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俺と城崎はいつも通り鬼の討伐の仕事を終わらせて帰路についている最中だった。おれは隊服に仕事用の黒コート、城崎は隠と言われる裏方の黒子衣装である。
「下呂君ももうだいぶ鬼退治に慣れて来たね? 一見必殺って感じ?」
「そうだな。雑魚鬼の強さも概ね計り終えたし、基本は秒殺で済むな。ただどいつもこいつも鬼の親玉の情報は吐きやがらねぇ。俺たちをこの時代に飛ばした奴の正体は一向にわかりゃしねぇな。」
「う~ん。そうだねぇ・・・産屋敷さんも頑張って家の人を動かして調べてくれているみたいなんだけど、中々いい知らせがないみたい。」
「辛だな。あんまり長引くとアカリ*1の方におばあちゃんの刺客が行くかもしれねぇ。急がねぇと・・・」
「そうだね。もっと親玉に近い鬼だったら色々聞けそうなんだけどね。例えば十二鬼月っていう鬼の幹部とか。」
「確かにそうなんだが、そう都合よく出会えるわけが・・・」
城崎とここ数日の現況について話していると、突如俺のポケットに入れた受信機が音を鳴らす。
「ん? 一体何の通知?」
「これは・・・救難信号!? 竈門からか!!」
そんな中、突如竈門から救難信号が届いた。
以前城崎に銃使い*2の件で渡していた耳飾りと似た代物を竈門にも念のため渡しておいたのだ。成り行きとは言え、ピンチになったら必ず駆け付けてやると以前約束したからだ。
しかし、まさかこんなにも早くその時が来てしまうとは。
「済まない城崎!! 俺はすぐさま竈門の救援に向かう!! お前は他の隠に連絡を取って後から応援を呼んでくれ!!」
「わかった! こっちは心配いらないから早く行ってきてあげて!!」
「助かる城崎!! 頼む。間に合ってくれ・・・!!」
俺は全速力で竈門のいるであろう場所へと走った。先日確か無限列車とかいう汽車に乗ると言っていた。その時見せてもらった路線図と地図を脳裏に浮かべる。
幸いなことに、距離はそう遠くない。とは言え、普段の俺の足でも1時間は掛かってしまう距離ではあるので、俺はコートの懐から注射器を取り出し、首筋に打ち込む。
使い手は殺しの
その技術を自身の血に刻み込んだものが変性血統だ。使い手を使い手たらしめる、殺しの奥の手である。
俺の属する五大名家の下呂家は、使い手の中でも最高峰に位置する毒使い。そしてその特性は、微量の致死毒に反応し身体能力を強化するもの。
とは言え下呂家のそれは、自身の寿命を縮めることを対価に力を発揮するものなので、そんなに都合のいいものでもない。
そして今俺が使った
これにより、通常の俺とは比べものにならない移動速度を発揮することができる。故に・・・
「あれか・・・」
俺が該当の路線を並走していると、数分でそれらしき現地へと辿り着いた。横転した汽車の横を通り過ぎ、その先で苛烈に打ち合う二人を視認した。まさに両者が構え、激突する直前だった。
打撃系筋力亢進の毒を首筋に打ち込み、両者の衝突の間に割って入る。俺は全力で拳打を打ち込み、隊服を着ていない鬼であろう男を殴り飛ばす。
「がっ!!??」
「なっ!!??」
加えて、技をかけていた炎のような羽織の男を瞬時に制止させ、殴りつけた鬼から無理矢理距離を取らせる。
俺は視認できた竈門の傍にその羽織の男を降ろす。
