鬼滅の毒使い   作:科学大好き人間

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しのぶさん視点です。前半はバトル描写ですが、後半はラブロマンス描写です。(???)


9話 片羽の蝶、水使いと手合わせする

「え~、胡蝶さんもう着替えちゃうの? 折角お似合いの水着見繕ってあげたのに~。」

 

「城崎さん・・・あんな全裸同然の格好で動き回れと? あんな姿で戦わせようとするなら首筋に注射器打ち込みますからね? 覚悟してて下さい。」

 

「ひっ! ご・・・ごめんなさい・・・私が悪かったです・・・」

 

 

私は潮さんの勧めで念のため予備で購入していたダイバースーツに着替えたのち、絶対零度の視線で城崎さんに釘を刺す。これで今後はゲスメガネみたいなことをやらかさないと願いたい。私は溜息をつき潮さんに向き直る。

 

 

「では当初の予定通り、よろしくお願いしますね、潮さん。」

 

「ええ。(わたくし)は構いません。構いませんが・・・」

 

 

すると潮さんは何か言いにくそうに私に対し言い淀む。

 

 

「・・・何かまずいことでも?」

 

「いえ・・・改めて思い直すと胡蝶様に分が悪過ぎる手合わせだなと思いまして・・・」

 

「分が悪い?」

 

 

私は潮さんの意図が読み取れず首を傾げる。彼女はバツが悪そうに言葉の続きを紡いだ。

 

 

「まず、この場所。海岸沿いの砂浜ですが、水使いの私なら足場や傍の波打ち際から際限なく水を操作できるため地の利は明らかにこちらに偏っています。次に胡蝶様の装備についてですが、毒使いの系譜ならあらゆる暗器や仕込みの携帯に便利な丈の長い服装の方が戦いやすいはず。しかし胡蝶様の現在の服装ではそのようなモノは扱えません。本当にこのまま始めてしまって宜しいのかと思案しておりまして・・・」

 

「そんなことですか。なら心配には及びません。」

 

 

私は潮さんにそのような懸案事項を指摘されるが、気にする素振りも見せずに自身の髪留めである蝶の髪飾りから一本仕込み針を抜き取った。

 

 

「私の得物はこれ一つで充分です。」

 

「それは・・・毒針ですね。しかしそれだけで本当に私とやり合うおつもりですか?」

 

「はい。何か問題でも?」

 

 

すると潮さんの雰囲気が私を気遣うものから一変し剣呑なものに変わる。

 

 

「私も舐められたものですね。変性血統無しに得物一つで『使い手』相手に勝負を挑もうなどと・・・」

 

「別に侮っているつもりはありませんよ。確かに私は変性血統のような特殊技能は持ち合わせていませんが、実戦闘にはそれなりに自信があるんです。」

 

 

「・・・まあいいでしょう。どの道手合わせを始めてしまえばわかること。いつでも来てください。先手はお譲りします。」

 

 

「わかりました。では遠慮なく・・・」

 

 

私は潮さんが手招きをするので手合わせ開始の合図とみなし、一呼吸整えその場を蹴る。その瞬間砂浜が爆散する。

 

 

「っ!!??」

 

 

私は一瞬で潮さんの正面まで距離を縮める。その瞬間、潮さんは驚愕に目を見開いていた。

 

私は筋弛緩剤を塗布した針を潮さんの左肩にでも打ち込もうと右手を振りかざした。

 

しかしその動作の直前に不思議なことが起こる。

 

なんと潮さんの足場から突如鉄砲水のように水柱が噴出されたのだ。

 

私は紙一重でそれに巻き込まれないよう攻撃を中断し背後へ下がる。すると私の頭上より人影が差す。

 

 

「っ! 上っ!?」

 

「ご名答です。」

 

 

私が即座に頭上を見上げると、到底砂浜で跳躍したとは思えない高さに潮さんが滞空していた。

 

 

「驚きました。流石は下呂様が自身に劣らないと評価される程の腕前。危うく一瞬で勝負が決するところでした。」

 

