主にシイコの視点で描いてみました。
シイコの性癖やマヴ(バディ)の設定など、本編にないものは全て私の妄想です。
※性的表現あり
宇宙世紀0079年12月23日
ソロモン宙域まで数時間の距離
狭い士官室は熱気の余韻に満たされていた。
少し前まで、シイコ・ワタナベ中尉はバディ──マイケル・テラサワ中尉──との情事に勤しんでいた。
現代の軍艦で、乗員同士の情事自体は珍しいものではない。なにせ男女の比率がほぼ1:1なのだ。なにも起こらない訳がなかった。艦内の各所には避妊具が常備され、非番のものたちは刹那的な快楽に身を委ねていた。
その上、今は連邦軍の反攻作戦開始まで数時間である。今の内に命の洗濯を図るものの姿が艦内のあちらこちらで見られた。
旧世紀の軍艦ならば下士官兵の個人的スペースは無いに等しかったが、人権意識の向上と、乗員のプライベート確保のため、一人一室が与えられていることが、拍車をかけていた。
「もう、お腹がパンパンよ」
シイコは上気した表情で囁いていた。無重力の部屋には、使われなかった避妊具が虚しく宙に浮いていた。
「もう、これ以上は出ないぞ」
マイケルも満足そうな笑みを浮かべる。彼女らは、あえて生での行為に耽っていた。シイコ自身には、激しい情事の残滓が残っていた。
「そろそろブリーフィングが始まる。俺たちも準備をしよう」
マイケルはいそいそと士官服を着始めた。
「そうね、ふふ」
シイコは情事の残滓をそのままにショーツを穿いた。当然、内部はグチャグチャになるのだが、彼女は一向に気にしていないようだ。
これが、彼女らの「儀式」だった。
この儀式が始まったのは、この戦争が始まってからだった。宇宙世紀0079年1月15日のルウム戦役、宇宙戦闘機パイロットだったふたりは、これが最期と作戦前に自暴自棄の行為にふけった。「どうせ死ぬのだから」と、避妊具を使わず生の感覚を楽しんだ。
結果的に生き残ったふたりは、その後、験担ぎのため、作戦前に避妊具なしの行為を楽しむこととなった。
・・・
ブリーフィングは間もなく始まった。作戦士官が乗馬鞭を指示棒代わりに画面を指し示していた。
「我が第一空母群は第三艦隊の後方100キロに陣取る。彼らは囮として、ソロモンの正面に陣取るジオン艦隊を引きつける。主力の第二連合艦隊はサイド1の暗礁宙域から『新兵器S』を展開し、ソロモンの防御機構を破壊する。その後、我々がソロモンに上陸し、彼の地に地球連邦の旗を打ち立てる」
誰かが手を上げた。
「『新兵器S』ってなんですか? 我々こそが新兵器だと考えていましたが?」
作戦士官は咳払いをすると、質問に答えた。
「それについては作戦上の秘匿事項なので、ここでは言えない。ただ、要塞攻略の要であることだけは伝えておこう。
どちらにせよ、君たちが我が連邦宇宙軍の最後の希望なのに変わりはない」
「ふむ」
質問したパイロットはどこか納得しかねていたが、追加の質問はなかった。
作戦士官の説明が再開された。
「我が空母群は、艦載機発艦後、前進を開始する。君たちがソロモンに取りつく頃には、我々もソロモン近海を遊弋する。損傷した場合、補給が必要な場合は構わずに戻ってこい」
シイコの横に座っていた同期のパイロットが耳打ちした。
「シイコ、あんたまた生でヤったの? さっきから匂いが酷いわよ」
シイコはクールさを装って応えた。
「いつもの儀式よ」
「ったく、若いメカニックが嘆いていたわ。あんたのコックピットを整備すると、なんだか疼いてしょうがないって」
「ふふ、じゃぁ、その子に伝えて、生き延びたら相手をしてあげるわ」
実際、複数の相手を持つものは少なくなかった。どちらかと言えば貞操観念の強い同期は、頭を抱えていた。
「冗談」
シイコはニコリと微笑むと、目を細めた。
「私たちは、まず生きてジオンに復讐を遂げなくてはならない。それができるなら、メカニックに貞操を捧げることくらい、なんてことないわ」
・・・
