その代わり、後半は下呂君が無自覚な発言で猗窩座にクリティカルダメージを与えています。もしかしたら下呂君は物理攻撃よりも精神攻撃した方が猗窩座に有利取れるかもしれない・・・
「いいぞヒカル!!!!! お前の技を思う存分見せてくれっ!!!!!」
「うるせぇよ。」
猗窩座の拳打に自信の拳を思いっきり打ち付ける。その瞬間凄まじい衝突音と突風が巻き起こり、周囲のふすまや障子がガタガタと音を立てる。風圧がやむと同時に猗窩座の拳が砕け散り、俺は震脚で足場を蹴り下半身が生んだ運動量をそのまま拳に乗せて猗窩座にボディーブローをぶちかます。
「ごはっ!!!!!」
あばら骨が砕ける感触が俺の拳から伝わってくる。気色が悪い。加えて猗窩座は吐血しよろよろと後退するので、俺は目の前の男の頭部を両手で掴んで膝蹴りを顔面に思いっきり打ち付ける。
その瞬間猗窩座の頭蓋が砕け散る。気分が悪くなるような血と脳漿の匂いに眉を寄せるも、俺は床に着地し頭部を失った猗窩座の頸へと靴先に仕込んだナイフで一閃するように蹴りを放つ。
「クソ・・・またかっ!!!」
俺の蹴りは頭部のない猗窩座の腕でガードされる。腕の骨を確実に打ち砕いたが俺は舌打ちし即座にその場から退避する。
ー破壊殺・砕式 万葉閃柳ー
頸無し猗窩座の腕が空を切る。それだけでも凄まじい風圧を巻き起こす。加えて猗窩座は頭部を再生させ、砕いたはずの拳と腕の骨までゴキゴキ音を鳴らして再生させる。
「素晴らしいっ!! 見事な蹴りだ!!! 膝蹴りの威力は凄まじいものだった!!! そしてその後の頸を刈り取るかのような回し蹴りの技量も驚嘆に値する!!! さあ、思う存分拳を交えようっ!!!!!」
「ざけんな。ホイホイ再生しやがって・・・」
さっきからずっとこの調子だ。うんざりする。
猗窩座の身体を破壊する度に虫唾が走る。手足から伝わる肉や骨を砕く感触に生理的嫌悪感を覚える。
猗窩座はいくら身体を砕かれようと嬉々としてこちらに向かってくる。なぜなら奴はいくら体術で粉砕されたところで致命傷にならないからだ。つくづく鬼の再生能力に嫌気が差す。
だから何度も奴の隙を突いて足先のナイフで頸を刎ねようと必死に蹴りを放っているのだが、どういう訳か奴は頭部が無かろうが全身ボロボロになっていようが的確に反応し急所への攻撃だけは完璧に防ぐ。
一体どういうカラクリだ? なぜ奴は俺がとどめを刺そうとする瞬間だけ的確に対処できるんだ?
確か奴は俺が城のふすまの裏に隠れていた時も正確に俺の居場所を特定して殴りかかってきた。
最初は黒死牟みたく透視能力のようなものを持ってるのかと思ったがそれも違うらしい。もし透視能力なら頭蓋を潰した時点で俺の動きについてこれるはずがない。
となると俺の攻撃を事前に察知する超感覚でもあるのか? 竈門が刀鍛冶の里で身に着けた嗅覚による動作予知みたいなものなのかもしれない。こいつの場合は第六感みたいなもので察知してる可能性もある。
恐らくこの察知能力がこいつの血鬼術。まさに正面から殴り合うために生み出したような血鬼術だ。脳筋の極み過ぎる。
ずっと千日手だ。こいつをいくら真正面から打ち砕こうと決着はつかない。それに徐々にだが猗窩座は俺の動きの癖を掴み始めている。このままでは・・・
ー破壊殺・鬼芯八重芯ー
「ぐっ!?」
俺が回し蹴りを放った直後に的確なタイミングで打ち込んでくるようになった。俺は
いくら頑強になったからと言って、上弦の鬼の攻撃を何度も受けてられない。うまいとこ捌き切れない分を腕で受けているがその度に骨が軋む。激痛が走る。いつ砕かれても可笑しくない。
もし一発でもガードできずクリーンヒットを許せば、身体が原型残せるだけで即死間違いなしだ。防弾チョッキ着こんでも榴弾直撃したら死ぬのと同じだ。
「どうしたヒカル!!! 動きが緩慢になってきているぞ!? 俺をもっと楽しませろ!!!!! もっと技を見せてくれっ!!!!!」
奴が拳を真っすぐ打ち込んでくるので俺も拳を打ち付ける。だが今度は力技で砕くような真似はしない。威力だけを相殺し、そのまま猗窩座の腕を上下の肘打ちと膝打ちで挟み込むように打ち付けて腕を半ばで粉砕し両断する。
