Purim Morvenー夢と希望と黄金の獅子ー   作:織重

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第四話『桜小路班』

 

 四時間目が終わった後のお昼。

 私とここあちゃん、そして八千代ちゃんの三人はお昼を食べていた。

 

「そういえば、各委員会や組織の入会に関するお知らせが出てたわね」

 

 思い出したように呟いたのは、親子丼を食べていたここあちゃんだ。

 彼女は隣に座る八千代ちゃんに視線を向けた。

 

「八千代。アンタはどこかに入ろうとは思わないの?」

 

「私? 私か~」

 

 八千代ちゃんはペンネアラビアータ(※意味は分からない)を食べる手を止めて、考える素振りを見せた。

 

「少し前から思ってたけど、『風紀委員会』とか良いかなって」

 

「風紀委員会!」

 

 私に訓練を付けてくれているサーシャさんが所属している委員会だ。

 活動内容は、普通の学校と変わらず学園内の規律や風紀を守る事。ただし月桜学園は所属する生徒が特殊なので、様々な兼ね合いはあるらしいけど。

 

「活動内容に差別に対する意識改善、みたいなのもあるらしくて、そういう事出来るなら嬉しいなって。やっぱりよくない事だし」

 

「いいじゃない。アンタらしくて素敵だと思うわよ」

 

「本当? じゃあ本当に入っちゃおうかな~」

 

 千代子ちゃんふわふわと笑っていた。

 

「二人は『銀狼隊』だもんね。もうその詳細も出てるの?」

 

「ううん、再来週あたりから順次解禁されていくらしいけど……」

 

 そこで、ここあちゃんは私に視線を向けた。

 

「獅乃。そういえばアンタ、その頃には入隊しているの?」

 

「そういえば獅乃ちゃんは凄い人に特訓してもらってるんだよね。じゃあすぐ?」

 

「あ~~~~~」

 

 私はお弁当を食べる手を止めて、我ながら歯切れの悪い返事を返す。

 

「いやぁ、訓練は順調なんだけど……()()に関しては──」

 

 

 ■

 

 

「───これは先日の会議で決まった事なんだけど」

 

 昨日の訓練後,師匠はおもむろにそう切り出した。

 

「鈴代さんの入隊に関する事だ。結論から言うと,入隊試験は免除となる」

 

「じゃあ,もうすぐ入れるって事ですか?」

 

「いや,そういう訳にもいかなくてね」

 

 師匠は言いにくそうに,溜息を吐いていた。

 

「君には段階を踏んでもらう。まずは銀狼隊の活動の見学だ」

 

「見学?」

 

「あぁ。という訳で,鈴代さんには明日の放課後、裏庭のある階段へ向かってほしい」

 

 ──そして、今日の放課後。

 

 私は言われたとおり、学園校舎の裏庭へとやって来ていた。

 

「ええと、確かこのアーチをくぐって……」

 

 師匠からあらかじめ送られていたメッセージ通りに、道から外れて森を進む。本当に合っているのか不安になりながらも、森の至る所に目印となるアーチがあったおかげで迷わずに済んだ。

 

 そして五分ほど進んだ頃、私の目の前に現れたのは、噴水を中心とした広場のようなところだった。

 

「わぁ、綺麗……」

 

 既に森は開けていて、広場の近くには建物も見える。

 銀色の狼の紋章……どうやら銀狼隊の建物みたいだ。

 

「というか、なんだろうこれ」

 

 それよりも私が気になったのは、私が通って来たアーチの最後の一つ。

 そのアーチは、ふわふわと浮く葉っぱで出来ていたのだ。

 

「これも『異能』で作った物なのかな……」

 

 不思議に思いながら、私は葉っぱに触れる。

 まるで綿のように軽い感触がして、特に落ちて来る様子はない。

 

 そう考えた次の瞬間、葉っぱの全てが動き出して──私の腕を蛇のように縛り上げた。

 

「ちょ、えっ……!?」

 

 葉っぱは腕から肩へ、そこから全身へと回っていき、私の体を空中へと連れていく。少なくとも地上から10Mは離されてしまった。

 身動きが取れない。動こうとすると動かした部位に葉っぱが集中して、より動けなくなる……!