「大丈夫・・・ではなさそうだな? 急いで治療をすべきなんだろうが・・・」
「げほっ!! 君は一体・・・」
「げ、下呂さん!?」
「炭治郎。お前に渡した耳飾りの救難信号を受けてここまで駆け付けた。俺は今殴りつけたあの鬼の相手をする。下がっていろ。」
「え・・・ですがあいつは上弦の参です!! 十二鬼月の上位三番目の鬼です!! 下呂さんでも勝てるとは思えません!!!」
「下呂・・・? そうか君が胡蝶が言っていたあの・・・君もすぐに逃げるんだ。奴と戦っても犬死するだけだぞ・・・ぐっ!!」
炎のような羽織を着た重症の男はそう俺に言うが、痛みに表情を歪める。一方で俺は冷静に鬼の方へ向き直る。
「問題ねぇ。夜明けまでそう時間もない。時間稼ぎだけなら俺一人で充分だ。まあ見てろ。」
俺は鬼の方へと近づいていく。赤髪に全身線のような刺青があるその鬼は青筋を浮かべ、俺を睨みつける。
「貴様・・・何者だ!! 杏寿郎との勝負に横やりを入れるなど・・・!!」
「俺は下呂ヒカル。毒使いだ。期間限定とは言え、鬼殺隊に属している。戦う前に一ついいか?」
「悪いが時間稼ぎに付き合ってやる暇はない。」
「なら一つだけでいい。お前らの仲間に他者を別の場所に一瞬で移動させることができる奴はいるか? できればそいつと会ってみたいんだが。」
「ふっ、いるにはいるが会わせてやるのは無理だな。なぜならお前は今この場で殺すからだ!!」
「っ!! そうか・・・!! それが聞けただけでもありがてぇぜ。よし、礼代わりに相手してやるよ。かかって来い。」
俺は出し惜しみせず、
竈門が言うことが本当なら、目の前にいる鬼は俺が今まで殺してきた雑魚鬼とは比べものにならない強さなのだろう。最悪、桃壱と同じかそれ以上を想定して戦うべきだと判断した。
「夜明けまでそう時間が無い。お前は秒殺する。死ね!!」
ー破壊殺・空式ー
鬼が連続で拳打を放つと、見えない攻撃が飛んできたのを
空圧正拳にしろ、見えない飛び道具の投擲にしろ、原理についてはこの際問題ではない。肝心なのは、奴が遠距離攻撃を一方的に放つことができるというその事実だ。
このまま回避に専念しても、背後にいる竈門ともう一人の隊士が攻撃を受けて殺される可能性が高い。俺は一瞬でそう判断して、手持ちの水筒と薬剤であるものを調製する。
吸水性ポリマー 【
「っ!!?? なんだと!!??」
俺は瞬時に透明な吸水性ポリマーの巨大なベールをマントのように翻して壁を作り、鬼より放たれる攻撃より竈門たちを守る。その光景に目の前の鬼も驚いたらしい。
吸水性ポリマーとは、紙おむつ等に使用される高吸水性樹脂のことだ。自重の数百倍から数千倍の水を吸収することができる高分子材料のことである。
勿論、今俺が使用したものは日用品で使われるものとは訳が違う。俺自身が開発した特注品のため、強度及び伸縮性共に一般の物とは比較にならない。
かつて銃使いの残党と戦闘になり、婚活パーティーの参加者をサブマシンガンから庇った時もこれを使用したが、今回の鬼の攻撃も何とか防ぐことができたようだ。
もっともこれ以上の威力を持つ攻撃を受ければ強度が足りず、後ろの竈門たちは生きてはいなかっただろう。俺はとっさの判断で運よく対応しきれた事実に内心胸を撫でおろした。
「貴様一体何者だ!?呼吸を使う鬼殺の剣士ではないのか!?」
