鬼滅の毒使い   作:科学大好き人間

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しのぶさん視点です。本作はクロスオーバー作品なので例の家の人達も登場します。一応マリッジトキシンの世界がベースとはなっていますが、鬼滅の世界の未来としても成り立つ世界観にしています。ごっちゃな設定ですが、予めご了承下さい。それでは本編どうぞ。


4話 片羽の蝶、元主君の子息から遺言を託される

「私は・・・今日という日を・・・ずっと待ちわびていたよ・・・あれから実に110年が過ぎた・・・また会えて・・・嬉しく思うよ・・・しのぶ。」

 

「輝利様に置かれましてもご壮健で何よりです・・・! 益々のご多幸を切にお祈り申し上げます・・・!」

 

「ふふ・・・その口上も・・・久々に聞いたよ・・・懐かしいね・・・」

 

 

時は遡り数時間前。

 

下呂さんのおばあ様に婚約を認められて数日が過ぎたある日のこと。

 

私が下呂さんの住まいで洗濯物を干しているまさにその時、唐突に私の下へ一羽の烏が舞い降りた。

 

 

「こんにちわ。貴方が胡蝶しのぶさんですね? 私は産屋敷輝利哉の使いの者です。」

 

「っ!! 輝利哉様のっ・・・!?」

 

 

輝利哉様の鎹烏が言うには、私が無事にこの時代へ転移できたか、それを確認するためにこうして街中を探し回っていたとのことだ。

 

加えて輝利哉様は既に118歳の御高齢でもあるため、なるべく近日中にこの時代の産屋敷邸に顔を見せに来て欲しいとの伝言を賜った。

 

私はすぐに下呂さんと城崎さんにそのことを伝えた。

 

 

「マジか! なら速攻で向かおうぜ! 手遅れになる前にせめて胡蝶の顔だけでも見せてやんねぇと!」

 

「輝利哉君って確かあのちっちゃい男の子でしょ? 輝哉さんの息子さんの。凄いね~、118歳なんて。ひょっとしてギネス記録乗るんじゃない?」

 

 

各々異なる反応だったが、私がすぐに会いに行きたいと伝えると、二人はすぐさま身支度を済ませて出発の準備をしてくれた。

 

この時代の産屋敷邸へは電車で向かった方が早いと言われ、私は二人に引率されながら現地へと向かうこととなった。

 

始めは余りにも感極まって、いっそ街中を突っ切って向かった方が早いと言い出した私は、玄関を出てすぐに走り出しそうになった。しかし間髪入れず二人から肩を掴まれ制止させられてしまった。

 

冷静になれば当然だった。この時代に白昼堂々公道を身一つで高速移動し、建物の屋根から屋根へと飛び移り移動する奇行に及ぼうものなら、そう遠くない未来で警察の方々のお世話になってしまっていただろう。

 

私は逸る気持ちを必死に抑え、道中下呂さんに手を引かれながら、今か今かと歩みを進めた。そして遂に目的地へと辿り着いた。

 

産屋敷の表札が掲げられる門の入口付近で、警備員の方が待機していた。その方に一声かけると、向こうも事情を知っていたのかすぐさま屋敷に入れるよう取り計らってくれた。

 

やがて案内の方が来られ、屋敷の来客室に連れて行かれた。暫くその場で待機していると、突如部屋の扉が開き、遂に再開を願っていた御方とのお目通りが叶った。

 

そうして今に至る。

 

 

「私は随分と年を取ってしまったが・・・君は百年以上経ってもあの時と同じように美しいままだ・・・無事にこの時代へと渡れていたようで・・・本当に良かった・・・」

 

「はい・・・! この通り下呂さんのおかげもあって健在そのものです・・・! 輝利哉様もどうかご安心くださいますよう・・・!」

 

 

輝利哉様は付き添いの壮年の方に車椅子を押されて入室し笑顔を見せる。私はすぐさま柱合会議の時と同じようにその場で跪き頭を垂れた。

 

