「胡蝶。こんなところにいたのか。探したぜ。」
「っ!! 下呂さん!? ・・・いつから戻っていたのですか?」
「ついさっきだ。真っ先にお前に会いに来た。対無惨用の薬の開発の打診があったはずだが渋ってるって輝哉さんから聞いたぞ? どうしてだ?」
「どうしてって・・・」
私は蝶屋敷の仏間で自身を落ち着かせようと正座していた。先ほどカナヲがここに来て、姉さんの仇の殺し方について話し込んだばかりだ。
私はこの部屋に隠した藤の花の猛毒を服用しようと湯呑に入れてる最中だった。よりによってこんな所を下呂さんに見られるとは・・・
「・・・安心してください。もう心の整理はつきました。鬼の医者と薬の共同開発はするつもりです。なので下呂さんはこのままお引き取りを・・・」
「待て。さっきから気になっていたんだが、その紫色の液体は何だ? なぜ湯呑に入れている。説明してくれ。」
私が下呂さんの要件を察して共同開発の意を伝え、このまま帰ってもらおうと思ったのに、目ざとい彼は私が今一番指摘されたくないことを聞いてくる。
「・・・ただの薬です・・・最近体調が優れないので服用するようになったんです・・・お引き取りを・・・」
「・・・・・・」
下呂さんはいぶかしむ視線を向けてくる。そしてあろうことか靴を脱いで仏間に上がり込む。
私は身構えたが、下呂さんは部屋の香りを確認するような仕草をしていた。
「・・・俺は生い立ちのせいで、薬物毒物においては竈門並みに鼻が利く。だからごまかしは効かねぇぜ。
それ毒だろ? 藤の花の。人間に即効性のある代物じゃないかもしれないが、服用を続ければ体調不良や体質悪化に繋がることが容易に想像できる。
なぜそんなものを摂取しているんだ?」
「・・・・・・」
私は答えられなかった。いい言い訳が思いつかない。私が黙っていると下呂さんは聞きたくもないウンチクを語りだす。
「マメ科の植物にはシチシンという毒性のアルカロイドが含まれていることが多い。過剰摂取は呼吸機能を妨げるからお前達呼吸使いからしたら致命的だ。
加えて吐き気、嘔吐、眩暈、下痢、胃痛の副作用も出てるはず。お前にとってデメリットしかないその毒物をなぜ執拗に摂取してるんだと俺は聞いているんだ。答えろ。」
「・・・下呂さんには関係ありません。お引き取りを・・・」
「俺に関係なかったとしても蝶屋敷のメンツには関係あるだろ。屋敷の長が中毒で体調不良起こして動けなくなったらこの医療施設は立ち行かなくなる。
だから理由を聞いているんだ。なぜそんな無意味なことをしてるんだと。気づいてしまった以上俺は見過ごせない。」
「・・・さい・・・」
「ん?」
「・・・五月蠅い・・・黙れ・・・無意味なんかじゃない・・・!!」
「は? 急にどうした?」
「無意味なんかじゃないってそう言ったんです・・・!! 下呂さんだって幼少期の頃から致死毒を度々摂取してるって言ってたじゃないですか・・・!? 私もそれと同じようなことをしてるだけです・・・!!」
「は? 俺は下呂家の変性血統で遺伝的に毒に耐性があるから問題ねぇが、お前は違うだろ? そもそも俺らのは仕事で必要なことで・・・」
「私だって必要なことです!! 姉さんの仇を討つ為には避けては通れないことなんです・・・!!」
「姉の仇? それってつまり・・・鬼殺のためってことか? でもお前は既に毒で鬼殺せるだろ?」
「そうですね・・・でも上弦の鬼に通用するかはわかりません・・・なのでこの服毒は下呂さんの毒血解離と同じく奥の手みたいなものです・・・止めないでください・・・」
「は? お前が服毒した毒をどうやって相手に投与するっていうんだ? 俺みたいに毒血の生成なんて芸当、使い手でもないお前ができる訳ないだろ?」
「ふっ・・・生成する必要なんてありませんよ・・・この躰ごと奴に食わして毒殺する・・・私の体重分の毒を一度に摂取すれば例え上弦であろうと殺せるはず・・・!!」
「・・・は・・・?」
下呂さんの説教が聞いてられず、言い負かしたくてつい感情的になってしまい、私は隠し通そうとしていた自身の決意をつい漏らしてしまった。
下呂さんもそれを聞いて黙ってられないとばかりに非難の声を上げる。
「何とんでもねぇこと言ってやがる!? 自分の躰ごと鬼に食わせる!? 100%死ぬじゃねぇかそんなことしたら!!!」
「・・・そうですね・・・でもそれで姉さんの仇・・・強いては上弦の鬼を殺せるならそれでいいじゃないですか・・・きっと大勢の人の命が救われますよ?」
「お前・・・言っていいことと悪いことがあんだろ・・・!!」
「・・・下呂さんだって変性血統使うたびに毒の注射してる癖に・・・」
「ああ? あれとお前の特攻を一緒にすんじゃねぇよ。俺のは命懸けのやり取りで殺されないようにするための秘策だが、お前のは違うだろ? 死ぬこと前提の策なんてその歳で考えるんじゃねぇよ。お前はまだ子どもだろ?」
「馬鹿にしないでください。私だってもう十八です。立派な大人です。」
「大人の自負があんならもっと自分の命大事にしやがれ・・・!! 餓鬼みたいなこと言うんじゃねぇよ・・・!!」
「ああ、もう、五月蠅い!!!!! 貴方に何がわかるんです!!?? 大切な姉を殺され仇が今ものうのうとこの世に生きている!!! それが心底我慢ならないんです!!!