 

「ッ……!」

 

 何が起きているのかさっぱり分からない。 

 でもこのままじゃいけない事は分かってる。だから私は、『異能』を発動するために意識を集中させて。

 

「──()()()()()()()()?」

 

「え?」

 

 瞬間、葉っぱが弾けた。

 集合が解けて、葉っぱはただ空中を漂うばかりとなった。

 

「ちょ、高っ──!」

 

 私は解放されて、落下を始めた。

 数階建ての建物から落ちるような高さだ。バランスを崩してしまったから受け身を取る事も出来ない。

 

 そう考えていた私の体が、誰かによって受け止められる。

 お姫様抱っこ。

 私はぎゅっと瞑っていた目をゆっくりと開けた。

 

「でも、躊躇いなく使おうとしたって事は、成長したっぽい?」

 

 綺麗な長い金髪。全身に纏った紺色のローブと、頭に被っているのはトンガリ帽子だ。女性にしてはそれなりに大きな身長は、私を抱っこするには十分なほど。

 それはまるで、童話に出て来るような素敵な姿だった。

 

「……魔法使い?」 

 

「ちょっとぉ。学術的体系を持たない運頼みのやつらと一緒にしないでよ。これは『奇跡論』っていう種類の法で……」

 

「おい」

 

 男の人の声が聞こえた。

 続いて響いたのは、銃声だ。弾丸のような何かが浮いている私たちの周りの地面へ着弾する。

 

「は」

 

「へっ」

 

 突然、体がずんと重くなる。

 違う。

 私を抱えている女の人が、落下を始めている。

 

 つまり状況はさっきと変わらなくて──

 

「わぁあああああ!?」

 

「きゃあーーーーー!?」

 

 地面へ直撃! ……する直前で、女性の肉体が微かにふわりと浮く。

 ゆっくりと地上へ降り立った女性は、しがみついた私へ視線を移した。

 

「ふーーーまじ危なかったーーー……! 新人ちゃん大丈夫そ!?」

 

「だ、大丈夫です!」

 

「なら良し! でも……ちょっと瓜生(うりゅう)!?」

 

 女性は私を下ろすと、弾丸が飛んできた方向へ進みだす。

 反対に、そちらからは男性がやって来ていた。高身長で筋肉質。短い赤髪と三白眼は、人によっては怖いという印象を抱きかねないだろう。

 

「突然解除させないでよっ、危ないじゃん!!」

 

「それはこちらの台詞だ。手持ち無沙汰を誤魔化すために『奇跡論』を扱うのはやめろと常日頃から言っているだろう。実際、新人は怪我をするところだった」

 

「リハビリだし! 攻撃性ないし! 手を出さなければそのうち解けてたってば!」

 

「はッ、どうだか。お前は一年前から信用ならんからな」

 

「はーーーーーー!? そんなのアンタもだし!!」

 

 まるで動物みたいに唸りながら二人はガンを飛ばしていた。

 状況が理解できず、私は思わず二人の間で視線を行き来させてしまう。

 

「ふ、二人とも! まずは落ち着いてください!」

 

「新人ちゃんあっち行ってて! こいつとは因縁があるの!」

 

「そうだ。我々の問題に首を突っ込まないでいただこうか」

 

「ええええええええ?」

 

 ようやく人に会えたかと思ったら、その人たちが喧嘩を始めてしまった。

 わ、分からない。こういう時一体どうすれば……!