──ソロモン攻略のため、地球連邦軍は艦隊を大きく三つに分けていた。囮任務をこなすワッケイン少将の第三艦隊、ティアンム中将率いる主力の第二連合艦隊、そして、ホールジー少将の第一空母群だった。
前ふたつの艦隊は、マゼラン級戦艦とサラミス級巡洋艦を艦隊の中核とし、MS部隊は彼女らの甲板に係留されていた。
対して第一空母群は三隻のアンティータム級と三隻の改アンティータム級の補助空母が主力を成していた。
アンティータム級には戦前から運用されている宇宙戦闘機「セイバーフィッシュ」が各48機配備されており、改アンティータム級には新兵器「RGM-79 軽キャノン」が各36機配備されていた。
本来なら全てをMS部隊で固めたいところだったが、あの忌まわしき事件──「ガンダム強奪事件」が連邦のMS開発計画を狂わせてしまった。
当初はガンダムの運用を基に、白兵戦主体の量産型MSを配備する予定だったが、計画は変更され、ガンキャノンの簡易量産型と言える軽キャノンが実戦配備された。
見た目はガンキャノンの胴体にガンダムの手足が伸びた形となり、右肩後方にはビーム砲が懸架されていた。左肩後方にはビームサーベルが装備され、主兵装は手持ちのビームガンが装備されていた。
彼らはMS隊の主力として、ソロモン宙域での制空権の確保と上陸任務を担っていた。
第一空母群自体についても、説明の必要があるだろう。
彼らは当初の連邦軍再建計画、いわゆるビンソン計画には存在していなかった。いや、改アンティータム級自体の構想はあったものの、それはあくまでマゼラン・サラミスの補完としての存在であった。
それが「第一空母群」という名で集中運用される事となったのは、群司令のホールジー少将(当時は大佐)の強い働きかけだった。
「航空戦力は集中してこそ最大の攻撃力を発揮できる。MSも同様だ。その原則は地球上でも宇宙でも変わらん」
戦前からMSの能力に着目していた彼は、ルウム戦役以後、事あるごとに軍へ上申書を提出していた。
半ば強引とも言える働きかけが功を奏し、彼は群司令として自らが構想した艦隊の指揮を執ることとなった。
結果として、第一空母群には「アンティータム」「ズイカク」「イラストリアス」とMS運用母艦の「アーク・ロイヤル」「シナノ」「プロメテウス」が配備された。
護衛として、二隻のマゼラン級「サウスダコタ」「キリシマ」、そして八隻のサラミス級が随伴していた。
その内の一隻、「アーク・ロイヤル」に、シイコたちが乗りこんでいた。
・・・
格納庫では出撃前の最終チェックが行われていた。
ノーマルスーツを着込んだシイコはコックピットで計器に異状がないかを確認し、マイケルに報告した。
「こっちは異状なし。あなたは?」
『俺もオール・グリーンだ』
機付きのメカニックも、装備の異状が無いことを報告した。
「釣果を期待します」
シイコはウィンクして応えた。
「任せて」
コックピットから出ようとするメカニックを引き留めた。
「どうかしましたか?」
「この戦場を生き延びたら……」
──確か、この子もまだ若かったわね。
シイコは妖艶な笑みを浮かべる
「一晩、あなたの相手をしてあげる」
若きメカニックは顔を真っ赤にしていた。
プツンと通信が入った。群司令から空母群全体に伝達するようだ。
『群司令のホールジーだ。これより30分後、作戦が開始される。連邦宇宙軍の反撃の狼煙があがる。
諸君、ようやく復仇の刻がきた。奴らはサイド6以外の宇宙市民を虐殺するのみならず、母なる地球にも打撃を与えた。
このまま奴らを許すわけにはいかない』
彼の口調がどこか、柔らかなものとなった。
『私は君たちこそが、真の主力と心得ている。緒戦の戦いでは奴らのMSに苦杯を舐めさせられたが、それは今日で仕舞いだ。君たちこそが復讐の主であると信じている』
ホールジーは一度呼吸を整えると、力強く、攻撃的な口語へと変容した。
『主なる神はこう言われる、ペリシテびとは恨みをふくんで行動し、心に悪意をもってあだを返し、深い敵意をもって、滅ぼすことをした。