加えて私には鬼を斬るだけの腕力もない!! それなのに・・・どうやって上弦の鬼を殺せばいいって言うんですか!!??」
「だったら他人を頼れ!! 助けを求めろよ!! 一人でなんでもかんでもやろうとしてんじゃねぇ!!!」
「いい加減にしてください!!! これは私の復讐なんです!!! 他の人に頼れる訳ないでしょ!!??」
「だとしても自殺まがいなことするぐらいだったらせめて先輩や俺みたいな年上を頼れ!! 自分の命を何だと思っている!? 蝶屋敷の他の奴らだってそんなの望んでいないはずだろうが!!」
「部外者は黙っててください!!!
・・・カナヲには伝えたんです。私が上弦の鬼を弱らせて、カナヲがとどめを刺す。もうそれでいいじゃないですか。」
「っ!! ・・・栗花落は了承したのか?」
「ええ。驚いていましたが、最後は納得してくれました。私達師弟で姉さんの仇を討つ。邪魔だけは承知しませんよ・・・!!」
私は肩で息をしていた。ここまで感情を揺さぶられたのはいつ振りだろうか。ただこれで下呂さんは何も言ってこなくなったしこれで良かったはず。
私は満足げに笑みを浮かべるが、下呂さんはため息を付くと、懐から注射器を一本取り出して私に近づく。
私はその注射器の気配に戦慄する。
「っ!? なっなんですか!? それ!?」
「藤の花の毒を中和する薬だ。俺が開発した。他の隊士がうっかり俺やお前が使ってる毒を薬と間違えて服用したときのためにな。これを今からお前に処方する。」
「っ!!??」
私は立ち上がり下呂さんの頬を全力で平手打ちする。しかし下呂さんは怯むことなく、私の片腕を掴む。
「やめてください!!! 大声出しますよ!!??」
「もう出てるだろ? それに他の連中にこのことがバレた方がお前を止めるには丁度いい。」
私は全集中の呼吸を使って振りほどこうとするが、下呂さんの腕はそれでも外れなかった。
その様子を見て、下呂さんは眉をひそめる。
「・・・お前・・・力こんなに弱かったか? 以前組手した時はもっと力あっただろ? やっぱり毒の影響出てんじゃねぇか。」
「ふざけないでください!!! いいから手を離して!!!」
「それに今気が付いたが・・・お前・・・相当顔色悪いぞ・・・深紅の紅を刺してるのは年頃の女性らしく身だしなみに気を遣ってるとばかり思っていたが・・・まさか日に日に悪化する体調不良を隠すためだったとは思いもしなかったぜ。
手だって病人みたいに冷たいし・・・このまま服毒してたら数ヶ月もしないうちに死んでたんじゃないか? 何はともあれこれを処方すれば数日で・・・」
下呂さんの注射器が私の腕に刺さりそうになり、私はもう気が狂いそうだった。
私は思わず、下呂さんの鳩尾に思いっきり肘鉄を食らわしてしまった。
「ぐおっ!!!」
「いい加減にしてください!!! 邪魔しないでって言ってるんです!!! 部外者のくせに余計な事しないで!!! もう二度と蝶屋敷の敷居を跨がないで!!!」
私は痛みに悶絶する下呂さんを置き去りにしてその場を立ち去り、蝶屋敷の薬剤室に向かう。
「あれ? しのぶ様、どうされました? さっき口論するような声が聞こえ・・・」
途中でアオイとすれ違ったが、私はそれに答える余裕もなかった。薬剤室に入った途端部屋の扉を閉めて鍵をかけ、そのまま閉じこもってしまった。
続く
十代女子の片腕掴んで注射器打とうとしてる成人男性とか絵面がヤバすぎる・・・
普通に考えて超絶恐怖体験じゃん・・・城崎が居たら絶対止めてたと思うけど・・・
まあ下呂君は望まない殺人を強要され続けて来た分、命を粗末にするしのぶさんを放っておけなかったんでしょう。だからといってやり過ぎだとは思いますが・・・
続きは次回に持ち越します。続きが気になる人はお気に入り登録お願いします。