原作程の驚きは得られないかもしれませんが、頑張って知恵を絞ってみました。「なるほど~」と思ってもらえれば書き手冥利に尽きます。
「漸く完成しましたね。流石珠世さんです。人間化薬と併せて老化薬、機能阻害薬に細胞破壊薬まで作ってしまわれるなんて。」
「いえ、これも全てしのぶさんのおかげです。私一人ではこのような多彩な薬を開発することはできなかったと思います。重ねて感謝申し上げます。」
ここは産屋敷邸の一室を改装した研究室。胡蝶と珠世さんは対無惨用の薬が漸く完成し喜んでいたのだが・・・
「どうしましたか? 下呂さん? 何か気になることでも・・・」
胡蝶がそう不思議そうに俺の様子を伺う。俺は顎に手を当ててある懸念事項について考えていた。
正直鬼については俺よりも目の前の二人の方が遥かにエキスパートだ。ここは一人で悩むよりも二人に相談すべきだと俺は判断した。
「済まない。完成したところに水を差すようなことを言っちまうかもしれねぇが・・・」
「ヒカルさん。気になることがあるなら仰って下さい。まだ無惨が現れるまで時間もあるでしょうから・・・」
珠世さんがそう促すので俺は遠慮なく自身の思い付きを述べる。
「・・・無惨は鬼だ・・・人間の常識が通用しないかもしれない・・・」
「・・・と言うと?」
胡蝶も珠世さんも怪訝そうに俺を見る。俺は続ける。
「確かに完成した薬は俺の毒血解離同様分解はできない。例え、無惨であったとしてもそれは例外ではないだろう。だがもし・・・分解以外でこの薬を無害化する方法に奴が気づいたとしたら・・・」
「・・・え・・・それはどういう・・・」
「これはあくまでも憶測だ。間違っていたら二人に指摘してほしい。もし無惨がこの薬を『解毒』ではなく『排毒』で無害化しようと試みた場合・・・奴は生き残るんじゃないか?」
研究室にいる全員が沈黙する。俺は二人の様子を伺うが、やがて珠世さんが口を開く。
「可能性はあります。あの男はお世辞にも知恵が回るとは言い難いですが、生き汚い男であることは間違いありません。
もし、死の間際に、生の執念からその抜け穴に気が付くことは充分に考えられます。しかしそうなると・・・」
「そうなると薬の開発をもう一度見直す必要がありますね。折角の完成品ですが、作り直すことも視野に入れなければいけません。」
「悪い、胡蝶。本当はもっと早く俺が気づいておくべきだった。二人にはすげぇ頑張ってもらったっていうのに・・・」
「構いませんよ? 寧ろ今気がつけて良かったです。大丈夫です。三人寄れば文殊の知恵と言いますから。」
胡蝶は不安がっている俺をそう元気づけてくれる。本当に世話になりっぱなしだ。とは言え、ここからどうアイデアを絞り出せばいいか・・・
「実は私、一つだけ案があるんです。薬が完成して不要かなって思ってたんですけど、下呂さんのおかげで試すことができそうです。」
「本当ですかしのぶさん。一体どのような・・・」
「はい。いっそ、分解もしくは排出された時に新たな効果を発揮するように薬を開発しておくんです。それならどっちに転んでも無惨を滅ぼすことができます。」
「新たな効果? 具体的にどうするんだ? 胡蝶。」
俺は疑問に思い尋ねる。胡蝶は得意げに俺に笑みを浮かべて説明を始める。
「はい。下呂さんは脚気という欠乏症を聞いたことはありますか?」
「ああ。確かビタミンB1が不足して末梢神経障害や心不全、全身の倦怠感、手足のしびれ、むくみといった症状が現れる病気のことだろ?」
「流石は下呂さん。物知りですね。そうです。人体はある物質が欠乏すると機能不全を起こすようにできているんです。なので今回無惨に投与する薬はそこから着想を得たいと思います。」
「・・・つまり?」
「ええ。まずは現在完成している薬を打ち込みます。そして、それらの効能が効くと同時に無惨の身体を作り替える機能を持たせておきます。それらの薬が体内から消えた瞬間欠乏症を発症するように・・・」
「なるほど!! そういうことか!!! 薬がそのまま効けば良し。分解もしくは排出されても欠乏症の効果が効くから良しの状態に持っていくんだな!?」
「はい。その通りです。下呂さんはやはり物分かりが良くて助かります。そのように薬を設計しておけば薬そのものが効かないという事態に陥らない限り確実に無惨に打撃を与えることができます。まさに必勝の策です。」
「驚きました・・・まさかしのぶさんがここまでの案を思いついてしまうとは・・・」
