『魔法少女リリカルなのは』 作者:『転生者』   作:am24

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 プロローグ

 私立聖翔大付属小学校1年の高町なのはは目の前で繰り広げられているイジメを止めようと行動を開始した。

 被害者の子は彼女のクラスメート月村すずかである。紫色の長い髪をした大人しそうな子で、よく1人で読書をしているのを目にするが、彼女とは挨拶程度は交わした事があるが、話をした事は無い。

 加害者の子もまた彼女のクラスメートアリサ・バニングスである。金色の髪が印象的な子で、周囲を馬鹿にした態度で、どこか近寄り難い雰囲気を醸し出していた為、彼女とも話をした事が無い。

 その2人は対称的な子であったが、共通した事柄がある。それは、クラス内で孤立していたと言う点である。

 なのははそんな2人とお話をしてみたいと、普段から気に掛けていた。1人で居る事はとてもとても寂しい事だから――。

 

 事の発端はアリサの手にした白いカチューシャであると、簡単に推測できた。それはすずかが普段から身に着けていた記憶がある。イジメを止めようと思い至ったものの、なのははどうすれば良いのか分からなかった。結果、想いだけが先走り2人の前に飛び出した。そしてアリサが睨み付けて来るのも構わず、思いっきり彼女の頬を叩いた。

 

「痛い? でも大事なものを取られちゃった人の心はもっともっと痛いんだよ」

 

 なのはは思いの丈をぶつけたが、ふと、既視感(・・・)に見舞われた。この状況、どこかで――。

 しかし、考える間は彼女には与えられなかった。アリサが彼女に掴みかかって来た為、目の前の事を何とかしようと行動した。

 あわや、殴り合いの喧嘩が勃発するかと言う時、思い掛けない場所から声が掛かった。

 

「やめてぇぇぇ!」

 

 それは被害者の子すずかであった。普段の雰囲気からは想像も付かない見幕で叫ぶ彼女になのはもアリサも呆気に取られたのであった。

 頭が冷えたのか、アリサはばつの悪そうな表情で手にしたカチューシャをすずかに返したのである。

 

「……その……ごめん、なさい」

 

 アリサは微かに聞こえる声で謝罪を言い、走り去って行った。しかし、残された2人が最後に見たアリサの目元には涙が浮かんでいた。

 それを見た2人はお互いに頷き合い、アリサを追いかけたのだった。

 

 アリサは思いの外速く、なのはは彼女に追い着きそうになかった。しかし、同時に走り出したはずのすずかはアリサ以上に速く、徐々に距離を詰めるのであった。

 

「なんで、追いかけて、来るのよ!」

 

 アリサも2人が追いかけて来るのに気づき、さらに速度を上げた。すずかはそれでも追従する事が出来たが、なのはは限界であった。

 すずかがアリサに手が届く距離までに追いすがった刹那、ドサッと後方から大きな音がした。すずかとアリサは振り返り確認すると、そこには倒れているなのはが居るのだった。

 逸早くなのはの元へと駆け付けたのは意外にもアリサであった。

 

「あんた、大丈夫?」

 

 アリサはなのはを助け起こそうと手を差し出した。

 

「にゃはは、捕まえたの」

 

 アリサの手を取って立ち上がったなのははその手を離さず、笑い掛けたのである。

 

「あんたねぇ――」

 

「あんたじゃないよ。なのはだよ。私の名前は高町なのは」

 

「あんた――」

 

「なのは」

 

 なのはの勢いに気勢を殺がれ、アリサは沈黙する。普段の勝気な雰囲気は微塵も無く、迷子の小動物のような戸惑った雰囲気を醸し出していた。どうしていいのか分からず、アリサは後ろに居るすずかの方へと顔を向けた。

 すずかはにっこりとアリサに笑い掛け、アリサの残った手を取って言うのである。

 

「わ、私は……すずか、月村すずか、です」

 

 すずかははにかみながらも名前を告げるのであった。

 

「あ、あんた達ねぇ――」

 

「なのは」

 

「……すずか」

 

