『魔法少女リリカルなのは』 作者:『転生者』   作:am24

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 1話 『原作改変』

 なのは達が友達になって数か月が経過した。そうして、3人はすでに親友と言って良い程の仲となった。そうなると、お互いの家に遊びに行く事もしばしばあった。

 なのはは初めてアリサ、すずかの家に行った時に言いようの無い既視感に見舞われたのであった。

 アリサの家では大勢の犬を見た時にそれを感じ、すずかの家で猫達に囲まれた時、それ以上に強く感じたのである。初めてなのにまるで自分は2人の家の事を知っていたと――。

 2人の家に行く前に、事前に家の事を聞いていた為、アリサの家で感じたそれは勘違いであったのであろうと思い込んだが、すずかの家でのそれは、勘違いでは済まされない何かを感じたのであった。

 しかしその既視感は、知ってるのに知らないという矛盾に満ちた感覚であった為、なのははその正体になかなか気付く事が出来ず、悶々とした日々を過ごすのだった。

 

 

 

 そうして、とある日でのいつもの家族の団欒中の出来事である。それはなのはの父士郎のとある発現から始まる。

 

「みんな、注目! 今から重大発表をしまーす」

 

「きゃー、待ってましたー」

 

 拍手をして父を煽るのは母桃子である。ありがとうと言い、士郎は桃子といちゃいちゃラヴラヴを始める。彼女達は今でも新婚のように仲が良く、こういった行動を取るのは日常茶飯事である為、こういう場合はスルーするのが高町家3兄妹にとっては暗黙の了解となっていた。

 

「で? 重大発表って何だ?」

 

 いい加減じれったくなったのか、兄恭也が先を促した。

 

「じゃーん!」

 

 そう言って士郎が取り出したのは緑色の淵をしたシンプルなデザインの白い服であった。デザイン各種は緑色で統一されており、胸元には『MIDORIYA』というロゴが描かれており、と肩、から袖元までに二重のラインが走っている。

 

「それってもしかして家の新しい制服とか?」

 

 桃子の嬌声はスルーし、姉美由希が質問する。

 

「ちっちっち、残念ながら違います」

 

「え? でも『MIDORIYA』って書いてるよ?」

 

 なのはもまた疑問を口にした。

 

「実はなんと士郎さんは――」

 

「サッカーチームのオーナーになりました!」

 

「「「な、なんだってー」」」

 

 3兄妹は桃子の掲示したスケッチブックを棒読みに唱和した。そして、桃子がどこからともなく取り出した紙吹雪がリビングに舞う。

 

「むー、紙が目に――」

 

「大丈夫かなのは?」

 

「もう、母さん! 何散らかしてるのよ!」

 

「掃除をするのは母さんと士郎さんだから良いもん「ねぇ」」

 

 桃子と士郎が頷き合う。この演出を含めた発表はどうやら2人に予め仕込まれていたものであったと3兄妹は知るのだった。しかし、ここまで演出に手を掛けられたものの、3人の反応はいまいちであった。

 

「ん? 父さん、サッカーチームのオーナーになったって言ったか?」

 

「ああ」

 

「翠屋の店主に専念するってこの前言ってなかったか?」

 

 恭也が話を元に戻して士郎に問い質した。

 

「サッカーチームって言っても町内会での催しみたいなものだ。海鳴商店街近辺の子を集めた『翠屋JFC』と桜台近郊の住宅街の子を集めた『桜台JFC』が新しく出来た。」

 

「――『翠屋JFC』……」

 

「なのは? どうしたんだ?」

 

「!? にゃはは、何でもないの」

 

「ん? そうか、翠屋の店主は――――」

 

 士郎が話を続けるが、なのははそれをうわの空で聞いていた。『翠屋JFC』その単語を耳にした瞬間、なのはは今まで感じていた既視感の正体に気付いたからである。それはある物語で『高町なのは』がとある決意をする出来事に関連した単語であった為である。

 

 士郎の話が終わってすぐに、なのはは自身の部屋へと駆け付けた。そしてパソコンの電源を入れる。

 