「やっぱり胡蝶はすげぇな。お前が居てくれて本当に助かったぜ。ありがとな。」
「い、いえ! お役に立てたようで良かったです///!!」
「しかし、問題はどうやってその薬を調剤するかだな。鬼の体に詳しくない俺じゃ皆目見当もつかないが・・・」
「心配には及びませんよ、ヒカルさん。私は300年以上鬼の体を研究し続けてきました。しのぶさんの案を必ずや実現して見せます。ご安心ください。」
「すげえ・・・二人とも本当にすげぇよ・・・これなら確実に無惨を・・・!!」
「「はい。葬れると思います。」」
「おい、下呂。このままこの鳴女を操作しなく本当にいいのか? 地上に叩き出さなくて本当に無惨を殺せるのか?」
「ああ。今頃、胡蝶立案の薬が無惨の身体を機能不全に陥れているはず。脚気に加え、壊血病の症状でまともに戦えないはずだ。なあ? 胡蝶?」
「はい。なのでこの鳴女という鬼さえ抑えてしまえば、もう無惨は逃げることも戦うこともできなくなります。私たちの勝利です。」
俺と胡蝶は猗窩座との戦闘を終えた後、愈史郎と合流して鳴女の元へ案内してもらった。
先に蛇柱の伊黒と恋柱の甘露寺が戦ってくれたおかげでいい陽動になった。
俺達は愈史郎の目隠しの札で認識阻害した上で近づき、めでたく鳴女の支配権を愈史郎に獲得してもらったのだ。
「ただ念のため、お前の札で無惨が今どうなってるか確認してくれないか? 万が一の事態には備えたい。」
「わかった。お、もう倒し終わるぞ。お前らにも特別に見せてやる。この札を使え。」
そうして愈史郎はこの場にいる俺と胡蝶に加え、竈門、栗花落、我妻、嘴平、伊黒、甘露寺に札を順次配っていく。
各々が視覚共有を行い、無惨の最期を確認する。
「つ・・・ついに・・・無惨が・・・!!」
「やったね、炭治郎。師範の薬のおかげだね。」
「あ、てか現場に獪岳までいる。あいつどうやって辿り着いたんだろ。」
「ダァアアア!! 俺も戦いてェエエ!!!」
「まさか・・・あの無惨がこうもあっけなく最期を遂げるとは・・・」
「ほんとにほんとなのね! ついに無惨が倒されるのね! これでもう誰も死ななくて済むようになるわ!」
各々がその光景を見て呟いている。俺も胡蝶もその様子に安堵しながら、愈史郎の札で現場の様子を確認した。
「鳴女ェエエ!!! どうした鳴女ェエエ!!! 早く私をこの鬼狩り共から引き離せ鳴女ェエエ!!!!!
聞こえているのか鳴女ェエエ!!! いいから早く返事をしろ鳴女ェエエ!!!
折角上弦の肆まで取り立ててやったのだぞ!!?? 肝心なところで仕事ができないなどありえんだろうがァアアア!!!!
鳴女ェエエ!!! いい加減にしろ鳴女ェエエ!!! 早く私を逃がせ鳴女ェエエ!!!
このままでは本当に鬼狩り共にこの私が殺されてしまうだろうがァアアア!!!!!
何とかしろ鳴女ェエエ!!!!! 鳴女ェエエ!!!!! 鳴女ェエエ!!!!!
鳴女ェエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!! 」
「南無阿弥陀仏っ!!!!!」
俺は愈史郎の視界を通して、吐血しながら満足に体を動かせず、床に這いつくばりながら柱達の攻撃を受け続けている哀れな生き物の最期を見届けていた。
最期は岩柱の悲鳴嶼が赫赫と発光した鉄球と斧をありったけ打ち下ろし、無惨をミンチにしていた。
やがて聞くに堪えない鳴き声は聞こえなくなり、見るも無残な無惨の死骸は消し炭のように塵へと消えた。
続く
以上で無惨戦決着です(戦いと呼べるかは別として)。
結末としては如何だったでしょうか。是非ご感想頂けると嬉しいです。
最後の薬のモデルにしたビタミン欠乏症の概念は1910年にはあったそうです(大正元年の2年前)。
しのぶさんなら知ってても可笑しくないなと思い、彼女の聡明さを表すエピソードとして最後に盛り込みました。
無惨も「毒を排出すれば良いだけではないか!!」みたいなことを調子に乗ってのたまってましたが、そんな幼稚な発想、下呂君や珠世さんしのぶさんが思いつかないはずもありませんよね?
とどめこそは悲鳴嶼さんにお願いしましたが、結果的に下呂君らしい毒薬で倒すという決着の仕方で終われて満足しています。
本小説もついに終わりを迎える・・・と言いたいのですが、42話まで続く予定です。長くなってしまい申し訳ありません。下呂君が最後どうなるのか、最終回まで読んで見届けて下さると嬉しいです。