ぬるぽ。 作:ぬるぽの気合釣り
徹底抗戦。そう銘を打ちはしたけど、頭に血を登らせるつもりはない。
怒りに呑まれるなんて、僕に限ってあるわけもないしね。
さて、まず行うべきは反省だ。
間違いなく、紛れもなく、僕は油断していた。というより、慢心していた。
「裏世界に飛ばされた時点で、“裏世界を用いた奇襲”は考え付いてしかるべきだった。あるいは、その前の喪服集団が突然現れた時点でも気付けた。それをしなかったのは、僕が慢心してたからだ」
裏世界は人間の生存できる領域じゃない。ある意味、本来の宇宙空間と同じだ。
空気はなく、光はなく、力熱はなく、重力はなく、その他人間が生きるために必要なありとあらゆるものが無い。時間も空間も無いからこそ悪用はできるけど、人間には不可能だろう。
なんて考えを。慢心を、取り除く。
声に出して、明示化をして、はっきりと。
「……よし」
じゃあ、次だ。
天炉壊程は何らかの手段で裏世界に出入りできる。更には僕と同じレベルにまで悪用ができる。
世界を壊したい連中にとって、世界に負荷をかける手段なんて躊躇う理由にはならない。これからはそっちの警戒も常にしとかないと駄目だろう。
その上で考えるべきは、なぜ明陽が狙われたのか、だ。
事象には理由があり、因果がある。
これまで秘匿していた“裏世界”という武器を開帳したという事は、それ相応の動機があったという事。
「となると、明陽が蟲の鰓を戻した事はバレてるか」
あの広場の内側での事は僕が隔離して隠したけど、その前後に関してはどうしようもない。僕は異常因子であって神でも管理者でもないからね。記録の改竄なんてどう足掻いても不可能だ。
だから、あの場所が隔離される前に『赤子の蟲の鰓』を確認していて、その後に『明陽に抱かれた普通の赤子』を確認したなら、その二つを結び付けられるのも不思議じゃない。
僕はその有り得なさを知ってるけど、彼らは知らないから。きっと、僕よりも簡単に『そんな事もあるのだろう』という結論を出せる。これは知識を持たないが故の強みだね。正解を引かれているのが何とも厄介だけど。
で、その上で慢心を捨てるのなら。
「まあ、十中八九『明陽が“外”から入って来た人間だ』って事もバレてるか」
いくら悪魔の証明が難しいと言っても、『旧懐エリアに居たはずの人間で、僕が関われるだけの人間で、更に蟲の鰓を元に戻せる人間』なんて狭すぎる条件を付けられたら厳しい。
あるいは仮定、推測の段階かもしれないけど……その考えに辿り着かれていると思っておく方がいいだろう。
──悲観的に備え、楽観的に対処せよ。
いい言葉だ。金言余りあるね。
だからまあ、僕も倣ってみようじゃないか。
「天炉壊程は裏世界を悪用できるぐらいには技術力を高めていて、蟲の鰓を
その時に、明陽を手中に収めて何をやりたいか。
僕ならば、なんて置き換えは不可能だ。だからこそ、天炉壊程の、あのリーダーの思考をエミュレートする。
「──逆、か?」
仮定に仮定を重ねた、剃刀で簡単に剪定されるような結論だけど。
もし、明陽の『蟲の鰓を人に戻す』力が人以外にも適用できる力であったとすれば。もし、その逆を取れたのなら……『人を、世界を蟲の鰓にする』事ができたとすれば。
連中にとって、何よりも求めている術になる。
もちろん、それ以外にも対話を通して新たな発想を得るとか、蟲の鰓が何なのかを解き明かすとか、細々とした目的もあるだろうけど。
「ん、よし。流石にそこまで行くと見過ごせないね」
元からそのつもりではあったけど、まあ。
無意味だからやってこなかったけど……そろそろ一回、本気で潰さないと駄目かな。これは。
「探査順は……とりあえず
多少の無茶も許されるでしょ、多分。
放っとく方が拙そうだし、さ。
──*──
カツカツと、真っ白な廊下に足音が木霊する。
