奈落 夢絶たれず   作:中身のない中身のない中身のない

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番外 IF.無限魔人 邂逅

D-007、元ジルバ王子は、今は滅びた黒い魔神と魔神ラヴォス、その残滓を求めて、国を一時離れていた。

「ロベリアの情報を覗き見て正解だったな」

普通の人間が知ることも出来ないような歴史、大戦、怪物の数々を垣間見た。同時に自分の限界も、痛むほど思い知った。

「……チッ」

これではアマリアにリベンジマッチを挑むことが出来ない。だから更なる力を求めて放浪することに決めた。D-015も探して取り込んだが、まだまだ足りない。一つ目の友達に一言………いや、今は先を急がなければ。

 

 

 

 

たった数時間で、もう遠出したことを後悔した。

「あら、中々面白い存在ね」

(こっちは鳥肌酷すぎて動けないんだがぁ!!)

肌ないだろ、というツッコミは野蛮だろう。何せ目の前にいるのは最上級魔人のエインス、七魔帝に並ぶ無限の魔人だ。

存在からして格が違う。製造長……いや、ロベリア社長すら超える鬼気に、ないはずの生存本能が警報を鳴らすようだ。

(運が良いのか悪いのか……!? 暫しの別れをも伝えなかった罰とでも!?)

「私と同じ、後天的に魔人となった………そういうわけではないみたいね。あー……部分点? 魔人というよりも、もっと別の生き物かしら?」

「………ベニート社長は、俺たちのことをD、demonicだと呼んでいた」

「ベニート?」

その名前を聞いた空色の髪をした彼女はふむ、と空を見上げる。

「……あぁ、そういえば昔新聞でにゃんにゃん株式会社から機密情報を盗んだ馬鹿が指名手配された、なんて記事を読んだわね。その馬鹿の名前がそんな感じだったかしら?」

「にゃんにゃん?」

「魔界の科学軍事企業よ。ああいうのって今からでもタレコめばお金をくれるものなの?」

感情の見えない微笑。まったく底が見えないその姿は、ロベリアの悪意とはまた異質の恐怖を醸し出す。

「試しに聞きたいのだけど」

 

!!???

 

重圧と殺意、景色が黒く歪むようにすら見える。

「あなたは人と魔の、どちらの味方なの?」

「俺は王だ。王は人を守り率いて未来に導く者だ、そうだろう?」

「…………」

即答されたその内容。一見するとノブレスオブリージュと傲慢が合わさったような言葉。臆さず答えたことは評価されそうだが、彼女は無言で観察するように目を細める。そして、違和感に気付く。あえて口にはしないが、その歪みを理解した。

(自己催眠……よりも悪質ね。自意識ではない思想を反芻し続けることで、それが本心だと誤解し続けている。一貫性や信念があるようでない…………まぁ、そのままにしないとあの魔神みたいになりそうだから放置でいいわね)

黒い魔人。いくつもの国と人を死滅させてきた忌まわしい存在。今は滅ぼされたが、喪失は大きい。

閑話休題、エインスは得物を出現させ、誘うように空手を伸ばす。

「せっかく会ったことだし、これも巡り合わせ……かしら?」

「………いざ参る」

明らかにやる気を出した魔人を前にDは変装を解いて、数mはあろうかという魔将軍の本性を顕した。

「へぇ……」

剛健な筋繊維から繰り出される跳躍が一瞬で距離を詰める!

「シャア!!」

剛腕が大剣を振り抜いてその細い首に迫る!

だが

「は?」

大剣は、いや、両腕はそこになかった。

「そこ」

そしていつのまにか、胴体が貫かれていた。吐血が伴う激痛が走るが、それで止まりはしない。

「D-018ォ!!」

「あら」

しがみつかれ、その接触部から血肉が急速に吸われているのがわかる。

「こいつは生物に貼り付き、その骨以外を養分に成長するDだ! お前がどれだけ強かろうと生き物なら」「ごめんなさいね、そういうの私効かないの、無限だから」「ヴァア!!」

一瞬で細切れにされ簡単に拘束を解かれる。

「うそだろ、コイツを結合するのにどれだけ試行錯誤したと思っている?!」

「さぁ? けれど、なんでもかんでもとりいれて取捨選択しないのは問題じゃないの?」

「……D-011! D-032! D-033!!」

巨体が突然消失する。エインスは一瞬目を見開き、直ぐに理解した。

「上ね?」

「ゴァ!」

攻撃、手応え。肉塊が落ちる。……違う? ダミー?