 

 

「──随分、好き勝手やっているな」

 

 

 突然、声が響いて、上空から影が躍る。

 その影は喧嘩をしている二人の上に来ると、その頭に拳骨を落とした。

 

「あだっ!?」

「がっ……」

 

「はーーーはっはっはっ! 制裁!!」

 

 小柄なその人は、赤い瞳を輝かせながら笑った。

 

「いつも言っているだろう。味方同士で下らぬ仲間割れをするなと。そもそも新人の前なのだ。醜態を晒すな!」

 

 強く言い切ったその人に、私は見覚えがあった。

 少なくとも二回、私は彼を目撃した事がある。

 

「貴方は、銀狼隊の紹介の時の」

 

「む……あぁ、その通りだ」

 

 軍服が翻る。

 人差し指と中指で瞳を挟むようにピースをすると、彼はニヒルな笑みを浮かべた。

 

「我が名は桜小路唯月! またの名をアルシファルス!! 地球外から飛来した異界生物、虚代獣(こだいじゅう)に選ばれし冥王である!!」

 

「…………………………………………………………………………………………」

 

 

 

 えっと、なんですか? これ。

 

 

 

「……く、くく……無視は結構効く……だが、我はそれでも屈さぬ!!」

 

「あ、私の名前は有栖川(ありすがわ)魔莉愛(まりあ)! 銀狼隊戦闘部所属の三年だよ~☆」

 

「同じく二年、瓜生(うりゅう) 斑鳩(いかるが)

 

「よろしくお願いします! 一年の鈴代獅乃です!」

 

「か、会話始められちゃった……!? ぼ、僕もそこに……ぬわぁっ!」

 

 桜小路先輩は何かを払うように腕を振った。

 

「──という訳で、我ら三人が、これから君と行動を共にする桜小路班だ。君の事はエデン部長から聞いている。気負わず、安心せずについてきてくれ」

 

「は、はい!」

 

「では向かおう。はーーーはっはははは!」

 

 桜小路先輩の声に従って、私たちは移動を開始する。

 

 

 ……この人たち、大丈夫かな。

 

 

 ■

 

 

「さて」

 

 どうやら学園のある街の外では車での移動が義務付けられているらしく、私たちは銀狼隊印の白いバンに乗っていた。しかも運転手の人付きだ。

 

 現在は学園から街の外へ移動する際中。

 大きな銃を端に置いた瓜生先輩は、手元のタブレットをスクロールしながら話始める。

 

「今回の任務は、『反超常集団』の鎮圧です」

 

 私は聞きなれない単語に首を傾げる。

 

「『反超常集団』、ですか?」

 

「異種族、異能者の存在そのもの(・・・・)に異を唱える集団の事だ。特徴としてただの人間と無能力者で構成される場合が多く、いたとしても理念故に力を使用しない場合も多い」

 

「つまりは我らの存在を殲滅するための組織だ。確か最近、妙に活性化している組織があったと記憶しているが……」

 

「おっしゃる通りです。──今回俺たちが対処に当たる組織は、『H(ハウンド).T(トラッカー)』」

 

============================================

【《b》H(ハウンド).T(トラッカー)(/b)】

〇来歴───昨年度七月ごろから活動が確認されている反超常組織。白月街近郊で主に活動が見られており、月桜学園生や周辺に住む異種族・異能者の被害が出ている。

全員が銃武装をしている事から、他の反社会的組織との繋がりが考えられる。

============================================

 

「要するに、力を得たチンピラといったところか。組織の規模もそれほど大きくはないのだろう?」

 

「はい。予想では十人から多くて三十人とされています。私たちは今回、その拠点を強襲、制圧します」

 

「うむ。了解した」

 

 桜小路先輩は頷くと、私に視線を向けた。

 

「ざっくりと概要はこんな感じだ。質問などはあるか? 別に任務に関係なくともいいぞ」

 

「あ、じゃあ一つ。……銀狼隊って、みんなこんな感じに班で動くんですか?」

 

「ううん、そう多い事じゃないかな~」

 

