石魔竜の成り上がり   作:唐揚げであー

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第6話

 今日の魔術実技は、昨日までの基礎訓練とはうって変わって、より実践的な内容だった。

 場所は、学園の敷地内にある広大な第三訓練場。模擬的な洞窟や、様々なトラップが設置された障害コースが用意されている。

 

「本日の演習内容は、『模擬救助対象の奪還および搬送』だ!」

 担当教官であるブローン――初老の、厳格そうな男性魔術師――が、生徒たちを前に声を張った。

「コース内に設置されたトラップを解除、あるいは回避しつつ、最深部に置かれた模擬救助対象――今回は小型のゴーレム人形だ――を確保。その後、チームで協力してスタート地点まで搬送する。タイムと、トラップ解除の的確さ、チーム連携、そして何より『適切な魔術の使用』を評価する。いいか、ただ突破すればいいわけではないぞ!」

 

 ブローン教官が「適切な魔術の使用」を強調した時、カイは嫌な予感がした。また俺には不利な評価基準だ。

 演習は四人一組のチームで行われる。教官の合図と共に、生徒たちは慣れた様子で次々とチームを組んでいく。有力な貴族の子弟を中心に、あっという間にいくつかのチームが形成されていく。

 

 当然のように、カイには誰も声をかけない。

 彼は壁際に立ち、その光景を冷めた目で見つめていた。期待なんて、端からしていない。

 

 やがて、チームに入れなかった生徒が数名、ぽつんと取り残された。カイと、リリア。それから、普段からあまり成績の良くない、気弱そうな男子生徒と、少し無気力そうな女子生徒が二人。

 

 ブローン教官は、その四人を見て、やれやれといった風にため息をついた。

「カイ、リリア、それから君たち。…やむを得ん、君たちで一つのチームを組め。いいな?」

 カイは舌打ちしそうになるのを堪えた。リリアは不安そうにカイを見上げたが、小さく頷いた。他の二人は、明らかに「ハズレを引いた」という顔をしている。

 

 対照的に、少し離れた場所では、ゼノンが自信満々な表情で、同じくエリート然とした生徒三人とチームを組み、カイたちを値踏みするように一瞥して鼻で笑った。

 

 最悪のチームだ。だが、やるしかない。

 

 演習が開始された。

 ゼノンのチームは、まるで教科書に載っているかのように、完璧な連携でコースを進んでいく。先頭の生徒が感知魔法でトラップを発見し、後続が対応する属性魔法で的確に無力化していく。炎の罠は水の障壁で防ぎ、物理的な罠は土魔法で足場を作る。流れるような動きだ。

 

 一方、カイのチームはといえば…。

 

「えっと、たぶん、この床、踏むと矢が飛んでくるんじゃ…」

「うわっ! ほんとだ! 危ねぇ!」

 気弱そうな男子生徒が、リリアの指摘でかろうじてトラップを回避する。

「…どうやって解除するのよ、これ」

 無気力そうな女子生徒が、目の前の魔力で封印された扉を見て呟いた。解除するには、特定の属性の魔力を流し込む必要があるらしい。

 

「俺がやってみる」

 カイは前に出た。扉に手を触れ、自身の異質な魔力を流し込もうとする。だが、案の定、うまくいかない。魔力が扉の術式と反発しあい、バチバチと嫌な音を立てるだけだ。

「…ダメだ。俺の魔力じゃ開けられねぇ」

 

「じゃあ、どうするのよ…」

 チーム内に重苦しい空気が流れる。

 カイにできるのは、せいぜい先行して、自身の頑丈さで威力の低い魔法トラップ(感知式の微弱な電撃や、軽い衝撃波など)を無理やり受けて突破することくらいだった。だが、それでは評価にならない。ブローン教官が求めているのは、あくまで「魔術による適切な対処」なのだ。

 

 リリアは必死に周囲を観察し、隠された罠の存在をチームに伝えている。彼女の貢献は大きいが、それだけではどうにもならない。

 時間だけが過ぎていく。すでにゼノンのチームは、はるか先を進んでいるだろう。

 

 (クソッ…やっぱり、俺がいるとダメなのか…?)

 カイが焦燥感に駆られ始めた、その時だった。

 

 彼らが差し掛かったのは、天井がやや低い、岩場の通路だった。『警告:落石トラップ。防御魔術推奨』という古びた看板が立てられている。おそらく、中級レベル以上の防御魔術の精度と強度を試すためのものだろう。

 

 カイたちが慎重に足を進めた、まさにその瞬間。

 

 ゴゴゴゴゴ……!!

 

 突如、通路全体が揺れるような轟音と共に、天井の一部が崩落した!

 設置されていたトラップが、何らかの原因――老朽化か、あるいは他のチームの干渉か――で誤作動を起こし、想定をはるかに超える規模の岩石が降り注いできたのだ!

 

「きゃあっ!?」

「うわあああ!」

 チームメイトたちの悲鳴が上がる。不運にも、一番大きな岩塊が落下してきたのは、リリアの真上だった。彼女は恐怖で足がすくみ、その場から動けなくなっている。

 

 (リリア…!!)

 

 考えるより先に、カイの体が動いていた。

 他の生徒を突き飛ばすようにして前に躍り出ると、リリアの上に覆いかぶさる。背中と腕で、彼女を完全に庇うように。

 

 (やべぇ…! でも、やるしかねぇ!)

 

 衝撃に備え、奥歯を食いしばる。自身の右腕や背中の鱗に、無意識に力が集まるのを感じた。硬くなれ、もっと硬く…!

 

 ――ゴッッッ!!!

 

 鼓膜が破れそうなほどの、鈍く、重い衝突音。

 それは、肉と骨が砕ける音ではなかった。まるで巨大な岩同士が激突したかのような、無機質で、圧倒的な質量を感じさせる音だった。

 

 舞い上がる土煙の中、カイはリリアの上に跪(ひざまず)いていた。背中に、とてつもない衝撃があった。だが、痛みは…ほとんどない。ただ、全身が痺れるような感覚と、背中の鱗がカッと熱を帯びたような感覚だけが残っている。

 

「……っ!」

 庇われたリリアが、すぐ下で息を呑むのが分かった。

 カイがゆっくりと顔を上げると、信じられない光景が広がっていた。

 リリアの真上に落ちてきたはずの巨大な岩塊が、カイの背中に当たった部分から、まるでハンマーで叩き割られたかのように砕け散っているのだ。

 

 カイの背中や腕の鱗は、欠けるどころか、むしろ鈍い金属光沢を放っているようにさえ見える。

 

「うそ…だろ…?」

「な、なんだよ、今のは…」

 チームメイトの男子生徒と女子生徒が、腰を抜かしたように座り込み、唖然とした表情でカイを見つめている。

 

「…カイ、君!」

 土煙の中から、慌てた様子のブローン教官が駆け寄ってきた。彼は負傷者を想定していたのだろう、一瞬、険しい表情をしたが、砕けた岩と、その下で(見た目には)無傷のカイとリリアを見て、絶句した。

「な…!? ば、馬鹿な…あの落石を受けて、無傷だと…? 君は、一体どんな防御魔術を…いや、これは魔術ではない…?」

 

 教官の目は、驚愕から、困惑へ、そして…カイの体に向けられた、一種の畏怖と、あるいは強い疑念へと変わっていった。

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