 何故彼女の部屋にパソコンが設置されているかというと答えは単純である。高町家の住人は彼女以外まともにパソコンを扱えないからである。

 ではそんな高町家にそもそも何故パソコンが存在するのかというのも至極簡単な理由である。警備員の仕事中に大怪我をして入院した士郎が、退院と同時に警備員を引退し、翠屋の店主に専念すると宣言したのである。その店主業の一環として、翠屋のホームページを開設する事にした為である。

 そうしてパソコンを購入し、ネット回線を繋げたものの、士郎はホームページの開設を挫折した。見かねたなのはが説明書を読み耽り、代わりにホームページを作り上げたのである。そのホームページの管理もまたなのはが行う事となり、結果、なのはの部屋へとパソコンが設置される事となったのである。

 

 パソコンが立ち上がると、なのははネットへと繋いだ。そして記憶の中にある検索ワードを打ち込んでいく。

 

 ――『魔法少女リリカルなのは』

 

 関連記事が表示されるが、どれも掲示板関係で目的のサイトは見つからなかった。なのははさらに検索ワードを打ち込んで記事を絞り込もうと試みた。

 

 ――『翠屋JFC』

 

 今度は表示記事件数が3桁となった。そして、今まで既視感を感じた単語を片っ端から打ち込んでいくと、とある記事に目が留まった。それはなのはが過去に発見したブログそのものであったのだ。

 

 ――『原作改変』

 

 それがこのブログのタイトルである。一風変わったタイトルであり、何を改変するのか、このブログを発見した当時のなのはには分からなかった。何故なら、このブログには冗談のような管理人『転生者』のプロフィールと、『転生者』が書いた小説が数点掲載されているのみだからである。

 その小説に関しても、現代を背景にファンタジー要素を取り入れたどこにでもありそうな物語であり、紆余曲折あるものの、何れもハッピーエンドに終わる物語であった。そして何れの物語にも同じ文言の後書きで締めくくられている。

 

 ――『この小説をネット上に掲載する事こそ僕の原作介入だ』

 

 しかし、今なら分かる気がする。

 『転生者』が何を改変したかったのか――。原作とは何だったのか――。そして、何故小説の掲載が介入に繋がるのか――。

 

 いくつもの疑問のピースが1つに繋がった瞬間、なのはは戦慄した。そして、この瞬間からこのブログはなのはにとって、とても大きな意味を持つものへと変わったのである。

 なのはは今すぐに家族に伝えようと立ち上がったが、寸での所で思い留まった。

 それはなのは自身の発言である。

 

「ネットの情報は鵜呑みにしてはいけません」

 

 なのははそう家族に対して得意げに語ったのである。それに、こんな突拍子もない事を聞かせても家族を心配させるだけである。彼女の脳裏には今日の楽しげな家族の団欒風景が思い起こされるのだった。

 やっぱり家族には言えない。なのははそう決意するのであった。

 

 

 

 原作とは、このブログに掲載されている小説そのものである。

 そして、この小説は主人公の『高町なのは』つまり、なのはの未来の出来事を綴っている。それを知ってしまったなのはにはもう、この小説の内容――原作――を無視する事が出来ない。仮に忘れようとしても、心のどこかに原作の存在が見え隠れするだろう。

 つまり、原作改変とは――、

 

 ――なのは自身がこれから行うのである。

 

 『転生者』は後書きで読者であるなのはにそう語りかける事によって原作介入を果たしたのである。この小説の最終掲載日は10年以上も前である。見ず知らない者、しかもまだ生まれてすらいない者へと向けたメッセージであるという突拍子もない仮説をなのははすんなりと信じる事が出来た。

 そもそも、『転生者』の語る原作が真実であるなら、『転生者』はなのはの性格、行動パターンを熟知しているはずである。そうすると、今のなのはがネットでそれを目撃する可能性は高いと推測出来るはずだからである。ましてや、魔法である。魔法というファンタジーが実在するのなら、未来予知染みたこの原作も現実にあり得るかもしれない。

 事実なのははこの小説を目にした。『転生者』の思惑通りに――。

 

