「へ~。やっぱり鬼の中には、他者を別の場所に一瞬で移動させることができる奴っているんだね? じゃあそいつを捕まえれば私たち元の時代に戻れるのかな?」
「むう・・・しかし場所を移動させられてたとしても、異なる時代にまで移動させられるかまでは聞けなかったな。クソ、もっと時間があれば詳しく聞けたかもしれないんだが・・・」
私と下呂君は、蝶屋敷の縁側で山のような和菓子を食べながら、無限列車へ救援に駆け付けた時のことを話していた。主に食べてるのは私だったけど。
なんでも下呂君がそこで遭遇したのは、上弦の参に位置する上位三番目の鬼だったらしい。そのためダメもとで質問したらそのような回答が得られたそうだ。
「まあいいんじゃない? 上から三番目が知ってるってことは、それより偉い鬼ならもっと詳しく知ってるってことなんだから。めげずにまた会った時に聞けばいいじゃん。」
「そ、そう言うが・・・正直上弦の参は相当強かったぞ?
次会敵した時に果たして勝負になるかどうか・・・」
「う~ん。そっか。確かに生け捕りにして喋らせようと思ったら相当難しいよね。快く私たちが知りたいこと教えてくれるとも思えないし・・・」
「それな。相手が人間なら自白剤とか打って喋らせるぐらい訳ないんだが、鬼だからその薬の調合も難しい。どうしたものか・・・」
私たちは二人で暫く悩んでいると、突如私たちの目の前に、背丈の高い宝石類を着けた白髪の人が現れた。
「ここにいたか。お前が下呂だな?」
「・・・ずっと俺たちのこと見張ってたよな? 誰だお前は?」
下呂君は私よりも先に気づいてたみたいで、一切動じていない。一方で私は突然のことだったので驚いてしまい、反射的に下呂君の後ろに下がってしまった。
「俺は音柱の宇随天元様だ。おっと、別に同じ鬼殺隊の仲間なんだ。そう派手に警戒するなよ?」
「ん? 音? お前鳴子*1と同じ音使いか?」
「いや違う。そもそも俺は使い手じゃねぇよ。お前ら風に言うなら呼吸使いの傍系ってところか?」
「そうか。だがお前、ここ数日俺たちのこと見張ってたよな? 気配の消し方もうまいし、元裏家業の人間じゃないのか?」
「流石五大名家の使い手様だ。俺の存在に気が付いていたなんてやるじゃねぇか。」
「・・・やっぱりお前、使い手のこと知ってんだろ?」
その問いを受けた宇随さんは、興味深そうに下呂君を見ていた。
「ああ、俺は元忍びの家系だからな? 同業者のことは聞いたことがあるぜ? 特に毒使いに関して言えば、親父が良く仕事を取られたと不機嫌になってたのを覚えてる。」
「・・・俺たちは暗殺専門だから、どうしても忍びの奴らとは競合するだろうな。で、なんだ? まさかそのことについて文句言いに来たわけじゃないんだろ?」
「勿論。忍びなんてとっくの昔に里抜けしてっからな。今回はお前らに協力を頼みたい。お前ら風に言えば仕事の依頼だな?」
「・・・別に構わないぜ。俺もなるべく仕事先で現代に帰るための情報収集はしたいからな。」
そう言うと下呂君は警戒を解き、お茶を啜る。それを見て宇随さんは満足そうに笑う。
「今、吉原遊郭がきな臭いと思って調査をしててよ。そこでお前に潜入任務の増援に来てもらいたい。」
「ぶっ!!!」
「ちょっと~。下呂君汚いよ?」
「ごほっ! ごほっ! 待ってくれ・・・! 遊郭!? なんで俺がそこに潜入しなきゃいけないんだ!? 別に俺じゃなくていいだろ!?」
「いいや。お前が適任だね。今回の任務では上弦の鬼が潜伏している可能性が高いんだ。
お前は煉獄に重傷を負わせた上弦の参と戦って五体満足で帰ってきた実績がある。実力は申し分ねぇ。
お館様にも話は通してある。気が乗らなくても来てもらうぜ?」
「ま、待て!! 遊郭の潜入って要は客として通えってことだろ!? 俺にできるわけねぇだろ!?」
「おいおい、まさかとは思うが、その年齢で女の相手したことねぇのか? 冗談きついぜ。」
「宇随さ~ん。下呂君が女の人の相手なんてできるわけないじゃん。未だに初対面の女性も口説けないような草食男子なんだから。」
「ん? 草食? 下呂、お前肉魚は食えないのか?」
「・・・そう言う意味じゃねぇよ・・・」
「? なんだ? 急に地味な反応しかしなくなりやがって。気持ち悪い奴だな。」
「宇随さ~ん。下呂君はこんなだから私が傍について色々と教えてあげてるんだよ? いきなり遊郭に行って女の人から情報吸い上げるなんて今の下呂君には無理に決まってんじゃん。」
「・・・見習い時代の1000倍辛だな・・・」
「マジかよお前・・・」
宇随さんが下呂君を情けないものを見るような表情で呆れている。しかし、暫くすると何かを閃いたみたいで、手を叩く。
「そうだ! 城崎! お前が遊郭に潜入するってのはどうだ!? それも客としてじゃなくて遊女としてだ!」
「え?」
私は宇随さんの予想外の提案に一瞬固まる。
「城崎は容姿もかなりいいから、潜入後あっという間に花魁とかになれるかもしれねぇ。そうしたら客じゃ探れねぇような情報も入手できるかもな!
