「あの気持ち悪い肉の塊から禍々しい鬼の気配がする・・・きっとあそこに無惨が引き篭もってるね・・・加えて目の前には上弦の壱・・・君が命乞いをし始める気持ちがわかる気がするよ・・・まあ僕は死んでもしないけどね。」
目の前の霞の柱の少年は冷や汗を流しながらも腰の日輪刀に手をかざす。
私も釣られるように刀の柄に手をかけ静かに呟く。
「うむ・・・やはり・・・そうか・・・」
私は透き通る世界で目の前の霞の柱を視認し確信する。この少年、私が継国家に残してきた子供の末裔。即ち私の子孫か。
私と相対し、目の前の少年は本能的に私との力量差を悟ってしまったのか身体を震わせている。
このまま本調子すら出せない子供を斬り殺すのは流石に忍びない。緊張を解かせる狙いもあって私は暫しの間、目の前の少年と問答をする。
「お前・・・名前は・・・なんという・・・」
「っ! ・・・時透・・・無一郎。」
「成る程・・・そうか・・・絶えたのだな・・・継国の名は・・・」
「継国・・・? 誰のことだ?」
無一郎と名乗った少年はそう聞き返すので、私は丁寧に回答する。私の人間時代だった頃の名を、そして無一郎が私の子孫であることを。
私の話を聞いて驚愕に目を見開いていたが、ゆっくり話をした甲斐もあってか、漸く震えを収め、臨戦態勢に入ったようだ。私は満足げに顎を撫でる。
「うむ・・・精神力も・・・申し分・・・ないようだ・・・ほんの一瞬で・・・動揺を・・・鎮めた・・・」
私がそう呟くと、一瞬で無一郎は接近し刃を振るう。
ー霞の呼吸 弐ノ型 八重霞ー
「なかなかに良き技だ・・・悪くない・・・」
私が無一郎の真後ろに立ち、そのように感嘆の声を漏らすと同時に無一郎は斬りかかってくる。
ー霞の呼吸 伍ノ型 霞雲の海ー
私は再度回避し無一郎の背後に回り込む。その剣技の見事さに私は思わず評価を述べる。
「無一郎・・・年の頃は十四あたりか・・・その若さでそこまで練り上げられた剣技・・・私に怯みはしたものの・・・それを抑え込み斬りかかる胆力・・・流石は我が末裔・・・」
「おちょくってるのかな? もし仮に末裔だったとしても、何百年も経ってたらお前の血も細胞も俺の中にはひとかけらも残ってないよ。」
ー霞の呼吸 漆ノ型 朧ー
初見の技だ。霞の呼吸の使い手はこのような技を使ったことはない。
独特な緩急の上に動きが読みづらい攪乱を兼ねた技。
実に良き技。流麗で美しい。無一郎が編み出した技なのだろう。見たところ痣は発現していないようだが、充分私以外の上弦に通じると思われる。
「此方も抜かねば・・・無作法というもの・・・」
ー月の呼吸 壱ノ型 闇月・宵の宮ー
私は一瞬で刀を抜刀しすぐさま納刀する。刹那、無一郎はその場で膝を着き吐血する。
「がはっ・・・!!」
「動くな・・・動けば臓物がまろび出ずる・・・」
無一郎は反応するも回避しきれず腹部に私の月の呼吸の斬撃を受けていた。ギリギリで踏みとどまり突っ込んで来なかったため、胴体が泣き別れになることはなかった。だが・・・
「なぜ立ち上がる・・・動かず止血をせねばすぐさま失血死し兼ねない・・・」
無一郎は回復の呼吸を続けながら立ち上がり両手で日輪刀を握りしめる。血反吐を吐いて床を濡らすが、顔を上げて私に凄まじい眼光をぶつけてくる。