 

すると落下の途中で潮さんは片腕を私にかざす。私はその予備動作に身構えるが、不意に勘が働きその場を即座に退避した。

 

 

一拍遅れて、私の立っていた場所の足元から水の塊がまるで意思を持ったかのように持ち上がり、縄のように対象を縛り上げるような挙動をしていた。

 

 

「素晴らしい反応速度と機転ですね。頭上に注意を引いたつもりでしたがこれを躱すとは。」

 

「・・・確かにもう少しで拘束されるところでした。しかし実際目にすると摩訶不思議な芸当ですね。まるで血鬼術のようです。」

 

 

下呂さんから度々聞かされる変性血統の力。使い手によって研ぎ澄ませる形質は異なるが、何代にも渡って血脈に宿したその力はまるで異能のようだった。私から言わせれば鬼が使う血鬼術のそれとそう大差ない。

 

そして彼女の扱う変性血統は『水を操作する』というもの。下呂さんが大正時代にいた時に戦った上弦の伍、玉壺の扱った血鬼術とかなり似通った代物のように思える。もしかしたら彼女の実力は上弦下位の水準に匹敵するのではないかと私は警戒心を引き上げた。

 

そう目の前の状況を分析してる間に、潮さんは砂浜に着地する。すると彼女は笑みを浮かべた。

 

 

「これ程の実力があるのなら遠慮は要りませんね? 本日は存分に胡蝶様の実力を見定めさせて頂きます。」

 

 

すると彼女は両の掌を掲げ私に向ける。するとそこから無数の水弾が放たれ、私に向かって殺到する。

 

 

 

 

 

 

ー蟲の呼吸 蝶ノ舞 戯れー

 

 

 

 

 

私は咄嗟に緩急自在の翻弄するような動きで飛来する水弾を躱し、再び潮さんへと接敵する。

 

 

「なっ!?」

 

 

 

 

 

 

ー蟲の呼吸 蜂牙ノ舞 真靡きー

 

 

 

 

 

 

続けざまに型を重ねる。再び砂浜が爆散する程の踏み込みで潮さんに突進する。しかしギリギリのところで潮さんの正面の足元から水が噴出し私の突きを妨げる。

 

 

「くっ!!」

 

 

私はその噴出の勢いに打ち上げられ宙に跳ね飛ばされるが、空中で重心を整え遠くの足場に着地する。

 

 

「全く厄介ですね。どこから水が噴き出てくるのか予測がつきません。」

 

「胡蝶様こそ本当に凄まじい腕前です。私も実戦闘には相当の自信があったのですが、アナタの前では到底そのようなことは豪語できそうにありませんね。」

 

 

しばし沈黙が続く。砂浜の照り返しがじりじりと肌を刺す刺激に思わず汗が流れる。

 

私は再び足場を蹴る。しかし一足飛びに接敵しては先ほどの焼き直しになりかねない。

 

私はその速力をふんだんに活かし、彼女の死角に滑り込もうと駆け回る。すると潮さんが不意に不敵な笑みを浮かべた。

 

 

「さて・・・ではそろそろ決着をつけさせて頂きます。胡蝶様の貴重な時間をこれ以上割いて頂く訳にはいきませんので。何より私のようなベンチャー上がりにとっても毎日が常にタイムイズマネーですからね。」

 

 

すると潮さんは周囲三百六十度に散弾のような水弾を一斉射出する。私は攻撃を喰らいかねないとそう判断し、即座に自身の動きに型を重ねる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー蟲の呼吸 蜈蛟ノ舞 百足蛇腹ー

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!!?? この動きはっ・・・!!」

 

 

私は左右をうねるように潮さんの周囲を駆け回り水弾を躱す。加えて足場を蹴り続けることにより、すぐに周囲は爆散した砂粒が大量に舞い上がった。潮さんの視界も同時に塞ぐためだ。

 

すると彼女は両手を左右にかざし、それを一気に振り抜いた。それにより潮さんを起点とした周囲のあらゆる足場から、突如凄まじい物量の水柱が多数噴出される。それにより私が舞い上げた砂粒の目くらましなど一瞬で飲み込まれ、あっという間に無効化されてしまった。