やがて両の(まなこ)が感激の余り潤んだことを自覚した。

 

 

「顔を上げておくれ・・・しのぶ・・・私の父は流石に息が続かなかったが・・・せめて私だけでも君の顔が見れて本当に嬉しいよ・・・これも神仏の導きによるものだろうか・・・」

 

「き・・・輝利哉様・・・!」

 

 

私は顔を上げてその瞬間悟ってしまった。目の前の御方がもう余命いくばくも無いことを。

 

 

「しのぶ・・・最期に伝えたいことがあるんだ・・・ヒカルも関係のある話だ・・・君にも聞いてほしい・・・」

 

「なんだ?」

 

 

私の後ろで控えていた下呂さんが反応する。輝利哉様はそのまま続ける。

 

 

「まずしのぶ・・・君は頼れる人も居ないまま・・・この時代に来てしまったと思ってるかもしれないが・・・そんなことはない・・・私達産屋敷をはじめ・・・かつての鬼殺隊関係者の子孫たちもいる・・・もし困ったことがあれば・・・必ず私たちを頼りなさい・・・」

 

「・・・っ!」

 

「私たちは常に君の味方だ・・・何があっても支えになるから・・・そのことを努々忘れることないように・・・」

 

「・・・はいっ!」

 

「そしてヒカル・・・君にも伝えたいことがある・・・どうかずっと・・・しのぶの傍に居続けてくれ・・・彼女の幸せを・・・どうか守り通してくれないか?」

 

「勿論だ。約束する。」

 

「ふふ・・・父も言っていたけど・・・君は本当に頼もしい人だ・・・それと最期に一つだけ・・・君に助言したいことがある・・・」

 

 

私も下呂さんもその言葉を聞いて思わず身構える。輝利哉様は一体何を私たちに伝えようとしているのか。その内容は驚くべきことだった。

 

 

「下呂家現当主・・・君の祖母きららさんは・・・とても恐ろしく厄介な存在だ・・・君と血の繋がりがあるとは言え・・・どうか警戒を怠らないでほしい・・・」

 

「む? それは一体どういう・・・」

 

「詳しくは分からない・・・だが・・・私の産屋敷当主としての勘がそう言っているんだ・・・あの人は・・・君達の行く手を阻む障害にも・・・なり得る存在であると・・・」

 

「下呂さんのおばあ様が?」

 

 

私たちは難色を示す。つい先日、二人の婚約を正式に認めてもらったばかりだからだ。既に一番の懸案事項が払拭されたと思っていた私たちは、輝利哉様の言葉を聞き互いに顔を見合わせる。

 

 

「わかった。俺もおばあちゃんのことは完全に信用している訳じゃない。何せ下呂家は使い手の汚濁を極めに極め抜いた五大名家の毒使いだからな。」

 

「そうか・・・なら良い・・・あとのことは・・・私の息子である昇哉(しょうや)に一切を託す・・・昇哉もいいね?」

 

「はい、父上。有事の際、彼らのことはお任せを。後ほど照哉(てるや)にもこの事は伝えておきますので。」

 

「ありがとう・・・これで漸く安心できるね・・・では私はそろそろ眠らせてもらうとするよ・・・最期に君たちに会えてよかった・・・」

 

 

そう言い残し、輝利哉様は静かに私たちの目の前で息を引き取った。仏様のような穏やかな微笑を浮かべたまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌々日輝利哉様の葬儀が執り行われた。私たちも参列し、彼の御方の死を悼む。

 

告別式が終わり、火葬が行われた後、一息つける時間ができたので、私たち三人は会場の端で集まり言葉を交わしていた。

 

 

「ありがとうございます。下呂さん、城崎さん。わざわざ参列していただいて・・・」

 

「胡蝶に礼を言われるようなことじゃない。俺たちだって産屋敷の家の人達には恩義があるんだ。だからこれは当然のことだ。」

 

「そうそう。輝哉さんが居なかったらそもそも私たち現代に戻れてなかったかもしれないしね。本当に感謝しないと。」

 

