鬼滅の毒使い   作:科学大好き人間

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しのぶさん視点です。筆者はしのぶさんのことを重度のシスコンだと思ってます。ただ生い立ち的に仕方がないとも思ってます。11歳で両親死んでるので、心の拠り所が姉に集約されるのは必然かと。ふと思ったのですが、シスコン&ブラコンキャラは両親が居ないパターンが多い気がします。だとしたら悲しき理由ですね・・・泣


17話 片羽の蝶、姉の生き写しに執着する

「おい胡蝶。なぜ俺が休日を返上してお前と一緒に遊園地になど来なければならない? どうせこんなところに来るのなら、せめて甥の義一を遊びに連れて来たかったんだが・・・」

 

「しー! 冨岡さんうるさいです。あんまり喋ってると炭彦君に尾行がバレちゃうじゃないですか。いいから今は黙ってて下さい。」

 

「・・・俺はうるさくない。」

 

 

現在私は都内の遊園施設の入場口一帯が一望できる、最寄りの喫茶店のテラス席で私服姿のまま座っていた。

 

今日は念のため動きやすい白の襟付きシャツに黒のキュロットスカートにブーツで来ていた。例に漏れずカナヲの隊服を意識した装いだ。

 

そして目の前にいるのは不機嫌そうに珈琲を啜る冨岡さん。普段着なのかゆったりした上下スウェット姿で座っていた。

 

勿論今の私は冨岡さんと二人きりで逢瀬(デート)気分にふけっている訳ではない。そもそも私は下呂さんと婚約している身なのだから、彼に誓ってそんな不義理を働くつもりもない。

 

私がこのような奇行に及んでいる理由は唯一つ。それは炭彦君の交際相手、蝶野カナメという少女が余りに死んだ姉さんとそっくりだったので、一目で良いから会って確かめてみたいと思ったからだ。

 

先日、炭彦君が携帯の待ち受けにしていた彼女の写真を見て、その時の私は思わず息が止まるかのような衝撃を受けた。

 

本当に死んだ姉さんに瓜二つだった。写真の服装は女学院の制服なので、装いはまるで異なるものだったが、容姿は正に姉さんの生き写しそのものだった。

 

私は居ても立っても居られず、今日この日炭彦君を尾行することに決めた。

 

彼は姉さんの生き写しのような少女とこの日逢瀬(デート)に行くとそう言っていた。

 

なら今日このように待ち伏せしていれば必ず彼女と会える。私はそう確信していた。

 

会ったところでどうこうする訳でもないけれど、それでも私は無性に彼女に会いたいとそう切実に願っていたのだ。

 

 

「ハア・・・胡蝶、言っとくがお前がやっていることは立派なストーカー行為だ。こんな軽犯罪のような真似に俺を付き合わせるなど一体お前は何を考えて・・・」

 

「うるさいです。いいから黙っててもらえませんか? それ以上文句言うなら報酬の手作り鮭大根の件は白紙に戻しますよ?」

 

「・・・・・・わかった。」

 

 

それから冨岡さんは一言も話さなくなった。今回彼を買収した条件を盾に私は強権を振りかざす。理不尽極まりない凶行だったが、正直背に腹は代えられない。

 

もし仮に今日、私一人で炭彦君たちを尾行したとしても、日曜の真昼間に成人女性が遊園施設をうろうろしてたら周囲の人達に怪しまれるだろう。ましてや尾行がバレた時なんてどう言い訳すればいいのか。

 

そのような最悪の想定を回避するために思いついたのが、冨岡さんを引き連れて二人で動くことだった。

 

これなら周囲からは男女が余暇を満喫してるように見えるだろうし、仮に炭彦君に気づかれたとしても上手い言い訳が立つだろう。とっさの思い付きとは言え我ながら名案だった。

 

 

「ふと思ったんだが下呂を連れてくれば良かったんじゃないか? アイツは振りなどせずとも胡蝶とは婚約している恋人な訳だし・・・」

 

「下呂さんは今別件で忙しいみたいです。なんでも元婚活相手の方が事業で行き詰ってるようでそのお手伝いを・・・」

 

「なあ胡蝶。前々から思っていたんだが・・・」

 

「はい?」

 

 

不意に冨岡さんは気まずそうにそう述べる。私は彼の様子に疑問の声を上げた。

 

 

「お前・・・下呂が他の女と出歩いててもなんとも思わないのか?」

 

「はあ? そんな訳ないじゃないですか。仮に浮気じゃなかったとしても凄く胸の内がモヤモヤするに決まっています。」

 

