鬼滅の毒使い   作:科学大好き人間

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下呂君視点です。時系列的には前回の続きです。


6話 毒使い、遊郭に棲む鬼を発見する

「薬売りの竈門炭治郎です! そしてこちらは薬師の下呂先生です!

 先生は凄い薬師で、その場でどんな薬でも調合できるんですよ? ほら! 先生も笑ってください!」

 

「・・・すまん竈門。俺は以前婚活パーティーで無理に笑って女性を全員ドン引させたことがあるんだ・・・接客は全部お前に任せる・・・」

 

「え・・・ええぇ・・・わ、わかりました・・・」

 

 

俺はときと屋の女将に薬の紹介をして、事務的に営業を掛けながら聞き取りを行う。そうして実際に遊女に処方するのは全部竈門に投げた。俺が遊女の相手をするとあがってしまうからだ。

 

 

「その場ですぐ調合できちまうのかい? 今までいろんな薬売りが来たけど、先生みたいなのは初めてだよ。」

 

「・・・どうも。」

 

 

俺は聞き取りを元にその場で次々と薬を量産していく。戦闘中に毒を調製するのに比べれば、これくらい目を瞑ってでもできる。

 

だから俺は、女将の相手をしながら、毒薬(トキシン)(にくづき)】で周囲の気配を探っていた。

 

竈門の嗅覚に比べれば、索敵範囲はかなり狭いが、もし不意に上弦の鬼と遭遇したらたまったもんじゃない。常に警戒は怠らなかった。

 

 

「・・・の症状はこれを服用すれば治るはずです。それと貧血の方はこれを服用させて下さい。若干副作用で気持ち悪くなるかもしれませんが、効果は保証します。」

 

「何から何まで済まないねぇ。連れの男の子も真面目でいい子だし、今後ともよろしく頼みたいぐらいだよ。」

 

「・・・ごひいきに。それでは今日はこの辺で・・・ん?」

 

 

俺は女将と話をつけてその場を立とうとしたが、ふと遠くの部屋から小さな女の子二人が俺たちを見ているのに気が付いた。

 

 

「すまない、女将。あの子たちは?」

 

「ええ? ああ、あの子らは鯉夏花魁の禿の子たちだよ。よそから来たアンタらが気になるんだろうさ。」

 

 

俺は鯉夏花魁の名前が出ても一切反応を見せず、無言で懐からある瓶を取り出す。

 

 

「もしよろしければあの子たちにこれを・・・口に合えばいいのですが・・・」

 

「まあ! いいのかい? こんな瓶一杯の金平糖なんてもらって!」

 

「ええ。妹の幼いころを思い出しまして・・・是非食べさせてあげてください。」

 

 

俺が女将に瓶を手渡ししようとすると、禿の女の子二人は俺の傍まで駆け寄ってくる。

 

 

「わあ! わっちらにくれるの!? 食べたい食べたい!」

 

「あ! こら! お前達、鯉夏花魁の仕事の準備は終わったのかい!? さっさとお戻り!!」

 

「え~? わっち今すぐ欲しい。ねぇ、いいでしょ?」

 

 

女将の持つ金平糖の瓶に手を伸ばす禿たち。その子たちに遠くから視線が注がれるのを俺は肌で感じたが、敢えて気が付かないふりをする。

 

 

「ふっ。ならこっちを先に食わせてやる。特別にな?」

 

 

俺は新たに懐から自作の菓子を取り出す。禿たちは不思議そうにそれを見ている。

 

 

「え~、全然美味しそうじゃないよ。そんなただの白い粉。」

 

「まあ、見てろって。」

 

 

俺はその場で容器に遊具菓子の粉二種と、水を加えて小さめのスプーンでかき混ぜる。

 

すると、容器の中は徐々にもこもこと膨らんで色が変わり、禿の少女たちも驚きの表情に変わる。

 

 

「わあ! 凄い! わっちこんなの初めて見たよ!」

 

「わっちも! わっちも!」

 

