TS魔法少女 響 作:ときんときん
次の日の朝、すぐに問題が発生した。
「会社になんて言えばいいんだ……?」
俺はスマホの連絡先を睨みながらぼやいた。表示されているのは、俺が働いている会社の電話番号だ。
「どうしたの?」
「いや、会社に休みの連絡をしようとしたんだけど……この声じゃ無理だろ?」
この容姿じゃ、出社したところで俺だとは誰も気づかない。とりあえず休もうとしたが――さっき、声まで変わっていることに気づいて、途方に暮れていたところだった。
「っていうか、この見た目だと身分証とか保険証も使えないよな。……やばくないか、俺?」
「朝から元気だねぇ」
「お前のせいだろうが! どの口が言ってんだよ!」
「まあまあ、落ち着いて。これを見てよ」
そう言ってルミナは俺にカードを差し出す。もう片方の手には、いつの間にか俺の財布があった。
「おい、勝手に財布触んなって……。それ、俺の身分証?」
差し出された身分証には、白髪の美少女が写っている。っていうか、今の俺の顔だ。
「なんでこの顔写真が……? この姿になってから撮った覚えなんてないぞ」
「何か勘違いしてるみたいだけど、それは君の財布の中に入っていた、君自身の身分証だよ」
「は? いやいや、顔写真が違うし、お前が用意したんじゃないのか?」
「違うよ。この身分証も含めて、君と交わした契約の影響なんだ」
「……契約って。おい、なんか嫌な予感がするんだが……?」
昨日から、契約がらみでろくなことが起きていない。どうせ今回もロクでもない話に違いない。
「昨日、君の身体を“置き換えた”って言ったよね。でも置き換わったのは体だけじゃないんだ。君の存在そのものが、少女としてのものに置き換わったんだよ」
「存在が……置き換わった……?」
「契約によって、世界は“最初から君が女の子だった”って認識してるんだよ。君の記憶だけが例外。元の君なんて、最初からいなかったことになってる。その身分証も、その影響で変化したのさ」
「……いやいや、意味がわからなすぎるんだけど……?」
「でも安心して。できるだけ、元の君に近い状態を維持するようにしてある。家族や友人関係、銀行口座とかも、そのまま残ってるよ」
「……じゃあ、逆に何が変わってるんだよ」
「そうだね……たとえば、さっき“会社に休みの連絡を”って言ってたよね。でもそれ、必要ないんだよ」
「……まさか」
「うん。“最初から君が雇われてなかった”ことになってるから、休む必要も、出社する義務もないってわけさ」
「……ちょっと、確認させてくれ」
俺はスマホを取り出して、自分の会社に電話をかけた。数コールで、相手が出た。
『はい、こちら株式会社〇〇でございます』
「すみません、恐れ入ります。御社に鈴宮響一という者が在籍しているか、確認していただけますでしょうか?」
鈴宮響一(きょういち)。俺の本名だ。
『少々お待ちくださいませ』
保留音が流れる中、俺はスマホを握りしめる。
「はぁ、やるだけ無駄なのに」
「黙ってろ……」
ルミナが嘘をついているとは思っていない。ただ、自分で確認しなければ納得できなかった。
『お待たせいたしました。申し訳ございませんが、当社に鈴宮響一という者は在籍しておりません』
「……そうですか。ありがとうございます」
『失礼いたします』
電話が切れた。やっぱり、もう“俺”はいないんだ。
「他には? 他に変わってることはあるか?」
「うん、それなんだけど。君、まだ気づいてないみたいだね。身分証、もう一度よく見てみて」
「……はあ?」
言われるままに、改めてカードを見る。顔写真以外に、何か――
「……“鈴宮 響(きょう)”?」
「違う違う。“鈴宮 響(ひびき)”だよ。魔法“少女”だからね、名前も可愛くしなきゃ変でしょ。」
