TS魔法少女 響   作:ときんときん

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第1章 : 第7話

 

 

 

 

 

 

 模擬戦が終わった直後の、熱気と疲労の残る空間。訓練室の空調が静かに風を送り、キョウは壁際に腰を下ろして、タオルで額の汗を拭った。

 

 望月は少し離れた場所で端末にデータを打ち込んでいる。その背中を眺めながら、キョウはゆっくりと呼吸を整えた。

 

「キョウちゃん! 望月さん、また来てるよ!」

 

「え、ああ、ありがとう……研究のためってのはわかってるけど、毎回来てるだろ? 恥ずかしいんだよな……。」

 

「逆に羨ましいくらいだよ! あんなに熱心な人、他にいないよ!」

 

「そうだよねぇ。望月さんって怖そうだけど、真面目な人なんだね。」

 

「まぁ、真面目なのはそうだけどさ……。」

 

 キョウが模擬戦をやる度に、望月は観戦席にやってきた。研究のためにキョウの魔法を直接見る必要がある、だとか言っているのでむしろ感謝するべきなのだが、それでも恥ずかしさが勝る。

 

 そうして望月から数瞬視界の外にやると、観戦席から望月の姿は既に無くなっている。望月は模擬戦が終わるとすぐに帰るのだ。これもキョウからしたら不服だった。雑談ぐらいしたら付き合ったらどうだと思う。

 

 ――ふと、視線を感じる。

 

 訓練室の隅。透明な羽を光に揺らす、妖精たちが数体、こちらを見ていた。

 

 小声でひそひそと話している。時折、ちらりと視線をこちらに投げては、また顔を寄せ合っているのが見える。

 

 (……なんだろ)

 

 不安と困惑がない交ぜになったままキョウが首を傾げていると、一体の妖精がふわりとこちらに飛んできた。

 

「キョウちゃん! キョウちゃん! あのねっ!」

 

「お、おぉ。どうした?」

 

 少し前のめりになってキョウに話しかけてきたその妖精は、どこか幼稚な雰囲気があった。

 

「困ったことがあったら、教えて! 力になるよ!」

 

「えっ、えっと……?」

 

 キョウはこの妖精と話したのは今が初めてなのだが、なぜだが気遣われている。困惑していると、魔法少女の1人が近づいてきた。

 

「こらー!キョウちゃん困らせちゃダメでしょ!」

 

「ぶへぇ。だ、だってぇ……。」

 

「だってじゃないの! みんなのとこ行ってきなさい!」

 

「うぅ、はーい……。」

 

 魔法少女に咎められた妖精はフヨフヨと妖精たちの集まりに戻っていく。戻った先ではこちらを覗き見ながら、キャッキャと楽しそうにしているのが見えた。その様子は、幼稚園児たちの集まりのようにも見えた。

 

「キョウちゃん、うちの子がごめんねぇ。というか、キョウちゃんの妖精が見当たらないけど……。」

 

「あぁ、あいつなら今頃、寮でゲームでもしてるんじゃないかな。」

 

「えっ、ゲーム……? ゲーム機で遊んでいるの?」

 

 少女はキョウの言ったことに引っかかったような反応だが、何かおかしかっただろうか。

 

「そうだけど、変なの?」

 

「変というか……妖精たちって、いつも集まってワチャワチャしているイメージだから……。」

 

 少女の視線の先に集まっている妖精たちは、どこか騒がしくて幼い。キョウの契約しているルミナとは、口調も佇まいも、まるで違うように感じた。

 

 そんな妖精たちはキョウをチラチラと見ながら気にしているようだったが、こちらの視線に気がつくと、妖精たちは霧散するように周囲に散らばっていった。

 

「あっ! 片付けあるんだった! キョウちゃん、またね!」

 

「おぉ、またね。……なんだったんだ?」

 

 違和感を感じつつも、キョウも模擬戦の後片付けを再開した。

 

 

 

 

 

 

 放課後の街を、制服姿の少女たちが歩く。

 

 通学路の並木を太陽の光が照らし、季節の変わり目を告げる風が、スカートの裾をわずかに揺らしていく。

 

 その時、二人の肩先にふわりと小さな影が降りてきた。淡い光を帯びた羽が、陽の光を反射してきらめく。 

 

「そういえば、最近妙な噂を聞いたよ。」

 

「どうしたの、ティルム? また魔物が出た〜とか?」

 

