『魔法少女リリカルなのは』 作者:『転生者』   作:am24

6 / 6
 5話 『レイジングハート』

 闇夜に蠢く異形の物体がそこにはあった。俗世と隔絶されたかのような静寂な空間の中、木々をかき分け異形の物体は少年へと飛び掛かる。少年は手に持った赤い宝石を前に翳し、攻撃の呪文を唱える。

 両者の激しい激突の末、双方共にダメージを負ってしまった。そしてそれは少年の方が被害は甚大で、すでに息も絶え絶えである。

 しかし、異形の物体はこれ見よがしに攻撃を決行する。再度の突撃を敢行しようと助走を付けたその刹那、目に見えない力によって行く手を阻まれてしまった。

 そして異形の物体は突如、後方へと飛び跳ねる。すると突然、衝撃音がしたかと思うと異形の物体が元居た場所には大きな窪みが出来ていた。それは何者かによる攻撃であった。

 その後も異形の物体は右へ左へと攻撃を悉く回避する。そして異形の物体は虚空を凝視すると攻撃も止まった。

 

 ――グォオオォォォオオオオ!!!!!

 

 それは異形の物体が咆哮するのとほぼ同時だった。何者かは点による攻撃は無駄だと悟ったのか、面による不可避の攻撃へと切り替えたのだ。しかし、異形の物体による咆哮により、攻撃は殆ど相殺されてしまった。その咆哮の余波は凄まじく、異形の物体の周囲の木々は同心円状に薙ぎ倒されていった。

 突然の乱入者による戦闘を暫し唖然と眺めていた少年も、身の危険を感じ、咄嗟にシールドを展開するも、程なくしてシールドが破れ、吹き飛ばされてしまった。

 そしてあわや地面に激突という時、背中に柔らかな感触を感じ衝撃が和らいだ。虚空に存在するであろう何者かがその見えない力によって助けてくれたのを直感したが、少年が満身創痍なのは変わらない。

 現状、見えない何物かが味方であったとしても、戦況は明らかに不利であった。それでも少年は異形の物体を何とかしようと必死に頭を働かせる。

 異形の物体は現在、その視線に捕えた何物かを標的にしているようだ。今はお互い睨み合っているのか、ただじっと佇むのみである。

 異形の物体にとって少年は取るに足らない存在と見なされたのか、はたまた、虚空の何者かが脅威であると捉えたのか、現在は少年に眼中が無い状態であった。

 少年にとって現状は正にチャンスであると言えよう。しかし、自身の最大攻撃は先程あっさりと相殺されてしまった。自分でも攻撃の才能は無い事は理解している。今ここで手を出してもあっさり返り討ちに合うのが目に見えているので、当然攻撃という選択肢は無い。

 

 そうして膠着状態が続く中、少年はふとある疑問を感じた。

 

 ――なぜあいつは動き出さない? 

 

 そして同時に異形の物体の視線の先にある空間に目を向ける。

 それは、木々が邪魔して見えないが、明らかに上空に何者かが存在する事を示唆している。

 そして気付いた。

 

 ――あいつは動かない(・・・・)んじゃない。動けない(・・・・)んじゃないか?

 

 少年は先程までの攻防について振り返る。

 異形の物体は虚空の何者かによる攻撃が明らかに見えていた。その上で的確な回避に成功した。そして次の不可避の範囲攻撃も同じく咆哮による範囲攻撃で迎撃したのである。

 そしてここである疑問が生じる。

 

 ――なぜ先の攻撃も咆哮で迎撃しなかった?

 

 しかしその回答は簡単に見つかった。咆哮による木々へのダメージと、不可視の攻撃による地面への影響を見るに、不可視の攻撃の方が、威力が高いように感じられる。だからこそ、異形の物体は迎撃ではなく、回避を選択したのだろう。

 そして、回避を選択するからには、その不可視の攻撃の威力は自身を害するに値すると感じているのであろう。

 咆哮による衝撃波が虚空の何者かに届いているのか分からないが、それで牽制を行わないのは、そもそも虚空の何者かに対して効果が無かったのか、不可視の攻撃の方が早く発動するのか、安易に使えるものではないのであろう。

 最後に、異形の物体の姿や攻撃手段について考えてみると答えが出てくる。

 異形の物体は黒く禍々しい雰囲気を漂わせている。その形状は安定しておらず、常に歪に蠢いている。手足の類は存在せず、顔の辺りには目と口があるが、それは明らかに生物の範疇外であると分かる。行動手段はその体を器用に変形させることによって飛び跳ねるように動くのである。しかもその動きは極めて俊敏で、普通の生物では物理的に不可能な動きでさえ可能である。

 しかし、それらの形状変化は攻撃に直接利用されることはなく、先に少年がやられたような体当たりによる攻撃が基本となっている。そして現在確認されている遠距離攻撃は先の咆哮のみである。

