因みに時系列はマリッジトキシンの有馬家編直後くらいです。原作120話以上すっ飛ばしててファンの方には心苦しい限りですが、第一部との整合性を取るためこのようにしてます。予めご了承下さい。
第一話は下呂君視点です。それでは本文どうぞ。
1話 毒使い、片羽の蝶を連れて実家に赴く
「う~ん!! このTボーンステーキ美味しい~!!」
「しかし城崎さんは本当に良く食べますね。昨日も暴食の限りを尽くしていたと言うのに・・・」
「逆に胡蝶は食わな過ぎだな。ただでさえ体重軽いんだし城崎見習ってもっと食事量増やした方が良いぜ。」
ここは都心の大型商業施設構内にあるオシャレめなレストラン。俺達は胡蝶の入り用の買い物ついでに城崎御用達のこの店でランチを取っていた。
ここ数日、俺達は胡蝶が現代で生活をする上で何不自由なく過ごせるように、買い物や諸々必要な用事を済ませて胡蝶の生活基盤整えるのにひたすら時間を割いていた。
俺と城崎の奮闘により、粗方その用事も消化し尽くすことができた。
丁度一息ついたところで正午を回っていたので、休憩も兼ねてこうして食事を摂っていたという訳だ。だが・・・
「すみません。私こういう重いものはどうしても苦手でして・・・美味しいことは美味しいんですけど余りお腹には入らないみたいです。」
「そうだったか。何だか悪いな。無理に付き合わせるような真似しちまって。」
城崎については別に食いたきゃ好きなだけ食わしとけば良いだけだから何も問題はない。しかし、それとは対照的に現代に帰ってからの胡蝶の食の細さが俺は少し気掛かりだった。
やはりまだ慣れない現代食に胃が受け付けてないんだろうか。
一応体重については藤の花の毒を摂取していた時に比べだいぶ増えたように思えるが、それでも依然として女性の標準体重と比較するとかなり軽いように思われる。
なので城崎がここ数日外出先でハイカロリーなものを食わせようとそういう店ばかりチョイスしてるのだが、如何せん胡蝶の好みに合わないのか結果はあまり好ましくはなかった。
「なら今後の食事はなるべく自炊に頼った方が良さそうだな。どうせ食うなら身体に馴染むものの方が良いだろう。
俺はこう見えて料理は得意な方だ。胡蝶の食の好みもある程度は把握してるつもりだし、今後は弁当でも作って毎日持ち歩いても良いかもな。」
「あっ! す、すみません! であれば自分の分は自分で作ります! 流石に毎日下呂さんに作ってもらう訳にはいきませんので。それに私もこう見えて料理はアオイに負けない位得意なんですよ? なので心配ご無用です。」
「そう言えば胡蝶も料理の腕凄ぇよな。ならいっそ二人で協力して作ってみるか?」
「えっ」
胡蝶はその瞬間、目を丸くしていた。俺はその反応を特に気にも留めず付け加えるように話の続きを語った。
「俺も胡蝶の好みもっと詳しくなりたいし。それに二人で協力した方が弁当作る負担も減るだろ?」
胡蝶は俺の言葉を聞いて暫く驚きの表情を浮かべていた。俺はその様子を見て怪訝に思うが、徐々に気まずくなってきた。耐えられなくなった俺はあっさり発言を撤回することにした。
「悪い・・・余計な提案だったよな・・・今のは聞かなかったことにしてくれ・・・」
「えっ!? ちょっ!? ま、待ってください! 別に嫌だなんで一言も言ってないじゃないですか!! どうしてそんなあっさり取り下げるんですか!!」
「む? そ、そうだったのか?」
「そうですよ! もうっ・・・本当にアナタという人は・・・!」
胡蝶は不満げにそう漏らす。しかし慌てる俺を見てすぐに口元を緩めて笑顔になった。
