『開幕祭』。
通称、フェス。
それは新入生たちに月桜学園の部活・委員会などを紹介する行事でもあり、同時に外部の支援者、関係者などに学園を紹介する場でもある。
寮生活が始まった翌日、私たちは始まったフェスを楽しんでいた。
「凄い権力を持ってる生徒会に風紀委員会、異能とか種族特有の力を使って演技をする『異能演劇部』、獣系の異種族だけが所属できる『ブラッシング同好会』……結構回ったはずなのに全然まだまだあるよ!?」
『広報委員会』が作ったという3Dパンフレット(地図が浮き上がる)を見つめながら、思わず私は叫んでしまう。
少なくとも数十、非公認団体を含めれば二百に届くほどの団体があるらしくて、広大な学園の敷地を学園中がお祭り騒ぎなのだ。
「そりゃそうよ。月桜学園は、異種族・異能力者を歓迎する学園の中で一番規模が大きいもの。当然行事の規模もそれ相応になるわ」
「へぇ~~! そうだったんだ!?」
「……貴方、昨日も言ってたけど本当に何も知らずにこの学園へ来たのね」
あきれ顔でここあちゃんは笑う。
「そうよ。だから規模は大きいし、当然そこにかかる責任や権力も強くなる。その最たる例が───『銀郎隊』の存在ね」
「『銀郎隊』?」
「パンフレットの最後。花形だから数ページ使って特集が組まれてるわ」
言われてパンフレットをめくる。具体的には八ページぐらい、その『銀郎隊』という組織についての説明、そして歴史などが記されていた。
曰く、学園に属する自治組織である。
曰く、異能力者・異種族に対する差別と闘う組織である。
曰く、その活動は多岐に渡り、学園内外問わず、世界の理不尽と戦う組織である。
ざっくりとしてるけど多分こんな感じ。要するに悪と戦う正義の組織! って感じなのかな。
「制服みたいな物は幹部か部門長にしか許されていないらしくて、一般隊員の人は見分けがつきにくいけど、私たちの周辺にも銀郎隊の人はいるわよ。多分あの人とか」
ここあちゃんが指したのは、渡り廊下の端で仁王立ちする一人の生徒だった。その手には木刀が握られていて、少し普通の人と雰囲気が違う。
「警戒中、って感じでしょうね。今日みたいな日は大忙しだと思うわ」
「へぇ……」
「まあ理由はそれだけじゃないんでしょうけど。───着いたわよ」
ここあちゃんの先導に従っていると、私たちは人だかりが出来ている体育館にたどり着いた。広大な敷地を誇る月桜学園の体育館はいくつかあって、ここはその中でも一番大きい『第三体育館』だ。
手を引かれ、人の波をかき分ければ、ようやく中の様子が分かってくる。
どうやらこの体育館には舞台がないらしく、代わりに巨大な体育館の中央に、人が数人立っていた。
「───ようこそみなさん! この第三体育館までご足労いただきどうもありがとう」
中でもひと際目立つ、マイクを手に持った人物。
背中から生える鷹のような綺麗な翼は、高い背丈を覆ってしまうほどに、より大きい。
制服の上に羽織ってる白い軍服のような服は、ここあちゃんが言っていた『幹部にしか許されていない服装』というやつなんだろうか? よく見れば、随所に銀色の狼のようなマークがある。
銀色の狼。
そう、私はここあちゃんに連れられ、銀郎隊の紹介を見に来たのだ。
「僕は月桜学園三年、銀郎隊"幹部"───『
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【
〇性質───飛行能力・硬質翼・夜行性
〇詳細───翼を持つ人型種族、通称『翼人』の一種。『
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人当たりの良い笑みで、最上さんは翼を手のように振った。
そして立派な翼をはためかせると、天井近くまで飛び上がり、私たちを見回す。
「いやー沢山来てくれてるね。銀郎隊に興味を持ってくれる子が多くて嬉しいよ!」
「最上せんぱーーーい! 『銀顧録』読みました! メッチャ感動です!♡」