 つまり、異形の物体には上空に存在する何者かに対する攻撃手段が無いのであろうと推測できる。

 

 そして、虚空の何者かもその事に気づきつつも、自身にも有効な攻撃手段が無いのか、怪我をしている自分のためにあえて睨み合いを続けて時間を稼いでくれているのだと少年は気付いた。

 少年は今自分に出来る事を考える。自分の攻撃では異形の物体には意味を成さないだろう。しかし虚空の何者かならば話は別である。全ての攻撃を防がれている現状から、少年は自分のすべき最善の手を思いつき、一瞬逡巡する。

 虚空の何者かにその意図が伝わるかは分からない。しかし、吹き飛ばされた時に助けてくれた存在ならば、賭けても良いと決断し、実行に移す。

 

 ――『バインド』

 

 それは『魔力弾(ショット)』に続いて最も一般的な魔法である。効果は単純であり敵を拘束する魔法である。

 この『バインド』は補助魔法の一種で、あまり目立たない魔法であるが、事戦術においてはかなり重宝されている。『バインド』の実行には絶えず変化する戦闘の最中、強度は勿論、その発生させる位置やタイミングにも気を使わなければならない。そのため、実戦闘での運用が難しい魔法でもあり、高位の魔導師になればなるほど、『バインド』の扱いは巧みになっていく。

 少年はお世辞にも高位魔導師とは言えないが、その仕事柄、補助魔法の扱いには自信があった。その中には当然『バインド』もあり、自覚は無いがその運用は高位魔導師に匹敵するものであった。

 

 少年による『バインド』で異形の物体を拘束した。効果は数秒も持たない僅かなものであったが、それは、現状を打破するには十分な時間であった。

 少年の意図が伝わったのか、『バインド』が展開するとすかさず攻撃が再開された。

 その攻撃はその攻撃は僅かな時間で異形の物体の体のあちこちに穴を穿つに至った。しかし、その攻撃で確実にダメージを与える事は出来たが、無力化までは出来なかった。そしてそればかりには留まらず、異形の物体が拘束から逃れるとすぐに体の穴が塞がりだし、元の姿へと戻っていったのだった。しかし、それでもダメージが蓄積されているのか、その動きに若干精彩は無く、続く追撃を避けるも、僅かに体をかするようになった。

 異形の物体は現状では少年を脅威と感じたのか、攻撃を避けながらも少年を見据える。

 少年も次は確実に自分に向かってくるだろうと覚悟を決める。

 少年は呪文を唱える。今度は攻撃呪文ではない。戦闘の最中作り上げた(・・・・・)異形の物体を無力化するための封印術式を展開する。

 瞬時に危険を感じ取ったのか、異形の物体は攻撃にさらされるのも厭わず少年に突撃していった。

 異形の物体がぶつかる直前、封印術式は発動した。

 

 ――ジュエルシード、封印!

 

 少年は自身に残る魔力を使い切る勢いで封印魔法に力を込める。そして――。

 

 

 

 なのはは目が覚めると辺りを見渡す。それはいつもの自分の部屋であった。いつもなら、眠気眼なまま、もそもそと朝の支度をして目を覚ますのであったが、今日はいつもとは事情が違った。なのはは瞬時に頭を覚醒させ、先程見た()について思考を巡らせる。

 あれはジュエルシードによる思念体と、ユーノであると即時に気付いた。とうとう『魔法少女リリカルなのは』が始まったのである。

 リスティは以前からそれが悪戯で済めばいいとなのはに愚痴っていたが、現実は無常であった。なのはもその時は同意をしていたが、心のどこかでは実現してほしいと願っていた。

 しかし夢に登場したユーノを見て、その考えは浅はかであったと反省した。現実にユーノは思念体と戦い、大怪我を負ってしまったのである。

 なのはにとって『魔法少女リリカルなのは』はまだ、現実味の無い夢物語であると心の隅では思っていた。怪我をし、苦しみ、悲しむのも物語の中での事で、その真の意味に気付いていなかった。

 

 ――現実であると理解しているつもりになっていた。

 ――現実であると覚悟しているつもりになっていた。

 

 魔法という空想に浮かれていた現実に気が付いた。なのはは本当の意味での理解も覚悟も出来ていなかったのだ。

 

「ユーノ君……」

 

 なのははまだ見ぬ未来の相棒の安否を心配した。今すぐにでもユーノの元へ駆け付けたかったが、如何せんなのはは小学生である。これから学校に登校しなければならない。

 なのはは携帯を握りしめる。こういう時に助けてくれると約束してくれたリスティの電話に掛ける。

 数回のコールの後、電話が繋がる。

 

『あー、もしもし』

 

 気怠そうな声色のリスティが出た。

 

「あ、リスティさん! 夢を見たの! それでユーノ君が――」

 

『悪いなのは。こっちから連絡しようと思ってたんだ。ユーノは取り敢えず保護したって』

 

「――怪我し、て…………え?」

 

