「な・・・に・・・!? 正気か・・・貴様は・・・!!」
「ああ、至って大真面目な話だ。交渉しようぜ鬼舞辻無惨。それが一番血が流れない。お前にとっても悪くない話だろ?」
俺は鬼の始祖を前に大見得を切る。想定した通り、奴は俺の言葉に動揺している。珠世さんが言っていた通り、余程太陽克服への憧れが強いと見える。
しかし無惨は落ち着きを取り戻し、青筋を浮かべて俺を睨む。
「ふん・・・なぜ私がお前の指図で交渉せねばならんのだ? 甚だ図々しい。身の程を弁えろ。貴様なんぞに頼らずとも禰豆子を取り込めばいいだけの・・・」
「その禰豆子が手に入らなくなったとしたら?」
「な・・・に・・・」
俺は不敵に笑う。やはり禰豆子の話題がウィークポイントか。そりゃそうだ。禰豆子がいなければ太陽克服はできないってこいつは思ってるんだから。
しかし無惨は必死に自身を落ち着けたのか、徐々に冷静さを取り戻す。
「ふん・・・禰豆子の隠し場所に随分と自身があるようだな? しかしお前らと違い私にはたっぷりと時間が・・・」
「時間がどうとかの話じゃねえよ。まだわからないのか? 禰豆子は人質みたいなモンだ。」
「貴様・・・何を訳の分からないことを・・・」
「少し考えればわかるだろ? お前にむざむざ奪い取られるぐらいならその前に禰豆子を殺す。そもそも同じように考える輩が鬼殺隊に一人もいないとでも思っているのか?
禰豆子が死んだら次太陽を克服する鬼が出てくるのはいつになるだろうな? たっぷり時間があるって言ってもそれを待てる程お前は気が長いのか?」
「・・・っ!!!」
無惨は奥歯を必死に噛み締めながら鬼のような形相で俺を睨んでくる。ひとまずこれで無惨が考え無しに俺の話を無視して攻撃してくることもないだろう。
こいつは太陽を克服するために禰豆子が絶対に欲しい。だがそれが叶う可能性は絶望的に低いという事実を突きつけてやった。勿論殺す気なんて更々ないんだが、俺や鬼殺隊関係者全体の思惑がわからない以上、こいつは俺の発言を無視することはできないだろう。
「ぐっ・・・!! 貴様のような刺客風情がよくもぬけぬけとっ・・・!!」
「まあ落ち着けよ。少し頭冷やせ。お前が素直にこっちの交渉に乗るって言うなら俺なりの方法で太陽を克服させてやる。どうだ? 悪い話じゃないだろ?」
「・・・」
無惨は噛み締めるように怒りを抑え、必死に言葉を捻りだす。
「そもそもだ・・・貴様ら鬼殺隊は私に恨みを抱いている上に、私を葬り去る為だけに千年もの間身の程も弁えず戦ってきたのではないのか? なのに私の悲願達成に協力するなど・・・まるで信用できん話だ。」
「まあ、俺は元々部外者だからな。個人的な恨みとかは正直ないんだが・・・」
「それにだ・・・そこの死にかけも先の話で言っていたことだ。私を殺さねば一族の呪いが解けないなどと妄言を吐き散らしていた。貴様が良くてもその男は納得しまい。」
「それについては事前に了承を取っている。一族の呪い云々のくだりはさっき初めて聞いたけどな。」
「っ!? 貴様は一体いつからこの場に潜んでいたのだ? まるで気配を感じなかったが・・・」
「おっと。話が逸れてきてるぜ? まずは俺の質問に答えてもらう。その回答をもって交渉に同意したとみなす。いいか?」
「・・・」
無惨は見るからに疑心暗鬼な様子だが、このまま口論を続けていても埒があかないと判断したのか、やがて俺に聞く耳を持つ様子を示した。俺は了承の意と捉え、こいつに一番聞きたかったことを尋ねた。
「じゃあまずは確認だ。俺と城崎をこの時代に連れてこさせたのはお前か? 鳴女とかいう鬼に命じて俺たちを転移させたのか? 『はい』か『いいえ』で答えろ。」
