Purim Morvenー夢と希望と黄金の獅子ー   作:織重

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第三話『友情・努力・喧嘩』

 

「ウ”ルルルルルルルァアアッ!!」

 

 アルテンブルクの振り下ろした木刀が、大地を抉る。

 いつもの鉄塊ではなく、木刀なのに凄まじい威力。跳んで後退していなければ、私は骨折では済まなかっただろう。

 

(『昏き深淵の果てまでも(S l u g F e s t)』……明らかにこの破壊力は、身体強化の一種ね)

 

 彼の異能は全容がまだ分かっていない。しかしその破壊力は、人間であることを考えれば明らかに常識の範疇を超えている。

 一挙手一投足の度に、先ほどよりも伸びた彼の長髪が揺れた。

 

 

「しッ!!」

 

 獣人系特有の身体能力を生かし、私は踏み込みと共に木刀を振るう。仕掛けるのは高速の連打。

 それに対し、アルテンブルクは木刀のみを動かし、全てを弾き返した。

 

「ッハハハ!! ちょこまか動いてんじゃねえよ!!」

 

 獣のような声を漏らし、アルテンブルクは沈み込む。

 肘が顎下までくるほどに腕を引き絞り、振るわれた横薙ぎは空間を切り裂いて──しかし私を捉えない。

 

「鈍間に言われたくなんかないわよ!!」

 

「いいからさっさとくたばりやがれッ!!」

 

「こっちのっ、台詞!!」

 

 身を翻し空中に逃げた私は、回転しながら木刀を振り下ろす。しかし両手で構えた木刀の腹で攻撃を受け止められて、そのまま後ろへ押し出された。

 追撃する余裕もなく、私は着地する。

 

 速度で優れる私と、威力で優れるアルテンブルク。

 はっきりと私たちの強みは分かれていた。

 

(速度は、重み!!)

 

「しッ!!」

 

「アア”アアアアッ!!」

 

 加速を得た私による、上段からの高速の振り下ろしと、確かな重量を携えたアルテンブルクの下段からの切り上げ。

 衝突。音が鳴り響く。

 衝撃が腕を痺れさせる瞬間──

 

「なぁっ!?」「くッそ……!!」

 

 ──二人の木刀が、ぼっきりと根元から折れた。

 

 木片が宙を舞い、砂のグラウンドへ突き刺さる。

 

「チッ……木刀じゃァ耐久力に欠けンな……」

 

 アルテンブルクは折れた木刀を見つめながら、凶悪な笑みを浮かべている。

 先ほどの弱弱しい様子は全く違う。

 私はそんな彼を指差しながら、鼻を鳴らした。

 

「いい顔してるじゃない」

 

「アァ……?」

 

 アルテンブルクは、私の言葉に呆けた顔をした。

 ──舌打ちをしながらも笑顔を浮かべ、ギラついた闘志を隠さないその表情。それは、初めて会った時のような表情だ。

 

「辛気臭くて俯いてるより百倍いいわ」

 

「……チッ」

 

 舌打ち一つ。しかし文句は出てこない。

 自分でもその通りだと分かっているんだろう。

 

「ふぅ……」

 

 私自身も、さっき抱えていた感情が戦いと共に外へ出て行った。夕方の風に奪われる熱を感じながら、私は尻尾を撫でる。

 彼もまた、肩を回しながら言葉を選んでいるようだった。

 

「それで? さっきは何を言い淀んでいたのよ」

 

 アルテンブルクは少しの間黙っていたが、やがてゆっくりと口を開く。

 

「……オレはこれでも反省してんだ。あん時の事はちゃんと悔いてる」

 

 それは銀郎隊の説明会の時と、三合会の時の両方の事だろう。

 

「どっちもお前は特に迷惑そうにしてただろ。だから四人でいる時はまだしも、二人の時なんかは関わらねエ方が良いんじゃないかと思ってた」

 

「……(ながーーーーーーーい溜息)……アンタ、馬鹿ね」

 

 私は人差し指を突き付けた。

 

「『許す』って言ったでしょ! その言葉にそれ以上でもそれ以下もないわ。もし不機嫌そうに見えていたのなら、それはアンタがずっともじもじしてたからよ」

 

「も、もじもじだァ!?」

 

 アルテンブルクは一歩引いた。

 

「きめぇ擬音使うんじゃねェよ……」

 

「何よ、してたじゃない」

 

「してねェよ!!」

 

 まるで子供みたいに否定するアルテンブルクの姿に、私は耐えきれなかった。

 

「……ぷっ,あははははは!」

 

 私は思わず吹き出してしまって、アルテンブルクは怪訝そうに眉を顰める。

 

「何がおかしい」

 

「本音、出てきたわね」

 

「…………………………………………チッ」

 

 そこで彼は、今までの会話が私の掌の上だった事に気づいたようだった。

 模擬戦で()()()()()、その上で煽った甲斐があったというものだ。

 

「わーったよ。お前が良いって言うなら俺も遠慮はしねェ。だがお前も遠慮するな」

 

「元々遠慮なんかしてないわよ」

 

 これでいざこざは解決して、互いの溜飲が下がっただろう。

 そう思っていると、彼は浅く息を吐いた。

 

「……だが一つ言わせてもらうぞ」

 

 アルテンブルクは、折れた木刀を私に突きつけた。

 

