Purim Morvenー夢と希望と黄金の獅子ー   作:織重

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第十四話『それでも。』

 背後から轟音が鳴り響く。

 それは、まりちゃんたちが『瞳子』たちを引き付けている証拠だった。

 

「足を止めるな!」

 

「っ、はい!」

 

 全速力で駆けて、桜小路先輩についていく。途中で現れる『瞳子』たちは無視だ。一刻も早く、私たちはアティカに追いつかなければならない。

 

「次の角、右です!」

 

「認識阻害か……了解した!」

 

 途中、再び異能による罠が仕掛けてあったけれど、私の『獅子の願い手』はそれを自動的に弾いてくれる。

 地下街らしき場所をとうに抜けて、私たちは未開発と思われる暗闇の通路を抜けていく。だがそれも束の間の事で、先にはぼんやりとした明かりが見え始めていた。

 

「……! 桜小路先輩!」

 

「ああ」

 

 闇の中で蠢く人影が見えた。

 それは、今まさに最奥の部屋を開けようとしたアティカの後ろ姿だ。

 

 桜小路先輩は、地面を強く蹴って加速する。

 

「アティカアアアアアア!!!」

 

「な──」

 

 右腕の漆黒が、アティカの肉体を確かに捉えた。見惚れてしまうほどに綺麗な右ストレートだった。

 直撃を受けた彼女は、扉を突き破って部屋の中を盛大に転がった。

 

()()()

 

 桜小路先輩が呟く束の間、私も部屋に到着する。

 そして私たちは、辿り着いた。

 

 ──扉の大きさに見合わず、大きな空間だった。

 無機質なタイルと壁が広々と続いていて、特徴的な部分なんてありはしない。

 

 ただ一つ。一つだけ、巨大で異質な設備が一番奥にあった。

 それは、巨大な機械だ。

 

 5mほどだろうか、人の大きさを容易に超えるサイズの六角柱で、部屋の至る所からそれに向けて電線が伸びている。内側には極彩色に変動する粘度を帯びた液体が詰まっていて、まるで人の心臓みたいに脈打っていた。

 

「これが……」

 

「──ああ、『相転移炉(フェイズリアクター)』さ」

 

 答えたのは、桜小路先輩ではなくアティカの方だった。

 彼女は床に転がった状態からゆっくり起き上がると、白衣についた埃を軽く払った。

 

 傷を負った様子はまるでない。

 ただ彼女が立ち上がると同時に折れたナイフが落ちて、どうやらそれで一撃を防いだらしい。

 

「いやぁ、っはは! 驚いたね。君たちがここへ辿り着くまでにあと数分はかかると思っていたんだけれど……『瞳子(ドウシ)』を突破するのに、一体どんな裏技を使ったんだか」

 

 ゆっくりと、幾何学模様の瞳が私たちを射抜く。

 

「それに、そもそも私の存在がバレるとは思っていなかったよ。かの『銀狼隊』は、噂に違わず優秀という事なのかな。やれやれ、『相転移炉』はまだ()()を迎えていないというのに」

 

「お前の目的はなんだ。どうして『相転移炉』を利用し、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……!」

 

 私はその言葉を聞いて、努めて平常心を保った。

 

 ────『一般の異能者たちに薬品をばら撒いた』

 

 それは、私たちが新卿華市に訪れた本来の目的に関する事だ。元々は薬品をばら撒いている人物の調査だった。斜森さんの一件があってすっかり後回しになっていたけれども、確かに考えてみれば目の前の人物が犯人である可能性はある。

 

(尋ねるのではなく断定する事で、桜小路先輩は相手の失言を引き出そうとしたんだ……!)