「そうじゃなくて、この前会ったキョウちゃんの噂だよ。」

 

「えっ!? キョウちゃんの!?」

 

 世間話でもするかのように話し出したティルムに対して、あかりは前のめりになって反応するがそれをみのりが制する。

 

「あかりちゃん、落ち着いて。ティルム、詳しく説明してくれる?」

 

「う、うん。……実は、妖精たちの間でキョウちゃんについての噂が広まっていたんだ。」

 

「その噂って?」

 

「それはね…………」

 

 ティルムは2人に噂の概要を伝える。

 

「……にわかには信じがたい話ですが……。」

 

「でもキョウちゃんがそうなのは本当だよ。この前会った時に僕も確認している。」

 

「……はぁ? ティルム、なぜそれをすぐに言わないのですか?」

 

 みのりはティルムの両の頬を掴み強く引っ張る。

 

「ぶえぇっ! ぼ、僕は個人情報の保護を優先したんだぁ!」

 

「……みのりちゃん! ティルム! 今すぐキョウちゃんに会いに行こう!」

 

「でも、あかりちゃん。キョウちゃんにどうやって会うんですか? 連絡先も知らないのに。」

 

 みのりの当然の疑問に、あかりは自慢げな顔でスマホの画面を見せつける。

 

「さっき調べたら魔導保全局? ってとこにいるらしい! 行こう!」

 

「なるほど、行きましょうか。」

 

 みのりはティルムの頬をパッと離して、あかりと共に歩き出す。

 

「い、痛てて……君たち、すごい行動力だね……。」

 

 駆け足の2人を追いかけるようにティルムがついていく。下校中だった一同は魔導保全局へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔導保全局・中央研究棟。

 

 無機質な白い壁と、控えめな照明に包まれた広めの会議室。

 机を挟んで向かい合うのは、制服姿の魔法少女たち数名と、資料を手にした望月大和だった。

 

 望月は手元の資料に目を落とし、静かな声で口を開く。

 

「……あなたたちの能力は、私たちの研究にとって非常に貴重です。協力してもらえるなら、適切なサポート体制と補助金を用意するつもりです。」

 

 机上に資料を置き、ペンを指で軽く弾く。

 その仕草まで無駄がなく、冷たく、どこか事務的だった。

 

「もちろん、強制ではありません。ですが、あなたたちの力を適切に記録・分析することは、今後の魔物対策に直結します。どうか、ご協力をお願いいたします。」

 

 ひとり、またひとりと、魔法少女たちの顔が強張る。

 

 柔らかな笑顔も、くだけた世間話もないまま、望月の問いかけは鋭く彼女たちを刺していた。

 

 沈黙が流れる。

 

 やがて、最初に立ち上がったのは、端に座っていた少女だった。

 

 彼女は椅子を引く音さえもそっと消すように、小さく頭を下げると――

 

「あ、あの……すみません、ちょっと、用事を思い出して……!」

 

「あっ! あたしも……。」

 

 そう言って、早口で部屋を後にする。

 

 それを皮切りに、次々と魔法少女たちが口々に言い訳を並べ、立ち上がり、逃げるように出て行く。椅子がガタガタと音を立て、戸口がばたばたと開閉する音が続いた

 

 あっという間に、椅子だけが並んだ会議室に、望月とキョウに誠、数名のスタッフだけが取り残される。

 

「…………。」

 

 望月は無表情のまま、目を伏せ、残った資料を静かにまとめた。望月を眺めながら誠が呟く。

 

「わかっていたが、やはりダメだったか……。」

 

「じゃあなんでやらせたんですか……もう見てられませんよ……。」

 

「いや、涼宮は望月と上手くやれているようだったから、もしやと思ったんだがな……。」

 

 望月が誤解されやすいとは聞いていたがここまでとはキョウも思っていなかった。キョウはいてもたってもいられず望月の元へ駆け寄る。

 

「片付け、手伝うよ。」

 

「……すまん、助かる。」

 

「いいって。」

 

 近づいた拍子に望月の顔が目にうつる。確かに、この仏頂面は年頃の娘たちには厳しいかもしれない。

 

 定期的に行われる魔法少女の研究への勧誘。この勧誘は魔導保全局に所属している研究員によって行われるものだが、これまで望月はこの勧誘に参加してこなかった。その理由を今、まざまざと見せつけられているわけだ。

 

「なんというか、少しでも微笑んだりできればいいんだけどなぁ。」

 

