「・・・何とも醜悪な姿だな? 産屋敷。」
「ついに・・・私の元へ来た・・・今・・・目の前に・・・鬼舞辻・・・無惨・・・我が一族が・・・鬼殺隊が・・・千年・・・追い続けた・・・鬼・・・・・・・」
私は今、忌々しい鬼殺隊の当主である産屋敷の男を目前にしていた。どうやら既に目も見えないようで、妻らしき女に私の容姿を尋ねている。まさに虫の息だ。
「君は私に・・・産屋敷一族にひどく腹を立てていただろうから・・・私だけは・・・君が・・・君自身が殺しに来ると・・・思っていた・・・」
「私は心底興醒めしたよ、産屋敷。」
私は産屋敷の男に対してそう言い捨てる。今の私の心境を簡潔に言い表すのにこれ程正確な言葉はないだろう。
「身の程も弁えず千年にも渡り、私の邪魔ばかりしてきた一族の長がこのようなザマで。醜い。何とも醜い。貴様からは既に屍の匂いがするぞ。産屋敷よ。」
私の声が聞こえたのか、屍同然の身でその男は起き上がり答える。
「そうだろうね・・・私は・・・半年も前には・・・医者から・・・数日で死ぬと言われていた・・・それでもまだ・・・私は生きている・・・医者も・・・言葉を失っていた・・・
それもひとえに・・・君を倒したいという一心ゆえだ・・・無惨・・・」
「その儚い夢も今宵潰えたな。お前たちはこれから私が殺す。」
産屋敷は息も絶え絶えに言うが、私は淡白に言い返して一蹴する。すると今度は話題を変えて、かすれる声で私に言い聞かせようと言葉を紡ぐ。
「君は・・・知らないかもしれないが・・・君と私は・・・同じ血筋なんだよ・・・君が生まれたのは・・・千年以上前のことだろうから・・・私と君の血はもう・・・近くないけれど・・・」
「何の感情も湧かないな。お前は何が言いたいのだ?」
全くもって要領を得ない。こいつは既に正常な思考でモノを述べられるのか? ふとそんな疑問が浮かぶと同じに奴は言葉を続ける。
「君のような怪物を・・・一族から出してしまったせいで・・・私の一族は・・・呪われていた・・・」
それから先は一層要領を得ない世迷言の類だった。私が鬼になったから呪われた? 一族を絶やさないために私を殺すのに心血を注ぐ? 神職の妻をもらったら子どもも死にづらくなった? こいつはさっきから何を言っている? 全く持って意味不明な話だった。
「迷言もここに極まれりだな。反吐が出る。お前の病は頭にまで回るのか? その事柄には何の因果関係もなし。なぜなら・・・」
産屋敷の妄言が馬鹿らしくなり、私は得意げに言い返す。
「私には何の天罰も下っていない。何千何百という人間を殺しても私は許されている。この千年神も仏も見たことがない。」
産屋敷の男は私の答えに憤慨するかと思ったが、驚いたことに乾いた声で笑い声を漏らす。
「何が可笑しい?」
「君はそのようにものを考えるんだね・・・無惨・・・でも私は・・・神仏の存在を確信している・・・君への刺客が・・・未来から遣わされて来たからね・・・」
「・・・?」
言葉の意味が解らず私は呆然とする。その間男は笑みを浮かべて重ねて問いかけてくる。
「無惨、君の夢は何だい? この千年間・・・君は一体・・・どんな夢を見ているのかな?」
奇妙な感覚だ。この屋敷に来てからというもの、奇妙な懐かしさと安堵感が付いて回る。気色が悪い。
加えてこの男・・・あれ程目障りだった鬼殺隊の元凶を前にしているというのに憎しみが湧かない。
「当てようか、無惨・・・君の心が私にはわかるよ。」
ふいにそう言われ、思わず反応してしまう。
「君は永遠を夢見ている・・・不滅を夢見ている・・・」
その男は屍の匂いすら纏っているというのに、笑みを浮かべて私に語り掛けてくる。
確かに間違っていない。私の夢は永遠であり不滅である。そしてそれは太陽を克服した禰豆子を手に入れさえすれば叶うのだ。
だと言うのに、その男はそれが叶うことはないのだと告げてくる。余程禰豆子の隠し場所に自信があるようだが、私には無限に等しい時間がある。
しかし奴はあろうことかこの私が思い違いをしているのだと宣言する。
「永遠とは人の想いだ・・・想いこそが永遠であり・・・不滅なんだよ・・・」
「下らぬ・・・」
見解の相違だった。奴の主張に対し私は辟易する。
確かに奴の言う通り、この千年余りの長い時間で、鬼殺隊が無くなることはなかった。
その事実こそが人の想いを不滅だと証明付ける根拠であると奴は自信気に語る。
「君は誰にも許されていない。この千年間一度も。」
そして奴は続ける。私が何度も異常者共の怒りを買っているのだと。ずっと奴らは私を逃がすまいと睨んでいるのだと、奴は下らない妄言を吐き散らす。さらには・・・
「君が死ねば全ての鬼が滅ぶんだろう?」
終いにはそんなことまで口にする始末。図星を突かれ周囲の空気が揺れる。奴はしてやったりと満足な笑みを浮かべている。
「黙れ。」
私は怒気を隠すこともなく奴の床の傍まで近づく。殺される最期だと言うのに、奴は自身が死ぬことで鬼殺隊の士気が上がるとほくそ笑んでいる。やはり異常者の集まりの当主も異常者か。
「話は終わりだな?」
「ああ・・・こんなに話を聞いてくれるとは思わなかったな・・・」
私は腕を鳴らして産屋敷の男を殺そうと手を伸ばす。
「待たせて済まなかった・・・だからあとは頼んだよ・・・ヒカル・・・」
「・・・? 貴様一体何を言って・・・」
「がっ!!??」
気が付けば私は何者かに殴り飛ばされ屋敷の庭まで吹き飛ばされていた。
この屋敷には4人の人間しかいない。産屋敷と妻、子供の四人だけ・・・私の命に届き得る脅威など、何一つ存在しないはずだった。だと言うのに・・・
「お前が無惨か。初めましてだな。」
「っ!! 貴様っ・・・!!」
気が付けば産屋敷の男を庇うように立ちふさがる
「貴様どうやってここに・・・!!」
「おっと、無惨。早まるなよ。俺はあくまでも戦いに来た訳じゃない。交渉しに来たんだ。」
「な・・・に・・・?」
私はもう少しで腕をうち振るうところだったが、寸でのところで動作を中断する。この男は今何と言った?
「交渉・・・だと? 貴様が私と何の交渉をするというのだ? 言ってみろ。」
私は気が付けば奴の言動に問いを投げかけていた。心なしかいつもより意識が朦朧とする。
目の前の男はそんな私の様子に満足したのか、笑みを浮かべて驚くべきことを口にした。
「鬼舞辻無惨。俺がお前を日の下でも歩けるようにしてやろうか? 但し、お前が俺の質問に素直に答えて且つ俺たちの要求を飲めたらの話だがな。」
「なっ・・・!!??」
あろうことか毒使いの鬼狩りは、私の千年の悲願を叶えてやるのだとのたまった。
続く
下呂君は一体何を提案する気なのでしょうか。答え合わせは次回にさせていただきます。
恐らく今週中にあと1話くらいは出せるかと思います。