それゆえ、主なる神はこう言われる、見よ、わたしは手をペリシテびとの上に伸べ、ケレテびとを断ち、海べの残りの者を滅ぼす。
わたしは怒りに満ちた懲罰をもって、大いなる復讐を彼らになす。わたしが彼らにあだを返す時、彼らはわたしが主であることを知るようになる』
彼は一気に述べると、再び呼吸を整えた。
『私はこの言葉を諸君に捧げたい。宇宙人共に、だれが本当の主であるかを教えてやれ』
一瞬の沈黙の後、格納庫内は歓喜で爆発した。「ジオン星人に死を!」「ウジ虫どもを捻り潰せ!」「地球連邦万歳!」などなど、思い思いの声がレシーバーを通じて聞こえてくる。
シイコはホールジーの演説と、その後の歓喜の声を黙って聞いていた。終わると同時に拳にした左手を右手に打ち付ける。
「地球出身の司令が言いそうな話ね。私もスペースノイド、言ってしまえば『宇宙人』のひとりなのよね」
──でも、と思う。
「私の故郷は文字通り廃墟になってしまった。復讐の女神がいるとしたら、それは私のことよ」
再び通信が入る。今度はマイケルからだ。
『司令も気合が入ってるな。俺たちも気合を入れていこうぜ』
「ふふ、そうね」
まもなく、作戦時計が「00:00:00」を指し示した。
「クラヴサン」作戦の号砲が鳴った。
「始まったわね」
シイコは呻いた。
・・・
予定通り、第三艦隊の突撃が開始された。彼らはよく持ちこたえ、15分の時間を稼いだ。
ソロモンの深奥にある司令部では混乱が始まっていた。
ドズル中将が獅子吼する。
「正面は囮だ。どこかにティアンムの主力艦隊が潜んでいるはずだ。まだ見つからんのか」
副官のラコックが応える。
「哨戒五番からの報告です。サイド1の暗礁宙域に敵影あり。とのことです」
ドズルはコーヒーを一口すするとラコックに命じた。
「恐らく、それが主力艦隊だ。直ちに迎撃せよ」
「承知しました」
それから数分後、更なる報告が届いた。
「多数の熱反応あり。これは……」
ドズルは怪訝な表情を浮かべた。
「どこからだ?」
オペレーターのひとりが応える。
「敵主力艦隊の方角です」
「画像はないのか?」
「最大望遠ですが……」
「構わん、正面に出せ」
スクリーンに映ったのは、太陽光を反射させる、鏡の集合体だった。
まもなく、ソロモンの第6ゲートを中心にまばゆい光が満ちた。
第二連合艦隊はサイド1に約400万枚のミラーを展開していた。「ソーラ・システム」と呼称される、本作戦のために用意された「新兵器S」は、専用のコロンブス級制御艦により管制され、太陽光をソロモンの一点──第6ゲートに目標を定めた。
アルキメデスの鏡の応用で第6ゲートに6000度の熱が照射される。ゲートと付近のジオン艦隊が消滅した。
「なんたることだ」
憤然と立ちあがったドズルは再び迎撃を命ずる。しかし、その命令は遅きに失したようだ。
・・・
第一空母群に発艦命令が下りた。最前列に陣取ったアンティータム級三隻からはセイバーフィッシュが発艦し、改アンティータム級の三隻は、その後方から次々に軽キャノンがカタパルト発進をこなしていた。
周囲には護衛のマゼラン級とサラミス級が対空防御を固めており、護衛任務に就くMS隊も、すでに空母群の周囲に配置されていた。
『先に出るぞ』という声とともに、「フォン」という柔らかな音が鳴る。同時にマイケル機が射出されるのが見えた。
「次は……」、シイコの順番となった。甲板士官の誘導の元、軽キャノンを歩ませ、カタパルトに足を接続させた。画面越しに射出士官が「ご無事で」と短く伝える。シイコは「任せて」とサムズアップと敬礼をした。
カタパルト横のカウンターが「00」を示すとともにカタパルトが作動、9G近い加速と共に、軽キャノンが打ち出される。
すぐにマイケルと編隊を組んだ。すでにミノフスキー粒子が戦闘濃度で散布されているので、近距離の通信もかなわない。彼女は軽キャノンの指の付け根からワイヤーを射出し、マイケルの機体に接触させた。
「ここからが本番ね」
『あぁ、腕の見せどころだ』
「来たっ!」
