TS魔法少女 響   作:ときんときん

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第2章 : 第11話

 

 

 

 

 

 

 資料の山とパソコンの画面に囲まれながら、キョウは黙々とキーボードを叩いていた。

 

 周囲では職員たちがそれぞれに忙しく働いており、キョウもその中にすっかり溶け込んでいた。

 

「キョウちゃん、この報告書、ありがとうね。助かったわ。」

 

「いえ、確認ありがとうございます。」

 

「お礼にチョコあげる。甘いの好きでしょ?」

 

「あ、ありがとうございます……。」

 

 職員によるキョウへの甘やかしも定番になってきて、キョウが何かするたびに過剰に褒められたり、ご褒美と称してお菓子を与えたりしている。

 

 甘やかされてる側のキョウではあるが、職員たちに対して嬉しさの混じった諦観のようなものを抱き始めていた。その点でも慣れてきたと言えるだろう。

 

 そんな時だった。背後で控えめにドアが開く音がした。

 誰かが近づいてきた気配に、キョウが振り向くと――そこに立っていたのは、白衣姿の望月だった。

 

「キョウ。悪いな、今いいか?」

 

「望月。別にいいけど、どうした?」

 

 キョウは急いで作業を保存し、席を立った。

 

「誠さんから呼び出しだ。応接室まで来てくれだと。」

 

「誠さんが……うーん、行かなきゃだけど、まだ仕事があるしなぁ……。」

 

「あらキョウちゃん。後は私たちに任せてくれていいわよ?」

 

 近くで話を聞いていた職員がキョウの肩にポンと手を置く。

 

「え、いいんですか?」

 

「誠さんの呼び出しならそっちを優先しなきゃ。それに、キョウちゃんの手助けならみんな喜んでしてくれるはずよ。……ねぇ?」

 

 職員が振り返りながら問いかけると、別の職員たちが立ち上がる。

 

「キョウちゃんの仕事は俺が巻き取る!」

 

「いや、涼宮ちゃんの仕事を代わるのは俺だあああああ!!」

 

「……てな感じだから、行ってきなさい。」

 

「……ありがとうございます。それじゃあ行ってきますね!」

 

「別に、当たり前よ。」

 

 職員たちにも良くしてもらっている。キョウはこの職場が好きになっていた。

 

「それじゃあ望月、さっさと行こうぜ!」

 

「あぁ、そうだな。」

 

「望月、お前だけキョウちゃんと親しくしてんのずるくないか?」

 

「俺も涼宮ちゃんに砕けた感じで話してほしいいぃぃぃ!!!」

 

「……行くか。」

 

「お、おぉ……。」

 

 少し様子のおかしい職員たちを尻目に二人は部屋を出る。

 

 無骨な廊下を歩いていく。応接室など初めて行くキョウは望月に尋ねる。

 

「応接室で何話すんだろうな。望月も呼ばれてんだろ?」

 

「そうだな。俺とキョウに何か話すことがあるのかもしれないが、応接室だからな……。」

 

「応接室だと、なんかあんの?」

 

 望月の含みがあるような言い方が引っかかったキョウは素直に聞いてみる。

 

「応接室は基本的に、来客がある時にしか使わない。そこに呼ばれていると言うことは、誰かがキョウを目当てに来ているのだろう。」

 

「おい、ナチュラルに自分を外すんじゃねぇよ。お前も呼ばれてんだろうが。」

 

「キョウはこの前の動画やらで注目を浴びていたからな。それ繋がりで呼ばれたと考えると納得がいく。俺はあくまで担当として呼ばれたのだろう。」

 

「うげっ、それだったら色々な方面を恨むわ……。」

 

 変に注目を浴びることに辟易していたキョウはげっそりとする。

 

 そうして二人は応接室の目の前にやってきた。望月が扉をノックすると、部屋の中から誠の声が聞こえる。

 

「入ってきてくれ。」

 

 望月が扉を開けると、そこには応接室特有の静謐な空気が漂っていた。

 

