鬼滅の毒使い   作:科学大好き人間

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下呂君視点です。ここからあっさり終わらせてもよかったんですが、ある人物の描写を盛りたくて話数が増えてしまいました。その分毎日投稿するのでお待たせする日数はそう掛からないかと思います。この物語を最後まで読んで下さると幸いです。


35話 毒使い、婚活アドバイザーに諭され初心に帰る

「胡蝶。あれから具合はどうだ?」

 

「はい。おかげさまでかなり身体が楽になりました。これも全て下呂さんが処方してくれた藤の花の毒の分解薬のおかげですね?」

 

「まあ・・・解毒に関しては妹の方が得意だが・・・これくらいなら俺にも作れる。効いてるようで良かった。」

 

「ふふっ、もう以前のような体調不良もなくなりましたよ。血色も良くなったみたいで、蝶屋敷の子たちも安心してくれています。」

 

「そいつは良かった。今まで心配かけた分、元気な様子を見せないとな。」

 

 

ここは蝶屋敷の診療室。本来であれば胡蝶が主治医として患者の診察を行う部屋だが、今だけは立場が逆だ。

 

俺は胡蝶が童磨を倒したあの日以降から、定期的に藤の花の毒の分解薬を胡蝶に処方している。

 

その甲斐もあってか、無惨討伐戦前夜までには主だった副作用もなくなり、無惨討伐後においては血色も食欲も改善して体重も徐々に戻って来ている。

 

最初37kgしかないと聞いた時は驚愕した。とても成人手前の女性の体重とは思えなかった。本当に死にかけてたんだと俺はその時肝を冷やした。

 

マメ科の毒には食欲不振にさせる働きもある。マメ科に属する藤の花の毒も同様なのだろう。

 

そうまでして毒を毎日摂取していた胡蝶の執念に身震いするが、それも今となっては過ぎ去った話だ。

 

こいつは漸く年相応の少女としてこれからの人生を歩めるんだな。少なからずの縁を持った俺としてはそれが只々嬉しかった。だが・・・

 

 

「えっと・・・これは聞いてもいいことなのかわかりませんが・・・下呂さんの方は・・・結局どうなったのですか?」

 

 

胡蝶が注射器で打たれた腕の袖を戻しながら、俺に遠慮げに聞いてくる。

 

 

「ん? どうっていうのは?」

 

 

俺はやや気落ちしているのか力なく聞き返す。そんなことしなくても胡蝶が聞きたいことなんてわかり切ってるはずなのに・・・

 

 

「その・・・結局未来には帰れそうなのですか?」

 

「・・・・・・いや。」

 

 

俺はそう静かに答える。きっと今の俺は以前毒で死にかけていた胡蝶よりも生気の無い面をしているんだろう。

 

俺の様子を見て、見るからに胡蝶も元気をなくしている。

 

年下の奴になんて顔させてるんだと俺は自身に言い聞かせながら、虚勢を張って笑みを浮かべる。

 

 

「まあ、うすうすそんな気はしてたよ。加えて無惨が俺たちの時代転移と無関係だと知って俺は確信した。『ああ、これはもう元の時代に帰るのは無理そうだな』ってな。

 だからまあ・・・今は少しずつ受け入れるようにしてる。」

 

 

俺は使用した注射器を医療用ごみ箱の中に放り込んで立ち上がる。

 

無惨を討伐して約2週間経過した。この蝶屋敷に大勢の怪我人が運び込まれて大忙しの毎日だったから余計なことを考える必要がなかった。

 

しかし今ではよっぽどの重症患者以外は入院していないようになり、これから先少しずつ軽症者の通院頻度も減っていくのだろう。

 

おかげで無駄に考える時間が増えてしまう。俺はそれが堪らなく不快だと思い、そのまま部屋を出ようとした。だが・・・

 

 

「あ、あの! もしよろしければこのまま蝶屋敷で働くのはどうですか!? 数ヶ月後には鬼殺隊も解散すると思いますし、そうなったらこの屋敷を診療所にしようと考えているんです!

