ぬるぽ。 作:ぬるぽの気合釣り
ぬるぽ
──この世界はゲームの世界である。
そう言ったとして、いったいどれだけの人間が頷くだろうか。
ああ、これは別に『世界五分前仮説』だとか『水槽の中の脳』みたいな哲学的命題じゃない。ちゃんと本気の話。
本気の、本命の、本題として僕はそう言ってる。
ゲームの“ような”世界ではなく、ゲームの世界だと。もっと現実的に言うのであれば、電脳世界である、と。
自分が立っている場所を電脳世界だという事の現実性に関しては……うん、今は置いておいてほしいかな。本題とは違う部分だから。それについてはまた後日、という事で。
今語りたいのは電脳世界としてのこの世界の話だからさ。
頭上に広がる青い空も、数多く立ち並んでいるせいで摩天楼という表現が微妙に似合わなくなったビル群も。そう、全てだ。
視界に映る光。耳朶を叩く音。鼻腔をくすぐる匂い。口の中で転がしている飴玉の味。肌を撫ぜる風の感触。──その全てが、五感を刺激しているその総てが電子で編まれたイミテーション。幻覚にも似た模造品だ。
あるいは、今こうして思索を巡らせている僕も。
まあ、自己の実在性なんて通り過ぎた問題だからどうでもいいんだけど。通り過ぎたし、疾うに過ぎた。
“
偽物であっても本物だと信じている間は本物になれるだろうし、仮初だって悠久の時を耐え得るだろうし、ともすれば破壊も創造へと姿を変えるかもしれない。世界なんて結局は見方一つでいくらでも装いを変えるんだ。
それは美しく、そしてそれはそれは残酷な話ですわ……っていうのは流石に“我思う故に我あり”の原題から離れ過ぎかな?
まあ、とにかく。ともかく。
僕はこの世界が電脳世界だと思っていて、信じていて、信仰している。その上で考えてみるとしようじゃないか。
──さあ、君はどう思う? と。
なんて言っても、結局これも答えは出ているんだけどね。通り過ぎちゃった後の話だ。
一番ある反応は馬鹿にするような視線で、次が適当にあしらう物。最後でようやく『へぇ』という反応が返ってくる。そんな感じ。ちなみに最後のって言っても割合は一割あるかどうかだけどね。
これが統計の罠だよ、なんちゃって。
実際に何回も見てきたからねー、そういう人は。
「ま、別に同意を求めてるワケじゃないし、議論したいなんて欠片も思ってないんだけどさ」
肩をすくめて、ヘラヘラと零す。
同意など欠片も、これっぽっちも、路傍の虫程度にも求めていない。僕がそう思っていればそれが“そう”なんだからさ。
……え、
ちなみにボケてはいないからツッコミは求めてないし、ボケてはいないから心配も求めてないよ。ぶっちゃけ汎用性が高すぎて転用しまくってるだけだし。
「しかしまあ、喩えにでも“虫”ってのを出すのはマズかったかな? な、アンタはどう思う?」
大きくしゃがみ込みながら、問いかける。
返答は、頭上を勢いよく──それこそ、頭蓋骨を容易く破裂させそうな速度で──通り過ぎた右腕。
それが、僕が再度立ち上がるよりも先にまた引き戻されていく。根元は見えない。
ビル街の路地裏ってやけに暗いからね、そこんとこもうちょっと調整してほしい。
しかしまあ、随分と見覚えのあるような動きだねぇ。
「全身ゴム人間? それなら、っと、僕にもなんか欲しいんだけどなぁ」
例えば……なんだろ。
なんかの能力……は、いらないか。別に無くても生きていけるし。この世界の海なら特に問題なく泳げそうではあるけど、無くても困らないし。
ならまあ、身体の硬化とか、気配察知とか、未来予知とか……うん。
「めんご、やっぱいらなかったわ。今から増えたところで大して変わらないし、なんぞすぐ無効化されそうだし」
なんて呟きながら、次々伸びてくる腕を躱す。
ちなみに話しかけてはいるけど、それが相手に聞こえてるかは知らない。ついでに聞こえてたとしてそれがちゃんと通じてるかも知らない。
そもそも興味がないからね。むしろ返事が返ってきた方が困る。あ、だからここまで全部独り言ね。ちなみにここからも独り言だったりする。