「だろ? 俺が自作で作った遊具菓子だ! 味も美味いぜ? 食ってみるか?」

 

「食べたい! 食べたい!」

 

「わっちも!」

 

「ちょ・・・こらお前達! 鯉夏花魁もそんなところで見てないでこの子達に何か言っておやりよ!!」

 

 

するよ、ふすまの向こうから俺たちを覗いていた見女麗しい花魁らしき女性が、俺の前に近寄ってきた。

 

 

 

(来たな。こいつが・・・鯉夏花魁か。)

 

 

俺はさらに肌感覚に意識を集中させる。目の前の鯉夏花魁はそんな俺の思惑など露知らず、禿の少女たちの頭をそっとなでる。

 

 

「よしよし。お菓子を食べようね? その代わり、食べ終わったらすぐ私の部屋に戻るんだよ?」

 

「こら! 鯉夏!! あんまりこの子たちを甘やかすんじゃないよ!」

 

「いいじゃない、女将さん。せっかく先生が用意してくださったんだから、頂かないと失礼だよ?」

 

「もう・・・全くこの子は・・・花魁になっても変わらないねぇ。」

 

 

鯉夏と呼ばれた花魁は優しい眼差しで禿の少女たちをあやす。その様子に面食らったが、俺は目の前の女が鬼じゃないか意識的に探る。

 

 

 

(・・・この気配。間違いなく人間だな。となると俺の推理は見当違いだったか?)

 

 

 

他の遊女の相手をしていた竈門も戻ってくる。俺は誰にもばれないよう目配せし、竈門に合図を送る。

 

 

「すまないな、女将。長居した。では、そろそろ失礼する。」

 

「あ、先生。贈り物まですみません。よろしければ来週あたりにまた来てくれないかい? 薬の効きや経過を見てほしいんだ。頼めるかい?」

 

「ええ、構いません。ではまたお伺いします。竈門も行くぞ?」

 

「は、はい!」

 

「あの・・・先生?」

 

 

俺が店を出ようとしたタイミングで、鯉夏花魁に声を掛けられる。

 

 

「ありがとうございます。この子たちにこんな素敵なお菓子を用意してくれて。私からもお礼を言わせてください。また来てくださいね?」

 

「あ、ああ・・・ままままた来る・・・」

 

 

俺はふいに鯉夏花魁に微笑みかけられて秒でテンパる。ぼろが出ないうちにそのまま店をあとにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう・・・収穫はあったが・・・」

 

「下呂さん。鯉夏花魁は・・・」

 

「白だな。どうやら俺の推理は当てが外れたようだ。ぬう・・・」

 

「いえ、もしかしたら鬼は他の店の人間に化けてるかもしれません! めげずに探し続けましょう!!」

 

「ああ、引き続き頼む。竈門。」

 

「はい!・・・それにしても下呂さんが女性を相手にするのがあんなに苦手なんて思いもしませんでしたよ。しのぶさんとは普通に話せるのに・・・」

 

「ぬ!? し、仕方ないだろ。殺しの仕事をずっとしてたんだから、恋愛とか異性とかずっと避けて生きて来たんだから。逆になんでお前はあんなに慣れてるんだ?」

 

「え? そうですね・・・俺は兄弟姉妹が多かったので、妹ともよく話す機会が多かったですし、父さんが死んでからは代わりに母さんと話すことが多かったから、それでですかね?」

 

「マジか・・・俺も妹がいるがそんなこと微塵もねぇがな。年下に世話になりっぱなしとか辛だぜ・・・」

 

「あ、いえ!! 俺の方こそ下呂さんに世話になりっぱなしで・・・それこそ本当に頼りにしてますから!! そんなこと気にしないでください!!」

 

「竈門・・・お前、本当にいい奴だな。」

 

「いえ、それほどでもありませんよ! それで、次はどちらに行きますか?」

 

「あ、ああ・・・次は荻本屋でいいか。宇随の嫁の一人まきをが潜入してた店だな。要領はときと屋の時と同じだから、引き続き頼んだぜ、竈門。」

 