 先程から変わらないなのは。か細い声でそれに便乗するすずか。そんな2人に呆れたアリサは意地を張っていた自分が馬鹿らしくなってきた。

 

「なのは、すずか、……これで良い?」

 

 嬉しそうなすずかとは対称的に、なのははまだ不満顔であった。アリサはなのはが何を言いたいのかすぐに気が付いた。

 

「……私はアリサ、アリサ・バニングスよ」

 

「うん! アリサちゃん」

 

 アリサの返答に満足がいったのか、なのはは満面の笑みで頷いた。

 

「……で、いつまで手を握っているわけ?」

 

 先程のやり取りもそうだが、アリサは両手を2人に塞がれた現状について悪態を吐いた。

 

「アリサちゃんが逃げなくなるまでだよ」

 

 なのはは強い眼差しでアリサを見詰めるのであった。後ろのすずかはすでに現状を楽しんで居り、振り返ったアリサに対して笑みを浮かべるのみであった。

 

「もう逃げないわよ。それよりあん――なのは、盛大に転んだけど大丈夫なわけ?」

 

 あんたと言いそうになるとなのはが睨んできた為、慌てて訂正をした。

 

「にゃはは、なのはは転ぶのには慣れているのです」

 

「でもなのはちゃん、お膝から血が出てるよ?」

 

 なのはは茶目っ気を出して笑うのだが、先程まで静観していたすずかがなのはの心配をした。

 

「え? …………だ、大丈夫だよ」

 

 言われて気付いたのか、なのはは自身の怪我を初めて認識した。すると途端に痛みが襲ってきたが、気丈に返事を返した。

 

「どう見ても大丈夫な顔じゃないわよ。保健室に行くわよ。……す、すずかも良い?」

 

「うん!」

 

 アリサの手を握っていたすずかは今度はなのはの手を取り、アリサもまたなのはの手を握り返す事により、なのはは先程のアリサとは逆の立場へとなってしまった。

 

「むー、なのはは逃げないのですよー」

 

 不満の声を返すが、なのはの表情には笑みが浮かんでいるのであった。

 

 

 

 なのはは保健室で怪我の治療を受け、現在は膝に大きな絆創膏を貼った状態である。

 

「きょ、今日は家の車で送ってあげるわ」

 

「!? うん! よろしくお願いします」

 

 放課後になってアリサがなのはにそう提案してきた。なのはは赤面しながらも自分を気遣ってくれるアリサにとても嬉しくなった。

 

「べ、別になのはの為じゃないんだからね。こ、これは……そう、これは私の所為で怪我をしたなのはを1人で返すわけにはいかないからで――」

 

「うん! うん!」

 

 必死に言い訳をするアリサが可愛く、なのはは満面の笑みで返事を返すのだった。すずかもまた、そんな2人のやり取りを微笑ましく見守っていたのだったが、

 

「――すずか! あんたも序でに送って行ってあげるわ」

 

 これ以上の発言は泥沼であると気付いたアリサは話の矛先をすずかへと変えたのだった。

 

「え? でも……」

 

 しかし当のすずかは困惑をしてしまった。

 

「嫌なら別に構わないわ……」

 

 アリサは自分がすずかに嫌われる事をしてしまったのだと改めて実感し、声のトーンが落ちて行ったが――、

 

「い、嫌じゃないよ。ただ……」

 

 嫌われていないと分かりアリサは安堵したが、すずかのしどろもどろな態度に苛立ちを覚えてきた。

 

「折角だからすずかちゃんも一緒に帰ろ?」

 

 なのはのその一言によってアリサはすずかに苛立ちをぶつけずに済んだのである。

 

「私なんかが一緒で迷惑じゃないかな?」

 

「私はすずかちゃんと一緒で嬉しいよ。ね? アリサちゃん」

 

 はっきりと自分の意思を言う事の出来ないすずかは2人に遠慮してしまったが、間髪入れずになのはがすずかを受け入れたのである。そして、すずかはなのはと共にこの場でまだ発言をしていない人物へと視線を向け――、

 