つまり? ここまではテンプレだしここからもテンプレっていう事。あ、天ぷらならイカ天が好きかな。ゲソじゃなくてイカね。
なんて、そんな感じでダラダラとやっていたからからだろうけど。
「お、フェイント? うーん、発想は悪くないけど。僕に読み合いを挑むとは甘いなぁ」
ぐにゃり、と、腕が曲がる。
途中まで真っ直ぐ伸びてきていた……飛んできていた? まあ向かってきていた腕が、直線軌道だけじゃなく曲線軌道を行うようになったのだ。
それがぐねぐねぐるぐる、と。
うん、ぐねぐねと曲がっててきしょいな。なんだっけ、くねくねだっけか、あの都市伝説。実物見たことないけど絶対こんな感じでしょ。
きっしょいわぁ。
──ま、とはいえだ。
「よっ、ほっ。出直してきてもろて」
避ける。躱す。回避する。
向かい来る二本の凶器を。狂気を。
次第に風切り音が鳴り響くようになっても、いよいよ両サイドのビルの壁に凹みができ始めても。
関係ない。この世界の中にある限り、そして相手が『蟲の
「んー、
凡そ知りたい事は知れた。
ので、今度は回避を止める。
「はーいよーく狙ってー?」
馬鹿みたいなことを呟きながらの、仁王立ち。となれば必然、向かい来る
ぞぶり、と突き刺さる。
「はーいつーかまーえた」
ただまあ、それだけだ。
腕は首元と右目に刺さっただけで、特に頭が破裂したりだとか貫通したりだとかもしない。てかそれが分かってるからライフで受ける(大嘘)をしたとも言える。
僕に触れた時点で、そこから先に何かが続いたりはしないのだ。
「残念ながら、ね」
カツカツと足音を鳴らして、ビルとビルの狭間を進む。奥へ奥へと、道標を辿るように。当然だけどこの“道標”は僕に突き刺さった二本の腕であり、パンだのビスケットだのではない。そこまでメルヒェンな世界じゃないからね。
……あの兄妹の話もメルヒェンと言うにはエグイ部分が多いって言われたら、まあ、それまでなんだけど。
足を動かす度に、突き刺さったままの腕は消えていく。
傍目から見たら、僕が捕食しているように見えるのかもしれないね、なんて。
そんな風に進んで、20秒ほど。
何のエラーかは知らないけど、僕のせいで強制的に中断されたからだろう。口を半開きにして固まっている男が見えてくる。
「うーん、典型的な蟲の鰓。ただまあちょっと
しげしげと眺めて、呟いて、再び20秒ほど。
調べたい事も終わったため、ノイズの混じった男の頭に右手を当てる。
「ほい。そんじゃ、ばいばーい」
そのまま強く握り潰せば、立ち昇るは光、光、光。
光の粒子だ。
頭部を起点に男の全身から剥がれ、蛍の光を色とりどりに染めたようにして光って、そうして薄れて散って行く。ある種、幻想的な光景でもあるかもしれない。
まあ、この光景を見て正気を保っていられる奴がどれだけいるかは知らないけどね。
……これも一応は“死”なんだ。多少は憐れんであげようか。そんな感情が僕にあるかは知らないけど。
全身を光の粒子に変えて消え去った名も知らぬ男に、軽く黙祷をしてやって。踵を返す。
憐れむも何も僕が殺したんだろ、って指摘は、まあ。ありがたくスルーさせてもら──
「げっ」
路地の奥──というか僕が奥に居るから入り口側に当たるんだけど──から、複数のサイレン音が聞こえてきた。
どうやら少しばかり派手にやり過ぎたらしい。
「三十六計なんとやら、ってね」
というわけで、ビルの壁と壁を蹴って、パルクールよろしく上に逃げる。後は屋上を飛び移ってどこぞかへ行こうかね。
僕の名はENP。
死ぬほど安直な名の、この世界で普通に生きてる特殊生命体だ。
普通と特殊が正面から殴り合ってる? それはそう。
──*──
さてさて、改めましてごきげんよう。
僕はENP。このよく分からん世界でちっとばかし物知りおじさんをやってる少年だ。別に誰かに裏話を話したりとかしてるわけじゃないけどね。
……え? だからおじさんと少年が正面から殴り合ってる? んまあそうね。
で、まあ、改めて言うと、この世界はゲームの世界なんだよね。
いやまあ僕がゲーム感覚でいるってだけで、正確には電脳世界と呼ぶべき物なんだけど。どうせ大して変わらないでしょ?