「では今後二人で一緒に作りましょう。折角なので私の好物も一緒にお願いしますね? それに・・・毎日下呂さんとの共同作業でお弁当作りなんて・・・何だか一足早く夫婦になったみたいで私嬉しいです・・・!」
「ぶほっ!? ふ、夫婦!?」
俺がステーキを咀嚼し正に飲み込むタイミングで、不意に胡蝶がそう呟く。俺は激しく動揺し危うく喉に詰まらせそうになる。
胡蝶はその間薄く頬を染め、微笑を浮かべながら髪をいじっていた。
「あらら~? 下呂君さぁ、ちゃんとよく噛んで飲み込まないと気管に入るよ~? 今後は気をつけないと~?」
すると城崎は面白いおもちゃを見つけたような顔で俺が狼狽える様を見ながらニヤニヤ笑いだした。
「・・・城崎てめぇ・・・そのにやけ面を今すぐ引っ込めろよ・・・見てて腹立つだろうが。」
「あれれ~? 一体何のことかな~? 私知らないよ~?」
こいつ・・・内心俺の慌てふためく様見て絶対楽しんでんだろ・・・本当に悪趣味な野郎だな・・・
俺は咳払いし話題を変えることにした。
「兎に角、胡蝶の健康が最優先だ。今後『護り手』*1の仕事をするって言うなら今以上に体力付けるに超したことねぇからな? まあ呼吸が使える分、今のままでも他の奴よりかは遥かに動けるとは思うが・・・」
俺がそこまで言いかけたタイミングで、突如ポケットに入れてた携帯がバイブレーションを起こす。
どうやら通話がかかって来たようだ。俺は二人に断りを入れてすぐに席を外し電話に出た。
「・・・・・・それは『絶対』か?」
通話主の要件を聞いた後、俺は低い声でそう返答する。俺の様子の変化に気づき、城崎も胡蝶も不意に俺へと視線を移した。俺は通話相手の要件を全て聞き終えた後、そのまま着信を切り着席する。
「悪いな二人とも・・・少々面倒なことになった。」
「め、面倒ってどういうこと下呂君!?」
「誰からの連絡だったのですか?」
二人が怪訝な様子で俺に問いかける。俺は携帯を再びポケットに戻してため息を付く。
「実家からだ。本家に顔を出すよう言われた。 ・・・・・・胡蝶と城崎を同伴させろとの条件付きでな。」
数時間後・・・
「待たせたな二人とも。目隠し取るぞ。」
「ふわぁ・・・着いた?」
「ん・・・まるでお館様の屋敷に運ばれる時と同じですね。つまりこのお屋敷が・・・」
「ああ。胡蝶の想像通りだ。ここが・・・」
二人は俺が目隠しを取ると目を見開き、目の前の光景に釘付けになった。
俺達は畳張りの客間らしき場所に居た。障子は開けっ放しにされており、庭園が眼前に広がっている。
しかしその光景は産屋敷邸のような整った枯山水庭園とはまるで異なっていた。そこには古今東西、国内外合わせた多種多様な植物たちが生い茂っており、日本庭園とは似ても似つかない景観だった。
「ここが・・・下呂君の実家?」
「この場所で・・・下呂さんは生まれ育ったんですね・・・」
「・・・ああ。ろくな思い出はねぇが・・・」
畳の上で正座し庭園に目を奪われている二人の真後ろで、俺は棒立ちしたまま苦虫を噛み潰したような顔つきで静かに呟いた。
胡蝶は周囲を見渡し身の危険がないか探りを入れているようだ。流石は元鬼殺隊の柱。死と隣り合わせの任務を何度も経験して来た剣士だ。
それに対し城崎は満面の笑みを浮かべて何故か浮かれている。
「え~? なんだか面白そうじゃん! 下呂君が育った家に興味あるし~?」
俺は呆れて声も出ない様子で城崎を眺める。こいつはこの緊迫した状況でどうしてキャッキャウフフしてられるんだ? もしかして俺以上にトンデモなく肝が据わってやがるのか?