「おおっ!! 素晴らしいっ!!! 見事な芸当だ!!! そのような高度な真似ができるとは・・・っぶ!!??」
俺は即座に猗窩座の顔面を殴りつけて遥か後方に吹き飛ばし距離を取る。俺は肩で息をしながら膝に両手をついて息切れを起こす。全身の筋疲労がそろそろヤバイ。腕も足も痙攣を起こし始めている。
一方猗窩座は砕けて千切れた腕を即座に再生させて再び俺に歩み寄り近づいてくる。
「しかし残念だ。これほどの技量を持っていても貴様は呼吸が使えないせいですぐ体力が尽きる。実力が劣ったとしても他の柱達の方が遥かに長く戦えるだろう。
あの御方の命令がなければどんな手を使ってでも鬼にするというのに・・・ヒカル、俺はそれが心底残念でならない。」
もう『うるせぇよ』と言い返すのもきつくなってきた。まさか猗窩座がここまで殺しにくい鬼だったとは。
正直体術の技量の方は俺達下呂家のモノに比べて数段劣る。
鬼になったせいかもしれないが、防御をおろそかにし過ぎだ。俺達ほどの技量があれば何度でも致命傷を食らわせてやることができるぐらい守りの面ではお粗末すぎる。
だが無限の再生力を持つ猗窩座にとってそれは弱点足りえない。こいつは頸さえ刎ねられなければ半永久的に戦い続けることができる。それ故に致命的な攻撃だけを察知する血鬼術を身に着けたのかもしれない。
一周回って合理的だ。ただの脳筋に見せかけて実は相当頭がいいのかもしれない。
「ヒカル。済まない。俺はどうしてもお前を殺さなければならない。あの方の命には逆らえんのだ。お前という強者を忘れないためにも、最期に遺言くらいは聞かせてくれ。」
「はは・・・」
俺は思わず乾いた笑いを漏らす。猗窩座といい、童磨といい、黒死牟といい、どいつもこいつも人の遺言ばかり聞こうとしやがって。
俺は内心腹立たしかった。やったもん勝ちの毒使いの人間でありながらも、目の前の鬼たちが卑怯に思えて仕方がなかった。
無限の体力、再生力、人智を超えた膂力、速力。加えて理不尽な能力を発揮する血鬼術。
そんなものを持ちながら俺達と真剣勝負をしてるようなその面構えが納得いかなかった。
きっと殺されてきた柱達はみんなそう思ってきたんだろうな。俺よりも技量的に遥かに上の呼吸使いなんて何人もいたはずだ。それを上弦の鬼共が理不尽に葬ってきた。
つくづくすげぇよ、鬼殺隊は。そんなことわかり切ってるのに生身のまま鬼に立ち向かってきたんだから。助けを求める人たちを何度も救ってきたんだから。
俺は猗窩座の物言いに悔しさを覚えるも、思わず諦観の衝動にかられ天を仰ぐ。
「ああ・・・結婚したかったな・・・マジで・・・」
猗窩座はそんな俺の言葉に面喰ってしまう。
「は・・・? 結婚・・・? そんな程度の小さい願望一つがお前ほどの強者の夢なのか? 最期の言葉がそれでいいのか?」
俺は猗窩座を疲れ切った目で見据える。
「お前みたいに戦いに明け暮れることを生きがいにしてる奴にはわからないかもな。俺は叶えたかった。フツーの幸せって奴を。
好きな相手と出会ってフツーに仲良く楽しい人生を送りたかった。
夕食寝る前に『今日どうだった?』みたいな・・・何気ない会話をして、咳をしたら『どうしたの?』って声を掛けたり掛けられたりするような・・・」
俺がかつて城崎に吐露した自分の本音を僅かながらに話した瞬間、猗窩座の表情が変わる。目を見開き明らかに俺の言葉に反応している表情だ。
「・・・お前・・・今なんて言ったんだ?」
「ああ? なんだよ急に。俺はただ好きな相手と仲良く楽しい人生過ごしたかった言っただけだ。それがどうしたって言うんだよ?」
「・・・な・・・あ・・・」
「・・・? もしかして人間時代の結婚相手のことでもフラッシュバックしたのか? もしそうだとしたら羨ましい限りだぜ。俺はここでお前に殺されれば、そんな相手を見つけることすらできなくなるっつうのに。
だがお前は本気で好きになれるような相手と出会っておきながら鬼になったんだな。それが本当なら俺からすると納得できねぇ。
もしお前にそんな人がいたのなら、きっとその人はあの世でアンタを見て泣いてるに違いないぜ。
なあ、猗窩座。お前はなんで鬼になったんだ? ただ武の道を極めて戦いに明け暮れることが本当にお前のしたかったことなのか?