 

「おや、そんな事まで把握済みか」

 

 そして、桜小路先輩の思惑は成功して。

 アティカは薄く笑う。

 

「──どちらも私的な目的さ。私は小さい頃から『現実』に絶望して、『異世界』にあこがれを抱いていてね。『相転移炉』、そして精神薬による異能の活性化を利用すればたどり着けると確信しているんだ」

 

 掌を広げ、まるで夢追い人のように、彼女は恍惚とした息を吐く。

 

「だってそうだろう? 『相転移炉』は平行世界の法則を引き寄せる事が出来る。その上、暴走時には次元の狭間だなんて場所へ『旧卿華市』を吹き飛ばせたんだ! ならばうまく扱えば『異世界』への扉を開く事だって夢じゃない!」

 

「────」

 

 その言葉に、私は言い表しようもない激情を抱いていた。

 

「……それは、つまり。その目的のために、誰かを犠牲にして。人によっては死ぬかのしれない薬品なんかもばら撒いて。『相転移炉』は街を消し飛ばす事故を起こして、また使えば同じ事がおきるかもしれないのに、利用しようとしている、って事ですか」

 

「……? あぁ、そうだね?」

 

 事実を並べられて、何を今更。 

 

 彼女の返事には、そんな言外の意味が含まれていた。

 

「『相転移炉』の事故で、どれだけの人が傷ついたか分かりますか? 残された遺族の方々が、どれだけ悲しんだか分かりますか?」

 

「それに関してはお悔やみを申し上げる」

 

「今、事故が再び起これば、どれだけの人に迷惑がかかるか分かりますか……? 大勢の人が死ぬんですよ?」

 

「そうだな。だから、上手く扱うと約束しよう」

 

「っ────貴方はッ!!」

 

 私は、感情のままに叫んだ。

 

「人の事を、なんだと思ってるんですか!? 誰かを悪戯に犠牲にして、人の気持ちすらも踏み台にして! 『現実』を見ようとしないで、その果てに『異世界』なんてところにたどり着いて!! それの一体、どこが良いんですか!?」

 

()()()()。だが、私を拒む理由にはなりえないな」

 

「───ならばいい」

 

 思わず、顔を覆ってしまった。

 あまりにも強く、あまりにも眩しい光。

 

 漆黒の獣が、空間を塗りつぶすほどに這い出てきた。

 使役する桜小路先輩は、ゆっくりを瞳を見開き、敵を睨む。

 

「なら、お前を『人間』として扱わずに済みそうだ」

 

「そういう君は、随分と『人間』らしいな。───桜小路唯月くん」

 

 アティカは、静かにナイフの鎌首をもたげる。

 そして、指を手前に二回曲げた。

 

「さぁ、『相転移炉』を巡る、原始的で単純な争いをしよう!」

 

 その瞬間、アティカの幾何学模様の瞳が、歪に回転を始めた。

 

「『グラストンベリーの夢想(I L L / u s i o n i s t)』」

 

 カメラのレンズが切り替わるのような音が響いて、アティカの肉体が不自然な加速を経た。回転を加えたナイフの一閃。

 しかし、一歩踏み出した桜小路先輩はその一撃を真正面から受け止めて、反対にアティカの顎を貫こうと拳を突き出す。

 

 空中で身を捻り、アティカは回避。

 それを見て桜小路先輩は漆黒のビームを放つが、やはり直撃には至らない。

 

「やぁああああ!!」

 

 私もまた駆け出して、着地したアティカへ殴りかかる。

 だけど私の拳は空ぶって、その隙をナイフの刺突が直撃───

 

「『獅子の願い手(プリム・モーヴェン)』!!」

 

「……早いっ!?」

 

 する、直前。

 私は黄金の光を纏って、彼女の腕を殴りつけた。アティカの腕が遠心力で()()()()()()()、衝撃を殺し切れずよろけた。

 

「鈴代! あまり力を使いすぎるな!!」

 

「大丈夫です!! これぐらいなら私は──もう代償を必要としません!」

 

 私の力も、私の肉体も、日々成長している。

 以前ならば、あらゆる『行動の実行』に代償を必要としていたが、今は違う。

 

(相手は隙を晒してる! サーシャさんなら、ここは──!)

 

 片足を軸にして軽く跳んで、回し蹴り。凄まじい衝撃を受けて、アティカは宙を舞う。

 

「ならばいい。ナイスだ鈴代。───吹き飛べ!」

 

 桜小路先輩は右腕に漆黒の光を集めると、ビームを放出した。

 吹き飛んでいる最中の追撃。空中で身を捻る事も出来ず、アティカはただ直撃を受け入れるしかない。

 

「『グラストンベリーの夢想(I L L / u s i o n i s t)』」

 

 アティカが地面へ向けて視線を向けた瞬間、その肉体が不自然に上向きの推進力を経て、ふわりと浮く。

 桜小路先輩のビームは、彼女の僅かに下の空間を霞めるにとどまった。

 

