鬼滅の毒使い   作:科学大好き人間

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しのぶさん視点です。読んでてしんどかったら無理せずブラウザバックして下さい。最悪最終話まで待って頂いてもいいので。一応、次回で希望の兆しが見えるような描写を入れる予定ではいます。


39話 蟲柱、別れの季節に物悲しく思う

「みんな、来てくれてありがとう。今日が最後の柱合会議だ。」

 

 

 

4月。桜の咲く季節になった。鬼が滅んで約3ヶ月経ち、鬼殺隊の中でも平和の様相で溢れている。

 

遂に今日で鬼殺隊は解散する。

 

この場には9名の柱が集い、お館様の前で正座したまま正対している。私はその一番後ろに隠れるようにして座っていた。

 

やがてお館様がこれまでの鬼殺隊への献身を感謝し、頭を下げる。その瞬間、柱の皆さんからそれを辞めさせるために様々な産屋敷家への労いの言葉が放たれる。

 

でも私はどこか心ここにあらずだった気がする。

 

私のその様子に、隣に座っていた甘露寺さんが気づき、小声で耳打ちしてくる。

 

 

「ど・・・どうしたの? しのぶちゃん。何だかずっと浮かない顔してるけど・・・」

 

 

他の皆さんには聞こえないように喋ってくれたのが有難かった。私は力無く微笑を浮かべ、その問いに答える。

 

 

「ええ・・・別れの季節ですからね・・・少し物悲しく思っていたのですよ・・・」

 

「えっ! 大丈夫よしのぶちゃん! 鬼殺隊が解散してもまた会えるわ! 今度また美味しいパンケーキ焼いてあげるから元気出して!」

 

「はい・・・ありがとうございます・・・」

 

 

私は静かに返事をする。

 

今ならわかる気がする。甘露寺さんがどんな気持ちで鬼殺隊に入ってきたのかが。

 

『添い遂げる殿方を見つけるため』という他の隊士で類を見ないような動機で入隊した彼女は、今では意中の人と想いを通わせ、婚約までしたそうだ。

 

伊黒さんは少し変わった人ではあるけれど、誰よりも甘露寺さんのことを大事にしてくれるに違いない。

 

かつての私はそんな日が来たら心の底から祝福しようと思っていたものだ。その気持ちに嘘偽りはない。けれど・・・

 

 

「ありがとう。私の可愛い子供たち。最後に・・・此度の戦いで陰ながら大いに活躍してくれた私の協力者にも感謝の念を伝えたい。入ってくれ。ヒカル。」

 

 

やがて静かにふすまが開き、私は入室してきた人の姿を見て肩を跳ねさせる。そしてすぐに俯いてしまった。

 

 

「失礼する。」

 

 

そう言って、下呂さんはふすまを閉めてそのすぐ手前で正座する。彼と目を合わせるのが怖くて私は顔を上げることが出来なかった。

 

 

「皆も知ってる通り、下呂家という名家の御曹司であるヒカルは、ある理由で私達鬼殺隊に協力してくれていた。

 彼の献身は柱の皆とも一切見劣りしない。十二鬼月の上弦の鬼四体の討伐に貢献し、最終決戦ではしのぶと珠世さんの三人で協力し、無惨を確実に仕留める毒薬まで作り出し且つ現場で直接無惨に投与してくれた。それが決め手となり、最後は行冥の手で無惨の命を絶つことができた。

 加えて彼は無惨討伐後もひたすらに隊士たちの治療に専念してくれた。鬼殺隊を代表してこの場で改めて礼を言わせてほしいんだ。本当にありがとう。ヒカル・・・」

 

「・・・お構いなく・・・」

 

「ふふっ、照れくさいのかな? そんな君の一番の望みは現代に帰ることだったよね? 柱の何名かは直接彼から事情を聞いてたと思うが、彼は未来から来た人間なんだ。

 きっと神仏が遣わした我々への一助だったんだろう。最後に皆にそのことを知ってほしくてこの場で彼を呼び出したんだ。ヒカルも招集に応えてくれてありがとう。」

 

「・・・いえ・・・」

 

 

柱の半数は下呂さんと接点がなかったから、瞬間驚きに声を上げている人もいた。

 

