なんとかならないかもしれない 作:キケンなロウジン
大量の木材が降ってきて、少年を潰そうとする。眩しいくらいの太陽がその様子を笑っているように感じた。
──そんな窮地を、炎球が救うまで。
親が慌ててやってきて、名前を仕切に呼んでよかった……よかったと喉を絞るように言う中、現実感がなかった。
自分が今さっき死にかけていたことも。
凄いとしか言えないシュートを見せられたことも。
自分もあんなシュートを打てたら、人を助けるシュートを打てたらと憧れる。恩人に理想を見るのは普通かもしれない。そんな平凡な夢を見つけた。
かくして、少年は後にこの世をまたにかけるサッカー少年として生きる、はずだった。
なんの運命の悪戯か、ボールが弾き飛ばした木材に滑って転んで頭を打つまで。
「……すげぇ」
目を開ければ、そこは清潔なベッドの上だった。見つめるといつもより天井が高く感じるし、夢かもしれない。
さっき見た夢を振り返る。それは、
《人一人踏み潰せそうな木材の束を押し返す、炎のシュート》。
それは、きっと夢だろう。シュートがあんなに強力なわけないし、炎を纏っているわけがない。
「でも」
すごかった。夢でも見れてよかった。年甲斐もなく興奮させられるスーパーシュートだ。あれだけのリアリティとクオリティを持ったものはエンタメを漁ったところで享受できない感動がある。
「サッカー、やりたい」
無性にボールをいじりたくなった。別に、サッカーが得意なわけではないのに。サッカーをやっていたわけではないのに。ルールだって大雑把にしか知らない。だと言うのにボールを持って、シュートを打ちに行きたかった。
「あれ?」
散々考えた後、自分の声がなんか高くなっていることに気づく。前はもっと……前? 前ってなんだ? というか、
「ここ、どこ?」
今更になってここが知らない場所だと気づいた。その、インテリアが子供っぽいというか。インドア趣味の自分にしてはゲームが少ないというか。現代日本にしては機械製品が少なくない? この内装、これは令和じゃなく
「平成って感じが凄い」
「あぁ天馬! 起きたのね!」
「うん……おはよう。天馬?」
てんま? いや、
この後、両親であろう男女と医療関係者のおじさんと少し話して現状を把握しする。自分はイナズマイレブンGOの主人公、松風天馬になっていると気づいた。
紆余曲折あって状況に慣れた。両親はちょっと変わったボクを、「あんな経験をしたのだから少し変わってもおかしくない」と理解したようだ。助かる。
そして今、ボクはサッカー場にいる!!!!
しかも貸切! 沖縄人口減少すごいからね。同年代が見当たらないや。
転生……いや憑依か。憑依していることに気づいた。だからどうだと言うこともないが。
憑依してしまったらウジウジと悩むのだろうか「本当は育つべきだった若者の命を奪ってしまった」とか「ボクはここにいていい価値はない」とか。
結論としてはそんなの知らねぇ!
なってしまったのだからしょうがないのだ。なら最善を尽くすしかないのだ。いつの日か突然、本当の松風天馬に替わるのかもしれない。それは今日かもしれないし明日かもしれない。それでも今を全身全霊で生きていれば大丈夫だろう。天馬も言ってた。
「なんとかなるさ、ってね」
いや、ボクなら、
「なんとかするさ、かな?」
これから何があってもぶつかっていけばいい。挑戦して取り返しがつかなくなる様な年じゃないし。いっそめちゃくちゃ頑張って天馬に人生貯金を大量にのしつけてやろうか。突然意識が戻ったら勉強もサッカーもめちゃくちゃできる様になっててビビる天馬。おもろいかよ。
「あー! 一人で妄言話してる痛いヤツみたいじゃん! 練習、サッカーの練習しなきゃ!」
貴重な練習時間を無為にしないために走る。とにかく、シュート打ちたいんだよなぁ……!
そんなこんなでボクはかなり練習した。サッカーが好きになった。テクニックは全然なかったけどあのシュートへの憧れのおかげでやめることはなかった。途中、ある人に教えてもらってからもっと楽しくなった。将来はサッカーの最高峰であろう雷門中学でサッカーがしたい。
そんなこんなで中学一年生にまでなった。沖縄からやってきてメチャクチャ大変だけどなんとかなるさでやって来れた。この言葉、すごい万能。寮にいるサスケも可愛い。
そして、驚くことになる。
雷門中学での、日本のサッカーが管理制とかいうメチャクチャなものになっていたことを。
なんならメンバー全員にやる気がないからチームスポーツとしてはかなり終わっていることを。
「やべーな雷門。天馬、この無理ゲー変わってくれ」
折角ここまで来たのにもう部活じゃなくてクラブチームに行けばいいんじゃない? とか思いそうになる。虚勢でいいからなんとかなるさって言いたい。