「だったらなぜ止めない。嵐山とかいう使い手の時もそうだったが、なぜ下呂が元婚活相手と交流を持ち続けようとすることを止めようとしなかった。万が一、下呂の気が移り変わってお前との婚約を破棄でもしたら一体どうするつもりだ?」

 

「・・・・・・」

 

 

私は閉口する。そもそも私は下呂さんが今だに元婚活相手の面々と仲親し気に過ごされてるのに抵抗がない訳ではない。

 

潮さんも、嵐山さんも、今現在会いに行ってる嬉野さんも、みんなみんな女性として魅力的な方ばかりだ。

 

確かに下呂さんに対して、彼女たちとの交流はある程度に控えて欲しいと思わないくもない。下呂さんに限って浮気なんてないだろうけど、それでも男心と秋の空っていう言い回しもあるぐらいだし、正直快くは思えない。それでも私は・・・

 

 

「下呂さんは・・・ご友人を非常に大切にされる方なんです・・・今まで家の都合で交友を制限されて・・・したくもない人殺しの仕事ばかりさせられて・・・だからこそ人との繋がりに飢えている節があるんです。」

 

「だったら猶更気に掛けた方が・・・」

 

「いえ、だからこそ私は彼の願望を尊重してあげたい。私一人の我儘で、彼の人生を縛りつけたくない。彼には心の声をしっかり聴いた上で、思うような人生を過ごして欲しいと私は願っているんです。」

 

「もし仮にそれで・・・下呂が他の女になびくようなことがあったとしてもか?」

 

「・・・冨岡さんは私の気にしてることばかり指摘してきますね。勿論その可能性もないとは言い切れませんが・・・」

 

 

私は真っすぐ冨岡さんの目を見て自身の考えを返答する。

 

 

「大丈夫です。私は彼のことを信じていますので。だから何も問題ありません。」

 

「そこまで言うか。なら俺は何も言うまい。胡蝶の好きにするといい。」

 

「ええ。好きにさせて頂きます。」

 

 

最後小声で「下呂が後ろから刺されなければいいが・・・」と聞こえた気がしなくもないが私は敢えてそれを拾わなかった。正直この話題はもう終わりにしたかったから。

 

そして冨岡さんは残りの珈琲を一気に飲み干し息を付いた。

 

 

「さて・・・丁度さっき竈門がお前のお目当ての女子と合流して遊園地に入場した訳だが、そんな風に悠長にしてていいのか? 」

 

「っ!? だったらすぐ教えてくださいよっ!! なんで黙って座ってるんですか貴方は!!」

 

「いや・・・胡蝶が余りに真剣な話をしてる訳だからつい・・・」

 

「もうっ! だったら今すぐここを出ますよ!? さっさとお会計済ませて追いかけないとっ!」

 

 

そうして一足遅れて私たちは炭彦君たちが入園した施設に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小一時間程、私たちは炭彦君の後を尾行していた。やがて飽きたのか冨岡さんがため息をつく。

 

 

「胡蝶。いっそのことあいつらに声掛けた方が良いんじゃないか? この距離じゃただ遠目で眺めるくらいしかできないだろう?」

 

「・・・だって・・・なんて声を掛けたらいいかわからないし・・・」

 

「ハア・・・仕方ない・・・なら少し待っていろ。」

 

「え・・・ちょっと!? 冨岡さん!?」

 

 

するとあろうことか彼はベンチで横並びに座り休憩中だった炭彦君たちに近づいて行く。私は慌てふためき、反射的に近場の建物の陰に大急ぎで隠れた。

 

 

「竈門。少しいいか?」

 

「え・・・えっ!? 冨岡先生っ!? どうしてこんなところに!?」

 

 

案の定、炭彦君は動揺した。何が何だかわかっていない様子だった。当然と言えば当然だが。

 

加えて彼の恋人である例の少女も驚いている。私はそんな三人の様子を見てハラハラしていた。

 

 

「と・・・冨岡先生・・・もしかして・・・補導ですか・・・?」

 

 

炭彦君は大汗を流しながら震えている。それを見て冨岡さんはキョトンとしていた。

 

 

「補導? 一体なぜ・・・」

 

「いや・・・冨岡先生って生徒指導の先生でもありますし・・・他校の女子生徒とお出かけしてるの見て・・・それで声を掛けに来たのかと・・・」

 

「? なぜ休日の過ごし方にまで俺が口を出さなければならない? 別に構わないだろう。他校の女子と出かけるぐらい。」

 