という訳で下呂! 暫く城崎借りるけどいいか? お前の恋人を遊郭に送るのは気が乗らねぇかもしれねぇがここは一つ我慢して・・・」
「宇随。城崎は俺の恋人じゃねぇ。それと城崎は男だぞ? 遊女の振りなんて無理に決まってんだろ?」
「は?」
下呂君がついに私の性別についてカミングアウトする。それによって宇随さんの目が点になる。まあ、毎度おなじみのリアクションではあるけど。
「ちょっと待て・・・城崎・・・お前マジか? どう見ても男には見えないんだが・・・」
「そりゃあ今は女装してるからね。何なら確認しとく?」
「やめろ!!!」
私が服に手を掛けた瞬間、下呂君が屋敷の遥か彼方まで飛んでいく。あちゃあ。これじゃあ暫く戻ってこないかも。
「アハッ、という訳で、私じゃ遊女として客を取るのは無理かな~? ベッドインさえしなければ何とでもなると思うんだけどね~。」
「・・・ちょっと待て。一旦頭の中を整理させろ・・・」
ついには宇随さんも頭を抱える始末。うーん、うーんと暫くうなっていたが、やがて宇随さんは落ち着きを取り戻した。
「良し。色々懸念点はあるが、遊女としての潜入任務を城崎に依頼する。構わないか?」
宇随さんは真面目な声色でそう私に問いかける。私はそれが予想外で一瞬戸惑ってしまう。
「まあ、安心しろ。実は俺の嫁が既に遊郭へ潜入してるんだ。遊女としてな。うち一人がつい最近花魁になったんだ。
須磨って言うんだが、城崎にはそいつの禿として潜入してもらう。それなら深めの客の相手をすることもないし平気だろ?」
「・・・」
あらぬ方向に話が進む。うーん。潜入任務かぁ。遊女の振りならまだ何とかなりそうなんだけど、もし鬼と会敵したら私なんて一瞬で食べられちゃうだろうなぁ。
まあ下呂君ばかり危ない橋渡らせるのも申し訳ないとは思っているんだけど、できれば死ぬ可能性が高い任務はあまり引き受けたくないなぁ。どうしよう・・・
「えっと、宇随さん。私・・・」
「待て、宇随。城崎を鬼のいる遊郭に潜入させるのに俺は反対だ。」
「うお! お前、いつ戻ってきた!?」
気が付いたら下呂君が傍に戻って来ていた。宇随さんでも気配を察知できないなんて、下呂君どんだけ慎重に戻ってきたんだろう。
「宇随。お前もわかっていると思うが、城崎に戦闘能力はねぇ。そんな奴を鬼がいるかもしれねぇ場所に送り込むのは違うだろ?
