なんとかならないかもしれない 作:キケンなロウジン
今回は急遽作った間話
河川敷の橋の下で天馬は練習をしている。石畳の上では傷が付くためスパイクではなく運動系のシューズで走り回り、壁にガムテープで貼り付けた段ボールを的にシュートを繰り返し打っていた。
はずれ、はずれ、あたり、あたり、はずれ。
シュートの結果である。
天馬は別に最初から上手かったわけではない。寧ろ逆でとにかく下手であった。
転生して憧れと年並み以上の知識を持ってサッカーにのめり込んだ最初は思い通りになることの方が少なかったくらいである。
生まれ直して、少し前までと目線が違う。筋肉の付き方も違う。成長期特有の変化するスペックに振り回される。必殺技のモデルを沢山見ていた。そのせいで想像力だけはあった。それが逆に現実性のない体の使い方を助長させる。
悪いことだらけである。
思い通りにボールは蹴れない。ドリブルもリフティングも続かない。周りからはおかしなのー!と馬鹿にされる。なんなら付き合う友達もおらずパス回しの経験がない。
普通ならどれだけ才能があっても辞める環境である。それだというのに松風天馬は、
その環境をバネにした。
家にある大きな姿見で自分のフォームを頻りに確認した。サッカーの理論をしっかり学び動き方について理解した。できない原因を疎かにせずハウトゥ分析を行い前世の自分のままのつもりがダメだと思ってやり直した。
松風天馬は理論派のサッカーバカに新生した。
身の程を知ったと言えばその程度。分を弁えたと言えば情けなくも感じる。だがそれがどれだけ難しいか。
松風天馬はその結果として体の動き方を覚えた。ゴールとの距離感、間合いの大切さをとことん学んだ。自分を活かす道具を選べるようになった。サッカーで強くなるために勉強も頑張った。数字を見るのが好きになるくらいやった。前世でも苦手な英語ならビジネス程度なら独学で喋れるようになった。親はその結果を喜んだ。
一歩一歩、天をつくように伸びていく。
出来ることが増えていった。完璧ではないが人並み以上に一年で持っていった。もう一年後にはそれ以上のサッカーができるようになった。
昔捨てた想像性だけのサッカーは今になって実力を伴うものへと変わっていった。松風天馬に創造力が身についた。
松風天馬は今も、シュートを打ちながら次を見ている。
(シュートはそこそこ上手くいくようになってきたなぁ〜超次元……超化身サッカーについていくならテクニックは必須!追い越すレベルに鍛えなきゃ!)
ボールが的にあたる。達成感もそこそこにリストバンドで汗を拭き息を整えた後、兎跳びを繰り返す。息も吐き見るからに苦しそうである。拭いた汗ももうみるみる流れてきた。一通り行ってから水分補給をして次の練習に動く。
ラダー。
足運びの練習である。サッカーをする上でボールを運ぶ・意のままに扱うための熟練度。それ以外にも足の速さを鍛えるためには重要である。
右に、左に。とんとんとん、と。規則正しいリズムで徐々に速くなりたまに失敗してコケる。その繰り返し。
嫌になるほど地道なトレーニングである。そうして松風天馬は、強くなってきた。
「おーい!天馬ー!」
「ん?」
練習が一頻り終わり休んでいたところに声をかけられる。青髪のショートボブの女の子。あれは、
「練習終わった?」
「うん!」
幼馴染の空野葵である。
松風天馬は周りからかなりズレていた。
それは、今もかも知れないが過去もである。
葵との出会いは偶然から始まる。
それは、ジュニアサッカーチームの入団テストの最中である。
それまで松風天馬はサスケと……犬としか練習しなかった。
それ故にパス回しも集団での動きも鈍くテストでの評価も悪くなっていた。
そのテストが天馬が上手くなる前に行われたものだったのも運がなかった。天馬のぎこちない動きは運動音痴のソレだと思われることもあり皆、ダメだと思っていた。
そんな中である。
入団テストで自分にボールが回ってきた千載一遇のチャンス。ここで打てば評価は変わる……そんな時に犬に襲われていた葵を目にした。
ゴールよりも葵に目が入った。止せば良いのにそちらに向けて打ってしまった。松風天馬はシュートが一番の得意であり当時でも年齢以上に上手かった。
強烈なシュートは犬を追い払う。コートの上の自分はとんでもないところにボールを蹴ったへっぽこストライカー。
それでもよかった。
シュートを打って人を助ける。──炎のシュートを撃った恩人に自分が重なったように思えてとても満足した。
結果は落選。それでも心晴れやかだった。
その後、葵と話した。
葵は自分のせいでダメになってしまったと言っていたが天馬はそんなことないと否定した。チャンスを一回しか作れなかった自分が悪い。そう割り切って雷門中への夢を話す天馬。
その夢を話す天馬が心底楽しそうなものだから、羨ましくなってしまう葵。応援するよと誓ってサッカーが好きになっちゃうかもと独りごちる。
そんな話をめざとく聞いていたサッカーバカは自分の手元のボールを葵に蹴って、
──サッカーやろうぜ!
とご機嫌で言い放つ。何が琴線に触れたのかメチャクチャ笑顔の天馬。二人は軽くパスを出し合いボールを回して遊び出す。楽しかった。サッカーがなっちゃうではなく好きになった。なんなら現段階でのリフティングは葵の方が上手かった。天馬は拗ねた。
葵とパスを出し合う。
葵はこのサッカーバカに付き合っていただけあって普通に上手かった。……未来で雷門サッカー部に入部した頃の信助よりも上手い。二人は笑いながらあの頃のようにパスを出し合う。
「そういえば天馬、必殺技は出来たの?」
「うーん無理だった……」
葵はこのところ天馬が必殺技を会得しようと練習に励んでいることを知っている。必殺技は子供からお年寄りまで誰にでもできるはずだが獲得は困難……それでも天馬ならと内心思っていた。
「天馬でもできないんだ……まだ早いのかなぁ?」
「ボクにとっての"理想"が上手くいかないというか……うーん?」
「とにかく!できなかった!」
「まぁ大丈夫でしょ。天馬ならそのうちできるようになるって!」
「それは、わからないよ?こうしている今この時に【必殺技】だってできるかも知れないし!」
「さすがにそこまではないよ〜」
天馬はパスされたボールを浮かしてシュートの体制に入る。
(どうかな……わかんないや。こうして自由を持たせて勢いよくプレイすれば案外なんとかなるかも?………んー?ムズイ。【マッハウィンド】も【そよかぜステップ】もどれだけ練習しても出来ないし。なんならボクはシュートの方が得意だ。一番簡単な筈だけど……ああ!うざったい!こうなりゃヤケだ!サッカーは自由でなくちゃ!サッカーをやれば空だって飛べる!空間を認識してゴールに直接!後は何も考えないようにっ、と!)
「こんな感じで…【
全てがマス目で区切られた世界で狙い通りに貼られた段ボールに向かい、その勢いのまま的にあたる。ダンボールは黒い痕をつけガムテープは勢いよく剥がれた。ぽすん、と小気味良い音をならしてボールが落ちる。
「……できちゃった」
「やったぁ!」
これは松風天馬が初めて習得した必殺技の話である。創造の化身の爆誕である。その後、とんとん拍子で能力を高め【化身】まで手に入れる。上手くなればなるほど天馬はサッカーにのめり込む。
松風天馬は、今も昔もサッカーが大好きだった。