 この事実を前にしても、なのはには悲観した気持ちは一切表れなかった。そもそもこの物語は過程は兎も角、ハッピーエンドで終わるのである。多少未来の事が分かったところで、悲観する要素にはなり得ない。むしろ、この情報を元に、もっと上手く行動できるはずなのである。

 そして最も特筆すべき点は、なんと言っても魔法である。

 なのは自身、自分には何も取り柄が無いと思い込んでいる節がある。勉強はアリサには及ばず、頭の回転もすずか程良くない。運動も兄や姉のように出来ないし、料理だって母には到底及ばない。

 そんな自分も物語の主人公のように華々しく活躍できるのだと思うと、胸の高まりを抑える事が出来ない。

 

 そしてなのはは改めて『魔法少女リリカルなのは』に目を通すのだった。

 

 

 

 休日のある日、なのははお弁当を持って1人で海鳴臨界公園へと向かった。そこは原作における様々な出会いと別れの舞台となる場所である。

 なのは自身、今よりまだ小さかった頃、とある出会い(・・・・・・)を経験した思い出の場所である。最近は友達と過ごす頻度が増した為、あまり訪れていなかったが、あの日(・・・)から何度か足を運ぶようになった場所である。そうすればいつかあの人(・・・)にまた会えるような気がして――。

 

 ここ海鳴臨界公園はその名の通り、海に面した場所にある公園である。海鳴大学病院のすぐ隣に位置し、療養地としても広く愛されている。休日ともなると、恋人達が過ごす名所ともなっている。そのため、多くの人が訪れる事もあって、様々な出店も展開されている。

 何度がここに訪れているなのはも出店の主人とは顔なじみとなっているが、どうやら今日はお休みのようだ。それどころか、今日は公園に入ってからまだ誰ともすれ違っていない。

 訝しんだなのはだが、ふと思い出した。今日は商店街で催しものがあったという事を。

 本来はお店のお手伝いをしたかったが、今日はいつもより忙しくなるからという理由で、まだ小さいなのはには厳しいだろうとお手伝いをさせてもらえなかった。

 さらに友達のアリサとすずかは今日はお稽古があるらしく、珍しく1人で過ごすはめとなったなのはは例の原作を再び読んだ事も相まって、ここに訪れたのである。

 そして今は都合よく誰も居ない。そんな誰も居ない解放感からなのはは『高町なのは』のように両手前に出してとある一節を口ずさむ。

 

「――リリカル・マジカル…………」

 

 当然何も起こる事はない。それでもなのはは楽しくて何度も口ずさむのである。

 しかしそこで後ろから人が近づく気配がした。振り返るとそこには大学生くらいだろうか、ポロシャツにジーパンの少し小太りな青年が居た。彼の瞳は確実になのはを捕え、徐々に近づいてくる。

 人がいた事になのはは恥ずかしくなったが、自身に近づいてくる青年の瞳には鬼気迫るものが感じられ、若干後ずさる。しかし、もしかしたらこの青年は自分に用があるだけではないかと、何とかその場に留まる事が出来た。

 

「あの……なのはに何が御用ですか?」

 

 気丈にもなのはは青年へと声を掛けた。すると青年はなのはの質問に暫く返事をする事なく、喜色の表情を浮かべるのだった。

 

「やっぱり、本物の『なのは』ちゃん、だ……僕の、仮説は、正しかったんだ…………」

 

 青年は誰に語るでもなく、ぶつぶつと独り言を呟く。ここに来てなのはは目の前の青年がまともな存在でないと悟る。急いでここから離れようと思ったが、突然青年が話し掛けて来た。

 

「な、『なのは』ちゃんは……や、やっぱり魔法少女、なんだよね?」

 

 青年の言う、魔法少女という単語を聞いた途端、なのはは体を硬直させた。それはつい最近となって聞き覚えのある単語であった。なんで、となのはは思ったが、青年が自分ににじり寄ってくる恐怖から上手く言葉が出ない。

 

「い、今はいつ頃なんだろ……何とか言ってよ。ねぇ、『なのは(・・・)』ちゃん!」

 

「ち、違います。わ、私は魔法少女なんかじゃありません」

 