 他に行く当てもないのであれば、下呂さんにはここで一緒に働いてほしいと思っています!  ・・・・・・如何でしょうか?」

 

「・・・・・・」

 

 

俺は背を向けたまま、部屋の扉の前で立ち止まる。胡蝶は俺に気を遣ってくれているのだろう。十代の女子にこんな風に心配させるなんてつくづく俺は情けないなと自嘲する。

 

 

「そうだな・・・考えおくが・・・一旦城崎に相談させてくれ・・・あいつを巻き込んじまったのは俺なんだ。

 あいつが是が非でも元の時代に帰りたいっていうのなら、俺はあいつと一緒に手がかりを探すため、この屋敷を離れるだろう。

 お前への回答は・・・その後にさせてくれ・・・」

 

「・・・はい・・・」

 

 

胡蝶の悲しそうな声が聞こえたが、俺は振り返らなかった。とても今は機嫌を取ってやれるような気分じゃない。

 

俺はそのまま診療室を退出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやさ、胡蝶さんの提案聞き入ればいいじゃん? 何冷たくあしらってんの? 下呂君さぁ・・・ホントそういうところ良くないと思うよ?」

 

「・・・マジかよ・・・」

 

 

俺は間借りしてる部屋で城崎と話し合っていた。これからどうするのかを。しかし相談した途端、城崎から苦言を呈される。

 

 

「全く・・・そんなだと婚活初心者白帯以下だよ。今の下呂君は私が鍛え上げたイケてる男子の面影もないよ。全くやんなっちゃうよ。」

 

「・・・そこまで言われるほどのことなのかよ・・・」

 

 

俺は力無く言い返す。なんか力抜けるな。こいつなんでガッカリしてないんだよ。その様子に徐々にだが腹が立ってくる。

 

 

「城崎・・・お前現代に帰りたくないのか?」

 

「はぁあ!? 帰りたいに決まってんじゃん!! いい加減お肌のケアしたいし!! エクステしたいし!! もう下呂君お手製の化粧品だけでやり過ごすの限界なんだけど!!」

 

「・・・なんで俺が怒られなきゃなんねぇんだよ・・・」

 

 

城崎は俺の発言に対し、現状の不満をぶちまけてくる。いや、だったらなんでこいつこんなに悠長にしてるんだよ。発言と行動が矛盾してんだろ・・・

 

城崎は一度大きな溜息をつくと、俺の目を真っすぐに見据えて語り掛けてくる。

 

 

「下呂君。諦めちゃ駄目だよ。まだ帰れないって決まった訳じゃないし。」

 

「ああ? だったらなんでこの屋敷に留まろうとしてんだよ? 胡蝶の仕事手伝うことの方が手がかり探しに行くことより大事だって言うのかよ?」

 

「うん。大事だね。下呂君こそ目の前で困ってる人を放っておかないところが君の一番の魅力なのになんでそんなこと言うようになっちゃたの?」

 

「・・・俺に魅力なんてねぇよ・・・」

 

「いいや、あるね。だって私が磨いてあげてるんだから。そんじょそこらの男子達じゃ太刀打ちできないように育てるし。」

 

「もう意味ねぇよ・・・現代に帰れなかったら・・・俺はもう婚活する意味なんてねぇ・・・」

 

「は? 下呂君、ちょっと、それ本気で言ってる?」

 

 

城崎がマジトーンで俺に聞き返してくる。一瞬冷や汗が出た。こいつ下手に怒らせると無惨よりも黒死牟よりもある意味厄介だし・・・マジでどうすっかな・・・

 

俺は観念して今の自身の心境を吐露する。

 

 