『あー、怪我に関しては病院で治療してもらったから。因みに動物病院の方だよ。最後に力尽きてフェレットになったからな』

 

 なのははリスティのまさかの返答に困惑した。

 

「……」

 

『なのははこれから学校だろ? 帰りに動物病院によってほしい。話がある』

 

「え? あ、はい。分かりました」

 

 そうしてリスティは電話を切った。なのははどこか釈然としない気持ちのまま、朝の支度に取り掛かったのだった。

 

 

 

 学校の授業中、なのはは自身の失態について考えていた。知っていたはずなのに防げなかった。この事実が今のなのはには重く圧し掛かる。なのはは改めて魔法について考え、授業の内容は耳に入らなかったようだ。

 そしてそれは昼食中でも同じであり――、

 

「――ねぇ、なのはちゃんは将来何になりたいの?」

 

「魔法少女――って違うの! なのはは、えっと、えっと……」

 

 呆けていたのが祟り、なのはは失言をしてしまった。必死に取り繕うとするが、時すでに遅く、にやにやと意地の悪い笑みをしたアリサがなのはを捉えている。

 

「へー、魔法少女ねぇ」

 

「だから違うの!」

 

 なのはは否定するもアリサには通じなかった。

 

「良いんじゃないかな? 魔法少女。夢が有って」

 

「すずかちゃん……」

 

 すずかがなのはを微笑ましそうに見詰める。

 

「確かに、ぷっ、すずかの言う通りね。夢があるわよ」

 

「アリサちゃん……」

 

 親友に笑われてなのはは軽く絶望した。

 

「アリサちゃん、笑うのは可哀相だよ。普通の小学生ならなのはちゃんみたいに夢を見ているものだよ」

 

 すずかがフォローするも、なのはには逆効果だった。

 

「にゃー! だから違うの!!」

 

 誤解を解こうとなのはは叫び出す。

 そうすると、周囲の視線がなのはに集中しだした。3人は気まずくなったため、この話題を終了させて、そそくさと昼食を済ませて教室へと戻った。

 本当に夢なら良かった。今のなのはは心の底からそう思うのだった。

 

 

 

 放課後になり、3人は並んで校門へと向かう。

 

「くぅん!」

 

「あ、くーちゃん、お待たせ」

 

 なのはが3年生になってから、久遠は毎日のように校門でなのはの下校を待つようになったのである。

 なのはにとってそれは、既に日常の風景となりつつあったが、久遠と共に居る事は非日常への備えであった事を改めて思い出した。

 久遠を眺めながら、なのはは自身の置かれた立ち位置を再認識する。

 なのはの代わりになる者が現れるとは限らない。最悪の事態を想定してなのはは常に誰かに護られている。

 なのはは皆に期待されているのだ。その期待に応えるべく、なのはは決意を新たにするのだった。

 

 そしてなのはは久遠共に病院へと向かう。既にアリサとすずかとはお別れしていた。

 病院についたなのは達は、リスティに案内されてユーノの元へと向かった。

 そこにはベッドの上で眠っている包帯をしたフェレットが居た。その寝息は規則正しく、なのはを安心させるには十分であった。

 リスティは懐から蒼い(・・)宝石を取り出して話し出す。

 

「これが『ジュエルシード』だ。なのはにはこれを封印してほしい」

 

「え!?」

 

 なのはは、既にジュエルシードがある事に驚いたが、それよりも、いきなり封印してほしいと言われた事に戸惑った。

 そして眠った状態のユーノに顔を向けるがそこには本来あるべき物が無い事に気が付いた。

 

「『レイジングハート』はここにある」

 

 赤い宝石はリスティの手の中にあったのだ。

 

「え、でも勝手に貰うのは……」

 

 当然の懸念事項をなのはは口にする。『魔法少女リリカルなのは』では有事の際の緊急措置的に『レイジングハート』が『なのは』の手に渡ったのである。そして現在はその持ち主の意識は無い状態なので、勝手に貰うのは泥棒になってしまう。リスティの職業を思い出すと尚更駄目な事であると思ったが、

 

「大丈夫だ。許可は彼女に(・・・)取った」

 

 そう言ってリスティはレイジングハートに目を向ける。

 

『Nice to meet you』

 

 レイジングハートが点滅をしてなのはに挨拶をした。事態が把握できななのはは混乱してしまった。

 

「彼女には事情を全部(・・)話したのさ」

 

「……えーと…………良いの?」

 

『No problem』

 

なのはは逡巡する。これで魔法少女になる条件は整った。一瞬だけ手を伸ばすのを躊躇したが、なのはは決意を新たにレイジングハートをその手に取った。

 

 

 




本当の意味で原作介入するならユーノが怪我する前ですよね。間に合わなかったけど……

なのはが原作知識を手に入れたなら、レイジングハートにもと言うことで事前に味方に引き込んでみました。

本格的なジュエルシード回収はユーノが目を覚ましてから。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。