正面に現れたのは、コードネーム「ヤタガラス」、彼らが言うところの「ドム」だ。太目の図体に背中から三本目の脚が生えている様に見える機体だった。
見かけよりも機動性が高く、右に左へと動き続けていた。
通信ワイヤーを戻したシイコは敵MSに突進した。バズーカを放ちながら向こうも接近してくる。左手でヒートサーベルを構え、切りかかる姿勢を取っていた。
「もっと間合いを詰めるっ」
一歩でも違えば切りかかられる。死と隣り合わせのスリルに、彼女のドーパミンは溢れ、胎内からも何かが溢れだす感覚を覚えた。
シイコは通信ワイヤーを敵に放った。相手の装甲に引っかかる。ビンと伸びたワイヤーによって、シイコの機体は急旋回した。圧し掛かるG。彼女は奥歯を噛みしめてそれに耐えた。相手もつられてクルリと回る。ワイヤー超しに相手が狼狽する様子が伝わってきた。
『なんだっ!?』
シイコは口元を歪めた。
ヤタガラスは背中をマイケル機に見せる形となった。
「貰ったっ!」
相手の背中にマイケル機のビームが突き刺さる。シイコは素早くワイヤーを収納すると、敵の機体から離れた。爆散する敵の機体。
爆発の瞬間、「チンッ」という何かが跳ねる音と、ざらついた感覚がシイコを襲った。それに不快感をおぼえつつ、彼女は呟いた。
「まず一機……」
彼女がこの戦法を編み出したのはルウム戦役においてだった。
機動性に劣る宇宙戦闘機でザクに対抗すべく、苦し紛れに通信ワイヤーを放った。宇宙戦闘機は通常ではありえない動きを見せ、ザクが一瞬動きを止めた。そこへすかさずマイケル機がミサイルを叩きこむ。これであの地獄の戦いを生き延びることができた。
それを軽キャノンでも実行することにした。シイコはこの戦法を使うにあたり、右肩のビーム砲を撤去させた。攻撃力は落ちるが軽量化ができ、自在にワイヤーを操ることができた。
この戦法で、シイコたちは突破口を開いていった。ジオンは第6ゲートの照射から混乱したままのようで、散発的な迎撃がみられるだけだった。
それでもザクやヤタガラスが次々と目の前に現れた。混戦の中、シイコとマイケルはワイヤー戦法を駆使して一機ずつ仕留めていった。
この二機一組の戦法は、後にジオンの手によって「マヴ戦術」と呼称されることとなるが、シイコのワイヤー戦術は、誰も真似をすることができなかった。
「マヴ戦術」確立以前とは言え、敵MSも連携した機動をするものもいた。一機はマイケル機が牽制するが、もう一機はシイコが単独で相手をせざるを得ない。
彼女は再び突撃した、ワイヤーを放つと同時にビームガンを虚空へと置く。ワイヤーで急旋回するとともに、敵MSをビームガンの射線上に誘導した。奴のモノアイがビームガンを捉える。
「引っかかったわね」
彼女は背後からビームサーベルを突き立てた。その瞬間、再び「チンッ」と跳ね、ざらついた感覚が襲った……。
・・・
第6ゲートを消失し、迎撃に向かわせた艦隊も二度目のソーラ・システムの攻撃により壊滅した。
ドズルは司令用の椅子から立ち上がると、ラコックに述べた。
「遺憾ながら、ソロモンを放棄する。殿はビグ・ザムを出撃させ、それに当てる」
「閣下は脱出してください」
ドズルは寂しげな笑みを一瞬だけ浮かべるが、すぐに肉食獣のそれに変わった。
「このまま脱出しては、ザビ家の名折れだ。ビグ・ザムは私が操縦する。ラコック、貴様は私が出撃してから15分後にソロモンを脱出せよ。……ミネバと妻を頼む」
ラコックは束の間沈黙したが、敬礼でそれに応えた。
妻子に別れを告げたドズルは、ビグ・ザムのコックピットで、手袋の具合を確かめつつほくそ笑んだ。
「さて、何隻の連邦艦隊を道連れにできるか……ジオンの栄光を見せつけてやる」
・・・
第6ゲートの照射から数十分後、連邦のMS隊がソロモンに取りつき始めた。
シイコとマイケルは上陸するMS隊を外部から護衛していた。正直なところ、彼女らの戦法は空間戦闘でこそ有効だが、狭い要塞内部では封じられるというのも理由のひとつであった。