 

 

「なかなか危うかったですがこれで・・・っ!!??」

 

 

潮さんは勝ち誇ったように笑みを浮かべたが、その表情も一瞬で崩れる。

 

なぜなら彼女の足元には既に、私が地に臥せる様な構えで接敵し距離を詰め切っていたからだ。

 

私はそのまますれ違い様に潮さんの太ももに針を一刺しし、そのまま駆け抜ける。

 

それにより潮さんは体勢を崩し砂浜に前のめりに崩れ落ちる。一拍置いて周囲の水柱が凄まじい音を立てて形を崩し辺り一帯に水しぶきを舞い上げた。

 

 

「勝負あり・・・ですね?」

 

「くっ・・・まさかこれ程とは・・・!!」

 

 

潮さんは地に臥したまま動けないでいた。辛そうに表情を歪めるので私はすぐに蝶の髪飾りから一本仕込み針を抜き取る。

 

 

「少し待っててくださいね? すぐに解毒します。」

 

 

私は解毒薬を塗布した針を潮さんの二の腕に一刺しする。

 

やがて数秒もしないうちに彼女の震えも治まり、立ち上がれるまでに回復した。

 

 

「恐ろしい腕前です。まさか変性血統無しでこうも一方的に負けてしまうとは。手加減されながらここまで完膚無きまでに敗北するようでは私もまだまだのようですね。」

 

「あ、いえ。そもそも私、下呂さんのように変性血統は使えないので別に手加減なんてしてませんよ? 先程見せたのが今の私の全力です。寧ろ一つ間違えば潮さんに完封されてたのは私の方だったと思いますし・・・」

 

「成る程。そう言えば胡蝶様は『使い手』の家系ではないのでしたね。失念しておりました。とは言え私の完敗です。」

 

 

そこまで言い切った後、潮さんは逡巡するも、やがて私に視線を移す。その眼差しはとても切実なもののように思えた。

 

 

「これなら思い残すことなく・・・私は一線を引くことができそうです。」

 

「え?」

 

 

私は潮さんの最後の言葉に反応する。すると潮さんは悲しそうに、それでいて安心しきったように私に微笑みかける。

 

 

「胡蝶様・・・どうか・・・下呂様のことを・・・これから先よろしくお願いしますね?」

 

 

彼女の頬に一筋の水滴が伝う。それは頭上より被った水しぶきによるものか、それとも彼女の胸中を表すものだったのか。

 

いや、今は余計な詮索をしない方がいい。私はそう判断し彼女の切実な思いに応えることにした。

 

 

「はい・・・! 私が必ず・・・下呂さんを幸せにしてみせます・・・! 約束します・・・!」

 

 

潮さんは私の返答を聞いて、憑き物が落ちたように優しく笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「下呂さん。良かったのですか? あんなにあっさり潮さんと解散してしまって・・・」

 

「む?」

 

 

私たちは砂浜で夕陽を眺めながら横並びに座っていた。下呂さんはサーフ型の水着に濃紺のシャツを羽織っており、私はその横で大きめのタオルで全身を包んだまま下呂さんに尋ねていた。

 

 

「その・・・潮さんとは色々お話したいことがあったのでは?」

 

「いや。潮も何かと忙しい身だ。あまり引き留めても迷惑になる。要件があれば向こうからまた仕事の連絡とか諸々あるだろうし、そのついでにまた話もできるだろう。だから問題ない。」

 

「いえ・・・そういう事ではなく・・・」

 

「ぬ?」

 

「・・・何でもありません・・・今のは忘れてください・・・」

 

 

私は下呂さんから視線を逸らす。彼は分かっていたのだろうか。潮さんが彼にどのような感情を向けていたのかを。

 

下呂さんは何と言うか、かなり鈍感なところがあるので、そう言った感情の機微には疎いのかもしれない。恋愛経験もまるでないと言っていたし仕方がないのかもしれないけど。

 