「そ、そうなんですか? いやでも・・・不純異性交遊とか何とかそれっぽい理由を付けて結局最後は叱るんじゃ・・・」

 

「? そんなつもりは全くないが。いや待て。まさか竈門はそんなつもりでその子と出歩いていたのか? だったらこのまま看過することはできないな。」

 

「っ!!?? ち、違います! 断じて違います冨岡先生!! そもそも僕らまだ付き合ってそんなに経ってないし! デートだってこれが初めてなんですよ!?」

 

「そうだったのか。なら邪魔して悪かった。であれば用件だけ手短に済ませよう。今日は二人に会わせたい奴がいる。」

 

 

すると冨岡さんは振り返り、私の方を向いて手招きしてくる。

 

 

「・・・・・・嘘でしょ・・・折角私が様子を伺い機を見て必死に尾行してたっていうのに・・・全くあの人は本当に何を考えて・・・・・・」

 

 

結局当初の計画が足元から瓦解したことを私は悟り、観念してそのまま彼らの前に姿を現わした。

 

 

「え? しのぶさん!?」

 

「お久しぶりです。炭彦君。」

 

 

私が挨拶すると、炭彦君の疑問の声とほぼ重なるように、私が会おうとしていたその少女からも同時に問いを投げかけられる。

 

 

「あの・・・どこかでお会いしたことがありますか?」

 

 

その声を聞いた瞬間、私は思わず口元を覆い、涙で両の眼を潤ませた。

 

 

(容姿だけじゃない! 声まで・・・表情や仕草まで姉さんそっくり・・・! あの時死に別れるまでの姉さんと全く同じ・・・!!)

 

 

「・・・うっ・・・うっ・・・」

 

「えっ? あのっ・・・大丈夫ですか!?」

 

 

するとその子は、休憩で座っていたベンチを立ち上がり、すぐさま私に駆け寄った。

 

 

「だ、大丈夫? 何か悲しいことがあったの? ねえ、元気出して? ほら、これで涙拭いて?」

 

 

すると姉さんそっくりの容姿のまま、姉さんそっくりの声音のままで、その子は私を慰めてくれる。

 

ハンカチを差し出し、目元の涙を優しく拭ってくれる。私はそこで遂に堪えきれなくなり、その場でその子に縋り付いてしまった。

 

 

「うぅううっ!! 姉さんっ・・・姉さぁあああんっ!!!」

 

「えっ? お姉さん? 私が?」

 

 

私は人目も憚らずそのまま号泣する。その様子を冨岡さんも炭彦君もあっけに取られ呆然と眺めて居た。

 

 

「えっと・・・冨岡先生? しのぶさんってカナメさんの妹さんだったんですか?」

 

「いや・・・そんなはずは・・・そもそも胡蝶は十八でお前の交際相手はまだ十七の高校生だろう? 寧ろ年齢は逆だ。これは一体どういう・・・」

 

 

やがてそのカナメと呼ばれた少女は、私を介抱するような形でベンチに座らせる。私もやがて落ち着き、次第に冷静に物事を考えられるようになり頭を下げた。

 

 

「申し訳ありません・・・急に取り乱してしまって・・・」

 

「胡蝶、本当に大丈夫なのか?」

 

「はい。もう大丈夫です。すみません。皆さんの前で醜態を晒してしまって・・・」

 

 

私はちらりと姉さんそっくりのカナメと呼ばれる少女を見る。彼女は困ったように笑っていたが、それでも奇異の者を見るような視線など微塵も向けてはこなかった。

 

 

「きっと辛いことがあったのね? もし私で良ければ話してみて? それだけでも心が軽くなると思うから・・・」

 

 

彼女は私を気遣いながら、優し気な声でそう寄り添ってくれる。その振舞いに姉さんの面影を感じ、再び気持ちが緩んで泣き出してしまいそうになるも私は必死に涙を堪えた。

 

 

「・・・いえ・・・貴方がかつて死に別れた・・・最愛の姉に瓜二つだったもので・・・それでつい・・・」

 

「まあ・・・そうだったのね。」

 

 

私が力無くそう呟くと、彼女は目を見開いて口元を覆ってしまった。

 

 

「ごめんなさいね? 私のせいでそんな辛いことを思い出させてしまって・・・」

 

「いえ・・・寧ろ感謝しています・・・まるで最愛の姉にもう一度会えた気がしたので・・・本当に・・・っ」

 

 

そこまで口にして再び嗚咽を漏らしそうになるも留める。折角炭彦君とこの子は休日二人で楽しくお出かけしていたのだ。それなのに私はそんな二人の間に割って入り、挙句このような形で水を差してしまった。

