猗窩座が
私は今もなお、無惨様の護衛についていた。
無惨様は
よって私は無惨様まで辿り着いた鬼狩りを一人も漏れなく討ち取るために傍で待機していた。
ここは私がよく使う鍛錬場の中心部。
周囲に複数の大黒柱と扉が立ち並んでおり、無惨様はその柱に足掛けするようにして繭ごとぶら下がっている。
更に無惨様の安全をより堅固なものとするために、私の骨と肉で作り出した数十本の刀を格子の檻のようにして、繭を囲うことで守っている。
この檻は近づくもの全てに月の呼吸の斬撃を私の意思一つで打ち放つことができる。
私が万が一群がる鬼狩りを打ち漏らしたとしても、無惨様の身に危険が及ぶことは天地がひっくり返ってもありはしないだろう。
「無惨様・・・どうか私どもにお任せを・・・今宵限りで鬼殺隊の剣士は一人残らず始末する故・・・」
私が誰もいない空間でそう一人呟くと、部屋の扉を開けて入り込む鬼狩りの気配を感じ取った。
下弦鬼並みの強さを持つ鬼の群れを突破してきたということは恐らく柱なのだろうと私は思った。だが・・・
「なっ・・・!! 上弦の壱・・・!!??」
「歓迎しよう・・・お前が一番乗りだ・・・まずは名を名乗れ・・・」
私の姿と眼に刻まれる数字を見て明らかに難色を示し動揺するその男は、常中を身に着けているとはいえひどく小物のように感じた。
手首や首周りに勾玉のような飾りをつけ、黒の羽織と隊服でその身を包む黒髪の男。歳は二十いかないくらいだろうか。
私が名を聞き出そうとするも狼狽しているのか一向に応える様子がない。今代の柱は粒ぞろいだと聞いていたが、この男ははずれの部類なのだろうか。
「私の名は黒死牟・・・剣士たるもの・・・戦う前に名を名乗るが良い・・・」
私が再度名乗りを催促すると、その黒髪の男は肩をびくつかせ、やがておずおずと口を開いた。
「階級・・・甲・・・獪岳・・・」
「・・・甲・・・柱ではないのか・・・」
私は納得する。道理でこの男から覇気や気迫のようなものを感じないはずだ。ただ逆に、今代の柱はこの男よりも強いだろうことが伺える。その力量を図るには丁度いいだろうか。
「さあ・・・抜刀するがいい・・・貴様の研鑽してきた技が・・・どれほどのものなのか・・・見せてみろ・・・」
私は刀を抜くことなく自然体でその男に近づいて行く。男は戦闘になると判断し、すぐさま日輪刀を引き抜く。
「ほう・・・雷の呼吸の剣士か・・・面白い・・・」
雷の呼吸を使う者と戦うのはいつ振りだろうか。
確か以前、片足だけを切断し、その後日の出でとどめを刺しきれなかった鳴柱がいたはずだがそれ以来か。面白い。
「先手は譲ってやる・・・来るがいい・・・」
私はその男と丁度二十から三十尺程離れた距離で立ち止まる。柱が来るまでまだ時間もあるだろう。この程度の手心を加えたところで無惨様も気を悪くすることもあるまい。
暫し静寂が辺りを包み込む。その男は観念したのか構え直し、私のことを睨みつける。
「・・・舐めやがって・・・吠え面かかせてやるっ!!」
ー雷の呼吸 肆ノ型 遠雷ー
稲光が走ったような錯覚を覚える一閃が私に振り抜かれるが、私は半歩引くだけでその剣閃を躱す。
「っ!! まだだっ!!!」
ー雷の呼吸 参ノ型 聚蚊成雷ー
回転しながらの波状攻撃。中々に見事。しかしこれも抜刀することなくたやすく躱す。
「っ!!??」
「終わりか・・・?」
ー雷の呼吸 弐ノ型 稲魂ー
一太刀も入らなかったことが驚きだったのだろうか。一瞬動揺しそのまま五連撃の斬撃。以前戦った鳴柱の剣に劣るものの剣速は出ているように思える。それでも私には届かないが。
「これならどうだっ!!!」
ー雷の呼吸 陸ノ型 電轟雷轟ー
乱れ打つような斬撃が私を襲う。喰らってもいいが、一切抜刀しないのも無作法と言うもの。私は剣を引き抜き、荒れ狂う雷の嵐のような斬撃を丁寧に捌き瞬時に納刀する。
攻撃が止み一息つこうと思ったが、驚いたことに、雷の剣士は私の目線よりも低い姿勢で接近していた。この男、今まで速度を敢えて抑えていたのか。
ー雷の呼吸 伍ノ型 熱界雷ー