「……厳しいだろうな。以前に笑顔の練習をしたことがあるんだが、何か企んでいるようにしか見えない、と言われたことがある」

 

「ふっ、マジか。あごめん、笑っちゃった。」

 

「……構わない。笑われて当然だろうしな。」

 

「あぁ、ごめんって〜!!」

 

 シュンとしてしまった望月に慌てるキョウ。その様子を見ながら誠が近づく。

 

「2人とも、休憩にしよう。何か奢るぞ。」

 

「おぉ、マジですか! ありがとうございます!」

 

「ありがとうございます。俺は資料を研究室に置いてから向かいます。」

 

「あぁ、それじゃあ先に行っているぞ。」

 

 会議室を後にして、誠とキョウは並んで廊下を歩く。 無機質な白壁に、控えめな話し声や足音が交じる。完全な静寂ではないが、どこか落ち着いた空気が漂っていた。

 

 そんな場の空気に溶け込むように、誠がキョウに話しかける。

 

「……涼宮、望月に良くしてくれて感謝している。お前だからこそ、上手く付き合えているのだろうと思う。」

 

「えっ、いやぁそんなことないと思いますけどね。望月、わりかし面白いやつなのに。」

 

「……前もそう言っていたな。真面目で善良だとは思うが、面白いと思ったことはないな。」

 

「えぇー?」

 

 研究棟を抜け、連絡通路を渡った先にある別棟へと足を踏み入れる。

 

 ここは研究者だけでなく、魔法少女たちも利用する施設だ。建物に入るとすぐ、ほのかに甘い匂いが漂ってきた。

 

 カフェテリアは入口からすぐ右手にあり、ガラス張りの広々とした空間の中には、数組の魔法少女たちが談笑する姿が見える。

 

 その手前、受付カウンターには制服姿の魔法少女が二人。何か問い合わせているような雰囲気の2人だが、どこかで見たことがあるような……。

 

 キョウがそう考えていると2人がふいに振り向き、キョウを見つめだす。急に見つめられ困惑するキョウを置き去りにして、2人がキョウに近づく。

 

「キョウちゃんいた! よかったぁ!」

 

「どうも、お久しぶりです。」

 

「え、あっ! あかりと、みのりか!」

 

 声をかけられたことでキョウはようやく気づく。魔法少女としての登録を行った際に声をかけてきた2人であった。

 

「キョウちゃん! 遊びに行こう!」

 

「えっ……えぇ!? 急に何だよ!?」

 

 あかりの急な申し出にキョウは戸惑う。キョウの反応も当然のものである。以前に一度会っただけなのに遊びに誘われたわけなのだから。さらに、もう決定事項であるかのようにあかりがキョウの肩に手を置いている。

 

 そして、みのりもキョウの背中に手を添える。

 

「私たち、キョウちゃんと仲良くなりたいんです。もし良かったら行きませんか?」

 

「いや、俺まだやることが……」

 

「行きましょう?」

 

「あの……」

 

「行きましょう。」

 

「……いや、怖ぇーよ!!」

 

 だんだんと圧が増してくるみのりにキョウは思わず声を荒げる。年頃の子と遊ぶだなんて、キョウにはあまりにも荷が重かった。

 

 中学生相手に怖気ついてしまっている事実から目をそらし、キョウは誠に助けを求める。

 

「誠さん! 助けてくださいよぉ!」

 

 それまで黙って見守っていた誠はそっと近づき、キョウの頭にポンと手を置く。

 

「たまには良いだろう、遊びに行ってこい。」

 

「えぇ……?」

 

 まさか許可をされるとは思っていなかったキョウは間抜けな声を漏らす。その上頭を撫でるという子供扱いまでしてきたため、キョウには訳がわからなかった。

 

「よし! 行くよー!」

 

「はい、行きましょう。」

 

「あぁ……。」

 

 あかりとみのりに体を引かれるキョウ。その力は優しくありながらも、逃げることを許さないようでもあった。

 

 そうしてキョウは2人に連れられて玄関口から外へ出た。

 

 

 

 

 

 バスが停車し、乗客たちが次々と降りていく。キョウたちもその流れに混じって、街へと踏み出した。

 

 コンクリートの地面に靴音が響く。見上げれば、雑居ビルが並び、その隙間を縫うように春の柔らかな日差しが降り注いでいた。

 

「着いたーっ!」

 