「お、ありがとありがと! 売り上げは異能関連のボランティア団体に寄付されるから、みんなもぜひ買ってくれると嬉しいな!」
「『銀顧録』……?」
そんな本があるのだろうかと思っていると、ここあちゃんが耳打ちしてくれた。
「……最上先輩が出してる、銀郎隊での活動とかをまとめた本よ。当事者だから分かる苦しみとか言葉が刺さるって最近話題なの」
なるほど、インターネットが通っていないレベルの田舎出身の私からすると全然分からないけど、都会では流行っているらしい。
「それじゃあ説明を始めるね。まずはパンフレットの内容から───」
「最上先輩かっこいいよね!」
「俺前あの人に助けられた事あるんだぜ……!」
「銀郎隊幹部って本当に一握りの人だけしかなれないんでしょ? 凄いよね!」
「俺も銀郎隊になりたいな……!」
周囲の人たちも、口々に最上先輩に対する称賛の声を呟く。どうやら本当に私が知らないだけで、銀郎隊、そして最上先輩はとてもすごい人らしい。
(きっと、沢山の人を救って笑顔にしてきたんだろうな)
そう思うと、私は少し銀郎隊に興味が湧いてきた。だってそれって、とっても幸せな事だから。
横を見れば、ここあちゃんもまた、落ち着かなそうに腕を組んでいた。
「……実は私、銀郎隊に入るためにこの学園へ来たのよね」
「そうなの?」
「ええ。入りたい理由があるの」
覚悟を決めたような、鋭い瞳をしていた。
それが何だかとっても眩しくて、綺麗で、私は思わず考えてしまう。
(銀郎隊……そこなら、
「───お子様気分かよ」
身を蝕む泥雨。
その呟きは、黒い重みをもっていた。
驚いて私たちは振り返る。体育館の壁に背を預けて、一人の少年が腕を組んでいた。フードの隙間から見える瞳は、私たちを見て居なくて……違う。別にみていない訳じゃない。彼は、最上先輩や銀郎隊に黄色い声を飛ばす観客へ向けて言ったのだ。
「正義の味方になりたいならニチアサの俳優でも目指せよ。お子様にはちょうどいいじゃねえか」
「……ちょっとアンタ」
「あ”?」
「こ、ここあちゃん……!」
咄嗟に止めたが、ここあちゃんは口を挟んで彼に近づいていく。昨日の一件で喧嘩っぱやいのは知っていたけど、まさかこうも簡単に爆発するなんて!
「アンタがどう思おうと勝手だけど、それで周囲を威圧するような真似はどうなの? 不愉快なんだけど。アンタだって新入生でしょ? だったら黙って話聞いてなさいよ」
「うるせえ女」
少年は嘲笑った。
「……『銀郎隊』は異能と異種族への偏見に溢れた『敵』と戦う組織だ。その『敵』にはもちろん、凶悪な犯罪者や世界的闇組織も含まれる。中には、強大すぎる力を持て余してるだけの一般人を相手にしないといけない時だってくるだろう」
カカッ、と少年は乾いた声を漏らす。
「発達した医療と異能医学があるとはいえ、死者は出るし怪我による退学者だって少なくない。文字通り命を懸けて戦うんだ。年間銀郎隊の入隊試験は四回行われるが、受けたやつの九割は脱落する。例年百人を超える応募の中で、最終的に残るのは良くて数十人。そのうち、花形である戦闘部に入れるのは十人程度」
「私たちに覚悟がないって言いたいの?」
「『覚悟』があるかじゃねえ。『覚悟と力』だ。ごっこ遊びじゃねえんだよ。……どうせ志すなら現実を見た上で判断してほしいもんだねぇ。───特にお前」
「えっ……?」
「お前だよ。ポニテのお前」
突然指をさされて、私は戸惑ってしまった。
「お前の顔は、夢と希望を
「そう、かな?」
「そうだ。大人しく女は花でも愛でてろ。そっちの方がお似合いだぜ」
「……ちょっと、アンタいいかげんにッ!」
「ここあちゃんっ、大丈夫、大丈夫だから!」
止める私を見て、彼は吐き棄てた。
「はッ。雑魚が」
踵を返して、前へ進んでいく。銀郎隊を見る人々の波に消えて、すぐに姿は見えなくなっていた。
「……むッかつく! 獅乃、悔しくないの!? 男女差別、余計なお世話、そもそも何様って感じなんだけど!!」