だとしたらお前は・・・自分の幸せすら自覚できねぇような・・・とんでもねぇ大馬鹿野郎だ・・・」
俺は力なくそう言葉を吐き切った。まあ俺もこのまま黙って一方的に殺されるつもりはないが、遅かれ速かれ俺はここで死ぬだろう。
なんか既視感あるな・・・これで何度目だ? もう死んだって思ったの。
こっちの時代に来てから三度は経験してる気がする。
俺はそんな自分の幸薄い人生に呆れながら自嘲気味に笑う。そしてひたすら猗窩座の反応を待った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
なんだ? なぜ猗窩座は何も言わない? 俺は気になり猗窩座の様子を眺め続ける。
猗窩座はどういう訳か動かないし言葉も発しない。茫然自失しているのか? 目を見開いて微動だにしない。
「・・・猗窩座?」
猗窩座は俺の問いかけにも反応しない。なんだこいつ・・・まるで隙だらけじゃねぇか・・・一体何考えてやがる・・・?
俺がそう悩み始めていると、突如近くのふすまの奥から見知った奴が顔を覗かせて声をあげているのに気が付いた。
「えっ・・・げ、下呂さん!!??」
「は・・・? 胡蝶・・・? なんで・・・」
俺があっけに取られていると、胡蝶のいる奥の通路から何やら無数の足音が聞こえてくる。
「下呂さんの匂いがする!!! きっとこっちだ!!!」
「待てよ炭治郎・・・なんか傍にめっちゃ強そうな鬼の音がするんだけど・・・」
「ワハハハハハッ!! こっちから強そうな鬼の気配をビンビン肌で感じるぜェ!! 勝負勝負ゥ!!!」
「師範っ!! 先に行かないでください!! 一人じゃ危険です!! え、急に立ち止まってどうしたんですか!? その先に何か・・・」
気が付けば胡蝶だけじゃなく、大所帯で竈門たちがなだれ込んでくる。
なんなんだよこいつら・・・胡蝶を引率者に仲良く鬼の居城にピクニックにでも来たのかよ・・・なんで揃いもそろって俺の場所に・・・
「っ!! 下呂さん!! そいつ猗窩座ですよね!!?? すぐにそこから離れてくださいっ!!!」
すると完全にフリーズしてた猗窩座がハッと竈門たちの方を向く。俺はその様子を見てある考えが浮かぶ。あまりにも隙だらけ・・・今ならやれるか?
「竈門・・・炭治・・・」
猗窩座がそう呟いた瞬間、俺は猗窩座の頸に蹴りを一閃した。猗窩座は微動だにしなかった。一拍遅れて俺の方を振り向こうとしたが頸が滑り落ち、猗窩座のあっけにとられた表情の頭部が地面に転がり落ちる。
「「「「えっ!!??」」」」
竈門たちが俺と猗窩座の様子を見て一堂に驚きの声を上げる。
いや・・・まあ俺も驚いているんだが・・・さっきまで何しても死ななかった上弦の参がこんなあっさり殺されるとは・・・
「げ、下呂さんっ!? これって今どういう状況なんですか!?」
胡蝶を先頭に竈門たちも後ろから続いて俺に駆け寄ってくる。
「いや・・・俺にも良くわかんねぇよ・・・上弦の参に隙が出来たから・・・つい・・・」
「そんな思いつきであっさり!!??」
「どうして猗窩座はこんなにも無防備だったんですか!!??」
胡蝶が俺の回答に驚愕し、竈門が食い気味に質問してくるので俺は顎に手を当てて答える。
「いや・・・殺される直前に遺言聞いてやるぞって言われて・・・それで結婚相手に関する話をしたら・・・なんか急に固まって・・・」
「「「「どういうこと!!??」」」」
その場の全員が訳がわからなさそうに声を上げている。いや、理由を聞かれても俺だってわからないんだが・・・
ふと俺は猗窩座の頸無し死体を眺めた。微動だにせず棒立ちしている。その様子になんだか違和感を覚える。
「・・・? なんだ? 身体の崩壊が始まらないぞ? これは一体どういう・・・」
ドンッ!!!
突如、猗窩座の頸無し死体は片足で床を踏み鳴らし戦闘態勢を取る。足元に氷の結晶のような模様が広がる。
「っ!!?? みんな逃げろっ!!!!!」
俺は即座にそう叫んだが、次の瞬間、猗窩座の頸無し死体に思いっきり殴られ、そのままの勢いで吹き飛ばされてしまった。
「がっ!!??」
「っ!!?? 下呂さんっ!!!!!」
想定外過ぎる状況にその場にいる全員が驚愕する。猗窩座は不死身を体現したような鬼だと思っていたが、それでもなお俺は奴を過少評価し過ぎていたのかもしれない。
続く
猗窩座戦第二ラウンド開始です。まあ不意打ちで頸斬っても負けを認めてくれませんからね。しょうがないです。
あと2話で猗窩座戦は決着します。今後も楽しみという方いらっしゃいましたらお気に入り登録頂けると嬉しいです。