 あかりがぱっと腕を広げる。みのりも、いつもより少しだけ表情を緩めて、周囲を見渡していた。

 

 バス停の周りには、買い物袋を提げた人々、談笑しながら歩く学生たち、カフェのテラスでくつろぐ人影――休日らしい、にぎやかさがあった。

 

「えへへ、楽しみだね、キョウちゃん、行こ!」

 

「あ、あはは……。」

 

 手を引いたまま、あかりが笑いかけてくる。

 

 キョウはわずかに顔を引きつらせながらも、無理に作った笑みで応えるしかなかった。

 

(俺、大人の男なんだがなぁ……。)

 

 2人に強引に連れられたキョウであったが、自身が本当は男であることから、逆に2人に対して申し訳なく思っていた。

 

「キョウちゃん、行きましょう。」

 

「おぉ、はいはい……。」

 

 キョウは2人に催促されその背を追いかける。あかりはともかく、みのりも存外はしゃいでいるようだった。

 

 そんな2人を見るのは微笑ましくはあったが、大人の男であるキョウでは中学生の女の子と遊んで楽しむなど難しいだろう。

 

(まぁ、引率のつもりでいればいいか。)

 

 そうしてキョウは2人と共に街の喧騒へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

「ほら、キョウちゃん、笑顔だよっ!」

「お、おぉ。えっと、こうか?」

「ふふ、表情が固いですよ。もっとリラックスしてください。」

「う、うーん……プリクラって難しいな……。」

「あははっ! そんな難しく考えなくて大丈夫だよ!」

 

 

 

 

「この雑貨屋は色々と揃っているから、見ているだけでも面白いですよね。」

「そうだな、俺もたまにくる……はっ! これは、人を堕落させるソファ! 気になってたんだよ、これ!」

「ちょっとだけ座ってみたら?」

「えっ、いいのかな? じゃあ、ちょっとだけ………………。」

「……みのりちゃんっ!キョウちゃんが固まっちゃった!」

「しばらくほっといてあげましょう。」

 

 

 

 

「このクレープ美味っ!!」

「このお店のクレープ、美味しいよねぇ。」

「うん! 初めて食べたけど、マジで美味い!」

「キョウちゃん。そのクレープ、一口頂けませんか?」

「いいよ。ほら、はい。」

「はむっ……ありがとうございます。お礼に、私のもどうぞ。」

「えっ、それは……」

「ほらほら、遠慮なさらずに。」

「あっ、みのりちゃんズルい! キョウちゃん、私のもあげる!」

「え、えぇ……。」

 

 

 

 

 気付けば、空はすっかりオレンジ色に染まっていた。

 

 街路灯がぽつぽつと灯り始める中、バス停へと向かう途中で、あかりが嬉しそうに声を上げた。

 

「わあ、もう夕方だ……!」

 

 隣でみのりも、満足そうに微笑む。

 

「ふふふ、楽しかったですね。」

 

 2人の明るい声に挟まれつつ、キョウは複雑そうに俯く。

 

(た、楽しんでしまった……。)

 

 2人とのお出かけを楽しんだキョウは、"楽しむなど難しい"、"引率のつもりで"、などと考えていた癖に存分に楽しんだ自分が恥ずかしくなっていた。

 

 そんなキョウにふと、あかりが声をかける。

 

「キョウちゃん、今日はありがとうね。実は私たち、キョウちゃんの噂を聞いて、居ても立っても居られなくなっちゃって、会いにきたの。」

 

「え、その噂って……?」

 

「その前にキョウちゃん、契約した妖精に騙されていたりしませんか? 私たち、それが心配でして……。」

 

 みのりがキョウに問いかける。契約した妖精に騙されている、それが噂の概要なのだろうか?

 

「騙されてなんかは……」

 

「それについては、私から答えよう。」

 

「え、うわっ、誠さん!? なんでここに!?」

 

 背後に現れた誠にキョウは思わず声をあげる。

 

「魔導保全局から出る前にマーキングをしたからな。ほら、あの頭のやつだ。」

 

 キョウはあかりとみのりに連れられる直前の誠とのやりとりを思い出す。頭にポンと手を置かれたやつのことだろうか。

 

「あぁ、あれか……いやマーキングってなんですか、せめて一言くださいよ……。」

 

「はは、それはすまなかった。」

 

「あなたは、魔導保全局にいた……。」

 

「あぁ、魔導保全局に所属している魔法少女の、氷室誠だ。涼宮の先輩みたいなものだな。」

 