暫く下呂さんと柱の間での問答が続くが、やはり私は心ここに有らずだった。

 

私は話が終わるまでの間、下呂さんに想いを打ち明けてから数日経ったあの日のことを思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「済まない。胡蝶。少しいいか?」

 

「はい、何でしょうか? そんなに改まって。」

 

 

私は何度も繰り返したであろう、藤の花の毒の分解薬の処方を受けていた。ここは診療室で、下呂さんと二人っきりになりやすいある意味私のお気に入りの場所になった。

 

彼と想いを通じ合わせたことが本当に嬉しくて、私はここ数日、自身の人生に春が訪れたような心地よさと温かさを感じていた。

 

何をするにしてもウキウキし、常に心が弾む。つい笑みが零れてしまう毎日だった。

 

下呂さんも女性と話すのはもともと苦手な方と言っていたので、暫くしてもずっと私との会話はぎこちなかったが、それが逆に私の気持ちを高揚させた。

 

下呂さんも私のことを意識してくれているんだと感じられて私は嬉しかった。けど下呂さんがずっとぎこちなく話していたのは別の理由からだったのだとこの時私は知ってしまった。

 

 

「済まない。胡蝶。輝哉さんが現代に帰る方法を見つけたらしい。」

 

 

私は一瞬何を言われたのか分からなかった。いや、きっと脳が理解を拒んでいたのだろう。

 

私は笑みを浮かべたまま固まってしまう。

 

 

「輝哉さんが言うには・・・奥方のあまねさんという人が元々神職の家系の人で、予知夢を見たらしいんだ。

 俺と城崎がこの時代に連れてこられること・・・そして・・・無惨を倒してこの時代から去ることを・・・だから時代を行き来するための手段をずっと前から把握していたらしい。

 丁度今から三か月後、あまねさんの実家の神社の鳥居を俺と潜ること・・・それが現代に移動するための方法なんだそうだ。

 その日を逃すと・・・それ以降元の時代に戻れるかはわからないらしいんだ。だから俺と城崎はその日になったら帰らなければならない。

 折角お前から好意を伝えてもらったのに・・・本当に申し訳ない・・・」

 

 

私は笑みを浮かべたまま固まったままだった。徐々に血の気が引く。下呂さんの言葉の意味を理解してしまったからだ。私は震えながら声を絞り出す。

 

 

「・・・それはつまり・・・三か月後にお別れ・・・ということでしょうか・・・」

 

「・・・ああ・・・」

 

 

私は頭を思いっきり鈍器で殴られたような錯覚を覚え、眩暈を催す。思わず吐きそうになり、口元を手で覆う。

 

 

「こ、胡蝶!? 大丈夫か・・・!?」

 

 

あれ・・・おかしいな・・・下呂さんの声が遠くから聞こえる・・・視野も狭窄し始めた・・・そうか・・・今息してないからか・・・頭に酸素が回らないから・・・

 

気が付けば私は自室の布団の上で横になっていた。すぐ傍には下呂さんが腰を下ろしていた。

 

 

「大丈夫か? 胡蝶・・・」

 

「下呂さん・・・」

 

 

私は下呂さんの顔を見て思わず涙が溢れてしまう。部屋に静かに私のすすり泣く声が響く。

 

 

「済まない・・・胡蝶・・・」

 

「わかっていたんです・・・いずれ別れが来るって・・・それが早いか遅いかの違いだけで・・・」

 

 

私の嗚咽が部屋中に鳴り響く。

 

下呂さんは居た堪れないのかその場を立ちあがる。

 

 

「手拭い・・・取ってくる・・・少し待ってろ・・・」

 

 

嫌だ。行かないで。そう言いたかった。でも私は泣くことしかできなくて言葉を発することが出来ない。

 

どうしてだろう。もともと私はこんなめそめそ泣いたりするような堪え性の無い性格じゃなかったはずなのに。

 

ふと姉さんが言ってた言葉が思い起こされる。好きな男の子ができたらカナヲは変わる。でもそれはカナヲに限った話じゃなかったんだ。

 