「まあまあ、私は大丈夫だから!」
「…………………………まぁ、しのがそう言うならいいけどさ。あ~~~でも個人的にむかつく! なんて嫌な奴なんだろ」
「……まぁ、ね?」
ここあちゃんの言葉に、私はあんまり頷く事が出来なかった。
だって私の考えは、ここあちゃんとは少し違っていたから。
「確かに口は悪いし高圧的だけど……多分、
「逆……?」
そんな風に考えると、私たちの前に別の男子生徒が走ってくるのが見えた。
「あぁくそっ、少し遅かった……」
綺麗な金髪の彼は、溜息を吐きながら私たちに振り返る。
「ごめん、今のやつに酷い事言われなかったかな」
「言われたけど、何?」
「やっぱりか……」
彼は乱れた息を整えて、歯が光るような笑みを浮かべた。
同時に髪を整えて、その仕草は少女漫画の王子様みたいだ。
「色々と言う前に、自己紹介させてもらうね。僕は一年C組の
キランッ
「───こんな素敵な人たちと出会えて嬉しいよ。出来ればこれから三年間、楽しい日々を過ごしたいな」
「イケメンだ」
「ナンパならお断りよ」
「あれぇ思ってた反応と違う……!」
あ、一気にイケメンオーラが崩れてしまった。
でも顔はいいから……残念イケメン? って奴だろうか。
「それが普通だと思ってるなら一度親に相談した方が良いわよ。挨拶が二十年前のナンパと同じだもの」
「まじか……イギリスの方だとこれウケたんだけどなぁ」
あっちゃー、と天を仰ぎつつ、雨ノ宮くんはため息をついた。
イギリスは紳士の国と聞いたことがあるけれど、雨ノ宮くんの言い方はキザ過ぎると思う。
「自己紹介してくれたし、私たちからも。一年B組鈴代獅乃って言います」
「餅月ここあ」
「ありがとう。よろしくね、鈴代さん、餅月さん」
「んで」
目を細めて、ここあちゃんは口を『へ』の字に曲げる。
「反応からして、アンタがさっきのやつのお目付け役って事? ならしっかり手綱握っときなさいよ」
「お目付け役って訳じゃないけど、幼馴染なんだ。人に暴言吐くのは止めろって言ってるんだけど、つい目を放しちゃって……代わりに謝罪するよ。申し訳ない」
「いえいえ。別に気にしてないから大丈夫!」
「……獅乃がこういってるし、もういいわよ。それに結局本人が謝らないと意味ないし」
「ごもっとも。でもその上で、少し怒らせてしまうかもしれないけど、一つ言わせてほしい」
彼は表情を引き締めた。
「大方アイツが言ったのは、『覚悟』がどうとかだろう? なら、アイツの言う事は間違ってる訳じゃない。これは君たちに覚悟が足りないように見えるとはそういう話じゃなくて───生半可な覚悟じゃあ、取り返しのつかない怪我をする事もあると思うんだ」
「……」
「君たちが本当に覚悟があるのなら止めるつもりも、理由もない。でも万が一心に迷いが生じたりするのなら、一歩思いとどまってほしい。もちろん、銀郎隊には戦う部署だけじゃなくて、医療部、技術部……前線に出ない後方支援だってあるから、そっちを選ぶつもりなら僕の言葉は忘れてほしい」
さっきの人があんな言い方をして、腹いせに自分が怒られてもおかしくないのに、雨ノ宮くんはわざわざ言い直してまで私たちの身を案じてくれた。
「みんながみんな、こんな風に覚悟を決めている訳じゃない。でも銀郎隊で戦える人は、結局そういう覚悟を持っている人だけだ」
彼は本気で心配しているのだ。そして願わくば、傷ついてほしくないと思っているのだ。それが善意で出来ていると分かるからこそ、ここあちゃんも口を結んで言い返さない。
彼の忠告は、的を得ているから。
「僕が言いたいのは、それだけ。邪魔して悪かったね。そろそろ僕は行くよ」
そう言い残して、彼はさっきの少年を探しに行った。
「……」
私たちは少しの間、黙って彼の行方を見ていた。
やがてここあちゃんが、ぽつりと呟く。
「それでも私は行くわ。絶対に果たしたい目的があるもの」
その言葉は、まるで自分に言い聞かせているようにも思えた。