ちなみに世界の成り立ちだのなんだのは全く知らない。仮説が無いわけじゃないけど、僕はそもそもこの世界の内側で生まれた存在だからね。
そんな外側と絡んでくるような話を持ちかけられても困る。“外”の事も、知識としてならある程度は知ってるんだけどさ。
だから“ちっとばかし”物知りおじさんやってるって言ったんだよね。ちゃんとした物知りおじさんじゃないから。
あ、ちなみに僕の見た目はちゃんと少年ね。金髪翠眼のショタっ子。ちなみにちなみにそこそこ美形。でもどうでもいいか、見た目の美醜とか。この世界ならいくらでも変えられちゃうんだし。
さらにちなむと、生きてる年数に関してはノーコメントでお願いしてる。僕って希少種だからね、少なくとも少年の範囲には収まらないんだ。……“少”の字がちょっと多いかな。
どうせなら少佐とか少将とか最年少みたいなかっこいい“少”が欲しいんだけど。最年少はかっこよくないか?
さて、ま、そんなのが僕で、そんなのがこの世界なんだけど。
じゃあ僕が今何をしているのかっていうと。
『こちらアイン。対象を見失いました』
『こちらフィーア。痕跡を発見。おそらく付近のビルに潜伏していると思われます』
「こちらENP。通信を傍受してまーす、なんちゃって」
絶賛逃亡劇の真っ最中だったりする。
いやぁ、あの腕長おじさんを消すまでは良かったんだけど。正直舐めてたね。
ちなみに、今僕を追いかけてきてるのは警察じゃない。ビル街の路地裏にいた時にはサイレン音が聞こえてきてたから、どっかですり替わったんだと思う。
このアインだのフィーアだの名乗ってる奴らは、事あるごとに僕の身柄を押さえようとしてくる人間達の手勢だね。
「こちらツヴァイ! 対象を発見しました! スタティビル64F、突き当たりの部屋にいます!」
「げっ。あのさあ、ここアクセスの制限された建物なんだけど。どんな権限使って入ってきてんのさ」
「繰り返す! こちらツヴァイ! 対象を──」
「あー、もういいよ。せめて『お前が言うな』みたいにツッコんでくれたなら考えたけどさ。答えてもくれないんだったら用無いから」
「──ぎぺっ?」
流石に面倒が勝ったから、ツヴァイとか名乗ってた変な奴に触れて狂わせておく。やりすぎると蟲の鰓にまで成り果てちゃうから、そこにはちゃんと注意を払って。
で、ついでにこのビルも掌握して、と。100階建てって無駄にサイズあるよねー、なんちゃって。
「せーっの!」
掛け声と同時、
「──へぇ?」
宙に投げ出されながら、声を出す。困惑と興味深さとが6:4ぐらいでブレンドされた声。
いやだって、僕こんなことしようとしてないからさ。トラップハウスみたいにしようとはしてたけど、まさか隠れ場所を消すわけがないじゃん。
しっかし、どうしようかな。空中で身動きは取れなくもないけど、よっぽどじゃない限りやりたくはないし。
え、てかなんか下で待ち構えられてんだけど。もしかしてこれやったのってアイツら? 急に派手に暴れるじゃん、どうしたの?
