「ウ”ルルルルルルルァアアッ!!」
アルテンブルクの振り下ろした木刀が、大地を抉る。
いつもの鉄塊ではなく、木刀なのに凄まじい威力。跳んで後退していなければ、私は骨折では済まなかっただろう。
(『
彼の異能は全容がまだ分かっていない。しかしその破壊力は、人間であることを考えれば明らかに常識の範疇を超えている。
一挙手一投足の度に、先ほどよりも伸びた彼の長髪が揺れた。
「しッ!!」
獣人系特有の身体能力を生かし、私は踏み込みと共に木刀を振るう。仕掛けるのは高速の連打。
それに対し、アルテンブルクは木刀のみを動かし、全てを弾き返した。
「ッハハハ!! ちょこまか動いてんじゃねえよ!!」
獣のような声を漏らし、アルテンブルクは沈み込む。
肘が顎下までくるほどに腕を引き絞り、振るわれた横薙ぎは空間を切り裂いて──しかし私を捉えない。
「鈍間に言われたくなんかないわよ!!」
「いいからさっさとくたばりやがれッ!!」
「こっちのっ、台詞!!」
身を翻し空中に逃げた私は、回転しながら木刀を振り下ろす。しかし両手で構えた木刀の腹で攻撃を受け止められて、そのまま後ろへ押し出された。
追撃する余裕もなく、私は着地する。
速度で優れる私と、威力で優れるアルテンブルク。
はっきりと私たちの強みは分かれていた。
(速度は、重み!!)
「しッ!!」
「アア”アアアアッ!!」
加速を得た私による、上段からの高速の振り下ろしと、確かな重量を携えたアルテンブルクの下段からの切り上げ。
衝突。音が鳴り響く。
衝撃が腕を痺れさせる瞬間──
「なぁっ!?」「くッそ……!!」
──二人の木刀が、ぼっきりと根元から折れた。
木片が宙を舞い、砂のグラウンドへ突き刺さる。
「チッ……木刀じゃァ耐久力に欠けンな……」
アルテンブルクは折れた木刀を見つめながら、凶悪な笑みを浮かべている。
先ほどの弱弱しい様子は全く違う。
私はそんな彼を指差しながら、鼻を鳴らした。
「いい顔してるじゃない」
「アァ……?」
アルテンブルクは、私の言葉に呆けた顔をした。
──舌打ちをしながらも笑顔を浮かべ、ギラついた闘志を隠さないその表情。それは、初めて会った時のような表情だ。
「辛気臭くて俯いてるより百倍いいわ」
「……チッ」
舌打ち一つ。しかし文句は出てこない。
自分でもその通りだと分かっているんだろう。
「ふぅ……」
私自身も、さっき抱えていた感情が戦いと共に外へ出て行った。夕方の風に奪われる熱を感じながら、私は尻尾を撫でる。
彼もまた、肩を回しながら言葉を選んでいるようだった。
「それで? さっきは何を言い淀んでいたのよ」
アルテンブルクは少しの間黙っていたが、やがてゆっくりと口を開く。
「……オレはこれでも反省してんだ。あん時の事はちゃんと悔いてる」
それは銀郎隊の説明会の時と、三合会の時の両方の事だろう。
「どっちもお前は特に迷惑そうにしてただろ。だから四人でいる時はまだしも、二人の時なんかは関わらねエ方が良いんじゃないかと思ってた」
「……(ながーーーーーーーい溜息)……アンタ、馬鹿ね」
私は人差し指を突き付けた。
「『許す』って言ったでしょ! その言葉にそれ以上でもそれ以下もないわ。もし不機嫌そうに見えていたのなら、それはアンタがずっともじもじしてたからよ」
「も、もじもじだァ!?」
アルテンブルクは一歩引いた。
「きめぇ擬音使うんじゃねェよ……」
「何よ、してたじゃない」
「してねェよ!!」
まるで子供みたいに否定するアルテンブルクの姿に、私は耐えきれなかった。
「……ぷっ,あははははは!」
私は思わず吹き出してしまって、アルテンブルクは怪訝そうに眉を顰める。
「何がおかしい」
「本音、出てきたわね」
「…………………………………………チッ」
そこで彼は、今までの会話が私の掌の上だった事に気づいたようだった。
模擬戦で
「わーったよ。お前が良いって言うなら俺も遠慮はしねェ。だがお前も遠慮するな」
「元々遠慮なんかしてないわよ」
これでいざこざは解決して、互いの溜飲が下がっただろう。
そう思っていると、彼は浅く息を吐いた。
「……だが一つ言わせてもらうぞ」
アルテンブルクは、折れた木刀を私に突きつけた。
