鬼滅の毒使い   作:科学大好き人間

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猗窩座視点です。映画の猗窩座再来編のPV見てテンション爆上がりしてしまい、つい勢いで加筆してしまいました。なので予定より猗窩座戦の話数が増えます。丁度映画の内容とマッチしてると思うので、楽しんで頂ければ幸いです。


22話 役立たずの狛犬、毒に頼る弱者達に憎悪を燃やす

「誰だお前は・・・まさかお前なのか? さっきから俺の脳裏をよぎる幻聴の正体は・・・」

 

 

俺はなぜか暗闇の中一人で棒立ちしていた。わからない。俺はなぜこんなところで一人で立ち尽くしているんだ。

 

周囲に人影はない。だが確かに感じる。俺の傍に何かいる。懐かしいようで・・・思い出したくないような・・・そんな気配を・・・

 

 

 

「狛治さん・・・もうやめて・・・」

 

「っ!! 誰だ!! なぜ姿を現さない!! お前は一体何者だ!!!」

 

 

俺は暗闇の中一人でそう叫ぶ。実に不快だ。暗闇に隠れてずっと俺の様子を伺っているのか、何か言いたげな視線のみを刺すように感じる。

 

 

「狛治さんっ!! 私はここよ!! 私が見えないの!?」

 

「さっきから何なんだお前は!! そもそもお前はどこから話しかけているんだ!? 闇に乗じて俺の頸でも狙っているのか!? 卑怯者め!!!」

 

 

俺が正体不明な相手をそう罵倒すると、やがてシクシクとすすり泣くような声だけが聞こえる。その泣声に聞き覚えがある気がするがどうにも思い出せない。ただどうしよもなく居心地が悪く面倒だと感じる。

 

 

「やっと私の声が届いたのに・・・お願い・・・もとの優しい狛治さんに戻って・・・」

 

「・・・・・・」

 

 

そもそもこの状況はなんだ? 俺はヒカルと一対一で戦っていたはずだ。奴が力尽きるまで殴り合い、最期に遺言を聞き出して・・・遺言?

 

奴は最期に何を言っていた? なんだ? 記憶の混乱が収まらない。思考がなぜかまとまらない。俺はどうなってしまったんだ?

 

 

「狛治さん・・・もうやめにしましょう・・・向こうに行きましょう・・・」

 

「駄目だ。ヒカルとの決着がついていない。俺は奴を殺さなければならない。」

 

「どうしてですか?」

 

「俺は強くならなければいけない。邪魔をする奴は殺す。」

 

「どうしてですか? どうして強くなりたいのですか?」

 

「それは・・・」

 

 

突如、俺の脳内に人間だった頃の生涯の記憶が溢れかえる。

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

そうだ。最初は親父に薬を持って帰るためだった。それだけだった。俺が強くなろうとした理由は。

 

親父はいつも苦しそうに咳をしていた。俺はそれを治してやりたかったんだ。

 

けど俺はまだまだガキで・・・薬代を稼げるような仕事なんて到底できる訳なくて・・・掏りぐらいしかできなかった・・・他人から奪うことでしか金を用立てることができなかったんだ。

 

けど俺はその時ずっと弱くて、何度も奉行所に捕まって刑罰を受けて、終いには親父は首括って死んじまった。

 

親父は人様から奪った金品で生き永らえたくなかったみたいだ・・・貧乏人は生きることすら許されねぇのかよ・・・こんな世の中糞くらえだ・・・

 

それからの俺は酷いものだった。自暴自棄になって大人に喧嘩を吹っ掛けては足腰立たなくなるまで殴りつけて、終いには複数人から報復を受けて大の男7人から袋叩きにあった。まあ返り討ちにしてやった気がするが。

 

ああ・・・そうか・・・その後出会ったのか・・・師範に・・・そして・・・

 

 

「・・・恋雪・・・」

 

「っ!! 狛治さんっ!!」

 

 

気が付けば着物の女が俺の左腕を握っていた。涙で顔をくしゃくしゃにして、大粒の涙をぽろぽろと落としながら。

 

そうだった。あの日俺は師範と出会った。俺に素流を教えてくれた恩師に。自暴自棄になった俺を更生させてくれたんだ。

 

そしてはじめて任された仕事が恋雪の看病だった。俺の親父と同じで苦しそうに咳をして、どこか放っておけなくて。

 

それから三年、ずっと恋雪の看病を辛抱強く続けて、合間の時間で師範から稽古をつけてもらって、大の男の背に届くぐらいに俺も大人になった。

 