「俺は・・・妹が本気で好きな奴と結ばれるように・・・そのために婚活を始めた。

 五大名家の変性血統は途絶えさせちゃいけねぇ・・・少なくとも俺のお婆ちゃんと先生はそう本気で思ってる・・・

 俺がどう思おうが何言おうが強制的に跡継ぎを作らなきゃいけねぇんだ。家の圧力のせいでな。

 だから俺は婚活を始めた。俺が跡継ぎを作るために。でももう現代には戻れなくなった。その結果、妹のアカリは俺の代わりに望まない相手と結婚させられて、無理矢理跡継ぎを産ませられる。

 だからもうどうでもいいんだよ・・・自分磨きとか・・・そんなの・・・もう疲れた・・・俺はもう一生独り身でいいんだよ・・・」

 

 

最後の方は絞り出すように吐露したからか、声がかすれていた。我ながら呆れる。要は今の俺って・・・元の時代に帰れなくて自暴自棄になってるだけじゃねぇか・・・

 

俺が俯いていると、城崎は一言呟いた。

 

 

「下呂君さ・・・」

 

「なんだよ・・・」

 

 

俺は俯いたままだった。今の俺ってどんな面してんだろうな。とてもじゃねぇが、こんな情けない姿、城崎以外には見せらんねぇ。

 

一方で城崎は諭すように俺に語り掛ける。

 

 

「以前私聞いたよね? 『本当に下呂君は家督のためだけに結婚したいわけ?』って・・・」

 

 

俺は反射的に顔を上げる。

 

 

「城崎・・・」

 

「それに下呂君はこうも言ってたよね? 『俺だって本当に好きな相手と出会ってフツーに仲良く楽しい人生送りてぇよ』って・・・あれは嘘だったの?」

 

「・・・それは・・・」

 

 

俺は城崎の指摘に圧倒される。今の俺は思うように言葉が出てこなかった。

 

 

「私忘れてないよ? 下呂君が妹さんに言った言葉。『大切だと思える誰かと出会って連れ添えるのは死ぬほど奇跡みたいなことだからお前は彼女と生きるべきだ』って・・・

 あれこそが下呂君の嘘偽りのない本音だと思ってるよ? それこそが下呂君が本気で婚活する動機だと思ってるんだけど・・・下呂君は忘れちゃったの?」

 

「・・・・・・」

 

 

俺は唖然とする。なんで忘れてたんだろう。確かに最初は家の為だった。妹の為だった。でも城崎に諭されて俺はあの時、自分の本音を自覚したんだ。

 

大切な人と・・・一緒に心穏やかに生きたい・・・そう思ってしまうんだって・・・

 

毒使いの俺がそんなことを思うなんて反吐が出ると思っていた。

 

でも城崎は教えてくれたんだ。人間にはマジでいろんな奴がいるから、自分のハラ見せてボロボロになるまでやっていけば、そんな人が必ず現れるって。

 

みんなそうやって理解し合ったり衝突しながら自分の最高の相手を見つけてるんだって。

 

あの日のあの言葉があったから・・・俺は・・・誰かに本音を言ったり心を開くなんていうことが出来るようになったんだ・・・なぜそれを今の今まで忘れてしまったんだ・・・!!

 

 

「げ、下呂君? 大丈夫? ちょっときつく言い過ぎたかな?」

 

 

俺が目を見開いて固まっていると、城崎は困ったように調子を崩す。そんな様子を見て、つい俺は笑ってしまう。

 

 

「ちょっと、下呂君? 人が心配してる様子見て笑うとかどうかしてると思うんだけど・・・」

 

「いや、悪い城崎。お前のおかげで大事なことを思い出したぜ。ありがとな?」

 

「ん? おお・・・いいってことよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は城崎のおかげで吹っ切れることができた。なんだかんだ言って、こいつは俺の最高の婚活アドバイザーだなって改めて実感した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

 




さて、下呂君達はどうやって現代に帰るのか、これからどうするのか、そしてある人物との関係はどうなるのか、是非楽しんで頂けると嬉しいです。
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