 

「ねぇねぇ胡蝶さん。結局海には入らないの? 折角ここのビーチ貸切ったのに。」

 

「・・・」

 

 

すると長袖短パンフィットネス水着の姿で城崎さんが私に声を掛けてくる。私をゆさゆさと揺らし催促までしてくるので私は思わず苦笑いをする。

 

 

「まだ水温もそこまで高くないですし今日は辞めておきます。日もだいぶ落ちてきましたしね。」

 

「も~、だから早めに水着に着替えて遊ぼうって言ったじゃん! 日中ならまだ暖かかったしギリ海辺で遊べたよきっと。」

 

「まあいいじゃないですか。また次の機会で。下呂さんもまた一緒に来てくれますよね?」

 

「む? ああ、勿論構わないぜ。そもそも今日は海水浴する予定もなかったしな。つう訳で城崎、海で遊ぶのはまたの機会だ。悪いな。」

 

「え~? もう・・・下呂君の奢りとは言えこのビーチ貸切るのに凄いお金払ってるのに。勿体ないな~。」

 

「そんなことより城崎さん。私喉が渇きました。お水でもお茶でもいいので買ってきてくれませんか?」

 

「そうか胡蝶。なら俺が・・・」

 

「いえ、城崎さんに行ってきて欲しいんです。下呂さんは私と一緒にここで待機でお願いします。」

 

「む? それは一体どういう・・・」

 

 

私がすぐ下呂さんに足止めへと掛かると、彼は困惑する。一方、城崎さんは私の意図を察したのか一瞬驚くも、すぐに一転しニマニマし始めた。

 

 

「ムフフ~? そういうことなら私が行ってくるよ~。ではお二人とも、あとはごゆっく・・・」

 

「城崎さん。変なこと言い出すなら首筋に注射器打ち込みますよ?」

 

「ひっ・・・ごめんなさい・・・今すぐ飲み物取りに行ってきます・・・」

 

 

私が冷たい視線と声音を向けると、城崎さんはそそくさとその場をあとにした。城崎さんがいなくなったことを確認し、周囲に誰もいないことを見計らい、私はそのまま立ち上がる。

 

 

「どうした? 胡蝶。」

 

「・・・」

 

 

私は下呂さんの正面に立ち尽くす。彼は怪訝に首を傾げているが、一方私の胸中はどうしようもない羞恥心と期待感で一杯になっていた。

 

 

「あの・・・下呂さんにはその・・・どうしても感想を貰いたいなと思ってまして・・・」

 

「感想? 何の・・・っ!!??」

 

 

私は彼の言葉を待つこともせずに、自身を覆ってたタオルを広げて城崎さんに選んでもらったものの意匠を露わにする。

 

 

「はっ? えっ? こ、胡蝶!? お前何考えて・・・!!」

 

「下呂さん・・・これ・・・似合ってますか?」

 

 

私は全身を真っ赤に染め上げながらも下呂さんに意見を求める。

 

城崎さん曰く、今の私の姿は白の三角ビキニというモノのようで腰にはパレオと呼ばれるものを巻いてる装いだった。

 

西日を後ろに覆っていたタオルを広げて下呂さんに自身の水着姿を見せつけるのは、正直裸体を見られたのと同じくらい羞恥心を搔き立てられるような体験だった。

 

けど私はそれでも城崎さんのあの言葉にまんまと乗せられていたのだ。今の私にとってはあらゆる理性が揺らいでしまう魔法の言葉。

 

 

『胡蝶さんも下呂君に喜んでもらいたいんでしょ? その水着とっても似合ってるから彼の前でお披露目しようよ。きっと下呂君ならすっごく可愛いって褒めてくれるよ?』

 

 

私は完全にその城崎さんの甘言にあてられていた。正直今すぐ全身を覆い隠して逃げ出したい。なのにそれができない。

 

彼から欲しい言葉を引き出したいという欲求一つで、私の脳内はこの時完全に塗り固められてしまっていたからだ。

 