下段より放たれる今までで最も速い切り上げの斬撃。こちらが本命か。なかなかに良い組み立てだった。故に残念だ。
「そんなっ・・・!!」
私は刀を半ばまで引き抜いただけでその斬撃を捌き、再度納刀する。
私が視線を送るとその男は冷や汗を噴き出し、今まで以上の速度を発揮して、三十尺以上離れた距離まで退避する。その後退速度は以前戦った鳴柱と遜色ないほどに思えた。
「どうした・・・もう終わりか・・・? せっかく距離を取ったのだ・・・再び納刀し一か八か壱ノ型で勝負を掛けたらどうだ・・・?」
雷の呼吸の剣士最速の型。それが壱の型、霹靂一閃。以前戦った鳴柱も他の型を牽制に使い、最速の抜刀術で私に勝負を挑んできたのを覚えている。
結果その男は片足を失ったが見事な一撃だった。戦国の鳴柱と遜色ないほどの剣の冴えを見せてもらったことを改めて思い出す。
目の前の男も同様に一番決着力のあるその技で勝負に出るはず。今見せた退避速度以上で斬りかかって来るのであれば中々に期待が持てる。
私も同様に抜刀術の構えで応戦しようと、柄に右手を掛けるが・・・
「・・・何をしている・・・」
あろうことかその男は刀を納刀した後、日輪刀を床に置き、そのまま土下座をした。どう見ても降伏の意思表示。私としては拍子抜けだった。
「貴様・・・最期まで戦わないのか・・・剣士としての誇りはどうした・・・?」
私は呆れる。しかしその男は頭を床に着けたまま微動だにしない。顔すら上げる気概もないのか。
「・・・お願いします・・・命だけは助けてください・・・何でも致します・・・だから・・・」
私は逡巡する。興醒めした。このまま殺してもいいが、何とも味気ない。私はふと思いつきでその男の傍に歩み寄る。
「お前・・・強くなりたいか・・・?」
「えっ・・・」
私はそう聞くとその男は漸く頭を上げる。しかし私の言葉の意図が伝わっていないようだった。
「鬼になり・・・さらに力をつけたいかと・・・そう聞いている・・・その気がなければこのまま頸を刎ねる・・・どうなのだ・・・?」
私の言葉を聞いて驚愕の色が顔に浮かび上がるが、すぐにその男は首を縦に振る。
「いいだろう・・・お前も・・・あの方に認められれば・・・我等の仲間と・・・なるだろう・・・手を差し出すがいい・・・」
私は拳を握りその男の掌に血を絞り落とす。
「有難き血だ・・・一滴たりとて溢すこと罷りならぬ・・・溢した時には・・・お前の首と胴は泣き別れだ・・・」
私がそう言い切ると、男は震えあがる。
呼吸の剣士を鬼とする場合、本来なら時間が掛かる。私は丸三日かかったが、この男の実力なら今宵中には事足りるだろう。
この後鬼狩り共がこの場に押し寄せた場合、残る死体を片付けるのが面倒だ。私の鍛錬場の景観にも良くない。片っ端から切り捨てこの男に食わせればよい。そうすれば死体の処理に手間も取らぬ。
私はそう思い、男が血を飲み始めるまでただ黙って待つ。
やがて観念したのか、男は手のひらの血に口をつけようとするが・・・
ー霞の呼吸 肆ノ型 移流斬りー
突如音もなく剣閃が私に振り切られる。首筋に刃が触れる前に私は背後へと退避する。
「駄目だよ。鬼になっちゃ。君まで斬らなくちゃいけなくなる。柱でもないのに良く一人で頑張ったね。あとは任せて。」
「ん・・・? お前は・・・何やら・・・懐かしい気配だ・・・」
目の前には、霞掛かった白い刃に悪鬼滅殺の字が刻まれた腰まで髪を伸ばす少年の剣士。どうやら今代の柱が漸くここまでたどり着いたようだ。
続く
映画での獪岳と善逸の戦いもかなり見ごたえがありましたね。そして映画の描写で思ったのですが、獪岳が壱ノ型使えないのは逃げ筋の方が発達してるからじゃないでしょうか(笑)
映画で善逸に頸を斬られかけた瞬間の退避速度が馬鹿速かったので印象に残っています(笑)
獪岳は逃げ若みたいな戦い方覚えていたらもしかしたら柱並みに強くなっていたかもしれませんね。まあ他の隊士からは白い目で見られそうですけど・・・
追記:話のストックがある限りは水土曜日に更新したいと思います。さて何週間持つことやら・・・