名前までもが変えられていた。
――体だけじゃない。存在そのものが、書き換わってる。現実改変なんて言葉があるけど、まさかこんなものが実在するとは思わなかった。
「……こえーよ、マジで」
「怖がることはないさ。契約は、すべて君の都合のいいように働いているんだから」
「……いや、それもそうだけど。こんなヤバいことを軽々しくやっちゃうお前も怖い……」
「なっ……!? 軽々しくやってなんかいないからね!? 契約っていうのは、妖精にとって一度きりの大切なものなんだよ!」
俺のつぶやきに、ルミナは勢いよく反論する。
「じゃあ、お前はその“一度きりの契約”を、俺を助けるためだけに使ったってのか?」
「それは、急かすように契約をしたことは悪いと思っているよ……。でも僕は、君の勇姿に惹かれて、君の前に現れたんだ。重傷を負っていたからじゃない。君だから、契約を持ちかけたんだ。」
「……。」
ルミナが持ちかけてきた契約の影響はとんでもないものだ。今までの俺を無いものにして、少女のそれに置き換える。それに伴って、名前が変わっていたり、会社に勤めていた事実が無くなったり、わかっているだけでもとんでもない改変が行われている。
本人はできるだけ以前の俺のままにしたと言うが、それもどこまで元の俺のままかわかったものではない。
なにより、俺はこんなにも影響のある事をしておいて軽い態度をとっているルミナが信用ならなかった。仕方なかったとしても、少しは悪びれたらどうなんだと思った。
――そう、仕方なかったんだ。俺は死にかけてて、だからあいつは俺を助けるために急いで契約を結んだ。俺はルミナに助けられたんだ。
俺は命を救われたにも関わらず、これまでその礼を伝えてなかった。いや、こいつが無神経すぎるせいでもあると思うんだが、それでも、受けた恩に対して文句ばかり言うのは間違っている、気がする。
「……そうだよなぁ……。」
「? えっと……?」
俺の呟きにルミナは疑問符を浮かべるが、俺はそのまま続ける。
「まずな、ルミナ。」
「う、うん……。」
かしこまった俺に、ルミナは少し緊張気味に応える。それがおかしくて、俺は少し頬を緩めながらルミナに軽く頭を下げる。
「俺を助けてくれて、ありがとう。」
「……!!」
言葉にしてみると、少しむず痒くて、でも確かにそう思っている自分がいた。
「お前がいなきゃ、俺は今ここにいなかった。命を救われたってのに、礼のひとつも言ってなかったなって思って。」
「……君が混乱するのも仕方がない状況だ。それに、礼だなんて。僕は君の力になりたかっただけなんだ。」
こういう時は、気持ちを全部吐き出せばいいんだ。
「俺を助けるためのものなんだし、契約の影響で色々と変わってても文句は言えねぇよ。なんなら、仕事行かなくていいなんて最高だし。」
「……それなら、なにが不満なんだい?」
「女になったこと、名前が変わったこと、あと、仕事がなくなったこと。それに、俺がこんなになってんのにお前は一切悪いとか思ってないだろ。それが気味悪いんだよ。」
「それは、本当に君にとって都合よくなっていると思って……。」
「ふぅん……。」
やっぱり、こいつに何か悪意があるとかってわけではないっぽい。契約もあくまで俺のためにしてくれたのだろう。
俺の睨むような視線に耐えかねたのか、ルミナが言葉を続ける。
「うぅ……。だって君、線の細いちょっとミステリアスな白髪美少女が大好きじゃないか……。」
「う、うるせぇなぁ!! お前のそういう所が気に食わないんだよ!」
なんでこいつはこう、こちらの琴線に触れるようなことばかり言うのだろうか。気疲れするのは、いちいちこいつの言うことに反応する俺が悪いのだろうか?