それから・・・それから・・・俺は・・・

 

 

『この道場を継いでくれないか、狛治。恋雪もお前のことが好きだと言っているし。』

 

『は?』

 

 

あの日を・・・どうして忘れてしまったんだろう・・・あの日は俺にとって代えがたいものだったはずだ・・・

 

あの日の俺は罪人の入れ墨が入っている自分の未来なんて想像できていなかった。ましてや誰かがそんな自分を好いてくれる未来なんて猶更・・・

 

 

『俺は叶えたかった。フツーの幸せって奴を。好きな相手と出会ってフツーに仲良く楽しい人生を送りたかった。』

 

 

・・・そうか。ヒカルはかつての俺と同じ境遇だったんだな。

 

今なら鮮明に思い出せる。恋雪と過ごした日々のことを。そしてあの花火の日を。約束した日を・・・

 

 

『狛治さんとの些細な話で私、嬉しいことがたくさんありました。』

 

『今年花火を見れなかったとしても、来年・・・再来年見に行けばいいって言ってくれた。』

 

『私は、来年も再来年も生きている自分の未来がうまく想像できませんでした。』

 

『だけど狛治さんには私の未来が見えていた。当たり前のことのように。来年再来年の話をしてくれたんです。本当に嬉しかった・・・!!』

 

『私は狛治さんが良いんです。』

 

『私と夫婦(めおと)になってくれますか?』

 

 

あの日、俺は打ちあがる花火の音が鳴り響く夜に、恋雪と約束したんだった。

 

 

『はい。俺は誰よりも強くなって、一生貴方を守ります。』

 

 

そうか・・・突如脳内にあふれ出した人間だった頃の記憶・・・それを思い出せた理由がやっと分かった・・・

 

俺は無意識に毒使いのあいつの言葉を聞いて人間だった頃の自分と重ねて・・・

 

 

「毒・・・っぐぅ!!??」

 

 

突如、俺のこめかみが軋むような音を上げた。激痛に顔を歪める。

 

 

「狛治さんっ!!??」

 

「ぐうううう!!!」

 

 

・・・そうだった・・・師範が・・・恋雪が死んだ原因・・・それは・・・!!

 

 

「そうだ・・・師範も恋雪も毒殺されたんだ・・・奴らは直接やり合っても勝てないってわかっていたからそれで・・・!!」

 

「狛治さんっ!! しっかりして!!」

 

 

腹の底から煮えたぎるようなどうしようもない怒りと憎しみに支配される。全身の血液が沸騰するかのようだ。筋肉が強張る。

 

師範も恋雪も毒で殺された。ずっと俺たちを良く思っていなかった隣接する剣術道場の奴らが井戸に毒なんて入れやがったせいで・・・!!!

 

弱い奴は醜い。正々堂々やり合わず、卑怯で卑劣で汚い手を悪びれもなく行使する。弱者は虫唾が走る反吐が出るっ!!!

 

 

「殺す・・・!! 殺してやるっ!! そんな奴らを・・・一匹残らずっ!!!」

 

「狛治さんっ!! お願いだから元の狛治さんに戻ってっ!! 鬼になんてならないでっ!!!」

 

 

俺が空気を引き裂くような雄たけびをあげると、周囲の暗闇と一緒に恋雪の姿も声もかき消えた。意識が徐々に現実へと帰ってくる。

 

 

 

「今更死んだところで・・・三人と同じ場所には行けない・・・!! よくも思い出させたな・・・あんな過去を・・・!!!」

 

 

俺は怒りのまま拳を打ち振るっていた。徐々にだが斬り落とされた頭部が再生してる。やがて片目までも復元し周囲の様子を確認する。

 

 

「そんなっ・・・!! 頭が再生しかかっている!? ぐあああ!! 頸を斬ったのになぜ・・・!!??」

 

「やばいって炭治郎っ!! 頸を斬っても死なないんじゃいくら戦っても無理だって!!」

 

「権八郎ッ!! 紋逸ッ!! 弱気なこと言ってんじゃねぇ!!! 完全に死ぬまで斬りまくればいいだけだろうがッ!!!」

 

 

なるほど。俺は意識を飛ばしてもなおこいつらと戦っていたという訳か。すでに俺の攻撃を受けているのか、三人とも血だらけだ。なんとか致命傷を避けているようだが。

 