 部屋の中央には、重厚感のある木製のテーブルを挟んで、向かい合う形で二つのソファが置かれている。その一方には誠が座っており、静かにこちらを見ていた。だがキョウの視線は、もう一方のソファに座る少女に引き寄せられる。

 

 年の頃はキョウと同じか、少し年上に見える。整った顔立ちは一見して中性的な印象を与えるが、その瞳は一切の曖昧さを拒絶するように鋭く、澄んだ青が静かに光っていた。肩まで伸びた髪もまた、艶やかな藍色をしており、その整えられた毛先には几帳面さが滲んでいる。

 

 少女はまっすぐに背筋を伸ばし、両手を膝の上に置いて座っていた。

 

 その姿勢には、一分の緩みもない。身につけているのは警察の制服を思わせる濃紺の詰襟のジャケットと、同色のタイトスカート。右肩には見慣れない徽章のようなものが付いている。まるで、どこかの儀礼用制服のように、現実の空間に違和感なく溶け込みながらも、どこか現実離れした雰囲気をまとっていた。

 

 制服の上からでもわかる均整の取れた体つきは、ただの少女ではないことを物語っていた。実際、その瞳はキョウを見るなり一瞬で焦点を合わせ、観察するような、評価するような視線を投げかけてくる。

 

 冷静で、静かで、どこか浮世離れしたような存在。

 

「二人とも、座ってくれ。」

 

「あぁはい、失礼します……。」

 

 誠に促され、キョウはハッとしながらソファに座り、望月も同じように着席する。

 

「二人は初対面だったな。彼女は時任澪。先の凶悪な魔物の出現を予知して魔導保全局に情報提供してくれた人物だ。」

 

「時任澪と申します。魔物発生当日のシェルター防衛でキョウさんがご活躍されていたのは存じております。そしてそのキョウさんの担当の望月さんも。どうぞよろしくお願いします。」

 

「ど、どうも……。」

 

 キョウは控えめに返事をして、望月は軽く頭を下げる。

 

 応接室の空気に少し緊張が漂う中、キョウは姿勢を正した。

 

「それで……俺たちが呼ばれたのって、何か理由があるんですよね?」

 

 問いかけに、誠は手に持っていたタブレットを机に置き、視線を時任に向けた。

 

「時任、説明を頼む。」

 

「ええ。――キョウさん、望月さん。今回は、お二人に依頼したいことがあってお呼びしました」

 

 時任はすっと背筋を伸ばし、いつも通り淡々とした口調でそう告げた。

 

「依頼……ですか?」

 

 キョウは首を傾げた。魔物退治や出動の指示ではなく、「依頼」と言われると何となく構えてしまう。

 

「少し特殊な内容なので、“任務”というより、“お願い”の方が近いかもしれません」

 

 そう言って、時任はふたりをまっすぐに見た。

 

「この件は、お二人が適任だと思ったんです。」

 

 

「……俺たちにしか、って?」

 

 疑問を繰り返すキョウに、今度は誠が補足を入れる。

 

「時任は私たちの少女化を知っている……外部に漏らしたことは無いはずなんだがな……。」

 

「ふふ、すみません。言いふらしたりなんてしませんから、見逃してください。」

 

 そう言って時任は舌を出して笑う。意外と愛嬌がある子なのかもしれない、とキョウは思った。

 

「それで、お二人にはある場所への潜入任務を依頼したいのです。」

 

「潜入任務、ですか……。」

 

 キョウは一瞬ぽかんとして言葉を繰り返した。

 

「はい。魔物の発生を予知してのですが、具体的にいつ魔物が発生するかわかりません。魔物が発生するまで現地を立ち入り禁止にするわけにもいきません。ですので、現地で潜入して魔物の発生に備えてほしいのです。」

 

「なるほど……。」

 

 時任が頷くと、その視線を望月に向けた。

 

「望月さんは、以前に魔物の発生に関する論文をいくつか出していらっしゃいましたよね? あなたなら、魔物の発生に備える事ができるのではないかと。」

 