とは言えもう全身から火が出そうな思いだった。私は堪え切れず目を固くつぶる。やがて下呂さんも落ち着きを取り戻したのか、そう時を置かずに呟いた。

 

 

「・・・綺麗だぜ・・・胡蝶・・・」

 

「っ!!///」

 

 

私は目を見開いて下呂さんを見る。彼も恥ずかしいのか顔を真っ赤に染め上げ口元を覆っている。

 

 

「その・・・なんだ・・・城崎には感謝しねぇとな。俺じゃあ今の胡蝶を見たいって正直に言い出せなかっただろうし。ホントに良く似合ってると思う。改めて言うが・・・すげぇ綺麗だぜ・・・胡蝶。」

 

 

私はその瞬間、頭から足のつま先まで全身真っ赤に染め上がったことを自覚した。

 

かく言う下呂さんも下呂さんで、今しがた口にした言葉が気恥ずかしかったのか、やがて顔を背けてしまった。

 

けど私は、寧ろ彼がそんな反応をしてくれたことが堪らなく嬉しかった。

 

得も言われぬような充足感を感じ、気が付けば一人笑っていた。

 

 

「な・・・おい・・・いくらなんでも笑うこたぁねぇだろ? 

 俺だってらしくねぇのは重々承知してる。けど今の胡蝶の姿を見てつい言葉が出ちまったんだよ。そんなに可笑しかったか?」

 

「あっ! いえ、別に可笑しくて笑っていた訳ではなくて・・・その・・・下呂さんの顔今すっごく真っ赤だなって思いまして。そんな風になってくれたのが堪らなく嬉しくて・・・///」

 

「っ/// これは・・・その・・・あれだ・・・夕陽のせいでそう見えるだけだ・・・多分な。そういう胡蝶だって全身真っ赤じゃねぇかよ。」

 

「こ、これはその・・・夕陽でそう見えるんですよ! 下呂さんと同じですっ!///」

 

「そうか・・・夕陽のせいか・・・じゃあ仕方ねぇよな・・・///」

 

 

それから城崎さんが戻って来るまでの僅かな間、私たち二人はくすぐったいような嬉しいような形容し難い心地のまま、ぎこちなく言葉を交わすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

以下おまけ:

 

 

 

数時間前、お店の試着室にて・・・

 

 

「ちょっと!! 城崎さん!? 渡された水着の露出度、尋常ではないんですけど!! 一体何なんですかこれ!?」

 

「いや~、胡蝶さんに似合いそうなビキニ渡しただけなんだけど。現代だとそれくらい普通だと思うよ~?」

 

「ほ、本気で言ってます!? ほぼ裸同然じゃないですか!?」

 

「まあビキニだからそりゃあね。そこまで言うならはいどうぞ。これ今年のトレンドの雑誌だよ? ほら見てよ。皆これくらい普通に着てるでしょ?」

 

「え・・・そんな・・・現代ではこのような意匠が普通なのですか・・・!?」

 

「まあもうちょい攻めてもいい気はするけど、まあ胡蝶さんも初めてだしね。それくらいスタンダードなデザインの方が丁度いいかと思ってさ。」

 

「けど・・・だからってこんな・・・///」

 

 

試着室で顔だけ出して抗議するしのぶ。しかし城崎はニコニコしながら答えるのみ。

 

 

「ねえ胡蝶さん。折角だしそれ着て下呂君に可愛い姿褒めて貰おうよ。」

 

「えっ・・・///」

 

「胡蝶さんも下呂君に喜んでもらいたいんでしょ? その水着とっても似合ってるから彼の前でお披露目しようよ。きっと下呂君ならすっごく可愛いって褒めてくれるよ?」

 

「・・・・・・・・・本当に?」

 

「ん?」

 

「本当に下呂さんは・・・私のこのような姿を見て喜んでくれるのでしょうか・・・///」

 

「勿論だよ。まあ最初はアワッってキョドるだろうけど、落ち着いたら胡蝶さんのこと女の子として一杯褒めてくれると思うよ?」

 