ここに辿り着くまでに、何機墜としただろう、両手の指では数えきれなくなった時点で数えるのを止めていた。一機墜とすごとに気分が高揚し、同時に重苦しい感覚が彼女を包んでいた。
『相棒、調子はどうだ?』
マイケルからの通信に、シイコは気丈に応える。
「気分は最高ね」
警戒にあたる彼女らとは別のゲートで大きな爆発が起きた。
「? ……!」
巨大な二本足の機体が味方を蹴散らし、第二連合艦隊に向かうのが見えた。
辛うじて、第一空母群からのレーザー通信が届く。
『ザッ、……奴はホワイトベース隊が迎撃する。貴官らはそのまま警戒を続けよ』
『……了解』
どこか無念そうなバディの返信も聞こえた。
最終的に敵の巨大な機体が仕留められたようだ。そこに至るまで、第二連合艦隊の旗艦「タイタン」が沈み、艦隊も大打撃を受けたようだ。
シイコは溜息をしつつ、無意識に疑問を口にしていた。
「あんな化け物、どうやって……?」
部隊でたまに話題となるある単語が浮かんだ。
「あれが、ニュータイプ……?」
敵の創始者の戯言に、彼女は鼻で笑う。
「そんな馬鹿な。……人間がそんな便利になる筈がない」
・・・
先ほどの巨大な機体が撃破されたのが、戦いのクライマックスだったようだ。既に戦いは残敵掃討戦に移りつつあった。ソロモンに連邦艦隊が集結しつつあった。
「これで……」
シイコはバイザーを上げ、水分補給をした。興奮が醒め、頭が冷静になるとともに、片頭痛がした。
どこか頭の具合が悪い、というよりも、もっと魂の深いところでよくわからない痛みを感じているみたいだった。
第一空母群の艦影も視認できた。レーザー通信も届く。
『後衛の部隊に任務を引き継ぎ、帰投せよ』
ソロモンにおける、彼女の戦いは、一応の終止符を打ったようだ。
・・・
「アーク・ロイヤル」に帰還して、軽キャノンをメンテナンスベッドに預けると、シイコはコックピットハッチを開けた。すぐに機付きのメカニックが取りつく。
「凱旋、おめでとうございます」
「ありがと」
シイコはメカニックのバイザーに自分のそれを当てると、囁くように話した。
「じゃぁ、約束ね。今夜の0000時、私の部屋で待ってるわ」
メカニックの喉が鳴り、彼は短く応えた。
「了解……光栄です」
メカニックが離れると、今度はマイケルがやって来た。
「なにか秘密事か?」
にやける彼に、シイコは抱きつきながら応える。
「ふふ、彼に機体を完璧に整備してくれたお礼を言っただけよ」
「ふーん」
ブリーフィングの際、隣にいた同期は帰還しなかった。
エアロックを潜ると同時に、ふたりは熱いキスを交わした。舌を絡ませ、唾液を交換する。躰の深奥も熱くなる。
シイコは唾液の糸をひきつつ、囁いた。
「報告前に、『儀式』を済ませましょ」
一時間後、生々しい匂いを放ちつつ、彼女らはMS部隊長に報告へ上がった。
「随分、MSデッキからここに来るまで時間がかかったな」
にやけながら話す部隊長は、それ以上追及するつもりはないらしい。タブレットを手ににこやかに話を転換した。
「君たちは、自分たちの撃墜数を把握しているかね?」
マイケルは首を横に振る。
「なにせ数が多くて。途中で数えるのを止めました」
「そうか」
部隊長は感嘆するように応えた。
「機体のデータを洗い直したところ、君たちふたりで115機、撃墜していた。最終的な結果次第だが、君たちが最高記録かもしれない。近く勲章が与えられるだろう」
マイケルがシイコに振り向き、笑顔を見せた。
「だそうだ」
シイコも笑顔を浮かべたが、内心では少し違っていた。
──それだけ、私は多くの罪を重ねた、という訳ね。
戦闘中の高揚感など、どこにもなかった。ただ、バディと一人でも多くの仲間が生き延びただけで十分だった。
戦闘前後の「儀式」と、戦闘中の興奮だけが、今の彼女の全てだった。
部隊長が話を続けていた。
「まぁ、まずは休息を取り給え。次はジオン本国だ」
──そううまくいくかな?
シイコは戦いが終わった安堵感と、どこかで感じる不安を抱えて部隊長に敬礼した。