「そういえば、今の俺無職じゃん……。これからどうすりゃいいんだ……。」
「そんな君に、魔法少女がおすすめさ!」
「……だからさ、お前が俺をこうしたの、自覚あんの?」
「も、もひろんあるっへ!(も、もちろんあるって!)」
自信満々に提案する様がどこか腹立たしくて、俺はもちもちとルミナを引っ張りながら問い詰める。
「魔法少女として働けば、国から賃金が出るんだよぉ! これも立派なお仕事さ!」
魔法少女が国からお金をもらっていることは知っている。国の公的機関に登録して、魔物を討伐したらその分給金が出るらしい。
その日暮らしみたいになりそうだが、実際今の俺に魔法少女以外でやれそうな仕事がないしな。容姿が完全に未成年だからな。せいぜいバイトぐらいしかできないだろう。
それに、俺は契約で魔法少女になることで命が助かったのだ。それなのに魔法少女にならないことは、契約を結んだルミナに申し訳なくも思った。
「……はぁ、仕方ねぇか。やるよ、魔法少女。」
「! ほ、本当かい!?」
「他にやれそうなこともねぇしな。」
俺が魔法少女になる事を伝えると、ルミナは前のめりになりながら確認をしてきた。
「よし! そうと決まれば早速君の力を確かめてみよう!」
「あぁはいはい、どうすりゃいいんだ?」
あからさまに元気になったルミナがちょっと可愛く見えてきた。
「リラックスして、心の内で力を使う事を意識するんだ!」
「力を使う事を、意識……。」
目を閉じて、内にある力を意識してみる。すると、どこからかやってきた温かなエネルギーが俺の全身を駆け巡りだした。
光に包まれるようにして身につけていたダボダボな服が消え、代わりに現れたのは、しなやかに輝く純白の布。
胸元から肩へ、透明なチュールがふわりと広がり、身体に沿うように繊細な刺繍が浮かび上がる。
腰のあたりには銀糸のリボンが巻きつき、その中心で淡く光る魔石が鼓動するように脈動した。
スカートは前が短く、後ろが長いドレープが風に舞い、
まるで雪の精が舞い降りたような幻想的な姿を形作っていく。
足元には白銀のショートブーツが現れ、
その足が軽く地を蹴るたび、氷の花が咲くように魔法陣が浮かぶ。
「うっ……。わかってたけど、やっぱりスカートか……。全身ピッチリしてて落ちつかないし、太ももが寒い……。なぁ、これなんとかならねぇの……?」
「申し訳ないけれど、魔法少女の装いを変えることはできないよ。その姿、とっても可愛くて綺麗だよ!」
「はぁ、うれしくねぇっての……。」
そうしていると、自分の内側に何か力のようなものを感じた。そして同時に、その力を十全に扱えると言う確信があった。
「なんか、能力? みたいなのが使えそうなんだけれど、使ってみていいか?」
「うん、使ってみな。」
ルミナの許可を得て俺は手のひらに意識を向ける。すると手の内側に白い結晶のようなものが生成された。
「これは……?」
「それは“結界”だね。君の魔法の主力になる力だよ。その結界を広げるようにしてみて。」
「広げる……、こうか?」
俺は手のひらを外に向けてて横に動かす。すると、横長で白くて不透明な結界が目の前に発生した。結界はその場に固定されたように固まっている。
「ここでやるにはあぶないけれど、結界に指向性を持たせて魔物にぶつけたりもできる。この力があれば、どんな魔物もへっちゃらさ!」
「へぇ……。」
結界を軽く叩くと、コンコンと硬い感触が返ってくる。詳しくはわからないが、なかなかの強度があるようだ。
「その結界は対象を決めて通り抜けられるようにもできる。例えば、民間人をその結界に入れて守ることもできる。」
「対象……。それって……。」
目の前の結界に、自分を対象とする事を念じながら触れようとすると、俺の手が結界を通り抜けた。
「俺も、対象にできるのか。」
「そりゃもちろん。」
俺が再度念じると目の前の結界はフッと消えた。
正直言って、俺は今かなりワクワクしている。だってそうだろう。超能力みたいな力を扱うロマンは、男なら誰だってわかるはずだ。このヒラヒラとした服装をしなくて良いのなら、もっと両手をあげて喜べたのだが。
「よし! それじゃあ早速、魔法少女として登録しに行こう! 服はこれに着替えて。」
「なんでサッと服が出てくるんだよ……」
「部屋のタンスに入っていたよ!」
「……もう驚かんぞ。」
俺はルミナから受け取った服に着替えた。
タートルネックのセーターが身体の線を強調し、スリムパンツにシンプルなロングコートを羽織る。先ほどまでスカートを履いていた分、レディースとはいえパンツが安心感を与えてくれる。