「──例えお前たちとの仲がどう深まろうとも、オレの考え自体は変わらねえ。お前と鈴代には『覚悟』も『力』もあった。だが、
「ふぅん?」
「お遊び気分で命を張ろうとするやつも、大した覚悟もねえのに人を救うとのたまうやつも、努力をしねえのに夢を語るやつも。全員、等しく、嫌いだ。丸くなったとは思うんじゃねえぞ」
風が吹いて、彼の髪が──お姉さんから譲られた、その証が揺れる。
「根っこは、変わらねェ……!! 価値観が違う事で衝突が起きれば、オレはオレ自身をきちんと貫く」
「───」
折れた木刀から伝わる、刃物のような想い。
私は息を吐いて、すっと言葉を吐く。
「素直に『よろしく』って言いなさい。アンタ友達少ないでしょ」
ピキッ
「……いい度胸だ。いつかボコす」
「こっちの台詞よガキんちょ」
互いに不自然な笑みを浮かべて、私たちは歪に握手する。
「
「ええ、こちらこそ、よろしく。アルテンブルククン?」
そりが合わず、言葉を荒げ、喧嘩をする。
それでも多分、強敵が現れれば、私たちは誰よりも力強く矛を振るう。
奇妙で、不思議で、三年間は続くだろうこの関係。
しかしこれもまた、友情と呼ぶのだろう。
……本当に呼べるかしら。
■
「いっ……つッ……」
『
けど、それと同時に訪れたのは、肉体の損傷。
私の肩口が、カッターで切り裂かれたように線が走り、血飛沫が飛び散った。
「鈴代様、
傍にいたサーシャさんが、いっそ痛いぐらいに肩に手を添える。
私は歯を食いしばりながら、強く頷いた。
「はい、
「よろしい。──『
瞬間、私の体は燃え上がる様に光って、じんわりとした熱が肩口に伝わる。時間を巻き戻したように傷口は再生して、傷跡一つ残っていなかった。
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【
『精神と肉体に相互作用を発生』させる異能。
肉体の状態を精神に、精神の状態を肉体に反映する。心が元気ならば肉体の損傷を回復させたり、反対に落ち込んだ心に万全の肉体の状態を反映させ、前向きにすることも可能。
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「はい、完治です♡」
「ありがとうございます! ところで、すごくまつ毛長いですね……マスカラこだわってるんですか?」
「自前です」
「じまっ……!?」
顔が近づいたから思わず聞いてしまったけれど、え、この国宝級のまつ毛が自前!!??
手を加えてない天然物って事!!?!?
サーシャさんは胸に手を当てながら、微笑んだ。
「化粧水や乳液は最高級の物を使っていますが、メイクはナチュラルですし、マスカラやアイプチはしてません。生んでくれた両親に感謝です」
「凄い、流石サーシャさん……!!」
でも女として勝てる要素がなくてちょっとだけ悔しいです!!
そんな事をやっていると、隣に来た師匠が溜息を吐いた。
「なんか、このやり取り何回も見てる気がするよ……まぁいいや。それよりも、少しずつ掴めてきたかな?」
「はい!」
私は掌を開けたり閉じたりする。
何度も異能を試してみて、少しずつだけど、何ができるのかもわかってきた。
「いいね。そうやってラインを探していこう。どういう事が出来るのか、どれぐらいまでは代償が必要ないのかとかね。それが一番の近道だ」
「そうですね。私も同じ道を辿りました」
「サーシャさんも? ……じゃあ,師匠もですか?」
『最強』と呼ばれ、圧倒的な力を誇る師匠。
この人もまた、その道を辿ったのだろうか。
「俺? はは、俺は違うよ」
師匠は笑った。
「俺は小六で異能に目覚めてからずっとこうだったからね。そういう努力とかした事あんまりないや」
「なるほど、流石師匠です!!」
「その気がないのに自慢になる師匠とそれを嫌味とも思わない弟子……この師匠にしてこの弟子ありって感じですねぇ」
「何か言いましたか?」
「いえ別に!」
サーシャさんはずっと綺麗な笑顔を浮かべていた。
「鈴代様。とにかく大事なのは、
「理想像……」
目を閉じて考える。
浮かぶのは、師匠やここあちゃん、アルテンブルク君みたいな───誰かを安心させられる、させてしまうような力強さ。
「……サーシャさん、またお願いします!」
そうして、私は『異能』を発動させた。