「……碌な成果は出せていませんよ。理論ばかり先走って、現象の再現もできない不完全なものでしたから。」

 

「ご謙遜なさらず。それに、魔物の発生が確定している場所での検証はした事がないのでは? この依頼は研究の発展に寄与できるものですよ。」

 

「……。」

 

 時任の言葉に望月は黙り込んでしまう。

 

「それに、涼宮さんも。」

 

「うわ、俺にきた。」

 

 時任がスッと顔をキョウに向けて、キョウはビクッと背筋を伸ばす。

 

「シェルター防衛での高位眷属の討伐は本当に見事でした。この依頼は市民の安全に関わるモノですが、貴方になら安心して任せられると思いました。」

 

「いやぁ、それほどでも……。」

 

「それに、数少ない"大人の魔法少女"である貴方であれば、柔軟な対応ができるとも。まだ未成年の私が偉そうに言えたことではありませんが、どうか市民の安全のために力を貸していただけませんか?」

 

「お、大人の……!」

 

 時任の言葉に、キョウは感動していた。少女化を受けてから、どこへ行っても子供扱いを受けていた。そんな時に、大人としてキョウを頼ってくれる時任の言葉。キョウが気を良くするのも無理はなかった。

 

「任せてくれよ! 潜入任務でもなんでも、こなしてみせるぜ!」

 

「そうですか、ありがとうございます! 望月さんはどうなさいますか?」

 

「……キョウが受けるのなら、私も受けます。」

 

「では、決まりですね! 手配はこちらで行いますので、よろしくお願いします。」

 

 時任は嬉しそうに両手を合わせる。

 

「それで潜入任務って、どこに行くんですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここからほど近い場所にある中高一貫校の由緒正しき女子校、セレーネ女学院です。」

 

「……え、女子校? 女学院??」

 

 

 

* * * 

 

 

 

「それでは鈴宮さん、前に出て自己紹介をお願いします。」

 

 教師の声に背中を軽く押され、キョウは黒板の前に立っていた。

 

 小綺麗に整った制服に袖を通し、名札には“転入生”の文字。教室の中には眩しいほどの日差しと、十数人の女子生徒たちの視線。

 

 呆然としたまま、キョウは前を向いた。目の前には、期待と好奇心で目を輝かせる少女たち。

 

(なんで俺、ここに……女学院って、マジで……)

 

 しかし、そんな内心をよそに――

 

「キャーッ! キョウちゃんだ! 本物だよ!」

 

「テレビで見たことある子だ! 絶対そうだよね!?」

 

「えー、すごい可愛いんだけど……!」

 

 教室内は一気にざわめき、興奮と黄色い声が飛び交い始めた。

 

 キョウはぽかんとしながらも、自然と顔が引きつる。

 

 とりあえず、逃げ出すわけにもいかず――キョウは覚悟を決めて口を開いた。

 

「あー……鈴宮キョウです。よろしくお願いします。」

 

 拍手と歓声がわっと上がり、クラス中が明るく沸き立った。

 キョウは、戸惑いながらも苦笑を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 午後の授業が終わる少し前、誰もいない用具室にキョウはこっそり滑り込んだ。モップやバケツ、掃除用具が整然と並べられた無機質な空間の隅に、望月が立っていた。つなぎを着て、作業帽まで被っている姿は、いつもの白衣姿とはまるで別人のようだ。

 

「なんか……妙に様になってんな、望月。」

 

「……そうか?」

 

 ひそひそ声で呟きながら近づくと、望月はちらりとこちらを一瞥する。冷静な態度はいつも通りだが、その声にはほんの僅かに安心の色が混じっていた。

 

 キョウはその一言に満足げに頷く。大人として頼られたことが、正直に言えば嬉しかった。これまで誰かの保護対象でしかなかった自分が、今はこうして役に立っているのだ――そう思っていた、のに。

 

「……なんで俺が“生徒”なんだよ!」

 

 ぼやくように言うと、望月はごく当然のように答えた。

 

「依頼を受けたのだから、文句を言ってはいけないぞ。」

 

「そうだけどぉ……。」

 