「さぁいこう!」
「元気だな、お前……。」
ルミナに急かされるようにして、俺は玄関の扉を開けた。
「こちらが魔法少女としての立場を証明するカードになります。魔法少女として活動する際は、必ず携帯してくださいね。」
「はい、わかりました。」
俺たちがやってきたのは市役所にある特異災害対策庁の魔法少女課である。ここでは妖精と契約をした魔法少女に対して魔法使用の許可を与えたり、魔法少女への各種支援を行っている。
魔法の詳細などを説明せずに魔法の使用許可が降りたことに驚いたが、これは魔法少女の能力について詮索をしてはいけないという暗黙の了解があるためなのだとか。
この暗黙の了解には妖精の大元である妖精王と国による契約が関わっているとルミナは話し始めたが、長くなりそうだったので俺は聞き流した。
それよりも気になったのが……。
「あの人、すっごく綺麗だね……。」
「うん。ミステリアスな感じ。魔法少女になるのかな?」
俺は街を歩いている時も視線を感じ続け、逃げるようにして市役所に入ってもその中にいた人たちに好奇の目に向けられていた。正直今すぐにでも走りってここから出てしまいたいくらいだ。
「人気者だねぇ。」
「……はぁ。」
ルミナが揶揄いに対しても、この空間の居心地の悪さから言い返すことができなかった。
俺は逃げ帰るように早足で歩いていると、ふと受付にいた親子に目が向いた。親はバッグとは別に紙袋を持っていて、女の子は泣きじゃくっているようだった。
「申し訳ありません。あの時現場にいた魔法少女には、該当するような方はいないようでして……。」
「そうですか……いないみたいだって。」
「うぅぅ、いたもん! 白い髪のお姉ちゃん、いたもん!」
「でもねぇ……。」
そうして泣いている女の子には覚えがあった。俺が魔物の発生に巻き込まれた時、一緒に逃げた女の子だった。
白い髪のお姉ちゃんって、まさか……。
「おい、ルミナ。俺が男の時に会った姿も、今の姿に変わってるのか?」
「ん? そうだね。それがどうかしたの?」
「いや……。」
半信半疑だったが、確信に変わった。俺は受付前にいる親子のもとに、女の子に声をかけた。
「あの、お嬢ちゃん、大丈夫?」
「……!! お姉ちゃん!!」
「うおっ。」
女の子は俺に気がつくと目を輝かせながら、しがみつくように俺に抱きついてきた。女の子の涙がセーターに吸いつき、それでも涙は止まらずに鼻を啜るような音が聞こえてくる。
「おぉ、よしよし。」
俺は目線を下げたところにある頭を撫でながら女の子を落ち着けようとする。俺が囮になったところで女の子とは別れたから、助かった事を知れて俺もほっとした。
すると、女の子の母親らしき人物が声をかけてきた。
「あの、娘を助けて下さった方ですよね。本当に、ありがとうございました。」
「あぁいえいえ! 当たり前のことですから、顔を上げてください!」
深々と頭を下げる母親に俺は焦って顔を上げるよう促す。顔を上げた女性は涙ながらに事情を話し出した。
「娘が白い髪のお姉ちゃんに守ってもらったと言ってて、どうしてもお礼がしたいと言って聞かなかったんです。私も、直接お礼を言えたらと思っていたので、会えて本当に嬉しいです。」
「そうだったんですか……。」
「魔法少女として活動している方なのですか? 受付の方からは魔法少女にあなたのような方はいないとのことだったのですが……。」
「今さっき魔法少女として登録してきたんですよ。この子に会った時は魔法少女じゃなかったので……。」
俺は再度目線を下げて女の子を見る。啜り泣くような声はもう聞こえてこないが、それでも頭をぐりぐりと俺に押し付けてくる。
「じゃあ、なんの能力もなしにこの子を守ってくださったのですか……? 本当に、ありがとうございました。」
「あはは、いやぁ……。」
お礼の言葉がどうにもむず痒くて、俺は曖昧に笑って答えてしまう。すると、女の子が俺から少し離れて顔を上げた。その表情はにこやかなものだった。
「お姉ちゃん、ありがとう!!」
「……!! うん、どういたしまして。」
女の子の笑顔に俺も頬を緩めて返す。女の子の笑顔を見て、この子を守れてよかったと心から感じた。
「あ、そうだ! 娘が救助された時に持っていたものがあって、これ、貴方のものでしょうか?」
そう言って母親は持っていた紙袋を揺らした。女の子が持っていたもの。それには心当たりがあった。
「多分私のものだと思います。その子に渡していたので。」
「そうでしたか。ちょうどクリーニング屋さんから受け取ったばかりなんです。お返ししますね。」