「そうですね・・・お館様には本当に頭が上がりません・・・私が下呂さんに付いて行く際も背中を押してくれたので・・・」

 

 

私がそこで言葉を切った後、不意に下呂さんは別の話題を切り出した。

 

 

「しかしやっぱり気になるな。輝利哉さんの最期の言葉・・・」

 

 

彼の呟きに、私も城崎さんも同時に下呂さんへと視線を移す。

 

 

「俺のおばあちゃんに気をつけろか・・・けどまあやっぱりそうなるのかもな。下呂家当主なんだし警戒しない方が寧ろ不自然なくらいだ。」

 

「えっと・・・そんなに下呂家当主の方々は代々危険人物なのですか?」

 

 

下呂さんは私の問いに対し静かに回答する。

 

 

「五大名家は須らく一癖も二癖もあるトンデモねぇ連中ばかりだが、特に下呂家は遠大な歴史の中でも暗躍してた事例が多いんだ。家の記録では全て必要なことだったと記されてはいるんだが、正直きな臭い内容も多い。」

 

「暗躍・・・ですか。」

 

「ああ。何せ騙しが本業の毒使いだからな。そのあくどい仕事振りに毒使いの傍系ですら『人の運命を弄ぶ一族』とすら裏で呼び捨てるぐらいだ。」

 

「それってかなりヤバイ悪評じゃない? 因みに実際の真偽の方はどうなの? 当事者である下呂君的には肯定派? 否定派?」

 

「わかんねぇ。どちらもあり得るそんだけだとしか言えねぇが・・・ただ俺の生い立ちや幼少期の経験からして・・・限りなく黒に近い悪評だと思う。」

 

「うげぇ~、わかってはいたけど、下呂君の家ってやっぱりトンデモ無くえげつない家系なんだね。家の下についてる人達みんな可哀そう・・・あっ! 言っておくけど別に下呂君のことを悪く言ってる訳じゃないし胡蝶さんの嫁入りについても私反対してる訳じゃないからね!?」

 

「わかってるつーの。そもそも五大名家は裏社会の秩序を守るのが本来の役目なんだ。手段は褒められねぇかもしれねぇが、それでも世の中の仕組みを維持する上で必要不可欠な仕事なんだよ。手段は褒められねぇかもしれねぇがな。」

 

「二回言ったね下呂君。」

 

「二回言いましたね下呂さん。」

 

「・・・そうだな・・・確かに二回も言ったわ・・・」

 

 

俺の回答に気まずい沈黙が続く。しかし胡蝶がその沈黙を破る。

 

 

「でも例えそうだとしても・・・私は下呂家と一緒になる為でなく・・・下呂さんご本人と生涯を共にしたくて結婚するんです・・・!

 例え下呂さんの家がどんな場所であろうとも、私の決意は揺らぎませんよ?」

 

「・・・っ! 胡蝶・・・お前・・・!」

 

「わお。胡蝶さん凄いね~。そんなにはっきりと素直な気持ち伝えられるなんて。こっちのヘタレな下呂君とは大違い。」

 

「おい、誰がヘタレだ。それは流石に心外だぞ? 俺だって胡蝶との将来はちゃんと真剣に考えてるっつーのに・・・」

 

「へ~、そこまで言うなら早速今日から二人きりの同棲生活スタートで良いよね? 胡蝶さんの生活基盤だって殆ど確立したんだし、もう私一緒に居る意味なんてないだろうしね。私今日家出てくから。」

 

「ま、待ってくれ城崎!! 流石に今日からは不味い!! せめてあと一週間くらいは待ってくれ!!」

 

 

下呂さんは城崎さんの発言を聞いて慌てふためく。私はその様子にいい加減げんなりし思わずため息を漏らす。

 

 

「ハア・・・下呂さん。まだ腹が決まらないんですか? 今後ずっと同じこと言うんだったら流石の私も愛想尽かしますよ?」

 