「な……っ」

 

「どうしたんだい。この程度の芸当、今更だろう? ──私の瞳は自由自在だ」

 

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グラストンベリーの夢想(I L L / u s i o n i s t)】[異能]

『エネルギーを魔眼に変換』する異能。イリュージョニスト。千里眼、識別眼、衝撃眼、使役眼などを始めとした想像しえるあらゆる魔眼へエネルギーを変換できる。このエネルギーとは異能者が異能を使用する際の『異能エネルギー』とは別に、体力、気力などを含めた、人体の持ちうるあらゆるエネルギーを指す。

ただし、外的物質に作用させる場合はエネルギー変換効率が著しく低下するため、所有者『アティカ』は多くの場合自身の肉体に作用する魔眼を使用している。

============================================

 

「ぐっ……!」

 

 幾何学模様の瞳が輝いて、私の肉体を殴られたような衝撃が襲ってきた。

 

(異能による衝撃波!?)

 

 隙を見逃さずアティカが肉薄。微かに顔を傾ければ、ナイフは頬を切り裂いた。

 

「鈴代!!」

 

 桜小路先輩が割って入る。

 だが、彼が攻撃をしたのは───何もない空間だった。

 

 私の目には、彼にナイフを振り下ろすアティカが見えている。

 

「先輩っ!! 後です!!」

 

「そこか!」

 

「ぐぉっ!?」

 

 桜小路先輩の右腕が、アティカの顔面を捉える。

 漆黒が爆ぜて、彼女は壁際にまで吹き飛ばされた。

 

「……瞬時に顔を逸らす事で衝撃を逃がされたな。見た目ほどダメージはないだろう」

 

 その言葉を証明するように、アティカはむくりと起き上がる。

 

「なるほど。随分早い到着だと思っていたけれど、君の『異能』には嘘や認識阻害を見抜く力があるんだね」

 

「貴方と交わす言葉なんかありません!」

 

「おやおや、嫌われたものだ」

 

 アティカは気味の悪い笑みを浮かべた。

 

「クク、いいねぇ」

 

 幾何学模様の瞳が輝きを放つ。

 同時に、背後の『相転移炉』が、ぐおんと唸りを上げた。

 

「「「「ノッてきた!!」」」」

 

「ッ───!?」

 

 その瞬間、私たちの前に現れたのは、無数に分身したアティカだった。

 彼女……いや、彼女らは一斉にナイフを握ると、私たち目掛けて飛び掛かって来る。

 

 ──どくん。

 

「違う!! ()()()()()()!!」

 

 私は、黄金を纏った。

 

「『獅子の願い手(プリム・モーヴェン)』!!」

 

 二の腕に十字の傷が刻まれて、正常な世界を取り戻す。

 私の視界に映っていたのは、ただ一人のアティカがナイフを振り下ろす姿だった。

 

「やぁああああ!!」

 

「おっと」

 

 拳を突き出し一撃を弾く。 

 アティカは興味深そうに瞳を細めた。

 

(認識阻害! でも、私の『異能』が弾かなかった……!?)

 

 再び、アティカの姿が増える。

 

 今度の認識阻害は、更に倍の数だった。

 私は異能を発動しようとして、目の前を遮られる。

 

「不毛……!」

 

「ぐっ!?」

 

 漆黒の獣が分身ごと、アティカを吹き飛ばした。だが、彼女は一撃をやり過ごすと、もう一度数を増やして突っ込んでくる。

 

「ただの認識阻害なら、丸ごと吹き飛ばすまでだ!」

 

「なら、これはどうかな」

 

「……!」

 

 瞬間、アティカの全てが消えうせた。

 誰か一人が残る訳でもなく、その全てが。

 

 私は咄嗟に異能を発動させて、代償も顧みず認識を見破り、叫ぶ。

 

「───右です!!」

 

 多重認識阻害、とでも呼ぶべきか。

 分身と、完全に姿を誤魔化す阻害の二種類を、アティカは使用していた。

 

 だが、間一髪反応は間に合った。

 

 桜小路先輩の右腕と、アティカのナイフが直撃する。

 ならばその結果は、今までの攻防が証明していて。

 

「ッ……!?」

 