「お前と相対した時点で僕は死を覚悟している・・・今の僕にできることは少しでもお前の手の内を晒して後続の柱のみんなに勝利への糸口を残すことだ・・・!!!」
「ほう・・・それは殊勝な心掛けだが案ずるな・・・死ぬ必要はない・・・お前をあの方に・・・鬼として使って戴く・・・まともに戦える上弦はもはや私一人のみ・・・あの御方もお前を・・・認めて下さるはず・・・」
「な・・・!!!」
「鬼となればその程度の傷すぐ治る・・・とは言え止血はしておこう・・・人間は脆い・・・」
私が無一郎に近づき腹部の治療をしようとするが、ふとその場に熱気を帯びた剣閃が通り過ぎる。
ー炎の呼吸 壱ノ型 不知火ー
私はその場を退避する。気が付けば無一郎の前に見覚えのある面影の男が立っていた。
「炎の柱か・・・猗窩座と打ち合った・・・」
「時透!!! 大丈夫か!? 急いで腹部を縫うんだ!! その間は俺が盾となる!!!」
「煉獄さん・・・」
戦国の世の炎柱と瓜二つ。加えてこの覇気。煉獄家の跡取りで間違いない。毒使いの鬼狩りが乱入するまで猗窩座に食い下がった男。潰れた左目は眼帯をしているものの五体満足のように見える。
私はふと笑みをこぼす。
「私の子孫に続き・・・炎柱まで・・・懐かしや・・・」
「何・・・?」
「煉獄さん! 奥の柱にぶら下がってる肉塊の中に恐らく無惨がいます! しかしそれを現在目の前の上弦の壱が行く手を遮っていて近づけそうもありません!
そしてこの鬼は戦国時代の元鬼殺の剣士だった男です!! 月の呼吸を使います!!」
「月の呼吸だと!? 聞いたことがないなそれは!!! しかし時透が深手を負うほどだ!!! 凶悪な呼吸に違いない!!!」
「斬撃の周囲を不定形の細かい斬撃が舞うような呼吸を使います・・・! 剣筋だけに反応してもそれを喰らうと一瞬で深手を負います・・・!!」
「なるほど!!! わかった!! あとは俺に任せてくれ!!! 他の柱が駆け付けるまでこの命燃やし尽くして戦うのみ!! 行くぞ上弦の壱!!!」
すぐさま煉獄家の子孫は私に突進し、技を放ってくる。
ー炎の呼吸 伍ノ型 炎虎ー
突進技に対し防御を行うのは悪手。ならばこちらも技を掛けるまで。
ー月の呼吸 参ノ型 厭忌月・鎖りー
瞬時に左右を行き交うようにして月の呼吸の斬撃を放ち迎撃する。凄まじい衝撃と衝突音と共に鮮血が散る。
私の技を前に煉獄は退避行動に移っていた。
「これが・・・月の呼吸・・・!!!」
「見事・・・初見の技に対し良く防いだ・・・しかし実力差は明白・・・」
今の一手で煉獄は全身に切り傷を負い、大小さまざまに血を流していた。とは言え無一郎のように深手を負っている訳ではないので戦闘は続けられそうだ。
「貴様との実力差など最初からわかり切っている!! それでも俺は最期のその時まで心を燃やし、今この場にいる者全てを守り切る!!! それが俺の使命であり責務だ!!!」
ー炎の呼吸 壱ノ型 不知火ー
再び一瞬で距離を詰め横なぎの斬撃が繰り出される。私は剣でそれを捌き、そのまま袈裟斬りで斬り捨てようとするが・・・
ー炎の呼吸 弐ノ型 昇り炎天ー
下段からの切り上げによる迎撃で私の太刀は弾かれる。無一郎以上の反応速度。隻眼でも充分に私の斬撃を捉えているようだ。
ー炎の呼吸 参ノ型 気炎万象ー
続けざまに唐竹割の打ち下ろし。私は防御し甲高い音が鳴り響く。目の前の男が力押しで鍔迫り合いに持ち込もうとしてくるので、私は柄を握りしめる。