「そうでしたか。わざわざありがとうございます。」
いえいえ、母親は返事を返す。
「それじゃあ、そろそろ失礼しますね。ほら、挨拶して。」
「うん。じゃーね、お姉ちゃん!」
「うん、じゃあね。」
そうして俺は親子を見送った。あの女の子に会えて本当によかった。無事だった事を知れたというのもあるが、あの子を助けた自分の行動を何よりも誇りに感じることができた。
こうして直接お礼を言われることは稀であるだろうが、それでも、誰かを助ける魔法少女の仕事が尊いものに思えたのだ。
心地よい感傷に浸っている俺にルミナが声をかけてくる。
「よかったね、響(ひびき)。」
「あぁ。……ルミナ、できればキョウって呼んでくれよ。やっぱり元の名前らしさがちょっとでも欲しい。」
「わかったよ、キョウ。」
響一(きょういち)という名前から取って、響(きょう)というあだ名で呼ばれたこともあるから、これなら俺からしても違和感がない。これからはキョウと名乗るようにしよう。
そうして今度こそ帰ろうと玄関口へ向かうと、少女がこちらを向いているのが見えた。俺に視線を合わせて、こちらへ近づいてくる。
「ねぇ君! わたし、さっきの聞いてたよ!」
「えっと……?」
「あ、急にごめんね。わたしは日向あかり! 貴方の名前は?」
「えーっと、俺は鈴宮キョウ、です。」
食い気味な少女に押されながらも返事を返す。年代の子と話すことは全くと言っていいほどないため、何を話せばいいのかとドギマギしてしてしう。
「キョウちゃんかぁ、いい名前だね! それで! さっきの女の子を助けたのってキョウちゃんなんだよね。あの子、ここに来てから泣いてばかりだったんだよ。」
キョウちゃん!? と驚く俺をよそに少女は続ける。
「なのに、キョウちゃんに会ってからあの子、すっごい笑顔になってて、私聞き耳立てちゃってだけどね。あの子を助けて、笑顔にさせて、キョウちゃんの事、すごいなって思ったの!」
「そ、そっか。ありがとね?」
「それでね! キョウちゃんと一緒に魔法少女として協力したいんだけれど、どうかな!?」
「ちょ、ちょっとタンマ!」
少女の勢いについていけず待ったをかける。ルミナを連れて端に寄る。
「一緒に魔法少女やるって何!?」
「うーん。僕もあんまりわかんないけど、言葉の通りじゃないの? グループで活動している魔法少女くらい、君もいくつか知ってるだろ?」
「あぁ、そういう……。」
グループで活動している魔法少女がいるのは知っている。主に活動範囲が被っている魔法少女同士で一緒に活動することがあるが、そういったグループは日常的に繋がりのある者同士で作られることが普通であるはずだ。だから、俺には関係のない話だと思っていたんだが……。
俺は少女に向き直る。少女は興奮冷めやらぬといった雰囲気だ。
「それで、どうかな!? 一緒に魔法少女、やらない!?」
「それじゃあ……。」
俺は……。
「悪いけど、断らせてもらうね。」
「うん! これからよろし……ってえぇーー!! どうしてぇ!!」
俺は、断ることにした。当たり前である。中学生くらいの女の子と一緒に活動するなんて、三十路に近い俺には荷が重すぎる。姿は少女だとしても、心は成人男性なんだよ、俺は。
俺の返事が想定外だったのか、少女は若干涙目になっている。そんな少女に、同年代らしき別の女の子が近づいてくる。
「もう、あかりちゃん。ここ市役所なんだから、静かにしなきゃダメだよ。」
「あ、みのりちゃん……、ごめんなさい。キョウちゃんも、ごめんね?」
「いや別に、気にしないで。」
「あかりが無理言ってごめんね。私は月野みのり。キョウさん? でいいのかな?」
「鈴宮キョウ、です。いえ、こちらこそ断っちゃって申し訳ない。」
どうやら友達のようだ。
「この市役所にいるということは、この辺りに住んでいるんでしょ? 魔法少女として関わることがあるかもだし、その時はよろしくね?」
「うん、それなら。こちらこそ、よろしくね。」
「うぅっ、一緒にやろうよぉ〜……。」
「こら。帰るよ、あかりちゃん。」
俺に勧誘したあかりちゃんを引きずるようにして2人は市役所を出ていった。
最後にドッと疲れたな……。
「じゃあ、俺たちも帰るか……。」
「キョウ、よかったの?」
「俺があのくらいの子達と一緒にいたら、子守りみたいなもんじゃねえか。そんなのごめんだね。」
「たしかに、中身がおじさんだって知っちゃったらあの子も悲しむもんね。」
「そこまで言ってねえ!!」
最後にアクシデントもあったが、魔法少女としての登録を終えて、ようやく俺たちは帰路に着いたのだった。