 だから、桜小路先輩の腕にナイフが突き刺さった瞬間、私たちは驚愕せざるおえなかった。

 

「先輩ッ!?」

 

「っ、ォオオオオオ!!」

 

 桜小路先輩の右腕が大きく振られる。一際膨張した漆黒が空間を薙いで、アティカは強制的に後退させられた。

 ナイフを引き抜けば、傷口から血が溢れ出す。

 

「動揺するなッ!!」

 

 傍に寄ろうとした私の行動を、先輩が制止する。

 いつの間にか漆黒は、吸い込まれるようにして傷口に集まると、その隙間を埋めていった。

 

 先輩は、相転移炉の根本に立つアティカへ赤い瞳を向けた。

 

「どういう事だ……今までの出力と明らかに違っている! 手加減でもしていたつもりか」

 

「いいや? そんなつもりはないよ。ただ───」

 

 アティカの手が、相転移炉を撫でる。同時に彼女は、うなじを露出させた。

 そこにあったのは、蜘蛛のような形をした機械だ。

 

「私は相転移炉からエネルギーの供給を受けている。この程度は造作もない」

 

「……!?」

 

「ただ……ただそれだけの事さ!!」

 

 アティカの瞳が、歪に輝いた。

 次の瞬間、私たちに降り注いだのは、隕石みたいな衝撃だ。

 

「ッ────!!!!!」

 

「ぐぅ──!?」

 

 先ほど見せた、眼力による衝撃波。

 相転移炉の膨大なエネルギーを変換して放たれたその一撃に、私はなすすべもなく吹き飛ばされていく。

 

「鈴代っ!?」

 

 右腕の力で抵抗を見せていた桜小路先輩も、やがて私の後を追うように飛ばされた。

 分厚い壁を突き破って、その奥にあった、電線の溢れる部屋へと。

 

「ぐ……」

 

 その部屋の壁に穴を作って、私たちはようやく止まった。

 顔を上げれば、暗闇の空間が広がるばかり。

 

 目を凝らせば、視界の先には光があって───そこからゆっくりと、アティカが歩いてくる。

 

「……大丈夫か、鈴代」

 

「はい、なんとか……」

 

「…………斑鳩を置いてきたのは失敗だったな」

 

 瓜生先輩の『弾丸』は、異能を無効化する。このアティカという敵に対しては、確実に有効だっただろう。

 そこまで言って、桜小路先輩は自分の発言を否定するように首を横へ振った。

 

「そもそも、この相手には四人であたるべきだった。それほどまでに強力だ」

 

 ぽたりと、桜小路先輩の顎から汗が滴り落ちる。

 

「──コイツを野に放てば、確実に街一つは落ちるぞ……!」

 

「ッ……」

 

 否定したい。

 そんな事実、認めたくはない。

 

 でも、私たちは味わったばかりだ。

 

(衝撃波の力、身体強化の力、認識阻害の力、それに眼人間たちを使役する力……まだ見せてない力もある。その全てが、相転移炉のエネルギー供給を受けるだなんて……)

 

 とてもではないが、捌ききれないだろう。

 少なくとも、『師匠』でもない限りは。

 

(でも、あの人はここにはいない)

 

 ならば、私たちがやるしかない。

 

「桜小路先輩、提案があります」

 

「……言ってみろ」

 

「私が『獅子の願い手(プリム・モーヴェン)』で隙を作ります」

 

 ゆっくりと、彼の目を見る。

 

「──だから、()()()アティカを倒してください」

 

「貴様、本気で言っているのか」

 

 その瞬間、私が見たのは、赤い瞳が燃え上がる様だった。

 

「もう一度言ってみろ」

 

「私が隙を作ります。だから──」

 

「ふざけるなッ!!」

 

 怒号が飛ぶ。

 桜小路先輩の表情が、怒りで歪んでいくのが分かった。

 

「お前の『異能』を使えば確かに確実に隙を作り出せるだろう! だが、相手は我の力に単独で勝てる相手だぞ!! そんな事をすればお前は死ぬ!!」

 

「死ぬつもりなんてありません。でも、諦めるつもりはもっとありません!」

 

「馬鹿な事を言うな!!」

 

 桜小路先輩は、私の両肩を掴むと、壁に押し付けた。

 

「お前が犠牲になって誰が喜ぶ! 有栖川はなんて顔をする!!」

 

「謝ります。言ったでしょう、死ぬつもりはないです!」

 

「ならなんだ! 重傷を負って喋れなくなったお前を見れば、有栖川は笑うとでも思ったか!?」

 

「思いませんっ、でも!!」 

 

「『でも』ではない!! そんな事をすれば───」

 

 桜小路先輩の髪が、ぶわりと跳ね返る。

 

「───絶対に『銀狼隊』には入れなくなるぞ!!」

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()!!!!!