塵一つなく掃除の行き届いた直線は、天井のLEDライトが眩く照らしているのも相まって本当に“真っ白”だ。まるで、この光景が永遠に続いているんじゃないか、なんて。つい、そんな荒唐無稽な事を思ってしまいそうなほどに。
「さて、まずは謝罪をしておこう。やむを得なかったとは思っているが、手荒な事をしてしまった」
声は、目の前の白衣の背中から。
研究所研究所した見た目のこの場所に相応しいようで、清潔に保たれているこの場所には似つかわしくないような。私を誘拐した男だ。
「受け取りたくないのでいりません」
「はは、どうやら嫌われてしまったらしい。ただ、我々に君への敵意は無い。それだけは信じて欲しい」
「じゃあ善意があるとでも?」
「囚われのお姫様気取りかね? 随分とじゃじゃ馬な姫のようだが……ならば、差し詰め我らは清く正しい王子様か? ふん、笑えもしない冗句だな」
「こちらのセリフです」
顔が見えずとも、嘘を吐かれた気配は肌で感じ取れる。馴染み切った感覚だ。
それを間違えるほど、混乱も耄碌もしていない。
「で、私に何の用ですか」
自分で言うのもアレだが、随分とぶっきらぼうな声だ。
一瞬の意識の断絶の後にいつの間にか立っていたココは、まあこの人たちの拠点だろう。つまり、まんまと誘拐された私が抵抗するのは無謀。
だから『ついて来い』という指示には従ったが……これで友好的に振る舞えるほど私は終わっちゃいない。少なくとも、あの子の前で取り繕っていたような言動をする気は欠片も無い。
が、そんな私の敵意などどこ吹く風。白衣の背中は、一定のペースを崩さずに歩を進めている。
……まあ、私もそれを見越した上でのこの態度なのだが。不毛だと言われたら、それはその通りだと返そう。
「まずは名を問うとしようか。ビジネスであれ何であれ、自己紹介と挨拶は全ての基本だからな」
「なるほど、確かに挨拶は大切でしょうね。私も随分な
「ふむ、たしかに私から名乗るのが筋ではあるか」
「もしかして馬だったりしますか、あなた」
「残念ながら私の耳にわざわざ念仏を唱えてくれる人物はいなかったよ。少なくとも今生ではな」
「じゃあう──」
「兎ではないから祭文は理解できるし、犬ではないから論語も理解できる。小判も真珠もしっかりと価値を知っている。で、これで満足かね」
両手を上げて首を振る。
いつの間にか、抱えていたはずの赤ちゃんもどこかへ消えていたし。どうやら、諸々含めて私にできる事は無さそうだ。
「では改めて。私はジョン=ドゥームと名乗っている男だ。この天炉壊程の頭を務めている」
「……名乗る気、あるんですか」
あれか、遠回しに馬鹿にでもされているのか、私は。
「ほう、ほうほう。見た目にそぐわず博学なようだな。知識はいいぞ。時に足を掴む軛ともなるが、裏切る事だけは無いからな。……もっとも、その知識が真に正しきモノであればこそ、ではあるがな」
「金言余りありますね。眩しすぎて見えなくなりそうです」
「それで、私は名乗ったぞ」
「だから真面目に名乗る気が……ああ、はい。『名乗りはした、それをどう受け取るかまでは私の与るところではない』とか言うつもりですよね」
「読心能力を持っているのか……!?」
「いい加減殴ってもいいですか。割とまじめに」
「なんだ、ジョークを解する心ぐらいは持っておくべきだぞ。心から余裕を失えばあらゆる部分が褪せて崩れるからな」
なんだ、なんなんだこの男。
無理矢理にも程がある方法で私を誘拐しておいてこれとか……調子が狂う。敵対するならちゃんとして欲しい。切実に。
これを狙ってやっているようなら本当にお手上げだぞ。
「はあ、分かりました。私の名前はオーエンです」
「U.N.Owenか。恐ろしいほどナチュラルに嘘を吐くではないか」
「何か文句が?