「・・・・・・は???」
まるで何を言っているのかサッパリわからないと顔で訴えてくる無惨。俺はそれだけであらかた事情を察してしまったが、めげずに質問する。
「俺は未来から来た人間なんだ。俺の目的は現代に帰ることだ。お前が俺のいた時代に帰してくれるっていうなら、お前の望みを叶えてやる。どうだ、できるか?」
「・・・さ、さっきから貴様は何を言っているのだ・・・!? 未来から来た人間!? 世迷言を・・・!! そこの産屋敷と同じく頭の病でも患っているんじゃないのか・・・!?」
「・・・わかった・・・もういい・・・つまりお前は俺と城崎のタイムスリップとは無関係ってことか。悪かったな。できもしないこと聞いちまって。」
「何を意味不明なことを・・・第一なぜ私が貴様のような危険人物を私の視界に及ぶ場所まで連れてこなければならんのだ? わざわざ鳴女に命じてまで。全く持って支離滅裂な話だ。
貴様は産屋敷と同じく狂人の類なのか? 貴様の鬼すら殺す猛毒は貴様自身の脳まで悪影響を及ぼしているのか? やはり貴様は問答無用で即この場で殺した方が良さそ・・・」
「まあ待て。交渉を続けようじゃねぇか。次に俺たちの要求に応えてもらう。それができれば約束通りお前を日の下で歩けるようにしてやるよ。」
無惨が片腕を異形に変えて振りかざそうとしたので、俺は餌をちらつかせてそれを制す。
こいつから情報を聞き出すために俺の毒血から生成した自白剤をこっそり打ったのが裏目に出てるのかもしれない。こいつの大脳を軽く麻痺させてるから普段よりも感情的になってる節がある。
餌をちらつかせている間にさっさと本題に入った方がいいと俺は判断し、この茶番をさっさと切り上げることにした。
「実は既にお前には人間化薬を打っている。もうじき高熱と発汗が起こるだろうが、数日もすればお前は陽の光を浴びても死なない体になる。」
「・・・・・・は・・・?・・・・・・・貴様は何を言って・・・・・・」
「俺たちの要求はただ一つ。無惨、お前が人間に戻ることだ。お前がこのまま大人しく人間に戻るなら、これ以上俺たちはお前に手出ししない。ついでにお前も太陽克服できて一石二鳥だ。悪くないだろ?」
俺のカミングアウトが相当驚愕だったらしく、目の前の鬼の始祖は目を見開いている。
「に、人間化薬だとっ!!?? そんなものいつ打ち込んだっ!? そもそも作れるはずが・・・!!」
「ちなみに俺の解毒不可の毒血から生成した薬だから分解は絶対できない。実はお前が人間に戻るのも時間の問題なんだ。交渉っていうよりはただの事後説明だと理解してもらえればそれでいい。」
ダメ押しとばかりに俺がそう言うと、鬼の始祖はみっともなく狼狽し喚き散らし始める。
「き、きっ、ききっ、きっ、貴様っ!! なんてことをしてくれたんだっ!!! ふざけているのか!!??」
「なんだ? これで漸く太陽を克服できるんだぞ? もっと素直に喜んだらどうだ?」
「よっ、喜ぶ訳がないだろうがぁあああ!!!! 散々話をもったいぶっておきながら、要は私に打った薬が効き始めるまでの時間稼ぎだったということか!! ふざけるな!! 殺すっ!!! 絶対に殺してやるっ!!! っが!!??」
無惨が怒り狂って俺に攻撃しようとした瞬間、周囲に肉の種子が浮遊し即座に無数に枝分かれして棘の支柱となって無惨をその場に縫い付ける。俺はそれを見て薄ら笑いを浮かべる。
「なんだよ。人が折角お前みたいなクズ人間の願い叶えてやろうとしてるってのに・・・」
「ふざけるなぁああああ!!!! 誰が人間に戻せなど言ったぁああああ!!!! 私が望んでいるのは『不変』だ!!! 完璧な状態で永遠に変わらないことだっ!!!