「俺は呼吸使いとは異なる別の使い手だ。普段は人間の暗殺を生業にしているから、お前からしたら物珍しいかもな。」
「小細工を弄する者か!! お前のような卑怯者に遠慮はいらなそうだ!! この拳で直接殴り潰してやろう!!!」
ー破壊殺・鬼芯八重芯ー
瞬きする間に鬼は俺へと迫り、左右交互の凄まじい拳打の突きを放ってくる。並みの使い手なら一瞬で粉々にされても不思議じゃない速度と威力だった。だが、
「見えてるぜ。」
俺は一瞬で鬼の背後を取り、革靴に仕込んだナイフを蹴りと共に鬼の頸へと放つ。しかし、それは寸でのところで回避され、皮一枚を切り裂く程度に終わった。
「っ!!」
「ヒカルと言ったか!! 発言を撤回しよう!! 素晴らしい!! 見事な蹴りだ!! だが俺にもお前の動きは見えているぞ!?」
「マジかよ。」
上弦の鬼より凄まじい拳打の応酬が放たれ、俺は増強した視力、腕力、脚力で何とか捌き躱す。
「驚いた!! 貴様素手で俺の攻撃を捌けるのか!! 加えて靴先に日輪刀を仕込んで戦うとは面白い!! 小細工を弄する卑怯者だと思ったが腕っぷしは中々のものだな!!!」
「ちっ・・・こいつは一筋縄じゃいかねぇか。辛だな。」
上弦の鬼より放たれる体術は一流の格闘家のそれだ。加えて、人間を遥かに超越したと思える程の動きに威力、そしてこの反応速度。
背後からの不意の一撃を躱された時点で、奴の頸を落とすのはほぼ不可能だと判断し、俺は瞬時に煙幕を起こす。
「っ!! 小賢しい真似を!!!」
ー破壊殺・砕式 万葉閃柳ー
突如凄まじい地鳴りと共に、大地が割れる。その衝撃とともに一瞬で煙幕は四散するが・・・
「っぐぅおお!! こ、これはっ!?」
「俺が調合した
薬液ボトルより噴出した液体を上弦の鬼に一閃し、胴体を泣き別れにしてやった。間髪入れず分離した下半身を遠くに蹴り飛ばす。
さらに、宙に浮いた状態の鬼の上半身に、思いっきり踵落としを食らわせて地面にたたきつける。その一撃で地を割り鬼の頭蓋がめり込んだのを確認して、俺は一度竈門たちがいる場所まで退避し距離を取った。
「ぐっ!! 凄まじい威力の蹴りだ!! だが、ただの打撃が鬼に通用するわけがないだろう。半身を切り飛ばしたところですぐに再生して・・・っ!!??」
鬼は頭をもたげて俺を睨みそう言い放つが、半身がすぐに再生しない事実に驚愕する。
「踵には毒針も仕込んである。胡蝶からもらった藤の花の毒も少しは効くようだな?」
案の定、藤の花の毒を注入した直後は再生力が鈍るようだ。俺はこの一瞬の隙に両手の手袋を外し、両腕を前に掲げ五指の先端を左右対称に合わせるような構えを取る。
「幕引きだ、上弦の参。お前ら鬼がいくら毒を分解できるっつっても、これは流石に無理だと思うぜ?」
毒血解離 【光芒一滴】
『変性血統
しかし遠大な歴史をその血に刻んだ五大名家のそれは、別格として異称される。
『躯蟲毒』。身体に蓄えられた
猛毒の効果は、その者の資質に拠るが、極めた先は・・・解毒不可。喰らえばおしまいの一撃確殺。それが--------
「っ!!」
上弦の鬼が藤の花の毒を分解し、半身を再生させる。予想よりもかなり早かった。
しかし問題はない。こちらも丁度溜めは終わったところだ。あとは奴がこちらに突進するタイミングに合わせて血を放つだけ。それだけでこいつは殺せる。そう思っていた。だが・・・
ドンッ!!