 答えてくれたのは、私の隣に座る有栖川先輩だ。

 

「基本的に銀狼隊はその時その時、幹部以上が決めた適材適所で任務に当たるからね。私たちみたいに固定の班があるのはわーーりと珍しいかも」

 

「もちろん、例外はいるがな」

 

「例外?」

 

「君の師匠だ」

 

「あぁ~!」

 

 一瞬で、妙に納得してしまった。

 

「エデン部長の戦闘力は世界最強だ。特別に単独での任務が認められている……というか、オーバーパワーすぎて単独でしか行動が許されていないのだ。本気を出せば国どころか世界の半分すら取れる存在だからな」

 

「……そう聞くとやばいですね」

 

「はっはっは! もちろんだ。気づいていなかったのか? 貴君の師匠は世界で最もやばい人だぞ」

 

 笑顔でそう言う桜小路先輩は、なぜだか妙に誇らしげだった。

 有栖川先輩が私に耳打ちをしてくれる。

 

「唯月は二階堂先輩に憧れて学園に来たからね。憧れの人が褒められて嬉しいわけ。ウケるよね」

 

「そうなんですか……!? 凄い納得しました……!」

 

「そこ。何か言ったか?」

 

「「何も言ってません!」」

 

 口を揃えて私たちは言い逃れをした。

 でも、気持ちはわかる。身近で尊敬できる人が褒められるのは私だって嬉しいから。

 

「……確かに凄いと思いますが、自分的には唯月先輩の方が優秀だと思います」

 

 会話に口を挟んだのは、タブレットを見ていた瓜生先輩だ。

 短い前髪から切れ目が覗いている。

 

「二階堂エデンは最強ですが、()()()()()。被害も多く出ますし、無駄も多い。非合理的と言わざる負えません」

 

「斑鳩」

 

「事実です。最小限の力で最大限の成果を出せる事を理想と呼ぶのですから」

 

「気持ちは嬉しいが、我はまだどんな点においてもエデン部長には及ばんよ。だからそう尖った事を言うな」

 

 桜小路先輩は腕を組みながら溜息を吐いた。

 

「すまないな、鈴代さん。斑鳩は少々リアリスト思考が強くてね。思ったことを常に口に出す悪癖がある」

 

「素直な事は良い事だと思います」

 

「合理的なだけです。という訳で鈴代獅乃」

 

 前に座っていた瓜生先輩は視線だけを私に向けた。

 

「わざわざ歓迎の雰囲気などを出してよろしくするつもりはない。さっさと馴染め」

 

「ちょっと瓜生! そんな言い方ないじゃない」

 

 有栖川先輩は瓜生先輩に指を突き付け、声を張った。

 

「私は大大大歓迎だからね~? 可愛い後輩が見学来てくれてマジ嬉しい! 何かあったら言いな~?」

 

「わわっ!」

 

「ふん。大げさな対応だな」

 

「なんですって~~~~……?」

 

 そんなやり取りをしていると、バンが止まって、扉が開いた。

 

「着いたようだな」

 

 私たちが降り立ったそこは、学園のある街から二つ隣の下町、颯町(はやてちょう)だ。

 その外れ。

 住宅と線路、橋やお店と、何ら変哲のない街並みの奥に──目的のビルがある。

 

「あれか、件のビルというのは」

 

「近隣住民の避難は完了していると『支援部』から報告を受けています。加えて、警察からの許可も。事前の調べによって、この時間帯『H(ハウンド).T(トラッカー)』」の面々が事務所にいる事は間違いありません」

 

「フ、相変わらずの手腕だな」

 

 桜小路先輩は振り返る。

 

「鈴代さんは魔莉愛と一緒に行動してくれ。動こうとは思わず、見学に徹する事だ」

 

「分かりました!」

 

 私の返事を聞いて、桜小路先輩は拳を握り、眼帯を破り捨てる。

 

 

「──任務開始だ」

 

 

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