「それに・・・私たちが乗り越えた修羅場はもっともっと過酷だったよ? 胡蝶さんだってそう思わない?」
「っ! そうですね! 十二鬼月の上弦とやり合った時に比べればこの程度の状況どうってことありません! ただ堂々としてれば良いだけですので!」
「そうそう! だから下呂君ももっとリラックスしなよ?」
「むぅ・・・」
俺は二人の様子に毒気を抜かれる。周囲を警戒しずっと立ちっぱなしだったが、俺もやがて腰を下ろし、二人の隣で正座した。
ふと脇に垂れ下がってる
「・・・あそこにいるには当主さん?」
「・・・いや。『フェイク』だろうな。」
「ふぇいく?」
「ああ。偽物ってことだ。あそこに俺のおばあちゃんは居ねぇ。」
俺は一度言葉を切って目線を下げる。過去覚えていることを整理するように。
「おばあちゃんは俺も・・・殆ど話したことがねぇ・・・『先生』を通して指示が下るのみで・・・たった一度だけ次期当主の『選抜』直後に面会したが・・・記憶が朦朧としていて・・・な。実はその時のことをあまり覚えていないんだ。
ただ『使い手』の業界では『毒使いの完成系』と畏怖されていて・・・目的に対し手段を選ばない得体が知れねぇ存在だとも言・・・」
「ちょっと!? 城崎さん!!」
「うお!? 城崎何勝手に食おうとしてんだお前!?」
「え? どうして!? 折角こんな美味しそうなご飯を女中さんが用意してくれたのに!」
俺は質問に答えるのに気を取られ、気づくのが少々遅れたが、どうやら知らぬ間に城崎が配膳された料理を食べようとしていたようだ。しかしそれを即座に胡蝶が制する。
「城崎さん!! ここは下呂さんの実家、即ち『毒使い』の屋敷なんですよ!? 不用意に食事をして毒を盛られたらどうするんですか!?」
「えぇ~? でもこんなに美味しそうなご飯、折角用意してもらったんだから食べなきゃ寧ろ失礼じゃない? なら確認してみてよ。下呂君なら毒が入っているかわかるでしょ?」
俺は配膳された料理を観察し匂いを確かめる。
「確かに・・・毒は入っていないようだが・・・」
「やった~!! じゃあ早速頂いちゃうね? うん!! めっちゃ美味し~っ!! 和食もアリよりのアリ!」
「私は遠慮しておきます。用途は違いますが私も毒を使う者の端くれ。もしもの時に備えて万全を期しておきたいので。」
「流石胡蝶。抜かりねぇな。俺も正直実家から出された飯は食いたくねぇ。」
「えぇ~? こんなに美味しいのに~。ねぇねぇ女中さん! おかわりある?」
俺と胡蝶は警戒を解かずにそのまま配膳された食事には一切手を伸ばさないが、一方で城崎はみるみるうちに完食しあろうことかおかわりまで催促する始末だった。俺は呆れる。
「もちろんあるわよ?」
「やたー! ありがとう!」
割烹着を身に着けた二十代半ばの容姿をした女は、配膳を行いながら微笑を浮かべ、城崎に対しそう答えた。
「腕に寄りをかけて作ったの。褒めてくれて嬉しいわ。メイさん。」
「このモチモチ感最高!」
その女の言葉を聞いて、ふと胡蝶が誰よりも早く身構えた。一拍遅れて俺も警戒心をMAXまで吊り上げる。ついには城崎も疑問に思ったのか女に対し聞き返した。
「・・・・・・えと・・・アナタは?」
その女は微笑を浮かべたまま、なんでもないことのようにサラリと答えた。
「当主のきららよ。」
城崎だけじゃない。俺も胡蝶も目を見開く。その想定すらしていなかった驚愕の事実に。
(な・・・ッ
俺が内心狼狽し全身を強張らせたその瞬間、俺の真後ろより突如男の声が聞こえた。
「おやおや、自らご配膳とは。ヒカル様への愛に満ち溢れていますね?」
俺は冷や汗をかきながらゆっくりと視線を背後に向ける。そこには眼鏡をかけ胡散臭く満面の笑みを浮かべている、俺をかつて鍛え上げた先生が着流しのまま立っていた。
「早く見たくてね。ヒカルの顔を。それとヒカルがここ最近ずっと一緒に居るこの子達の顔もね。」
おばあちゃんがそうにこやかに答えると、暫しその場が静寂に包まれる。
俺は微動だに出来なかった。正面には下呂家当主である俺のおばあちゃん、そして背後には俺の手の内を全て知る先生。
二人に挟まれた位置取りに座する俺は、正しく蛇に睨まれた蛙、もしくはまな板の鯉そのものだった。
続く
第二部スタートダッシュは話にインパクトを持たせたかったので、いきなりラスボス候補二人を登場させました。正に「前門の虎後門の狼」状態ですね。因みにマリトキ原作とほぼ同じ描写なので筆者が鬼畜な訳ではありません(言い訳)。
実家への御挨拶編は計三話になる予定です。続きが気になる方いらっしゃいましたらお気に入り登録してお待ち頂けると幸いです。あなかしこ。