 キョウはこれまで私服ではスカートは避けていたが、女学院の制服はスカートである。ストッキングを履いていて肌が隠れているからまだいいが、それでも下半身の頼りなさが気になってしまう。

 

 時任から大人として頼られた事が嬉しくて依頼を快諾したが、それが生徒として振る舞う原因となっている。キョウは心底がっかりしていた。

 

「……俺も用務員が良かった……。」

 

「話を最後まで聞かずに承諾したのが良くなかったな。キョウの悪い癖だぞ。」

 

「うっ、それは確かに……。」

 

 言葉を詰まらせるキョウに対し、望月が続ける。

 

「とはいえ、なかなか合理的ではある。」

 

「……どういう意味だよ。」

 

 若干不貞腐れながら尋ねると、望月は用具室の窓越しに外を見やりながら答えた。

 

「生徒という立場なら、何かあったときにいち早く教員や生徒を守れる。教室にいることも、現場に近いという意味では利点だ。それに、俺は用務員という立場で学内を比較的自由に動ける。データ採集の必要があるからな。」

 

「あー、魔物の発生がわかるかもってやつか?」

 

「そうだ。だが実際に魔物の発生を予知できたことはない。今回も上手くいくかどうか……。」

 

 望月は腕を組み視線を落とす。相変わらずの仏頂面だが、仕草から見て相当悩んでいるのだろう。

 

 キョウは咄嗟に声をかける。

 

「まぁ、俺もできる事があれば手伝うし、頑張ろうぜ。」

 

「……そうだな。」

 

 キョウの言葉を受けて望月は顔をあげる。その顔はしっかりとこちらを見据えており、キョウも安心する。

 

「じゃあ俺授業あるから、もう行かなきゃ。」

 

「あぁ、いってらっしゃい。」

 

 キョウは扉を音が立たないように開けて、用具室からそっと出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 午後の授業。教室に流れる空気はどこか緩やかで、窓の外からは鳥の鳴き声と、遠くで鳴る工事の音がかすかに混ざって聞こえてくる。

 

 キョウは、教科書を開いたまま、その内容にはあまり集中していなかった。教師の声は耳に届いていたが、意味として頭に入ってくることは少ない。

 

 『大人の魔法少女として』

 

 頭の中で考えていることは、時任の言葉。彼女の言葉が嬉しかったのも、今考えれば悲しい事である。

 

(……最近、大人として扱われることって、あんまり無いしな。)

 

 ふと、そんなことを思ってしまう。

 

 魔導保全局の中でも、依然として子供扱いをされるままだ。悪気がないのは分かっている。けれど、これでいいのかと漠然と思ってしまう。

 

 チラ、と周囲に目を走らせる。ノートにびっしりと文字を書いている子、窓の外をぼんやり眺めている子、机に突っ伏して寝ている子――みんな、年相応の中学生だ。

 

(……この中にいたら、流石に子供扱いはされないよな!)

 

 そう思った瞬間、胸の中にすっと冷たい風が吹いた。

 

(……いやいや、中学生相手に何張り合ってんだよ、俺……。)

 

 自分の考えが情けなくなり、そっとため息を吐く。

 

「――じゃあ、涼宮さん。次の問題、お願い」

 

 その声に、キョウの心は現実へと引き戻された。

 

「……はい。」

 

 すぐに立ち上がる。教室の空気が少しだけ動き、制服のスカートがふわりと揺れた。髪も一緒に、さらりと肩のあたりで跳ねる。

 

 歩き出すとき、足音が妙に軽く感じられる。自分でも驚くほど静かな、少女の足音だ。

 

 黒板の前に立ち、チョークを手に取る。文字を書くとき、無意識に姿勢を正す自分に気づく。教師がうなずいたのを見て、軽く頭を下げ、席へと戻った。

 

 腰を下ろすとき、スカートの裾が不用意に捲れないよう、そっと手で押さえる。この仕草にも、もうだいぶ慣れてしまっている自分がいた。普段は履かないスカートだが、魔法少女に変身した時にスカートを強制的に着させられているからだ。