そもそもお前の嫁だってそうだ。上弦の鬼がいるかもしれねぇ場所に送り込むのはどうなんだ? お前はもっと嫁の命を大事に扱うべきだ。」
「・・・俺だって最初反対したさ。・・・それでも、雛鶴たちが・・・」
「それを止めるのが、旦那としての役目じゃねぇのか? 俺だったらそんな危険な場所に自分の大事な人を送り込むなんて絶対にできねぇぜ。」
下呂君の言葉を受けて、宇随さんは一度目を瞑る。そして再び目を開いた時のその表情は、彼の覚悟の強さを物語るには充分だった。
「・・・俺だってそうだ。俺は派手にハッキリと命の順序を決めている。まず嫁三人。次に堅気の人間たち。そして俺だ。」
「っ!」
宇随さんの眼光に、一瞬下呂君はたじろぐ。
「俺たちは元忍びだ。不本意だったとは言え、大勢の命を奪ってきた。その命が戻ってくる訳じゃねぇが、それでもどこかでけじめをつけなくちゃならねぇ。
俺たちにとって、上弦の鬼の討伐がそのけじめなんだ。じゃなきゃ恥ずかしくて陽の下を生きてなんていけねぇ。
これは俺が言い出したことじゃねぇ。雛鶴が言い出したことだ。
雛鶴だけじゃねぇ。まきをも、須磨も・・・全員が全員俺が反対しようが何しようが、自らの意思で自分から危険な任務に身を投じていく。今回の任務も同様だ。
なら俺は、そいつらの覚悟をないがしろにはできねぇ。旦那として俺がすべきことは、そいつらの命を守り通すために、ありとあらゆる手で最善を尽くすことだ。それが俺の覚悟だ。
俺の言ってることは間違っているか? 下呂。」
「っ!!」
宇随さんの答えに下呂君は目を見開く。すると彼は納得したのか、笑みを浮かべて宇随さんを見る。
「宇随はすげぇな。お前らは今まで奪ってきた命にちゃんと向き合った上で、それだけの覚悟を決めて戦ってるんだな。
俺も今まで多くの人の命を奪ってきた。なのに大切な人と、一緒に心穏やかに生きたい、幸せになりたいと思ってしまうことがある。正直そんな自分にヘドが出る。
でもだからこそ思うんだ。俺は誰かに、手を貸すことでしか、笑顔にすることでしか幸せになんてなれねぇって。そうでもしなきゃ、前を向いて生きていけねぇって。
だからお前の覚悟、俺にも伝わったぜ。俺もお前の覚悟に応えたい。お前が大切な人を守り通すために、俺に力を貸させてくれ。」
下呂君はそう言いながら、自身の手を宇随さんに差し伸べる。宇随さんは目を見開く。
「っ!! 下呂・・・助かるぜ。お前が来てくれるなら心強え。俺の方こそよろしく頼む・・・!」
そう言って、二人は固い握手を交わした。
どうやら私も、下呂君の思いに付き合わなくちゃいけなくなったみたいだ。私は気が乗らないものの、下呂君と一緒に遊郭潜入任務への参加を承諾した。
続く
以下おまけ:
「なんかいい感じに話まとまったからスルーしてたけど、宇随さんの奥さんって三人もいるんだね~。」
「ぬ!? そう言えば嫁の名前三人も呼んでたな!? 重婚とか法律的にありなのか!?」
「別に堅気の人間でもあるまいし、別にいいだろ。そういう地味なことは気にすんなって。」
「うおお・・・こ・・・これが・・・モテる奴の振舞いなのか・・・ッ!?」
「下呂君はどうする? 今婚活中で恋人候補が6人もいるわけだけど全員囲っちゃう?」
「おい!! 城崎!! お前仮にも俺の婚活アドバイザーだろ!? 立場的にそんなこと言っていいのか!?」
「もう~、下呂君ったら真に受けすぎ。ただの冗談じゃん。落ち着きなって。」
「ぬう・・・」
「そういやお前ら、さっきから気になってたんだが、その『婚活』ってどういう意味だ? あんまり聞いたことねぇぞ?」
「ぬ!? 宇随・・・それは・・・」
「婚活っていうのはね、結婚活動の略で、結婚相手を見つけるために色々行う活動のことだよ?」
「おいおい、マジか下呂お前、わざわざ城崎に嫁探してもらわないと結婚できねぇのか? 派手に甲斐性のねぇ野郎だな?」
「ぬぬぬ・・・言い返せなくて1000辛だぜ・・・」
「大丈夫だよ、下呂君。この私が下呂君を磨いて、魅力引き出してあげるから、大船に乗った気でいてよ。」
「すまん・・・いつもありがとな・・・城崎・・・」
「それと城崎が男だったのは派手に驚いたぜ。なんで女装なんてしてるんだ?」
「え~? だって、女のヒトの服っていろいろ種類あって楽しいじゃん。それに想像してみてよ?
私が男装したら超絶イケメンだよ? 女の子どんな反応すると思う? 下手したら下呂君に誰一人寄り付かなくなるじゃん。」
「城崎・・・頼む・・・男装はしないでくれ・・・俺が誰の視界にも入らなくなる・・・」
「下呂・・・お前って案外地味に不憫な奴だな・・・」
「そういうこと。だから今後もずっと女装してると思うよ~?」
「はあ・・・そのせいで心に傷を負う隊士が増えなきゃいいが・・・我妻とかな・・・」
「アハッ、彼のリアクションほんと面白かったね~? 今度またからかってあげようかな~?」
「やめろ城崎。我妻がマジで可哀そうすぎる。勘弁してやれよ・・・」
「いや~、あのリアクションほんとに面白かったよね~。まあでも、私が下呂君の前でお風呂入ってた時の方が・・・」
「やめろ城崎!! その話をされるのは俺にとって億辛だ!!! マジでやめろ!!!」
そうして下呂君は再び、遥か彼方へと逃げ去ってしまった。
宇随さんの覚悟についての発言は、鬼滅原作を読んで判断した内容です。加えて下呂君なら言いそうだなって思った内容を回答として書いてます。お互い裏家業の人間ですからね。通じ合うものがあると思っています。