「なんてな」

「あら?」

背中に重たい一撃が入る。これにはエインスにもダメージが。

「あなた、消えている時は攻撃出来ないのね」

「っ!!」

反撃が重い、痛い。

こちらのダメージばかりが積み重なり、その上で情報が次々とすっぱ抜かれる。攻撃しても攻撃しても再生される。勝ち目のないプロレスをしている気分だ。

「タイム!!」

「応じるとでも?」

「一番隠したい情報を吐く! それを話し終えるまで攻撃しないでくれ!」

「……へぇ。面白いわね」

どんな力を持っているのか、気にならない訳ではない。頭の中で戦術を組み立てる、そのための時間稼ぎなのだろうが、この土壇場でそれを言い出す胆力も良い。自己暗示でそれを身につけているのかも気になるが、本人にそれを聞く訳にはいかない。

「いいわ、何を聞かせてくれるの?」

「D-004、こいつは怪奇を引き起こす魔人だ。夢と現実にそれぞれ本体を持って他者の脳みそに干渉したり、夢と現実を繋いで現実のダメージを夢にして無に変えたり、夢と現在を混濁させて、入れ替えたり書き換えたり再現したり出来る」

「万能ね」

「あと相手に強制的に干渉することも出来るらしい。夢と現実の物体や肉体を入れ替えられるようだ」

「実験したの?」

「全部俺が喰らった。そして攻略して結合してみせた」

「………なら、さっきからどうしてあなたはダメージを喰らっているの?」

「夢を展開していないからだ。夢の中に本体があると言っても、繋げる先がないなら意味がない」

「私を夢の中に引き摺り込めば良いのに」

「………相手の記憶に干渉して、おかしな地雷を踏む虞がある。特に圧倒的格上である相手なら………それに、そんなズルをして勝ちたくない相手がいる」

エインスが頷く。自分の過去を勝手に探られるのは確かに不快だ。その判断力は評価出来る。あるいは本能が警告したのか……なんにせよ、と内心再評価する。再評価ついでに一つ助言した。後半は聞かないふりをしながら。

「私の精神をあなたの夢に引き摺り込めば、私の脳を奪えるんじゃないの?」

「………あ」

「あなた頭が回るようで回らないのね」

「D-004!!」

応答がある前に、視界に赤いノイズが走り、エインスの意識が闇に堕ちた。

 

 

 

 

「鉄くさ」

そこは黒鉄ばかりの地下空間だった。

「ここで実験が繰り返された、ということかしら?」

「そういうことだ」

Dが現れる。

「なんだか一回り大きくなった?」

「こんなことも出来るぞ」

巨大な幻影が何体も現れる。だがその一つ一つに明確な質量が伴っている。普通なら絶望的な状況、それ以外に表現しようのない。

だが、ここに在るのは

 

それ以上の理不尽だ。

 

 

 

 

「どうして………」

現実世界、地に伏すのは巨大なD、その身体はあちこちボロボロだ。

「私は無限の魔人で、しかも最上位魔人の上澄みなの………つまり、色々ズルが出来るのよ」

「世界は広い………」

すっかり燃え尽きたかのように真っ白に染まっているD。文や情報では想像もつかない強さの果てを見た気すらした。

「もっと悪ふざけしてみたらどう? それこそ薄い本みたいに」

「遊び心というやつか? 無茶を言う………」

「まぁ、今でも十分楽しかったわよ」

 

 

………無限の結合は成せなかったが、良い経験と智見を得られたことだろう。




IF番外と銘打ちましたが、奈落の続きが出ても続きを書くかは一切不明です。
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