「・・・うぅ///」

 

「あ・・・えっと・・・胡蝶さんがどうしても嫌だって言うなら無理強いまではしないけど・・・」

 

「わ、わかりました・・・! 私これ、購入します・・・///」

 

「ホント!? 良かった~。正直二人とも同棲し始めてるのに最近余り進展ないし、これくらいしないと今後まずいなぁって思ってたからさ。これを機に下呂君のアホンダラにはもっと胡蝶さんのことを意識して貰わないと。だから胡蝶さん、頑張って今日アプローチしようね?」

 

「・・・・・///」

 

 

結果、紆余曲折を経て城崎の思惑通りになったのだった。二人の仲が進展したことを遠くから望遠鏡で確認し、城崎はニマニマ顔で合流した。

 

 

「お待たせ~。飲み物買って来たよ~? 下呂君は水、胡蝶さんはお茶で良いかな?」

 

「おお・・・城崎・・・サンキューな。」

 

「ありがとう・・・ございます・・・城崎さん。」

 

 

少しぎこちないながらも二人の様子にご満悦の城崎。

 

 

「ムフフ~。少しは私も頑張った甲斐があったね~。」

 

「む? 頑張ったって何を?」

 

「ん~? それはね~・・・」

 

「ちょっ!! 城崎さん!?」

 

「アハハ~。秘密~。」

 

「ほっ・・・良かった・・・」

 

「なんだよ城崎。勿体ぶらず教えろよ。そこまで出掛かったら逆に気になんだろ。」

 

「はあ・・・これだから恋愛初心者白帯以下は。全く以てなっちゃいないねぇ。」

 

「ああ?」

 

「下呂君よ。男たるもの、時には乙女の隠し事には寛容になるべきなのじゃよ。じゃなきゃ恋愛有段者にはなれませんぜ?」

 

「悪い。何言ってるか微塵もわかんねぇ。」

 

「まあまあ下呂さん! 城崎さんには考えがあるんですよきっと! それにもう日が落ちますしそろそろ家に帰りませんか? そしたら今日は私が晩御飯作りますので!」

 

「む? いいのか? 胡蝶は潮との手合わせで疲れてんだろ。今日は寧ろ俺が作った方が・・・」

 

「大丈夫です! 今日は私が下呂さんの為に作ってあげたい気分なんです! 代わりに買い出し一緒に手伝ってくれればそれで充分ですから!」

 

「そうか? よし、なら速攻で調達して来るぜ。要り様のモン全部教えてくれ、胡蝶。」

 

「はい! それではまずですね・・・」

 

 

 

そうして三人は揃って帰り支度を済ませ帰路に就く。夕飯の献立と食材の話に花を咲かせながら、以前より距離感が近づいた二人を見て、城崎は優しく笑みを浮かべるのであった。

 

 

 

 

 




いや~青春だね~(誰だお前は)。

因みに日本における海水浴の文化は江戸末期(=幕末)の頃に西洋医学を学んだ医師達に広められたのが始まりらしいです。と言っても最初は遊泳ではなくリュウマチ療養的な意味合いだったようで、明治初期頃から徐々に在留中外国人や華族の間で遊泳目的に変わっていったらしいです。その後鉄道の普及により明治17年(1884年)以降で一般層にも普及し、明治35年(1902年)には日帰りや一泊旅行できる湘南エリアが人気になっていったとのことです。
加えて19世紀以降の女性水着は長袖ブラウスにロングスカート&タイツが一般的で、大正元年(1912年)のオリンピック以降漸くフィットネス水着が普及したというのが当時の女性水着の歴史的流れになります。

つまり何が言いたいかと言うと・・・明治生まれのしのぶさんがビキニを着用するなんて本来なら有り得ないということです。ぶっちゃけ心理的ハードルは相当高いと思います。にも関わらず今回必死に勇気を振り絞ってお披露目してくれた訳ですから、今後下呂君は一層しのぶさんの想いに応えて欲しい限りですね。何はともあれ二人が幸せならOKです。
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