 

(ほんと、板についてきたな……。)

 

 皮肉めいた苦笑が、喉の奥に引っかかる。

 

 チャイムが鳴り、教室の緊張がふっと解けた。生徒たちがざわざわと動き出す中、キョウの机に何人かが集まってきた。

 

「涼宮さん、ちょっといい?」

 

 クラスメイトたちが声をかけてくる。

 

 さっきは中学生相手にって思ったが、それでも大人として頼れるような存在でありたいとキョウは思った、そのためキョウは少し張り切って返事をする。

 

「おぉ、どうした? なんかあったか?」

 

「あぁいや、涼宮さん、学校のことまだよくわかんないだろうから、よかったら案内しようかなって。」

 

「ノートちゃんと取れた〜? 良かったら見せるよぉ。」

 

「えっ、と……。」

 

 頼られるどころか気遣われていることにキョウは困惑する。しかしそれも当然であった。キョウ自身はともかく、クラスメイトからしたらただの転校生であるのだから。

 

(……なんか、変に気ぃ張るのも馬鹿らしいな。)

 

 今の自分は"生徒"なのだから、とキョウは肩の力を抜くことにした。

 

「えーっと、ノートは大丈夫。でも、学校の案内はお願いしちゃおう……」

 

 キョウが案内を頼もうとした瞬間、教室の扉が勢いよく開いた。

 

「えっ、キョウちゃん!?」

 

 教室の扉の方から突然大声がする。顔を向けるとそこには見慣れた少女がいた。

 

「あ、あかり!?」

 

 キョウが名前を呼ぶと、あかりは教室の中に入ってキョウの机までやってきた。

 

「転校生ってキョウちゃんだったの!?」

 

「あー、まあ……ちょっと色々あってな……。」

 

 キョウが元男だと知っているあかりからすれば驚くのも無理がないことだ。しかし、事情を話すには人目が多すぎる。

 

 キョウが困っていると、あかりの背後に人影が見えた。

 

「あかりちゃ〜ん? 他クラスの教室に入っちゃダメじゃないですか。ほら、すぐに出ますよ。」

 

「み、みのりちゃん。ごめん、驚いちゃってて……。」

 

 その人影はあかりと一緒に魔法少女をしているみのりであった。あかりの肩を掴んで教室の外へと促している。

 

 みのりはキョウに顔を向けて手を差し出してきた。

 

「キョウちゃんも、一緒に来てくれますか?」

 

「えっ、あぁうん。ごめん、案内、後で頼める?」

 

「全然大丈夫だよぉ。またねぇ。」

 

「それじゃあね、涼宮さん。」

 

 クラスメイトに断りを入れて、キョウはあかりとみのりと一緒に教室を出た。

 

 

 

 

 

 昼休みの食堂。にぎやかな声が飛び交う中、キョウはあかりとみのりと一緒に、窓際の空いたテーブルに座っていた。三人分の昼食がトレイの上に並び、自然と会話も弾んでいく。

 

「じゃあ……キョウちゃん、任務でこの学校に“転校”してきたってことなんですか?」

 

 みのりが問いかけると、キョウはコクンと頷いた。

 

「うん。しばらく、ここで動くことになってる。」

 

「えーっ、じゃあ、その任務が終わったらいなくなっちゃうじゃん!」

 

 あかりがわかりやすく口をとがらせて言う。キョウは苦笑して、

 

「任務が終わるまではいるよ。だから、それまでは会えるぜ。」

 

 と言うと、あかりはぱっと顔を明るくした。

 

「そっか! じゃあ毎日会えるね!」

 

「……そうだな。」

 

 少し照れながらキョウが答えると、みのりが首をかしげながら言った。

 

「一人で任務に来てるんですか?」

 

「いや、俺ともう一人来てる。俺の担当の、望月が用務員として……って、二人は会ったことなかったっけか。」

 

「キョウちゃんの、担当!?」

 

 キョウがそう話すとあかりがテーブルに身を乗り出す勢いで反応する。

 