「いやいや。何も無いとも、
……やりにくい。
「っと、ちょっと。煙草の煙は苦手なんですけど」
無言で何を取り出してるんだ。
というかこんな研究所の中で煙草なんて吸っていいのか。
「安心したまえ、これは煙草型の駄菓子だ。知らんか?」
「……は?」
「時間は有限。煙草は寿命をすり減らすからな、今は好まん。だが、度し難いが昔の癖も中々抜けなくてな。折衷案というやつだ」
「…………」
思わず、こめかみに右手を運ぶ。
なんだコイツは。子どもか。ガキなのか。いい加減怒ってもいいだろうか。というか口さみしいならせめてロリポップを舐めろよ。
……。一度落ち着こう。
敵拠点で暴れるメリットは味方がいる時にしか成立しない。単騎で脱出できる保証があるならともかく、今は抑えるべきだ。
だから、そう。ここでやるべきは、私の方から流れを作って、話を進めることで──
「して、少女。君はアレ……E・N・Pについてどこまでを知っている」
……本当に、やりにくい。
「ん? まだアイスブレイクを所望していたか?」
「逆に、あなたは何か知っているんですか。彼について」
「なるほど。多少は察している、と」
「一日も無いとはいえ、あれだけ近くにいましたから」
ENP。そう名乗った彼は、どうにも歪だった。
少年の見た目にそぐわない知識量や達観したような気配と、どこか幼稚な振る舞い。いや……幼稚、というよりも真実幼いような、情動が芽生え立てであるかのような。
そんな相反した雰囲気をまとっているのが、彼であったのだ。
とはいえ、目の前のこの男よりは信用できそうではあるが。
少なくともあの子は、私をこうも直接的に攻撃したりはしてこなかったんだから。
「E・N・P。時の流れにもエリアの特性にも影響されず、外部に見える姿だけを変えながら続き続けるナニカ。いつからこの世界にいるのか……そもそもその正体は何なのか。全てが未知のヴェールの奥に隠されたままだ」
「知らないという事実をいくら仰々しく語ったところで逆にみっともなく映るだけだと思いますけど」
「……手厳しいな。だがまあ、その通りだ。我らが知っている事は少なく、そして小さい。余りにも。大海の一滴か、砂漠の一粒か……その程度だろう」
二つ分の足音は響く。
コツコツと、カツカツと、絶え間なく。揺らぎなく。
「奴と敵対している、というのもある。我らが物事を知るには、煩雑で、複雑で、そして錯雑とした世界から一つ一つ探る他ない。迎合した者たちならば奴の口から容易く聞く事もできようが、それらを知る事でさえ我らには遠く大きな一歩だ」
「研究者を騙るのであればせめて先行研究の重要さぐらいは理解しておいてしかるべきでは?」
「先達への敬意、あるいは過去の歩みから愚直に学ぶ姿勢、か? なるほど、一理あるだろう。忠言金言余りある。が、我らは別にその事に対して文句を言おうとしているわけではない。いわばそれは、自由の対価と呼ぶべきものであるからな」
「じゃあ、何を言いたいんですか? まさか情報交換でもお望みで?」
「そうだ、と言ったら。君はどうするね」
チラリと、顔の半分だけを振り返るようにして。目を合わせられる。
骨董品みたいなモノクル越しに覗くのは、毒々しく妖しい色。赤く、紅く、深い色。
「少し、話をしよう。この世界と、我らと、奴と──そして、君にも関わる話を」
「……」
「沈黙は肯定と受け取る。では、まず。この世界は何なのか。君は聞いているかね」
「電脳世界。0と1で編まれた、
「ああ、ああ。そうだとも。素晴らしい理解だ」
再び前を向いたその表情がどんなものであるのか、それは窺い知れない。
ただ、満足気に頷いていることだけは頭の動きで理解できた。
──待て。なんで私は、こんな自然に話を聞く姿勢になっている。
たしかに、最初は情報を抜き取る意図があった。けど──
「さて、では一つ問題だ。この世界において生きている人間、生きた人間。それらの記憶は、どこに記録されていると思う?」
「どこ、に」