「っ!?」
上弦の鬼はその場を蹴り、遥か遠くの森の陰のある場所まで退避する。
「な、なんだと・・・!?」
俺はふと地平の彼方を見る。そちらは既に太陽が昇りかけている。即ちあの上弦の鬼は俺達を殺しきれないと判断して逃げを選んだのだ。
「逃げるな! 卑怯者!! 逃げるなああああ!!!」
ふいに竈門がそう叫ぶ。その叫び声に上弦の鬼は一瞬振り返って青筋を浮かべる。
「貴様の顔覚えたぞ小僧!!! 次会った時その脳髄をぶちまけてやる!!!」
そう言い残し、上弦の鬼は陰の中へと消えていった。
「下呂さん!! ありがとうございます!! おかげで俺たちは・・・」
「近づくなっ!!!!!」
「っ!?」
俺は傍に駆け寄ろうとする竈門に大声で警告する。事態が呑み込めないようだったが、ひとまず俺の指示通りその場で立ち止まってくれたようだ。
俺はそれを確認し、毒血解離で生成した自身の血の毒性を必死に無毒化する。
「ふう・・・ふう・・・もういいぞ・・・」
俺は全身から玉のような汗を流して膝を着く。その様子に、竈門は驚き、今度こそ傍に駆け寄る。
「大丈夫なんですか!? ひどく消耗してるみたいですし辛いんじゃ・・・」
「ああ、毒血解離を使うと必ずこうなる。解毒不可の猛毒を生成する業だが、その分生成後は殆ど動けなくなる。正直使いどころは限られる俺の奥の手だ。」
「解毒・・・不可!!?? それは鬼に対してもなんですか!!??」
「ああ、試したことがないが恐らくな。・・・そんなことより怪我人の治療だ。その炎のような着物を羽織ってる男は俺が診る。その間、お前は自分の腹の傷の治療をしてろ。」
そう言って、俺は鎮痛剤や止血剤を取り出して、その男の治療を始めた。
「驚いた。治療もできるのだな。」
「まあ、毒と薬については専門家だからな。とは言えお前の潰れた片目は流石に治せそうもない。
砕けたあばら骨についても同様だ。包帯で固定するぐらいが関の山だ。しかもその吐血量、内臓も損傷してるだろう。
早めに蝶屋敷に運び込んで治療してもらった方がいいな。隠の応援は城崎に既に頼んでるから、もう暫くの辛抱だ。
・・・ええっと、お前の名前は・・・」
「俺は炎柱 煉獄杏寿郎だ。」
「炎・・・? まさかお前は旧五大名家の炎使い*4・・・いや違うか。苗字が煉獄だもんな。俺の早とちりか。」
「どうした下呂?」
「いや、何でもない。それより煉獄は柱だったのか。まさかあの鬼が柱よりも強いとは思わなかった。よく死ななかったな?」
「君が最後の衝突時に間に入らなければ死んでたかもしれないな。ありがとう。下呂青年には助けられた。礼を言わせてくれ・・・!」
「礼なら竈門に言え。あいつが救難信号を送ってこなければ俺はきっと駆け付けることすらできなかっただろう。」
「そうか・・・竈門少年。本当に助かった。君は、君たちは俺の命の恩人だ。改めて礼を言わせてくれ・・・!!」
「っ!! 煉獄さん・・・俺はただ、下呂さんの言葉通りに行動しただけです。『誰かに助けを求めるのだって立派な強さだ』っていう言葉通りに。
だから俺からもお礼を言わせてください。本当に・・・本当にありがとうございました!!!」
俺は二人から感謝の言葉を伝えられて、思わず鼓動が早くなった。まるで、姫川*5の依頼を果たして感謝されたあの時みたいに。
そうか。やっぱりそうなんだ。今までずっと求めて来たフツーの幸せみたいなヤツを手に入れようと思ったら、たった一人でそれを掴むのは・・・無理なんだ。
こうやって・・・誰かに手を貸すことでしか・・・俺は幸せになれそうにない。それを改めて自覚した。
そうして俺たちは、城崎が呼んでくれた隠部隊が到着するまでの間、荒れ果てた地面の上で腰を下ろしたまま笑い合った。
続く
最後の下呂君の胸中については、マリッジトキシンの姫川編のラストの描写と、嵐山編で獣使いに毒血解離を放つ直前に発言した内容から判断して書きました。フツーの幸せを掴みたいと願いながらも家の都合で諦めてた下呂君が、婚活を通じて少しずつそれを実現するために人助けに全力を尽くす。そんな彼の生き様もマリッジトキシンの魅力だと思ってます。