 

 

 

 

「……………………なんだと?」

 

 私は、静かに桜小路先輩の腕を払った。

 

「……『銀狼隊』には、入りたいです。師匠には恩があるし、そもそも今の生活を与えてくれたのは月桜学園や銀狼隊ですから。──でも」

 

 顔をくしゃくしゃにして、我ながら、ダッサい顔をして。

 

()()()()。『銀狼隊』に入る事以上に、私にはやりたい事があるんです……!」

 

 だから私は、情けなくても、恥ずかしくても、叫ぶのだ。

 

「ここで諦めたら。ここでアティカを倒せなかったら……! 斜森さんの無念は誰が晴らすんですか……? あの人の願いは、一体誰が継げばいいんですか!?」

 

 斜森凛さん。

 誇り高き人。何十年も生き続けて、自分の故郷のために戦い抜いて、私たちにバトンを渡した人。

 

 ここで私たちが倒れれば、きっと、その願いは埃まみれになって忘れられる。

 『頑張った人が、どこかにいたんだろうね』。

 そんな風な、物語として消費されて終わってしまう。

 

 ……嫌だ。

 嫌だ。嫌だいやだいやだ!!!!

 

「そんなの、絶対に許せない!! 誰かの願いが、誇りが、尊厳が否定されるだなんて!!」

 

 桜小路先輩は、この私の意志を『刃物』と呼んだ。

 いつか味方さえ傷つける、刃なのだと。

 

(だったら、それでも構わない)

 

 全てを切り裂く刃だとしても。

 ()を紡いで、()()を守れる『いい人』になれるのなら、それでいい!

 

 だって私は、あの日おじいちゃんから意志を継いで、どう生きるかはもう決めたんだ!!

 

「この願いだけは、絶対に捨てるつもりはありません!!」

 

 その叫びは。

 刃は、果たして──

 

 

 ■

 

 

 それは鈴代獅乃の、心の底からの叫びだった。

 たった一人の少女が、その小さな歩みの中で得た、幼げな指針。

 

 強くて、強固で、儚くて、なんて───

 

(なんて、バカげた理想。……それでも、鈴代はその理想を叶えるために、唯一払える()を天秤に乗せた)

 

 出会ったばかりの頃なら、それを大言壮語だと笑い飛ばしただろう。出来もしない事を嘯くなと、着き返しただろう。

 

 でも、今はもう否定できない。

 

(鈴代獅乃、お前は、本当に……!)

 

 ───誰かと自分の願いのために、命をなげうってしまえるのだ。

 

「ふ」

 

 だから唯月は、思わず。

 

「ふははははははははははははは!!!!!!」

 

 腹を抱えて、笑った。

 おかしくって。本当におかしくって。まるで悪戯を見た子供みたいに、堂々と笑い転げた。

 

「な、なんで笑って!」

 

「───鈴代獅乃!」

 

「っ、はい……?」

 

「お前は、()()()()()? 例えどうなったとしても、その荷物を捨てるつもりはないんだな」

 

「……ありません!!」

 

「はは!」

 

 からっと笑って、唯月は立ち上がる。

 

「──大馬鹿者だな」

 

「ぇ……?」

 

「いいだろう。我だって、諦めるのは性に合わぬ! ただし、お前を死なせはせん。当然我もだ」

 

 軍服を脱ぎ捨てる。

 

「望みを叶えたいのなら、『異能』を使いこなせ」

 

 彼は漆黒を帯びる。

 今までで一番ドス黒く、右腕は輪郭を帯びて。

 

 対して、鈴代獅乃は黄金を纏った。

 

「我らの道を開け───鈴代獅乃」

 

「……分かりました。行きましょう──班長!」

 

 

 

 

 ──二匹の銀色の獣が、絶望に吠える。

 

 

 

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