私はこの世で最も完璧に近い生物なのだっ!!! 貧弱ですぐ死ぬような人間の体などに戻ってたまるかぁああああ!!!!!」
「そうか。まあ初めからお前は殺すつもりだったから別にいいけどな。
ちなみにその棘は吸収しない方がいい。俺の毒血が少なからず混じっている。それだけで死ぬことはないだろうが想像を絶する苦痛を味わうことになる。」
「ぐぅうう!!! 己っ!! 許さんっ!! 貴様だけは絶対に許さんっ!!!!」
力ずくで棘の檻を壊そうとする無惨の前で、俺は4つの空の注射器をその場に投げ捨てる。
「ちなみにお前を殴り飛ばした時に打ち込んだ薬は全部で4種。一つはお前から情報を聞き出すための自白剤。今のお前が普段よりみっともなく喚き散らしているのは脳機能が低下してるせいだな。おかげで今のお前は鬼の始祖の威厳もあったもんじゃない。
そして二つ目が人間化薬。既に禰豆子に投与したものと同じ代物だ。
そして三つ目が老化薬。投与後1分経過するごとに50年は老化する代物だ。
そして最後に分裂阻害薬。珠世さんの証言によると、無惨、お前は呼吸使い最強の剣士と戦った時に身体を無数に分割して逃げおおせたそうだな? だが、その機能はこの薬により阻害される。
以上4種の薬は全て俺の解毒不可の毒血を基に作り出したものであり、分解は絶対できない。
だからもう決着はついたも同然なんだ。折角だから最期くらいお前の親戚でもある産屋敷さんに謝罪でもしたらどうだ? もしかしたら許してくれるかもしれないぜ?」
「がぁああああ!!!! ふざけるなぁあああ!!! 散々私をコケにしおってぇえええ!!! 異常者共の逆恨みなど知ったことかぁああ!!!!」
無惨が凄まじい剛力で棘の檻を破ろうとしている。俺はその様子を見てため息を付き、自作の信号弾を打ち上げる。
「てめぇかァアア!!! 鬼の親玉はァアア!!! バラバラに切り刻んでやるぜェエエ!!!!」
「あれがっ!!!」
「あの男が!!!」
「鬼舞辻!?」
「無惨!!!」
瞬く間に屋敷の塀を乗り越えて鬼殺隊の柱達が飛び込んでくる。予め俺が手筈通り無惨を拘束したら全員で襲い掛かれるよう産屋敷さんが采配してくれたおかげだ。
流石の鬼の首領もこの状況では成すすべないだろう。決着かと思い、俺は息を吐いてその場から離れようとした。
ベベンッ
「っ!!??」
突如、俺の足元がふすまに代わり、重力に従い落下を知覚する。
「これで私を追い詰めたつもりか!? 貴様らがこれから行くのは地獄だ!!
目障りな鬼狩り共!! 今宵皆殺しにしてやろう!!!」
無惨の高笑いが聞こえる。おいおい、マジかよ。奴は俺達が取り囲んでいたのを既に把握していたっていうのかよ。怒り狂ったように見せて実は俺達を一斉に罠に嵌めるための策略だったってことか。流石鬼の始祖。とんでもねぇ演技力だったぜ。すっかり騙されちまった。
「地獄に行くのはお前だ無惨!! 絶対に逃がさない!!」
遠くから竈門の声が聞こえる。あいつもこの場に来てたのか。柱に交じって無惨に斬り掛かるなんてすげえ執念してやがる。
俺はそんなことを思い浮かべながら、延々と上下左右が無限に続く戦国時代の城の中のような訳の分からない場所へと落下していく。
「くっ!!」
俺はとっさに手近な足場を掴み、そのまま腕力で上体を引っ張って着地する。
周囲には誰もいない。上下左右が反転したようにふすまや障子が辺りに並んでいる。
しかし突如、俺の目の前で何者かが轟音を立てて天井をぶち破り目の前で着地する。あまりの衝撃に床がひび割れ、埃が舞う。視界がクリアになると、眼前に見覚えのある青い入れ墨の男が姿を現した。
「また会ったな? 毒使いの鬼狩り。あの時は殺しそびれたが今度はそうはいかんぞ。あの御方の命に従い、お前は今日この場で確実に殺すっ!!!」
そうして獰猛な笑みを浮かべて嬉々として語る男の眼には『上弦』『参』と刻まれていた。
続く
Q.無惨が素直に交渉に乗るだろうか?
A.禰豆子殺すって脅して黙らせる。殺しが当たり前の下呂君が言えば説得力あると思う。
原作読んでた時思ってました。いざとなったら柱の誰かが禰豆子殺すんじゃないかなって。人の心無い発想でしたね。実際は鬼殺隊には誰一人禰豆子を殺す選択肢を取る人はいませんでした。吾峠呼先生が出力した登場人物達はみんな心の優しい持ち主なので杞憂でしたね(尚筆者・・・)。
さてさて、次回から本格的に無限城編です。そしていきなり猗窩座との一騎打ちです。乞うご期待。