私は変わった。変わってしまった。かつての蟲柱の胡蝶しのぶとは似ても似つかない。きっと今の私を見たら他の人達は幻滅するだろう。死んだ姉さんだったらどう思うのだろうか。胸が痛む。

 

私は自覚してしまった。

 

ここにいるのは・・・ただ好きな人に振り向いてもらえなくて泣くことしかできない・・・どうしようもない女ただ一人だけだと・・・

 

暫く私が涙で枕を濡らしていると、唐突に外で言い争う声が聞こえる。恐らく下呂さんと城崎さんだ。あまりの口論の激しさに聞き耳を立てていなかったのに言葉が聞き取れてしまった。

 

 

「はぁあ!? 信じらんない!!! それで胡蝶さんから距離取るって言うの!? マジであり得ないんだけど!! 鬼畜か己は!!!!」

 

「仕方ねぇだろうが!! 別れが決まってんなら傍に居たって傷つけるだけだろ!? お前の方が鬼畜だろうが!!!」

 

「私前にも言ったじゃん!! 大事なのは今なんだって!! 三か月後別れるかもしれないならその分胡蝶さんの気持ちに報いるべきでしょ!!??」

 

「だからそれが残酷だって言ってんだよ!! それで別れる直前どんな面してあいつに弁明しろって言うんだよ!!?? 恋愛経験のない俺に気の利いた台詞言えるわけねぇだろうが!!!!」

 

「気の利いた台詞なんて私が胡蝶さんだったら聞きたくもないよ!! ちょっと下呂君そこで正座しなよ!! 一から私が説教してやる!!!」

 

「うるせえ!! なんでお前に説教なんてされなきゃなんねぇんだよ!!!」

 

「私が下呂君の婚活アドバイザーだからだよ!! あ、待てこら逃げんな!!! マジで信じらんない!!! 逃げるな卑怯者!! 逃げるなぁあああ!!!!!」

 

 

ドタドタと廊下を掛ける音が響き渡り、やがて静かになる。私はその口論を聞いているうちに涙が止まっていた。

 

自分が怒っていても、目の前でそれ以上に激怒してる人がいると冷静になると聞いたことがある。まさに今そんな心境だった。

 

私はいつまでもウジウジしてちゃいけないと思い、布団から上体を起こし、もとの仕事に戻ろうとする。

 

 

「ちょっ!! 駄目だよ胡蝶さん!! さっき倒れたんでしょ!!?? 寝なさい!!! これ命令だから!!!」

 

「あの・・・この屋敷の長は私なんですけど・・・」

 

「ダメダメ!! 屋敷の長なら体調管理に努めないと!! 他の子たちが心配しちゃうよ!? ・・・もう心配かけてるけど・・・」

 

 

私が廊下へと出た際、城崎さんが振り向いてそんなことを言いだす。私は苦笑するが、城崎さんの表情を見て、はっとする。

 

 

「駄目だよ胡蝶さん・・・辛いときは辛いって言わないと・・・心が病んじゃうよ?」

 

 

城崎さんが本当に心配そうに私を見つめる。そして今気づいたのだが、廊下の先からカナヲが近づいて来ているのが見えた。

 

やがてカナヲは私の傍まで近づき、私に抱き着く。

 

 

「しのぶ姉さん・・・辛いことがあったら相談してって言ったでしょ? 私・・・またしのぶ姉さんがカナエ姉さんを失った時みたいに無理しだすのが耐えられないよ・・・お願いだから心の声をしっかり聴いて・・・」

 

「カナヲ・・・」

 

 

私は不意にまた泣き出してしまった。その場で膝を着き、再び嗚咽を漏らす。

 

 

「ううう・・・!! カナヲ・・・私・・・私・・・!! 嫌だよぉおお・・・下呂さんと離れ離れになるなんて・・・!! 折角好きな男の人ができたのに・・・こんなの・・・あんまりだよぉおおお・・・!!」

 

「うん。辛かったよね。しのぶ姉さん・・・思う存分吐き出してね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暫くの間、私は、本当に子どもの頃に戻ったみたいに、みっともなく泣き続けていたように思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 




投稿時に改めて読むと辛い・・・次回を読めばまだマシになるかも・・・
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