「はい! こちらこそよろしくお願いします!!」

 

 

そうして俺たちは荻本屋を訪れた。再び俺が女将に営業を持ち掛け、交渉がうまくいったのちに竈門が遊女の相手をする。その繰り返しだった。

 

そして聞き取りを行う中、まきをがここ数日部屋で寝込んで人前に出てこなくなったことを聞かされた。

 

 

「・・・かなり重篤な病気かもしれません。直接診察してもいいですか?」

 

「え? まあ構わないよ。まきをは奥の部屋だ。お前、案内しておやり。」

 

 

竈門が丁度相手をしていた遊女が俺たちの案内をしてくれることになった。やがて、目的の部屋に辿り着き、俺も竈門もはっとする。

 

 

「この気配・・・!」

 

「鬼の匂いがします!!」

 

 

俺は急いでふすまを開ける。そこは窓が雑紙で完全に塞がれ、日光が一切入らないようになっていた。加えて、部屋中散乱した跡。壁には何かで斬りつけたような跡が残っていた。そして・・・

 

 

「風・・・天井か!!!」

 

 

俺は調剤用のメノウ乳鉢をとっさに天井に投げつける。天井を突き破ると、天井裏で何者かが動き回る音が鳴り響く。

 

 

「なるほど・・・これは恐らく建物内に秘密の抜け道があるな。道理で三つの店を出入りしても俺や宇随が気が付かない訳だ。」

 

「そんなことより下呂さん!! 奴が逃げますよ!!」

 

 

竈門が慌てて追いかけようとするが、俺は竈門の首根っこを掴んで引き留める。

 

 

「ぐえ!!」

 

「落ち着け。店中走り回る気か? そんなことしても奴は捕まえられない。まずは建物内の抜け道の構造を調べないことにはどうしようもねぇ。

 一旦宇随に報告だ。そしたら京極屋に向かう。いいな?」

 

 

俺はその場にいた遊女に一瞬で注射器を打って眠らせる。幻覚作用で、ここでは何も起こらなかったと誤認するよう薬を投与した。

 

俺達は女将に嘘の事情説明をして誤魔化した上でそのまま店を去った。

 

そうして一旦宇随との合流を急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか・・・まきをがいた荻本屋ではそんなことに・・・」

 

 

最寄りの藤の花の家紋の家とかいう鬼殺隊関係者の家に戻ってきた俺たちは、ことの顛末を宇随に報告した。

 

 

「宇随。俺はまきを含め全員が生きていること前提で動く。鬼は十中八九店で働いている奴だ。巧妙に人間の振りをしている以上、人を殺すには慎重になるはずだ。

 少なくとも店の中で犯行に及べば、血痕等の証拠が残る。そして夜は仕事をしてないと周囲に怪しまれるからな。

 建物内に秘密の抜け道があることも確認できた。お前は人がいない時間帯に店にへ忍び込んでその構造を調べて追跡しろ。運が良ければその先にお前の嫁たちや城崎も生きて囚われてるかもしれねぇからな。」

 

「助かる、下呂。お前がここまでちゃんとした証拠を押さえて戻ってくるとは・・・少しはお前のこと見直したぜ?」

 

「伊達に毒使いの仕事やってきてないからな? とにかく俺たちは残りの京極屋の調査をする。もし鬼らしき奴がいればそれで決着がつく。お前は生存者の救出に集中しろ。いいな?」

 

「わかった。たっく、こんなに頼もしい奴がなんで遊女の一人や二人の相手できないんだろうな? 全く派手に驚きだぜ。」

 

「ぬ!? それは今関係ねぇだろ!? つべこべ言ってねぇでお前は嫁の救出に行ってこい! 鬼を倒せても死人が出ちまったら意味ねぇだろ!?」

 

「ああ、そうだな。お互いうまくいくことを祈るぜ?」

 

 

