難産でしたが、納得は出来ました。
第二章完結まで毎日投稿するので、これから一か月ほどお付き合いください。
プロローグ『新星たちへ。』
───だから、進み続けるのだ。
どんなに醜い過去があろうとも。どれだけ自分が憎くても。
例え絶望が訪れようとも。
何度負けたって、構わない。
立ち上がり、涙を拭い。
拳を握って、歩き出す。
『■■』に輝くこの世界を、君と一緒に。
■
銀狼隊本部は、月桜学園の敷地内に作られた巨大なビルである。
上空は十階、地下は三階までのその建物は、良くも悪くも学園のシンボルであり、敷地内では学生寮と対称の位置に存在する。
主に技術部の独断専行で、最新鋭のテクノロジーが基地全体に施されており、一度学園に侵入者が現れれば灯台の役割も果たす。それ故に一般生徒の入館には、隊員その他の許可が必要だ。
「大分煮詰まってきたな」
「みんなから意見を聞いた甲斐があったね」
本部八階の一角───『部長室』にて、二階堂エデンと最上優は、ホワイトボードを前にして意見を出し合っていた。
議題は、一つ。
一か月後に行われる、『銀狼隊"戦闘部"』の入隊試験の内容決めである。
「とはいえ、肝心な最終試験が決まり切らねえな」
「一次、二次はあくまで振るいだ。三次は頭捻らないと……」
技術部では五年単位で試験の更新が入り、医療部では『異能災害対策委員会』という外部組織との連携による試験。支援部では面接のみと、部によって試験内容は大きく異なるが、『戦闘部』の試験内容は、不正防止や時流の変化に適応するため、毎年変わる。
その内容を考えるのは主に『部長』の役割であるのだが、二階堂エデンはそういった立案などを得意としないため、こうして『幹部』と共に行っているのだ。
最上優は、銀狼隊幹部の中でも随一の頭脳派かつ、統括役。この手の立案を行わせれば右に出る者はいない。適任である。
「やっぱりあれは? 去年みたいに隊員と新入生を戦わせるやつ。ちょっとルールを変えてみるとか」
「いや、それはもう『説明会』の時にやっちまったからな。それにアルテンブルクみたいに規格外のやつが何人いるか分からん。もし想定よりも多ければ、戦闘力に優れてるやつがそのまま合格するだけの試験になっちまう」
それ自体は悪い事ではない。戦闘力は大きな指標だ。けれど、最終試験で見なければならないのは、単純な戦力ではなく多角的な総合力である。
「じゃあ集団試験は?」
「好きじゃねえんだよなぁ。よっぽど工夫しなきゃ個の力が飛び出たやつの無双ゲーになるだろ」
「……俺みたいがいると?」
「そういう事だ」
隣で苦笑いを浮かべるエデンに、優は『ケッ』と吐き棄てる。
集団試験に二階堂エデンを放り込むなど、想像しなくとも結果が分かる。いつも通り異能をブッぱして、全てが終了だ。
「反対に脱出ゲームみたいな知恵だけが役立つ試験にすると、戦闘力を測れなくなる。それはそれで由々しき問題だろ」
「なるほどなぁ」
(……特に今年度の試験は気を遣わなきゃならねえ。持つ意味合いが例年と異なる)
優は口元を手で覆いつつ、横目でエデンを見る。
(来年には俺たちの代が卒業する。つまり、抑止力の側面を持つ『銀狼隊』から『
これは、絶対に避けられぬ未来である。
(世界のパワーバランスが崩れる。なら『銀狼隊』に必要なのは、そのあまりにも大きな穴を埋めるための人材だ。生半可な奴じゃその大役は務まらない。……ってか、完全には埋まりきらねえな)
優は考え直した。
(───『人類最強』の穴は誰にも埋められねえ。なら、質と数を両立させ、なんとか損失を抑える。試験のバランスはマジで考えなきゃならねえ)
あまりに困難な試験にすれば、合格者は極端に減る。けれど窓口を多くすれば、選別は意味を失くしてしまうだろう。
優秀な芽を、限りなく最善の方法で、最善の数、育てる。必要なのはそれだ。
「くくっ」
それらの条件を並べた上で、優は笑みを浮かべた。
無造作に置かれていた書類のうち、一枚を抜き去り、目を通す。
「なら、やっぱりこの案でいくか」
「お、いい案あるの?」
「あぁ。少々過激だと思ってたが……総合力を問うのならこれが一番いい」
優は書類を投げ渡す。
ぱっと目を通し、表情を二転三転させて、エデンは最終的に苦笑いを浮かべた。
「……これは過酷な試練だね。最悪の場合、共倒れもある」
「だろ~? ま、今年の入隊希望者は粒ぞろいだ。説明会で存在を見せつけたアルテンブルク。奴と一緒に三合会の件を乗り越えた友人たち。それに───有名財閥の御曹司、現役アイドル、希少種族。後はまぁ、入隊できれば鈴代ちゃんも粒の一つだな」
「鈴代さん、桜小路班に馴染めればいいけど」
過保護め、と優は思った。
「ま、あの子のことは桜小路に任せとけ。最初からそのつもりだろ」
「それでも心配しちゃうのが親心だよ」
「親てお前」
溜息をつき、話題を切る様に優は書類を叩きつける。
「んじゃ、決まりだ。この試験は例え実力があったとしても、一つのきっかけで落ちることは当然。反対に言えば、実力がなくともやり方次第で星を拾える」
試験は過酷。だがそれは、期待でもある。
『銀狼隊』の頭脳、未来の育手。最上優は上機嫌に笑った。
「───テーマは『蟲毒』。最終試験は、一年生同士で潰し合って貰おうじゃねえか」
数日後、その草案は正式に可決され、『戦闘部』の試験は確定することとなる。