我が誕生したのは約10000年程前の事。
海底に体を固定し、漂う微生物を濾し取る。
排便はせず。思考もせず。動けもしない。
そんな我は、5000年前に"知性"を獲得した。
だが、それは絶望の始まりだった。
願う。この生が終わって欲しいと。
願う。移動できる身体が欲しいと。
願う。願う。願う。願う。願う。願う。願う。
知性を獲得したが身体は動かずに、ただひたすらに食事を摂り続けるだけの"生"。
意識は一丁前に有るクセに他の全てが足りない。我々以外の種族が持つ、自由に動かせる肉体。
願いは叶った。
海中で濃度を増した"何か"は。
我の身体に"変化"を齎した。
念願の物を手に入れると、地上を目指した。
無性に、二足歩行の棒状の種族を見たくなった。
知らないが知っている。そんな感覚に襲われた。
地上は既に荒廃していた。
居住区と思われる物は瓦礫の山へと。
空へと飛び立った方舟の殆どが破片へと。
爆発があったのだろうか。
地は灼け、天は割れ、空気には煙が漂っている。
炭となった肉塊が辺り一面に転がっている。
ふと天を仰ぎ見ると、光が溢れている。
《"
誰かに言われた様な気がした。
《我々は誰だ。》
頭に声が響く。
《我々は何処に居た?》
声は存在感を強めてゆく。
《"
《かつて〚人類〛は元の
《だが、ここ。〘オルタナ〙へと降りて来た。》
《ここへ〚人類〛の足が触れてから、
それはそれは、とても長い時が流れた。》
《今こそ。もう一度
《あの
《〘オルタナティブ〙では無い────
あの
流れ出た液晶は海中の生物へ変化をもたらした。
人類の"記憶"を取り込んだ海洋生物は、
かつて人類が見ていた"
知性を手にし身体を手にした海洋生物もまた──
あの
◇
「ココモ、ムダカ。」
"知性"………と…………そう、ニンゲンとやらが呼んでいるものが私に備わってからはや5000年。
半壊した建造物を長きに渡って探索した所、どうやら私の居る『ここ』は大穴の中であり、そしてニンゲンとやらの最後の地であることが判明した。
そして私の種族は『カイロウドウケツ』であり………ニンゲンたちの創り上げた地下世界での実験生物だったらしい。
とはいえ同類は既に全滅したと思われる。皆ある程度の地殻変動により地の底へ埋まってしまったのだろう。
彼らニンゲンが空へ飛び立つ事に失敗した事により、この大穴内は滅茶苦茶になってしまった。建造物はその多くが倒壊。様々な薬品が海中へと溶け出し一部の海域の海洋生物は突然変異、もしくは死滅。かくいう私も突然変異した生物の内の1つらしいのだが……そこは確証が無いため置いておくとしよう。
通常、カイロウドウケツに脳は無い。…らしい。従って思考も出来ない筈だが実際出来てしまっている。今ではもう研究資料はロックが掛かっているものしか残っていないため知るためには自らを解剖するなどしか思いつかないのだが……
無論、まだまだ死にたくもないためこの謎は永遠に分からないのだろう。
知能レベルもニンゲンと遜色無いレベルと推測できる。ニンゲンの残した資料を見るにこれは想定通りらしい。彼らは研鑽を積む動物であり……なんというか、非常に…異端だ。
私の今の年齢はニンゲンの数え方であれば10000歳程であるらしく、カイロウドウケツは種としてニンゲンとは別格の寿命を持つそうだ。移動手段としての脚部、それと"知能"を手に入れたのは、前述の通り5000歳程度の時の事。
ニンゲンが滅んでからだいぶ経った頃だったが…何か環境の変化が再度起こったのだろうか。
いや、考えても仕方がない。考えても仕方のないことをいつまでも考えるのは時間の無駄であるからして、この思考は一旦取り下げる。
…………話を戻そう。今私が調べているものは大穴に付いている巨大な扉を開けるためのスイッチ……の場所だ。
その場所を見つける目処すら無い。まぁ文字通りゼロからの出発だったものが『スイッチ』という物の存在を理解するには、1000年ですらも安いものではあるが……
………流石に寿命の長いらしい私といえど段々気が滅入ってくるのだ。そもそもニンゲンの予測では変異しても寿命が変わらない
………………はぁ。私はいつ出られるのだろうか。