「そうだ。おそらく、E・N・Pはその辺りについて語っていないだろう。奴は人間ではないからな。知識自体はあるやもしれんが、実感が致命的なまでに足りていない」
記憶は、脳に宿るものだ。
その脳が無いこの世界では、じゃあ。
「演算装置。より正確に言えばその中に積まれた記憶装置。そこではないか──か?」
「そう言うって事は」
「ああ、違う。ただでさえ世界の運営などという馬鹿げた事を行っているのだ。この世界を演算するソレにそこまでの余裕はない。……いや、余裕はあるのかもしれんが、16,777,214という膨大な数の記憶を記録していたりはしない。では、だ。我らの、君の記憶はどこに記録されている? どこから情報を引き出し、我らは“想起”を行っている?」
まさか。いや。
でも。もし、そうなのだとしたら。
私は。
「単純だ。変わらず、記憶は我らの中に記録されている。脳は無く、0と1の集合体になったはずの、成り果てたはずの我らの中に。残念ながらそれがナニであるのかはまだ明かせていないが、答え自体は出ているのだよ」
──ああ。そうか。
そういう、ことか。
「ふむ。“外”の記憶を持ち越している……持ち込んでいる君には、納得の行く話ではあるようだな」
「……っ! どこで、それを」
「分析と推測、それとブラフ。君は話に合わせられすぎた。それで満足かね?」
「…………っ、はぁ。迂闊だったと」
少し、気が緩んでいるらしい。……それを言い始めたら、連れ去られてる時点で十分すぎるほど、か。
「まあそれはいい。今は本題に関わらない。故、話を進めよう。記憶は我らの中に記録されている。記憶されている。さて、そうした時に、だ。この世界における転生とは、どういう物だと思う」
転生。生まれ変わり。
私の生まれ故郷だという国では、人は生と死を繰り返し流転させるという教えがあるのだったか。
そして、たしか彼は。
「記憶を消去して、もう一回赤ちゃんに……ああ、つまり」
「ああ。私は──否、我ら天炉壊程の構成員。その全てが、いかなる不具合によってか記憶を持ち越している。気付きを得たその時より、ずっと。何度死に、何度生まれようと、ずっと。世界とはそういう物であるという知識が、記憶が、呪いが。E・N・Pが我らを適当に放置しているのもそれが理由だな」
「潰しても意味が無いから」
「その通り。ついでに言えば、消去されては堪らんからな。細工もしてある。奴は見た目通り適当だからな。面倒が勝れば放置する」
「……それが、理由ですか?」
「ん?」
「世界を滅ぼす、でしたか。人を人として扱わない世界。人として持っていて当然なソレを容易く弄繰り回して繰り返す世界。そしてその中で終わらずに繰り返し続ける自分たち。それが納得できないから、受け入れられないから滅ぼしたいと」
「否定はせん。目標は共通していようと動機や目的が違う者もいるだろうが……それが要因の一つとなっている事は間違いないだろう」
足音は止まらない。
終わらない。ずっと、ずっと、続いている。
「逆に問うがな。君は受け入れられるのかね、少女よ。繰り返し続ける世界を。その箱の中で、踊らされるように生き続ける事を。あるいは──何者かの娯楽のために、悠久の時を弄ばられているという可能性を」
……。それは。
その、問いは。
考えてはダメだ。似たモノを、私は知っているから。
壊した事が、あるから。
「結論を出すには早い。感想としてはそれに尽きるかと」
「……まだ、知るべき何かが残っていると? 単なる先送りの言葉ではないのかね、それは」
「否定はできません。答えを、結論を出さないようにしている部分はあります」
結論を出してしまえば、私は止まれない。
何に止められようと、何が立ちはだかろうと。私の命数が尽き果てるか、目的が果たされるか。それまで、もう曲がれなくなる。
それに。
「私は本能を、直感を重視する質ではありますけど……理論を軽視するわけでも、ましてや理解しないわけではありません」
「……何が言いたい」
「一つの目線からだけで結論を出すほど馬鹿になったつもりはない。それだけです」