そうして宇随と俺たちは別行動をする。俺と竈門は最後の店、京極屋へと足を運ぶ。例に習い、俺が女将に営業を持ち掛け、竈門が遊女の対応をする。流石に慣れたもんだな。

 

女将から聞き取りを行っていくうちに、雛鶴の名前があがった。

 

 

「切見世?」

 

「そうよ、急に吐血なんてするもんだから急いで送ったわよ。何か危ない病気だったら怖いからねぇ。」

 

「わかりました。もしよろしければその遊女の治療薬も出しましょう。診察したいのですが場所はどこに?」

 

「えっと、場所は・・・」

 

「切見世なんて最下級の女郎屋よ。お医者様のお目汚しになるわ。そこまでしてもらわなくていいんじゃない? ねえ、女将さん?」

 

 

俺が女将から話を聞く直前で、横から艶やかな声が聞こえた。振り向くと、そこには刺々しいほどに着飾った花魁らしき女が立っていた。

 

毒薬(トキシン)(にくづき)】を打ってなかったとしても直感的にわかっただろう。目の前の花魁が鬼であることを。

 

俺は内心動揺するが、気取られないよう平静を装った。

 

 

「しかし、ご病気の方がいらっしゃるなら私どもで力になれるかと。薬が効かなければお代はいりません。」

 

「別にお金の話をしているんじゃないわ。高貴な身分のお医者様が足を踏み入れるような場所じゃないって言ってんのよ・・・!」

 

「こ、こら! 蕨姫花魁・・・! お医者様に失礼だろう? そんな言い方・・・」

 

 

蕨姫花魁は眉間にしわを寄せ、女将を睨む。その凄みに女将は押し黙ってしまう。

 

 

「どうしても余計な人助けがしたいなら、他の店をあたることね。きっと歓迎されるわよ?」

 

「・・・わかりました。この場は引き取らせてもらいます。では・・・」

 

 

俺は震えて目を見開く竈門の表情が見えないよう、うまく俺の背に隠したまま、京極屋をあとにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「竈門。鬼を発見して面食らったのはわかるが、もう少し動揺を隠せ。俺がうまく視線誘導しなかったら秒でバレてたぞ?」

 

「す・・・すみません・・・でもあの気配・・・きっと上弦の・・・」

 

「いや、それはないな。」

 

「え!?」

 

 

帰り道竈門を落ち着かせつつ、竈門の発言に対して異を唱えた。

 

 

「いや!! あの気配!! 絶対上弦の鬼です!! とても下弦の鬼とは思えなかったですよ!?」

 

「・・・俺は下弦の鬼に会ったことはねぇが、それでもあいつは上弦よりずっと弱いと思うぜ? 

 少なくとも毒薬(トキシン)(まいあし)】で瞬殺できるレベルだ。今は持ち合わせがねぇけどな。」

 

「え!? そうなんですか!?」

 

「ただ、あの鬼の強さと血鬼術の厄介さは多分別で考えなきゃいけねぇだろうな。とにかく宇随に報告だ。うまくいけば今夜中にでも奴を殺せると思うぜ?」

 

「やっぱり下呂さんは凄いんですね・・・俺は動揺も隠せず震えていたのに・・・」

 

「まあ、今のお前は日輪刀っていう武器を持っていないからな。丸腰で化け物相手にしたなら当然の反応だ。落ち込む必要はねぇよ。」

 

「下呂さん・・・」

 

 

俺は竈門の背中をポンと叩いてなだめる。

 

 

「いよいよだな。この数ヶ月でお前がどれくらい強くなったか、期待してるぜ。竈門。」

 

 

 

そうして俺たちは藤の花の家紋の家に戻り、宇随に京極屋で鬼を発見したことを報告し、戦いに備えて身支度に取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

 




下呂君は遊具菓子が好きです。大正時代に飛ばされても自作で作ってるはずとの見解で禿の子たちに振舞うシーンを入れました。筆者も幼い頃ねるねるねるね食べまくってたので下呂君の趣味に愛着が湧きます。
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