「──例えお前たちとの仲がどう深まろうとも、オレの考え自体は変わらねえ。お前と鈴代には『覚悟』も『力』もあった。だが、()()()()()()()()()()()

 

「ふぅん?」

 

「お遊び気分で命を張ろうとするやつも、大した覚悟もねえのに人を救うとのたまうやつも、努力をしねえのに夢を語るやつも。全員、等しく、嫌いだ。丸くなったとは思うんじゃねえぞ」

 

 風が吹いて、彼の髪が──お姉さんから譲られた、その証が揺れる。

 

「根っこは、変わらねェ……!! 価値観が違う事で衝突が起きれば、オレはオレ自身をきちんと貫く」

 

「───」

 

 折れた木刀から伝わる、刃物のような想い。

 私は息を吐いて、すっと言葉を吐く。

 

「素直に『よろしく』って言いなさい。アンタ友達少ないでしょ」

 

 ピキッ

 

「……いい度胸だ。いつかボコす」

 

「こっちの台詞よガキんちょ」

 

 互いに不自然な笑みを浮かべて、私たちは歪に握手する。

 

()()()()、餅月サン」

 

「ええ、こちらこそ、よろしく。アルテンブルククン?」

 

 そりが合わず、言葉を荒げ、喧嘩をする。

 それでも多分、強敵が現れれば、私たちは誰よりも力強く矛を振るう。

 

 奇妙で、不思議で、三年間は続くだろうこの関係。

 しかしこれもまた、友情と呼ぶのだろう。

 

 

 

 ……本当に呼べるかしら。

 

 

 

 ■

 

 

「いっ……つッ……」

 

 『獅子の願い手(プリム・モーヴェン)』が正常に働いて、手に持った鉄パイプが真っ二つになる。

 けど、それと同時に訪れたのは、肉体の損傷。

 

 私の肩口が、カッターで切り裂かれたように線が走り、血飛沫が飛び散った。

 

「鈴代様、()()()()()()?」

 

 傍にいたサーシャさんが、いっそ痛いぐらいに肩に手を添える。

 私は歯を食いしばりながら、強く頷いた。

 

「はい、()()()()!」

 

「よろしい。──『笑い飛ばせ(P r i m a l × H e a r t s !)』」

 

 瞬間、私の体は燃え上がる様に光って、じんわりとした熱が肩口に伝わる。時間を巻き戻したように傷口は再生して、傷跡一つ残っていなかった。

 

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笑い飛ばせ(P r i m a l × H e a r t s !)】[異能]

『精神と肉体に相互作用を発生』させる異能。

肉体の状態を精神に、精神の状態を肉体に反映する。心が元気ならば肉体の損傷を回復させたり、反対に落ち込んだ心に万全の肉体の状態を反映させ、前向きにすることも可能。

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「はい、完治です♡」

 

「ありがとうございます! ところで、すごくまつ毛長いですね……マスカラこだわってるんですか?」

 

「自前です」

 

「じまっ……!?」

 

 顔が近づいたから思わず聞いてしまったけれど、え、この国宝級のまつ毛が自前!!??

 手を加えてない天然物って事!!?!?

 

 サーシャさんは胸に手を当てながら、微笑んだ。

 

「化粧水や乳液は最高級の物を使っていますが、メイクはナチュラルですし、マスカラやアイプチはしてません。生んでくれた両親に感謝です」

 

「凄い、流石サーシャさん……!!」

 

 でも女として勝てる要素がなくてちょっとだけ悔しいです!!

 そんな事をやっていると、隣に来た師匠が溜息を吐いた。

 

「なんか、このやり取り何回も見てる気がするよ……まぁいいや。それよりも、少しずつ掴めてきたかな?」

 

「はい!」

 

 私は掌を開けたり閉じたりする。

 何度も異能を試してみて、少しずつだけど、何ができるのかもわかってきた。

 

「いいね。そうやってラインを探していこう。どういう事が出来るのか、どれぐらいまでは代償が必要ないのかとかね。それが一番の近道だ」

 

「そうですね。私も同じ道を辿りました」

 

「サーシャさんも? ……じゃあ,師匠もですか?」

 

 『最強』と呼ばれ、圧倒的な力を誇る師匠。 

 この人もまた、その道を辿ったのだろうか。

 

「俺? はは、俺は違うよ」

 

 師匠は笑った。

 

「俺は小六で異能に目覚めてからずっとこうだったからね。そういう努力とかした事あんまりないや」

 

「なるほど、流石師匠です!!」

 

「その気がないのに自慢になる師匠とそれを嫌味とも思わない弟子……この師匠にしてこの弟子ありって感じですねぇ」

 

「何か言いましたか?」

 

「いえ別に!」

 

 サーシャさんはずっと綺麗な笑顔を浮かべていた。

 

「鈴代様。とにかく大事なのは、()()()()()()()()です。自分の『異能』を手足とし、現実と理想を繋ぐ境界として扱う事をやめてはなりません。貴方には、貴方の目指したい光景と理想像があるでしょう」

 

「理想像……」

 

 目を閉じて考える。

 浮かぶのは、師匠やここあちゃん、アルテンブルク君みたいな───誰かを安心させられる、させてしまうような力強さ。

 

「……サーシャさん、またお願いします!」

 

 そうして、私は『異能』を発動させた。

 

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