ー月の呼吸 伍ノ型 月魄災渦ー
剣の振りなしに周囲へ竜巻のような斬撃をまき散らす。煉獄はこれにすら反応し既に安全圏へ退避していた。
「驚いた!!! まさか剣を振るうことなく斬撃を放てるとは!!! つばぜり合いに持ち込むのは危険ということか!!!」
「ほう・・・よく回避した・・・ならばこれは防げるか・・・?」
ー月の呼吸 弐ノ型 珠華の弄月ー
今度はこちらが突進技を仕掛ける。刀を上段に構え、一瞬で接敵して月の呼吸の斬撃を浴びせる。
ー炎の呼吸 肆ノ型 盛炎のうねりー
煉獄は弧を描くような斬撃で私の型を迎撃する。しかしそれでも全てを防ぐことはできなかったようで鮮血をまき散らし、勢いに押されて後方に下がる。
「がはっ・・・!!」
「見事・・・随分堪えたがここまで・・・しかし折角戦国の世より生き残り続けた炎柱と剣を交えたのだ・・・こちらも月柱だった頃の技を全て見せねば無作法というもの・・・」
「なっ!!! 元柱だとっ!!??」
ー月の呼吸 陸ノ型 常世弧月・無間ー
どどめとばかりに私は人間だった頃の最高の技を繰り出し、その斬撃の物量で今代の炎柱を葬ろうとする。
奥義である玖ノ型『煉獄』を受けて見たかった気持ちもあるが、万が一私が突破され、無惨様の元までその一撃が届くようなことがあってはならない。
一撃の破壊力においては縁壱を除き最高到達点とも言うべき技なのだ。少々残念な気もするが、この男はこの場で確実に殺した方がいいだろうと思い、私は斬撃を打ち振るうが・・・
ー風の呼吸 肆ノ型 昇上砂塵嵐ー
ー水の呼吸 拾壱ノ型 凪ー
突如二つの影が乱入する。風と水の呼吸の迎撃技に行く手を阻まれ、私の陸ノ型は相殺された。私は想定外の事態に僅かに息を飲む。
「おいこらァ冨岡ァ!!! 俺が受けようとしてたんだから間に入ってくんなァア!!!」
「防御なら俺の方が向いている。不死川こそ今ので負傷してたらどうするつもりだったんだ? ここは適材適所で連携すべきだ。」
「うっせえ!!! だったらお前が合わせろォ!!! 邪魔だけはすんじゃねぇぞォ!!!」
「ああ、わかっている。背中は任せろ。」
「テメェに預ける背中はねぇェエ!!!」
私は目の前の光景に思わず笑みを浮かべる。
「まさか・・・炎に続き・・・風と水の柱とも相まみえるとは・・・実に感慨深き事・・・」
これで更に岩の柱が駆け付ければ五つの呼吸の使い手がこの場に勢ぞろいすることになる。加えて私の子孫までもいるのだ。
無惨様には不謹慎だと苦言を呈されるだろうが、かつての月柱としてこれ程に昂る布陣もそうそう拝めるものではない。私はつい喜びに打ち震えてしまった。
続く
炎、水、風、雷の呼吸の使い手が揃ったので、もはや勢ぞろいまで確定演出入ったようなものですね。「元月柱VS五大呼吸の柱」を書きたくてこのような展開にさせて頂きました。(尚一人だけ柱じゃないのいるけど・・・)
一点補足です。本小説では痣を発現している柱はいません。理由は炭治郎が遊郭編で痣を出していないからです。主に下呂君が頑張りすぎたせいです。読んでて気づいていた人いたかもしれませんが、そのため猗窩座戦では炭治郎は活躍しきれていなかったり、無一郎君がもろに月の呼吸の斬撃喰らったりしてた訳です。
さて痣を出せない条件で柱の皆さんは兄上に食い下がることができるのでしょうか。次回へ続く。