というか……あの構えてる銃、というかそこに込めてある弾丸。killコマンド応用してたりする? すっごい嫌な感覚するんだけど。
killコマンド、つまりは強制終了命令。ある意味、この世界における最上位の力だね。一回ならともかく、何度も叩き込まれればさすがの僕でも損傷するリスクがある。多少は、だけど。
と、いうわけで。
「──うん。ならまあ、いいか」
一つ、呟いて。
姿勢を変える。意識を変える。
カチリと仮想の音が脳内で響いて、視界がくるりと回転する。より正確に言うならば、身体をくるりと回転させる。
足から落ちていた状態から、身体と地面が平行になるように。
つまりは──拳を、振り下ろしやすいように。
「ちょっと本気、出すよ?」
目を大きく開いて、ニィッと口角を吊り上げて。
風の抵抗に包まれた中で、身体の奥にまで大きく右手を引いて──強く、握り締める。
転瞬。
バチリ、と。
弾ける。弾けた。雷だ。黒に染まった、黒だけで構成された雷。
黒色でありながら眩く光を放つ、矛盾そのものの具現たる雷。
それが、僕の右手を起点に世界を侵食する。散って、走って、迸る。
ゴウ、と、耳鳴りのような音を立てて風が強くなった。視界の端を流れるビルの外壁が、更にその速度を上げる。意識して見なければ、もはやただの線が続いているようにしか思えない。
その中を、一条の流星のように堕落する。ただの落下よりも早く、ただの墜落よりも意図的に。
正面にいる特殊部隊っぽい見た目の追っ手たちが、取り乱しながら銃を向けてきた。
ようやく、ここに来て状況を理解したらしい。主導権は自分たちに無いと。所詮は徒人、狩られる側の存在であると。
ただまあ、もう遅い。
こちらは、既に実行を開始している。エフェクトとしての雷はとっくに出現して、迸っている。
あるいは、傍目から見れば真空放電の
そんな不可解を。
不条理を。
「死んでよ」
振り下ろした。
ふにゅん。
「……?」
振り下ろした拳が、何か柔らかい物に触れた。触れた? この、色々と派手に実行してる状態で?
え?
「え?」
目の前に、いつの間にか女の子がいた。というか、落ちていた。
赤い髪の、ショートヘアの女の子。目を閉じて、僕に身体の正面を向けるようにして──つまりは、背中から地面へと落下している。
そして、その事に
正直な話、相当に異常な事だ。
少し前にも言ったけど、僕はこの世界では知識がある方だ。だから分かる。知っている。人間が突然空中に現れるだとか、あるいは転移するだとか、そんな事は有り得ない。
“外”の世界の、僕の識っている範囲における最後辺りの時代だと“そういうの”も普通だったみたいだけど……この世界は、技術が制限されているようだから。
だから、そんな事象は起こり得ない。
そして、もう一つ。
僕の
だから、僕に触れたオブジェクトは大抵がすぐに汚染を受けて、そのまま壊れる。よくて『蟲の鰓』になる。
特に人間は。
なのに、この子は意識を失っている状態でそれを弾き返している。というかそれだけじゃなくて、周囲の空気だとかまで若干歪めている。
視たらすぐに分かったけど、情報量が桁違いなんだ。
普通の人間を100としたら、この子はたぶん10,000とか、下手したらそれ以上の情報量を有している。だから僕の侵食を無効化できるし、周囲のデータが悲鳴を上げるほどになっている。
そして、最後の一つ。
この子から、
有り得ない。
この世界で、命の気配を感じるなんて。いや僕にも確信があるわけじゃないけどさ。でも、これは間違いなく命の鼓動ってやつなんだと思う。
となると──
「もしかして……肉体を持ったまま入ってきた、とか?」
いや、有り得ないんだけどさ。
電脳世界なんだろって、どういうことだってツッコミたくなるのも分かるけどさ。
でも、それ以外に可能性を思い付かないんだから、そしたらそれが真実ってことになるじゃん? もちろん暫定的に、だけど。
なんてつらつらと、るらるらと考えていたら。
女の子が、うっすらと目を開いた。
「……ぇ? お父、さん?」