「知りたい! どんな人なの!?」

 

「私も、気になります。」

 

「えっ、うーん、そうだな……。」

 

 改めて聞かれるとパッと出てこないもので、キョウは少し考え込む。

 

 望月は元々研究熱心で真面目なやつだったが、シェルター防衛からはより一層身を粉にして働くようになっていた。

 

 無愛想で何を考えてるのかわからないように見えるが、その実、人のことをよく見ていてフォローができる。よくよく考えれば、望月がこの依頼を一緒に受けてくれたのも、俺のフォローをするためだったりするのだろうか。あいつには感謝してもしきれない。

 

 でも、誤解されがちなのは相変わらずで、未だに魔導保全局に来る魔法少女や一部の職員に怖がられては落ち込んでいる。それが可哀想だが、少し面白くもある。

 

 これらを簡潔にまとめると……

 

「……真面目で仕事熱心で気がきくんだけど、誤解されやすい奴、かな?」

 

「誤解されやすい、というのは?」

 

「表情が変わらないから、怖がられるんだよ。そんな怖がることないと思うんだけどな。」

 

 これは本当にそうだ。望月は言っていることも普通だし、みんな怖がりすぎだとキョウは思っている。

 

「でも、今のでキョウちゃんが信頼してるってことは伝わったよ! 凄くいい人なんだね!」

 

「そうだな。望月、いい奴なんだよ。」

 

 そうして話しているキョウの電話が振動する。

 

「……悪い、先に行くわ。望月に呼ばれちまった。」

 

「おぉ、タイムリー! じゃあまたね、キョウちゃん!」

 

「それじゃあまた。」

 

「おう、またな。」

 

 そう言って小さく手を振ると、キョウは足早に廊下を進んでいく。あかりとみのりはその後ろ姿を見送りながら顔を見合わせた。

 

「……ついていっちゃおっか?」

 

「はい。望月さんがどんな方か、見てみたいです。」

 

 あっさりと意見が一致し、二人は足音を忍ばせながらキョウの後を追った。やがてキョウが向かったのは、人通りのない校舎裏手の廊下だった。

 

「この先って……用具室じゃなかった?」

 

「確か、望月さんって用務員ってことで潜入してるって聞きましたし……それででしょうか。」

 

 そんな話をしながらそっと角を覗くと、キョウが用具室の前で立ち止まり、扉を軽く叩いていた。

 

 ──コン、コン。

 

 やや緊張した面持ちで見守っていると、ギィ……と鈍い音を立てて扉が開いた。

 

 現れたのは、長身で仏頂面の男だった。乱れた髪に無愛想な目つき。物陰から覗いていたあかりとみのりは、思わず小さく声を漏らす。

 

「うわ、迫力あるね……」

 

「えっ、あれって……そういえば、シェルター防衛のときにキョウちゃんと話してた人じゃない?」

 

「ああ、いたいた。なんかボサボサしてた人!」

 

 二人の記憶が一致する。あの時、望月は脇目も振らずシェルターまで直行していたため身だしなみも酷いものであったのだが、事情を知らない二人から見れば不審な人物に映っただろう。

 

 二人は更に小声で話し合う。

 

「でも、キョウちゃん、あの人に敬語使ってなかったよね? なんか不思議だなって思ってたけど……」

 

「担当の人だったのですか……なるほど。」

 

 納得しながらも、あまり好印象は抱けなかった。見た目のせいか、無表情のせいか、それとも単に雰囲気が怖いからか。

 

 けれど、そんな彼の前で、キョウは楽しそうに笑っていた。少し照れくさそうに目を伏せたり、いたずらっぽく口元を緩めたり。

 

 その様子を見て、あかりとみのりはそっと顔を見合わせ、ほんの少しだけ、安心したように笑った。

 

「……まぁ、キョウちゃんがあんな顔してるなら、いい人なのかもね」

 

「はい、心配しすぎたかもしれませんね。戻りましょうか。」

 

「そうだね。」

 

 そうして二人は来た道をこっそり引き返していった。




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