いや、待て。こんな奴らなどどうでもいい。俺はあの卑劣な男を殺す。どこにいる? 既に逃げたのか? なら羅針を使って闘気を探れ。きっとまだ近くにいるはずだ。

 

俺は竈門炭治郎を含む三人の鬼狩りを捌きつつ、闘気感知による索敵範囲を広げる。すると、俺の背後で、小柄な女の肩に担がれて移動する目的の男を闘気で捉えた。

 

 

「見つけた・・・!! 毒使いッ!!!」

 

「っ!!??」

 

 

俺は三人の鬼狩りを一人一人叩き伏せて、(くだん)の毒使いの背に突進する。すると付き添いのやや背丈のある女が俺に気づき剣を構える。

 

 

 

 

 

 

 

 

ー花の呼吸 肆ノ型 紅花衣ー

 

 

 

 

 

 

 

「邪魔だっ!! 失せろっ!!!」

 

「ああっ!!!」

 

 

女は上下に捻るように行き交う斬撃で迎撃しようとするが、俺はそれを捌き、女に一撃入れる。刀で受けたようで命に別状はないようだが、そのまま吹き飛ばされ床を転がっていく。

 

 

「カナヲっ!? ・・・くっ!!」

 

 

毒使いの鬼狩りを庇い、その小柄な女は身を翻して俺に突き技を放つ。俺は日輪刀を砕くつもりで拳を打ち込むが、驚いたことにその突きはそのまま俺の右腕を貫通し肘先まで付き通した。

 

こんな小さな体で放ったとは思えないような凄まじい貫通力の突きだ。だが・・・

 

 

「無駄なことをっ!!!」

 

「そんなっ!?」

 

 

俺が右腕を引いたことで、女はそのまま日輪刀を手放す。突き技の威力には驚かされたが、握力ははっきり言って脆弱そのものだ。

 

反動で左拳を突き出すが、その一撃は死にかけの黒い外套を羽織る男の拳打によって威力を相殺される。俺は一瞬驚くも歯を食いしばってそのまま押し切ろうとする。

 

 

「死ねぇええ!! 毒使い!!! っが!!??」

 

 

毒使いの鬼狩りは下段から蹴りを放って俺の顎に一撃入れる。凄まじい衝撃に脳が揺れ、やや後退し、その場で膝を着く。

 

 

「がっ・・・!! 己っ・・・!! 貴様っ・・・!!!」

 

「ありがとな、胡蝶。後は俺がやる。お前はもう下がれ。」

 

「で、でもっ!! 下呂さんはもう既に戦えるような状態では・・・!!!」

 

 

脳の揺れが収まるのを待っている間、目の前の毒使いは手をかざして小柄な女を後ろへと下げる。しかし一方で女は食い下がっているようだった。

 

 

 

「胡蝶の毒が効いている間に、毒血解離で猗窩座だけでも殺す・・・!! そうすりゃあ俺が戦線離脱しても多少は無惨討伐までの難易度が下がるはずだ・・・!! 黒死牟は他の柱のメンバーに任せる・・・!!」

 

「ど、毒だと・・・!?」

 

 

気が付けば俺は地に片手を付いて倒れないよう身体を支えるだけで精一杯だった。凄まじい倦怠感と吐き気が全身を駆け巡る。その事実に俺は青筋を浮かべる。

 

 

「どいつもこいつも姑息な手段ばかり使いおって!!! 貴様らのような醜い卑怯な弱者共は一人残さず俺が打ち砕いて殺してやるっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の脳裏にあの忌まわしき記憶の影がちらつく。俺は憤怒のうなり声をあげて目の前の毒使い共に怒号を浴びせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 




下呂君と狛治(≒猗窩座)には共通点が多く対称的な要素が多いです。
片や殺し屋の生まれで恋愛や異性を避け幸せを諦めていた下呂君。
片や罪人の身で誰かが好いてくれる未来が想像できなかった狛治。
二人とも転機が訪れ共に幸せへの道へと歩もうとしたのは同じでも、強敵と戦い続け最愛の人を探すために戦い続ける者と、悲劇に見舞われ最愛の人を失い鬼へと変貌した者。
毒という卑怯な戦法で人助けのために力を尽くす者と、真正面から正々堂々弱者を蹂躙し殺戮する者。
そんな二人が武術の師より叩き込まれた技で拳を交え、自身の信念をぶつけ合ったのが前回までの内容でした。
そして次回からは再び両者の矜持で業と技をぶつけ合います。
勝負を制するのは、力か、技術か、言葉か、感情か、信念か。

次回に続く。
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