 

これ以上二人の時間を奪う訳にはいかない。私は腰かけていたベンチから立ち上がった。

 

 

「ありがとうございました。気も済みましたし私は帰らせて頂きます。一目でも会えて良かった・・・さようなら。」

 

 

そうして私はいそいそとその場を去ろうとしたが、不意に左手を何者かに握られ引き留められる。私ははっとして振り返る。

 

 

「不思議ね。何だか私も、貴方を見ていると懐かしい気持ちになるの。変よね? 今日初めて会ったはずなのに。」

 

「・・・・・・」

 

「さよならなんて言わないで? 今日は突然のことだったから驚いてしまったけれど、またお時間が合えば一緒にお茶でもしたいわ。最後にお名前と、連絡先を教えて下さらない?」

 

 

私は目を見開く。彼女は奇行に走った私を邪見に扱うこともなく、今後も交友を深めたいとそう言っているのだ。

 

堪えてた涙が思わずまた頬を伝い零れ落ちてしまった。

 

 

「あ、ごめんなさいっ! 私ったらまた貴方を傷つけて・・・」

 

 

私はすぐに首を振り、彼女の手を両の掌で包み、俯く。その様子に彼女は戸惑う気配を見せた。

 

 

「ありがとうございます・・・! とても嬉しいです・・・! 私はしのぶ、胡蝶しのぶって言うの! 私もできることならこれから先も貴方と・・・!!」

 

 

私は頭を下げたまま、涙を地面にぽろぽろと溢してそう必死に声を絞り出した。そんな私を見て彼女は雰囲気を和らげた。

 

 

「しのぶさんって言うのね? それに苗字も私と似てて本当に何かの縁を感じるわ。私ね、蝶野カナメって言うの。また機会があればお会いしましょうね?」

 

「はい・・・!!」

 

 

私は半泣きになりながら、彼女の目を見て笑顔を見せる。決して癒えない古傷の痛みが、今日この日だけは僅かに和らいだ気がした。

 

 

「それと敬語はやめて下さらない? しのぶさんの方が私よりも一つ年上なのよね?」

 

「そうね。わかったわ。じゃあ貴方も私のことは『しのぶ』って呼んで? そっちの方が私もしっくりくるから。」

 

「わかったわ。じゃあしのぶ。これから先よろしくね?」

 

「うん。こっちこそよろしく。姉さ・・・じゃなかった。カナメ。」

 

「ウフフ。じゃあ折角ですしこの後遊園地ご一緒して下さらない? 本当は炭彦君と二人きりのデートのつもりだったけど、私貴方ともまだ一緒に居たいわ。炭彦君もいいかしら?」

 

「えっ? う~ん・・・カナメさんがそう言うなら仕方ないけど・・・でも折角の初デートだったのになぁ。」

 

「もう、そんなにがっかりしないの! また来週デートしてあげるからそんなに落ち込まないで?」

 

「ホント!? だったら良いよ! じゃあ今日は皆で一緒に過ごそうよ!! 折角だし冨岡先生もご一緒しませんかっ!?」

 

「お、俺もか? いや・・・部外者の俺が居ても邪魔だろうし・・・申し訳ないが俺はこれにて失礼する。」

 

「あらあら~? 炭彦君の先生もいいじゃないですか~? どうせなら人数が居た方がきっと楽しいわ。ねえ、せめて一時間だけでもご一緒して下さらない?」

 

「・・・・・・わかった。一時間だけなら。」

 

「ウフフ~。じゃあ早速私あっちのアトラクションに乗りたいわ~。四人で楽しく満喫しましょう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして本来なら、姉さんの生き写しを一目見て帰るつもりだった私は、彼女とこの後も一緒に過ごすことになった。

 

本当に不思議な縁だ。もしかして私がこの時代に来れたのは、下呂さんと結ばれるだけじゃなく、死んだ姉さんの生まれ変わりとこうして再会するためだったのかもしれない。

 

神仏がもしいるのなら、今日ばかりは手を合わせ祈り感謝したいと、この時の私は心の底から思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

 

 

 




BSS喰らった炭彦君、ご愁傷様です(おい)。
とは言え、しのぶさんを現代に連れてくる展開を考えた時点で、このような話は書こうかと考えていました。救済なんてなんぼ有ってもいいですからね。
ただ、しのぶさんの中で下呂君のウエイトがやや軽くなったんじゃないかとも思ってます。しのぶさんの場合、姉>恋人でも可笑しくはないですからね・・・
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