 誠はあかりとみのりに向き直る

 

「涼宮は自分の意志で契約をしている。それに、契約している妖精も善良と言っていい。君たちが気にかけるようなことはない。」

 

 誠が理路整然と説明をするが2人は納得がいっていないようだった。そして、とんでもないことを言い出す。

 

「で、でも! キョウちゃんって妖精に体を作り替えられて男の子から女の子になっているんですよね!? それっておかしくないですか!」

 

「……は?」

 

 あかりが言いづらそうにしていたところをみのりがはっきりと言葉にしたが、キョウはそれを飲み込めなかった。

 

 あかりの言い方は明らかにキョウが男から魔法少女になったことを知っているものだった。

 

「え、おま、なんで、知って……」

 

 男だと知られていた。男の自分をどう見ているか、どう感じているか。それを思うとキョウはとても怖くなった。

 

「落ち着け。……やはり、知っていたか。」

 

 動揺するキョウを誠が落ち着ける。

 

「確かに涼宮にも事情がある。私たち魔導保全局も涼宮のサポートをしているが、もしよければ君たちも涼宮を気にかけてやってくれないか?」

 

「……そういうことなら。」

 

「あっそれなら! キョウちゃん、連絡先交換しよ」

 

「私もお願いします。」

 

「あ、あぁ……2人とも、俺が男だって知ってたんだろ? それなのに、なんで……。」

 

 キョウの疑問も当然だった。男であることを知っていたなら、なぜ自分を連れ出して遊んだのかと。

 

「それは、初めて会った時からキョウちゃんが良い人だと思ってたから! 仲良くなりたかったから! 今日も楽しかったしね!」

 

「私も同感です。キョウちゃん、貴方とお友達になりたいと思っています。貴方はどう思いますか?」

 

 あかりの元気な返事に合わせてみのりが問いかけてくる。確かに、今日はとても楽しかった。元男だったことの引け目などすっかり忘れて楽しんでいた。それに、2人は男だという部分は最初から受け入れてくれていた。それなら……。

 

「それなら……交換しよう、連絡先。これから、よろしく……。」

 

「わぁ! よろしく、キョウちゃん!」

 

「よろしくお願いします!」

 

「うわっ! 2人とも、重いって…。」

 

 あかりとみのりに抱きつかれたキョウは口では悪態をつくも、その表情は安堵の色を残していた。

 

 

 

 

 

 

  あかりとみのりに別れを告げ、誠と共に魔導保全局へと戻ってきたキョウは、寮の自室でベッドに身を投げ出していた。制服のまま、ぐったりと。

 

 天井をぼんやりと見つめながら、今日の出来事を反芻する。あの二人――あかりとみのり。2人は自分が男であったことを知っていた。

 

 ……怖かった。嫌われるかもしれない、気持ち悪がられるかもしれない。そんな想像が頭をよぎって、思わず言葉が詰まった。

 

(おかしいな……)

 

 思い出すのは、ついこの間までの気持ちだ。魔導保全局の職員たちは、自分の過去を一切詮索しない。それが局の方針だからだと、望月も言っていた。

 

 けれどその姿勢に、キョウはどこか物足りなさを覚えていた。何も聞かれないことが、まるで過去の自分をなかったことにされているようで……寂しかった。

 

 なのに。

 

 いざ過去を知る者が現れると、今度はそれが怖い。知られたくない。知られてどう思われるか、考えるのも嫌だった。

 

(俺は、どうしたいんだろうな……)

 

 答えは出ない。自分でもわからない。ぐるぐると考えが渦巻いては消え、溜息だけが部屋に落ちる。

 

「……ま、いっか。」

 

 キョウはぽつりとそう呟いて、身体を寝返らせた。今は考えても仕方ない。今の自分を否定せずに済むなら、それでいい。

 

 ベッドの反対側、ソファの上ではルミナが小さく寝息を立てている。羽根を畳み、すやすやと丸まって眠っているその姿は、まるで子猫のようだった。

 

 クッションに顔をうずめたまま、「んぐぅ……むにゃ……」と何か言いながら、キョウが掛けたブランケットを蹴っ飛ばす。

 

「……寝相悪っ。」

 

 キョウは少し顔を顰めて、もう一度寝返りを打った。そして、目を閉じる。

 

 今日は、もう終わりだ。明日のことは、明日考えればいい。

 




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