「わ、私から誘ったんだから、迷惑なわけないでしょ」

 

 そうして、アリサ、なのは、すずかの3人はアリサの家の車で帰宅する事になったのだった。

 

 

 

 次の日の朝、学校に登校したなのはは教室にすでに来ていたアリサとすずかを目にして満面の笑みで2人に近づいた。幸いにも2人の席は近かったのである。

 

「おはよう。アリサちゃん、すずかちゃん」

 

「おはよう、なのはちゃん」

 

「……おはよう」

 

 なのはの挨拶にすずかは小さい声ながらもきちんと返事を返したが、アリサはどこか怪訝な様子で返した。

 

「昨日の今日であんたは――」

 

「なのは」

 

「……なのははどういう神経をしているわけ?」

 

 昨日は確かに2人を送ったが、元を正せばなのは達とは喧嘩をした仲なのである。アリサの怪訝はそんな自分にどうして平気で挨拶が出来るのかであったが――、

 

「どうって、お友達と挨拶をするのは当然だよ?」

 

「…………は?」

 

 アリサにとって昨日の行いは単なる社交辞令に近いものであって、お友達だからと言うわけでは決してない。そのため、どうしてなのはにとって自分がお友達になっているのかが理解出来なかった。

 

「な、なのはちゃん。私もお友達で良いのかな?」

 

 アリサが問い質そうとする前に、すずかがなのはに質問をした。

 

「うん!」

 

 なのはとすずかの間にほんわかとした空気が流れる。

 

「あんた達――なのはとすずかはそうかもしれないけど、私は……」

 

「勿論ありさちゃんもお友達だよ」

 

「だから何で――、いつの間にそうなったのよ!」

 

「だって――」

 

 アリサの見幕をどこ吹く風よと受け流し、なのはは微笑みながら言うのである。

 

「――私達はもう、名前(・・)で呼び合ってるから」

 

 アリサは自分はもうこの目の前で無邪気に微笑む子から逃げられないんだなぁと感じたが、それは決して嫌な感情ではなかった。しかし、素直になれないアリサはなのはの言に反論しようとしたが、

 

「じゃあ、私とアリサちゃんも……お友達だね」

 

 まさかのすずかからのお友達発現である。

 

「すずかはそれで良いの? だって私はすずかに――」

 

「うん! だって、アリサちゃんは優しい人だって分かったから。転んだなのはちゃんを真っ先に助けたのはアリサちゃんだよ?」

 

「そ、それは――」

 

「それに、私も誘ってくれたから」

 

「でも私は! 私はすずかに酷い事を!」

 

「でも、ごめんなさいってちゃんと返してくれたよね?」

 

「え? 聞こえ、て……」

 

 アリサはあの時の謝罪がすずかにきちんと聞こえていた事を知り、一気に赤面するのだった。

 

「私も悪かったから」

 

「どうしてすずかが悪いのよ?」

 

「だって、私もあの時、返してって言えなかったから……」

 

「……言われたからってきっと返さなかったわ」

 

「それでも! それでも言葉にしないと伝わらないから。なのはちゃんみたいに」

 

「ふぇ?」

 

 突然振られたセリフになのはは唖然としてしまった。と、ここに来てチャイムの音が耳に入り、なのはは慌てて席へと向かった。しかし、そんななのはにアリサは後ろから声を掛けるのだった。

 

「なのは! 今日のお昼は一緒に屋上に行きわよ! す、すずかもね」

 

 なのはは了承の意を伝えて急いで着席した。しかしすずかは――、

 

「え? 私も良いの?」

 

「良いに決まってるじゃない。だって私達は……と、とと、友達、でしょ?」

 

 

 

 こうして、なのは、アリサ、すずかの3人は友達になったのだった。否、3人はあの時――3人で手を握り合った時から友達になっていたのであった。

 

 

 




原作と何が違う? と感じるかもしれませんが、地味な原作改変が発生しています。
なのは達が友達になったのが事件から数日後だったのをなんと2日に!
…………
……

タイトルやあらすじで分かりやすい伏線の回収は次回。

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