 本来は嬉しいはずの名前を呼ばれ、なのはの中には恐怖の感情が支配した。そのため、なのははこの青年とこれ以上関わりたくないと思い、必死に否定した。しかし、

 

「そ、そんなはずはない! さっきだって、呪文を唱えていたじゃないか! そ、それに今だって、周りに人が居ない。封時結界を使ったんだろ! ぼ、僕は特別な存在だから結界内でも入る事が出来たんだ。き、君さえ居れば、僕も魔法が――」

 

 もはや青年が何を言っているのか、なのはには全く理解出来なかった。すぐさまここから離れようと駆け出したが、青年に右腕を掴まれてしまった。

 

「いやぁぁぁ!! 離してぇぇぇぇぇ!!!」

 

「ま、待て! 逃げるな!!」

 

 必死に手を振り解こうとするが、抜け出せる気配がない。なのはは必死に助けを呼ぶのだった。

 

「助けてぇぇ! お兄ちゃん! お姉ちゃん!」

 

「む、無駄だよ。今は誰も、いだだだ」

 

 青年は突然訪れた腕の痛みからなのはを捕まえていた手を放してしまった。すると突然、体が180度回転する感覚に見舞われた。

 

「未成年者略取の現行犯で逮捕するよ」

 

 そうして、青年はうつ伏せの状態で、後ろ手に手錠をはめられてしまったのだ。

 

 突然の事態に、当事者であるなのはも暫く呆然と立ち尽くしてしまった。

 

「ふぅ、間に合って良かった。ところで君、怪我は無いかい?」

 

 青年を取り押さえた女性(・・)が話し掛けて来た事により、なのはは我を取り戻した。

 

「え? あ、はい。なんともありません」

 

「そうかい。それは何よりだ。それにしてもこの手の輩がまだ居たなんて――、油断したこちらの落ち度だ」

 

「え? どういう――」

 

「いや、なんでもないよ」

 

 そう言って、女性は手を振ってなのはに笑い掛ける。しかし、なのはには怪訝な気持ちが拭いきれないでいた。

 なぜなら、なのははこの女性に見覚えがあったからである。あの時は夕暮れ時であったが、件の女性はなのはにとってとても印象的であった。夕闇の中、銀色に輝く髪をなびかせ、颯爽と現れてはなのはを助け、泣いてるなのはにニヒルな微笑みを浮かべては宥め、家まで送ってもらった記憶がある。

 そんな思いでの女性が言った言葉に引っ掛かりを感じたのである。もしかしたらこの女性も『魔法少女リリカルなのは』について知っているのではないかと――。

 

 なのはが思考に没頭していると、突然、目の前の女性は驚愕の表情を見せた。

 

「まさか、その年であれを知ってるとはね」

 

「え? なんで――」

 

 女性はなのはの思考に合わせたかのように発言した。なのはは突然の事態にドキリとしてしまった。

 

「そうだね。まずは自己紹介からしよう。僕はリスティ・槙原。まぁ、警察の関係者かな。よろしく」

 

 なのはの疑問を置いてきぼりに、女性リスティは自己紹介を開始した。

 

「わ、私は高町なのは、私立聖翔大付属小学校の1年生です」

 

 なのはも取り敢えず、自己紹介をした。

 

「うん。いい子だ」

 

 そう言ってリスティはなのはの頭を撫でてくる。怪訝な気持ちは消えないが、撫でられる安らかな気持ちから、先程までの恐怖が一気に噴き出してきて、涙が溢れてきた。そしてなのはは優しく頭を撫でてくれるリスティに思わず泣きついた。

 リスティもなのはの気持ちを察し、暫くなのはを抱きしめるのだった。

 

 

 

 『原作改変』の引き起こす波紋はここに新たな出会いを産み落とす。この出会いが何を意味するのか、なのはは知る由もなかった。

 

 

 




『リリなの』は分からないけど、『とらハ』のなのははAV機器に異常に強いという設定があるため、その設定を流用してなのはにネットを覗かせました。

リスティとの邂逅でこれから少しずつ『原作改変』による問題点が浮き彫りになってくる予定です。

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