ぼんやりと光を反射する、今の僕と似た翠玉の瞳。
それが、僕を見て、奥の空を見て、横を流れるように通り過ぎるビルの壁を見て──もう一度、僕を見て。
「え!? 何!? どういうこと!? 落ち──というかなんで私の胸触ってるの!? 痴漢!?」
「うーん、素晴らしく“外”的な反応」
痴漢に限らず、犯罪というモノ自体がこの世界だと滅多に起こらない。どうにも善性の存在が多いからみたいだけど……むしろ逆に犯罪をするって発想自体が制限されてるんじゃ、なんて僕は思ってたり。
なんてことはどうでもいいか。
それよりも、今はこの子だ。
突然この世界に、それもよりにもよって僕の眼の前に現れた異質な少女。明らかにこの世界に居るべきではない人間。
おそらくは、外からの渡り人。
「うん、決めた」
「何!? どういうこ──へ? 落下が、止まった?」
元々決まってたようなものだけど、こういうのはポーズが大事なんでしょ? その辺りは僕、ちゃんと知ってるからさ。
というわけで、落下は止めた。ついでに足元の空気を固めて多層構造にしておいて、と。この程度の操作なら、僕にだって簡単にできる。
「胸を触っちゃったことはごめんね。ただの不可抗力だから。でさ、君。名前は?」
「……それに答えたら、私の知りたい事にも答えてくれる?」
「いいよ。なんでも教えてあげる」
「嘘。その反応は……たぶん、貴方には知らない事がいっぱいある。それを私が尋ねても、それっぽい事を言って煙に巻くだけ」
うーん、呑み込みが早い。それに鋭い。
僕が知っている頃の時点で“外”は随分と荒れていたし、その辺りも関係してるのかな? まあ、それにしてもって感じではあるけど。
しかしまあ、どうしようかな。
この感じだと──
「
「え、答えるの? さっきの流れ的に」
「もっと苦戦すると思ってた?」
素直に頷いてみせると、彼女──
はにかむ、と言うよりは……苦笑、と表現するべき色。
「貴方からは、特に悪意は感じなかったから。それに、下の人たちよりもよっぽど話が通じそうだし」
いつの間にか随分と増えていた、特殊部隊っぽい追っ手。
揃って元気に銃声を鳴らしている姿を指して、明陽は零した。
「うん、まあ。それはそう」
「ついでに言うと、ここまで空気を固められるサイキック持ちから逃げられる気もしないからね。……ね、それで、貴方の名前は?」
「サイキック……ああ、やっぱり君、“外”から入ってきた人なんだね。実を言えば、僕のこれはサイキックではないんだけど。まあ、いっか。名前ね?」
「──へ?」
そこで言葉を切って、明陽の手を握る。握って、そのまま落ちる。当然のように、
重力反転。まだまだ空気の防壁は残ってるけど、念のためにね。それに、こういうのはやっぱりポーズが大切らしいからさ。
余計なギャラリーは、邪魔でしょ?
というわけで、上へ上へと墜ちる。
風を抜けて、青を浴びて。
「うひゃあああああっ!?」
雲の、その上にまで。この世界で、最も辿り着きやすい果てにまで。
「僕はENP。イーエヌピーなりエンプなり、好きに呼んでくれていいよ。そして──」
これを“外”の誰かが観測しているのかは知らない。そんなことは僕の管轄外だ。
だから、もしかしたらこれは僕と明陽が出会って、何かに巻き込まれていく物語なのかもしれない。あるいはもっと分かりやすく、ボーイ・ミーツ・ガールな物語なのかもしれない。
でもまあ、そんな事はどうでもいい。
それは僕の世界の外側の話で、僕の世界に関わってこない限りは存在しないのと同じだから。僕にとって大事なのは、この僕の目の前にこの子が現れたという。ただそれだけの事だ。
「初めまして、明陽。僕は君を歓迎するよ!」
改めて、初めましてだ。端町明陽。“外”からやって来た異質なる隣人。これからどうぞ──いや、ここは旧い様式美に従った方が綺麗かな?
うんうん、やっぱり最初に取り掛かるものと言えば
というわけで、だ。
「ねえこれどういう事なの!? ENP君!?」
「あははは!」
「あははじゃなくって!」