「大義の前には犠牲は止む無し、か? それは当事者でないから──」
「いいえ。それは、それだけは否定します。私もまた当事者。この世界に関わる者ですから」
あるいは、この世界の誰よりも。
きっと、そういうことなんだろうから。
でも、だからこそまだ結論を出しちゃダメだ。今のままじゃ、私の答えは決まり切っているから。
「……そうか。残念ではある。君とは話が合いそうだったからな。だがまあ、そこまで言われて食い下がるほど私も愚鈍になった覚えはない」
「では、どうすると」
姿勢を整える。
いつでも動けるように。何が起きても対応できるように。
「いやなに、
「何を……」
足音はまだ止まらない。コツコツと、カツカツと。澱みなく、揺らぎなく、絶え間な──
待て。
流石に、おかしくないか。いつまで続いている。どんな広さだ。
「では、当初の予定通り。君から情報を貰うとしよう。言っただろう? 情報交換がしたい、と。そして私からは差し出した。ならば、君の番だ」
「私に、何をしたっ!」
「ふむ、そっちが君の素かね。まあ、それはいい。教えてもらおうじゃないか」
ようやく、白衣の背中が止まる。
止まって、くるりと振り返って。もはや取り繕わなくなったのか、真っ暗に変移した空間の中で口を開く。
「既に終わっているんだろう、“外”は。崩壊した。滅亡した。そうだろう?」
「どこで、それを──」
「分析と推測、それにブラフだ。最後に“外”から人間が追加されてから128年。少しずつ空白期間が伸び続け、その後の126年だ。人間がいなくなったと思い浮かぶのもおかしくなかろう」
「──っ」
「我らは力も無く知識も持たぬ烏合の衆。故にこそ策を弄し、相手を誘導し、望む結果を引き寄せる。違和を感じなかったかね。妙に自然と話に乗っていると。どうにもずっとペースを乱され続けていると。それが答えだ。ああ、そうだな……謝罪はしておこう。敵意は無いが、害意は普通に持っていた」
ここまでネタバラシされて、ようやく自覚する。自覚した。
最初からだ。最初から、私は歩いてなんていなかった。あの赤ちゃんはいつの間にか消えてたんじゃなくて、最初からいなかった。
「入れ子構造。思い至ったようだな。そうだとも。君は裏世界から出た瞬間から一度として肉体を動かしていない。電脳世界の中で更にもう一度電脳世界へとダイブさせられて、そのままだ。この景色は私たちが見せている光景に過ぎない。まったく、君が“外”の記憶を有したままで良かったよ。でなければ身体を動かす感覚で気取られていた可能性があったからな」
「記憶を抜き出すつもりか……っ!」
「そこまではできない。精々が表層意識に昇ってきた情景を読み取る程度だ。とはいえ、それだけで十分だがな」
黒に沈んで行く。
白衣の色も、その紅い瞳も、私自身も。
「君の真に注目するべき特異性とは『E・N・Pに汚染されずに関われる事』でも『蟲の鰓を元に戻せる事』でもなく、ただ『滅びた世界の記憶を有している』というその一点に尽きる。余計な細工など必要ない。手の込んだ策など必要ない。世界が滅んだとなれば、そこには原因がある。なれば、それは十分な参考資料となろう。ああ、ああ。先行研究は重要であるからな」
沈む、沈む。
呑み込まれる。
ああ、本当に油断のし過ぎだ。悠長に構え過ぎていた。差し迫った脅威が消えただけでこの様だ。
本当に嫌になってくる。
「あるいは、楽観的ではあるが。それを再現するだけでもこの世界を滅ぼせるやもしれん。とまあ、そんなところだ。では対価を頂こうか。なに、今時知らぬうちに借用契約が存在していたなどという詐欺はありふれているだろう……と、済まない。これは私たちの時代の話であって、君に通じるジョークであるかは別だったな。ハハ、この辺りは私も経験が浅い故、寛大な対応をしてくれればありがたい」
吞み込まれる。
吞み込まれる。
「それでは。どれだけかかるかも“その後”に君の自意識が残っているかも不明だが。御機嫌よう」
呑み、込まれ────