ、俺はもう行くから。先に帰ってアイツラにこのこと教えておいてくれ』

 

 

「っておい!無視かいっ! じゃなくて、えー ちょっと待ってください、ほんとに私が説明するんですか………」

 

 

 

質問には答えられす無情にも屋上のドアは閉められた。

 

 

 

 

 

 

 

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

因みに佐藤は士道たちのところへ戻ろうとしたのだが、ドアに手を掛けたタイミングで

 

 

『奥義・瞬閃轟爆破(しゅんせんごうばくは)ぁぁぁぁぁッ!』

 

という声が聞こえ…そっと、手を離して佐藤は『帰ろ』そう呟くと、踵を返して帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 









というわけで五話終了 今回は流石に前回よりは短いです。
今回では佐藤とほかキャラの絡みを多くしてみました(蚊帳の外になることが多かったけど)。


因みに最後に出てきたキャラは前に出てきた「長い白髮と水色の瞳の少女」です。


というわけで終わりです。
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