「ぬう!? ま、待ってくれ胡蝶!! 流石に俺だってそう長く待たせるつもりは・・・!!」

 

「あ~あ、胡蝶さん怒らせちゃったよ。これはこの後お説教かな~? それも私と胡蝶さんの二人掛かりでみっちりとね。」

 

「お願いします城崎さん。そろそろ私も我慢の限界ですので。下呂さんの優柔不断さにはほとほと嫌気が差してるので・・・」

 

「ぬっ!? ま、待て待て!! まだ肝心なことが済んでねぇだろ!? 二人きりでの共同生活なんてそれが済んでからでもいいはずだ!!」

 

「「ん?」」

 

 

私も城崎さんも下呂さんの言葉に不意に疑問を抱く。彼は一体何を言おうとしてるのだろうか。

 

 

「胡蝶は『護り手』で生計立てていくんだろ? ならそれが軌道に乗るまでは真の意味で生活基盤が確立したなんて言えないはずだ。それまでは引き続き城崎に俺達のサポートをお願いしたい。」

 

「あ、その件なら既に解決済みですよ? 私明日から産屋敷家直属の護り手として正式に雇用してもらうことになりましたので。無事就職先決定です。」

 

「ぬっ!? なんだよそれ!? 俺初耳なんだが!?」

 

「へ~、流石は胡蝶さん。先日産屋敷家の人達といろいろ話し合ってたのはつまりそういうことだったんだね?」

 

「はい。これでもう下呂さんの懸念事項は払拭できたはずです。なので城崎さん、明日からはその・・・」

 

「いいよ~? そもそも私初めから二人のお邪魔虫な訳だしね。寧ろなんで今までずっと一緒に暮らさなきゃいけなかったんだか・・・」

 

「城崎・・・頼む・・・後生だ・・・行かないでくれ・・・」

 

「こらそこ! めそめそしないっ! ハア~、これで漸く肩の荷が下りた気がするよ~。それじゃあ胡蝶さん、今後は下呂君のことよろしくね?

 もし喧嘩とかして上手くいかないことがあったらいつでも相談しに来ていいからね? その時は必ず力になるから。」

 

「はい。何から何までありがとうございます。有事の際は連絡しますのでその時はまたよろしくお願いします。」

 

 

私と城崎さんで話がつくと、下呂さんは更にうなだれる。

 

 

「そんな・・・城崎・・・俺に情けや慈悲の心はないのか・・・女性と二人きりで一緒に暮らしてたことなんて俺には一度もねぇんだぞ・・・」

 

「ま~た情けないこと言ってるよこの子は。いい加減もう私離れしなさいっ! めっ!」

 

「『めっ!』ってお前・・・俺の母ちゃんのつもりかよ・・・」

 

 

下呂さんはそう呟き思わずといった感じで肩を落としていた。私は私でため息をつく。

 

いくら女性と接するのが苦手だからと言って、ここまで頑なに同棲を渋られるとこっちとしても不安になってしまうからだ。

 

ないとはわかってるけど、下呂さんは私と一緒に過ごすのが嫌なのだろうかと時々勘ぐってしまう。そんな自分に嫌気も差す。

 

だから下呂さんには正直もっと腹を決めて欲しい。これでも私、現代に来てからまだまだ不安なことで一杯なのに。

 

ただそんな不満はあるものの、これで漸く下呂さんと二人きりで一緒に過ごすことができるのだと実感し、私はこれからの新生活に人知れず胸を高鳴らせるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

 




補足:現代における産屋敷家の系譜について

輝利哉(享年118歳)
→輝哉から引き継いで以降、現代までずっと当主をしてたスーパーおじいちゃん。
昇哉(88歳)
→新当主に任命された裏の世界で顔が効くおじいちゃん。基本この人が権力握ってる。
照哉(56歳)
→産屋敷グループCEOの表の世界で顔が効くおじいちゃん。基本この人がお金握っている。
晴哉(24歳)
→新社会人二年目の御曹司。基本この子は下積み修行中。

次回4/18 9:00更新予定です。
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